この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
「じゃあ、次! 今度はシミュレーターでやってみましょうか。その後は、前衛、後衛2名と私との2on1で模擬戦になります。各自、昨日の教導をイメージしながら臨んで下さい」
「「「はいっ!」」」
ミッドチルダ首都航空基地。ストレージデバイス片手に、航空武装隊の教導でアシスタントとして参加していた。
アシスタントと言っても、訓練に参加している生徒達からすれば教導官と変わらないので、みっともない姿は見せられないのである。
「射撃型なら、視野は広く、相手と相方の両方を視界に納めて戦いの流れを掴む! そうしないと、相方に弾丸や砲撃を向けてしまいますよ!」
ミッドチルダ式、とりわけ射撃型に分類される魔導師への指導の他には、
「前衛は前衛で、後方支援を意識しながら動く! 射撃の射線軸に突っ込んだらどうするつもりですか!」
近代ベルカ式の騎士には、近接戦を実施しながらコンビネーションの重要性を再確認させたりと、なんだかんだで人に物を教えるのは大変だったりする。
そして、本日の教導も終了し、
「では、明日は9時に1番A棟集合です。遅れないようにして下さい」
「「「「お疲れ様でした!」」」」
生徒達と敬礼をしながら、解散となった。その後、雑務を終え、私服に着替えて俺を非常勤アシスタントとして教導隊に呼んだ張本人――高町なのはと対面をしていたのだが、
「おつかれー。近接戦の教導だったら、やっぱりわたしよりゆーくんの方が上手だね」
「なら良かった。とはいえ、ベルカ式は古代も近代も教導官不足だな。特に古代ベルカ式は使い手自体が希少だから、仕方ないと言えば仕方ないが」
「うーん。いっそ、近代でも良いからベルカ式も併用してみたら? シグナムさんからも剣を教わってたでしょ?」
「デバイスいくつ持たす気だ⁉ インテリジェントにストレージ、アームドデバイスまで、一人で持てってか⁉」
高町教導官の提案に従ってたら、俺は魔導師なのか騎士なのか良く分からない術者になってしまいそうだ。はやては魔導騎士って呼ばれてるけど。
「だったら、『ミッドチルダ&近代ベルカ併用式カートリッジ搭載人格型アームドデバイス』をマリエルさんに試作して貰うとか……、どうかな?」
「それなら、どの道、教導隊の領分だろ。新装備の実験だの、その運用方法の研究なんてのは」
「その新装備の運用を現場で試すのはゆーくんに頼もうかな? わたしだと純粋な近接戦はそこまでじゃないから」
思い付きで言ってるかもしれないが、どんなのが出来るやら……。俺のデバイス魔改造するとかならないよなあ……。
※ViVidの時代ではミッド式アームドデバイスはシャンテが使っています。
二人で基地からそれぞれの自宅に戻る途中、雑談をしながら歩いていたのだが、
「そういえば、かすみの訓練メニューを確認してくれて、ありがとうな。俺も念のため、見てもらいたくってさ」
「確認って言っても、全然直してないから本当に見ただけだけどね。やっぱり、あっちでもゆんゆんちゃんに指導してたのが良かったのかな?」
「どうだろうな? ゆんゆんの場合は指導と言えるかどうかは微妙だけど」
実際、座学よりも模擬戦の方が圧倒的に多かったからな。実戦形式で叩きのめした方が本人のためと思ったからだが。
そんな話をしながら歩いていたが、なのはが何かを思い出したらしい。少しだけ目線を上にやった後、
「明日、教導が終われば休日になるけど、やっぱりあっちで過ごすの? 確か遠出するって言ってたよね?」
