この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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『厄災』(きた)

空は快晴。強い日差しではあるが、そこまできつい物ではなく、むしろ心地よい温かさを感じる。眼前に広がる荒野と背中には魔王城。空にはワイバーンや怪鳥と思しきモンスターが飛び交っており、アクアのモンスター除けの魔法で近づかない様に対処を行っている。

仲間達と語らうにはどう見ても不似合いな、冒険者の最終目標である魔王城前。だというのに……。

 

「何でバーベキューセット持って来てるんだ、お前らは!?」

 

「腹が減っては戦は出来ぬって言うだろ? こっちは昨日から誰かさんのせいで大忙しだったんだ。この位は良いだろ!」

 

俺のツッコミに即座に反応していたカズマではあったが、構わずに肉にがっついている。

 

「私も御相伴に預かっていいかしら? 最近、店も赤字で節制していたから……」

 

そしてウォルバクさん、さも当たり前のように参加しているのは、どうかと思います。

 

「この邪神!? 私が狙っていた肉を奪うなんて……!? だったらこっちを貰うわよ!」

 

「早い者勝ちよ。そちらこそ、肉ばかり食べないで野菜も食べなさい。焦げてるでしょ?」

 

この二人、女神様と自分で言ってはいるが、バーベキューの肉を取り合ってる女性にしか見えません。

 

「あの娘に意味の無い戒めなんかして、これだからアナログな邪神はダメなのよ!」

 

「私は機械には弱いのよ。普通に考えれば、腕輪のせいなんて思わないでしょ!」

 

「私を見習いなさいな。常に最新の技術を追い求めて、機械操作なんてお手の物なんだから!」

 

アクアが言うのはゲーム機操作できるとか……、そんなレベルの話の様な気がする。

 

「機械って言えば、お前の杖って機械っぽいよな。やっぱりそっち系は強いのか?」

 

唐突なカズマからの質問ではあったが、

 

「まあ、それなりにな。自分の杖弄ったり、新しいのを組む位だったら出来なくはない。他人のだとちょっと難しいけど。そんなのは、資格持ってる奴の方の領分だし」

 

「……相談があるのですが、爆裂専用の杖というのは作成可能でしょうか?」

 

「やって出来なくは無いかも知れないが、それこそワンオフになりそうだから、お値段も相当になる……はず」

 

めぐみんはまだ自分の爆裂の更なる高みを目指す気でいるらしい。皿には肉と野菜が山盛りになっており、ハムスターのように頬を膨らませながら、モグモグと食べている。何故か俺にぴったりとくっ付きながら……。

 

「装備か……。結局、王室から頂いた剣は使わずじまいだった……。私は攻撃が当たらないから仕方ないが……」

 

「ダクネスはもう鋼拳でも装備して、殴り掛かれば? いつか来てた研修生(スバル)みたく」

 

「私は殴るより殴られる役目の人間だ。そこは気にするな。それよりも今回は容赦なく私を盾として使うがいい! おそらく人類が未だかつて味わった事の無い痛みを味わえるはずだ!」

 

……ダクネスって、かなりの大物だよなあ……。家柄の話じゃなく。

 

「ユウさん、お肉焼けましたよ。どうぞ」

 

「あっ……、はい。ありがとうございます……」

 

ゆんゆんが肉を持った皿を差し出してきたのでそのまま受け取ると、食べる様子をジッと見られており、どうすれば良いのだろうかと戸惑ってしまう。

 

……俺、あの時……アルカンレティアに行く前、族長さんにちゃんとお断りしたはずだよな!? 確かに、バニルが教えた通りだけど、通勤とか住み家とか、その他諸々の事情で無理ですって。あの野郎か……、あの仮面野郎のせいか……! 戻ったらウィズに対悪魔用の呪いを教えてもらおう。それでヤツを後悔のどん底に叩き落してやる!

