この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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鬼畜よりもギアーズよりも、母は強し

「うーん……。う、腕が上がらない……」

 

日本で言えば女子中学生二人を背負ったり、抱っこしてアースラに帰還したのは良いが、戦闘やこれまでの疲労も祟っていたのかもしれない。腕がプルプルと震えてしまっていた。いくら身体強化してるといっても、魔力もそこそこ消耗した状態では結構な負荷になっているのだ。

 

「……お前ら、やり過ぎじゃないのか?」

 

9歳のユウの惨状を見て、流石に不味いのでは、といった感じでカズマに窘められていた二人の紅魔族は、

 

「二人一緒は、きつすぎたでしょうか……。いえっ! おそらくゆんゆんの方が負荷になっているはずです。なにせその胸部装甲が凶大ですから!」

 

「わ、私⁉ そんな事ないよね? むしろめぐみんがしがみ付いてたから……」

 

断っておくが、小学3年生と中学2年生の体重の差は男女の差があるとはいえ、平均で言えば10kg以上離れているのだ。めぐみんは平均より下だとしても、それを二人同時に運べばバテて当然である。

 

「お姉さん達って俺の事嫌いなのか……」

 

その発言にビクッとして子供ユウの方を向く二人であった。しかしダクネスが、

 

「二人共……今度は私でやってくれないか? そのまま走り回っても構わんし、アクセルを一周しても良い」

 

「ダクネス……、それは止めた方が良いわ。ユウ、何だったら私が治療――」

 

アクアがいつもの調子で疲労しているユウの回復を買って出ようとしたのだが……、

 

「シャマル先生……、軽くヒーリングして貰って良いですか?」

 

「ええ。こっちにいらっしゃい」

 

シャマルの方に行ってしまった彼を見るなり涙目になって、

 

「カズマああ……、私じゃなくて湖ごときを頼るなんて……。いつもなら私に治療を頼むのに……!」

 

「当り前だろうが! 今のあいつはお前の事なんて知らねーだろ!」

 

カズマへと泣き付いてしまっていた。

シャマルにちょっとだけ治療して貰ってから、未来からのお客様を艦内の空いている居住スペースへと案内する事になった。

 

「では皆さんこちらへ来てください」

 

そして、それぞれの割り当てられた部屋へと着くと、

 

「何でトーマとリリィは一緒の部屋なんだ?」

 

「えっ……? 元の時代でもルームメイトですけど……。本当はもう一人アイシスって女の子が――」

 

そこまで言いかけたトーマにカズマが信じられないようなものを見る瞳で、しかも顔を真っ赤にして、

 

「お前までリア充か⁉ しかも男一人に女の子二人だと! お前は、”まったく、小学生は最高だぜ!”とか言ってそうな奴じゃねえかああああ!」

 

「お、仰ってる意味が分かりません……」

 

叫びながら抗議をしていたが、部屋割りについては、同じ時代同士で固めたので仕方ないと言える。

 

カズマ達は人数が多いので二部屋割り当てられたが、部屋割りはカズマ、アクア、ダクネスとめぐみん、ゆんゆん、かすみである。もう洞窟暮らしはしなくていいので、騒動が収まるまでは快適な空間で休んでいればいいのだが……、

 

「カスミはこの艦に乗った事はありますか?」

 

「ううん。お兄ちゃんは馴染みがあるみたいだけど、わたしはこういうのは全然知らないから……」

 

かすみの回答にめぐみんがちょっとだけ悪い顔をして、

 

「ふっ……。ではこの中を散歩してみませんか? 見た事の無い物が沢山ありますよ?」

 

「め、めぐみん……。駄目だよ、あんまり動き回って、ユウ君達を困らせたら……」

 

「こんな空を飛ぶ要塞の中にいるのですよ! 紅魔族的には色々見てみたいものなのです!」

 

アースラの中を探検する気満々らしい。

 

「えっと……、めぐみんお姉ちゃん? あんまり歩き回ると迷うと思うよ。本局だって、お兄ちゃんがいないと迷いそうになるし……」

 

