この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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お礼行脚 その三 ~紅魔の里~

本局の廊下をカツカツとした足音を立てながら歩き、医療局入口で立ち止まってドアをノックし、

 

「失礼します」

 

「あら、最近だと珍しいわね? どこか怪我をしたのかしら?」

 

「ああ……。いえ……、怪我ではなくてですね。ちょっと相談が……」

 

今日はシャマル先生が診察担当だというので、ここを訪れたのだが、

 

「あの娘……、かすみちゃんの事?」

 

先生、勘が良いです。曰く、顔に書いてあったらしい。

 

「はい……。休日以外はあっちの知人に任せっきりになってはいますが、そいつらや俺と一緒に眠ってる時に、うなされてる場合がありまして。これってやっぱり……」

 

俺と先生の考えが一致しているのだろう。双方、真剣な表情で相手の顔を見ながらではあったが、先生の方から、

 

「……多分だけど、昔の夢を見ているのだと思うわ。それこそ、彼女がああなって、破壊をしてしまった頃を……」

 

「ですよね……。一度、カウンセリングとかして貰った方が良いでしょうか?」

 

「そうね……。それも必要かもしれないけど、焦りすぎは駄目よ? 彼女自身、頭ではちゃんと理解してる。けど、心の整理と事実としてちゃんと受け止められるには、まだまだかすみちゃんには時間が必要ね。いくら常軌を逸した能力があるといっても、まだ8才だもの」

 

かすみについては、あの娘の耳に届かない様に、日々の様子を何となくみんなに伺っていたが、やはりそう簡単には行かないらしい。特に心の問題については、当人しか……、いや、当人ですら計り知れないのだから、不安定になってしまうのは予想はしていた。

 

「あまり酷い様なら、一度連れて来なさい。ここじゃなくても、休日なら八神家の方でも良いわ。それと……」

 

カウンセリングについては了承してもらったが、何か気になる事でも……?

 

「さっきも言った通り、焦りすぎは禁物。体も心も成長中だから、それをまっすぐに伸ばしてあげて。過去をちゃんと受け止めて、それでも力強く歩けるように……ね」

 

「……肝に銘じます」

 

少々しんみりした雰囲気となってしまい、双方無言となってしまったが、ドアをノックする音が聞こえ、

 

「シャマルー、おるー?」

 

「……地上にいるかと思ってたけど、今日はこっちか?」

 

地上部隊の制服に身を包み、医療局へ訪れたはやてであった。

 

「うん。報告ついでにちょう寄ってみただけや。けど……」

 

俺の方をジッと見ているはやてさん……。言いたい事は予想つくけどな。

 

「なんや、大変な事になっとるなあ。いつの間にそんなんなったん?」

 

「……俺が二股かけてる様に言わないで貰おうか。どうしたらいいもんか……」

 

温泉での爆弾発言がフェイトさんから伝わってしまったのだろう。それだけショッキングな出来事だったはずだ。

 

「それで? どっちにするん? ちょう教えて?」

 

「教える義理は無いな。つーかどっちかなのか?」

 

このウキウキワクワクしてる表情が、はっきり言って癇に障る。こっちはフェイトへの説明から憔悴しきってるってのに。

 

「はっきりした方がええと思うけどなー。住み家はあっちにするんやったら、別に問題もあらへんし」

 

「問題だらけだ。何でああなったんだか……」

 

何気無く呟いてしまった一言であったが、

 

「……うーん。その辺はまだ鈍そうやなあ。私も色々聞いたけど……強いて言うなら……」

 

強いて言うなら何だ? 色々聞いたって、いつの間に聞いたんだ⁉ なんて疑問は今は置いておく。そのままはやては、

 

「選択肢を間違わへんかったから、こうなってしもうたな。後は頑張って!」

 

「ちょっと待て、一人で納得するな! 分かるように説明しろ!」

 

