この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
「これで足りるか?」
「新作のアレンジスクロールと茶髪の小僧に売ったスキルアップポーションの売り上げか。これならば釣りがくる。まだ他にも持って行かぬか?」
「いらない。これ一つだけでも数千万エリスするんだろ? それを足りない分はスクロールの知的財産権で譲ってくれるんだから恩の字ってもんだ」
まだ日が昇る前。ウィズ魔道具店の中に、俺とバニル、店主のウィズに店員のウォルバクさんが揃っていた。こんな時間に対応してくれたのは本当に感謝するしかない。
「あの……カズマさん達には行き先を言わなくて良いですか?」
ウィズが辛そうな表情でこちらへと問いかけていたが、
「構わない。これは俺の役割だからな。あいつらは巻き込めないというか――」
「戦わせたくは無いのだろう? 今回はモンスターでも魔王軍が相手でもなく、人間と戦わねばならない。あの小僧達では荷が勝ちすぎる。例えそれが、あのような存在であろうとな」
バニルがすべてを見透かしたように俺へと語り掛けていた。いつものからかいが無いのは新鮮ではあるが……。
「珍しいな? お前が最初っからまともに話すなんて。今日は大地震でも起きるかも」
「なに、今日の汝の顔を見て、懐かしい出来事を思い出してしまってな。あの時の面白魔道士と同じ空気を纏っておる」
面白魔道士って誰だ?
「バニルさん!? 面白魔道士は止めてください! 私はもう冒険者じゃありませんし……」
そして盛大に自爆するウィズであった。面白魔道士だったのか……?
「氷の魔女などと呼ばれておったが、我輩を倒すために仕入れた魔道具の数々はどこかしらに欠陥があるものばかりであり、それを使った様は正に面白魔道士と呼ぶに相応しい姿であったわ。フハハハハハ!」
そ、その当時から、おかしな商品購入する傾向があったのかあ……。
「あの……やっぱり、みなさんにもちゃんと話してからの方が……」
「それは止めておくがいい、元面白魔道士よ。この凶悪魔道士の見立ては正しい。あやつらに話しているうちに、どうなるかも分らんぞ?」
本当におかしな日だ。バニルが俺の味方してるよ。
「とはいえ、この元面白魔道士も納得はするまい。理由を話してやったらどうだ?」
「分かったよ。じゃあ手短に――」
そろそろ雑談も終わりにして、目的地へと向う前に、
「じゃあ、ウィズ。悪いけど、カズマ達が来たら適当にあしらっといてくれ」
そうしてウォルバクさんと共に目的の場所へと向かう、その時になって、
「汝、アサマユウといったな? 先ほど購入した分のつり銭は用意しておく。事が済んだらまた来るがいい」
「いらねーよ。チップだとでも思っといてくれ。つーか本当に今日はどうした? もしかして、世界中でお前の笑い声が響くイベントでもあるのか?」
「フハハハハ! 悪魔は取引に関しては公正である。それを渡さねばこちらの落ち度となろう。いわば我輩の悪魔としてのプライドの問題なのだ」
いつも本気のドツキ合いをしている目の前の相手は、俺が何を考えているかが分かっているのだろう。その上で――
「そして……、髪の長い方の紅魔の娘には、貴様が隠しておったのを我輩から教えておいた。感謝するがいい!」
この野郎は……!? 本当にブレねえなあ……!
