この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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お礼行脚 その四 ~王都~

某県海鳴市――今回久々の帰省となった我が故郷であるが、別に何の理由も無くというわけではない。俺がかすみの保護責任者になる際に、法的後見人をお願いした方にお礼の挨拶へと伺うためだ。流石に手ぶらというわけは行かないので、そちらへ行く前に海鳴でのもう一つの実家と呼べる場所へと向かっていた。

 

「お兄ちゃん、お土産だったらアクセルでも良かったんじゃ?」

 

「あのな。動く野菜とか果汁を飛ばす果物なんてのは、こちらには無いんだ。持って行くとトラブルになるかもしれない」

 

俺の横で手を繋ぎながら歩いているかすみが、お土産について不思議に思っていたらしい事を聞いてきたが、あんなの持って行くと下手すれば、その場で土下座する破目になりかねない。なので、

 

「ほーら。ここが喫茶翠屋だ。俺もかすみ位の頃は、ここに入り浸ってたんだよ」

 

「それよりもお兄ちゃん⁉ あれって何? 馬車とは違う乗り物? 変な空気出してるけど、どうやって動いてるの?」

 

翠屋より自動車の方が気にかかっていた義妹であった。説明は後でゆっくりするとして、店のドアを開けて来客を知らせる懐かしい鈴の音を聞きながら店内に入ると、

 

「いらっしゃい……? あら! 久しぶりね。元気だった?」

 

「お久しぶりです。中学卒業してから、ご無沙汰になってしまってすいません」

 

真面目な話、娘のなのはと姉妹と言われても信じてしまいそうな高町桃子さんが出迎えてくれた。ちなみに俺は桃子さんやリンディさんを”おばさん”と呼んだことは無い。呼んではいけない何かを感じるのだ。

 

「そっちの子は、美由希が言ってた女の子かしら?」

 

どうやら高町家には俺の行動が逐一伝わっているらしい。エイミィさん経由で美由希さん、そして桃子さんにまで筒抜けなのだろう。かすみが頭を下げながら、

 

「ナノハさんのお姉さん? こんにちは!」

 

「まあ……。お兄ちゃんに似て口が上手ね。私はなのはのお母さんよ?」

 

多分、(おだ)ててると考えてるだろうけど、知らない人なら十人中十人が姉妹だと思いますって。これで3人の子持ちとか信じられねえ……。

 

「ちょっとリンディさんの家まで行きますので、何個か詰め合わせて貰って良いですか?」

 

「分かりました。リンディさんやエイミィちゃんの好きなのを入れておくわね」

 

ケーキの詰め合わせを片手に今度は市内のマンション内にあるハラオウン家へと向かう。玄関先で呼び鈴を鳴らすと、

 

「いらっしゃーい! おひさー!」

 

「おっひさー! 通信だと割と会ってたけど」

 

エイミィさんとパーンっとハイタッチを交わし、そのままお宅へとお邪魔しようとしたが、

 

「お兄ちゃん……? テンションが高い……」

 

「俺とエイミィさんは大体こんな感じだけどな。まあ、あっちだとそうそう見せたことは無いか」

 

海鳴に子供の頃から知ってる人達との交流、しかも仕事外とくれば少しくらいは昔に戻ってしまうのだ。かすみにしたら、意外だったろうけど。

 

「リンディさんもお久しぶりです。かすみの件では、急なお願いを聞き入れて頂き、ありがとうございました。これはつまらない物ですが……」

 

「あら? 気を使わなくても良いのよ? せっかくだから、みんなで頂きましょうか」

 

ハラオウン家のリビングにて、ケーキを食べながら談笑してると、かすみがチラチラと何かを気にしている様で……。

 

「あの……、赤ちゃん見ても良いですか?」

 

「じゃあこっちおいで」

 

エイミィさんに手を引かれ、双子の赤ん坊が眠ってる小さいベットの前まで行くと、

 

「わあ……。小っちゃい……!」

 

アクセルでは遠巻きには見ていても、ここまで間近では未経験のはずだ。口を開いたまま、双子ちゃんを黙ってジッと見詰めていた。

 

