この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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この『幸福』の少女に祝福を

6年前、夏。海鳴市にて……。

 

「……何で俺まで引っ張られてんだ?」

 

「あんた、探し物とか得意でしょ? 良いから手伝いなさい!」

 

「俺もこれから色々試したいんだけどな……」

 

金髪で生意気な少女――アリサ・バニングスに文句を言いながら、強い日差しが照り付け、セミがミンミンと鳴く声を聞きながら海鳴の図書館に行くとそこには……、

 

「アリサちゃーん! ゆーくーん! こっちこっち!」

 

その玄関先になのは達が集合していた。小学四年の夏休み、自由研究課題をどうするかをみんなで考えようとの事で集まったのだった。

 

「悠君は自由研究の課題は決まったの?」

 

ふわっとした長い髪が特徴の月村すずかが、おずおずと質問してきたので、

 

「ペットボトルロケット作る! 空戦魔導師に当てられるくらいの勢いで飛んでくヤツ!」

 

拳を握り、その決意を表明すると。

 

「あんた、バカなの? なのは達に当てるくらいなら、自分で飛べばいいじゃない!」

 

「バカって言う方がバカなんだぞ! ロケットは男の浪漫なんだぞー」

 

「そんな浪漫なんて分かりたくないわ……」

 

アリサとは自然と口喧嘩になってしまう事が多いが、ここは図書館。当然……、

 

「二人共、図書館で大声出したらあかんよー」

 

「はやての言う通りだよ。静かに」

 

はやてとフェイトから注意をされてしまったのであった。人差し指を口に当て、シーっとしながら困った顔をしていた。

俺自身も丁度いいので、図書館でペットボトルロケットについて調べていたのだが、すずかがある本を読み耽っていたのが気になってしまい。

 

「花の図鑑とかどうするんだ? 何か良い題材でも見つかったのか?」

 

「そうじゃないけど……。これってなのはちゃんの……」

 

すずかの元に全員が集まり、そのページを覗くと……、

 

「へぇ……。『快活な愛』……、『競争』。なのはにぴったりだ」

 

「にゃはは。そうかな?」

 

フェイトの一言に、ちょっと照れた感じで笑うなのはだった。しかし、

 

「『全力全開』とか『頑固者』じゃなかったのか!?」

 

「にゃ!?」

 

驚いたというか、斜め上からの俺の指摘で変な顔になってしまった翠屋の末娘であった。

 

「あんたはロマンチックの欠片も無いわね……」

 

「そっちだってロケットの浪漫が分からねーじゃん。おあいこだろ」

 

ジト目で俺を批判していたアリサであったが、俺とアリサ双方ともこれ以上喋れば口喧嘩になってしまいそうな自覚があるので、ここで止めて、すずかの読んでいた本をパラパラと捲ると、とある花が目についた。

それは沢山咲くが、他に比べれば主役とは言えない小さな花で――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女と魔王城前に集った人間達の戦いは、苛烈を極めていた。死者こそ出てはいないものの、たった一人で、アクセルの冒険者、アクシズ教徒、紅魔族、王都の騎士団と互角に渡り合う『厄災』と呼ばれる少女。その周りには兵隊とも言えるゴーレムが縦横無尽に配置され、彼らへと襲い掛かる。それを……、

 

「『A.C.Sドライバー』……!」

 

突撃で全て薙ぎ払おうと突っ込む前に、

 

「『速度強化』!」

 

「『筋力強化』!」

 

「『防御力増加』!」

 

おそらくはアクシズ教徒の面々だろう。タイミングを合わせて、俺に支援魔法を施してくれていた。アクアの魔力を貰ったのも効いているらしく、進路上にあるゴーレムを全て瓦礫にして破壊する事に成功した。

 

「……あいつ、何体壊した?」

 

「数えられるわけないでしょ! あんなの……」

 

ダストの問いかけにリーンが少しばかり怒りながら答えていたが、自身はもう数えるのも面倒になるくらいの破壊を繰り返していたのだった。その傍から兵隊を作り直し、体勢を整える相手方。この修復速度は紅魔の里の復興速度に通じる物がある気がする。