「前哨戦でお前からやってやろうか? ウィズ、もしかしたらもう一個持ってくかも――」
「止めなさい! 時間が無いのでしょう? 早く行くわよ」
ウォルバクさんに首根っこを引っ張られて、そのままテレポートで転移を行う折りに、
「いいか! 絶対てめえをぎゃふんと言わせてやる! 戻って来たら覚悟しておけ!!」
俺の怒号がウィズ魔道具店に響き渡っていたのであった。余談だが、かなりのご近所迷惑であったらしい。
早朝から屋敷の中だけでなく、アクセルの街全体を手分けして探し回っていたカズマ達は息も絶え絶えといった状態になっていた。一旦各自の集めた情報を整理するために冒険者ギルドへと集まったものの……。
「誰かあいつを見たって人はいたか?」
「こっちは全然よ……。アクシズ教会にも行ってみたけど……」
「いや、そこを探す時点でもう間違ってるからな……」
「何でよ!? こないだだってあの教会で、この私に祈りを捧げてたでしょ!」
アクアが言うには、もうアクシズ教徒になるのが決定しているらしいので、教会にいるとでも思っていたらしい。口に菓子の食べかすがくっついていたが、ツッコむ気にもならなかったようだ。
「あの娘を追いかけて行ったのでしょうか……」
「可能性としては高いが……。めぐみん、顔色が悪い。屋敷で休んでいた方が良いのでは?」
「いえ……。私なら大丈夫です……。早く探し出さないと……」
そうは言うものの、心配からくる精神的な消耗に加え、早朝からの捜索で体力も限界へと来ていためぐみんであった。
そんなの中で、何かを思い出したらしいゆんゆんから、
「そういえば……、店主さんのお店でユウさんがバニルさんに色々言われてたけど……」
「あいつが何をしようとしてたって?」
「それが……その、ユウさんとバニルさんしか分からないような会話だったから、私にも何の事だか理解できなくて……。ユウさんが現実で夢を見せているとか、あの娘が周囲を破壊するかもしれないから、杖を取り寄せたとか……」
それで全員が顔を見合わせ、次の行き先が決定した。
「くぉら! この性悪悪魔! うちの子どこにやったのよ! 大人しく出しなさい。出さないと、この店ごと地上から消滅させるわよ!!」
ウィズ魔道具店の入口のドアを破壊する勢いで入店し、そのままバニルへと詰め寄るアクアではあったが……、
「頭のおかしい迷惑教団の御神体と同じ名だけあって、騒々しい輩であるな。店を消滅させれば弁償及び、周囲への被害で慰謝料等が莫大となるがそれでも良いか?」
飄々と捌くバニルではあった。
「バニル、あいつが来なかったか? どこ探してもいねーんだよ……」
「あの小僧であれば、夜明け前に店に来て最高純度のマナタイトを一つ購入していったが」
目を見開いて、全員がバニルに詰め寄っていたのであった。
「それで……どこに行くと言っていましたか? 教えないと我が爆裂魔法で残機を一つ減らします! それが嫌なら素直に吐いて下さい!」
「それとも仮面を粉々に握りつぶす方が良いか? 少しずつひびが入る仮面で残機が減る感触を味わわせてやろう!」
めぐみんは詠唱を、ダクネスは利き手バニルの仮面に伸ばそうとしていたところ、
「二人共ストップ! ここでバニルを倒したら話が聞けなくなるだろうが!」
半ば無理矢理二人をバニルから引きはがしたカズマではあったが、鼻息が荒くなっている状態の自分以外の全員を止めておくのは不可能と判断したのだろう。そのまま、
「あいつの事だから、事情があるんだろうけど教えてくれないか? 手掛かりはここだけなんだよ」
バニルは顎に手を当て、ふうむと唸りながら、
「あやつなら、まだ結婚したくはないから遠くへ旅に出ると言って、我輩と店主に挨拶に来ていた。貴様らによろしくと言っておいてくれと」
「「「「……えっ!?」」」」
意外過ぎるバニルの答えであった。てっきり例の女の子を追いかけて行ったと、そう考えていたはずが、まったく関係のない話題へなってしまったのだから。
「あの小僧、そこの
「バニルさん!? あの話って本当だったんですか!? お、お父さんに聞いてみないと……!?」
