この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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注意
カズマさんは格好良く決まりません。ごめんなさい。ついでに主人公もでません。
そして前回の後書きで短くなるかも……と書いたけどそうじゃなかったぜ! すいません……。


魔王しばき(後編)

魔王城のとある一室。多少の攻撃では絶対に破れはしない、紅魔の里随一のへんてこ魔道具職人ひょいざぶろーの作成した魔道具による結界内に対峙する両名。

一人は人類に仇なす魔王軍のトップである魔族の王。そしてもう一人は異世界転生での特典に知力以外の能力は飛び切り上等だがトラブルメーカーの女神を選び、様々な苦難を一身に背負ってしまった最弱職の冒険者。

その二人が、世界の命運をかけた戦いを始めていた。

 

「地獄の業火よ……」

 

上級魔法インフェルノ――それは巨大な炎を発生させ、対象のみならずその周囲さえも焼き尽す魔法である。カズマ一人ならばこれだけでも十分すぎる。そう考えた魔王は目の前の人間を焼き殺し、上へとすぐに戻ろうとしていたが……。

 

「行けっ! 『ファイアボール』!」

 

カズマは中級魔法で対抗する気でいるらしい。これはスクロールを開いただけなので即時発動できるが、魔王からすれば……、

 

(ふん……。たかだか中級魔法でどうなるというのだ……。弱体化しているとはいえ、その程度、自身の周りに結界を展開すれば防げ……)

 

魔王からすればささやかな抵抗にしか見えず、ダメージにもならないので避ける必要も無い。そのまま棒立ちでカズマが放った魔法を結界で防ごうとしたが……、

 

「なっ……!? 何だ!? 今の魔法は……! ワシの防御結界を通り抜けて……」

 

そのファイアボールは魔王の防御を貫通し爆発によるダメージを与え、あちらの詠唱を遮り魔法の発動を止める事に成功していた。

 

「えー? 魔王さんともあろう方が、そんなのも分からないんですか? プークスクス。技術は常に進歩してるんだぜ? やっぱり老害は早く引退して、娘さんに跡目譲ったら?」

 

アクアのマネまでして、魔王を煽るカズマであった。中級魔法をアレンジしたスクロールを見るのは初めてらしい。しかし、魔王はまたしても詠唱を始め、

 

「まぐれなんぞ、そうそう続きはせん。今度こそ……」

 

魔王がセリフを言い終える前に、またしてもスクロールを開き、ファイアボールを打ち出すカズマであった。

 

「どんなカラクリかは分からんが、魔法での防御が出来ないのであれば、消し飛ばすまで」

 

魔王は拳を握り、火球を素手で消し飛ばそうとしていたが……、

 

「なっ……!?」

 

魔王に真っすぐ進んでいたはずの火球は、意志でも持つかのように彼の拳を避けて、顎へと突き刺さっていた。魔王も急所に当たってしまったために、少しばかり効いたようで足が震えていた。

 

「うわっ!? 拳が当たらないでスカっていった!? かっこ悪い! これはかっこ悪い!!」

 

またもや挑発を繰り返すカズマであったが、心中では……、

 

……火球のコントロールって思ってたより難しいな。結界通過する方のファイアボールも初見なら当てられるだろうけど、何回も見せたら流石に不味いか……。つーか、あいつのアレンジスクロール便利すぎだ! バニルがどんどん持って来いとか言うわけだ。

 

「き、貴様……その魔法は一体!? 見た目は中級魔法だというのに……」

 

「えっ……? 魔王さんたら、最近のトレンドも知らねーのか? 時代は威力よりもスピードと特殊効果なんだよ!」

 

今度は別のスクロールを開いたカズマだったが、それからは『ブレード・オブ・ウインド』の風の刃が数本、魔王へと向かって飛んで行き、

 

(今度は何だ? 防御を通り抜けるか……? それともおかしな方向に曲がるか……? どちらにしろ……)

 

防御も素手での迎撃も危険と判断した魔王は……、

 

「『ブレード・オブ・ウインド』……!」

 

