ネメシスの慟哭   作:緑雲

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ひっっっっさしぶりですね!!放置してしまい申し訳ない・・・そしてこれともう一話投稿したらまたしばらく忙しくなるのだ・・・すまない・・・新潟行ってきます。


喪失

 やっぱり筋が良いな、と言われたのは、任務が終わってすぐの事だった。

 振り抜きすぎて痛くなった右腕を回しながら声の主、もとい教育係であるシンジを見やると、シンジはにこりと笑ってケイの頭に手を乗せる。驚くべきことにその身体のどこにも返り血が全くないので、ケイは甘んじてそれを受け入れた。

 

「少し前に出過ぎる気はあるが、なりたてでここまでついて来れる奴は久しぶりだ」

「本当!?」

 

 兄同然に慕うシンジに褒められ、ケイはぱあ、と顔色を明るくする。

 屋根が無いタイプの軍用ジープに乗り込み、シンジがエンジンを掛けた。

 ゴッドイーターの仕事には、あらゆる移動手段が必要不可欠だ。

 大型自動車は勿論、場合によっては船や飛行機の誘導までする機会だってあるのだ。事実シンジは航空関係の資格をいくつかと、海技士免状なども有している。(彼が凝り性なだけで、実際は必須ではないが)

 ゴッドイーター達はその職業の特殊さ故に免許は何歳でも取れるようになっているが、ケイなどはまだ身長的に足りないためしばらく他のゴッドイーターと同行するか、フェンリルの運転士に送ってもらうかするしかない。例え身長が伸びたとしても、方向音痴的な意味で免許は取れはしないだろうし周りが一人で行くのを全力で止めるだろうが。リンドウは絶賛取得中らしく半泣きになりながらツバキに教鞭を取られていた。ちなみに彼は語学も未だ堪能ではないため、そちらでも随分泣きを見ている。一方ケイはペイラーの書類を手伝う内に自然と語学が身に付き、不思議なほどすんなりと習得することができた。

 閑話休題。

 

「そういえば、博士とソーマが帰って来るのは今日だったか?」

「うん。夕方すぎくらいに帰って来るってメールが朝に来てたよ」

 

 ケイがゴッドイーターになって早三日。

 その間、ペイラーはソーマを助手にアラガミ研究の学会に出席して極東から離れている。

 アラガミ研究の第一人者と言って過言でないペイラーも、将来研究職に関わりたいと志すソーマもどうしても出席しないわけにはいかず、二人は泣きながら飛行機に乗ったのだった。

 ケイはそれから例によって例のごとくシンジの部屋で寝起きしている。

 もう十三歳なのに、とアオイにくすくす笑われたが、シンジが許す限りはケイは彼に甘えることにした。

 

「歯ブラシ持って帰るの忘れるなよ」

「忘れても携帯用の方があるから平気だよ」

「やめろ。最近ソーマが面倒なんだ」

「えー? うぅん、最近あんまり構ってあげられなかったからかな………」

「まぁそれもあるだろうが」

 

 これ以上は言うまい、とシンジが深く溜息を吐く。

 ケイ的にはどうしてそんな溜息を吐かれなきゃならないのか理解不能なので不満顔だ。

 

「シン君はまだ任務残ってる?」

「午後は待機だ。緊急のものが入らない限りは出撃しないさ」

 

 その時、ジープに搭載されている通信機が繋がる音がして、二人は思わず視線を交わし、神妙な顔でスイッチをオンにした。

 

「こちらシンジ。何かあったか?」

『ユウナです! エマージェンシーコールが発令されました、今から指定のポイントへ向かって下さい!』

「何が出た」

『ボルグ・カムラン数体を中心に小型アラガミが多数発生しているとのことです。場所はここから南東へ距離25キロ!』

「………待て、南東距離25?」

『はい! 第二ハイヴ建設途中地点です! 多数の民間人が襲われています!』

「クソッ! ケイ、飛ばすぞ掴まれ! 舌噛むなよ!」

「うん!」

 

 悪態を吐いたシンジはブレーキとアクセルを器用に使いこなして車体を急ターンさジープが出せる最大の速度で走らせる。整備されていない土地を荒っぽい運転で駆け抜けるものだから揺れも尋常でなく、ケイは奥歯を噛みしめながら取っ手に両手でしがみついた。