「だから、決断するなら早くしろと言ったであろう。あの小僧、基本的に尻には敷かれるが円満な家庭を築ける人間。さっさと既成事実を作れば、それで勝ちである。フハハハハハ!」
全員が信じられないといった雰囲気の中、
「こ、これは……大変よ! つまりユウさんはゆんゆんを……捨てたのね!? そんなのする子じゃないと思ってたのに……」
アクアのみ泣きそうな顔で、愕然としていたのであった。
「ゆんゆん!? どういう事ですか!? 私は聞いていませんでしたが!」
「私だってこの間、バニルさんから聞いたばかりで本当かどうかも分からなかったから……」
めぐみんがゆんゆんに掴みかかり、その深紅の眼を輝かせ、全てを話さなければタダでは置かないといった気迫を見せていた。
「まさか……男に捨てられるなど……。なぜ私でやらんのだ!?」
「お前はもう黙ってろ! この変態クルセイダー!」
ダクネスは自分がやられたかったらしい。カズマはツッコむのも嫌だったらしいが、そうせざるを得なかったようだ。
店のカウンターで成り行きを見守っていたウィズは、どうやってこの中に入れば良いかが分からなくなっているらしい。無言で困った顔をしながら、佇んでいたのであった。そんな半ば思考停止していたのが悪かったのだろう。めぐみんが何かに気付き、
「そういえば、
「ウォルバクさんならユウさんと魔王城に行っていますよ。テレポートで一気に城内までですね」
一瞬にして沈黙が支配するウィズ魔道具店であった。それは人間の形をしている者のみであり、ちょむすけは店の柱で自分の爪を研ぎ、にゃーにゃーと鳴いている。
「このうっかり店主めが……。小僧からは適当にはぐらかせと言われておっただろう?」
バニルが頭を抱えながら、ウィズに落胆したような表情を見せていた。
「あっ……。い、今のはリッチージョークです! 魔王城なんて行くわけはないですよ!」
ウィズは今になって、無かった事にしようとしていたが時すでに遅し。その発言の主を取り囲み、凄まじい形相のアクアが、
「言いなさい、ウィズ! 言わないと今すぐあなたを浄化して、エリスの所に送るわよ……! それが嫌なら今すぐ、この店の一番良いお茶とお菓子を私に差し出して、一から説明しなさい……!」
「たかりプリーストよ。貴様は小僧の行き先を知りたいのか、菓子を食べたいのかどちらなのだ? 後者であれば、あまり期待はするな。この店の赤字は知っていよう」
「うるっさいわね! 両方に決まってるでしょ! そっちこそ余計な嫌がらせはしない事ね。即座に私の退魔魔法が火を噴くわよ!」
喰ってかかる対象がウィズからバニルに変わったアクアではあったが、まったく引く気は無いらしい。
「魔王城に何しに行ったのかしら? 教えてくれたら、リッチーのあなたが天に召された時には、エリスに一緒に謝ってあげるわよ」
「教えてはもらえませんか? お父さんの製作した魔道具を安く卸せるように私から頼んでおきますから!」
めぐみんからの提案にゴクッと喉を鳴らしたウィズであった。ひょいざぶろーの魔道具を安く仕入れられるのは、魅力的らしい。
「頼む! 単身魔王城に行くなど……、何と羨ま……、ではなく、相当な理由であるだろうが、この店の税金の節税方法を教える。それでどうだ?」
労働者の義務とはいえ、自営業者にとって税金は重く圧し掛かる場合が多い。それを少しでも減らせるのであれば、願ったり叶ったりだろう。この店は基本赤字だが。
「店主さん。お願いします! 紅魔の里でも助けてもらいましたから、今度は私が力になりたいんです!」
「ウィズ。こないだバニルにも言ったけど、この店で眠ってる高額商品を大量購入するから、教えてくれねーか? そうしないと、こいつらも納得しないだろうからな」
全員からの熱烈な説得に観念したようなウィズであった。バニルと目を見合わせ、そちらから溜息交じりに、
「仕方あるまい。あの小僧には本当につり銭を用意しておかねばな。釣りを受取らない代わりに、あやつの頼みを聞いたつもりだったのだが……」