「では、道案内できる人間がいれば良いのですね?」

 

「めぐみん……、何する気?」

 

案内人、それに選ばれたのは当然……、

 

「……俺、仕事があるんですが?」

 

「まあまあ、少しだけですから。部屋だけでは色々と困ります。食堂や休憩所も知っておいた方が良いでしょう?」

 

廊下を歩いていたユウをほぼ無理矢理引っ張って、道案内させていた。

 

「ごめんね? ユウ君、本当にちょっとだけだから」

 

「お兄ちゃ……、ユウさん、その……わたしも興味があって……」

 

ゆんゆんとかすみは申し訳なさそうにしていたが、何だかんだで自分達の世界とはかけ離れている次元航行艦に興味津々らしい。

 

(あんまり会話しない様にって、キリエさんに言われてるんだけど……良いのかな?)

 

重要な情報源であり、今回の騒動の発端になっている者の言葉を無視するわけにも行かないが、目の前の三人を放って置くと面倒ごとになるかも、との勘も働いていたので頭の中では結構悩んでいた。

 

「ちょっとだけですよ? 俺も本当に仕事がありますから……」

 

あんまり時間を掛けずにササッと済ませようとしていたが、ユウから、

 

「ワンドのお姉さんって、かなり強いですよね? やっぱり凄い鍛錬を積んでるんですか?」

 

その質問は彼女にとって答え難いものだった。まさか未来のユウにほぼ毎日コテンパンにのされていたとは説明できない。

 

「俺も……、お姉さんみたいになれるかな……」

 

伏し目がちでそう呟いていた。プログラムカートリッジのメインアタッカー選抜は最初から参加できず、他と比べても戦力としては大分劣っているのは自覚があるらしい。

 

「前にバニルが劣等感まみれと言っていましたが、本当にそうだったようですね……」

 

「どうしよう……。未来の事を答えた方が良いのかな? それはやらない方が良い気がするけど……」

 

めぐみんとゆんゆんが彼への返答で悩んでいると、

 

「そっちは駄目です。関係者以外は立ち入り禁止ですから」

 

かすみが艦橋の方へと行こうとしたので、それを止めて、

 

「はい。案内してる間は、こうしますから離れないでね?」

 

「うん! 小さくてもやっぱりお兄ちゃんだ……。えへへ……」

 

かすみと手を繋いで艦内の案内を続けていた。未来の義妹は、はにかみながら嬉しそうにしていたが、その様子を……、

 

(右手はカスミと……。残っているのは左手、ならば……!)

 

(これだったら、自然と手を繋げるかも……。子供だから大丈夫……)

 

二人ほぼ同時にユウの左側へと身を寄せると、双方の肩がガンっとぶつかってしまい、

 

「ゆんゆん……、どうしました? なぜわざわざこちらへ移動してきたのでしょうか? カスミの側にいたというのに……」

 

「めぐみんこそ、ぴったりくっつこうとしてどうしたの? 私はこっちの方が歩きやすかったからだけど……」

 

お互いにこやかにも関わらず、その視線の中央では火花が散っている様な、ピリピリした雰囲気が即座に出来上がってしまっていた。

 

「あの……、お、お二人はどうしたんでしょうか……」

 

「お姉ちゃん達もここでケンカは止めて!」

 

ユウはアタフタ、かすみは二人を止めようと必死になっていたが、後ろから声が聞こえてきて。

 

「あら? 年上のお姉さん達にモテモテなユウ君じゃない」

 

「キリエさん……。まだマリーさんの所で修理が必要って聞きましたけど?」

 

今回の重要参考人である桃色さん。この人、外見は人間そのものだが、彼女達の故郷であるエルトリアの『死蝕地帯の復旧機材』――自動作業機械のギアーズらしい。それは別の未来の異世界から来ている人達も知ってしまった様で……、

 

「と、ところで、キリエは言わば、ゴーレムの様な存在ですよね⁉ しかし、人格もちゃんとありますし、人間と変わらないように見えます!」

 