 

 十分ほど全速で走り続けた後、目的地の第五ハイヴへ到着してジープから跳び降りた。

 建設中だった壁や建物は無残に荒らされ、遠くで人々の悲鳴が聞こえる。どこから湧いてくるやら無数のアラガミが建設中のハイヴに押し寄せていた。

 ボルグ・カムランをシンジに任せ、ケイは道中の邪魔なものは斬って捨て、悲鳴の方向へただ走る。

 籠城していたのだろう建物に滑り込んだ時には、既に三分の一が致命傷を負っていて、護衛をしていたのだろうゴッドイーターの死体らしき肉塊が転がっていた。

ケイはそれが誰かを判別して悲しむ心を真っ先に殺し、次いで飛来してきたサイゴードを斬る。詰まりそうな声を荒げ、血まみれの人々へ一か所に固まるよう指示を出す。

外の敵はシンジが全て片付けるだろうから、ケイは守り抜けばいいだけだ。

 津波の如く押し寄せてくるアラガミの群れに、ケイは気合を入れて斬りかかった。

 

 

「ケイ」

「シンくん」

「怪我人の手当、ひと段落ついただろう。手を合わせに行くぞ」

「…………うん」

 

 アラガミを殲滅し終えた後、支部に連絡を入れてひどい怪我をしている人々をケイが手当し、シンジは周囲の警戒と軽症の人々と共に遺体の運び出しと確認をそれぞれ行った。

 突然あっちこっちで大量発生したようで、支部も今はてんやわんや状態らしい。

 輸送車が来るのは二時間ほどかかるらしかった。

 

「何人死んだの?」

「二十一。内三人がゴッドイーターだ」

 

 少し離れた寂れた建物の入り口をくぐり、中の布をかぶせられた人々の合間を歩く。シンジが立ち止まった前の遺体に被せられた布から、彼女のチャームポイントであるラメ入りのヘアゴムが通された腕が、力なくはみ出ていた。

 

「エミリーだね………」

「ああ。そっちはリョウ、こいつはユウキだな」

 

 いつ死ぬか分からないゴッドイーターたちは、皆遺体がぐちゃぐちゃになっても判別できるように、と各々目立つものを付けてる者が多いが、そんなものがなくても、皆誰が誰の遺体なのかすぐに察することができた。生死を分ける日々を共にした事もあるし、多分みんな、見つけてもらえるように必死になるから、見つけられるのも自然とできるのだろう。

 布の上からエミリーだったものを撫でれば、その下から不快な粘着系の音がして、悲しかった。

 どれほどかじっと黙祷したあと、ケイの通信端末が鳴って、ようやくケイは立ち上がった。

 のろのろと端末を確認し、受信したメールを確認する。

 

「誰からだ?」

「ソーマから。まったく、どうしてこういうタイミングはいつも良いのかな………」

 

 ――もうすぐ支部に着く。今日は一緒に晩御飯を作ろう。

 簡素なメールだけども、きっと彼なりに勇気を振り絞って綴ったに違いない。おそらくまだケイたちが任務に出ている事さえ知らないだろうに。

 こういう何気ない、真っすぐな好意に、ケイはいつだって救われてきた。

 ぽろりと落ちる涙を慌てて拭うと、シンジがその頭をぐしゃぐしゃに撫でて、涙が止まるまで腹を貸してくれた。

 ゴッドイーターは死ぬのも仕事だ、そんなことはわかってる。

 それでも、彼らの強さと優しさと勇気と、人々を守ろうとするこころを、そんなものに押し込めてしまいたくなんてなかった。

 ケイはゴッドイーターになる前からずっと死んでいく人々を見ていたけれど、いつまで経っても、その喪失には慣れない。

 それで良いと、シンジが愛しそうに呟く。

 夕暮れが、痛いほど鮮やかに全てを照らしていた。

 

 

「あ、リンドウ」

「……………おう。」

 

 神機の格納庫で偶然鉢合わせ、二人はぎこちなく挨拶をした。

 リンドウの方でも一人、殉職者が出たというのは、ここに来る途中にツバキに聞いた。

 私がもっとしっかりしていれば、と悔やむ彼女をぎゅうと抱きしめて、ツバキちゃんが生きていて良かった、とだけケイは言った。

 