バニルが椅子へと腰掛け、カズマ達へ向かって、
「あの小僧が魔王城へ向かったのは、交渉とあの小娘を元に戻せずに封じた場合の安置先として使うためだ。何せ例外でもない限り、破れぬ結界が張っておる。眠らせておくには一番良い場所であろう」
「ちょっと待て! 封印って……。そんなの使えるのか、あいつは……? まともに戦ったら瞬殺されるって言ってたぞ」
「その分析自体は間違ってはおらぬ。あくまで真正面からぶつかった場合ではあるが。あの小僧でも封印する手段は持っておる。貴様らも一度目にしたことはあろう?」
自分達も一度見たことがある封印。それは何だろかと唸りながら思案していたカズマ達ではあったが、
「エギルの木が増殖した時に使った魔法です。エターナルコフィンと言いましたか……。あの魔法は生物に使うと命を奪わずに眠らせておけるそうです。ただ……、封印自体は解けやすいので、そうならない様に……」
魔王城へ安置して、おいそれと手が出せない様にするつもりだと。そう説明したウィズであった。
「では取り寄せた杖というのはデュランダルですか?」
「そうみたいです。自分の魔力を使った後でも撃てるように、最高純度のマナタイトを使うつもりだったみたいですが……」
「何で……何も言わずに……行ってしまったのですか……!」
怒りと悲しみが入り混じった、消え入りそうな声を上げるめぐみんに対し、バニルが。
「では汝に問う、最近小僧と距離が縮んだと浮かれておったネタ種族よ。貴様はあの小娘と戦えるか? 小娘にネタ魔法を撃つのは、自分の手で始末するのと同義だ。貴様にそれが出来るのか?」
「そっ……それは……」
思わず言葉を濁してしまうめぐみんであった。続けて、
「ネタ種族だけではない。勝敗はともかく、この場の人間であの小娘と戦える者はおるか?」
「それは……ユウだって同じじゃないの!? 強いけど、優しい子だもの。あんなに懐いていた娘と戦うなんて……」
「あの小僧、多分に甘い人間ではあるが、覚悟を決めれば戸惑うまい。そうなればどんな手段を用いようとも小娘を止めて見せるだろう」
バニルもカズマ達に対して、全てを打ち明ける気でいるらしい。まだ話を続けて、
「あの小娘は、言わばこの世界の争いの果てに、神の祝福で生まれた厄災である。自身はそれを望んでいなかったとしてもな……」
「何だよそれ……? 神様の祝福で厄災が……、あったな。そういえば」
カズマは一瞬ありえないと思ったようだが、デストロイヤーを思い出して言い直してしまった。あれも例えるなら、技術力を上げるチートという、神の祝福の賜物である。
「私には良くは分からんのだが……? あの娘がノイズの改造人間だとは聞いていたが……」
「ふむ。日夜、その体を持て余している娘よ。あの小娘は貴様よりも、凶悪魔道士やそこの昼夜逆転小僧に近い存在である」
バニル曰く、日本人に近い存在らしいが、アクアが今にも殴り掛かりそうな雰囲気でもって、
「この根性捻くれまくったヘンテコ仮面! この私があんな年端も行かない女の子をここに送るわけないでしょ! 出鱈目言わないでよ!」
「小娘はな。だが……、その父親か母親はどうだ?
カズマとアクアは固まったまま、冷や汗を垂らして小刻みに震えていたのだった。
「ちょっと待て……。あの娘は、親のどっちかが日本人だってのか!? だったら……、あの髪と瞳の色は……」
「貴様の想像している通りである。あの小娘はベルゼルグ王家と同じく、親の能力を受け継いだ人間。元々、凄まじい能力を持っていたにも関わらず、そこから改造手術なんぞを施したため、ニート神でも倒せぬ存在に成り果て、あの腕輪のせいで自我すら制御されておる状態である」
バニルの例えた神の祝福とは、ノイズの技術と女の子自身の受け継いだ能力の両方を指している。それが二つ合わさったために、あれほどの力を持つに至ったと。
「ユウは、全て知っていたのですか? あの娘の出自も……。その上で、一人で向かったのですか……」
「その通りだ。あの小僧は勘づいておった。暴走については無茶な改造が祟ったものだと勘違いしていたようだがな」