「だな。まだ色々回らなきゃならない所が多くてな。明後日は温泉地に行く予定だ」
「温泉か……。良いなあ……。確かはやてちゃんも行った事があるって言ってた……」
最後は良いだけ
「あれ……? フェイトちゃんがエリオと一緒に行くって言ってた気が……」
実はそうなのだ。かすみにも同年代の友人が必要かと思い、エリオかキャロを一回呼ぼうとは思っていたものの、今週の日程で合うのがエリオのみなので会わせる事になった。だが前回、アクセルでエリオを大泣きさせてしまったため、フェイトが心配になってしまったらしく、自分も休日なので付いて来ると言い張ってしまったのだ。
「ああ……。明日は幸い、早上がりだからな。教導が終わったら、そのままエリオを迎えに行って、次の日の朝には立つ予定だ」
「今度はわたしも行きたいな。出来ればみんなで」
「アルカンレティアはお勧めしねーぞ? あそこは下手すれば疲れに行くだけになる」
それに首を傾げるなのはであったが、フェイトに説明しても断固として付いて来ると聞かなかったので、もう諦めてしまった。できればホテルで温泉にだけ入っていて欲しいものだ。
「じゃあ、俺はこっちで。ちょっと寄る所があるから」
「……? どこ行くの? 本局行きのポートとは逆方向だけど……」
またまた不思議そうな顔のなのはに一言。
「……味噌と醤油と大豆を買い溜めしに。ついでに枝豆をつまみ用に頼まれてたからそれも。あっちだと大豆が高価でな……。そのせいで大豆製品も良い値段が付いてんだ。ああ……、後、にがりも買ってくか。カズマが料理スキル修得したとか言ってたから、豆腐も作れるはずだし」
「……そ、そうなんだ……。色々大変だね……」
「……日本人には必須の調味料だよ。行ったり来たり出来るからまだ良いけど」
まるで、世界で日本食が流行る前の外国に仕事に行った日本人の様な光景ではあるが、特に豆腐なんてこれから夏を迎えるに当たり、冷奴とか食べたくなるので材料の大豆を確保しておきたいのだ。
そして、少々困ってしまった感じのなのはと別れて、スーパーへと立ち寄ったのだった。
次の日、3時頃に教導を終えてすぐさま本局に行き、特別保護施設へと向かう。エリオは待ちきれなかったのか、施設のエントランスでウロウロしていたらしい。玄関に入ってすぐにその姿を見つけたので、
「おーっす! 元気にしてたか? フェイトはあっちで合流だから先に行ってようか。荷物は……どうかな?」
「ふぇ……⁉ 荷物は昨日フェイトさんに見てもらいましたから、大丈夫だと思います」
エリオの死角から背中に回り込み一気に抱き上げたので、少し驚かせてしまったらしい。けど、俺の顔を見るとすぐに笑顔になってくれた。
一応、荷物……といっても大体が着替えだけだが確認をして問題なさそうだったので、施設の受付のお姉さんに前もって申請しておいた外泊許可証にサインして、転送ポートでアクセルの屋敷に向かった。
「帰ったぜーい! 今日はエリオも一緒だよー」
「お邪魔します」
玄関で元気よく帰宅を伝え、横のエリオは遠慮がちにぺこりと頭を下げて屋敷に入った。
いつもなら足音を立てて出迎えるかすみの姿が無いので、どこかに出かけているのかと思ったが……、
「カズマ……。かすみは? どっかに行ってる?」
「いや……。まあ、あれを見れば分かる」
そう言って指差した先には確かにかすみがいた。ただし、どこかの大リーグボール養成ギブスを着けた弟を見守る姉のように、リビングの入口の所で顔だけ出して、こちら……というより、エリオの様子をジッと伺っていたのだった。
……同年代とはあんまり触れ合ってこなかったから緊張してるのかな? どうしようかな?