 

「……かくれんぼはもう終わりにしようか?」

 

突撃した先には女の子が一人。無機質な瞳の日本人の様な黒髪と黒目の小さな子。その子は、

 

「『カースド・ライトニング』……」

 

黒い雷を放ち、俺を葬ろうとするが、

 

「『ライトニング』ッ!」

 

こちらも雷の中級魔法で対抗する。それは中級魔法とはいえ、アクアの魔力のおかげか黒い雷と互角の威力で相殺し合い、周囲に衝撃波が駆け抜けていた。

 

『最優先破壊対象接近。迎撃』

 

……最優先ね。こっちとしては好都合。俺が相手してれば応援のみんなはゴーレムの相手をすればいい。

 

その考えで、女の子と戦ってはいたが、周囲は……。

 

「アクセルの大魔王……恐るべし!」

 

アクセルの連中、特に男性冒険者! 誰が大魔王だ!?

 

「ア、アクア様! あれはアクア様のお力です! アクシズ教をお願いします!」

 

アクシズ教徒の皆さん。戦いながら布教活動とは余裕ですね……。しかも俺を引き合いに出して……。

 

「こ、これは……書きかけの小説を執筆し直した方が良いだろうか!? あの姿、是非とも加えたい……。しかし、印刷まで時間が……」

 

あるえ……。それよりも目の前の敵に集中しろ。軽くゴーレム倒してるから良いけど……。

 

「ユウお兄様! 援護しますね! 『セイクリッド・ライトニングブレア』ッ!」

 

アイリス……。援護は嬉しいけど、雷と光の奔流で相手を消し飛ばす魔法覚えているとか、おっかないんですけど……。

 

割と余裕そうに見えてもこのままではこっちのスタミナが持たなくなるのは自明の理。どこかで突破口が必要になる。そう考えていた時、

 

ドオオオオオオオオオオン!!!

 

ここまで響くほどの大音量で、爆発音が耳に入ってしまったのだった。

 

……さっき爆裂が外まで抜けたのは見えたが、これは……?

 

そんなのを考える暇はない。今は目の前に集中しなければと言い聞かせ、再び女の子と対峙したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらよ。これで良いか? あんたの父親、悪いけど……しばかせてもらった」

 

その魔王さんの姿に絶句する魔王の娘さんと魔族達。それもそのはず、今の魔王さんは傷を負い、気絶しているのは良いが、半裸にされたうえ、ロープでの拘束で身動きが取れなくなっているのだから。

 

「……鬼畜だ」

 

「ああ……。アクセルの鬼畜冒険者だ……!」

 

などと、魔王軍からもドン引きされていたカズマであった。冒険者と戦って負けるまでは良くても、ここまでの辱めを受けているのは想定外だったらしい。

 

「ちょっと待て! 誰が鬼畜だ!!?」

 

カズマも納得いかないとばかりに抗議の声を上げたが、

 

「……これは仕方ないと思うの。私としては魔王しばくまでは良いけど、服をひん剥くとは思ってなかったから……ね?」

 

「ええ……。冒険者から、追剥ぎにクラスチェンジしたと言われても仕方ない光景です……」

 

「カズマ……、今度は是非、私で試してくれないか!? 頼む! 公衆の面前、しかも敵味方双方の目の前で辱められるなど……くっ……!」

 

アクア達は擁護のしようが無かったようだ。一方、魔王の娘さん改め、新しい魔王さんはというと、

 

「高くついたキスだったわね……」

 

「おい! 不意打ちでやって置いて、何言いますか!? あんなの無効、無効です!」

 

「そうですよ! 誰だって心の準備くらい必要です!」

 

少しばかり呟いただけだというのに、紅魔族の二人から親の仇のように睨まれていた。

 

「早い者勝ちって言葉知ってる? 近くにいる癖して、まだな方が悪いのよ! ……っと今は止めましょう」

 