あっちで謎解きしていた時にアクアやカズマに同じ事を言われた気がするが、相手方だけ納得してるのは結構モヤモヤするもんだ。すると、はやてがうーんと唸って。

 

「せやなあ……。なら私の事はどう思っとる?」

 

どうって、決まってる。

 

「セクハラだぬき」

 

刹那、時が止り、それはゆっくりとした動きに見えていたが、おそらくこれは走馬燈の様なものだ。はやては何かを握りながら。

 

「なんで……」

 

動きははっきり見えているはずなのに、全然動けない。はやて渾身の一撃が俺の頭目掛け、

 

「やねえええええええん‼」

 

スパーンっとハリセンの素晴らしい効果音が診察室に響き渡っておりました。ハリセンどっから出したとかそんなのは良い。それよりも思いっ切りツッコミを入れて満足したと言わんばかりの恍惚の表情が、凄まじく気に入らない。

 

「……いきなり何しやがる⁉ 俺の脳細胞だって死んじまうぞ⁉」

 

「ええボケするから、思わずツッコンでしもうた……」

 

「いや、ボケてないから。お前の普段の行動で言っただ――」

 

「私のはセクハラちゃう。女の子同士の仲良くなるためのスキンシップや。趣味ちゃうよ?」

 

……これ以上は議論の仕様が無いと言わんばかりの気迫が見え隠れしていたので、胸揉みがセクハラかスキンシップかの話題は終わりにしよう。

 

「それやったら、私は女の子扱いしてないけど……あの二人は?」

 

「……少なくともたまにおっかないな。お前ら並に。けど、こう……まあ、なんだ……。好意については何となく……」

 

はやてさんとシャマル先生、そのニヤニヤは何ですか?

 

「青春ねえ……」

 

「せやなあ……」

 

しみじみとしないで下さいよ。こっちは気が気でないってのに……。

 

「まあ、はっきり結論出せ、までは言わへん。けど、女の子を変に泣かせたりしたら、おじさんも怒ると思うよ?」

 

「……お姉ちゃん、おっかない事言わないで……。グレアムおじさんとリーゼ達から説教とか、俺が精神的に死ぬ」

 

あの人達、生きる伝説ですしね。特にリーゼの特訓なんてヤバすぎる。

 

この俺の心をゴリゴリ削る話は終わりしようとしたところ、はやてが何かを思い出したらしく、

 

「今度の休日は、どこ行くん? 各地を回ってる聞いてたけど?」

 

「次は紅魔の里だな。キャロも連れて行く事になった。個人的には、このタイミングでは行きたくはないが……」

 

今度はキャロをかすみと会わせる事になったのだが、紅魔の里は温泉での騒動を考えると、ほとぼりが冷めてからの方が良かったのだ。しかし、めぐみんとゆんゆんも次の休日に里へ戻ると連絡してしまったらしく、もうどうしようも無くなってしまっていた。

 

「えっと……、常備薬とか持って行く?」

 

シャマル先生が俺の気持ちを見透かしたように、薬についての質問をして来たので、

 

「胃薬下さい。……穴が開くのを防ぐようなのを……」

 

これから始まるかもしれない紅魔の里での出来事を想像して、思わずそう答えてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい。来たよー!」

 

「失礼します」

 

休日に玄関から響いて来た声は二人。一人はキャロ、もう一人は……、

 

「アルフ……。お前まで来るって聞いて無かったけど? それに、これまた懐かしい姿だな」

 

この娘(キャロ)一人で来させるわけないだろ。あたしはフェイトの変わりだ」

 

キャロと一緒に屋敷を訪れたのは、フェイトの使い魔のアルフであった。最近は魔力供給源であるフェイトの負担軽減のため、通称『こいぬフォーム』と『幼女フォーム』にしているはずだが、今日は初めて会ったばかりの頃と同じく、大人で犬……コホン、もとい狼の耳と尻尾がある獣人の姿であった。

 

「おい! 『幼女フォーム』って何だい?」

 