 

ちなみに紅魔族の族長は、シルビアが攻めて来た時のゆんゆんの騒動をきちんと聞いており、仕事場に通うのも不可能では無いので、やろうと思えばどうにかなるのも分かっているし、住み家は自分の家に住めば良いと思っているので、全然諦めてはいないのである。

娘は娘で最近の手紙の内容は彼の事ばかり書いているので、親にはバレバレだったりする。

 

ゆんゆんについて、とある心配が頭に浮かんだのでダクネスに近づき、小声で、

 

「ダクネス、教えて欲しい事があるんだが……」

 

「私で分かる事であれば構わん。何だ?」

 

むしろダクネスじゃないとダメなのだ。この質問は。

 

「お前がその性癖に目覚めたのは何でだ?」

 

それで思わず飲んでいたジュースを噴き出してしまったダクネスであった。

 

「いきなり何を言い出すのだ!? い、いや、話せば長くはなるのだが……」

 

「ゆんゆんの話は聞いてるだろ? もしかしたら、あまりにも稽古で叩きのめしすぎて、マゾに目覚めてしまったのではないかと……。それであんな……」

 

ダクネスさん、俺を可哀そうな者を見る目で見ていました。だってそうじゃないか。俺はミッドの連中に叩きのめされたって、そんな感情なんて湧いてこなかったんだから。むしろトラウマの方が多いですよ。

 

「ユウ、殴って良いか? お前のその鈍感系主人公の根性を、跡形もなく吹っ飛ばしてやるからさ!」

 

今度はカズマさんが満面の笑顔で、ギリギリと拳を握り正拳突きの構えをしていました。

 

「止めろ! これから戦闘になるからな? 体力消耗してどうするんだ!? こんなレベルの低い人間をいじめるのか!?」

 

「どの口が言いやがる! 低いつったって、実質レベル50以上じゃねーか!」

 

そんな口喧嘩をしばらく続けた後、

 

「……それでさ、あの娘の対応策ってのはどんなのなんだ?」

 

「あくまで予想だぞ? 予想だからな! 外れてても恨むなよ!?」

 

結構自信満々っぽかった気がしたが、いざ説明するとなると緊張してしまうらしい。なので、

 

「カズマは運が良いから、多分当たってると思うぞ。それに、ここまで来てくれたんだから、ちゃんと聞かないと失礼になるし」

 

「……ったく。ここでそれ言うか? お前って人誑しじゃねーのか……」

 

とても失礼な事を言われた気がする。しかし、ここはツッコんじゃいけない。

 

「簡単に言うと、あの娘には”魔力切れ”は無いけど、”一時的な魔力の枯渇”はあると思う」

 

「カズマさん、言ってる事が分からないんですけど? 魔力切れが無いって事は、魔力が枯渇しないって事でしょ?」

 

「だから一時的って言ってるだろ。最後まで話し聞けって」

 

アクアが即座に意味不明だといった抗議をしていたが、カズマが続けて、

 

「バニルにお前の未来を占って貰った時に、どう見ても周囲が長時間戦った様な惨状だった。最初は気にならなかったんだけど……」

 

その時の光景では、俺は瀕死の状態で封印を施しそのまま絶命。その後カズマ達が到着したのだそうだ。

 

「いくらお前が逃げ回ってたって、魔力切れが無いって事は、スタミナ無限みたいなもんだろ? そんなの相手ならすぐにジリ貧になるはずなのにそうならなかった」

 

あくまで予想とはいえ、かなり的を射ている感じの説明である。

 

「それとこないだ爆裂撃たれた時だって、そのまま同じ魔法で追撃すれば良かったのにそうしなかっただろ? 詠唱を遮ろうたって、結界みたいので防御できるから問題ない筈なのに」

 

漸くカズマの言いたい事が分かった気がする。これは確かにその通りかもしれない。

 

「つまり一回に大量の魔力を消費しすぎると、魔力の回復が追い付かないで”一時的に魔力が枯渇する”状態になるって事か?」

 

それに真剣な顔で頷くカズマであった。しかしアクアが頭上に?マークを飛び散らせながら、

 

「いまいち良く分からないけど……? つまりどうすれば良いの?」

 

「ゲーム的に言うと、毎ターン魔力全回復じゃなくて、毎ターン魔力が一定量回復するだけって言えば分かるか?」

 

「ああ、成程。そういう事ね! じゃああの娘にどんどん魔法使わせれば良いのね?」

 

それにしたって、回復量は尋常ではないはずなので、チャンスなんて一瞬だろうけど。

 

「それと出来れば爆裂を使わせた方が良いはずだ。爆裂の魔力消費量はとんでもないから、一気に有利になるだろ。それをめぐみんの爆裂で相殺させるために、バカ高い最高純度のマナタイトを大量購入して来たってのに……、お前らは……!」