「そうね……。けど、中身はちゃんと機械よ? まあ、博士には普通の人間みたいに育てて貰ってたけど」

 

博士ってのは、この人達の生みの親で、死蝕対策の研究者でもあるグランツ博士だろう。アミタさんとキリエさんは人格形成システムを作り込み過ぎてしまったらしい。アミタさんは失敗って言ったけど、失敗って言えるのか判断に迷うところだ。

めぐみん的にはギアーズの存在自体が琴線に触れているらしい。

 

「信じられません……。人間の様に子供の頃があったのですか⁉ でしたらやはり――」

 

「さっきも言ったけど、私は機械よ。言ってみれば人間の道具」

 

キリエさんが何か自嘲気味の様な?

 

「何を言いますか! それを言ったら私とゆんゆんも改造人間の末裔です! 人に造られたという点では変わりません!」

 

「お姉さん達ってそうなの? うーん、まあいっか」

 

ちょっとだけ驚いた顔をしていた少年に対し、

 

「あなたも結構、軽いわね……。そっちの娘達もそうだけど、まあいっかで済ますの?」

 

「だってほら……、普通に話してるし、そこまで気にする程じゃ無いですよね?」

 

「ユウ君って大物かもしれない……」

 

どこか呆れた様な様子の桃色さんであった。

 

「わたしも……改造人間だよ? お姉ちゃん達と違って、初代になるけど……」

 

かすみの発言に、この場の普通の人間は自分だけなのか……と考えてしまい、とんでもない世界に足を踏み入れてしまったのではなかろうかと、感じてしまったユウであった。

 

「どころで……あなた達はこんな所で何してるの? 手を繋いだりして、艦内でデート?」

 

「迷子になったら困るから、こうしてるだけですけど……」

 

「ああ、ごめんなさい。まだまだボクちゃんには早かったみたいね」

 

実際子供なので、その辺はツッコむ気にはならないが、態度が軽いというか人をからかってる感じがどうも苦手だ。

 

「さっきも言いましたけど、マリーさんの所でアミタさんと一緒に修理してもらってください。あの子……、アンちゃん止めるのに今、作戦を練ってる最中ですから」

 

八神ちゃんの方のあだ名(ヤミちゃん)で呼ばないのね……」

 

「ヤミちゃんだと、可愛くないです」

 

『砕け得ぬ闇』のあだ名について語っていると、

 

「……あだ名付けはこの頃からでしょうか」

 

「みたいだね……。まだふざけて付けてないから良いのかな?」

 

紅魔族の二人が何やらヒソヒソとこちらを見ながら未来の出来事について話していた。

 

「じゃあ、私は行くわね。それと……」

 

キリエが去り際にめぐみんとゆんゆんの方を一瞥しながら、

 

「ここの彼はボクちゃんなお子様だから、あなた達の愛は重いわよ? 特にさっきのは物理的に。もっとお姉さんな余裕を持った方が良いかもね」

 

先程二人でしがみ付いた件について、ちょっとだけ注意されていた。キリエがマリーのラボの方に向かって行ったので、大人しく修理を受けるのだろうと思い、かすみ達の案内を続行していると、

 

「物理的に愛が重い……」

 

「私の体重……、重すぎ?」

 

キリエの一言が心に突き刺さってしまったらしい二人が暗い雰囲気でついて来ていた。

 

「お兄ちゃん、さっきの人のお見舞いに行ってみて良い? 暇かもしれないし、アクアお姉ちゃんの芸とか面白いと思う」

 

「んー? 別にいいとは思うけど、お仕事してる人達の邪魔をしちゃ駄目だよ?」

 

手を繋いでもらったせいか、いつの間にか”お兄ちゃん”呼びに戻ったかすみであったが、ユウ自身もあまり気にしていないらしい。ぱっと見、年下っぽいので別に良いかといった感じだ。

 

そして、カズマ達の部屋へと行って、彼らと合流した後でラボの方へと向かったのだが……、

 