バニルの説明はそれだけでは終わらず、
「貴様らに言っておくが、この件は誰が悪いというわけではない。小娘も生まれた時代と場所の運が無かった。そうでなければ、高名な魔法使いとして一生を終えていたはずであろうし、人間も魔王軍に対抗する戦力が必要だった。ノイズはもう存在せず、その責を負う者はおらん。……おおっと、責を負うのであれば、ここに人間を送り込んでいると抜かす自称神がおるな。そやつが元凶と言えば元凶か? そうではないか、たかりプリーストよ」
「わ、私? ねえ、カズマさん!? 私は別に変な事してないわよね!? こんなの神様だって予想できるはず……」
カズマは今までのアクアの行動を思い返していた。そして……。
「アクアについては後で反省させるとして、あいつは、あの娘をどうにかできるのか? 封印できるって言っても……」
「ならば、我輩が占ってみるか? その上で、貴様らが行動を決めても問題はあるまい」
そうしてバニルは水晶玉を取り出し、テーブルに置いて手をかざすと映像が浮かび上がり、それを全員で魅入っている。
そこは魔王城近郊の荒野。ウォルバクが少女を転移させた場所からはそう離れてはいない場所だった。地面には無数のクレーターに雷の魔法を使った影響から雨も降りしきり、死の大地と呼ぶに相応しい様相となっている。
その中に対峙する少年と少女。戦いは終わっていたようで、少女は氷の柩に納められ、目を瞑り、まるで眠っているような雰囲気となっていた。対する少年は……。
――少女の腕輪を破壊しようと試みた結果だろうか。
――左腕が肘から欠けている。
――右足は血に染まり裂けている。
――左目も潰されて光を失っている。
――相棒ともいえる杖もコアから全壊し、死を迎えている。
そして……、
――胴体には右肩から左わき腹にかけて、斬撃を喰らった様な大きな血染めの傷。致命傷となっているものがまざまざと刻まれている。
糸が切れたようにその場に崩れ落ちる少年と、そこへ漸く駆けつけたカズマ達は即座に蘇生を試みるが、
「――何で!? 体力も魔力も生命力も全然ないじゃない!? これだと蘇生なんて……」
女神であっても蘇生不可能な惨状に成り果てた少年の前に、ただ立ち尽くすカズマ達であった。
「あの小僧、あれだけ圧倒的な戦力差で相討ちまで持って行ったか。ああ……、そこのプリーストのセリフはわざわざ我輩が声色を真似たものだ。迫真の演技であっただろう?」
「う、嘘です……。こんなの……信じません……。信じられるはずが……」
めぐみんは眩暈からその場に倒れそうになってはいたが、何とか堪えてバニルを睨みつけていた。
「あやつは見通し難いが、これは数ある可能性の中でも、貴様らや小僧の知己が間に合わなかった場合の未来である。だが、今のままではこうなる可能性は極めて高い。あやつも念のため応援を頼んだとは言うものの、到着まで時間が掛かるようだ。それでも世界を滅ぼしかねない存在を単騎で封印したのだ。大殊勲と――」
「少し黙りなさい……! めぐみんも少し座わって。力を抜いて楽にしていると良いわ」
「迷惑プリーストよ。貴様らの崇拝する神とやらは、小僧も小娘も救えるか? この店のポンコツ店主ですら、かつて仲間を救うために人外に成り果てるという代償を払っておる。むしろ、あの結果は自然という物だろう。何の代償も払わずに両方を救おうなど、虫のいい話でしかあるまい」
バニルの言に反論できないカズマ達であった。少年を救おうとすれば少女を亡き者にし、少女を生かしたまま眠らせようとすれば、少年が無残な姿に成り果てる。今のままではそうなってしまうと。
「よく考えるがいい。貴様らが何もしなくとも、この世界は破滅から救われる。目を閉じ、時を待てば全てが元通りだ。貴様らが無暗に傷つく必要はどこにも無いぞ?」
苦虫を噛み潰したような顔の全員ではあったが、バニルに何も言い返せずに、そのまま屋敷へと戻って行ったのだった。
「ここに招かれた人間なんて今までいたかしら? けど、帰りは保証しないわよ」
