この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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注意
魔王しばきと言いつつ、魔王はまだしばきません。
長くなったので、前後編で分けます。


魔王しばき(前編)

魔王城――この世界において人類と敵対する魔王軍、そして魔王の居城であり、冒険者にとっては、その冒険の最終地点と言える敵勢力の本丸。その魔王城において、外の『厄災』と人間達の乱戦とは違う、魔族達の狼狽えた声があちこちで上がっていたのだった。

 

「侵入者はどこだ!? なぜここに来ない!? 魔王様の玉座に行くのなら、この場所を通らなければならないはずなのに!?」

 

「分からん……。相手は潜伏スキル持ちか!? ならアンデッドを向わせろ! 生命力で潜伏スキルなんぞすぐに見破る!」

 

魔王城は例えるならば、一種の迷宮。それぞれの地点での強敵との戦闘や道順を守ったうえで魔王の玉座にたどり着くのがセオリーである。あくまでセオリーである。繰り返すが――

 

 

 

 

 

 

 

「アクア……これ使え」

 

「……へっ!?」

 

ぴよぴよ丸――前の銘は不明だが、これはシャックの妖刀と呼ばれ、元の持ち主であるシャックが女性の服を斬り裂くセクハラに使用していた不遇の刀である。断ち切れるのは『物』のみであるが、持ち主の魔力が強ければ強いほど斬れ味が増し、アークウィザードが振るえば物体切断に関しては無類の斬れ味を誇る不殺の名刀となりえる。

 

使用者の魔力によって斬れ味が変化する刀。つまり、人間を遥かに超える無尽蔵の魔力量を誇る『水の女神』アクアが振るえば……、

 

「凄い! 凄いわ!! この刀があれば私一人で魔王城を解体出来るわよ! もう壁でも鉄の扉でもアダマンタイトでも持って来なさい! 全部八つ裂きにしてあげるわ!! あーははははっ!!」

 

それは即ち、この世で(非生物限定で)斬れぬ物無き最高の一振りと化す……!

 

魔王城に立ち入ったカズマ達は当然ながら魔王の玉座を目指してはいた。ここは魔王軍の本拠地であり、目的地を目指すには、その理由が突発的過ぎであり、そして時間も限られていることもあって、最短距離で進もうとのカズマの提案により壁を斬り抜いて、文字通り()()()()()()()次の階層への階段を探す方法でまとまったのだった。

 

「さ、佐藤和真……。こ、これだと、僕達の方が侵略者の様に見えるが……」

 

「いいか! 男にはな、どんな手段を使っても負けられない戦いってのがあるんだよ! 戦闘で周囲が壊れるのなんて当たり前だ! これだってその延長だろーが!!」

 

『魔剣の勇者』ことミツルギキョウヤは、はっきり言えばかなりの常識人である。正攻法を好み、どんな相手でも真正面から立ち向かう。魔剣を持っているとはいえ、それが勇者の名を冠する理由だろう。

 

「前にユウがキールのダンジョンで壁を壊して進んでいたか……。あれと同じと思えば……」

 

「ええ……。前から思ってはいましたが、カズマとユウはおかしな所で似通っている部分があります。相手の裏を掻く部分が特に……」

 

ダクネスとめぐみんが昔を思い出し、微妙な表情を浮かべてはいた。そして、この城の主ですら、こんな進み方をする冒険者など想定の範囲外だろう。

 

「階段はどこだろうな? アクア、今度はこっちの壁を斬ってくれ!」

 

「ええ! こうなったら手当たり次第に行くわよ!」

 

スパスパといった擬音が聞こえてきそうなアクアの壁破壊。道なき場所に道を作ると……、

 

「……て、敵だ――」

 

「『ゴッドブロー』ッ!」

 

壁の向こうには警備のための魔族がいたらしい。壁を壊して進むといった斜め上の方法を見て、一瞬思考停止してしまったのが運の尽きである。その隙を突いてアクア渾身のゴッドブローが炸裂したのであった。

 

「……他には気付かれてないな? おっ! 丁度階段が……。上に行こうか」

 

潜伏スキルを使いながら、上の階へと進んでいる途中、

 

