この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
雪精討伐と追憶
ある日の冒険者ギルド。最近ではお決まりとなっているカズマとアクアの口喧嘩が繰り広げられていた。原因は、あの一件でのアクアの洪水であり――
「お前の作った借金のせいで毎回、請けたクエストから報酬の大半が借金返済のために天引きされていくんだぞ!?」
「だってだってしょうがないじゃないの! あの時の私の超凄い活躍が無かったら、この街は滅ぼされていたかもしれないのよ!? 感謝こそされ、借金背負わされる謂れはないんじゃないかしら!」
この後も、アクアは自分を讃えて甘やかせだの、カズマはカズマで、だったら借金自分で返せだのと言い合っていた。一歩間違えれば、自分が借金を作る原因になっていた可能性があることを考えると何も言えなくなるが。もしかしたら俺が四千万エリスの借金をこさえる……。その想像をしただけで、震えがくるのは気のせいじゃない筈。
「朝から何を騒いでいるのだ。皆見て……いないか。既にギルドの連中も、お前達に慣れてきたのか……」
「三人とも早いですね。何か、良い仕事はありましたか?」
ギルドを訪れたパーティーメンバーのダクネスとめぐみんが俺達に声を掛けてきた。二人共、装備も整え、いつでもクエストに行けるといった格好だ。
「二人ともおはよう。それと仕事はまだ見てない。カズマとアクアがあんな感じだからな」
「おはようございます。ユウは何をしているのですか?」
紙とペンを持っている俺を見て、めぐみんが首を傾げながら質問をしてきた。
「報告書。ここら辺の事も調べろって命令だからな。あいつらの口喧嘩が終わるまでの時間つぶし」
そう、今の俺は先日の辞令で正式に、この世界に留まることになったのだが、今までに経験したこの世界の生態系や特徴などをまとめて、報告書を作っていた。
本当はデバイスで入力用の画面でも開けばいいんだろうが、あんまり特異な事をしてもよくないと思い、文章を作成して馬小屋でデバイスに読み込ませている。
「……なぁ、自分で報告書作っておいてなんだけど、これ……受理されると思うか?」
『ありのままの事実を報告するしかありませんしね。画像も添付しますし、信憑性は高いはずです。世の中には色々な世界がありますから、問題は無いかと』
俺からの問いにデバイスのファルシオンが答えを返す。基本的に寡黙ではあるが、受け答えはきっちりしてくれるのがコイツだ。
その通りだが、冒険者カードやスキル制についてはいい。でかいカエルがいるのだってまだ分かる。けどキャベツやレタスが空を飛ぶとか、ゾンビやリッチーやデュラハンのようなアンデッドがいるとか、魔王がいるとか、改めて文面を見返すと、ふざけている様にしか見えないんだよなぁ……。
「……所属している組織の仕事か。冒険者と二足のわらじでは大変ではないか?」
「大変ちゃ大変だけどな。冒険者やってれば報告できることも多いだろうし、そこまでじゃないかな。給与も支給されることになったし、これも仕事だ」
珍しくダクネスが、いつもの困った発言をせずに話しかけている。そして書いている報告書をチラ見しながら、俺の反対側の席についていた。
「お前は、給料が出るからいいよな。こっちはクエストの報酬天引きされるってのに!」
「ねえねえ、どの位貰ってるの? こっそり教えて」
口喧嘩を終えたカズマとアクアが給料の話題に興味を持ったのか、こちらにいつの間にか合流していた。
実は諸手当や経費込みなので、それなりの額にはなっているのだが、アクアにそんなこと言うと、絶対に奢らされるので黙っておく。根回ししてくれたはやて達に感謝だ。
「俺だって税金が天引きされてるし、これから本格的に冬が来るからな。貯金しておかないと後で困る。それよりもクエスト選ぼうぜ」
