半年とは言えど異動は異動。必要な書類は多いし許可願いの数も膨大で、しかもその異動が一週間後とかいう超絶急なものだから大変だった。三日完徹してどうにか体裁を整えて書類を配送。次いで運送部に頼み込んでどうにかこうにかヘリと運転手の算段を終えて、気付けば配属までは三日を切っていた。明日の昼には出発する予定なので、自然荷造りは適当になっていく。今から取り寄せようにも間に合わないだろうし、仮眠もとりたいので倉庫まで専用のバッグやらキャリーバッグやらを持ってくるのさえ面倒くさい。ノックからノータイムで扉を開かれ、ケイはそちらを見向きもしないまま部屋にあった適当なナップザックに必要なものを入れていく。
「回復錠が入らないんだが、そっち余裕あるか?」
「あーるじゅうはちの本を抜けば良いんじゃない???」
「必需品なんだよ男にはよ……」
「うわほんとに入ってるし。えー……任務用の服とかと、折り畳み式のカバンだけ入れて他のは現地調達にすれば?」
「天才か」
「グレネードいるかな?」
「入れとけ入れとけ。他なんかあるか?」
「データPDFにしてアーカイブからDLしといて。向こうにどれだけ資料があるかわかんないし、、入れるだけ入れたい」
「オーライ。入んねぇ分は勝手に俺のに入れとくぞー」
「やったーリンドウありがとーー今度ジャーキーあげるね」
「姉上からクソほど貰ってるからいらねぇー」
貴重な動物性たんぱく質だが、ツバキ曰く「犬の餌みたいで苦手」だそうで。配給や購入したおつまみセットから取り除いては、主にリンドウやケイに配り歩いているのである。塵も積もれば山となるとはよく言ったもので、二人の非常用食料ボックスはおかげでジャーキーまみれだ。
「やっぱコレ処分した方が良いね? 最近兄妹入ってきたじゃん、その子たちにあげようよ」
「あー、そうだな、このままじゃ腐っちまう、っと、来客だぞ」
軽いノックの後、「俺だ」と傲岸不遜に言い放つその主は、言わずもがなソーマのものだ。ケイの部屋なんてものはフリースペースと半ば化しているのでむしろ丁寧な部類なのだが、それを認めてしまえばモラル的なものを失う気がして見て見ぬふりは継続中である。入っていいよー、と声を返せば、一拍置いて扉が開かれた。
「ロックくらいかけ、ろ……………なんでこいつがいるんだ」
「………バディだから、か?」
「リンドウなら今はデータDL機になってるから気にしないでいいよ?」
「そうか。ところで端末は保有者しか使えないはずだな?」
「……………………そうだったっけ??」
「あー、あったなそんな機能。一週間ぐらいで改造したろ」
「あぁ……あのコンゴウ乱舞のとき」
思い出したくもないから記憶から末梢していた。今すぐ忘れてまた平穏な日常に戻りたいところだが、何を隠そう思い出した記憶がむしろ今の平穏な日常と変わらない。神機使いが如何にブラックかがわかる。さても思い出してみればあの時、リンドウの端末が使えなくなったため、そういえばケイの端末を改造していた。後にリンドウの端末も改造してしまったのは、まあ順当な流れでないこともない。
「でもシン君のも私使えるよ? リンドウもツバキちゃんの使えるし、アオイちゃんとキンちゃんもお互い使えるらしいし。どうせ任務中にはロック外すんだから無用の長物だよ」
「緊急時バディの端末使えないとか笑うだろむしろ」
「それな」
ソーマが小さな声で何か言ったらしいが、生憎ゴッドイーターの優秀な聴覚でも聞き取れないほどの音量だった。首を傾げて見せれば、一層不愉快そうな表情になるので困惑は増すばかりだった。
「よくもまあ精神年齢五歳相手にそこまで突っ掛かれるな……」
「えっ、唐突なディス……これが最近のキレやすい若者ってヤツ……?」
「黙れ三歳児」
「下げた?? なんで????」