とりあえず、挨拶をさせなきゃ始まらないかと、エリオの手を引きながらかすみに近づくと、
「……ええっと。……そ、その……」
「ううんと……。あの……」
二人してどうして良いか分からなくなってしまったらしい。もじもじしながらお互いを見詰めている。
……こ、これは二人とも結構可愛い光景だなあ……。もうちょっと見てみたい気がするが、このままでも良くないか。
そう思っていたのは俺だけじゃなかったらしい。だがカズマやダクネスも顔が緩んでしまっていたし、めぐみんとゆんゆんもその様子を見守っていた。そんな中、アクアは……、
「お味噌とお醤油がこんなに大量に⁉ これで味噌汁も豚汁も食べ放題よ! しかも大豆もこんなに沢山あるわ! しかもお願いしてた枝豆まで⁉ 今日はクリムゾンビアで一杯やるわよ!」
俺が仕入れてきた調味料が相当嬉しいらしく、小躍りしていた。
「……そういえば、カズマ。頼んでた物はどうなった?」
「ふっ……。心配するな。底に穴の開いた四角い金型と、それがすっぽり入る容器も鍛冶スキルで造っておいた。そして、これが一番難しかったが……」
もったいぶる感じではあったが、最後にカズマが見せたのは。
「魔力で動くミキサーだ! これで豆腐が作れるぞ! 大豆を粉砕するなんて、すり鉢でやってられないからな!」
「流石カズマさんだぜ! これで日本人の朝食に困らない。ご飯と味噌汁……その為にどれだけ頑張ったか……!」
俺とカズマが硬い握手を交わしているのを見たアクアが、目を輝かせながら。
「ねえねえ、お豆腐が作れるんだったら、厚揚げも油揚げも作れるでしょ? それをおつまみにしてお酒を飲むのも良いわね!」
「そうだな……。稲荷寿司でも作ってアクアにお供えしておくか」
神様に対するちょっとした提案であったのだが、
「私はお稲荷さんじゃなくて、水の女神様! あんなキツネと一緒にしないで!」
「……じゃあ、水の女神様らしく、綺麗な水をコップに入れてお供えしておくか?」
その一言で、凄まじい威圧感と共に俺の肩を掴み、静かな口調で。
「……おいしいお豆腐を作るには、良い水が必須なのよ。つまり私に油揚げも厚揚げも食べさせないのは、水の女神に対する冒涜になるわ……」
つまりはちゃんと食べたいから、作ってくれって事だ。この件はこれで良いとして、あっちのチビッ子達は、未だに話すきっかけが作れないらしいので、
「よし、二人共ちょっと庭に行こうか。かすみも訓練の調子を見てみたいし、エリオも見て欲しいのがあったら、見せてみ?」
そんな感じで、二人を引っ張って行き、
「じゃあ、わたしからやってみるね」
かすみが指先に小さな魔力の球を一つ作り、
「シュートッ!」
持ち帰った空き缶をリフティングの様に、跳ね上げてはまた当ててのくり返しをして行った。そして、その回数が百を超えた所で、缶を撃ち抜く。
「……うん。思ってたよりも、ずっと良いな。これなら魔法解禁は結構早いかも」
「すごい……」
自分とそう変わらない少女の魔法に魅入ってしまったエリオであった。まあ、かすみの場合は一度見た魔法を自分の物にするくらいのセンスと魔力量があるので、エリオが一歩譲るのは仕方ない。
その後、エリオも移動系の魔法を見せて、その素早さに驚いていたかすみとすっかり意気投合していた。エリオの方は慣性制御がまだ甘く、転げまわりそうになったのを少しサポートしたが。
俺と一緒に二人の魔法を見ていた紅魔族の二人に、
「二人共ありがとうな。俺のいない間、かすみの訓練やってくれて」
少しばかり、頭を下げながら礼を言うと、
「私はユウの訓練メニュー通りにやっていただけです。そこまで大変ではありませんので、気遣いは無用ですよ」
「そうです。むしろ人に教えるのも勉強になるって、そう思っていたところですから」
二人共はにかみながら、少しだけ笑顔を見せていた。
「かすみは広域攻撃の適性があるみたいでな。意識してないと、効果範囲が広くなりすぎて周囲がヤバい事になる」
先日の冒険者ギルドでの一件。かすみのウインドブレスで冒険者達が飛ばされていたが、かすみ自身の魔力の強さに加え、広域攻撃の適性のせいで、あそこまでの力を発揮してしまったらしい。これはこれで悪くはないが、必要に応じて使い分ける場合もあるため、こうして訓練をさせている。