「……ウォルバクさん、罠とか張ってたらシャレにならないので、そういったフラグは立てないで下さい。けど、そっちがその気なら城の内部から崩壊させてやります」
「あなたが言うとそれこそシャレにならないから、やめて欲しいわ……」
ここは魔王城の内部。ウォルバクさんにテレポートで魔王城内部に転移させてもらい、薄暗い廊下をカツカツと足音を立てながら二人で歩いていた。途中、魔族らしき人達にも遭遇したが、ウォルバクさんと歩いているのが効いたのだろう。特に戦闘になる事も無く、魔王の玉座へと辿り着いたのであった。
「ウォルバクか……。城に戻ったという事は、仕事をする気にでもなったか?」
「あなたの娘から、何も聞いていないわけではないでしょう? 今日はお客さんを連れて来たわ」
魔王は一見すると白髪の大柄な老人であった。その髪の間からはあのお姉さんとは違い二本の立派な角が生えている。だが対峙しただけで分かる威圧感は正に魔王と呼ぶに相応しく、前に出るのを躊躇してしまう何かを感じる。
「お初にお目に掛かります。本題の前に、これはつまらないものですが、どうぞ……」
手に持っているのは、アクセルで手に入る一番高級な紅茶と有名なパティシエの作ったケーキである。
「……ワシも長い事、魔王をやっておるが、手土産を持ってきた人間など初めてだ……。大体が剣を抜き、魔法を放つ準備をして、対峙するのでな」
「別に毒入りでも何でもないですから、安心してください。もうご存知かと思いますが、そちらに依頼したい事があります」
そうして、本来的である筈の……、別に個人的には敵対する気は更々なかった魔王に、自分の考えを説明していた。
「……ふむ。その兵器を封印した後は、この城で監視しておけと。確かに悪くはない案だが……」
あちらとしては気にかかる部分がある様だ。
「それではワシらにとって、メリットはあまりないと言える。交渉材料は不足していると思わんか? 面倒な兵器をここで監視しておくなど、ワシらにとっても厄介事でしかない」
「まず一つ。封印に関しては、というか、あの娘を相手にするのは基本的に俺だけです。その間の戦闘記録は好きに取れば良いですよ。もしかしたら、弱点が見えてくるかもしれませんので、俺が失敗した場合は、その弱点を突いて倒せばいい。いきなり得体のしれない相手と戦うのは、そちらにとってもリスクが高いでしょう?」
顎に手を当て、少しはこちらの言い分を聞いてくれそうになった様である。
「二つ目。あの娘はいつまでもここに置いておくつもりはありません。俺の本業の連中が来るまで一時的にここに置いてもらうだけです。それでしたら、そこまで面倒ではないですよね?」
魔王城はあくまでこの世界にいる間の封印場所であり、あとはあちらに任せるつもりだったりする。だが、まだ踏ん切りが付かないといった魔王だった。仕方ないだろう。下手をすれば大勢の部下を巻き込んでしまう可能性も否定できない。魔族の長としては簡単に首を縦には振れないはずだ。
「三つ目。これは直接関係ありませんが……」
それに首を傾げる魔王とウォルバクさんであった。
「これに承諾してくれないと、ウィズ魔道具店は魔王城の一角を本店にして、ウィズがそこに居座ります」
「「……へっ!?」」
素っ頓狂な声を上げる魔王と自称女神様。その意味をよく理解していなかったようだ。
「ウィズはいつも悩んでいました。なぜ自分の店が赤字なのかと……。そこで俺が相談に乗ったわけですが、アクセルは駆け出しの街ですから、高級な魔道具なんて売れるはずはありません。ですが、ここなら、魔王城に乗り込めるくらいの冒険者ならウィズの店で扱っている商品だって売れるだろうと、アドバイスしたわけです」
「き、貴様!? そ、それでウィズは何と……!?」
魔王さん、小刻みに震えながら脂汗ダラダラ、そして視線が定まらない感じで俺を見ている。
「言われてみればそうですね! かつての仲間との思い出がある街を離れるのは寂しいですが、バニルさんとの約束の為です。アクセルは支店にしてバニルさんを店長にしましょう。……と、結構乗り気でいましたが。……あっ、これは嘘を付くとベルが鳴る魔道具です。鳴らないので、嘘じゃないのは分かりますよね?」