「なあアクア……、ユウの奴がお前の魔力で強くなるんだったら、ここの人間に魔力分けたら、俺達も強化できるのか?」

 

カズマからすれば当然の疑問だろう。それなら、支援魔法以外にも魔王との決戦前にここにいる全員の強化が可能となる。

 

「あのね、カズマさん。あれはユウだからああなるの。普通じゃありえない偶然が重なってるのよ。ほんとに」

 

世の中そう簡単に物事は進まない。とはいえ、アクアの言っていた偶然とは何か気になるところではあるのだろう。

 

「あの……、アクアさんが女神様なのは分かりましたけど、ユウさんみたいになるのはそんなに難しいんですか?」

 

ゆんゆんが代表として質問をしていた。ちなみに彼女は周辺の警戒も常に行っており、いつでも魔法を撃ち出せる準備を怠ってはいない。

 

「そうね……。まずは生きたまま天界に来て、私の力の欠片をその身に宿したこと」

 

日本で死亡したカズマやミツルギではそうはならないらしい。あくまで生きたまま、天界を訪れる必要がある。最も、魔導師の場合は天界に居た時間が長く、本当に昇天しそうにはなっていたが。

 

「そして、長い時間を掛けて、その欠片を自分自身に馴染ませていったのもあるわ。それと……」

 

アクアの説明を一同が聞き入っており、早く続きを聞かせろと言った雰囲気となっている。

 

「ユウさんが魔法使いとして、日々鍛錬を欠かしていなかったから、私の魔力をあそこまで自由自在に扱えるの。仮にカズマだったら、鍛錬なんてしないから私の魔力を扱いきれずに下手すればボンってなるわよ」

 

「……何で俺を引き合いに出すんだよ! あいつはお前のせいで幸運値が低いんだからな! そんな魔力なんて、こっちからお断りだ!」

 

その他にはゴッドブローが使えたり、アンデッドに好かれやすくなったり、何故か芸術関係の能力が高くなったりと、戦闘ではほとんど役には立っていないアクアの力の欠片だったりする。

 

「ってか回復抜かせば、あいつの方がお前よりお前の魔力をまともに扱ってるだろうが! 回復と蘇生以外だと洪水は起こすわ、キールのダンジョンの結界は強力にしすぎるわ、碌な事になってねー!」

 

「なんですってええええええ!!」

 

口喧嘩を始めてしまったカズマとアクアであったが、潜伏で隠れながら進んでいるので大声は厳禁である。それを周りに注意されて静かにはなっているが、今度は、

 

「ど、どうしたの? 私のコートをジッと見て……」

 

「……少し羨ましいと思っただけですよ。おそろいとかペアルックとか憧れるではありませんか」

 

めぐみんが見ていたのは、ゆんゆんが誕生日プレゼントで送ってもらった白いコートであった。

 

「これは私のだからね! 貸すのは良いけど、あげないから!」

 

「いりませんよ。そのうち爆裂専用でユウが造った杖をプレゼントしてもらいますから。世界に一本しかない杖です。服屋で買ったコートよりずっと良いものですよ!」

 

戦闘が始まる前の爆裂専用の杖は冗談では無かったらしい。世界に唯一つの杖を貰って心理的に有利に立とうとしているのだろう。

 

「ユウさんの好みって、髪が長くて胸が大きくて女神様みたいな性格の人だから、私の方が近いよ!」

 

「しかし、ユウは巨乳に殺されかけていますので、そろそろ慎ましい方が良いと言い出すかもしれません」

 

めぐみんが言っているのは、アルカンレティアの温泉でゆんゆんに抱き締められて、胸に顔を埋められて窒息しかけた時である。本当はもう一回、天界で巨乳(アクア)に殺されかけている。

紅魔族二人の喧嘩をみていたカズマは、苦々しい表情で、

 

「……やっぱりあいつ殴って良いか?」

 

「ユウから聞いたが、お前たちの世界には『殴られ屋』というのがあるらしいな。殴られて金を貰えるなど、私にとっては夢の様な職業だ。というわけで、私でやるがいい。いつでもどこでもだ!」

 

「絶対にやらねー!」

 

そんなこんなで魔王城の次の階へ辿り着いたが、カズマが顎に手を当て考え込み、

 

