だってツバキちゃんと同年代のゴッドイーター見つからへんねんもん・・・ないなら作るしかないよね!
「しまった、また迷った。」
呆然と目の前の廊下を見やる。
このアナグラで生活して1年になるのに自分は、とこめかみを揉み己の失態を悔いた。
ペイラーに拾われて、5年が経った。
相変わらずケイにべったりなソーマは、だいぶ人嫌いが改善してきた様子で、初対面の人相手でも睨む事もなく、積極的ではないにせよ関わろうと努力する姿が多少は見られた。その相手は軒並みゴッドイーターとしての教官やらなにやらなので出逢い的な甘いものなどカス程もないが、将来的には役に立ちそうなので温かく見守っている。
教官や訓練生もそんなソーマを嫌ってはいないし、良い教え子、後輩として可愛がっているので安心だろう。教官の可愛がるという絵面は確実に訓練であることだけがアレだが。
閑話休題。
とにかく、今日はゴッドイーター見習いであるケイも一緒の訓練を受けるハズであったのだが、ソーマは健診を受けてから行かなくてはならなくなってしまい、1人で行動した。
まぁ1人で行動したザマがコレである。
頭は悪くないケイであるが、これが極度の方向オンチで、一人で行動すると途端に迷子になった。ソーマに何度も念押しされたのに・・・、と年上としての威厳もへったくれもない自分に、少々落ち込む。いや落ち込んでいる場合ではない、なんとか約束の時間までに訓練場へ行かねば。
取り敢えず来た道を戻ろう、と足を踏み出した直後、物凄い悲鳴が聞こえて顔を勢いよくそちらへ向ける。
ぱちぱち、と数回瞬きして、一瞬の逡巡を振り切るようにそちらへと走り出した。
*
何時まで経っても開かない扉を見つめる。
ああ、駄目だったのか、と他人事のように頭の隅でぼんやりと考えた。
先程までこの待機室で恐怖を押し殺した顔で談笑していた彼も、駄目だったらしい。ぎゅうと白くなるまで手を握り締めた。
率直に、正直に言ってしまえば、恐ろしい。人類の為だとか、家族の為だとか、頭では解っていても、身体は正直だ。情けない事に震えが止まらなかった。
それなりに鍛えていた男があんな絶叫を上げる程の痛み、苦しみ、そして死。
手だけでは足りないので唇を噛み締めた。呪うように膝を睨み続ける。
すると、ぱたぱたと足音が聞こえてきた。ついに自分の番か、と思ったが、可笑しい。足音は軽く小さく、どう考えても子供のものだ。子供を連絡係によこすか?否だろう。
なら、誰が?
膝から目を離し、ゆっくりと顔を上げる。
扉の前には、少女がいた。
ほんの幼い、10歳程度の少女。
黒い髪を肩口で跳ねさせ、赤いマントのようなコートを羽織り、手先が見えないほど長い袖を口に当ててじっと扉を見上げている。大きな緑色の目を、絶望への扉へ熱心に向ける、目が覚めるような美少女だ。
彼女は首を傾げていたが、何に思い当たったのか納得したようにうんうんと頷き、くるりと反転して扉に背を向け、帰ろうとした。
そう、そうしようとしたのだが、こちらを見つけて驚いたような顔をして、足を止めたのだ。
ある意味では当然である。
何故なら、その時の私はとてもひどい顔をしていただろうから。少女は弾かれたようにこちらへ飛んできて、私の手を取った。
「大丈夫? 顔、真っ白だよ?」
わ、手も氷みたい、と子供特有の体温の高い手で優しく擦る。何処となく手馴れた様子に、おそらくこの子には弟か妹でもいるのだろうな、と思った。
「お前は、どうしてここに?」
「迷っちゃって。そしたら悲鳴が聞こえてきたから。何か良くない事でも起きたのかと思って。でも見当違いだったみたい」