 

カズマがめぐみんと珍しくゆんゆんまで睨みつけていたが、両者とも、

 

「私は悪くありません! 全てあの女のせいです! この非常事態で男を口説こうとしているとは……! あまつさえ……」

 

「そうです! 私だって……少しは憧れてたのに……あんな……! 羨ましいですよ!」

 

あのお姉さんが俺にしたのを思い出して、怒りに震えていたのであった。というか……今の俺の状況って……。

 

「あ、あの……、うぉるばくさん? 何でこんなのになってるのでしょうか? 女神様でしたらお導き下さい……」

 

少々発音がおかしくなってはいるが、この場で一番の大人の女性と思しき方へと相談を持ち掛けると。

 

「バニルに言わせれば、あなたの場合、どの道に進もうと扱いは変わらないらしいから……、とにかく頑張りなさい!」

 

扱い変わらないってなんだよ!? しかもそれってお導きじゃなくて、引導渡してるじゃねえか!? そこは……今は考えないでおこう……。

 

「もしかしたら、あの娘が爆裂覚えたから……その隙が生まれたのかもな」

 

夢の中では使っていなかった爆裂魔法なので、元々はそれを使わせる運用では無かったのかもしれない。当時からネタ魔法だったのかなあ……爆裂。

 

「それはありそうですね。もし爆発魔法や炸裂魔法であれば、即座に魔力も回復していたかもしれませんから。というか爆裂自体、使い手が希少ですから覚えたくても簡単に覚えられるものでもありませんよ」

 

確か爆裂魔法は誰かから教えて貰わないとならないので、ネタ魔法と言われている以上に使い手も少ない。その数少ない使い手がこの場に揃っているのもどうかと思うが。

 

「そういえば、お前に聞きたかったんだが……」

 

今度はカズマが俺に対し質問があるらしい。今回は世話になってしまったので、隠す気も無いが……。

 

「何であの娘が日本人の関係者だって分かったんだ?」

 

その事か。だったらちゃんと教えておかないとな。

 

「俺がバニルに占って貰ったのは――」

 

まだあの娘をアクセルに連れて来たばかりの時のウィズの店での出来事を話すと……、

 

「ユウさんって、よくそんなの知ってるわね? 男の子なのに……」

 

「覚えさせられた……というか、夏休みの宿題やってる時に調べさせられた……。あっちの友達に手伝えーって言われて」

 

そんなのが役に立ってるんだから、人生ってのは分からない。

 

「でも……ロマンチックですね。ここだとそんなのはありませんから……」

 

「まあ、なのはだって似た様なもんだしな。俺の最初持ってたイメージとはかけ離れ過ぎていたけど。『競争』とか、『快活な愛』とかだし」

 

最初は『頑固者』か『全力全開』だと思ってたからな。それを本人に言ったら、ガビーンって顔してたけど。

 

「そこまで聞いた以上、どうにかするしかあるまい。お前だけではない、あの娘のご両親の願いも叶えてやらなければ……! 例え改造手術の結果、本人が覚えていなくてもだ」

 

「そうだな。だからダクネスも恥ずかしがらずに堂々とララティーナって名乗るべきだと思う」

 

「それとこれとは話が別だ! 全くこんな時に……」

 

ダクネスも思う所があったのだろう。その雰囲気は真面目な騎士そのものとなっていた。

 

「漸く分かりました。占いの中でユウが負けた理由が……」

 

めぐみんはここに来る前のバニルの占いで気になる部分があったらしい。

 

「ユウは最後の最後まで、あの娘を守ろうとしていたのですね? 殺そうと思えば隙を突いて殺すこともできたかもしれませんが、例え封印してでも生きて、その願いを託したかったのだと……、そう思います」

 

「さてな。その時の俺は何考えていたかなんて分からないけど……。だったら良いかな?」

 

「良くはありません! この騒動をどうにかして収めて、みんなで帰りますよ! 占いの通りになんて絶対にさせません!」

 

最近は心配ばかり掛けているので、申し訳なく思ってはいるが、そ、それとは別に……ど、どうすれば良いんだろう? て、適度に距離を取っていれば、そのうち無かった事になるか……?