「ちったぁ自分で考えろ。じゃ、こいつは俺のとこでやっとくから、ごゆっくり~~」
「すごいねリンドウ、よくもまあそんな流れるように相棒を見捨てられるね? っていうかバッグは持ってけツバキちゃんに提出すんぞ」
「すまんそれだけは勘弁!」
音速でバッグをひったくるように受け取った背中に呆れ顔を隠さず見送る。なんというか、全体的に締まらないやつだ。
「それで、ソーマは何の用事があって来たの?」
「…………用事がなくて来ちゃ悪いか」
「ううん、聞いただけ。私は荷造りしなくちゃだけど、ゆっくりしていって」
若干不機嫌が尾を引いているものの、ソーマはこっくりと何も言わず頷いた。大人しくローテーブルの傍に座るソーマに、ケイがくすくすと笑みを漏らす。
「なんだかんだ素直だよねぇ」
「……無意味だからな」
「リンドウにツン発揮するのは意味があるってこと?」
「気に食わないだけだ」
「ふーん? まあ良いけどね、なんだかそれも真実のような気がするし」
素直というのは撤回した方がいいかもしれない。まったくこの十歳児、どこでそんな語彙力を身に着けてきたのやら。特大ブーメランのような益体のないことをつらつら考えつつ、鼻歌を歌いながら荷造りを終わらせていく。あとはチャックが閉まるかどうか、といったところで、息を吸う僅かな呼吸音がして手を止めた。
「オッサンから聞いたのか」
数瞬だけ手を止めて、づー、とゆっくり閉めていく。
「聞いたけど、教えてはもらえなかったよ」
かち、とチャックの付け根がプラスチックを擦る音を立てて完全に閉まる。
そうか、と吐く息と混ざったような掠れた声が耳に届いた。
「知っても、かまわないか」
「………うん。お願いしてもいいかな?」
多分、二、三年ほど前のケイなら、特別興味の湧かない話だったと思う。現状に満足していたから。心底、しあわせだったから。
「最近おかしいんだ。最初は、生きていくだけで良かったのに。お父さんを、研究所にいたみんなを、ソーマを、守れればそれで良かった、でもどんどん守りたいひとは増えて」
名前を呼ばれるのは好きだ。そのひとがケイに対して抱く想いが耳から届くから。遠くにいてもわかるから。
けれど同時に、どうしてだか苦しいとも思う。水中に沈んだような、溺れたような息の苦しさ。溢れて溢れすぎて、届くのに、処理できない。
「守るための長い腕が欲しい、駆けつけるための長い脚が欲しいと思ったら、その通り身体は大きくなれた。大人になりたいと願ったら、髪が伸びた。けど結局、そんなのも外側だけだったし」
―――あまりにも、この身体は思い通りになりすぎる。自我が芽生えれば芽生えるほどわかる、漠然とした違和感、それでいて異様なほどしっくりくるような。
「たぶん私は、知らなきゃいけないんだと思う。覚えてないから仕方ないなんて、よく考えれば私にしては後ろ向きな手だった」
背筋を伸ばして、ソーマににっこりと笑いかける。
見て見ぬふりをしてきたことが、たくさんあった。今まで思い過ごしとしてきたものが山ほど。
思い立ったら即行動、当たって砕けろといつだって生きてきたのだ、今回もそれくらいの心持で進めば。進めば、きっと。いきつくところに行ける。
そしてそこへ至るとき、共にいるならばこの子が良いなと思った。それがどうしてかはまだわからない。リンドウとか、ツバキちゃんとか、シン君でもいいんじゃないかな、と思わないでもないけど。
けれどその差し出された手を、離したくないなと思ったのだけは本当だった。
「でも、なんでソーマはそんなに積極的なの?」
「……嫌な、予感がする。それだけだ」
「ふーん……まあ、ソーマの勘は当たるもんね」
ゴッドイーター3が来月十三日発売予定ですよ!!!今から楽しみでもあり不安でもあり……そして3が出るまでにせめて本編まで行きたかった……(無理)