そう言って、真剣な表情になった新魔王さんは、

 

「魔王軍、これからあちらの援護に回ります。ですが、無理にとは言いません。戦う気のある者だけ、付いて来なさい!」

 

戦う気のある者だけ。それではもしかしたら、新魔王さん以外は戦線に加わらない可能性もあった。だが、

 

「先ほどの人間には、爆裂魔法を防いでもらった借りがありますからな。ご一緒しましょう」

 

「ふむ。そこの鬼畜はともかく、借りを返さなければ、戦う際にも心苦しくなりますね」

 

など、魔族達もこちらへと協力的な姿勢を見せていたのであった。魔王軍も戦線に加わり、徐々にではあるが女の子の軍勢は数を減らしていた。そんな折、

 

「カズマ君! キミも準備しておいて! 最後はあたし達の出番になるよ!」

 

「エリ……じゃなくてクリス。最後ってなんだ? 俺は大仕事終わったばかりで、もう動きたくはないんだが?」

 

「ユウが腕輪の機能を一時停止させた後だよ! そこであたし達の幸運の見せどころだね! あの腕輪は機能を停止させないと奪うのは難しいよ! あれにはスティールを邪魔する効果もあるから。簡単に盗まれないようにするための措置だろうけど」

 

いつの間にか合流していたクリスがカズマに最後の役割とやらを説明していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女の子と一対一で戦っていた俺ではあったが、この戦いは激しすぎて他者が介入できるものではなくなっていた。その様子は。

 

――同種の魔法で相殺し合うのは良いものの、その魔法の余波や流れ弾で他の人員が近づけずにいる。

――女の子は俺の魔法を見ただけで、修得するほどの知力とセンスの持ち主のため、こちらが手の内を晒せば晒す程、不利になり危険性が増す。

――接近戦ですら、ライト・オブ・セイバーなどの魔法で並の戦士系では防御ごと打ち砕かれる。

 

そんな状況であった。俺自身としても無用な被害を出すわけには行かないので、このまま彼女をここに留めておく事しかできなくなってはいる。だが……、

 

「お邪魔するわよ? 全く……。一人でここまで戦えるとか……、あなただって規格外も良い所ね?」

 

「ちょ……、いきなり何をなさいますか!? 離していただけませんか!?」

 

何故か新魔王さんが青い鎧姿のジタバタするアイリスを脇に抱えて、俺の傍に来てしまっていましたよ。

 

「……アイリスどうするつもりですか? さっさと離さないと、護衛が来ますよ?」

 

「護衛に説明するの面倒だから、こうして来たの。兵隊は私達魔王軍が加われば押し勝てる。だったら、今度は大将をどうにかするには?」

 

「この場の最大戦力が複数名で当たれば、有利に事を運べる可能性は高まりますね」

 

「よろしい。数には数。そして、勇者が得る神の恩恵には、同じく神の恩恵で対抗する。それもこの三人でね」

 

まるで女教師の様なノリでニッコリと笑ったお姉さんだったが、俺にはアクアの魔力による強化、そして新魔王さんとアイリスは勇者から受け継いだ力で、目の前の少女の能力に対抗する算段だろう。

 

「けど……、アイリスは基本後方支援で良いですね? 前は俺とお姉さんで」

 

「そうね……。能力は高いけど、経験不足が痛いわ。並大抵(ドラゴン程度)の相手なら良いけど、あれは並じゃないしね」

 

俺とお姉さんで勝手に話を進めているのが気に入らないアイリスは、頬っぺたを可愛らしく膨らませていじけながら。

 

「ユウお兄様! 私だってやれます! 私だって勇者の子孫ですから!」

 

「その剣の斬撃飛ばしと、さっきの魔法でも十分な力になれるって。だからここは……な?」

 

「せっかく……武器庫から、なんとかカリバーまで引っ張って来ましたのに……」

 

……はっはっはっ。驚愕の事実を知ってしまった気がするなあ……。それって、俺のデバイスのオリジナルって言って良い剣ですよ。後でグレアムおじさんに手紙書こうかな? おじさんの国の伝説の剣見つけましたって。