 

「それと……もし逃げようものなら全力で追いかけますので、そのつもりでいて下さい。その後は分かりますね?」

 

「……人の考えている事を読むのはどうかと思います。めぐみんさん……」

 

「紅魔族はとても知能が高いのです。その位はお見通しですよ。そしてゆんゆんも同様の考えの様です」

 

この二人、最近おっかないんですが!? 俺、どこで選択肢を間違えた!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして一時間後、周囲の空気が一瞬にして変わったような感覚に襲われる。それは俺だけでなく、その場の全員が同じものを感じ取ってしまっていた。

 

「やっぱり無理だったか……」

 

「どうした? 何が無理だって?」

 

「いや……何でもない。とにかく作戦通りで行くぞ!」

 

カズマには何か懸念があったのだろうか? あれだけの分析に贅沢なマジックアイテムでも何かが足りないとでも……。

 

そんな考えなんてしている暇はない。俺達の目の前にゆっくりと現れたのは……。

 

「ちょっと……!? 何よ……!? 見えるだけでも結界が何層も展開されてて……、あ、あんなのって……」

 

「前に戦った時と同じね。時間を与えたのがまずかったかしら? まずはあれをどうにかしないと……」

 

あの娘を見たアクアとウォルバクさんが冷や汗を垂らしていた。自分を女神と呼び、卓越した力を持つ二人ですらそれだ。普通の人間なら逃げ出したって文句は言えないくらいの、ありえない存在である。

 

「攻撃力、防御力はほぼ隙なし。しかもエネルギー自動回復付きの人間サイズの移動要塞だな。あれだと……」

 

「その例え、笑えねーぞ……。どうする?」

 

カズマも数歩後退ってはいたが、仕方ないと思う。それだけ規格外と言える状態なのだから。

 

「すまん、カズマ。買って来てくれたマナタイト、思ってたより使うかもしれない」

 

そう言って、めぐみんの方を向いて、

 

「行けるか? もし撃つのが辛いなら俺でも……」

 

「それでは何のために来たのか分かりませんよ! あれだけの防御であれば、数発であれば致命傷は避けられます。任せてください!!」

 

爆裂の詠唱を始めるめぐみんであった。あれだけの結界を破るのはアクアだけでは時間が掛かりすぎる。なので、最後の一層以外は爆裂で消し飛ばそうというわけである。そしてアクアが、

 

「『マジックゲイン』!」

 

おそらく魔法威力上昇の支援魔法だろう。めぐみんに向けてその魔法を行使していた。そして杖を前方に向けた最強魔法の使い手は、

 

「あなたを縛るその鎖。私の爆裂魔法で消し飛ばして見せましょう! 穿てっ! 『エクスプロージョン』ッ!!」

 

地響きに轟音、そして閃光。最強魔法を極めに極めたこの世界で最高の破壊者を冠しても不思議はない魔法使いの一撃。それは……。

 

「あの魔法使い……、魔王城に爆裂魔法を撃ったヤツか!? あの威力……!?」

 

「ウォルバク様を超えている……だと!?」

 

敵が現れた事で、俺らの後方に展開していた魔王軍が驚愕の表情を浮かべていた。その中には魔王の娘さんの姿も見えている。俺らが失敗した場合に備えての待機だろう。

 

「カズマ! 結界の様子は?」

 

「一つは消し飛ばした……!? けど……もう修復が始まってる!? 無茶苦茶じゃねーか!?」

 

千里眼でその様子を確認したカズマが小刻みに震えている。”無茶苦茶”それ以外に形容の仕様がない。

 

「ならば、修復前に破壊し尽すだけです! 『エクスプロージョン』ッ!! 『エクスプロージョン』ッ!! 『エクスプロージョン』ッッ!!! 」

 

下手したら歴史上、これが初めてかもしれない爆裂魔法の個人連続発射。あちらも常軌を逸してはいるが、こちらも普通ではありえない爆裂(ネタ)魔法のみを突き詰めた不世出の天才。その威力はかつてのノイズの開発者ですら想定外の物である。当然……。

 

「よし! 結界は後一層。アクア、お前の出番だ!」

 

「分かったわ! 全力で行くわよ! 『セイクリッド・ブレイクスペル』ッ!」

 

カズマの指示ですかさず結界解除のための魔法を放つアクア。途中、力み過ぎて叫んだり、眼がバッテンになったりしていたが、本人は掛け値無しの全力でやっているはず……。そして、