「壁を斬るのは面倒だな……」

 

「カズマさん……。いくらヒキニートだからって、これ以上怠け癖を出したらいけないと思うの。壁を斬る以上に良い方法は無いわよ?」

 

アクアが半ば呆れ気味に、ため息をつきながら批判をしていたが、

 

「アクア、肩車してやる。乗ってくれ!」

 

「えっ……!? きゃあああ!! カズマさん、何するの? ……って!?」

 

ヨイショ……といった掛け声でアクアを肩車したカズマを見て、その場の全員がポカンとしていた。なぜなら、

 

「カ、カズマ……、浮いてる! 浮いてるわよ! どうして!?」

 

「ユウから教えてもらった。あいつみたいな空中戦はできないけど、浮くだけなら魔法としては初歩だってさ。必要なスキルポイントも多くなかったしな」

 

カズマに肩車されたアクアは天井まで浮き上がり、その天井をぴよぴよ丸でくり貫き、人が通れるサイズの穴を開ける。

 

「よし、これで階段を探す必要がないな。俺は浮けるから良いとして、誰かロープ持ってる奴いないか?」

 

「それなら私が持ってる! これ使って」

 

ミツルギのパーティーの盗賊――フィオがロープを差し出し、それを使って全員が上の階へと昇る。それを何度か繰り返し天井をくり貫いて行くと、ある階で壊した天井の他に、突然落とし穴にでも落ちたかの様な大声で落下してきたのは……、

 

「うわああああああ! な、何だ!? 玉座が突然……!?」

 

ガンッ! ……と尻を強打した痛々しい音と共に、魔王さんが降ってきましたとさ。

カズマの特殊能力ともいえる程の幸運で、見事に最短距離で魔王へと辿り着いたのであった。

 

 

 

 

 

その光景に全員が放心していた。目の前にいるのは、二本の角が生えた長い白髪の魔族の老人。それが上の階から降って来たのだ。

 

「き、貴様等……何者だ!? 冒険者なのは分かるが……、何故ワシが下の階に落ちている!?」

 

魔族の老人は侵入したであろう人間を睨みつけてはいたが、先ほどの落下による強打が少しは効いているらしい。腰をトントンと叩きながら立ち上がっていた。すると、先ほどくり貫いた天井から、

 

「魔王様! どうなされましたか!?」

 

「御無事ですか!? 一体何が……!?」

 

おそらくは護衛の魔族だろう。上の階の床面の穴から下を見て、魔王の容態を確認していたのであった。

 

「「「「魔王……!?」」」」

 

魔王――そのキーワードでカズマ達が固まっていた。ぴよぴよ丸によるショートカットの天井破壊とはいえ、この広い魔王城で魔王の部屋にここまで簡単にアクセスできるとは思わなかったのだろう。

そして、上の階にいた護衛の魔族達も下に降りてきたので、魔王は、

 

「ワシを倒しに来た冒険者か? やり方は褒められた物ではないが、ここまで辿り着いたのだ。褒めて――」

 

「あなたが魔王ね! 私が送り込んだ子の子孫でしょ! だったら、しばかれる前に反省して、この私に懺悔なさい! そして魔王軍を貸してくれれば全部を水に流してあげるわ!」

 

「ええいっ! 口上すらまともに言わせんとは……、これだからアクシズ教徒は……」

 

魔王軍に恐れられてるアクシズ教徒、それは魔王ですら例外では無いらしく、何処かしら疲れた様な表情を浮かべていた。

 

「こっちは時間がねーんだ! 魔王さんよ? さっさと娘さんに魔王の座を譲れって。そうすればこの場は丸く収まるからな」

 

「それはできんな。次代の魔王は今代の魔王が倒されなければ引き継げはしない。そうしたいのであれば、ワシを倒すのだな! 先日の人間ならともかく、貴様らにワシが倒せれば……だが」

 

交渉は無意味だと言わんばかりの魔王の言葉で、双方が臨戦態勢に入るのであった。

 

「では、始め――」

 

「『ルーン・オブ・セイバー』ッ!!」

 

「「「「ぐああああああっ!!?」」」」

 

