ネメシスの慟哭   作:緑雲

21 / 44
邂逅

 

 

 ゴッドイーターになっても変わらぬ主治医のペイラーに丸三日ベッドに縛り付けられ、ソーマに付きっ切りで看病されることになった。気恥ずかしいからチェンジで! と訴えるも、二人ともに完璧にスルーされた。医務室が満員ということでケイ含む軽傷者は自室療養なのだが、自室なので監視する人間などケイのところ以外にはいないため、みんな気ままにお見舞いへ行ったり来たりしている。

 そういうわけで、

 

「帰れ」

「えー、いいだろ。もう怪我なんてほぼ治ってるし」

「ああ。ケイの部屋は博士の娘だけあっては資料が豊富で勉強になるしな」

「節電中だからトランプとボードゲームくらいしか娯楽がないッスし」

「そして何より、暇だものね~」

「ケ・イ・は・ま・だ・怪我人だ!!!」

「もう瘡蓋レベルだよぅソーマ……」

 

 ケイの部屋にこうして暇な連中が押し寄せてきているのが現状であった。キンタの言う通り、各所がアラガミによってさんざ荒らされた上に医療系統に電気を集中しているので絶賛節電中である為にだらだらと今はメランコリーをしている。ちなみにケイはベッドの上から参戦だ。

 少しばかりペイラーに呼ばれてソーマが目を離した隙にコレである。眉間の皺も刻まれるというものだった。

 

「大体、お前ら、書類は。今回の作戦参加者は漏れなく報告書の提出が義務付けられているはずだが」

「「「「………………………………………」」」

「しーっ! ソーマ。ここにツバキちゃんがいない時点でわかるでしょ!」

「どうせお前だって終わってないだろ?」

「残念でしたー、終わってまーす」

「なん………だと………!?」

「テンプレみたいな反応をどーも。っていうか、むしろなんで終わってないの?」

「リーダー職ともなるとな、やばいぞ、報告量と始末書が。机の上に積まれた山を見て早々に諦めた」

「俺も今回はリーダーッスからね~、シンジほどじゃないとはいえ悲惨なんスよ~」

「私は徹夜すればなんとかなるかしらー、って思って、後回し中よぉ~」

「だめ人間しかいないのかゴッドイーターは……」

「真面目なやつほど死んでくからな」

「クソ笑えないブラックジョークはやめてくださいませんかねリーダー」

 

 真顔で(本人的には)冗談を言うシンジに、げんなりとした全員を代表してリンドウがツッコミを入れる。

 のほほんとしている面々だが、この第8ハイヴの現状はというと、防壁は数か所崩壊して常時ゴッドイーターが監視、外部居住区は捕食されまくって穴だらけ、アナグラだって穴ぼこがいくつもあって、被害者多数。支部の機能は各所への修復やらで半分停止。かなりギリギリのところまで踏み込まれ、あわや大惨事をなんとか回避したのだった。

 

「……ってことは、私たちは当分防衛部の手伝いかなぁ」

「取り合えずお前とリンドウは当分そうなるな。俺とキンタ、アオイ、あとウィルとナツキあたりは殲滅部隊として周辺のアラガミを減らす、ってところか。流石に余裕はないから遠征は当分誰にも来ない行かないだろう」

「ならちょっとはゆっくりできそうッスね!」

「最近立て込んでたから、それくらいでちょうどいいかしらねぇ~」

「ってか、冷静に考えると被害やばいな……立て直すのにどれくらいかかるんだ?」

「大体一ヵ月くらいかかるらしいぞ」

「意外と短いね」

「それ以上だとどこも保たないッスからね」

「それもそっか……あれ、パッティ達は?」

「呼ばれた気がして!」

「呼んでないぞ」

 

 ケイの部屋の扉が開き、包帯がいくつか巻かれているが元気そうなパッティとトラが入口から顔を出した。例によって例の如くケイに飛びつこうとしたパッティが、アオイに気付いて途中でカチンと止まる。

 

「二人もサボり?」

「そんなわけあるか、この忙しい時に……お前らまさか」

「さーお前ら散った散ったー書類片付けるぞー」

「「「了解(ッス/よぉ)~!」」」

「あーいい、いい、わかった。そうじゃなくてだな、サカキ博士がお呼びだ。動けるものは全員集合。ケイ、お前もな」

「はいはーい。ソーマも行く?」

「行く」

 

 ぞろぞろと立ってはケイの部屋を出ていく面々を前にソーマに手を差し出すと、あっさりとその手は取られた。ちょっと前まで強張っていた手だけれど、今では慣れたのかすっかり自然体で、むしろ今ではケイが時たま手を引かれるまである。それがケイには、ひどく嬉しい。

 

 

 

 