全く同じ魔法で相殺しようと試みたらしい。双方の風の刃が激突すると……結界内が急に冷えた……そんな感覚に襲われたのだった。これもアレンジスクロールで風の刃に凍結効果を付与した物である。そこにすかさずカズマが、

 

「『クリエイト・ウォーター』ッ!」

 

全力で水をばら撒き……そして、

 

「『ファイアボール』ッ!」

 

今度は自身の魔力で放ったファイアボールで、クリエイトウォーターの水を蒸発させて、水蒸気で視界を遮る。室温が低ければ水蒸気が出来やすいため、この方法を取っていた。

 

「馬鹿が……。忘れたか? ワシには敵感知がある。視界を奪った程度では、なんの障害にもならん」

 

その言の通り、魔王はカズマの位置を的確に把握していたらしい。例え潜伏で気配を消した所で無意味だと……。先ほど殺した時と同じ末路を辿ると、そう考えていたようだ。しかし……、

 

「『烈風刃』ッ!」

 

風魔法加速式居合切りを魔王に向かって放つも紙一重で避けられてしまった。とはいえ、掠ってはいたらしく魔王の頬から少しばかり血が流れていたのであった。攻撃を避けられたカズマは魔王の反撃を受けて吹っ飛ばされるが、咄嗟に防御して事なきを得ていた。

 

……ダクネスの防御スキルと、エリス様の支援のおかげか? 確か『知覚強化』ってのがあったな。攻撃が少しはゆっくりと見えた気がする。それにそこまでのダメージにもなってない。

 

カズマが内心冷や汗をかきながら立ち上がったが、魔王は驚いたように、

 

「貴様……、最弱職の冒険者などと言っておったが、その剣速……、ソードマスターだったか……。それとも魔法剣士か? それを隠すためにスクロールで攻撃し、本命は先ほどの一撃とは……」

 

それを聞いたカズマは少しだけ嬉しくもあった。最弱職の自分が上級職と間違われるとは思っていなかったからだ。それと同時に……、

 

「俺がソードマスター? うける! これはうける!! 魔王さんの目は節穴ですか? 何だったら俺の冒険者カード見てみるか?」

 

そうして、大笑いしながら自身の冒険者カードを魔王に示すと、

 

「貴様は……本当に冒険者か!? クラスとしての冒険者!? だとしたら先ほどの剣技は……間違いなくソードマスター級の物だった……。ソードマスターになれる力を持っていながら、冒険者をやっているとでも……!?」

 

「あんただってクラスは冒険者だろ、魔王さんよ? 何なの? 自分の事は棚に上げて、人間の冒険者は見下してるのか?」

 

「ワシは受け継いだ力でスキルポイントには困らんからな。むしろその方が都合が良いのだ! しかし……なぜそれを知っている!?」

 

「あんたの娘さんもそうだったし、ウチのパーティーの優秀な奴の推理が当たっただけだ。外で戦ってるあいつだけどな」

 

それに少しばかり頭を抱えながら、魔王は……、

 

「あのバカ娘が……。自分でばらしおって……。それと推理をしたのはここを訪ねてきた人間か……。ただ者では無いと思ってはおったが……」

 

「あいつは素の状態でも本気でやれば、あんたと同格の実力らしいぜ? まあ、もっとも……俺はその使い手に勝ってるけどな! どうだ? 俺には勝てませんって逃げても、誰も文句は言わないと思うが?」

 

またまた挑発しながらちゅんちゅん丸を構えたカズマであった。それに応える様に、

 

「そうか……。嘘か真かは分からんが、そこまでワシをコケにしたのだから相応の覚悟は出来ているであろうな?」

 

魔王も目の前の最弱職を本気で狩るべく、今までの余裕を棄てて全力で倒そうと、

 

(硬かろうが、剣が速かろうが関係ない。雷撃ならば避ける事も叶うまい……)

 

そう読んで、魔王はカースド・ライトイニングの詠唱を始め、

 

「『カースド・ライトニング』……!」

 