 

「結界は消し飛ばした。これで……」

 

「わ、私達女神二柱でも解除に苦労した防御をこんなに簡単に……!?」

 

ウォルバクさんも信じられないといった表情を浮かべてはいたが、このパーティー、個々の能力自体は極めて高いのだ。それが成果に繋がるかは別だが……。

 

しかし、相手側から無機質な音声が聞こえ、

 

『結界展開、一時的に不可能。対軍攻撃モードへと移行』

 

「……『クリエイト・アースゴーレム』」

 

先日の戦闘とは違い、一体だけではなく”対軍攻撃”の通り、そこには数十体のゴーレムの大軍。しかもまだ造り出しているらしく、視界一面がゴーレムで覆われるのも時間の問題となっていたのであった。

 

「よし、今度は俺も露払いを……」

 

「お前の出番はまだ先だ! 一番良い所は取っておくから、大人しくしてろって!」

 

自分もゴーレムの相手をするつもりだったが、すぐにカズマに止められてしまった。まだ先とは言うが、この大軍では……。

 

「ここは私に任せてください! 『トルネード』ッ!」

 

ゆんゆんは竜巻を発生させて、ゴーレムの一体を空中に舞い上げそれを他に叩きつける。その後に残っているのはゴーレムだった残骸のみであった。

 

「行こうか、グラム! クレメアとフィオは援護を頼む……!」

 

ミツルギもゴーレムに渾身の一撃を叩き込む。あちらが攻撃を仕掛けていた右腕ごと切断し、その後もグラムで苦も無く相手を斬り裂ていたのだった。二人共、アクアが支援魔法をかけてはいたが、いつもと違う死に物狂いの気合を感じる。しかし、ゴーレムを造り出した主は、

 

「闇色の雷撃よ――」

 

これは上級魔法、カースド・ライトニングの詠唱。あの娘はこの状態では前衛をゴーレムに任せて自身は後方で強力な魔法を撃つのが基本戦術になる様だ。その威力たるや、上級魔法とはいえ、そこらの魔法使いが束になっても敵わない威力の筈だが……。

 

「……『カースド・ライトニング』」

 

放たれた黒色の稲妻は一瞬の光と雷鳴と共に……、

 

「くっ……!? こ、これは……、まだ甘い! もっとだ! もっと強力な魔法を撃て! 出来るだろう!」

 

何故か全てダクネスに直撃していましたよ。そして、魔法を喰らった本人は満足そうなお顔をされておりました。

 

「……何やったんだ!? (デコイ)とは違うだろ?」

 

「お前が造った雷誘導のスクロールをダクネスに持たせた……。雷系の魔法なら全部ダクネスに吸い寄せられる」

 

え、えーっと!? 造った俺が言えることではありませんが、用途が全く違う気が……。

 

「ふふふ……、は、はは、ははははは! 上級魔法に見渡す限りのゴーレム! 全て私に攻撃を向けるがいい! その力に耐えきって見せよう!! これはかつてないプレイだ!」

 

本来の目的の他に、完全にスイッチが入ってしまったダクネスさんであった。はっきり言って、近づきたくないないなあ……。

 

こちらの布陣はダクネスがゴーレムの攻撃を自分に向けさせ、ゆんゆんとミツルギがその隙を突くという物らしい。ダクネスが(デコイ)を使ったのも効いているのだろう。この作戦がうまく嵌り、ゴーレムの数が徐々に減っていったのであった。

 

『戦力、規定値以下まで減少。殲滅戦に移行』

 

またしても無機質な音声がこちらに聞こえて来ていた。殲滅戦――爆裂魔法が来るか!?

 

ゴーレムたちを自分の近くに集めて壁とし、詠唱らしきものを行っていたのが……。

 

「……『スティンガーブレイド・()()()()()()()()()』」

 

嘘だろ!? 俺の魔法を一度で覚えただけじゃく、広域殲滅のシフトで使うって……!?