「抱っこしてみる?」

 

「い、良いんですか……?」

 

ちょっとだけオロオロしながら、エイミィさんから赤ん坊を受取り、慣れない様子で抱っこをしていたのだが、

 

「可愛い……。こんなに小っちゃくても、温かくて……」

 

その様子をニコニコしながら見守っている俺らであった。ここに連れて来て良かったなあと感じていると、

 

「そういえば、かすみさんの訓練は順調?」

 

「そうですね……。元々、センスも良いですし、今は空戦を徐々に教えている最中です」

 

リンディさんもかすみの様子については気になっているらしい。本来なら、上層部は魔力を使えない様に封印するのも視野に入れていたらしいが、そこでも尽力して頂いていたらしく、今の状態に落ち着いている。

 

「悠君? 自分がやってた訓練とかはダメだよ! あれを聞いた時は、あたし達だって驚いたんだから……」

 

「……レイジングハートは俺に何か恨みでもあったんでしょうか? 授業受けながらのイメージトレーニングで何回か吐きそうになりましたし……」

 

ちなみにレイジングハート先生の空戦講座は、俺の場合、まずは空に慣れろで仮想空間の中でひたすらぶん回された。飛行訓練なんざ本来先天資質Aランク以上ないと、かなり大変なのだ。それを短期間で仕上げるためのメニューだったんだろうが、それを当時アースラで話した際には、クロノ始め艦の魔導師たちはドン引きしていた。

 

「まあ……あたし達が到着するまでは、3人しかいなかったしね。促成栽培も仕方なかったのかも」

 

今になって思い返すと、促成栽培ってよりはドーピングか無理矢理適応させられたと言った方が正しい気がする。

 

「かすみちゃんのデバイスはどうするの?」

 

「そこが悩み所でして、後でマリエルさんに相談に行こうかとも思ってます」

 

これに関しては、かすみの希望も聞きつつ進めて行こうと考えてはいるが、候補がいくつかあるのでどうするかと言ったところだ。

 

「そういえば、なのはちゃんからの提案で『ミッドチルダ式アームドデバイス』の試作機を作成中とかって言ってたっけ」

 

「あれってマジだったのか……。近代ベルカ付かなかっただけ良いのか……?」

 

「併用する術者自体そんなにいないしね。ミッド式自体、現在は中遠距離が主体だし。使える人は限られそうだけど」

 

高町教導官の思い付きで、本当にテスターに抜擢されそうな気がしてきた。どんなのが出来るやら。

 

「ああ、ところでかすみさんの魔力封印は今のところ問題ないかしら?」

 

「ええ。ちゃんと機能してしてます。一応、俺とリンディさん両方揃わないと完全に解除はできませんし、かすみの封印解くとなると、それこそ世界の危機でもない限りありえませんよ」

 

リンディさんにもその事を教えて、しばらく雑談をしていると、

 

「そうそう、お休みの度に色んな所に行ってるって聞いてたけど、今度はどこに行くの?」

 

「次のお休みは王都ですね。お偉いさんに会うので、結構気を使いますけど」

 

俺の立場からすれば、リンディさんもかなりのお偉いさんなのだが、この場でそれを感じさせないのは彼女自身の人格に寄る所も大きいのだと感じてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次週の休日――ダクネスが王都のアイリス達との謁見について調整をしてくれており、漸くその日程が合う日になったので、王都に向かう事となった。その為に王都をテレポート転移先に登録してる人物の元へと向かうと、

 

「先日、迷惑宗教の本山とネタ種族の里にて精神が削られた小僧よ。結論を先延ばしにするのは良いが、運の無い貴様がそれをやるとなれば、ネタ魔法とライト・オブ・セイバーと雷撃の大剣を同時に喰らいかねん。自身の行動には努々気を付ける事だ! フハハハハハ‼」

 

「元はと言えば、てめえが焚きつけたのが原因じゃねえか⁉」

 