魔王さんが戦いの狼煙を上げる前に、ミツルギがグラムで一閃。おそらくはグラムを持つ者にのみ使えるスキルだろう。それは魔王の側近にダメージを与え、彼らは悶絶している。

 

「……ふ、不意打ちとか……何やってんの?」

 

「戦いにルールなんて無い。相手と向かい合った瞬間から戦闘は始まっていると、彼に教わったものでね。もしも彼ならこんな手は通用しない」

 

ミツルギらしからぬ行動ではあるが、効果は抜群のようだ。その様子を、

 

「あの男、余計な事を……。せめて私が(デコイ)を発動させてから、私諸共、斬れば良いだろう!」

 

「ダクネス……ここはちゃんと壁役に徹しましょう。まだ魔王が残っていますから、そちらで」

 

「みんなに支援を掛けてあげるわ!」

 

ダクネスは文句を言いながら、めぐみんはドM騎士にツッコみながら、アクアは我関せずで支援魔法をかけていたのであった。

カズマ達と魔王とその側近の戦闘では、ダクネスが壁役になりながらミツルギとランサーの少女がその隙を突いて攻撃。ゆんゆんとめぐみんはそれぞれ上級魔法とスクロールを使っての攻勢支援を行っていたが、カズマは……。

 

(ふっ……。闇に紛れて潜伏で隙をついて襲い掛かる。後ろからならまだ予想できるだろうけど、まさか頭上から攻撃されるとは思わないだろ)

 

暗闇の中、潜伏で気配を消し、魔王へ一撃を喰らわせようとしていた。浮遊魔法で魔王の頭上に陣取りながらではあるが。

カズマが魔法を解き、自由落下に任せて魔王に斬りかかろうとした、その時、

 

「ふむ……。上から敵感知に反応があったと思えば、そういう事か。宙に浮ける魔法とは聞いた事が無いが……」

 

「むぐっ……!? ぐぐぐっ……!?」

 

カズマの一撃は当然のように魔王に捌かれ、魔王の右手で口と鼻を塞がれながら片腕で持ち上げられている。カズマも抵抗してはいるが、基礎的な腕力に如何ともしがたい差があるため、それは無意味なものとなっていた。

 

(そういえば……、あいつだって言ってたか……!? 魔王のクラスは俺と同じ冒険者だって。なら俺みたいに色々なスキルを……)

 

魔王はそのまま腕に力を込めたが、少しばかり意外そうに、

 

「……思っていたよりも硬いな。首を圧し折ってやろうと思っておったが……。まあ良い、このままでは呼吸もままならぬだろうからな」

 

「ぐっ……!? うっ………」

 

その数秒後、カズマは息絶え無造作に投げ捨てられたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり勘が当たってしまいましたね……。『速度強化』、『筋力強化』!」

 

「エリス様……? 何でいきなり魔法をかけてるんですか?」

 

天界で目覚めたカズマに有無を言わさず支援魔法を施すエリスに対して、首を傾げてしまっていた。

 

「アクア先輩から聞いていませんでしたか? 天界規定で死者の蘇生が一回きりの理由です……」

 

「確か……、神様の力が人間に影響しないため……でしたっけ?」

 

「はい。ユウさんみたいな例外はそうそう現れませんが、その意味ではカズマさんも例外です。何度か亡くなって私の元を訪れていますから。『体力増加』」

 

またも支援魔法をかけるエリスであったが、カズマは気を落としながら、

 

「大体……作戦も何もなしで、いきなり魔王しばいて来いなんて、あいつは鬼か……。おつかいじゃないんですよ……。俺はあいつと違って、人より運が良いだけの最弱職です。一番まともだと思ってた奴が、一番の厄介事を持ってくるし……、俺ってこんなので良くやったと思いませんか?」

 

「まだまだ終わってはいませんよ? ユウさんも外で彼女相手に拮抗していますし、アクア先輩だってカズマさんの蘇生に取り掛かっています。他の皆さんも……、魔王ですらダクネスの硬さに狼狽えていますし、ゆんゆんさんの魔法……ユウさんの魔法と組み合わせたここの魔法も魔王にとっては、初見で対応し難い様です。めぐみんさんもスクロールと……、あとは槍術みたいな動きをしていますね。密かに練習していたのかもしれません」

