この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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魔王城の災難

カズマは悩んでいた。みんなの勢いに押され、”しょうがねえなあ!”と言ったものの、今回ばかりは、策が思いつかない。その原因の一つはバニルの占いである。先日、自身も対峙した少年。自分と戦った時と違い、消耗もしていない全開状態であるにも関わらず、それをあそこまで満身創痍にした上で倒す相手をどうすれば良いか。それだけを考えていた。

 

「どうしたもんか……」

 

トボトボと歩いていると自然と足が向いてしまったのは、先日全てを知ったウィズ魔道具店だった。いっそ、バニルの見通す力で攻略法を聞いてみるのもありかと思い、ドアノブに手をかけると、

 

「あら? カズマさん、いらっしゃいませ。浮かない顔ですけど……」

 

「ああ……。あいつを追いかけるのは良いけど、どうすればってさ。バニルは?」

 

「バニルさんなら、高額商品の整理をしていますよ。呼んできますか?」

 

ならそのうち来るだろうと、お茶でも飲みながら待っている事にしたのだが、

 

「佐藤和真、どうしてここに……?」

 

「お前こそ何でアクセルにいるんだよ?」

 

ドアを開けて入って来たのは、ミツルギキョウヤであった。アルカンレティアで別れ、王都へ行くと言っていたソードマスターがここにいるのは何故かと思わず考えてしまう。

 

「そう不思議そうな顔をしないでくれ。王都で販売しているマジックスクロールが品切れでね。同じ物を売っているこの店に来ただけさ」

 

ミツルギのパーティーはソードマスターの彼の他には、ランサーと盗賊の少女のみで魔法を使える者がいない。それをスクロールで代用していたらしい。本人が言うには、やはり回復が出来るプリーストや後衛で魔法を撃てるメンバーを欲しているらしいが、なかなか集まらないのだそうだ。

 

「そういえば、彼は……?」

 

「ん……。あいつなら――」

 

そうして、アルカンレティアで別れた後の経緯について説明するカズマであった。ミツルギにとっても意外な内容だったようだが、それを一笑に伏したりはせず真剣に聞き入っていた。

 

「そうか……。あの子にはそんな事情が……」

 

一瞬目を閉じたミツルギが、再び目を開けるとカズマを見据え、

 

「僕の力が必要なら言ってくれ。彼には紅魔の里で世話になったしね。なんなら同行しても構わないかい?」

 

「良いけど……、お前、里であいつにコテンパンにされたんじゃなかったか?」

 

紅魔の里での調べ物の後、時間の許す限り剣の打ち合いをしていたが、グラム無しでは禄に有効打も与えられずに終わったらしい。

 

「そうだった……。確かに完敗だったね。最初は僕と打ち合うのが怖いからかと思っていたけど、僕の持つグラムを警戒していただけだったと……、そう見せつけられたよ」

 

「ある魔王軍元幹部に言わせれば、本気のあいつは魔王と同格らしいぞ。もしかしたら、魔王を倒した勇者なんて呼ばれるのはあいつなのかもな。けど……」

 

彼が向かったのは確かに魔王城だが、それは魔王を倒すためではなく協力を仰ぐため。本来敵であるはずの存在を頼るとは、そこまで切迫している状況なのかも……、との一抹の不安もあり、そこへ行くのを躊躇っている自分もいるのは良く分かっているカズマであった。

 

「あいつも結構、損な性格してるよな……。もっとうまく立ち回れそうだけど……」

 

ふと、店のカウンターで売り上げの確認や店内の商品整理をしていたウィズだったが、おかわりのお茶をカズマ達に差し出し、

 

「私も最初はカズマさん達に、この件を話してからの方が良いと言いましたけど、理由を聞いたら止められなくなってしまいまして……」

 

カズマとミツルギがお互いに目を合わせ、何の事だといった感じでウィズの方を向いて、

 

「あの時、ユウさんは――」

 

 

 

 

 

 

 

「俺の両親が殉職してるのは、知ってるだろ? 犯人は有体に言うとテロリストって連中だった。そいつらは何の因果か、俺が捜査官になってから自分で捕まえる破目になっちまったんだけどさ。最初なんて、はっきり言えば殺してやりたかった」

 

「当然であるな。それは人間にとっては真っ当な感情である。貴様の職務上、してはならぬだろうが」

 

それに関しては、あちらのみんなのおかげで抑える事も出来た。今、問題なのは……。

 