「何を言っておる? こうなるのが早いか遅いかの違いだけであるぞ。むしろ自身の状況を正確に把握できるように取り計った我輩に感謝するがいい!」

 

ウィズ魔道具店のバニルが相変わらずのおちょくりを披露し、俺の脳を沸騰させようとしていた。

 

「落ち着け、良いから落ち着け! 悪魔嫌いの原因が分かって、少しはバニルへの態度が軟化するかと思ったけど、全然だな……」

 

「茶髪の小僧よ。いくら娶る資格を得たとはいえ、今、手を出してはロリコンの(そし)りは免れぬぞ? 何かをするのならば、バレぬように気を付けるのだな」

 

「するわけねえだろうがああああああ‼」

 

自分も挑発されたカズマも大声を上げて、ウィズ魔道具店の雰囲気は一気に険悪なものとなってしまった。

 

「カズマ……、アクアの魔力渡せ……! この野郎はいっぺん痛い目を見せねーと気が済まない……」

 

「ちょっと待て⁉ 本気じゃないよな? ここであの状態になるって正気か⁉」

 

「ダイジョウブ……、ダイジョウブダヨ。貰った魔力を一気に放出して消し飛ばすだけだから……」

 

「全然大丈夫じゃねえ⁉」

 

カズマだけではなく、ダクネスもめぐみんもゆんゆんもしがみ付いて、必死に俺を止めようとしている最中、

 

「ふむ。良いのか? そこのぐうたら女神の魔力なんぞ碌な事にならんぞ? 嘘だと思うなら貴様の冒険者カードを見るがいい」

 

バニルが何かを言いたげなので、念のため冒険者カードを確認すると、

 

「なっ……⁉ こんなのって……」

 

それを見て愕然としてしまった。こんなのがあり得るなんて……⁉

 

「どうした? まるで薄くなった頭髪から抜け落ちた毛を名残惜しそうに見ている気分となっておる小僧よ。それが現実である。まあ、あれほどの力を得てリスクが無いわけがなかろう。むしろ神の力を扱った代償としては破格と言ってよい」

 

俺が冒険者カードを手を震わせながら凝視していたのが、余程おかしく見えたらしい。みんなも覗き込み……。

 

「別に変わってはいませんが……?」

 

めぐみんが不思議そうな顔で冒険者カードを眺めてるが、違いが分からないらしい。

 

「幸運値が下がってる……」

 

「「「「へっ……⁉」」」」

 

全員が間の抜けた声を上げる中、その事実を知ったしまった俺が口を開き、

 

「幸運値が……ギリギリ二桁だったのに、一桁になってる……」

 

それを確認するかのように、マジマジと冒険者カードの幸運値の欄を見詰めるみんなであった。

 

「えっ……えっとな? ルナさんが冒険者にとって幸運値は重要じゃないって言ってたから、気にするな! なっ!」

 

「そっ……そうよ! それでも私よりは高いから、じゅ、十分じゃない! 私の数倍よ、数倍!」

 

「ユ、ユウには幸運に左右されない実力がありますから……、ひ、一つくらい欠点があった方が可愛げがあって良いですよ!」

 

「う、うむ。むしろその幸運値の低さは、私にとっては羨ましい物だ! 幸運が低ければ、あられもない姿で縛られたりされるかもしれんからな……」

 

「そ、そのですね……。運が無くても前魔王と互角ですし、幸運値なんて飾りみたいなものですから……」

 

カズマ達が幸運値低下の事実を何とか慰めようとしてくれていたが、自分にとっては驚愕の事実なのだ。目の前の現実を受け入れられずに呆けていると、

 

「集り女神の魔力を受取るのであれば、早くするのだな。最も、今回は幸運値だけで済むとは限らぬぞ? 下手すればそこの知恵無し女神の知力の影響まで受けてしまっても、我輩にはどうする事も出来ぬからな。フハハハハハ‼」

 

現状、俺にとって究極の二択を迫られていた。幸運値、もしかしたら知力まで下がるリスクがあってもアクアの魔力を受取ってバニルをシメるか、それともこのまま尻尾撒いて王都に行くかだ。

 