 

「あいつら何やってんの? それより、ユウに魔王狙撃でもしてもらった方が早いんじゃ……」

 

「それも無理がありますね。外の彼女と戦いながら、応援の方々になるべく被害が出ない様に立ち回っていますから。そんな余裕はないと思います。『魔力強化』、『防御力増加』」

 

支援はまだ続くらしい。自分をまた魔王と戦わせようとしているのは分かるが、どこまで続けるつもりだろうかと、若干不安になってしまうカズマだった。

 

「さて、天界規定で蘇生に制限があるのは先ほど仰った通りですが、ユウさんがアクア先輩の影響を受けて恩恵を得たように……。カズマさん、あなたも私の元を数回訪れていますから、私の加護を知らず知らずのうちに宿しています。その私の魔法なら通常よりも効果が高くなりますよ。『魔法抵抗力増加』、『状態異常耐性増加』」

 

カズマは、ユウの受けた恩恵を思い出していた。幸運が低くなる、アンデッドに集られる、アクアの魔法の効果が長続きする、花鳥風月が修得可能になる、芸術関連の能力が高くなる、悪魔の干渉を弾く。どう考えても差し引きゼロが良いところの恩恵だ。そんな神がいて良いのかとも考えてしまう。

 

「……あれ? エリス様の恩恵があるって事は、エリス様の魔力を貰えば、あいつみたいになれますか?」

 

「カズマさんの場合、恩恵があるといっても私の力がそこまで馴染んでもいませんし、そもそも鍛錬自体をなさらない方なので、魔力を分けたとしても、先輩の言った通りボンっとなると思います。『知覚強化』」

 

「……本当ですか? 指先でちょっとだけでも吸い取ってみて良いですか?」

 

「私にアンデッドのスキルを使うなんて、罰を当てますよ?」

 

ニコニコしながらも、魔王もかくやといった気迫でもってカズマを牽制していた幸運の女神であった。

 

「カズマさん……、紅魔の里でユウさんが魔王について考察したのを覚えていますか? 魔王は件の勇者から受け継いだ能力とその勇者が造り出した、『近くに居る魔族とモンスターの能力を引き上げる』力を持っています。ですので……、カズマさんは一対一で魔王と戦ってください!」

 

「い、いや……いきなり何言ってるんですか? エリス様まであいつの無茶苦茶が移りましたか? 一対一って……」

 

カズマからしたら、捨て石になれと言われているも等しい発言であった。

 

「その……アクア先輩ですけど……、一時的に魔王を弱体化させる程の力を持っていますし、それに弱体化した魔王と同じくらいの実力者となら一度戦って勝っていますよね? あの時はユウさんも消耗していましたから……。丁度釣り合うはずですよ」

 

アクアにそんな力があったのは初耳と文句を垂れたカズマではあったが、その理由で自分にお鉢が回って来るとは夢にも思わなかったらしい。その他には、エリスの説明では一対一で挑まれたうえで魔王が逃げ出せば、もう魔王を名乗れなくなるとも言われたが……。そんな折、アクアが大泣きしながらの叫び声が響き渡っていた。

 

≪カズマさーん! カズマさーん!! 早く、早く戻って来て! 魔王はダクネスが抑えてるけど、雑魚が強いの!? 雑魚の癖して幹部みたいに強いの!?≫

 

仮にも女神なら自分でどうにかしろとも言いたくなったが、これがアクアだと諦めるほかなかった。

 

「何でこう……、あのバカは俺に泣きついて来るんだか……」

 

「まあまあ……。アクア先輩もですが、外の彼女も助けたくはないですか?」

 

「そりゃあ……。助けられるなら、助けるに越したことは無いですよ……」

 

あの娘の境遇を聞いて、同情しなかったとは言わない。だが、自分に何とかできるとも思えなかった。

 

「だったらやっちゃいましょう! 魔王を倒して、彼女を助けて、世界を救う。これ以上、燃える展開なんてそうそうありませんよ?」

 

少年漫画みたいに軽く言っているエリスではあったが、そこへ邪魔が入るのはやっぱり、

 