 

「まあ、そこのチビ王族連れて来たのはそれだけじゃないけどね。()()()()()()()()()()()()()()()()と思ったからよ。あの娘を」

 

アイリスをチビ王族呼ばわりですか。

 

「あなた!? いくら魔王だからって、初対面の人間をチビ呼ばわりするのは、どうかと思います!」

 

「良いからよく覚えて置きなさい……。あの娘はもしかしたら、ありえたかもしれない私達(勇者の子孫)の可能性よ。神の恩恵なんて物を得たせいで、戦わざるを得なくなった……ね」

 

俺以外のこの場の三人の女性の共通点。それはアクアから特典(チート)とやらを受取った人間の血を受け継いでいるという事だ。それを望んだ本人ではなく、その子孫――生まれただけで有無を言わさずその力を継いだ者達だ。お姉さんの態度から、ちょっとした違和感を感じてはいたが。

 

「……不思議には思ってました。お姉さんはあの娘を殺そうとしてはいましたが、敵意を抱いていないようでした……。もしかして……」

 

「そうね……。言ってみれば同類だもの。敵対はしても嫌いにはなれないわ。だから猶更、私の手で終わらせようとしたけど、邪魔が入ったのよ?」

 

この人も相当な意地っ張りだなあ……。けど、

 

「お姉さんもやり方はあれですが、結構……、情が深そうですね?」

 

「惚れた?」

 

「惚れません」

 

俺の回答に満足はいかなかったようではあるが、アイリスを含む三人で顔を見合わせ、

 

「カズマもやってくれたし、ここまで来たら、後は俺がやるだけだな!」

 

「今回だけはあなたに乗ってあげるわ! 好きにやりなさい!」

 

「カズマお兄様……。私、頑張りますね!」

 

厄災と呼ばれる少女との戦闘を繰り広げたのであった。

 

「『セイクリッド・エクスプロード』ッ!」

 

それはおそらくはドラゴン程度は真っ二つに出来るほどのアイリス必殺の一撃。それすらも、致命傷とはならない相手である。まあ、俺と同じシールドだのフィールドだのをありえない出力で展開しているせいでもあるが。

 

「チビ王族! もっと細かく援護なさい。大振りじゃなくて、牽制程度で良いの!」

 

ホントに律儀な人だなあ……。ちゃんとアイリスに指示出してるよ。

 

「こうですか? 『エクステリオン』ッ!」

 

今度は斬撃飛ばしを複数回行い、相手の動きを制限するようにしていると、

 

「『ライト・オブ・セイバー』ッ!」

 

「『ブレイズカノン』ッ!」

 

お姉さんと俺の魔法で両側から攻め立てていたのだが……。

 

「『ヒール』……。全力でやって撃ち負けるなんてね。それでもこっちの腕が飛ばないだけ良いけど」

 

「あれとそれなりに拮抗できるお姉さんの方が、凄いですって。普通なら真っ二つです」

 

「私、レベル上げは楽なのよ。そのおかげでの能力だけど」

 

軽口を叩いてはいるが、お姉さんの魔法は打ち負け、手の平から血が流れている。あっちは確かに魔力を消耗してはいるが、このままでは時間が掛かりすぎて、こちらの疲労がたまる一方になる。

 

……賭けに出るべきか? 出来ればカズマ達と打ち合わせたいが……。

 

なんて……考えていると、

 

「嫌っ! 嫌よ!? あのありえない戦闘してる四人の近くなんて、行きたくないわ! 地面とかクレーターよ!? 漫画じゃないのよ!?」

 

「うるせー! お前が自分で結界張ってどうにかしろ! 仮にも女神だろうが! クリスの言う事聞いておいた方が良いだろ! 近くにいなきゃいけないからな!」

 

「アクアが無理なら私がどうにか盾になろう。何、あの戦闘の真っただ中なら、望むところだ!」

 

「マ、マナタイト……、マナタイトで爆裂を……」

 