カズマも闇色の雷撃に対抗すべく、最高純度のマナタイトを使用し、その魔力量で威力を上げた中級魔法を繰り出した。

 

「『ライトニング』ッ!」

 

二つの雷撃はお互いに相殺し合うかと思われたが、

 

「ぐああああああああ!!?」

 

何故か魔王へ双方の魔法が直撃していたのであった。彼にとってあまりにも予想外の展開に驚愕しながらも、その威力から叫び声をあげていた。

 

「あっれー? 寄る年波で狙いがずれましたか? ほらほら、俺は避けないからもう一回やってみたら?」

 

もう一回、雷撃を撃ってみろと言わんばかりのカズマだったが、

 

本気のあいつと一回戦っといて良かった……。そうじゃなきゃ睨まれた時点で、動けなかったかもしれねーな……。それとアクアからぴよぴよ丸の鞘借りといて良かった。こいつは魔法の杖と同じ効果があるから、威力増幅もできるし……。

 

その胸中は穏やかでは無かったらしい。対する魔王は小刻みに震えながら、

 

「何をしたかは分からんが、この部屋全体に効果範囲を広げれば逃げられはしまい……。『カースド・ライトニング』!」

 

「『ライトニング』ッ! 『ライトニング』ッ! 『ライトニング』ッ!」

 

カズマもそれに応える様に、マナタイトで強化したライトニングを連続で繰り出していたのだった。すると、やはり……、

 

「ぎゃああああああああ!!!?」

 

またしても室内には、自分とカズマの魔法が直撃した魔王さんの絶叫が響き渡っていたのだった。

 

……すっげー。あっちは効果範囲広げて撃ってるのに、全部スクロールに雷撃が吸い寄せられていったよ……。こんなの落雷でやれば、そりゃあ対軍使用のトラップになるか……。自分の魔法を自分で喰らうとか、俺は絶対に経験したくはないが。

 

この雷誘導スクロールは先ほど斬りかかった際に、魔王の攻撃を避けながら、その床に設置したものである。水蒸気で床を見え難くし、しかも相手を挑発し続けて、その存在を気付かせない様にしていたのだった。

 

(何だ!? 弱体化しているとはいえ、訳の分からん攻撃ばかりを繰り出してくるだと……)

 

中級魔法はおかしな効果が付属し、何故か雷撃は自身に吸い寄せられている。並の精神力の持ち主なら悪夢を見ているような気分になる光景だろう。

 

「うわっ!? 魔王よわっ!? なあなあ逃げても良いぜ? 後は娘さんに任せたら?」

 

「老人いじめて何を楽しんでおるか! それに……あのバカ娘は色々と心配なのだ! あの方向音痴に人の言う事を聞かない性格……。方向音痴はまだしも、性格は年を取ってからできた娘だと甘やかしたのが悪かったか……」

 

「この場にあいつがいたら、間違いなく文句言ってるな……。あんたどんな育て方したんだって……」

 

「全くだ。婿候補を見つけたから安心しろと言われたが、あの人間もかなり性格が悪そうな気がしてな……」

 

魔王からすれば、交渉に半ば脅しの様な事をしでかす者だと、親としては心配にもなるのだろう。

 

「……ああ。あいつもあれでかなり無茶苦茶な奴だ……。俺なんてまだ可愛い方だぜ? ユウが来ていたら、城の一階からあんたの玉座まで一直線で撃ち抜いて、エライ目に遭ってたところだ」

 

「十分エライ目に遭っている! 自分の城で落下させられるわ、結界には閉じ込められるわ、訳の分からん攻撃は喰らうわでな!」

 

魔王からすれば、最弱職にここまで手玉に取られるとは思ってもいなかったのだろう。少しばかり雑談して落ち着きたかったのもあるのかもしれない。魔王が一瞬目を閉じ、再びその目を開いた後はカズマを見据え、

 