俺が小刻みに震えながら、選択を思案していると……。

 

「その……、そろそろテレポートをしてもよろしいですか? 私もこれから店の雑務もありまして……」

 

ウィズの提案が天啓とばかりにカズマは俺の首根っこを掴み、真っ先に王都への転移を実行してもらったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

景色がグニャリと歪んで再び元に戻った時には、すでに王都であり、俺達は真っ直ぐに王城目指して歩を進め、その場所に辿り着いた。ダクネスが前もって調整してくれたおかげで、特に不審者扱いさせずに城の中に入り謁見を済ませようと……、

 

「皆様、ようこそおいで下さいました。こちらへどうぞ」

 

ペコリと頭を下げて、俺達を案内してくれたのはアイリスの護衛兼教育係のレインさん。彼女の後に付いて謁見の為に用意された部屋へと入室する。

膝をついて跪き、

 

「此度の援軍、誠に感謝申し上げます。騎士団だけではなく御身のご協力のおかげで、こうして生きております」

 

やっぱり王族のアイリス相手では、かなり気を使ってしまうらしい。姐さん達からベルカの騎士の作法とか聞いておいた方が良かっただろうかと、一瞬だけ考えてしまった。

 

「頭を上げてください。ダスティネス卿の要請、そしてこれまでの功績から、信じるに足ると考えての出陣でした。と言いますか……」

 

何か俺に対して文句でもあるのどうか? ちょっとだけ顔がいじけてるような……。

 

アイリスが俺達へと近づき、にこやかに。

 

「ユウお兄様は、いつも私に対して一歩引いていらっしゃいますね? 礼儀作法も大事ですが、普通にお礼を言うだけで良いのですから。その為に、ここには私の他にはクレアとレインだけにしています」

 

つまりはカズマみたいに接してくれって事だ。どうしようか……。よし!

 

「アイリス、この間はありがとうな。おかげでかすみも俺もこの通り、元気な顔を見せることが出来た。本当に感謝してる」

 

友人と話すような雰囲気でもってアイリスへ礼を言うと、

 

「はいっ! お父様も行くなと止めていましたが、頑張った甲斐がありました!」

 

それはそれは元気よく、つーか聞き捨てならない言葉が聞こえて来ていましたよ。

 

「……へ、陛下は止めたんですか? それでも来て下さったと……」

 

「本当だ……。本来なら騎士団だけの予定であったが、アイリス様が出陣なさる事になり、王都の精鋭をそちらへ合流させてしまったのだ」

 

……も、物凄い大騒動だったんじゃないか? クレアさんの説明聞く限り。王族に途轍もない借りを作ってしまった様な……。

 

「そ、そういえば、陛下や王子はどちらに? 出来ればご挨拶に伺いたいのですが?」

 

「お父様やお兄様は、各国との会談のために城を留守にしております。ですので、私が代理としてこの場で皆様とお会いしているというわけです」

 

魔王軍との停戦について、実際に戦場の矢面に立っていたベルゼルグとして、説得に当たっているのだろう。ここでも凄まじい仕事をさせてしまっているような……。

 

「顔で何となく考えている事は分かるが、そこまで気にするな。どんな形であれ、魔王軍との戦いに終止符を打ったのだ。むしろこれは喜ばしい事なのだからな」

 

「いや、まあ分かるけど……。これだって、いつまで続くかも分からないぞ?」

 

「それこそ、ここからは王族や我々貴族の仕事だ。そのいつまで続くか分からない平和を長続きさせるのは」

 

ダクネスも真剣な表情で俺に語り掛けていた。冒険者と貴族といった二つの立場を持つ人間でもあるので、特に思う所があるのかもしれない。

 

「そういえば、王家としてもユウ様には褒美を取らせるべきといった意見も出ております。あれ程の大規模な戦闘だったにも関わらず、自ら最前線に立ち、死者ゼロなど奇跡としか言えませんので」

 

レインさんからの説明で、思い出したことがあった。

 

カズマは前魔王さんをしばいた功績で報奨金が出ていたとか。その他には……、

 