まるで俺の考えを見透かしたように、カズマ達が近くに来ていました。特にアクアは無理矢理らしく、カズマに首根っこ引っ張られて泣き出している。

 

「すいません。お姉さん! ちょっとだけ外れます」

 

それに頷く新魔王さん。おそらくカズマ達をちゃんと認識していて、行って来いとの事だろう。

 

「みんな! 済まないが、やって欲しい事がある。良いか?」

 

その作戦をみんなに説明していたのだが、

 

「私はもう爆裂が撃てません。マナタイトも使い果たしてしまいましたから……」

 

「……これで良いか?」

 

「今日は一日で何発の爆裂を……!? ユウも持っていたなんて……」

 

そうして、めぐみんに最高純度のマナタイトを一つ手渡したのだった。紅い眼を輝かせて興奮しているめぐみんだが、これは魔王城に発つ前にウィズの店で買ったエターナルコフィン用に使うはずだった物だ。

 

「カズマ、悪い。あの娘の魔力が空になったら、ドレインで吸い取って貰えないか? そうすれば魔力回復が遅れて、腕輪の機能が制限されたままになるはずだから」

 

「構わないけどな。ただ、吸ったところで、すぐに俺の魔力が満タンになって後が続かないぞ?」

 

成程、だったらめぐみんにでも回して爆裂で消費してもらうか? との案を出そうとしていたが、

 

「……アクア、お前の魔力の上限値ってどのくらいだ?」

 

カズマが不意にアクアへと問いかけていた。それに対し、

 

「私は女神よ! はっきり言えば、上限なんて無いに等しいわ!」

 

アクアが自信満々に答えていました。それを聞いたカズマが、ベルディアの頭でサッカー始めた時の様なおっかない顔をしておりました。そして……、

 

「だったら――」

 

よし。話は決まった。後は実行するだけだ!

 

女の子と戦っているアイリスとお姉さんに向けて、大声で、

 

「一旦、退いてください! 作戦を説明します!」

 

その指示で二人が下がった後に、説明を行ったのであった。少しすると、

 

「全員、戦闘中止で下がれ!」

 

それでここに集まった冒険者達や魔族も全員が魔王城の結界前まで下がったのだった。ゴーレムの大軍はほとんど倒しつくし、女の子も俺達の相手をしていたので、新たにゴーレムを造り出す余裕も無くなっていたらしい。

戦闘行為を中止する――これは、あちらに魔力回復の時間を与える事だが、それが狙いである。

 

上級魔法を撃つよりも、ゴーレムの大軍を生み出すよりも、最も効率の良い殲滅方法――つまり爆裂魔法を撃たせて、彼女の魔力を空にする。それが最後の作戦だ。

それは見事に嵌ったようで、爆裂魔法の詠唱を開始していた。

 

「……――深淵より来たれ」

 

こちらの大軍を全滅させるには、爆裂魔法が最適解となったのだろう。あの娘がこの場で最初に爆裂魔法を撃った時は、俺らと魔王軍の双方を倒そうとしていた。おそらく、機械的、効率的に敵を倒すようにプログラムされていると思われる。

そして、めぐみんも爆裂の準備を始め、二人共同時に、

 

「……『エクスプロ―ジョン』」

 

「『エクスプロージョン』ッ!!!」

 

二つの爆裂は戦場の中央でぶつかり合い、相殺し合い、何処まで届くか分からない程の衝撃波や轟音、閃光が駆け巡り、そして……、

 

「行くぞ! カズマ、アクア!!」

 

二人を両脇に抱えながら、全力の高速移動で女の子に接近したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お兄ちゃん……。わたっ……わたし……」

 

目の前の少女は消えりそうな声で目に涙を貯めて、震えていた。魔力を使い果たし、一時的に腕輪の支配から逃れて、自分のやってしまった事を理解したらしい。

 

「アクセルに帰ろうか……。かすみ」

 

「……えっ!?」

 