「今回の作戦中に、突如として……いやまぁ予測はできた事態なんだけどね? ともかく、こうまで急激な速度で進化……はいそこ、生態学的には成長が正しいとかうるさい。ごほん、ともかく、アラガミの装甲が硬くなったとの報告が多数寄せられた。その上、防壁が破られたことも鑑みるに、攻撃力が上昇しているのも間違いなさそうだ。これに、従来の神機が対抗するのは難しい。なので、神機をカスタマイズしようと思う。強くなったアラガミの因子を、すべての神機に取り込ませて対応させるんだ」

 

 サカキ博士の研究室にて今回作戦に参加した全員が集められ、現状報告と説明、そして今後の対策が一度に語られる。ちなみに支部長なら今回の件で本部に呼び出されている。ざまみろ、と割と本気な顔でシンジが零していた。今回の作戦を根に持ってるらしい。

 

「というわけで、比較的元気な君たちに各種のコアを取ってきてもらいたいんだ……というか、なんで元気なんだろうね、君たち」

「うわこの人娘相手に引いてるッスよ」

「サイテーねぇ」

「いや違うよ!? 違うからね、ケイ!」

「大丈夫お父さん、わかってるし、普通に私も疑問だから」

「そういやそうだな、博士、なんでなんですか?」

「ふむ。それについては私も興味深いのだが……真面目に答えるならおそらく、神機との適合率の高さが関係していたのではないかと考えている。あ、シンジ君、君は単純なゴリ押しだから安心してくれたまえ」

「何にも安心できないしなんで唐突にディスったんですか」

「あー、シン君神機との適合率めちゃ低いもんねー」

「それであの攻撃力は、イロイロと納得いかない話デース」

「でもお父さん、私たちが今外へ狩りに出ちゃって大丈夫なの? 支部の防衛人員、ほぼいなくなっちゃうよ?」

「そこは大丈夫、助っ人を呼び戻しているからね」

 

 助っ人? と誰ともなく首を傾げたとき、研究室の扉がパッと開いた。

 

「ただいまー! みんなのヨシノおねえさんですよー!」

「ヨシノちゃん!」

「極東支部の危機と聞いて、ただいま参上!」

 

 ニッ、と幼い笑みを浮かべるヨシノが、一昔前までテレビで放送していたらしい戦隊モノの簡易ポーズを取ってそこにいた。 スペインへ半年の長期遠征中のはずだが、支部が半壊状態ということで緊急帰還したらしい。

 

「支部の防衛はまっかせて! ……で、ものは相談なんだけどー、ちょっとケイちゃん、いいかな?」

「どうかしたの?」

「うん、ちょっとね、相談が……とにかく来て! あ、ソーマくんも来ていいよ!」

 

 ケイの首根っこをひっつかんだヨシノが、すぐ傍の床に座っていたソーマにもにっこりと笑いかけた。ケイがどうあがいても連行されることが察せたソーマは、渋々ながらも立ち上がって頷く。若干憐れみの視線を受けながらも、ケイはヨシノに連れられ(というか持ち上げられて)ペイラーのラボを後にした。

 

 

 

「今回の襲撃で、私の家がアラガミに食べられちゃったらしいの。娘は避難してて無事だったんだけど、肝心の帰る家がなくなっちゃってね……直るまで預かってほしいのよ」

 

 ずるずると引きずられながら、ヨシノの言い分を半眼で聞く。ちなみにソーマなら我関せずといった風体で横を歩いている。一緒に連行されてはやるが同じ扱いはごめんだ、ということらしい。

 

「…………………………娘? いたの!?」

「いるよ!?」

「その童顔で!?」

「言うじゃない……このーかわいこちゃんめー!」

「いだだだだだ、っていうか、なんで私? シン君……はまぁいつ任務が入るか分からないとしても」

「………アオイとキンタ、雨宮姉弟に子守が出来ると?」

「あ、うん、確かに。それは無理だね多分……ん? ウィルは?」

「防衛部は軒並み私と楽しい支部防衛よー」

「わー目が死んでるー」

 

 今後の流れが目に浮かんだのだろう、どんよりと目どころかオーラが死んでるヨシノに、ケイは乾いた笑い声を上げた。そうこうしているうちに目的地に着いたらしい、ヨシノの足が止まり、ケイもヨシノの腕から解放されて二人の間に立つ。

 

「…………なんで第九訓練場? 一般開放はされてないよね?」

「ちょっとね。ナナー!」

 

 扉を開けながら娘らしき名前を喜色満面の声音で呼ぶヨシノに、お母さん! と嬉しそうな幼い声が返ってきた。それと同時に、ひょっこりと黒髪の小さな少女が顔を出す。

 