「そういえば気になっていたのですが……」
めぐみんが何やら質問があるらしい。俺の方を向いて、
「カスミとエリオはどちらが年上ですか?」
……そういえば教えて無かった気がする。エリオは7歳だが……。
「かすみは身長体重が大体8~9歳くらいらしい。どっちにしろエリオよりも年上だけど、若い方で8歳って事にしておくか」
「そんな適当な……」
「実年齢でいったら、アクアの次になるぞ? それもどうかと思うけど」
女性の実年齢なんざ、追求するだけ痛い目を見るってもんだ。ウィズもアクアもウォルバクさんでも。
「まあ、保護者は違うけど後見人は同じだから、姉弟か従姉弟みたいなもんだし、二人共あんまり緊張しなさんな」
すっかり仲良くなっているかすみとエリオには、特にいらない言葉だったかもしれないが、やっぱり心配になってしまうのだ。
「ふっ……。すっかり保護者が板について来たな。従妹か……、シルフィーナは元気だろうか……」
「何だ? ダクネスにも従妹がいるのか?」
「ああ……。体が弱くて心配にはなるが、この子達と会わせるのも良いかも知れん」
確かに、同年代の友達が増えるのは良いかも。
「その時は、是非紹介してくれ」
そんな話をしながら、その日は夕飯を取って終了となった。ちなみにカズマは豆腐作りの為に、色々準備をしてたらしい。
次の日の朝、あまりの感激から俺とカズマは、はらはらと涙を流していた。
「和食だ……」
「ああ……。和食だ!」
今朝の献立は、ご飯に豆腐と油揚げを具にした味噌汁、そして卵焼き。ちなみに卵焼きには大根おろしに醤油をかけたものを添えている。それと小鉢にはおからの和え物も用意した。おからを捨てるのはもったいなかったからだ。
「こ、これは……、何と贅沢な⁉ 大豆を使った料理がこんなに並んでいます!」
「うむ。王城でもここまでの朝食はなかなかない筈だ!」
「これがユウさん達の国のお料理ですか……」
こちらの人間からすれば、逃げ回るために収穫量が少なく高価な大豆をふんだんに使った料理は、かなりの贅沢に感じるのだろう。めぐみん達もどれから手をつけたらいいか分からなくなってる感じだった。
「二人共、泣きながら食べるのは止めなさいな。子供達も見てるわよ」
アクアに注意を受けながら、朝食を取って片付けも終わったところで、玄関が開く音が聞こえ、
「お邪魔します。今日と明日は宜しくお願いしますね」
フェイトも屋敷に合流した。そして、ウィズの店に向かい、アルカンレティアへと転送してもらった。
ここは”水と温泉の都”アルカンレティア。相変わらずアクシズ教への勧誘で大変かと思われたが、アクアが一緒にいるのも良かったのだろう。だが、問題は……、
「ああっ……! アクア様のご加護を持つお方だ!」
「アクア様のお力を扱える、あの方ではないですか⁉」
かすみを止めようとした時の戦いで、すっかりアクシズ教徒の様な扱いをされてしまった俺であった。面倒な勧誘がみんなに降りかからないのは良いが、何か釈然としない。そんな微妙な顔をしていたのを見逃さなかったのだろう。
「良かったではないですか。今回は私達もこの街で知れ渡っていますし、ゆったりできそうです」
「そうだな。今や俺達は魔王すら倒したパーティーとして、この街でも知らない人間はいないはずだ!」
それは良いが、今度は土産を安くするだの、石鹸買わないかだの、色々と売り込みが凄い事になってるんだが……。
「と、とりあえず……、教団本部に行こうか。ゼスタさん達にお礼言いに」
そうして、アクシズ教団本部へ向かっている途中、
「活気のある街だね。海鳴の温泉街とは違う感じだ」
「……ここの人達は元気が良すぎる。言っとくけど、出かけるなら俺も連れてけ。そうしないとエライ目に遭うぞ?」
「はい。頼りにしてます」
クスクス笑いながら、フェイトが俺を見ていた。仕事以外でこうして過ごすのも、かなり久しぶりかもしれない。仕事中はかなりきっちりしてるからな。
そして、教団本部に入ると、
「おおっ……! アクア様に皆さん、ようこそおいで下さいました。そちらのお嬢さんもお元気そうで何よりですな」