ポカンとしていた目の前の少女――かすみだった。改造手術で記憶を失い、自分の名前すら憶えてはいないのだろう。こうなってからは名前を呼ばれるなんて経験すらなかったはずだ。その光景を、

 

「……カズマさん、私、貯水池になった気分なんですけど……」

 

「今良い所だろうが! お前は少し黙ってろ!」

 

カズマがゲンナリしているアクアにツッコミながら、見守っていた。

今カズマは、かすみからドレインタッチを使って全力で魔力を吸い上げている。腕輪が魔力を回復させる傍から吸い上げているのだが、カズマではすぐに魔力が満タンになってしまう。なので、

 

「私、水の女神様よ!? タンクなの!? 今の私はタンク扱いなの!? 魔力貯めるタンクじゃなわいよ!!」

 

吸い取った魔力はそのままアクアへと流している状態であった。さっき上限なんて無いに等しいなんて言ったので、いくら魔力を渡してもその流れが滞る事がない。まさに逆転の発想だろう。それでも長くは続かないだろうが、時間は稼げた。

 

「全力でやってるけど、そんなに時間は稼げねーぞ! 言いたい事があるなら早くしろ」

 

カズマが急かしていたので、それに頷き、

 

「教えるのが遅くなってごめんな。バニルに占って貰ってから、かすみがちゃんと元に戻ってからって思って黙ってたんだ」

 

頭を撫でながら、泣きそうになっている少女を諭していたが、

 

「そんなのいらない! わたしを殺して! お願いだから!! もう嫌なの!! 私はいたらいけないから……」

 

泣きじゃくって、自分をここで終わらせて欲しいと訴えかけていたのだった。

 

「おねぎゃい……!? おひいひやん!?」

 

奥義の一つ、頬っぺたグニグニ。これで反論すらできまい。最もかすみが何言おうと、ネガティブな意見は全部却下なのだが。

日本人の様な名前で黒髪黒目ではあるが、この娘はこの世界で生まれた子。ここでは日本人的な名前はへんてこと言われる。おそらく両親のどちらかがチートを持つ日本人だが、わざわざそんな名前を付けた意味は……。

 

「いたらいけないなんて言っちゃダメだよ? かすみの名前はご両親が『幸せでありますように』って意味で付けたんだから」

 

カスミソウ――小さい白い花を沢山つけ、春霞の様に見える事から日本ではそう呼ばれる植物。その花言葉は『清らかな心』、『無邪気』、そして『幸福』。この世界、人間と魔族が争い、理不尽に命が奪われていく。それでも幸せを掴んで欲しいと。そんな願いから付けられた名前なのだ。それを説明しながら、

 

「少なくとも、かすみはそうして生まれて来たんだから……ね?」

 

目を見ながらかすみを撫でて、安心させるようにしていた。そして、そこまでは黙って聞いていたアクアとカズマだったが、

 

「カズマの名前って和やかで真っ直ぐな人間になって欲しいって感じなのに、どうしてヒキニートになっちゃったのかしら?」

 

「うるせーぞ! 俺の事はどうでも良いだろうが!」

 

……少し、静かにして欲しい。

 

「けど、わたし、昔……、壊して……みんな動かなくなってて……」

 

「そうだな。けど俺も、ここにいるカズマ達だって、お前さんを助けるためにここに来たんだ。後ろの人達だって、報酬も何も出ないのに、それだけのためにな」

 

それはもしかしたら残酷かもしれない。想像も出来ない程の苦痛かもしれない。だけど……、

 

「だから、目を逸らさないで、前を見て。かすみは一人じゃない。これからでも生きて幸せになって良いんだから。かすみはどうしたい?」

 

そこまで聞いて泣き出しそうになっている目の前の女の子は、

 

「わたしも……、屋敷にいた時みたいに暮らしたい……。みんなでご飯食べて、遊びに行って、一緒に眠って……」

 

そこまで言いかけた時に、かすみの意識が遠のきそうになっている感じだった。カズマのドレインの吸収速度を腕輪の魔力回復速度がわずかばかり上回っていたようだ。そして、

 