 

「みんな伏せ――」

 

「みんな! 私の後ろに来なさい! これなら私の結界で何とか防げるわ!」

 

おそらくは数百本であろう魔力刃が俺達に向かって一斉に襲い掛かってきていたが、アクアの指示――おそらくカズマが前もって作戦を立てていたのだろう。その通りにし、アクアは防御結界を展開したので事なきを得たが、

 

「ユウ、どう見る? さっきのは爆裂を使うには魔力が足りないから、ああしたのか?」

 

「可能性としては高いが……、ダクネスやミツルギのいた場所だと、自分も巻き込む可能性があるからかもしれない。けど、この位置だったら……もしかすると……」

 

先ほどのアクアの指示で全員ある程度、距離を取ってしまっていたため、あちらも爆裂を撃っても自身に被害が及ぼすことは無い。その予想は当たっていたようで……、

 

「黒より黒く闇より――」

 

これは、あちらとしても最大威力の魔法である爆裂魔法だ。この戦闘では俺の集束砲(ブレイカー)は使えない。使えば即座に学習されて、あちらも魔力が少ない状態でも爆裂並みの攻撃が可能になる。それでは手が付けられない。

 

「めぐみん、準備を……!」

 

カズマの指示でめぐみんも爆裂の準備に入る。この攻撃を相殺すれば、あの娘の魔力はほとんど空になるはず。前回、爆裂を一度しか撃たなくとも、戦闘続行は可能であったが、もう一発撃つ余裕は無かったと思われる。よって、これを防げば一時的とはいえ彼女を無力化できる。

そして、魔力が少なくなると腕輪が魔力回復に大部分リソースを裂くために、思考操作が外れ一時的に元に戻るのではないか……というのが、カズマの推論であった。

 

「……――深淵より来たれ」

 

彼女が爆裂魔法を打ち出す瞬間、違和感に襲われる。女の子が爆裂魔法を放とうとしていたのは、俺達じゃなく、正確には俺達と後方でこの戦いの成り行きを見守っている魔王軍の中間――つまりは一発で俺達と魔王軍の双方を殲滅できる位置であった。

めぐみんは自身に向かって撃たれると考えていたが、時すでに遅し。魔王軍も城へ撤退しようとしていたが、全軍を収容はできず……、

 

「……『エクスプロージョン』」

 

文字通り、この場の全てを殲滅するために、爆裂魔法が放たれたのであった。その魔法で巻き上がった土煙や突風が収まり、その場の者達が目にしたのは……、

 

「あなた……何やってるのよ!? どうして……!?」

 

「別に……。あの娘に無用な殺生をさせないためですよ。そちらだって死傷者が出たら、戦わざるを得なくなるでしょう?」

 

……カズマ達は……何とか大丈夫か……。咄嗟に爆心地から離れて、アクアの結界とカズマが造ったゴーレムの壁でうまいこと防いだか……。普段から爆裂魔法を見慣れてるのも効いたな……。

 

「あのね! 私達は今回仕方なく協力関係になってるだけよ! それを……こんな……」

 

「お姉さん、文句なら後で聞きますから静かにしてください……」

 

逃げ遅れた魔王軍は俺の防御フィールドで、どうにか保護して事なきを得たのであった。負傷と言っても大したものではないので、ここで魔王軍が出張るのはないはず。

 

「……はあ……くっ……結構、きついか……」

 

俺自身は一番前でフィールドを張ったせいか、その威力を殺しきれずにかなりのダメージを受けてしまっていた。おそらく、体の中から響く痛みからすると骨の何本かは折れているだろう。

 

「アクア! 早く治療を!」

 

カズマの指示で即座に俺へと駆け寄ろうとしていたアクアであったが、

 

「まだあの娘のゴーレムが残ってるわ! ちょっと待っ――」

 

こちらに来るのはまだ時間が掛かるらしい。すると……、

 

「……えっ!?」

 

女の子がいつの間にかアクアのすぐ傍へと近づき、手刀を構えていたのであった。

 

アレって……高速移動!? 魔力での身体強化だけじゃない。さっき魔王軍を防御しようとした時の俺の動きをそのまま学習して……即座に自分の物にするって……!? 高速移動なんて術式だけじゃなく、本人の空間把握能力や経験がものを言うのに……。

 

「……間に合え!」

 

俺も全力での高速移動でアクアの元へと駆け抜け、デバイスに魔力刃を展開して受け止めようとしたが――

 

 

 

 

 