「そいつらはまだ良い。自分のやってることが悪事だってのも分かってたし、今は裁きを受けている。こっちとしては迷惑どころじゃねーが」

 

魔王軍現幹部と元幹部が一言も喋らずに聞き入っている。続けて、

 

「けど、あの娘は違う。やりたくてやったわけじゃないのに、封印される前は相当な人間を手に掛けてしまったはずだろ?」

 

それに対し、悲し気な表情を浮かべるウォルバクであった。かつて対峙した時の現地の惨状を思い出したのだろう。

 

「今となっては、それを知る人間もいないし裁かれる事は無いかも知れないが、本人はずっと覚えてる。だよな、バニル?」

 

「その通りだ。腕輪の思考操作が一時的に外れた後の小娘は、絶望しておっただろう。自身がこの世から消え去りたいほどに……な。それを貴様がいらぬ希望を持たせてしまったようだが」

 

前にバニルが言っていた、俺があの娘に『夢』を見せているというのは間違いじゃない。もしかしたら、自分はこのまま普通に暮らせるのではないかと、ほんの少しでも思わせてしまっていたのだから。おそらくアルカンレティアで魔王の娘の攻撃を避けようとしなかったのは、わざとだろうと考えている。

 

「もしも今、あの娘が誰か一人でも傷付けたら、その人の家族や友人、仲間が昔の俺を同じ感情を向けてしまって、下手すれば弔い合戦で酷い事になるかもしれない」

 

それも当然の話だ。それでなくても驚異的な存在を放って置くわけには行かなくなり、もっと多大な血が流れる。

 

「そして、小娘がその怒りと憎しみの感情を向けられれば、小娘自身が自分を許せなくなろう。例え、元に戻れたとしてもな。貴様には、そういった確信があるのだろう?」

 

「ああ……。普通に話したのは本当に少しだけど、優しい娘だよ。だから、そうなる前に……、誰か一人でも傷付けちまう前に、何としても止めてあげないと……さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません……。やっぱり止めるべきだったかもしれません。私のスキルで無理矢理にでも……」

 

「気にすんなって! そうやって行ったのはあいつだからな。こっちの事も考えろってんだ」

 

ウィズも目を伏せ、申し訳なさそうにしていたが、カズマにとって止めても止まらないのは承知の上らしい。

 

「……ったく。そんなの聞いたら、どうにかするしかねーだろうが!」

 

「そうだな……。しかし、どうするつもりだい?」

 

「お前も考えろ。俺は最弱職の冒険者だ! そっちは上級職で、『魔剣の勇者』だろ」

 

十数分、二人でうんうんと唸っていたが、それだけでは案なんてそうそう出るものじゃない。バニルの占いの結果をミツルギにも伝えたが、それでどうなるものでもない。そんな中、

 

「あの映像は私も見ましたけど、どうやって封印したのでしょうね? ユウさんも満身創痍でしたけど、周りの状況から推測すると、長期戦になったようにも思えますし……」

 

いつの間にかウィズも近くによって、一緒に考えていたようだ。

 

「あいつは、相手が圧倒的に格上でも立ち回るのがうまいんだとさ。前にミツルギと剣の勝負した時だって――」

 

そこから言葉が続かないカズマであった。確かミツルギと剣で勝負した時は、相手が疲れ果てて剣を振るえなくなるまで逃げ回っていた。

しかし、あの女の子は違う。あの娘には”魔力切れ”が存在しない。ユウの言う通りなら、例の腕輪が周りから魔力を掻き集めているのだから。

 

――けど……、だったら何で長期戦になった? 魔力切れが無いんだったら、間断なく攻め続るだけで良いだけの筈なのに……?

 

カズマの中に生じた小さな疑問。女の子には魔法使いの欠点はないはず。だというのに……。

 

――だとしたら、どうして前に戦った時に爆裂魔法を一発しか撃たなかったんだ? めぐみんに相殺されたからか? いや、あっちはめぐみんが魔力切れになっていたのは分かるだろう。それにあの時……。

 

一瞬ではあるが、女の子は元に戻っていた。そして、ユウが近づこうとしても攻撃する素振りは見せていなかったのをカズマは覚えていた。

 

「……もしかしたら、何とかなるかもしれない……」

 

カズマの口から出た一言に、期待に満ちた目でそちらを向くミツルギとウィズであった。

 

「もしも予想通りなら、あいつはやっぱりとんでもないな……。戦いながら相手を分析して、どれだけ劣勢でも諦めないでやってのけたんだからさ」

 