「……人のモノローグにツッコミ入れんな」

 

「あんた……一部、口に出してたよ……」

 

マジですか⁉ やっぱり変に緊張してしまっているのだろうか……。

 

「お姉さん、こんにちわ」

 

「ああ……、あんたが噂の……。今度、海鳴にも遊びに来な。双子の赤ん坊もいるからね」

 

かすみもアルフに挨拶していたが、双子ってのはカレルとリエラだろう。クロノとエイミィさんの息子と娘だ。アルフはアルフでかすみの頭を撫でながら、人懐っこい笑顔を向けていた。

 

「ええっと……、その……初めまして……」

 

「キュクル~」

 

キャロが少しばかり緊張しながらフリードと共に挨拶をすると、

 

「初めまして。キャロちゃんで良いんだよね?」

 

かすみもエリオで少しは同年代の接し方に慣れたらしい。今度は物怖じせずに、キャロに挨拶を返していた。良い傾向だなあと思いつつ、アルフの方を向き、

 

「フリードはもう仕方ないが……、アルフ、お前は頼むから仔犬にも狼にもならないでくれ。これから向かう場所には使い魔ですら平気で喰らおうとするのがいるから」

 

「なんだい……? おっかない猛獣でもいるのか?」

 

「……魔性の妹だ」

 

なんのこっちゃといったアルフではあったが、話し込んでいるうちに転送の準備が整ったらしい。この面子だと2回テレポートをしなければならないが、そこは問題ないそうだ。ゆんゆんから。

 

「では皆さん、紅魔の里まで行きますね」

 

「これは豪華な顔ぶれになりましたね。紅魔族の大本のカスミ、竜召喚士のキャロ、そして獣人(ウェアウルフ)のお姉さん。里のみんなも喜びます」

 

めぐみんも思わぬ来客で昂ってしまったらしい。紅い眼を輝かせながら俺達をゆんゆんの方へ誘導していた。そして、

 

「『テレポート』ッ!」

 

転移を行い景色が歪むと、次の瞬間には紅魔の里へ到着していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは紅魔の里のグリフォン像前。到着したら、まずは族長さんの家にと考えていたが……。

 

「おおっ……! オリジナルだ! オリジナルが来てくれたぞ!」

 

「竜を従えている娘まで……! カッコいい!」

 

「こっちは獣人とは……! 使い魔だって……? 本の中の存在じゃなかったのか!」

 

などなど、見知らぬお客さんを待ちわびていたらしい紅魔族の皆さんが集まっており、熱烈な歓迎を受けてしまった。

 

「どうした? 首を傾げて?」

 

「んっ? 『オリジナル』ってフレーズが何か気になって……」

 

「別に良いだろ。事実だしな」

 

かすみは言わば紅魔族開発の参考になっている人物なので、カズマの言う通りなんだけど、何か……こう、思い出しそうな感じが……?

 

こんなので悩んでいても仕方ないので、まずは族長さんの家、つまりはゆんゆんの実家に向かう事になったのだが……、

 

「……俺は……外で待ってちゃ駄目……だよな?」

 

「当り前だ。お前が顔を出さんでどうする? 礼儀知らずにも程があるだろう」

 

ここはダクネスが正論だ。力を貸して頂いてお礼のために来たってのに、それもしないのはいくらなんでも失礼すぎる。

 

「はあ……。心配するな。おかしな話になりそうなら、私の方ではぐらかしておく。お前とめぐみんは私の見合いの際に味方してくれたからな」

 

「ううっ……。お願いします……。ダクネスさん……」

 

そして、族長さんのお宅に上がり、居間でテーブルを挟んでこの里の長と向き合い、

 

「先日は、ご協力誠に感謝いたします。皆様のおかげで私もかすみもこの通り、元気に日々を過ごせています」

 

深々と頭を下げて、族長さんへとお礼の言葉を述べると、

 

「いやいや。ゆんゆんが凄まじい剣幕で帰って来てすぐに、お願いだから紅魔族の力を借りたいと言い出しまして……」

 