「ああっ……⁉ 悠君、キリエさんを見なかった?」

 

「えっ……? さっき会ってこっちに向かってましたから、てっきり休んでるとばかり……」

 

その場にいたのは、キリエを探してモニター類を確認するマリーと、妹の行方を探すために初めて会った時の青いジャケット姿になったアミタの姿があった。

 

「めぐみん、会った時にどんな感じだった?」

 

「ふぇ⁉ あ、愛が重いと言われましたが……。後は……人間の様に育てて貰ったとか……それでも自分は機械だと……」

 

カズマからの唐突な質問に答えるめぐみんではあったが、カズマは何かを察したらしい。”自分は機械”――まるで自分自身の事なんてどうでも良いと言わんばかりのセリフだ。

 

「この艦の出入口はどこだ? 多分、外に出ようとしてるぞ!」

 

「「「「……⁉」」」」

 

その一言でその場の全員が目を見開いてしまった。そもそもなぜそんなのが分かるのか……と。

 

「前に……、ここは過去だから未来なのか? ああっ! それはいい。ユウがかすみの時にやったのと同じだろーが! 一人でどうにかする気だ! あいつだって自分の役目つって一人で行っただろうが!」

 

「お、俺がどうかしたんですか⁉」

 

「お前はまだ知らなくていいんだよ! 早く追いかけるぞ! 案内しろ!」

 

普段のカズマらしからぬ態度だが、前の時は下手すれば知らないうちにユウとかすみの二人が自分達の元から消えていた可能性だってあったのだから、それと同じならすぐに分かるとの本人の言だった。

 

もうしばらくしてから、システムU-Dが再稼働する。そうすれば世界の二つ三つは破壊するかもしれない。そうなる前に自分でどうにかするつもりだと……、その予想は当たっていたようで、先にキリエを止めようとしていたクロノやシャマルでもそれは適わなかったらしい。そして……、

 

「あら? 今度はあなた達なの……。執務官にもシャマル先生にも言ったけど、退いて貰えないかしら?」

 

「あのなあ……。うちの一番強い癖して、一番面倒事を引き付けたヤツと同じ事してもうまくいくわけねーだろうが! 大人しく戻れって!」

 

「ふうん……。まるで私と同じ事をしようとした人を知ってるみたい」

 

「知ってるみたい……じゃなくて、知ってるんだよ! そいつは一人でやろうとして、死にかけてるからな!」

 

キリエを説得しようとしていたが、腕ずくではまず勝てる気はしない。ここは話し合いで済めばと考えていたが、そうなるはずもなく、

 

「良いから退いて! 元々あなた達には関わりの無い事だから!」

 

先に止めようとした二人とやり合ったのもあったのかもしれないが、廊下で出会った時と比べて明らかに余裕がなくなっていたキリエだった。

 

「……お嬢ちゃん、退いて貰えないかしら? あなたみたいなお子様は、事が済むまで黙ってれば良いわ」

 

「……嫌。お兄ちゃんと同じ事なんてさせない。キリエさんだって、お姉さんがいるから」

 

キリエの要求を、真っ直ぐな眼差しで拒絶していたかすみだった。

 

「勢いで行動するところまで似て来たか?」

 

「うーん。カズマさん、ここはバインドで締め上げた方が良いと思うの!」

 

「やるなら私が羽交い絞めにするので、それごとやって貰えないか? 一昼夜そのままで構わん!」

 

最年少のかすみの行動にヒソヒソ話をしていた物の、あちらはあちらで話が進んでしまっていたらしく、

 

「お嬢ちゃんのお兄さん……。随分やんちゃな子みたいね? あなたと違って、私はお姉ちゃんなんて大嫌いだから、心配しなくていいわ」

 

「素直じゃない子はバインドでグルグル巻きにしてから頬っぺた引っ張って、何にも言えなくした後で、止めはこめかみグリグリのコンボで黙らせるのが一番良いから……覚悟して!」

 