「それなら早く追いかけて教えないと駄目だろう? 今すぐにでも――」

 

これから現地へ向かって参戦しようとの意見のミツルギに対し、

 

「いや、確実に作戦を遂行するには、色々足りないのがある。だから――」

 

一通り話し合いを終えた後、ミツルギと共にメンバーがいるであろう冒険者ギルドへと向かうのだった。そこにいるアクア達に作戦について話し終えると、

 

「それで大丈夫なの? カズマさん……、もしかして私の為に頑張って考えてくれたのね!」

 

「別にお前の為じゃないからな? 一度”お兄ちゃん”って呼ばれたら、その時点で俺の妹だ。妹のために力を尽くすのが兄ってもんだろ!」

 

「カズマさんは、あの娘に”お兄ちゃん”って呼ばれてないわよ……」

 

「うるせー! これから呼ばれるから良いんだよ! これで血の繋がらない妹が二人だ!」

 

カズマとアクアのしょうもない会話を、これ以上聞いても埒が明かないと思ったのだろう。めぐみんから、

 

「では、明日までは各自で動くという事で良いのでしょうか?」

 

「ああ。移動はゆんゆんとウィズがいればどうにかなるだろ。魔王城前までの転移はウィズが専用のテレポートのスクロールを作っといてくれるってさ」

 

ギルド内で打ち合わせを行い、一日だけ各々で動くことになった面々は、

 

「では私はウィズの店に行くとしよう。アクアもだろう?」

 

「そうね。カズマさん、私達がいないからって、夜遅くまで飲んで朝帰りとかしちゃ駄目よ? アイテムの準備は、ほとんどカズマさんの役目だからね!」

 

そこまで自分は心配されないといけないのかと、内心溜息をつきながらではあるが、分かったと言い二人を見送った。

 

「ではゆんゆん、私達も行きましょう。時間もあまりありません。速やかに済ませましょう」

 

「うん! 私達も行きますね。カズマさん、また明日会いましょう」

 

元気よく目的地に向かっためぐみんとゆんゆんの姿が見えなくなったのを確認した後、

 

「さて、バニルの所に行って、約束を守らなきゃな……」

 

カズマは自身の役割を果たすべく、ウィズ魔道具店に向かって行ったのだった。だが、その夜は久々に羽根を伸ばし、ギルドでこれからの事を熱く語らい、調子に乗ってそこにいる冒険者に奢ってしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

拝啓。父上様、母上様。晩春の候を如何お過ごしでしょうか? あの世に季節があるかどうかは分かりませんが、こちらは過ごしやすい気候となり、日々快適に過ごしております。あくまで気候の話です。それは良いのです、それは……。だがしかし……、

 

「お……お姉さん? この状況はおかしくないですか?」

 

「細かい事は気にしない。どう? 少しはキュンと来た?」

 

「どちらかというと、命の危険を感じそうなシュチュエーションだと思います。特に相手がお姉さんだと」

 

魔王さんと例の娘に対する計画を詰めた後、とりあえず野営でもと思い、外で寝ようとしたのだが城の客間を用意するといった提案を受けたので、その言葉に甘える事にした。

俺は本当に客人扱いらしく、丁寧にもてなされてその晩は安心して眠っていたのだった。部屋の案内人が死神っぽい鎌を持ったアンデッドではあったが、何とかゴッドブローを打ち込みたい衝動を抑えたのは別の話だ。

魔王城で一泊した次の日の朝には、あの娘の動向を探ろうとしたが、そちらは魔王さんの方で手を打っていてくれたらしい。曰く、

 

「単身でここを訪れた勇気と度胸に敬意を表して、最低限の情報は提供してやろう」

 

とのことだった。現在、目標はゆっくりとこちらへ近づいているらしい。ノイズの研究者の日記によれば、元は魔王城の結界を破壊する目的での改造だったらしいので、それを最優先で動くプログラムになっているのかもしれない。

もう少し、あの娘がここに接近するまで英気を養おうとしていたのだが……、何故か……。

 

「お姉さん、壁ドンは男の方がやるもんです……。さっき言った通り、相手がお姉さんみたいな女傑だと迫られてるってよりは、襲われてるって感覚の方が強いですから! はっきり言っておっかないです!」

 

「じゃあ変わる? 私は別に構わないけど……」

 

「絶対やりません。離れて欲しいです」

 

俺は魔王の娘さんに壁際に追い詰められ、彼女は両手を壁にドンと押し付けていたのだった。

 

……俺って、戦いに来たはずだよな!? 何でこんな状況になってるんだ!? 