「おね……がい……。わたしを……たす……けて……」

 

「任せろ!」

 

かすみが意識を失う寸前、”助けて”……と言ってくれていた。この一言を言ってもらうのに、どれだけの大事になってしまったのやら。と心の中でため息をついてしまっていたが。

 

「カズマ、アクア。……離れていてくれ」

 

その指示に二人は全力で、逃げる様に、まるでこれからヤバい事をしでかすとでも思っているかのように、走り去って行ったのだった。

 

『Restrict Lock』

 

かすみが腕輪に支配されて動き出す前に、全力のバインドで縛り上げて動きを封じる。そしてデバイスへ、

 

「俺と……ここに集まってくれた人達が使った魔力を限界まで集める。行けるな?」

 

『勿論です』

 

天界でエリス様の言っていた腕輪の欠点――一つは魔力の回復速度。もう一つは一度に大量の魔力を吸い込ませるとオーバーフローを起こして、一時的に機能が停止する事だった。

俺一人の魔力なら土台無理な話だった。けど戦闘後でここにいる全員がばら撒いた、信じられない量の魔力が散布されている今なら、それは可能になる。

 

「……綺麗」

 

後ろで俺達の様子を見守っていた誰かが呟いていた。魔力の粒が集まり、一振りの刃を形成していく。それは散らばった星が生み出す極光の剣となり……、

 

「この魔力……全部くれてやる!!」

 

裂帛の気合と共にその刃を振り下ろした。

腕輪は自身の周りにある魔力を吸い込もうとしたが、高密度の魔力の塊を一気に流し込んでしまったため。

 

『エラー発生。一時的に機能を停止します』

 

その無機質なアナウンスと共に魔力の吸収が止り、それと同時に、

 

「「『スティール』ッ!」」

 

この瞬間を狙っていたらしいカズマとクリスがスティールを発動させていた。その目論見通り、クリスの右手には腕輪が握られており、それをアクアへ向かって投げつけ。

 

「アクア先輩! お願いします!」

 

「えっ!? おっ……、お願いって!?」

 

エリス様口調のクリスとオロオロするアクアだったが、すかさずカズマが、

 

「ぴよぴよ丸でぶった斬れええええええ!!」

 

それで何をするのか理解したらしいアクアが腕輪に狙いを定めて一刀両断。そして、目を閉じ厳かな雰囲気で一言。

 

「またつまらぬ物を斬ってしまったわ……」

 

思いっ切りツッコみたくなってしまった。ハリセンとかないかなあ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、終わった……」

 

先程の一撃で魔力を使い果たしてしまったらしく、俺の髪や瞳の色も元に戻ってしまい、疲労からその場に座り込んでしまったが、

 

「お兄ちゃん? あの……」

 

「おっ! 痛い所とか無いか? あったらアクアに見て貰わないと」

 

腕輪の支配から逃れて、元に戻ったかすみが遠慮がちに近づいて来たのだった。俺の一撃で結構な衝撃だったはずだが、普通に歩けるくらいには大丈夫なようだ。そして、いつの間にかみんなも俺達の近くまで来ていたようで……。

 

「やりましたね! 私達の勝利です!!」

 

「うむ。一件落着か。アクセルに帰ろう」

 

「まさか、魔王城に攻める事になるなんて思いませんでしたけど……」

 

めぐみん達も満足したような表情でその場で歓談していた。そしてクリスの方を向き、

 

「一番良いとこ持ってたな? あの場面でスティール成功させるとか流石は幸運の――」

 

「それは秘密の方向でね? もしかしたらカズマ君だけでも良かったかもしれないけど、成功率を高めるためだよ!」

 

「そういえば、カズマ? 何持ってるんだ?」

 

カズマも同時にスティールしていたので、何かを盗ったはずだが、その手にあった物は……純白の――

 

「……ぱんつ?」

 

それを見た途端、かすみが今にも泣きだしそうになってしまい……。

 

「……ひっく。えっく……。ぐすっ……」

 