全員揃った事で、俺達は掲示板まで行きクエストを見ていたが、報酬は高額であるものの、やはり難易度の高いクエストしか残っていなかった。例えば――
―牧場を襲う白狼の群れの討伐、百万エリス―
―冬眠から覚めてしまった一撃熊が畑に出没。討伐なら二百万、追い払うなら五十万―
名前からして危険なクエストだ。俺はまだいいが、カズマはこのクエストには関わりたくなさそうだ。あとは……。
「機動要塞デストロイヤー接近中につき、進路予測のための偵察募集?」
デストロイヤーって何だ? そんな疑問を持っていると……、
「デストロイヤーはデストロイヤーだ。大きくて高速移動する要塞だ」
「ワシャワシャ動いて全てを蹂躙する、子供達に妙に人気のあるヤツです」
ダクネスとめぐみんが説明するが、よくわからない。ただ、危険なクエストなのは間違いないらしい。しかし、機動要塞か……。陸上型アースラみたいのだったら、一度見てみたいもんだ。
「なあ、この雪精討伐ってなんだ? 名前からしてそんなに強そうに聞えないんだけど」
カズマが目に付いたクエストの詳細を聞いていた。確かに名前だけ聞くと、小動物っぽい響きのモンスターだ。
詳細を聞くと雪精はとても弱いモンスターで人に危害は与えないが、一匹倒すごとに春が半日早く来ると言われているらしい。しかも一体討伐で十万エリス、他のクエストに比べれば破格と言っていい。
カズマもその説明を聞いて、特に危険はなさそうという事で、このクエストを請けることになった。
街から離れた平原地帯、そこだけが雪で真っ白になっていた。そこらへんに白くてフワフワな手の平くらいの大きさの丸い塊が漂っている。
攻撃を当てようとすると素早く動くが、反撃されるわけではなく、確かに危険なモンスターじゃない。
この位の素早さなら討伐は容易だな。なんでこんなモンスター討伐が高い報酬になんだろう?
そんな疑問を持ちながら雪精討伐をしている内に、アクアは、補虫網と小瓶を抱え雪精を捕まえて、ネロイドをキンキンに冷やしておくと言い出したり、ダクネスは鎧が修理中なので私服姿だったが、どう考えても寒そうだ……。本人曰く我慢大会みたいでいいらしい。こんな場所でも、変態は変態のようだ。しかも頭はかなり熱くなっていると思われる。俺はというと……。
「何でお前までいつもの防護服なんだよ。寒そうに見えるぞ? コート以外は夏服と変わらないだろ、それ」
「この服は温度変化にも対応できるからな。この程度の寒さなんて、どうとでもなる。実は寒くなってからは馬小屋で寝る時も、この格好なんだ」
「便利すぎだろ! 俺にも教えろ!」
カズマが捲し立てながら、バリアジャケットの作り方を教えろと言ってきたが。
「カズマだとまだ、長時間維持は難しいかもな。バリアジャケット作っても途中で魔力がなくなったら結局元に戻るし、消耗してる分危険かもしれないぞ。出来そうなのはアクアとめぐみんだけじゃないかな」
「私は要らないわ。この服があれば十分!」
「私は覚えてはみたいですが、その防護服を作ると爆裂魔法が撃てなくなりそうなので……」
アクアとめぐみんがそう答えて、雪精討伐を続行した。その後めぐみんが爆裂魔法を唱えて雪精を一掃したその時……。
何だろう……? 空気が変わったような……。
「……ん、出たな!」
ダクネスは、ソイツを見て嬉しそうに大剣を構え、めぐみんは死んだ振りをしている。ダクネスは危険なクエストを受けたがっていたが、この『雪精討伐』を受けた理由は――
「なぜ冬になると、冒険者達がクエストを請けなくなるのか。その理由を教えてあげるわ……。冬将軍の到来よ!」
……冬将軍? 冬将軍って厳しい冬のことだよな? 確かに鎧兜で真っ白だけど、なんで将軍? もしかしてここって日本と関係あるのか?