 

「ええっと……。そろそろ仕事しないといけないんじゃ……? 城だと事務仕事があるとか言ってませんでしたか?」

 

「今は休憩時間だから、大丈夫よ! だから続きを――」

 

「どっかの神様みたいなこと言わないで下さい!」

 

咄嗟に口に出してしまった言葉ではあった。

 

「何よ、神様って? あなたそんなのに会った事があるの? ああ……、ウォルバクね」

 

「違いますよ。何でこんなのが出たんだろ? 自分でも分からないです……」

 

一瞬、何かを思い出しそうになったような感じだったが、危機的状況には変わりない。どうにかこれを切り抜けるには……。

 

「ねえ……。もし抵抗しなかったら、私が協力してあげましょうか? 何も一人でやることは無いでしょ。交換条件って事で」

 

耳元には、ある種の悪魔の囁きが聞こえていた。受けたとすれば、俺は色々失う破目になりそうだが……。

 

「遠慮します。お姉さんだと、あの娘を殺す気で行くでしょう? 俺にそんなつもりは無いですから」

 

「……本当に甘いわね。こうなっても、まだその気はないの?」

 

「当り前です。あの娘は目覚めてからは、誰にも被害を及ぼしていませんから。今、この時で誰かに裁かれる謂れは無いですよ」

 

それでお姉さんは引いてくれるかと思いきや。

 

「だったら、それ抜きで続きをしましょうか。どの道、明日はどうなるか分からないしね」

 

お姉さんがニッコリと笑ってはいますが、交渉はまったく、全然、これっぽっちも意味の無い物だったらしい。こうなったら拘束して、お姉さんの部屋に放り込んでおこうと準備していたのだが――

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが魔王城か……」

 

カズマ達の目の前に広がるのは、漆黒の居城。テレポートのスクロールで到着し、ほぼ全員が唾を飲み込み、緊張している最中、

 

「ああっ……! 魔王城ですよ! カズマ、やはりカッコいいです! 魔王城はこうでなくては!」

 

めぐみんのみ、まるで観光地にでも来たかのようなはしゃぎ様で、魔王城をキラキラした目で見つめていたのだった。

 

「それでどうするの、カズマさん? ユウは中にいるでしょ? 私の結界破りの魔法だと、幹部を後一人か二人倒さないと、ここのは破れないわ」

 

「あいつの事だから、ここで待ってればその内に出て来そうだし、キャンプでもしながら待つか……」

 

「い、いいのか? それで……。ユウ自身は敵対するつもりは無いだろうが、幹部を何人か倒しているのだ。しかも今は敵の手中にいると言って良い。もしかしたら、残りの幹部と軍勢に取り囲まれ、抵抗もできずに蹂躙され……、くっ……! カズマ、早く行こう! 行って加勢しないと、手遅れになってしまう!」

 

ダクネスは色んな意味で良からぬ想像をしてしまったらしいが、ため息をつきながらカズマが、

 

「ウォルバクさんも一緒だし、案外……来賓待遇で、もてなされてるかもな。あれで、あいつは狡賢い部分もあるから、うまくやってるだろ」

 

心配無用とのカズマの意見ではあったが、周りとしては敵陣の真っただ中にいる様な物なので、どうしても気になってしまうらしい。それを感じ取ってしまったのか、

 

「分かったよ! 千里眼で見れる場所は見てみるって! それで見つからなくても文句言うなよ?」

 

渋々ながら千里眼を発動し、城の外から見える範囲で仲間の居場所を探っていると、すぐに、

 

「……いた」

 

カズマのたった一言で、全員が彼に詰め寄っていたのだった。

 

「無事ですか!? 戦ってはいませんか? だとしたら早く結界を破らないと……」

 

「ゆんゆん、ライト・オブ・セイバーと私の魔法で何とかやってみましょうか? もしかしたら、どうにかなるかも……」

 

カズマが説明しようとしている周りで、どんどん話が大きくなってしまう気配がビンビンしていた。

 

「待てって! 怪我してる様には見えないけど……?」

 

「どうしてそこで黙るんですか!? 不安になるじゃないですか!」

 

ゆんゆんも気が気でないらしい。よく見ると興奮しているのか、眼が輝いている。

 

「あのお姉さんが……、魔王の娘があいつを壁際に追い詰めて、何かを話してるような……」

 

「「「へっ……!?」」」

 

その様子を聞いた、この場にいる数人は直感した。

 

(あの女……。緊急事態だというのに、けしからん事を企てていますね! 考えれてみれば当然でした。邪魔が無いのですから……)

 

(ユウさん、誘惑なんかに負けないで下さい。今、私が助けますから……!)