その時の状況を語りだした族長さんであったが、続けて。

 

「里の皆に声を掛けてくれなければ、今すぐ族長を継いで自分が指示を出して連れて行くと捲し立てて……」

 

「おっ……お父さん⁉ お願いだから、それは秘密にして!」

 

……何か、聞いてはいけない裏話を聞いてしまった気がする。そう感じたのは俺だけじゃなかったらしい。

 

「……どこかで聞いた話ね」

 

「……ああ。この師匠にしてこの弟子ありだ。師匠は無理矢理魔王交代させようとか言い出したからな」

 

「まったく、あれには驚いた。あそこまで思考が飛んでいる人間もそうはいまい」

 

アクア達が俺に呆れたような眼差しを向けていたが、今度はめぐみんから、

 

「それだけではありませんよ。何せゆんゆんは天候操作の魔法を使って雷鳴を呼び、里の住人の注目を一身に集めながら、こう言いました。今、立ち上がらなければ紅魔族の名折れ! 私と共に――」

 

「いやああああああ! めぐみん、それは言わないで! 思い出したくないから‼」

 

「ちなみに私も横で、決めポーズを取りながら”立ち上がらなければ、見せ場が無くなる”と説得をしていました。これはまあ、かなり端折っていますが」

 

ふ、二人共……頑張ってくれたんだなあ……。特にゆんゆんなんて絶対にやりたがらなそうなのに……。自分で思い出すと、耳を塞ぎたくなるくらい恥ずかしいのか……。

 

「めぐみんもゆんゆんも本当にありがとう。おかげでどれだけ助かったか……」

 

改めて二人に対して頭を下げると、

 

「いえ、私としては出来る事をしただけですから」

 

「そうです! いつもお世話になってましたから、これくらい!」

 

謙遜しながらも、少しばかり嬉しそうな顔であった。

 

「ところで、今はアクセルから職場に通っていらっしゃるとか。どうですか? そのうち里に引っ越してこられては。住む場所なら、ここでも構いませんよ」

 

族長さんの何気ない一言。それの意味するところを即座に理解してしまいダクネスと目を見合わせ。

 

「申し訳ありません。アクセルの方がかすみを育てるのに都合が良いもので。せっかくのお心使いですが……」

 

「うむ。この男はこう見えても、それなりに名も知れ渡っているので、冒険者としてギルド等からの要請に応える場合は、アクセルの方が都合良いのだ。この里では、迅速な連絡は難しいのではないか?」

 

ダクネス、ナイスフォロー! 今日はやけに頼もしく見えるぜ!

 

「でしたら、アクセルに住んだままでも構いませんので――」

 

そこまで族長さんが言いかけたその時、

 

「まだ回る場所があるのでしょう? 何せ紅魔族も大挙して応援に掛けつけましたので、ここで話し込んでいては、いけないと思いますよ!」

 

めぐみんの言う通り、他にも行きたい場所があるのだが半ば外に引っ張られる形で族長さんのお宅を後にしたのだった。

里内を順に――占い師のそけっとの家や農家さん、自警団が警邏している辺りなどを主に回っていると、アルフから念話で、

 

(おーい。悠、聞いてた通りだけど、何であんなのになってるんだ?)

 

(……はやて曰く、選択肢を間違わなかったからこうなったらしい。……胃が痛い)

 

(あー、なるほど。あんたの場合、天然も入ってそうだねえ……)

 

(何、納得してんだ?)