「ただいまーナナ。二人とも、この子が私の娘よ」

「しらないひとだー! はじめましてー! 香月ナナです!」

「うっわー……初めて会ったときのソーマよりちっちゃーい! かわいいー! ケイ・サカキです! よろしくー!」

「俺を引き合いに出すな…………ソーマだ」

 

 自分より年下の者に慣れていないソーマが、少々戸惑いながら自己紹介を終えたところで、ヨシノがしゃがんでナナと目線を合わせ、彼女の肩に手を置いた。

 

「ナナ、お家壊れちゃったのは知ってるよね?」

「うん」

「おかーさん、ちょっと忙しくて一緒にいられないんだー。だから、お家直してる間、この二人と一緒にいてくれる?」

「……うん! わかった、ナナ、ちゃんといい子にできるよ! 荷物、持ってくるねー!」

「………随分聞き分けが良い子だね」

「そうなのよ。いつも家に置いてっちゃってて親らしいこともしてあげられないし……どうしたものかしらね……」

「お母さん、か………」

 

 ちら、とソーマを横目で見やるが、無言で首を横に振られ、ケイは小さく肩を落とした。

 ケイにもソーマにも、母親との思い出なんてない。ケイには、幸いにもペイラーがいたから、寂しいとは感じても、悲しいと感じた事は無かった。けれど、お互いに心配して悩み、慕い合う二人の姿を見ると、やっぱり少しだけ、羨ましい。

 

「それとね、ケイちゃん、ソーマくん。ナナのことは………サカキ博士以外には、誰にも言わないでおいて貰えないかな」

 

 荷物らしきリュックを確認するナナを眺めていると、ヨシノがいやに真剣な顔で、二人にそう告げた。不穏な空気に、二人とも眉を顰める。ヨシノはそんな二人を見て慌てて表情を明るくし、否定するようにパタパタと手を振って少しぎこちないながらも笑顔を浮かべた。

 

「全然! なんでもないよー! だいじょぶだいじょぶ! ただ、一応、ね」

「…………ん、わかった。ナナちゃんはヨシノちゃんの友人の娘、いろいろあって預かってる。そうでしょ?」

「………………ごめん。ごめんなさい、ケイちゃん」

「いーよ、許してあげる。ね、ソーマ」

「………親が子を思いやるのは、フツーのことだろ」

「…………ありがとう、二人とも」

 

 ヨシノがいつ、ナナを生んだのかはわからない。わからないけれど、ゴッドイーターである彼女の娘が、フェンリルからどう見られるのかは、保証できない。それはソーマが既に証明している。

 高い電子音がヨシノの腰元から響き渡った。

 

「出撃要請……ケイちゃん、ソーマくん、ナナを、どうかよろしく」

「もちろん!」

「了解した」

「おかあさん………」

「ナナ。約束、覚えてる?」

「……泣かない!怒らない!寂しくなったらおでんパン食べる!」

「そう! うん、やる気でてきたー! お母さん、行ってくるね!」

「いってらっしゃーい!」

 

 駆け足で第九訓練場から出ていくヨシノを手を振って見送って、扉が閉まるまでその背を見送る。閉まった途端、ナナの肩が一瞬落ちた気がしたが、彼女はすぐにケイをにこーっと笑顔を浮かべて見上げた。

 

「お世話になります!」

「お、良い挨拶だねー。ふむ、取り合えず私の部屋にいこっか。荷物置いて、ご飯食べよ。ナナちゃん、なにか好きな食べ物ある?」

「おでんパン!」

「……ヨシノちゃん、まさか娘にまで伝授してるとは……いいとも! 腕によりをかけて作っちゃうよー! ヨシノちゃんの腕には敵わないけどね!」

「わーい!」

「おい、荷物貸せ」

「? ナナ、自分で持てるよー?」

「ガキが遠慮すんな」

「ソーマもガキだけどね」

「うるせえ」

 

 ナナを挟んで、三人で訓練場を出る。どこからどう見ても機嫌のよさそうな顔のナナを見て、これはソーマより、もしかしたら問題児だぞ、とケイは頭の片隅で思った。

 




ナナちゃん登場。


香月ヨシノ(24)
黒髪ツインテの童顔なシングルマザー。大食漢で、溌剌とした性格。けれど包み込むような穏やかさを兼ね備えており、キレたゲンを諫めるのは大体この人。怒らせると極東イチ恐いと噂だが、実際に怒られた経験があるのはゲンとタカさんとシンジのバカトリオのみ。娘であるナナを溺愛するも、フェンリルの目が恐いし任務で長く離れることもあるしでどちゃくそ心配してる。
旦那さんの描写がゼロなので旦那さんは既に死別したことにしてます。すまない。
最初期世代のピストル型神機使いで、腕は未だに生き残ってるだけあって相当大したもの。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。