 

決意に満ちた表情となっためぐみんとゆんゆんであったが、ネタ魔法使いと呼ばれている方から、

 

「カズマ! 持ってきたマナタイトを一つ渡して下さい! それだけなら支障はありませんよね?」

 

「お、お前……何する気……だ!?」

 

「これから目の前の城に爆裂を撃ち込みます! そうすれば、ユウだって出て来ます。なにせ魔王城を壊されたら困るのですから、真っ先に飛び出してくるはずですよ!」

 

「ちょ……待っ――」

 

カズマの必死の制止を振り切り、ウィズ魔道具店で購入した最高純度のマナタイトを、半ば無理矢理な強引さで道具袋の中から奪い取っためぐみんであった。

 

「ユウさん。教えてもらった魔法、今こそ役立てます。見ていてください!」

 

ゆんゆんも詠唱を始め、手の平の上に数個の火球を作り出していた。お互い目を見合わせると、

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

「『ヴァリアブル・ファイアボール』ッ!」

 

爆裂魔法は轟音と閃光を放ちながら、ファイアボールはその表面に膜状の魔力を纏い、それぞれの魔法が魔王城に向けて放たれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドオオオオオオオオオオンッ!!

 

魔王の娘さんにバインドをかけようとしていた、丁度その時、まるで地震でも起こったかのような、地鳴りと爆音が城内に響き渡っていた。もしかしたら、あの娘が予想よりも早く到着してこの城の結界を破ろうとしているのか……。そう考えたのは俺だけでは無かったようだ。

 

「随分と早いお着きね。まずは状況確認からしないと……。誰か! 報告をして!」

 

お姉さんが先ほどまでとうって変わり、指揮官としての顔で周りの魔族に状況報告を受けていた。

 

「はっ! それが……」

 

報告に来た魔族はどこか戸惑っているような感じだ。というか、ありえない物を見た様な……?

 

「いいから話しなさい。まずはそこからよ」

 

「す、すいません。城に撃ち込まれた魔法は二種類。一つは爆裂魔法」

 

やはり、まずは最大威力で攻めて来たか……。予想はしていたが。

 

「そして、もう一つは……ファイアボールです! ですが……何故か城の結界を通り抜けて来ます! 結界が破られたわけでは無いのですが……。原因は不明です!」

 

……結界を通り抜けるファイアボール? 俺、あの娘の前で多重弾殻弾頭の射撃を見せてないよな? つーことは……。うわっ!?

 

「ごめんなさい。多分、その襲撃者は俺の知り合いです。本当にごめんなさい。ちょっと外に出て、そいつらと話してきます。それと、できれば穏便に済ませてはいただけませんか?」

 

「何となく分かったわ……。然したる被害も無いようだし、ちゃんと止めて来なさいね?」

 

頭を抱えるお姉さんに、はい……と返事をして申し訳ない気持ちで縮こまりながら、魔王城の外へと向かうと予想通りカズマ達の姿があり、俺としてもこれから魔王側と一悶着あるのはまずいと思い、強い口調でもって注意しようと、

 

「お前ら! 何やって――」

 

「「…………」」

 

そこには無言であるにも関わらず、鬼と見紛う程の威圧感を纏った深紅の瞳の二人がおりましたとさ。

 

 

 

 

 

 

十分後。

 

「この度は、私めの勝手な行動で、皆様に対し、多大なるご心配とご迷惑をおかけした事、心の底より反省しております。どうか平に、平にお許しください……」

 

「……黙って行方を晦まして、どれだけ探し回ったか少しは考えて下さい!」

 

「そうですよ! でも無事でよかったです……。もし何かあったらどうしようかと……」

 

目の前にはめぐみんとゆんゆんが仁王立ちで、その瞳を恒星の如く輝かせたまま、お説教を俺に対して行っていたのであった。

 

 

 

 

その頃、魔王城の城内では……。

 

「あ、あの冒険者って、お嬢さんと戦って生きてるヤツだよな? そんなヤツを……」

 