「ゼスタさん。その節はお世話になりました。遅ればせながら、お礼の挨拶に参った次第です」
「いえいえ、アクア様のお願いとあらば我らアクシズ教徒、一丸となって力になります。こうして元気なお顔を拝見できただけでも、頑張った甲斐があったという物です」
うーん。今日はまだおかしな発言をしていないな。このままで済めばいいのだが……。
「ところで、私と少し遊びませんか? そちらの男の子も御一緒に、おままごとでも……。私が子供役になりますので、思う存分母親役のかすみさんが甘やかして頂ければ……」
やっぱりこうなったか……。この人もブレねえなあ……。
少しばかりゲンナリしていると、今度は……、
「わ、私好みのロリっ娘とショタっ子……! 二人共、セシリーお姉ちゃんとアクシズ教の秘湯に入って行きませんか? 今日も良いお湯ですから、きっと楽しいですよ!」
アクセルにいるはずのセシリーさんが、かすみとエリオに抱き着くような勢いで接近し、秘湯へと誘か……もとい、お誘いをしていた。もう目が怖いです。
「セシリーさん、俺らはこれから宿へ向かいますので、そちらはまた後で……」
半ば強引にみんなを引っ張って宿に向かって部屋で寛いでいると、
「私はお土産でも買いに行こうかな。エリオも行く?」
「はい! 一緒に行きます!」
二人だけだと心配なので、俺とかすみも付いて行こうという話になり、街中を散策していた。俺とフェイトが両端、真ん中は子供達で歩いていた……。その様子を気付かれない様に尾行する二人がいたのだが……。
「めぐみんめぐみん、後をつけるのはどうかと思うけど……」
「うるさいですよ! 嫌なら宿に帰って、温泉でも入っていて下さい。私としては気になる事があるので、こうしているだけですから」
紅魔族の二人が密かに買い物をする四人の様子を伺っていたのだった。普通に買い物をしているだけではあるが、思う所があるらしい。しばらく尾行を続けていると、
「ちょっと、そこのウサギ種族の二人。あの女は誰? 見たことない人間だけど……」
「魔王の癖に何でここに居るのですか⁉ 魔王城でも仕事はあるでしょう……⁉」
いつの間にかめぐみんとゆんゆんの隣には新魔王さんがおり、フェイトについてその素性を問いただしていた。
「私はここで魔族達が揉め事を起こしてないか、心配で視察に来ただけよ。これでも交流を推し進めてるもの」
「まあ良いです。ユウの幼馴染の一人ですよ。実力的にはあちらの方が上だとか」
「ふうん……。尾行なら私の潜伏スキルも使って良いから混ぜなさい。女の勘が良くないものを感じ取ってるわ。一人だと、ちょっと困るから」
「あなたの場合は、迷うだけでしょう……」
めぐみんが辛辣なツッコミをしていたが、四人の買い物を観察し続けていたのであった。すると、
「……何よ、あれ⁉ あの距離間……、あの二人って……」
「ふ、普通に買い物をしているだけに見えますけど……、別段意識してる感じじゃないですし……」
ゆんゆんは年頃らしく、色恋沙汰の方の心配をしていたらしい。
「……あなた、鈍いわよ? 自然体でアレだと下手すれば夫婦の域ね。まさかあんな所に一番厄介なのがいたなんて……」
「そういえばバニルが、ユウがここにいるうちにどうにかしないと勝ち目は無いと言っていた気が……」
「お互い距離が近すぎて、意識していないのが幸いだったわ。確かにどうにかするなら、早いうちが良いかも知れない……!」
三人がヒソヒソ話をして、ぱっと見で観光に来ているような四人から目を離してしまったのが、悪かったらしい。魔王のお姉さんが不意に肩をトントンと叩かれ、
「何よ! 今、忙しいの! 魔族謹製のお土産の売り上げについては――」
「……お姉さんもここにいるって、どうしたんですか? ってかめぐみんもゆんゆんも、そんなにこの人と仲良かったっけ?」
一瞬の静寂。尾行していた三人の後ろにはターゲットが当り前のように佇んでいた。
「「「きゃああああああああ⁉」」」
ここで悲鳴とか、俺が痴漢行為でもしてるみたいなんですけど……。
「ど、どどど、どうして後をつけていたのが分かったのですか⁉」