「だが……それももう終わりとしようか。小僧、貴様……ワシと同じ冒険者だったな? 今までワシは相手の得意分野で叩き潰してきた。それだけのスキルも修得しておるし、全盛期を過ぎたとはいえ、その力にはまだ自信はある。そして、同じ冒険者であれば、貴様も様々なスキルを修得していよう。これまでの相手とは違い、貴様に合わせて、ワシも持つスキル全てで対抗させてもらう」

 

「最弱職相手に大人気ねーぞ!? 相手に合わせるなら手加減しろって!」

 

「今まで散々挑発してきて何を言うか! 行くぞ!!」

 

そうして、魔王は一直線にカズマへと駆けて行き、その手刀――ライト・オブ・セイバーを横薙ぎで仕掛けていた。

 

「ちょ……!? おい! 斬れただろうが! 全盛期過ぎた老人の動きかよ、これ!? 『ヒール』ッ!」

 

カズマも逃走スキルとエリスの支援魔法による効果によって直撃は避けたものの、その体からは血が滴っている。それをアクアから教わっていた回復魔法で急いで治療していた。

 

「やはり硬いか。貴様、クルセイダーのスキルを修得しているな? でなければ今の一撃で真っ二つになっておるところだ」

 

「うちには防御に関してだけは優秀なのがいるんでな! おかしな性癖は持ってるけど……」

 

「だが、硬いならやりようはいくらでもある。『クリエイト・アース』」

 

魔王の繰り出した初級魔法はもはや初級魔法とは言えず、大量の土砂を生み出していたのであった。それは津波のようにカズマへと押し寄せて行き……、

 

「防御力が高くとも、先ほどのように窒息させられては抵抗もできまい」

 

「舐めんな! 『クリエイト・アース』ッ!」

 

カズマもマナタイトを使用。魔王の生み出した土砂に対抗し、そして、

 

「『クリエイト・アースゴーレム』ッ!」

 

マナタイトで強化を行い、部屋にギリギリ収まる巨大なゴーレムを造り出していた。

 

「『クリエイト・アースゴーレム』……!」

 

魔王も同じく巨大なゴーレムを造り出し、カズマへ対抗しようとしていたが、

 

「そんなのまで使えるのかよ!? 狡いぞ! 魔王の癖して直接自分で攻撃しないなんて……」

 

「貴様が言うな! 先程ワシの雷撃を何らかの方法でコントロールしていただろうが!」

 

流石は魔族の王というべきか、詳細は分からないようだったが、自身の雷撃を喰らってしまった経緯は予想できた様であった。

カズマも何かとかしようと手持ちのスクロールを慌てて確認すると、ある一つのスクロールには説明書が添付されており、

 

『説明書:これはクリエイト・アースゴーレムを使用可能な方のみしか使えないスクロールです。まだ未完成ではありますが、実用には耐えられるはずです。理論だけで組み上げた物なので、不具合があっても責任は負えません。それを了承して、ご使用ください』

 

「何だこれ? ああっ……! こうなったらこれで……」

 

カズマがパラっとスクロールを開くと、ゴーレムの右腕にゴツイ装甲が追加され、

 

「コイツで殴れってか!? ……もう一つ説明書?」

 

『目標の遥か先を打ち抜くイメージで右手を突き出し、魂の咆哮を叫んでください』

 

……これって? まさか……!? ええいっ……もうやるしかねえ!?

 

「『ロケットパーンチ』ッ!!」

 

そのキーワードでカズマのゴーレムの肘部分の付け根から、火炎放射の様に勢いよく上がった炎がゴーレムの右腕を凄まじい勢いで飛ばし、魔王のゴーレムのどてっ腹に大穴を開けていたのであった。

その様子を見ていた魔王は信じられないような表情で茫然とし、カズマは、

 

……あいつは馬鹿なのか? これを理論だけで組むとか、頭の良い馬鹿なのか!? どれだけゴーレムでロケットパンチやりたかったんだ!? もう方向性が爆裂娘(めぐみん)ドMクルセイダー(ダクネス)と同じじゃねえか!?