「ああ……。DOGEZAさせてやがる……!? あの紅魔族の二人……、もしかしてヤツ以上の……!?」

 

「おそらくな……。さっきの魔法も爆裂魔法と、良く分からん魔法だった。ただもんじゃない事だけは確かだ」

 

窓からこちらの様子を覗っていた魔族達が、土下座をしている俺を見て、変な噂話をしていたらしい。

 

 

 

「と、ところで、皆様はどうしてこちらに? で、出来れば俺としては、大人しく戻って欲しい――」

 

まだ敬語が抜けない俺ではあったが、ここに居させるのは危険どころの話では無いので、できれば帰って欲しいのである。

 

「はあ……。お前な……、一人だと、どうしたって失敗するからこうして来たんだろうが!」

 

「僕も微力ながら力になろう。その為に来たのだからね」

 

カズマはともかくミツルギまで来てくれたのは嬉しいが、これは目の前の城を攻略するより大変かもしれないのに……。

 

「もしかしたらかもしれねーが、お前が無茶する必要も無く、あの娘をどうにかできるかもしれないからな。俺達だって勝算も無いまま来たわけじゃない!」

 

カズマが力強くそう断言していた。今までで考えれば、かなり珍しい事例である。すると、城の中から出てきた人影がこちらへ近づいて来て、

 

「話は済んだ? まったく……あのまま攻撃され続けたら、こちらも相応の戦力を出すところよ。もう少し良く考えてから行動しなさい」

 

「ご迷惑をおかけしました。お姉さん、俺はこちらに合流します。泊めて頂いてありがとうございました」

 

「仕方ないわね。折角あともう少しだったのに……」

 

何がもう少しだったのかは知りたくはない。あのままだったら、拘束して動きを封じて親に文句でも言いに行くところだった。

魔王の娘さんが少々むくれながら、城へ帰ろうとしていた矢先、肩を叩かれたのでそちらを振り向くと……、

 

「んっっ……!?」

 

その光景で俺だけではなく、その場の全員が固まっていた。そして唇には柔らかい感触。これは……もしかしなくても……。

 

「ふうん……。その反応からすると、初めてだったのね? だったら……、おあいこかしら」

 

目の前のお姉さん、少々頬を赤くしながら、嬉しそうに茫然とする俺を見ていた。

 

「先に報酬を貰ちゃったし、一回だけならお願いを聞いてあげるから、その時は私にも声を掛けなさい。良いわね?」

 

ボーっとしながら、コクコクと頷くしかなかったのだが、お姉さんが魔王城に戻ったのを確認すると、

 

「……カズマ、残りのマナタイトを全て使わせてください! 我が爆裂魔法の連続発射で結界ごと城を消し飛ばし、あの女を亡き者としますので……!」

 

「私にも少しだけマナタイトを回してください! 最高純度のマナタイトを使って威力を上げた魔法で結界を抜いて城を破壊しますから!」

 

めぐみんとゆんゆんが殺気立って、城ごと魔王軍を討伐しようとしていたので、すかさず、

 

「頼む! 止めてくれ! それだと、この場で全面戦争になるからな!?」

 

「「ユウ(さん)が隙だらけなのが悪いのです(悪いんですよ)!」」

 

何処をどう転んでも、俺の所業のせいになってしまっているらしい。もしかして、バニルがあの件ばらしてゆんゆんがその気になってるのか? おかしいだろ!? 俺、ゆんゆんを稽古で叩きのめしてただけだぞ!?

 

その後、どうにか二人を止めて、疲れ果てた状態で一言。

 

「夢の女神様みたいな人には出会えるんだろうか……」

 

それがカズマの耳に届いていたらしい。困ったように……、

 

「人間、知らない方が良い事ってのはあるんだよ……。つーか、お前の場合は贅沢過ぎだ!」

 

知らない方が良い事ってなんだよ!? 

 

困惑している俺を尻目に更にカズマが、

 

「お前は……果ての無い理想を追い求めてるようなもんだ。それを悪いとは言わないが、理想は理想でしかないから、裏切られた時にきついぞ……」

 

何かを悟ったような表情でポンポンと俺の肩を叩き、まるで慰めている様な仕草をしていたのであった。




ヴァリアブル・ファイアボール
このすばとミッド式の複合魔法と言えるものです。37話で使っていた物ですが、ゆんゆんにも教えています。

ついにここの女性陣、しかも年下にまで頭が上がらなくなってきた主人公。明日はどっちだ!?
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