あっさりと言い放つ少女は無邪気で、そら恐ろしかった。
それは、あの悲鳴はここでは普通の事と片付けられるという事だった。
私が更に顔を白くさせていると、少女は不思議そうに首を傾げた後、あ、と声を上げた。
「お姉ちゃん勘違いしてる?あそこに入った人はね、ここにはこないよ」
「それは………」
「適応しても、神機片付けに行かなくちゃいけないから、向こうの扉から出てるの。そこからエレベーターで技術班のとこ行って、格納してもらって、それからここに戻ってくるんだよ?別のエレベーターで」
「え」
「多分、技術班の人の話に捕まっちゃったんだと思う。楠さん、話長いから」
クスクスと笑みを漏らす少女は私を笑ってるのではなく、その楠さんとやらに捕まった新人を思い浮かべて笑っているのだろう。
邪気もなく、ただ可笑しそうに笑う少女に、一気に力が抜けた。しかし気を抜いたのもつかの間、いっそ機械的とも言えるアナウンスが聞こえてくる。
『次の候補者は速やかに扉に入ってください』
途端に背筋に冷たい物が走り、意識せずに握ったままの少女の手をぎゅうと握りこんでしまった。
「っ、すまない」
「大丈夫」
少女はにこりと微笑みをこちらに向けた。
それはなんとなく、手のことじゃないような気がして、首を傾げる。
「あっ、ねぇ第二訓練場ってどこだか知ってる?」
「え、ああ。知っているが………私はもう行かなくては」
「じゃあじゃあ、試験終わったら案内してください! 出来るだけ早急に! 私大事な約束があるの………」
まあそれくらいなら、と頷くと、少女は日が差したようにぱあ、と笑顔を浮かべた。
そうしてふと気づく。
彼女は一切の雑念もなく、一片の疑いもなく、自分がここにまた来ると思っているのだ。
それは幼さ故の世間知らずか、それとも幼いが故の鋭さか。
くすりと笑みを浮かべ、扉の前に立った。
ああなんだか、まったく晴れやかな気分だ。
先程の鬱々とした廊下が嘘のように明るく見えて、重厚な扉がプラスチックみたいに軽くて薄いものに思えた。
「お前、名前は?」
「ケイ・サカキ! お姉ちゃんは?」
「雨宮ツバキだ。ツバキと呼べ」
「うん! 待ってるね、ツバキちゃん!」
両腕の長い袖をぶんぶんと振り、満面の笑顔がツバキを見送る。
閉まっていく扉、見えなくなる小さな影。
前を向けば、実験場のような広く空虚な空間。
そこに浮かぶケースと、私の適応する可能性が一番高い銃を模った神機。
「―――――負ける気が、しないな」
*
待合室で足をぶらぶらさせていると、かつかつというヒールのある革靴特有の音が廊下の奥から鳴り響いて、ケイはぱあっ、と笑顔を浮かべて立ち上る。
息を切らしたツバキはケイを見て心底嬉しそうな笑みを浮かべ、駆け寄って抱きしめた。
「合格だ! 今日から私もゴッドイーターだ」
「うん! おめでとうツバキちゃん。頑張れ」
ケイはにこにこ笑顔でツバキを応援する。
ゴッドイーターは殉職者が多いから、内心ではとても心配だったけれど、同時にツバキちゃんなら大丈夫、という謎の自信があった。
「メディカルチェックまでまだあるからな。その前にお前との約束を果たしておこうと思って。時間は大丈夫なのか?」
「うっ、実はちょっとギリギリだったり………」
「仕方ない、私も遅くなったしな。急ごう。走るぞ」
ツバキはケイをおんぶの態勢に直し、軽やかな足取りで廊下を抜けて行く。
あんまりに楽しかったので、ケイは廊下は走っちゃいけません、というルールをすっかり頭から追い出した。
