どちゃくそ短いよ!
ソーマが泣いた日から半年経った。(この表現をするととてもソーマに怒られる)
ケイはもうすっかり全快し、元気どころか、ソーマと共にゴッドイーター見習いとして訓練するまである。
あの日から、ケイはソーマの事で遠慮することを止めた。
一番ぶっとんだ事柄を上げると、ケイはソーマの親権をヨハンから奪い取ろうとしたとかだろう。
しかし、これにはちゃんと理由がある。
ソーマが訓練と称した実験まがいのことをされたりしてもまったく止めないし、そもそも同じ食卓についたことすら数える程度だというヨハンだから、ケイが癇癪まがいの怒りを爆発させたのだ。
あの時は大変だった、と語るのはペイラーだ。
何せケイの腕力は現役ゴッドイーターと同レベなのだから、支部長室の有様はと言えばそりゃあもうひどいものだった。ヨハンお気に入りのノアの箱舟の絵なんて紙くずだった。
そんなわけで(どういうわけだか)、ソーマの実験じみたものは全部取りやめ、訓練も過剰な物は制限、週に一度は親子で共に食事をとること、といった等の約束事をいくつか設けたのである。
今日もケイは飛び跳ねるように起きてさっさと着替え、隣の部屋の扉をノックもせずに開いた。
「ソーマ! おはよー!」
約束事の中の一つに、ソーマの部屋のこともある。
ソーマの部屋は広くて物が少なく、まさに寝るためだけの部屋みたいだったので、無理矢理ケイの部屋に隣接させた。
なので、ケイとソーマはほぼ毎日朝ごはんと晩御飯を共に食べられる事になった。おかげでソーマの食事生活も大幅に改善できたようで、最近はずいぶん血色が良くなり、背がメキメキ伸びている。前の部屋よりずっと物が増えた部屋を真っすぐ進み、カーテンを勢いよく開いて日を差し込ませる。着替えていたソーマが日の光に眩しそうに目を細めた。
「ケイ………勝手に入って来るな」
「もう8時なのに起きてこない方が悪い! それより先に言う事があるでしょ?」
「…………おはよう。」
「うん、おはようソーマ」
「今日は訓練がない日だろう。もう少し寝ていたっていいじゃないか」
「何その休日のお父さんみたいな言い分は。休日だから、何かして遊ぼうよ」
休日なので、食堂ではなくペイラーに充てられたリビングでケイお手製の朝食を食べる。
ケイはこう見えて料理と掃除は得意なのだ。サカキは「うんうん、いつでもお嫁に行け――・・・・待って、まだ早い!早いんだからね!」と涙目になっていた。心配しなくても年齢的に無理である。
「例えば?」
ソーマがコーンスープを飲み干して聞いた。
ケイは首を捻り、うぅん、と唸る。
「んー………考えてない!」
「だろうと思った」
呆れ顔で笑うソーマは、あれからめっきり丸くなった。今では訓練教官やゴッドイーターにも馴染みの者が出てきたぐらいだ。ケイにはそれがとっても嬉しいのだが、そんな笑顔を浮かべる度にソーマはなんだか複雑そうだった。
「ピクニックにでも行く?」
「どこへだ」
「うー。ならゲーム……はヤダ………」
「ケイは下手だからな、あのゲーム」
「ソーマがうますぎるんだよっ。大体何!? あのゲーム! なんで人が腐ってるの! アラガミもビックリなバケモノだったよ!? ゲームかっ!」
「ゲームだろ……」
軽口みたいなやり取りがぽんぽんとリズム良く続いていく。
ちなみにペイラーは昨夜徹夜したそうで撃沈中だ。今頃机の上で栄養ドリンクに囲まれながら突っ伏して寝ているだろう。
「じゃあ今日訓練してるシン君たちの冷やかしとか!」
「止めてやれ」
「困った。万事休すだよー」
「万事休すの早いぞ………」
サンドイッチの最後の一切れを口に放り込み、空になった皿をソーマが掻っ攫っていき、流し台へ持っていった。気が利くいい子に育っているようで何よりである。うんうん唸っていると、皿洗いが終わったソーマがケイのすぐ横に立った。逡巡している様子のソーマに、ケイは起き上がって首を傾げる。
「……買い物へ行かないか。丁度包帯が切れた」
「あ、いいね、行く! っていうか、包帯が切れるくらい怪我したの!?」
「かすり傷だ。お前がうるさいからキチンと手当してるんだぞ。そしたら無くなった」
「ちゃんと手当してることを褒めればいいのかな、怪我しすぎなことに怒ればいいのかな……」
ケイが頭を抱えていると、キッチンの扉が開かれた。
ペイラーだ、徹夜明けなのに自力で起きてくるなんて珍しい。一応のこの部屋の主は、ふらふらとした足取りで頭を抱えながら椅子に座る。ケイはテーブルに伏せていた食器を手に取り、コーンスープを汲んでペイラーの席の前に置いた。
「おはようお父さん。これだけでも飲んでね」
「おはよう。ありがたい」
「………おはよう」
「ああ、おはようソーマ。そうか今日は休日だったね。二人の今日の予定は?」
「ソーマと買い物にね。お父さん今日はずっと寝てる?」
「ああそうするよ・・・二人とも、気を付けて行くんだよ」
「はいはーい」
「わかった」
ケイは元々遊ぶ気まんまんだったので、出かける準備は万端だったので、ソーマが準備をしている様子をぼんやりと眺める。その横顔がいつもより機嫌が良さそうなので、ケイもつられて口角を上げた。もう少し同年代の子供がいればいいのにな、と思うが、このアナグラにそんな子供がいればそれはそれで問題なのでないものねだりは止めにする。
あと2年で、ケイはゴッドイーターになる。
そうなれば、しばらくはソーマにばかり構っていられはしないだろう。それを考えると、なんだか少し寂しい。
ソーマが支度を終えたのを見計らって扉を開ける。
「いってらっしゃい」
「「いってきます!」」
願わくは、こんな穏やかな日常が、どうか、ずっと続きますように。
手は自然と、繋がっていた。
なかよし