 

心の中で全力でツッコんでいた。そして説明書にはもう一文。

 

『ドリルロケットパンチを期待してた方、ごめんなさい』

 

「誰も期待してねえええええ!!!」

 

そちらのツッコミで魂の咆哮を叫んでしまったカズマであった。ともあれ、魔王のゴーレムは崩れかかっている。こちらは右腕一本失ったとはいえ、十分稼働できる状態。ならこのままゴーレムで殴り掛かるのが最善策と思われたが……、

 

「マジですか……」

 

カズマのゴーレムは魔王のライト・オブ・セイバーで一刀両断されていた。この魔法は持ち主の魔力が高ければ高いほど威力を増して、術者次第では魔王城の結界にさえ押し入る事が可能になる魔法である。魔王程の魔力の持ち主ともなれば、ゴーレム如きを斬り裂くのは容易い。

 

「さて……続けようか。……冒険者!」

 

魔王はまだまだ元気に戦う気満々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからのカズマは逃走スキルを使いながら、狙撃で攻撃しながら逃げ回り、致命傷は避けていたものの、

 

「『インフェルノ』ッ!」

 

「『クリエイト・ウォーター』ッ!!」

 

魔王のインフェルノをマナタイトの魔力量で強化した大量の水を放つクリエイト・ウォーターで鎮火し、そのまま、

 

「『フリーズ』ッ!」

 

部屋一面、膝まで浸かるほどの水量をマナタイトで強化したフリーズで全て凍結させていたのであった。魔王は一時的に身動きが取れなくなるが、

 

「……貴様、何故浮いている?」

 

「教える訳ねえだろうが! これであんたは身動きが取れない。好きに攻撃させて貰うからな!」

 

攻撃を喰らいながらも、その言葉に魔王が呆れたようにため息をつき、

 

「『テレポート』」

 

自身の自由を封じていた氷を別の場所に転送し、カズマを迎撃していたのであった。

 

「老人の癖してなんだよ!? 弱体化しても身体能力も魔力も俺を軽く超えてるじゃねーか!?」

 

「舐めるなと言うのだ。伊達にこの年でも魔王をやってはいない」

 

カズマも反撃を喰らってしまい、文句を言いながら即座に回復を行っていたが……。

 

……まずいな。スクロールもマナタイトも残り少ない……。どうする!? 本当に倒せるのか!? この老人……。

 

目の前の老年の魔族のタフさに内心、冷や汗をかいていた。中級魔法による奇襲、魔王自身の雷撃による自爆、自身の手持ちの札をすべて使用してダメージは与えられるものの、これがどこまで続くのかと不安に駆られていたのであった。

 

そして……、その時が訪れてしまった。カズマは全てのアイテムを使い果たし、魔力も残り僅かとなっていた。

 

「はあ……はあ……。随分と手こずらせてくれたな……」

 

魔王もここまで、苦戦するとは思っていなかったのかもしれない。肩で息をして動きも鈍っている。

 

「そろそろ倒れろって……。この老……人……。『ヒール』……」

 

対するカズマも壁に寄り掛かり、もうその場から一歩も動けないところまでダメージを負い、体力を消耗していたのであった。

 

「ここまで傷を負ったのは久しぶりだ……。どうだ? ここで手打ちにして、ワシが貴様らに協力するというのは?」

 

意外な魔王の提案であったが、

 

「はっ……!? それで安心した途端、後ろから首を絞められたらたまらねーよ!」

 

「悪い案では無いと思うのだがな……? 貴様はもうテレポートすら使えまい。このままでは、逃げる事さえできんぞ?」

 

「さっき言ったろ? 俺が殺されたら、たまらないって……。もしそうなったとして、あんたがうちの連中に同じ事を言う保証はないだろ?」

 

「だが、どの道このままでは、貴様らは外の人間達と共に消えるかもしれん……。そうなっては意味があるまい」

 

魔王の提案にも一理あるが、もし外の冒険者達が負けたとしても『厄災』の女の子も消耗している。なのでそこを魔王軍が叩けばいい。魔王軍にとっては厄介な人間と危険な兵器を一掃するチャンスでもあるのだ。

 