「わかっちゃいたが、キツいな。俺はまだあんま面識なかったけどさ……」

「………ケンはねぇ、ぶっちゃけ短気」

「お!?おう」

「すぐ怒るし、喧嘩も手が出るのも早いし」

 

 ケイはここにきてもう長いから、極東支部に所属しているゴッドイーター達とほとんど全員面識がある。みんな今よりずっと子供だったケイとソーマを可愛がってくれた、良い人たちばっかりだったのだ。

 偶に子供嫌いがいたりしたけれど、それでも。

 

「でも、作ってくれるココアは美味しかった。そういう人だったよ」

「……そうか」

「まぁめったに作ってくれなかったけどね。ソーマと喧嘩した時とか、たまに」

「ソーマ? そんな名前のやついたか?」

「あー、訓練生の子。私の弟みたいなものよ。今日お父さんと帰ってくるの」

「お前、親いたのか」

「血は繋がってないけどね。私、拾われっこだから」

「仲良いのか?」

「ゴッドイーターになれるのを阻止されかけるくらいには」

 

 そりゃあ良い親父さんじゃねぇの、とリンドウは可笑しそうに笑う。

 神機を格納し、楠木に礼を言って揃いで部屋から出る。

 

「明日はお前のとこと合同か」

「うん。私たちの代は私たちっきりだからね、バディには最低限慣れてないと」

 

 アラガミの大量発生が通常の現代では、ゴッドイーターは常にペア以上のチームが厳命されている。

 例外を上げるとするならここ極東支部の最高戦力であるシンジだけだ。

 

「リンドウ!」

「ゲッ、姉上」

「あ、ツバキちゃん」

「ケイか、任務ご苦労様。リンドウ、ゲッとはなんだゲッとは。報告書、これはなんだ! 文の構成はしっちゃかめっちゃかだし字は間違ってるし、なにより汚くて読めん! やり直しだ馬鹿者!」

「ハイッ! ゴメンナサイデシタ!」

「何をふざけてるんだ! ケイ!」

「ひゃい!?」

 

 リンドウが書いたのだろう、まったくツバキの言う通りに読めない報告書が面前に突き付けられ、リンドウは肩を跳ねらせ怒声に耐えるように顔を中心に寄せた。突然名前を怒鳴られケイも身体を強張らせ情けない返事をする。

 

「リンドウを手伝ってやれ………っと、もうすぐ着くんだったな。リンドウ、やっぱり自分でやれ」

「えー」

「えっホント!? ごめんリンドウ! ありがとツバキちゃん! ばいばい!」

「廊下は走るな!」

「ツバキちゃんには言われたくなぁーい!」

 

 ケイが軽やかな笑い声を上げながら駆けていく。

 よっぽど帰ってくるのが楽しみだったらしい。

 

「ケイの父親と弟が帰ってくるって………」

「………それ、ソーマには言うなよ。弟なんて言ったらキレるぞ。」

「え」

「………まぁ、会えばわかる」

 

 

「ケイ!」

「おかえり、ソーマ! お父さんも!」

「うん、ただいま。ゴッドイーター就任のとき、傍にいれなくてごめんよ」

 

 エレベーターから降りるや否や跳び付いてきたソーマを受け止め、頭を撫でるペイラーの手にくすぐったそうに目を細める。

 

「ううん、平気だった。シン君たちがいたし。同期も良い奴よ」

「……そうかい」

 

 ぐりぐりと押し付けられる頭を撫でながら、ケイはにっこりと笑みを浮かべる。

 男子三日会わざるや、とは言うが、少女も含まれるのだろうか。少し大人びた笑みを浮かべるケイの頭を、ペイラーはくしゃくしゃと撫でた。

 

「お父さん?」

「いや、なんでもない。報告書をまとめて来るよ。二人は部屋に戻っててくれ」

「はぁい」

「わかった」

 

 最後にケイとソーマの頭をぽんぽんと撫で、ペイラーは研究棟へ姿を消した。

 その背中を見送って数秒、ケイとソーマは無言で顔を見合わせ、くすりと同時にひとつ笑みを零す。

 

「行こっか。夕飯、手伝ってくれるんでしょ?」

「………皮むき程度でたのむ」

「ふふっ、はいはい」

 

 

 

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