その光景、その姿に全員がその場を動けずにいた。あるいは目の前の現実を信じたくは無かったのかもしれない。女の子が手刀に展開していたライト・オブ・セイバーは魔導師のバリアや攻撃を受け止めようとした魔力刃でさえ、苦も無く突破し、彼の胸を貫き一瞬にしてその命を奪っていたのだから。

 

「お……おにい……ちゃん……!?」

 

漸く自身の魔力を使い果たし、一時的に自我を取り戻した女の子が震えていた。目の前には兄と呼ぶ少年の血塗れの姿。自身の右腕もその血で染まり、何をしたかを瞬時に理解してしまったのだろう。苦悶とも絶望ともいえる悲痛な表情で……。

 

「いやああああああああ!! 嫌……もう嫌!! 誰かわたしを殺して……。お願い……!!!」

 

その場に崩れ落ち、泣きじゃくっていたのだった。

 

「ア、アクア……蘇生は……、蘇生はできますか!?」

 

「早くしろ! もしかしたらまだ間に合うかもしれないからな!」

 

めぐみんとカズマが少年の遺体をアクアの元に連れて行き、確認させると、

 

「大丈夫よ! これなら蘇生できるから心配しないで! けどその前に、あの娘の方をどうにかしなさい」

 

消耗した状態で絶命しなかったのが功を奏したらしい。すぐに蘇生に取り掛かるアクアであったが、女の子がスッと立ち上がり、

 

『高魔力反応感知。迎撃に移行』

 

腕輪の支配から逃れたのもほんの一瞬であり、虚ろな眼で目の前のカズマ達に狙いを定めていたのであった。

 

「マジかよ!? 早すぎる! けど何でユウの方に向かってるんだ!?」

 

カズマ達には目もくれず、魔道師の方へ向かう女の子であった。魔力を回復したといってもそこまででは無いらしく、届く距離で仕留めようとしているらしい。

 

「アクア、早くしろ! 蘇生の間は私が防ぐ!」

 

ダクネスが立ちはだかり、足止めを行ってはいたが……、

 

「……『フリーズバインド』」

 

足先から腰までを氷漬けにされ、身動きが取れなくなってしまったのであった。

 

「だから何でユウの方に行くんだ!? あいつは今、死んでるはずなのに……」

 

「……カ、カズマさん。あ、あのね? 多分、あの娘は私に狙いを定めてると思うの。この中で一番魔力が大きいのって私でしょ? だから……」

 

「お前のせいかあああああああ!!」

 

「だってだって仕方ないでしょ!? この私の溢れ出す程の強大な魔力だもの! これはむしろ私が女神だからなのよ!」

 

泣きそうになりながら、それでも蘇生を始めようとしてはいるが、その間は完全に無防備になってしまう。このままでは詳細は違えど、バニルの占いの通りとなってしまう。そう直感した一人の少女は。

 

「……すいません。結界を展開していない今なら、私の爆裂魔法で倒せるはずです。即座に展開できる程度の物ならあるかもしれませんが、それでは防げはしないでしょうから」

 

「めぐみん……もしかして……」

 

めぐみんが意を決したように、その場の全員へと自分の想いを伝えていた。

 

「待て! お前、自分が何しようとしてるか、分かってるのか!?」

 

「分かっていますとも。私の爆裂魔法であの娘を倒します。こうするのが今できる最善でしょうから」

 

爆裂で女の子を倒す。それは自身の手で始末する事に他ならない。だというのに、杖を構えて詠唱を始め、迷い無く準備に取り掛かっていたのであった。

 

「詠唱の間の護衛を頼みます。私が狙われたら一堪りもありませんので」

 

そうして、爆裂魔法の詠唱を進めて行くめぐみん。後は撃つだけとなったその時に、

 

「ごめんなさい。あなたを守ってあげられませんでした。そして、ユウ。私の事を恨んでも憎んでも罵っても構いません。それでも私は……あなたを失いたくありません」

 

一瞬だけ目を瞑り、おそらくは今までの道程を思い返してしまったのだろう。本来であれば人間相手に爆裂魔法を放つなどありえない選択なのだから。

めぐみんは目を見開き、一筋の涙を流しながら、

 

「エクス――」

 

爆裂魔法を解き放とうとしていた。

 




主人公死んでしまったので、次回から『魔剣の勇者ミツルギ』が始まる……、ではなく、冒頭は天界から始まる予定です。
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