≪カズマさーん! 敵が近くに来てる!? エリスも早く門開けて! 私、カズマさんがこっちに来るまで動けないの!?≫

 

悲痛であるはずなのに、何故か気が抜けてしまうアクアの叫びに頭を抱えながら……、

 

「ああもう、しょうがねえなあああああああ!!!」

 

いつものセリフを口走ってしまったのであった。

 

その様子をクスクス笑いながら、楽し気に見つめていたエリスから、

 

「では最後の支援を……。幸運の女神である私の最大の支援となります。『ブレッシング』!」

 

幸運を引き上げる支援魔法。その効果はアクアとは比べ物にならず、カズマの最大の長所である幸運を大幅に引き上げていた。

 

「では、私もこれから地上に参りますね。この姿ではありませんが……。最後には、私達のスキルが必要になると思いますので」

 

「エリス様も地上に?」

 

「ええ。カズマさんともお会いした事があります。ぱんつを盗られたり、胸を触られたりしましたよ?」

 

それを聞き、誰の事か見当がついたらしいカズマは余所余所しく小さくなりながら、門をくぐってしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああっ……!? カズマさん、漸く戻ってきた!? どうしよう!? 雑魚が雑魚してないの!? このままじゃ魔王しばけないの!?」

 

「おい、アクア……、お前、魔王を弱体化できるんだろ!? まずはそれやれ! そこからは俺がどうにかするから、雑魚は――」

 

涙を目に溜めながら、うんうんと頷くアクアであったが、

 

「カズマさん……。一対一って死亡フラグよ? 生き返らせてあげるけど……。何でそこまでして……」

 

「ここで魔王討伐失敗しましたなんて、どの面下げて言えるってんだ!? 前も言ったろ! 兄ってのは妹のために力を尽くすもんなんだよ!」

 

「つまりカズマさんはロリニート……、い、痛い、カズマさん痛い! 頬っぺた力一杯引っ張らないで!」

 

「良いから早くやれ! 時間がねーんだろうが!!」

 

カズマに目一杯叱られながら、アクアが祈るように手を合わせ、

 

「『光よ』っ!」

 

それに驚くような顔をしていた魔王ではあったが、アクアが続けて……、

 

「こうなったらやるだけやって、全力で魔王しばいて来なさい!」

 

カズマと魔王のいる床部分をぴよぴよ丸でくりぬいたのであった。当然落下する両名。カズマは浮遊できるので問題はないが、魔王はまたしても自由落下している。一日に二度、自分の城で落とされるなど想像もしていなかっただろう。

落ちた先はおあつらえ向きに、モンスターも待機しておらず、そこそこ広い鍛錬場の様な部屋であった。カズマはすかさず、ある魔道具を使い、

 

「あの人の魔道具でも役に立つのか……」

 

思わず呟いてしまったカズマであったが、この魔道具はひょいざぶろーが造った強力な結界を張る物である。

強力過ぎて自分達の攻撃も通さない欠陥商品だが、何故かひょいざぶろーはこれも持って来たらしい。

かつて、人間の頃のウィズがバニルに対して使ったが、あれよりも広範囲に結界を貼れる改良型であり、部屋全てを覆っていた。

 

「この結界は……? 何のつもりだ? 先程ワシに殺された貴様が一対一で戦うとでも?」

 

「怖いならテレポートでも何でも使って逃げれば良いぜ? 確か魔王ってのは一対一で挑まれて逃げたら、その時点で魔王を名乗れなくなるんだろ? それで俺達の目的は達成されるからな。あのお姉さんが魔王になって協力してもらえる。あんたが逃げた時点で俺らだって城から撤退すればいい。まあ、あんたは最弱職の人間の冒険者から尻尾撒いて逃げた魔王って、末代までの笑いもんだろうけど」

 

「まあいい……。どの道、城の中だ。貴様を倒すのに時間は掛かるまい……!」

 

そして、魔王は魔法の詠唱を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな……! ちょっとこっちに来て!」

 

アクアの呼びかけに一斉に集まるめぐみん達であった。ミツルギとダクネスは魔王の側近の相手をしてはいるが、その間に……、カズマの作戦を要であるめぐみんとゆんゆんに伝えていた。