「良いんじゃないの? ユウはカズマと違って、魔王倒したって天界からの報酬も出ないんだし、その位あったって誰も文句は言わないわよ」

 

アクアの言う通りなのだ。かすみの件は魔王さん倒したりと何かとバタバタしてしまったが、俺としては自分の仕事してただけなので、そこまでは気にしていなかった。だがカズマから、自分だけここまで色々貰って良いもんかと聞かされていた。

 

とはいえ、いきなり褒美を貰えるとか、特に考えてはいなかったのでどうするか……。

 

①なんとかカリバー見せてもらう。

②それ以外の神器があったら見せてもらう

③丁重に辞退する。

 

「うーん……」

 

腕を組んで頭を悩ませていると、チラッと見えたかすみの姿でもって、

 

「でしたら……、義妹と友人になっていただけませんか?」

 

「ふぇ……⁉」

 

アイリスにしてもかなり意外な申し出だったらしい。素っ頓狂な声を上げて、ポケ―っと、こちらを眺めていた。一方、カズマ達は、

 

「やっぱりあいつは損な性格してるな」

 

「まあ良いじゃない。らしくて」

 

カズマとアクアは何となく予想できていた様な感じだった。おそらくは俺が金銭や貴重品を欲しがるとは思ってなかったのだろうが。

 

「そ、そんな事でよろしいのですか? もっとこう……」

 

レインさんも少しばかり狼狽えてはいるが、今回は助けてもらった立場なので、図々しく何かを貰う気にはなれないし、この位の方が後々になって気を使わなくて良いかもってのもある。

アイリスも何となく、俺の気持ちが分かってしまったのかもしれない。かすみに近づき、

 

「でしたら、こちらで一緒に遊びませんか? 今日は特に稽古事もありませんでしたよね? クレア」

 

「はっ……はい! 本日はダスティネス卿の訪問という事で、特に予定は入れておりませんでした」

 

そうして、かすみだけでなく俺達まで中庭にある日傘が備え付けられたテーブルまで引っ張られてしまった。そこにはこの世界のボードゲームが置かれており、

 

「ユウお兄様! 今日は勝たせてもらいますね! 私だって日々研究を積んできましたから!」

 

……そういえば、アイリスとは一回だけボードゲームをして、勝ち逃げの状態だった。あれは結構悔しかったのかもしれない。かすみに教えながらやってみるものありかと思い、一局だけ打つことにした。

 

「これならどうですか? こちらにテレポートで」

 

「そこの真正面には、実は潜伏スキルを使っている盗賊が待機している。悪いが、その駒は始末させてもらう」

 

「でしたら、アーチャーで狙撃をさせて頂きます!」

 

「もっとよく見ような? アーチャーの攻撃範囲には……?」

 

「ああっ……⁉ クルセイダーとナイトが配置されています⁉ ナイトなら倒せますが、次の行動が遅れて……」

 

俺とアイリスの打ち筋を見学していた周りは、

 

「……相変わらず、えげつねえ……。どれだけ先読みしてるんだか……」

 

「ねえ……、何でここまで差が出るの?」

 

「私も未だに一勝すらした事はありませんから……。ゆんゆんは……?」

 

「私だって一回も勝てたことない。戦略的な思考を育てるのに良いからって、たまに打つけど全然……」

 

「うーむ……。まるでアイリス様の駒が動かされている様にも感じるが……」

 

それぞれの感想を持ったようだった。他には……、

 

「私と魔法で試合した時と同じ物を感じます。うまく誘導されているというか……」

 

「これは……、軍略の参考になるか……」

 

レインさんとクレアさんも興味津々と言った様子であった。そして、その二十数手後、

 

「王手」

 

「……参りました」

 

ちょっとだけシュンとしながら負けを認めたアイリスではあったが、俺に向ける眼差しがもう一回と訴えていた。しかし、

 

「お兄ちゃん! わたしもやってみたい!」

 

そこにある意味子供らしい勢いでもって、自分もプレイしてみたいと申し出るかすみに、ルールを説明しようと。

 

「じゃあやり方教えるか……」

 

「大丈夫だよ! さっきのを見て、やり方は覚えたから!」

 

……一回見ただけで、やり方覚えたって……。頭良いのは分かってたけど、こんなに賢いのか?