「悪いが信用できない。あんたを倒さなきゃ、俺達の安全なんて確保できないんだよ……」

 

消え入りそうな声のカズマであったが、魔王を睨みつけてはっきりと拒絶を口にしていたのであった。

 

……けど、どうするか……。どっかの火山の火口でもテレポートの転送先にしておけば良かったか……。まあ、俺が魔王に触れるのは土台無理かもしれないからな……。そういえば……スキルポイントも随分と余ってたか……。

 

何気なく、冒険者カードの修得可能スキル一覧を見渡すと、

 

「は、ははは……。そうか……そうだよな……。あれだけとんでもない目に遭ったんだ……。嫌でも覚えちまうか……。爆裂以上のスキルポイントなんて、笑えねーぞ……」

 

自嘲気味に笑うカズマだった。痛みと恐怖を伴う経験は嫌でも記憶してしまうというが、あの光景ははっきりと覚えている。サキュバス達を守るために、最後に残った自分が垣間見たあの背筋の凍る戦闘を。

 

紅魔の里で彼は言っていた。ただ強い武器を造るだけの魔法だと。だが女神は驚愕していた。特典に匹敵するとも。

 

……悪い。お前がどれだけ時間かけてあれに至ったかなんて……俺には想像できねーけど、今だけは使わせてくれ。

 

心の中で謝罪しながら、カズマは冒険者カードを操作し、目を閉じ集中。そして詠唱を。

 

「咎人達へ処断の刃を……」

 

一度しか耳にしていない詠唱にも関わらず、はっきりと浮かび上がる言霊と、星が集っていく光景。

 

「星よ集え……、万物を断ち切る刃となれ」

 

それは魔力残量が少なくとも、否、魔力を消費した後こそ最大の力となる魔法である。

 

「斬り裂け、光剣……」

 

カズマの手に握られていたのは、魔力で形作られた一振りの剣。今まで消費した魔力――自身とマナタイトを用いて放ち、空気中にばら撒いた魔力を再び一つに集めて、武器としたのであった。サキュバス騒動で詠唱すらも脳裏に焼き付き、忘却を許さず、カズマにとっては恐怖の記憶そのものである魔法だった。

 

……マジかよ。こんなの集中してなきゃすぐに壊れるだろ。こうなったらアクアの蘇生頼みで、相打ちにでも期待するか……。

 

カズマは力を振り絞り、最後の攻撃を仕掛けようとしていたが、

 

「き、貴様……!? そうか……その髪と瞳の色。それが貴様の得た神の恩恵か!?」

 

カズマの魔法を所謂(いわゆる)チートだと思ったらしい。それを耳にすると、

 

「……おい、今なんつった!!」

 

カズマが突然殺気立ってしまったのであった。

 

「だ、だから、ワシの先祖と同じく、神から得た恩恵だと……」

 

その気迫に魔王すらもオロオロしてしまったのであった。そしてカズマは……、

 

「ああっ……! こいつを頼めば貰えるチートと同列に扱うんじゃねえええ!! これを修得可能になる為に、俺が……俺達がどれだけの犠牲を払ったか……テメエに分かるのか!? ええっ!」

 

「い、いや……、そうでなくては辻褄が……」

 

「そうだよな! テメエだってチート持ってるもんな! ああそうですよ。俺がアクア連れて来たせいで、どれだけ苦労したか分かってるのか!? 借金はこさえるわ、トラブルは引き当てるわ。そのせいでどれだけ身を削ったか……。口に気を付けやがれ!!」

 

それでも足りないカズマはさらに捲し立て……。

 

「確か『勇者』ってのは、”勇気ある者”だよな! だったらあの時の俺は……、いや、アクセルの全男性冒険者達は、紛れもなく『勇者』だった! 誰が否定しても俺達だけは、その誇りを胸に持ってるんだよ! 舐めるんじゃねえええええ!!!」

 

怒りに燃え、痛みすら忘れてしまったカズマは魔力の剣を持っている腕を大きく振りかぶり、魔王へ向かってぶん投げた。だが、狙いも定めないままとはいえ、魔王に真っすぐ進んでしまっているのであった。