かすみさんは兄譲りの方法で、キリエを止めようとしているらしい。割と下らない方法だが、彼女の兄曰く、相手を傷付けずに制圧する平和的な方法らしい。やられた方は堪ったものではないが……。

 

「それに……、キリエさんだってわたしに”()()()()お兄さんを大切にしなさいね”……って言ってた。本当は……」

 

「そんなの言ったかしら?」

 

(とぼ)けた感じではぐらかされたが、かすみを背にして今度はカズマが立ちはだかっていた。

 

「ふうん? あなたは戦うのは得意じゃないと思ってたけど……。やる気?」

 

「一応、この場じゃ、こいつの保護者代行だしな。かすみに何かあったら、こいつの兄貴がマジでキレる……。アクセルの大魔王って呼ばれてる奴だからな……」

 

カズマからしたら、目の前のお姉さんより未来のユウの方が怖いらしい。まあ、サキュバス騒動での恐怖は、そう簡単に払拭される物ではないだろう。

 

「……ユウさんって……何で『アクセルの大魔王』って呼ばれてるの?」

 

「さ、さあ……? サキュバス騒動以来……、何故か呼ばれてしまっていますが……」

 

「何で俺が大魔王?」

 

自分がそんな呼ばれ方をされているとは露にも思っていないユウ君だった。普通は想像しないだろうが……。

 

「悪いけど、あなたじゃ私の相手には――」

 

「『スティール』ッ!」

 

カズマ相手に余裕のキリエだったが、すぐさまカズマがスティールを発動すると、

 

「ちょ……⁉ 私のザッパー返して! あなたが持ってても意味の無い物よ!」

 

キリエの『ヴァリアント・ザッパー』がその手に握られていた。その様子を……、

 

「カ、カズマが女の子から武器を奪うなんて……⁉」

 

「こっ……これは、天変地異の前触れですか⁉」

 

「わ、私は今……、奇跡を目撃した……!」

 

スティール本来の用途であるはずのアイテム強奪。それをカズマが女の子相手で成功させた事により、その異常性を知るアクア達は、ありえない物を見ている眼差しになっていた。

 

「お前ら……、後で覚えてろよ! まあいい。今は『逃走』で逃げさせてもらう!」

 

「待ちなさい! 良いからザッパー返して!」

 

そうして、すたこらさっさとこの場から全力で走り去るカズマと、それを追いかけるキリエを見ながら……、

 

「あのお兄さん……凄い! 相手を傷付けずに、キリエさんを無力化した……」

 

「ちょっと待ってください! 確かに凄い事ではあるのですが、見習い過ぎてもいけません! 良いですか? 強大な相手には正々堂々と立ち向かい、撃破するのがカッコいいのですから!」

 

「うん、そうだよ! ユウ君は斜め上の事をしなくても強くなるから……。ああでも、結構あれに似た事をやってたような……?」

 

乙女達(めぐみんとゆんゆん)の理想というのは、存外に高いらしい。ユウからすれば、クロノやシャマルにも抑えられなかったキリエをあそこまで簡単に手玉に取っているのだから、感心しても仕方なかったりする。

 

一方その頃、艦内で追いかけっこをしている両名はというと……、

 

「何よこれ⁉ ワイヤートラップ⁉ 逃げながら仕掛けたの⁉」

 

「はははははっ! 馴染みの盗賊がいてな! 気を付けて解除しろよ? 下手なのを切ればボンッと行くかもしれないぞ?」

 

こんなのは単なるはったりだが、時間稼ぎにはなる。キリエも廊下に伸びるワイヤーを注意深く確認しながら解除して数歩だけ進むと、すってんころりと転がってしまう。クリエイト・ウォーターとフリーズのコンボで床面が凍り付いていた。

 

「痛ったーい! 何で艦内の床に氷が張ってるのよ⁉ しかもこんなに滑りやすく張ってるって……!」

 

「いい加減諦めろって……。俺を本気にさせたらこんなのじゃ済まないぞ?」

 

「女の子相手に恥ずかしいと思わないの! 逃げないで力づくで抑えなさいよ!」

 