 

「そ、それで、良いのですか? 万が一失敗したら、この部屋ごと吹き飛びますよ!?」

 

「わ、私は何とかできると思いますけど……、ちょっと時間が掛かります」

 

不安がる二人にアクアが微笑みながら、

 

「ねえ、二人共……、こんな時ユウなら何て言うかしら? 多分、お前らだったらできるって、いつもみたいに前に出て、二人の準備が整うまで時間を稼ぐわ。だから、私も……二人を信じる!」

 

その言葉で二人が目を見合わせ、力強く頷き魔法の準備へと取り掛かった。

 

(カズマの言った通りだったわ……。二人はユウさん引き合いに出すと良いって……)

 

二人を焚きつけたのは少しばかり気が引けたが、仮に彼がいたら本当に同じ事を言っていただろう。ゆんゆんはどれだけ叩きのめされても稽古を続け、めぐみんは爆裂のみを一心に突き詰めて来たのを分かっているから。

 

ゆんゆんが火球を自分の周りに十数個展開し、それを一つに集めて砲撃を繰り出そうとしている。これは稽古を始めた頃、屋敷で見せて貰った集束の応用である。

 

「行きます! 撃ち抜いてっ!」

 

ゆんゆんが放った砲撃は凄まじい勢いで部屋の壁だけでなく、その弾道の壁を全て撃ち抜き、魔王城の外まで到達していた。

次にめぐみんが……、大きく深呼吸し、

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

その開いた穴に向かって爆裂魔法を撃ち込み、先ほどゆんゆんが開けた一人通るのがやっとな位の穴を大空洞と言える程の幅へと広げた後、魔王城の外で爆裂魔法が大爆発を巻き起こしたのであった。

これはめぐみんがベルディアの廃城で着弾点のズレを指摘されてから、爆裂魔法を撃つたびに気を付けていた事だったりする。

一日一爆裂で積み重ねていたからこそ可能な、針の穴を通すコントロールであった。もし僅かでもずれていたら、全員爆裂魔法で自爆していただろう。

 

「私の後ろまで下がって……!」

 

めぐみんはゆんゆんにおんぶされ、全員アクアの指示で下がった後で、

 

「この世に在る我が眷属よ……。水の女神アクアが命ず……」

 

それは、ベルディアが襲来した際に使用した洪水を巻き起こした魔法である。室内で使えば全員その水量で溺れてしまうだろうがアクアは気にせずに、魔法を放ち、

 

「『セイクリッド・クリエイトウォーター』ッ!!」

 

「うわあああああああ!!」

 

その洪水は先ほど開けた大穴に凄まじい勢いで流れ込んで行き、魔王の護衛をその場から洗い流していたのだった。

アクア達も同じ目に遭うかと思われたが……、

 

「こ、この状況下でロープのグルグル巻きとは……、素晴らしい作戦だ!」

 

ダクネスは絶賛していたが、全員が大きい瓦礫にロープで括り付けられていた。ミツルギのパーティーの盗賊の少女の持つスキル――バインドで瓦礫ごと全員をその場にグルグル巻きにして体を固定し、洪水の難を逃れたのであった。

 

「だ、誰か……ロープを斬って頂戴!」

 

「す、少し待ってください。今すぐに斬りますから……」

 

「わ、私は、もうしばらくこのままでも良いが……」

 

瓦礫に固定されたままのアクア達はしばらくジタバタして、抜け出すのに苦労したらしい。ようやく、全員抜け出した後、

 

「あとはカズマね……。下は……結界が張ってるから入れないわ。私なら解除もできるけど、ここから落ちても大怪我するだけだし、私達は治療をしながら待ってましょう。きっと大丈夫だから」

 

アクアはそう言いながら、この場に残った人間の治療を始めていたのだった。




後編はカズマさんvs魔王ではありますが、もしかしたら文字数少ないかも……。
出来るだけ早く投稿するように頑張ります。

サキュバス騒動の消耗した主人公に勝ったせいでエリス様に魔王討伐お願いされてしまったカズマさん。運が良いのやら悪いのやら……。

神様の加護についてはこの二次の独自設定なので、あまりツッコまないでいただけると助かります。
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