 

(いや、あたしはどう動こうかね……)

 

アルフさん、変な方向に話を持って行かないで。お願いだから……。

 

しばらく歩いて商業地の一角に店を構える武器屋へと辿り着いた。俺のぴよぴよ丸の鞘の改造やダクネスの鎧の整備でもお世話になった場所である。

 

「おうらっしゃい! 兄ちゃんと……、オリジナルじゃねえか。どうだい? オリジナルの嬢ちゃんに武器でも?」

 

店の主人である鍛冶師が顔を出したので、丁度聞いてみたかった事を尋ねてみる。

 

「……すいません。凄まじく頑丈な杖って作成できますか? 例えば強大な魔力の持ち主が使っても壊れないようなのですが」

 

「そうさな……。やれねえ事はねえが、素材から考えなきゃならねえから時間はかかるぞ? それに俺だけじゃなく、魔道具職人の領分でもあるからな」

 

「別に今すぐってわけじゃないですから、ちょっとした確認だけです」

 

俺と武器屋の親父さんのちょっとした会話が気になったらしいカズマが不思議そうに、

 

「なんだ? かすみの杖でも作る気か?」

 

「まだ先だけどな。もしかしたら、俺みたいのを持たせるかもしれないし。一応こちらの魔法を使う時のために聞いてみたんだ」

 

そんな答えを返したが、魔法使いの二人は気になったのだろう。俺に対し、

 

「最初から杖を持たせた方が良いのでは? カスミほどの能力なら問題は無いと思いますが……」

 

「そうですよ。飲み込みも早いですし、在っても良いです!」

 

普段かすみの魔法訓練を見ている二人からすれば十分な及第点らしい。しかし、

 

「基礎をきっちり固めるまでは、自分専用の杖なんていりません。それまでは俺のお古(ストレージデバイス)や表彰で貰った杖で良いんだ」

 

「意外に厳しいわね……。私生活だと結構甘いのに」

 

アクアまで少しばかり驚いていたようだ。俺としては、この部分は譲れないので、

 

「ただ魔法ぶっぱするだけなら、このままでいい。けど、少なくとも今の封印状態でも自分の魔力を自由自在に扱えるようにならなきゃ、自分だけじゃなくて周りだって傷付ける可能性もあるからな」

 

それを聞いてアクセルの冒険者ギルドでの一件を思い出したらしい。かすみの魔力をある程度使えるように、わざと封印を重くしなかったのも、自衛のためといった理由の他に魔力の使い方をちゃんと教える為だったりする。

 

その説明で納得してくれたらしいので、武器屋を後にして最後の目的地へと向かう。そこはこじんまりとした木造の平屋――めぐみんの実家である。玄関のドアをノックし、

 

「あっ……! 姉ちゃん達と知らない人もいっぱいいる! おかーさーん! 姉ちゃんが男だけじゃなくて、竜とか獣人もひっかけて帰ってきたー」

 

相変わらず、将来が心配になってしまうこめっこさんであった。

めぐみんの実家の居間にみんなでいたのだが、こめっこはかすみとキャロが気になるらしい。ジッと二人を見ていた。そういえば里ではこめっこも同年代の友達がいないとか言ってた気がする。

 

「こめっこちゃん。お願いがあるんだけど、こっちの二人と一緒に遊んでくれないかな? きっと楽しいよ」

 

それを聞いたこめっこはニヒルな表情で、

 

「へっ……! しょうがねえなあ……」

 

割とノリノリで了承してくれた。言葉使いの矯正については実の両親や姉に任せておこう。護衛を頼むために念話で、

 

(すまん。アルフ、三人に付いてもらって良いか?)

 

(あいよ。あたしはキャロの付き添いだしね。構わないよ)

 

そして子供達と使い魔が外に行き、めぐみんの家には大人しかいなくなってしまったが、

 

「元気そうでなによりだ。あの子の事も落ち着いて来たかね?」

 

「はい……、おかげさまで。皆さんにはお力添えをいただきましたので、こうして挨拶に伺っている次第です」

 

そうか、と言ってズズッとお茶を啜るひょいざぶろーさんであった。一呼吸おいて、今度はゆいゆいさんが、

 

「ところで……、家のめぐみんは、あの子とは仲良くしておりますか?」

 

「心配はないですよ。それこそ家族みたいに接してもらってますので。なあ?」

 