これは狙撃スキルの恩恵である。狙撃手の腕の他に幸運値で命中率が決まる。幸運の女神エリスの支援によって、ありえない幸運となっているカズマならではだろう。

 

「くっ……! これは……!?」

 

それの剣の投擲は魔王の防御を難なく突破しダメージを与えてはいたが、行動不能にするには至らなかったのであった。

 

「惜しかったな……。これだけの魔法だ……、相打ち狙いならワシを倒せていただろう……」

 

これはおそらく嘘ではない。それだけの焦りと恐怖を瞳に宿していた魔王であった。カズマも最後の力を振り絞ったからか、その場に座り込んでしまっていた。

 

だが、忘れてはいけない。この魔力の剣、形は片手剣ほどのサイズではあるが、凄まじい量の魔力を剣の形に圧縮しているものだという事を。熟練の魔導師なら多少手から離したところで、その形を失う事は無い。しかし、この場の剣は先ほどスキルとして修得したカズマが作りだした物だ。当然……、

 

ドオオオオオオオオオオン!!!

 

術者の制御を失った魔力は、その場で爆音と城全体を揺らす程の衝撃を伴って炸裂してしまったのだった。それでも魔王城が無事だったのは、ひょいざぶろーの魔道具による結界のおかげだ。破壊されながらも多少威力を減衰させたのである。

当り前だが、爆心地のカズマと魔王は目を回し、その場に気絶してしまったのであった。通常では二人共死亡しているだろうが、気絶で済んだのは非殺傷設定のままスキルを修得してしまったからだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……マ! カズマ! しっかりしなさい!」

 

カズマが目覚め、アクアの太腿に頭を乗せられて膝枕されているのが分かったが、すぐに立ち上がり、

 

「魔王はどうなった!?」

 

「魔王ならまだあっちで伸びてるわよ。私達はすっごい音が聞こえたから、ロープで降りて来たの。そしたら、二人が倒れてて……」

 

カズマを介抱していた経緯を説明したアクアであったが、カズマはフラフラしながら気絶している魔王の元に身を寄せ。

 

「『ドレインタッチ』……」

 

ドレインタッチで魔王の魔力と体力をほぼ限界まで吸い取った後、

 

「『スティール』ッ! 『スティール』ッ! 『スティール』ッ!」

 

複数回スティールを発動させ、もしも魔王が武器を隠し持っていた場合の為にそれを奪おうとしたが、特に武器は持ってらず、半裸の魔族の老人が出来上がっていた。それを見た、うら若き乙女達は、

 

「「「「きゃああああああ!!!」」」」

 

悲痛な叫びを上げていたのだった。カズマは続けて、

 

「『スキルバインド』ッ!」

 

盗賊スキルのスキルバインドで魔王のスキルを封じ、

 

「『バインド』ッ!」

 

自身の持っていたロープで魔王を縛りあげたのだった。それを黙って見ていたその場の面々は、

 

「「「「うわっ!!?」」」」

 

後退りながら、ドン引きしていたのであった。しかしカズマは悪びれることなく、

 

「あいつだって言ってただろうが! 勝ったと思った時が一番危ないってな。ここまでやれば、しばいたのと変わらねーだろ!」

 

確かにその通りだが、おそらくここまで辱めを受けた魔王は彼が最初で最後であろう。そしてカズマが、

 

「さっき魔王城に入る前、テレポートの転移場所に魔王の娘さんがいた辺りを登録しておいたから、早く行こうぜ! 魔力足りなかったら、悪いけどアクアから貰うぞ?」

 

そうして、魔導師との約束を果たすべく、魔王城の入口へと転移を行ったのであった。

 




スクロールに関しては、今まで造った物とゴーレムの分は単身魔王城を訪れる前に、ウィズ魔道具店に持って行った新作の分になります。
未完成となっているのはドリル付じゃ無いからですね。

魔王討伐はやっぱりカズマさんの役目だと思ったので、こうさせてもらいました。
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