「最初から気付いてたけど? 気配が遠ざかるんじゃなくて、急に消えたから何かと思って確認しに来た。ちなみにフェイトも気付いてる」
現役捜査官と執務官を舐めないでほしい物だ。仕事中に二重尾行とかされた日には、こちらが窮地に陥ってしまうのだよ。
都合の悪そうな顔の面々ではあったが、問いただすと面倒な話になりそうだったので、
「お姉さん、さっきお土産がどうとか言ってましたけど、もしかして変わったのとかあります?」
「えっ? ええ。そうね……。魔王軍幹部の顔を象ったお饅頭とかどう? 味も自信あるわよ」
……ベルディアとか、シルビアの饅頭とか、個人的にはあまり口には入れたくはないけど、面白そうだからまあ良いか。
そうして、一通りお土産を購入し宿へ戻った。
ここでの目的も概ね果たせたので、夕食を取って温泉へと入ろうとしていたのだが、
「エリオはどっちに行く? 俺らと一緒でも良いし、フェイト達と一緒でも良いかと思うけど?」
要はまだ七歳のエリオが女湯行こうと問題ないので、どうしようかというわけだ。
「じゃあエリオはこっちに連れて行くね。また後で」
「おう、ゆっくり入って来な」
フェイト的にはやっぱり自分の近くに置いておきたいらしい。だったら、俺とカズマは男湯でゆったりとしていようかと思ったのだが、
「……俺はこっち行くから、また後で」
カズマが当り前のように混浴に行こうとしていました。今に始まった事ではないけど……。
「まあいいや。やんちゃな真似は程々にな。あの面子だと庇いきれる自信はねーぞ?」
ちょっとだけその時の惨状を想像して顔を青くしていたカズマであったが、構わず混浴へと消えていった。男湯に行き、しばらくして、
「……ちびっ子達、随分と仲が良くなったな? 二人揃って、
エリオとかすみが手を繋いで男湯に来襲したのだった。
「お兄ちゃんは一人だから、こっちに行ってあげなさいって。お姉ちゃん達が」
「男湯の方も見てみたかったんです。こっちはどうですか?」
どうやら、アクア達にはカズマが混浴に入るのは、想定済みだったらしい。たまにはこんなのも悪くないと思い、ゆったりしていると、
「どうせだったら混浴の方にも行ってみたらどうだ? 広いらしいし……。あっちだってカズマ一人で寂しいかもよ?」
「だったら一緒に行きたい。みんな一緒の方が楽しいよ!」
どうすっかなあ……。混浴なんざ入る人間は限られてるだろうし、まあいっか。
というわけで、一度浴衣に着替えて三人で混浴の方に向かうと、
「……貸し切りで羨ましいな。何で泣いてるかは聞かないけど」
「うるせー! 男の夢を返せ!」
予想通りというか、一人寂しくカズマが温泉に漬かっていた。
「まあまあ、若い女の子なら一人いるからそれで我慢しろ」
若すぎるだろ……などと言ったカズマの意見は無視し、ゆったりとした気分で温泉に入っている。ちなみにちびっ子達は泳いだり、水遊びしている。まあ、お客さんがいないのでここは良しとしよう。
すると、女湯の方から声が……。
「……フェイト、あなたはユウとはどの様な関係ですか?」
「えっ……⁉ 子供の頃から良く知ってる幼馴染だけど……」
唐突なめぐみんからの質問に予想通りの答えを返すフェイトさんでした。すると、
「……分かりました。ではあの男は私がもらいます。構いませんね?」
物凄い爆弾発言が聞こえてきましたよ。あの場には女性陣全員揃ってるはずなのに、何を言って……、と思っていたのも束の間。今度は、
「待って。めぐみんの好きにさせないから! だって……」
ゆんゆんまで参加してしまったらしい。それだけなら良かったのだが……、
「最初に子供が欲しいって言ったのは、私の方なんだからああああ!」
黒色火薬の爆弾ではなく、ダイナマイトかTNT火薬並みの大爆発を引き起こしていましたよ。女の湯の方からは、オーバーSランクの凄まじい威圧感がこちらへと向かって流れてきている。
これは逃げられないと腹をくくり、釈明に深夜まで時間を費やし、疲れ果てたまま温泉地からアクセルへ帰る破目になってしまったのだった。
次回は紅魔の里で主人公と、違う意味でちょむすけとフリードの胃に穴が開くかと思われます。