「我が母、それは杞憂という物です。私があんな年端も行かない少女をどうにかするなどありえません」

 

俺とめぐみんがゆいゆいさんに対して、そんな受け答えをすると、

 

「でしたら、家族が増えても大丈夫ですね。私としては、そこが心配になっていましたので……」

 

その一言で、俺だけでなくゆいゆいさん以外の全員が固まってしまっていた。みんな同じ意味で捉えたらしい。

 

「……えっと、ですね? す、凄い事をサラッと言われた気がするのですが……」

 

「あら? 先日めぐみんがここへ来た時に、それこそ泣きそうな顔でユウさんがこのままでは死んでしまうかもしれないと、主人に訴えかけて来たので……。もうそういった関係だとばかり……」

 

これまた聞いてはいけない裏話を聞いてしまった気がする。その張本人の方を向くと、

 

「そっ、それは……ですね……」

 

顔を真っ赤にして、狼狽えながら目を逸らしてしまっていた。

 

「待ってください。本当に違いますから!」

 

「では、家の娘に何か不満でも?」

 

「か、母さん、落ち着きなさい! あちらも困っているだろう? 皆さんの前では言い難い事かもしれん」

 

ゆいゆいさんがここぞとばかりに攻め立てようとしている。どうにか助けて欲しいと、みんなの方に視線を向けると、

 

「この際だからはっきりしろ。お前だってこのままで良いわけじゃないよな?」

 

「ユウさん、こうなったら結論を出すしかないと思うの。私としては、どんな選択でも受け入れてあげるから」

 

「まあ、無理にとは言わん。散々見合いを断っている私の言える事でもない。それとも何か不安でも?」

 

カズマ、アクア、ダクネスが俺を促してはいるが、それ以外の紅魔族の少女二人は顔が紅潮してよそよそしくなっている。

 

「ええっとですね。今の自分が浮ついた行動をできないといいますか……、かすみの面倒も満足に見れていない状態で、そんなのを考えていられないというのが正直な所です」

 

「満足に面倒も見れていないというのは?」

 

ひょいざぶろーさんも気にかかってしまったらしい。そこについて詳しく理由を述べた方が良さそうだ。

 

「あの娘の希望で、保護者としてアクセルに住んでいるのは良いものの、こちらに帰れるのは週に一度です。場合によっては、それも無理になる場合だってあるかもしれません。その間はカズマ達に任せっきりになっています。本来なら、もっと時間を作るべきだとは思っていますが……。現状でもそうなっているのに、誰かと付き合ったところで、寂しい思いをさせてしまうのではないかと……、そう考えてしまいまして……」

 

「成程……。君としてはあの娘も大事だが、仕事も(ないがし)ろにできない。今は何とか折り合いをつけるので精一杯、……という事だね?」

 

ひょいざぶろーさんの言葉に頷くと、彼は真剣な表情で続けて、

 

「その若さで子供を養うのは確かに大変だろう。金銭面もギリギリでは無いのかな?」

 

そこは二人の娘がいる父親として気になる部分もあるのだろうが、カズマから、

 

「あっ……。こいつからはかすみの分の生活費もきっちり貰ってますし、まだ余裕がありそうですよ? 何せ金のかかる趣味も持ってないみたいですから。確か、かすみの口座作って積み立てしてるとか言ってなかったか?」

 

「そうだな。将来、あっち(ミッドチルダ)の学校通いたいとか言い出した時の為だけど。それ以外でも色々選択肢が広がるだろ。何だかんだで先立つ物がないと始まらないからな」

 

俺とカズマの何気ない会話。それを耳にしたご夫婦が、ポカンとして、

 

「「へっ……⁉」」

 

意外な者を見る目で俺を凝視していました。ゆいゆいさんが俺の眼を見ながら、

 

「そ、その……ユウさんはおいくつ……ですか?」

 

「えっ……⁉ 夏が来れば17歳になりますけど……」

 