それで分かった。なので、かすみを抱きしめて安心させる様に笑顔で、

 

「大丈夫。大丈夫だから。これからカズマには、生まれて来た事を後悔するくらいのすんごい目に遭って貰うから、それで許そうな?」

 

その呟きでカズマが顔面蒼白になりながら、

 

「待て! これは故意じゃない! 分かってるだろ? いくら俺だって、あの場面でぱんつ盗ろうとは思わないって!」

 

「その割には、ぱんつ……、握ったままだな? 悪いと思うならすぐに返せば良いだろ? うちの子泣かせてタダで済むと思うなよ……!」

 

「いつお前ん家の子になったんだ!? 勝手に決めるな!」

 

「これからするから良いんだよ! さて覚悟して貰おうか……」

 

殺気立つ俺と脂汗を垂らしながら逃げ回るカズマ。それを見ていたギャラリーは……。

 

「魔王を倒した最強の最弱職とアクセルの大魔王の一戦だ! どっちが勝つか賭けねえか? 一口1000エリスだ!」

 

声の主はおそらくダストだろう。俺達をダシにして賭けを主宰して一儲しようと考えているらしい。しかし周りも面白がったのか……、

 

「カズマに2000エリス!」

 

「俺もカズマに1000エリス!」

 

「ユウに3000エリス!」

 

完全にその場が賭博会場と化してしまっていたのだった。それは人間だけではなく、

 

「鬼畜に2000エリス!」

 

「魔王様の婿に1000エリス!」

 

何故か魔王軍まで加わっていたのだった。一緒に戦って親近感でも湧いたのだろうか? それよりも……、

 

「「誰が鬼畜(魔王の婿)だ!」」

 

と二人で全力のツッコみをしてしまった。

そしてこの勝負、二人共疲れ果てるまで続き、アクセルにテレポートで帰る頃には夜も更けてしまい全員が泥のように眠りについて、次の日の朝を迎えた。




謎の女の子もとい、かすみちゃん。名前の伏線になってた部分をまとめます。

96話
・バニルの占いで『この娘は、こんなのになる為に生まれたんじゃないって分かった』ってのは花言葉から『幸福』を連想したから。そしてバニルもそれを否定しなかったのもあります。
・ダクネスが持ってきたお下がりの中で、『空色の生地に小さい白い花が散りばめられたワンピース』を選んだこと。要はカスミソウの模様だったって事です。

99話
・戦闘後に一時的に元に戻った際に、名前を言おうとしています。

102話
・『なのはだって似た様なもんだしな』 とらハ設定では、なのはさんの名前の由来は菜の花らしいです。主人公は花言葉が『頑固者』や『全力全開』じゃなかったのか、と言ってからかっていますが。
・『ダクネスも恥ずかしがらずに堂々とララティーナって名乗るべきだと思う』 これは親からもらった名前だから、堂々と名乗ったら? ってな意味だったりします。これは伏線というより、後で読み返してああそうかと思って頂ければ良いと思います。

伏線は分かり難かったかもしれませんが、こんな所です。日本人の関係者と分かったのは、このすば世界の人間にも関わらず名前が日本人の物だからですね。




没ネタ ~説得時に魔力の送り先がめぐみんだったら~

「いたらいけないなんて言っちゃダメだよ? かすみの名前はご両親が『幸せでありますように』って意味で付けたんだから」

「『エクスプロージョン』ッ!」

ドオオオオオオン!!

カスミソウ――小さい白い花を沢山つけ、春霞の様に見える事から日本ではそう呼ばれる植物。その花言葉は『清らかな心』、「無邪気」、そして『幸福』。この世界、人間と魔族が争い、理不尽に命が奪われていく。それでも幸せを掴んで欲しいと。そんな願いから付けられた名前なのだ。それを説明しながら、

「少なくとも、かすみはそうして生まれて来たんだから……ね?」

「『エクスプロージョン』ッ!!」

ドオオオオオオン!!


……雰囲気もへったくれも無くなるな、これは。

次はエピローグかなあ……
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