そのベルを見せて発言の裏付けを行い、嘘ではない事を証明すると、
「でもでも、今ならまだ間に合うかもしれません。聞くところによるとウィズって昔、魔王城のお宝を窃盗――」
「分かった! その要求は呑む。だからウィズを説得してくれ!」
ふっ……! 勝った。しかし、魔王ですら恐れるウィズの所業ってどんなんだったんだ? 別に戦ったわけでもないのに、ここまで怖がられているとは……。
半ば涙目になりながら、交渉を受け入れてくれた魔王さんと、その様子を見て、まるで悪魔でも見るかのように冷たい目をして後退っているウォルバクさんであった。すると、
「お父様……、こっちの雑務は終わったわよ!? 何でここに居るのよ!? 結界が破られたわけでもないのに……」
「あっ……。お姉さん、お邪魔してます。ここにはウォルバクさんに連れて来てもらいました。けど……」
今の魔王の娘さん。魔族の年齢的に年頃と言えなくないはずだが、髪の毛はボサボサ、格好はラフ、どことなく疲れた様な表情で、どう見ても外で会った時とはかけ離れていた姿であった。
「どうして目を逸らしているの!? 私そんなにだらしない格好だった!?」
「ここは見なかった事にするのが、優しさかなあ……と思いまして……」
その一言でお姉さん、顔を真っ赤にしながら大慌てで部屋に戻って行きました。
「貴様が、娘が話していた人間だったか……。だから普段から身だしなみは整えておけと言っていたのだがな」
何処の父親も娘を心配するのは変わらないらしい。ともかく、そのまま魔王城で詳細な打ち合わせを行っていたのだった。
「私、魔王城まで行ってくるわ! ウィズならもしかしたら、あの邪神みたいにテレポートで行けるかもしれないから」
屋敷にて、アクアが決意に満ちた表情でカズマにそう告げると、
「お前……、その割には足が震えてるし、泣きそうになってるし、魔王城に行って何するつもりだよ?」
「こっ……この私の大いなる力で……二人を……助け――」
「どうやって?」
容赦のないカズマの質問についに泣き出しながら、
「カズマさーん! どうしよう!? ねえ、私、悪い事なんてしてないわよね!? こうなったのも世間が悪かったのよね!? そうでしょう?
「……昔、チート渡して滅んだ世界もあるってエリス様が言ってたけど?」
「だってだって、そうでもしないと人間以上の存在と戦わせるなんて無理なんだもの! 他にどうしろって言うの!?」
いつもの通り、大泣きしている女神様であったが、周りは……、
「私は行きますね。爆裂魔法しか使えませんが、それでも出来る事はある筈です。一度紅魔の里に行けば、テレポートで魔王城前まで行けますので。紅魔族の中にはピクニックの為に、その場所を登録している者もいますから」
「めぐみん、紅魔の里までなら、私がテレポートで行けるから、一緒に行こう!」
紅魔族の二人は魔王城まで行く気でいるらしい。止めても無駄だと、その目で訴えていた。
「二人が行くのならば、壁役は必要だろう? 私も同行しよう。あの娘の魔法ならば、今までに経験した事のない苦痛を味わえるかもしれん……。くっ……!」
どちらが目的かは分からないが、ダクネスも付いて行く気らしい。拳を握り、目を輝かせ、頬は赤くなってはいるが……。
「お前らな……。これは、苦労しても報酬は出ない。相手は下手すれば魔王だって軽く倒せる規格外だ。そんなの相手で無事で済むと思ってるのか?」
カズマの言い分は当たり前である。普通の人間なら、躊躇して当然の選択だ。しかし、全員引く気は無いらしく、
「ああ……! もう、しょうがねえなあ……!」
半ばヤケクソ気味ではあったが、自分がいないと、この面子が何やらかすかといった心配もあるのだろう。結局、カズマ自身も同行する破目になってしまったのであった。
今回バニルが占ったのは、数あるルートのバットエンドだと思ってください。
もしかしたら主人公は、Fateよろしくエリス道場にでも送り込まれて説教されてるかもしれませんが。