そこまで言うと、ゆいゆいさんが俺ではなく、ひょいざぶろーさんの方を向き、静かながらも凄まじい圧力でもって、

 

「……めぐみんとそう変わらない年で、こめっこ位の……、しかも血の繋がらない子に、そこまでしている方もここにいますけど……、どう思いますか? あなた……」

 

「かっ……母さん⁉ と、とと、突然どうした⁉ ワシが何だと……⁉」

 

「御自分の胸に聞いてくださいね? 皆さん……、すいませんが、主人と大事な話をしなければならなくなりましたので……申し訳ありませんが……」

 

笑顔ながらも、この場にいちゃいけない何かを感じ取ってしまった全員は、すぐさまめぐみんの実家を後にした。それから十分後、ひょいざぶろーさんの悲鳴が響き渡っていたらしい。

その後、先に外で遊んでいる三人はどうだろうかと様子を見に行ったら、

 

「ちょむすけもフリードもうまそう……」

 

完全に獲物を狙ってる猛獣の様な瞳で、黒猫と竜に狙いを定めるこめっこと、

 

「だ……駄目だよ⁉ フリードは食べたらいけないからね!」

 

フリードを必死に守ろうとするキャロ。そして、

 

「ちょ、ちょむすけも、食べ物じゃないよ! 食べたらお腹壊すって、ウォルバクさんも言ってた!」

 

それは初耳だったが、ちょむすけを抱き締めて安心させようとしていたかすみであった。狙われた当人達は、

 

「キュクルー……」

 

「……なーお」

 

とてもとても悲し気な鳴き声でお互いを慰め合っているように見えた。友情でも芽生えたかもしれない。アルフが呆れ気味に。

 

「あのチビ、どんな野生児だ? あそこまで物怖じしないのなんて見たことない……」

 

「こめっこちゃんは、ああいう子なんだ。やっぱりフリードにまで食指が動いたか……」

 

「最初は、結構気が合ってたけどね。あの紅い眼のはザリガニとかセミを捕まえて食べると良いとか、キャロはキャロで食べれる野草について語ってたり……」

 

……何だ⁉ 女の子らしく花の冠とか作って遊んでたんじゃないのか⁉

 

「かすみも魔法で獲物を捕まえる方法を色々知ってるみたいだったよ……」

 

……こめっこは言うに及ばず、家庭の事情でそうなってしまったのだろう。キャロは6歳で部族から離されて、旅してる間に身に付いたのかもしれない。かすみは……、魔法で生き抜く術を無意識ながら実践していたの……か?

 

俺ら全員が少々引きながら子供達に視線を合わせてしまい、

 

「うわっ……。ようじょたくましい……」

 

つい、呟いてしまった。

『俺の義妹(いもうと)とその友達がこんなに逞しいわけがない』、『最近の幼女が逞しすぎる件』。……何てのが頭に思い浮かんだが、これは想像してはいけない気がする。

 

「……世の中、凄いのがいるもんだな」

 

「ああ……。必要に迫られれば人間どうにかなるのかな……。それにしたって……」

 

大人達は同じ事を思ってしまったらしい。普通の家庭育ちのカズマや俺、貴族でお嬢様のダクネス、女神のアクア。それに比べたら、

 

「冒険者としてはあっちの子達の方が向いてるかもしれない……」

 

その意見に誰一人否定できずにいたのだった。子供達の無限の可能性に畏怖を覚えながら、次の日に紅魔の里を後にした。

 




アクセルでのダクネスやウィズもそうでしたが、今回は紅魔の里で応援を要請する際の裏話の様な感じになりました。

主人公が『オリジナル』の単語に反応した理由は、なのはGODをプレイした方なら、何となく想像できるかと思います。

キャロが割と野生児っぽくなっていますが、これは筆者の勝手な想像です。6歳が竜一匹と一緒に放り出されて、保護されるまでどうやって食料確保していたのか……。なんてのを考えた結果です。
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