結論から言うと、訓練場に着いたのは開始2分前だった。
お父さんだったらあと120秒だったね、といつもの口調でからかうのだろうなと思い、ケイはくすりと小さく笑う。ツバキは全力疾走したツケで息を整えていた。待合室から訓練場までは結構あるのである。
「そういえばお前、訓練場に何の用があったんだ」
「待ち合わせー」
「誰と?」
「キョーカンと。キョーカーン!!」
ケイは躊躇いなく扉をあけ放ち、中へ入る。少し困惑したツバキは一瞬躊躇った後、ケイを追うように中へ入った。
ケイが大声で呼びかけると、中にいた数人と、強面の40代後半程の屈強な男が振り返る。
「おお、ケイか。ソーマなしでも来られたんだなぁ」
「む、何ですかそれ! まぁ迷ったんですけど。で、ツバキちゃんが助けてくれたんです!」
「「「ツバキちゃん??」」」
「期待の新人だろう? サカキが言っていた」
「あぁ、ということは適応したのか」
「素晴らしい適合値だったみたいよぉ? キンちゃん、抜かれちゃうかもねぇ?」
「そ、そんなことないッス!」
「いやもう抜かれてるんじゃないか? スペック的に」
「ヒドイッス!!」
三者三様ならぬ四様する彼らは、話から察するにゴッドイーターらしい。ツバキは知らずしていた警戒を解き、ケイにキョーカンと呼ばれた人物を見る。
「まずはケイを連れてきてくれてありがとう。俺はゴッドイーターと教官を兼任してる、百田ゲンだ。よろしくな」
「俺は伊勢キンタッス! 後輩が出来て嬉しいッス! よろしくッス!」
ゲンと名乗った厳つい顔の男の前を遮る形で、イエローを基調としたパーカーに身を包んだ少年が晴れ晴れしく笑う。金髪に金目という極東離れした容姿だが、名前から察するに立派な極東出身なのだろう、明らかに年上に見える程体格には恵まれているが、何処か幼さが残る顔立ちだ。どうやらこのメンツで一番の年下らしく、更に年下のハズのツバキにも何処か下手に出ている。
その横で青色の柔らかな素材で出来た上着に身を包み、妖艶に笑う少女がふふふ、と笑いながら頭を下げた。黒くて長い髪がしゃなりと垂れる。
「私、榛名アオイ。よろしくね~、新人さん」
「んで、俺が赤城シンジ。一応、今は第一部隊でリーダーやってる。この二人も俺の部隊のメンツだ。今後ともよろしくな」
三人の真ん中に立つ彼は、雰囲気から予想通りまとめ役、つまりはリーダーだった。
血のように赤い目は鋭いが、不思議と悪印象を抱かせない好青年。赤いロングコートは鮮やかに揺れて、戦場ではさぞ目立つだろう。
「雨宮ツバキです。よろしくお願いします」
「第二部隊のキヨタカと、防衛部の連中の名前も割愛だな。後で挨拶する場が設けられるはずだ」
「キンちゃんとシン君がいるのはいつもだけど、アオイちゃんがいるのは久々だね。」
「あらぁ、私は新装備の斬り込みを試したいのよぅ? キンちゃんで♪」
「俺なんスね………」
がっくりと項垂れるキンタに、アオイは心底嬉しそうに笑う。ケイはすーとツバキに音を立てず近づき、かがむようにジェスチャーして耳打ちした。
「アオイちゃんはキンちゃんをいじめるのが好きなの。正確に言うと、キンちゃんのリアクションが良すぎて、見ていて楽しいんだと思う」
「そ、れは・・・結構な趣味だな」
「ふふ、でもアオイちゃん、キンちゃんのこととっても可愛がってるんだよ。アオイちゃんのたった一人残った同期だから」
「え…………」
「いっぱいいなくなっちゃったから…………」
思わずケイを見ると、ケイは仲良い二人を微笑ましく見つめながらも、哀しみの色が深く浮かんでいた。