 

俺としては屋敷に帰ってからゆっくりとやるか、などと思ったが、今度はアクアが、

 

「だったら、初めてなら私が相手しましょうか。子供相手に大人げない真似はしないから安心なさいな」

 

つまりはある程度、接待プレイをしてくれるらしい。なら良いかと両名椅子に座って貰い、十数分後。

 

「……ま、参りました」

 

「ありがとうございました」

 

涙目になりながら小刻みに震えるアクアと、ぺこりと対局相手に礼をするかすみの姿があった。ちなみにお互いハンデ無し。長考はアクアが異様に多く、かすみは瞬時に次の一手を打っていた。

 

「情けないな。アクアちょっと手本見せてやるから」

 

次はカズマが打つ気らしい。屋敷にいるもう一人の兄貴分としての威厳を見せたいとでも思ったのだろう。だが結果は……、

 

「つ、強ええ……」

 

「わーい! また勝った!」

 

自分の対局結果に愕然とするカズマと、二連勝してご機嫌なかすみ。この快進撃はこれだけでなく、めぐみん、ゆんゆん、ダクネスも撃破。メンバーの中で残るは俺だけとなったので、

 

「お兄ちゃんは本気で打ってね? 手加減とか駄目だよ?」

 

「そ、そうだな……。うん、本気でやるからな」

 

かすみさん、自分が最年少だからと、カズマ達が手を抜いたと考えているらしい。けど、そう思ってるのは本人だけだ。この場の全員が本気で打っていたのは、俺には分かっている。

お互い無言でパチパチといった駒を動かす音と、それの様子を固唾を飲んで見守るカズマやアイリス達であった。

 

「ちょっと、あの二人、考える素振りも見せないで、ひたすら差し合ってるわよ……」

 

「どれだけ先が見えてるんだ⁉ 全然付いていけねー……」

 

アクアとカズマがヒソヒソと話しながら、俺らの手を相互に見比べている様だった。

 

「な、なんという緊張感でしょうか⁉ まるで戦闘でもしているかのような……」

 

「う、うん……。二人共凄い集中力……」

 

めぐみんとゆんゆんは単なるボードゲームの筈なのに、その場の雰囲気に呑まれそうになってる。そこから十五分後、ついにその瞬間が訪れた。今まで淀みなく動いていたかすみの手がピタッと止り、

 

「参りました……」

 

肩を落として負けを認めたかすみに、

 

「十三手前にクルセイダーの配置を一つ前にしなかったのが敗因かな? そこで勝負が決まってた」

 

「そっか……。やっぱりお兄ちゃんって強いんだ……」

 

「お兄ちゃんは、現場で部隊指揮とかする場合もあるし、ここで負けたらそれこそ示しが付かないからな」

 

そんな余裕のある態度を取ってはいたが、胸中では……。

 

……な、なな、何でこんなに強いんだ⁉ はっきり言ってギリギリだった……。さっき指摘したミスが無かったらこっちが負けてたかも……。魔法使いの適性が高いって事は魔力と知力が高いって事だけど、これも引き継いだチートのおかげなのか……⁉ まだ八歳でこれなら将来どれだけになるのやら……。

 

かすみの可能性に内心カクブル震えながら、兄の威厳を保つために色んな方面での鍛錬をより一層頑張らなければならないと心に誓ったのだった。




かすみはパーティー内唯一のチート持ちみたいな存在なので、魔法使いの適性、おそらくは魔力と知力が異様に高いって事で、こんな感じにしてます。しかも、まだまだ伸びしろがあるので将来はどうなるやら。

とりあえず後日談編はこれで終了とします。今回はちょこっとだけ海鳴でのシーンで、GOD編の伏線も張ってたりしてます。
(紅魔の里では『オリジナル』の単語に反応していましたが、フェイトをそう呼ぶのは……)

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