「悪いが、俺は真の男女平等を願う存在(もの)! 相手が女だろうと手段は選ばないし、必要とあらばドロップキックだって食らわせられる!」

 

信じられない人間を知ってしまった様なキリエであったが、自分の武器を取り返さなければ、システムU-Dの所に行くなんてできない。全力でカズマを確保しようと躍起になっていた。

 

「キリエ! 皆さんに迷惑を……、あれっ?」

 

「アミタ⁉ 私のザッパー盗られた! 取り返すから手伝って!」

 

「えっ……⁉ これは好都合! そのまま確保しておいて下さい!」

 

自分の妹が無茶をしようとしていると聞き、それを止めるために修復機能に負荷をかけてまで起き上ったアミタにとっては幸運だった。

 

「どこに行ったのよ⁉ 廊下はワイヤーだらけだし、目つぶしもされるし、床に氷も張ってるし何なのよ⁉」

 

「あの方……、ゲリラ戦のプロでしょうか⁉ お、恐ろしい手練れです……」

 

地球の科学技術を超える次元航行艦の中にいるというのに、まるで罠だらけのジャングルでの戦闘をしているかのような気分となっていたギアーズの妹の方だった。おちょくられている様な感じで頭に血が上っていたのが裏目に出てしまい、『潜伏』で物陰に隠れていたカズマに気付くのが遅れてしまった。

 

「『バインド』ッ!」

 

「何⁉ このワイヤー、硬い……」

 

ミスリルワイヤーのグルグル巻きでキリエは完全に動きを封じられてしまい、立ち上がれずに拘束されたまま寝転がっている。

 

「どうだ? もう観念して諦めろって。大人しくするなら、後でちゃんと返すからさ」

 

「私の事は、ほっといて! 邪魔をしないで‼」

 

動けなくなってもまだ一人でどうにかするつもりのキリエに対し、

 

「仕方ないな……。まだヤル気なら、俺の『スティール』が炸裂するぞ?」

 

「何よ! 武器盗るだけの物でしょ! そんなの……」

 

「あんたは運が良かったな? 俺のスティールで最初に武器を盗られたんだから……。言っとくが、これは身に着けている所持品なら全て対象になる。連続でやればどうなるか……分かるな?」

 

その言葉の意味するところを瞬時に理解してしまい青ざめてしまったキリエと、怪しげな動きで指をウネウネと動かすカズマであった。すると後ろから……、

 

「どうなるか聞かせて貰えないかしら? この艦には子供も多く乗ってるから、その辺は配慮して欲しいわね……」

 

「えっと……? どちら様でしょうか?」

 

「ああ、ごめんなさいね。私はこの艦の責任者よ。お目に掛かるのは初めてだけど」

 

カズマの目の前にはにこやかにも関わらず、逆らってはいけない雰囲気を醸し出している緑色の髪の美女が佇んでいた。彼女は笑顔であるが、よく考えて欲しい。艦の中を逃走するならまだしも、所々にトラップを張り、床はびしょ濡れ。そんな惨状にした張本人を艦長としては放って置くわけには行かないだろう。

 

「ちょっと私の部屋まで行きましょうか? おいしいお茶も出しますからね」

 

そうして、見た目は十代にも見えるクロノの母親にしてアースラ艦長、リンディ・ハラオウンに引っ張られてしまったカズマだった。

その後、部屋に戻ったカズマは憔悴による疲労に加え、とあるお茶によって胸焼けを起こしてしまい、具合が良くなさそうであった。

 

一方、無茶をしようとしていた桃色ギアーズはというと……、

 

「怖かった……。お姉ちゃん、私、怖かったー!」

 

「はいはい。分かりました。分かりましたから、もう無茶な真似はしないで下さいね?」

 

熱血な姉に抱き締められながら慰められて、姉妹喧嘩を綺麗さっぱり忘れてしまっていたのだった。




カズマさん、艦長室でリンディさんからにこやかにお説教されながら、通称リンディ茶のおかわりを勧められて、震えながら何杯も飲んだと思われます。
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