先程までの天真爛漫さが、嘘のようだった。
「そういえばツバキちゃん、メディカルチェックはいいの?」
「っ、そうだった」
「なら丁度いい。ケイ、お前ソーマを迎えに行って来い。人数オーバーだからな。順番が来るまでヒマだろ」
「そうでもないけど。うん、行くー」
ゲンの提案に、ケイは一瞬躊躇った後笑顔で頷いた。確かに、今日は人が多いので使うまで時間がかかるだろう。ブレード型が増えて訓練用の模擬アラガミサンドバッグが埋まっているのなら、ケイに出来る事はない。
「サカキ博士の研究室にいるのか?」
「うん、ソーマは定期健診してるから。行こう、ツバキちゃん。私帰り方は分かるんだー。帰巣本能で」
「お前の家じゃないだろ」
「家みたいなもんだよー」
「………そういえば、お前どうしてここにいるんだ? 年齢的にゴッドイーターでもないだろう」
「10歳です!私、ゴッドイーター見習いなんだー。適合神機はもう見つかってるんだよ。でも年齢が………それに父さんに13まで止められてるし」
「父親はここの技術屋か何かか?」
「うーん、まぁ広い意味では?」
曖昧な返答をするケイに、ツバキは首を傾げて他4人を見やった。
すると、第一部隊の3人はニヤニヤとこちらを眺め、ゲンは眉間のしわを揉んでいる。
「まぁ、此処に来る奴は誰もが通る道だな、うん」
「そぉねぇ。私も驚かされちゃったぁ」
「俺なんて先輩方に更に誇張されて………ウッ」
全く違う反応の4人に見送られ、ケイとツバキは訓練場を後にした。
ケイは先程自身が言っていたように、迷う様子はなくすいすいと先を進んでいく。5分ほどしたところで、ひとつ上の階の廊下の奥に差し掛かる。
そこが、サカキ博士の研究室と指定された場所だった。ケイはノックを2回して、返事も聞かず中へ入る。
「お父さーん! ソーマの健診終わった?」
「おやケイ。迎えに来たのかい? それとも辿り着けなくって帰って来たとか?」
研究室では、一人の男性が部屋の中央奥にある大きなコンピューターや計測系等をいじっている。彼はケイの声で顔を上げると、からかうように悪戯に笑った。
「迎えに来たの! ソーマは?」
「部屋で検査服を脱いでるよ。もうそろそろ出て来るんじゃないかい? ん? あぁ、雨宮ツバキくんか!いやいや、予想より1205秒早いね。私はペイラー・サカキ。ここで研究者をしていて、そこにいる子の父親だよ」
「なっ………お前、先に言え!」
「いたっ。うー、だって皆、この事を話すと、新人には言うなよ、って、毎年」
「ま、ちょっとした定番新人いじりなんだよ」
皆驚くから気にする必要はない、とペイラーはからからと笑った。
完全に他人事の様子だ、確かにほぼ他人事だが。ツバキはさっきあまりの驚きではたいてしまったケイの頭を宥めるように撫でる。
ケイは悪戯が成功したような子供のように笑って、奥の部屋へ駆けて行った。ぱっと見あまり似てないように思えたが、内面は実は似てるのかもしれない。
というか結局お前もちゃっかり楽しんでるんじゃないか。もっと切羽詰まった苛酷な職場だと思っていたのに、なんだか拍子抜けである。
けれど、なんだか上手くやっていけそうだとも、思った。
若さ故に感情表現豊かなツバキ嬢
シンジレッド!キンタイエロー!アオイブルー!三人合わせて、極東信号機!!()
まぁ、そんな安直なネーミングですとも、ええ。
ストック切れたのでとりあえず連投はここまで。私は自他ともに認めるかなりの遅筆なので、続きは気長に待ってやって下さい。まぁ話の大本は出来てるので。