細かいことは後で考えるとして、今は臨戦態勢を整える方に専念する事になった。
しかし、ダクネスの大剣は簡単に折られ、俺の魔法も効果は無く、こちらに切りかかってきた。この冬将軍、ベルディアよりも、多分、確実に強いかも知れない。
「カズマ、ユウ、聞きなさい! 冬将軍は寛大よ! きちんと礼を尽くせば見逃してくれるわ!」
そうしてアクアは地にひれ伏すと、日本人なら誰でも知っている謝罪方法を繰り出していた。
「DOGEZAよ! DOGEZAするの! 二人とも武器を捨てて早くして!」
土下座程度で見逃してくれるんなら安いもんだが、アクアの発音なんか変じゃないか? それよりもここはアクアの指示に従う。ここで全力で戦ったりしたら……、生活費稼ぐだけなのに、はっきり言って割に合わない。
俺とアクアは土下座、めぐみんは爆裂魔法後で動けなくなっているので、死んだ振り。ダクネスはというと……。
「私にだって、聖騎士であるプライドがある! 誰も見ていないとはいえ、騎士たる私が、怖いからモンスターに頭を下げる訳には……!」
な どと、いつもはモンスターに付いていったり、バインドで拘束しろと言ってるのに、妙なプライドを見せていた。カズマは必死にダクネスの頭を下げさせていたが。
「くっ、下げたくもない頭を無理やり下げさせられるとは、どんなご褒美だ!」
……ご褒美なのか。見るともう形だけの抵抗だ。そのままご褒美堪能してろ。そう思った時、アクアの警告が飛んでいた。
「カズマ、武器武器! 早く手に持ってる武器捨てて!!」
カズマはアクアの言うとおり、手に持った剣を捨てようとするが、慌てていたのか頭を上げてしまっていたのがマズかった。それはもう土下座ではなくなっており、冬将軍の刀が真っ直ぐにカズマの首筋へ――
……そして、次の瞬間……カズマの首が……。
そこから先は、よく覚えていない……。ただ頭に血が上って冬将軍に斬り掛かろうとし、アクアやダクネスが大声で何かを叫んでいたのだけは覚えている。
――何で……、どうして……!? おじさん……、お父さんとお母さんは……!? どうして帰って来ないの!!?
意識を失う瞬間。子供の頃……、イギリスから来た両親の知人に詰め寄り、その人を責めている自分の姿が脳裏に蘇っていた。
……ここはどこなのか、目の前には顔はよくわからないが、長い髪のナイスバディなお姉さんがいる。どこかで会った気がするそのお姉さんは、優しげな声を発しながら俺の手を取り。
「もう戻りなさい。いつまでも”ここ”にいてはいけないわ……」
そう言って、俺を通路のような場所へ導き、そこから微笑を浮かべて手を振っていた
これって前に、意識不明になったときに見たのと同じ夢……。そういえば、あの時も冬だったな……。撃墜されて、次に目を覚ました時は、病院のベッドの上だったっけ……。
そんな思い出を振り返りながら意識を取り戻した俺が見たのは、俺とカズマを見つめるアクアの顔。どうやら、アクアの膝で片膝ずつ膝枕されているようだった。
めぐみんは泣きながら俺とカズマの名前を呼んでいるし、ダクネスはカズマの手を握り、祈るように眼を閉じていた。
起き上がり、泣いているみんなの顔を見ながら。
「……俺、どうなったんだ……?」
「どうなったんだ……ではありません! カズマの首が斬られたのを見て、冬将軍に斬りかかったんです!」
「私達が止める間もなく、冬将軍に突っ込んで行ったんだ! 何を考えている!」
めぐみんとダクネスは、俺がどうしてこんな状態になっているかを説明していた。
冬将軍の斬撃はシールドを抜いて、バリアジャケットも破損。コートの部分は完全に破壊され、上着も破けていた。ただし、その一撃で気絶したので、カズマのように首を跳ねられたりはしなかったそうだ。
「そういえばカズマは……!?」
「安心しなさい。この私くらいになれば、死にたての死体なんてちょちょいと蘇生よ! 斬り口も見事だったし、治療も簡単だったわね」
……え!? 首を切られたのに蘇生!? こんな簡単に? こっちの魔法ってスゲェー!!
……もしかして、凄く余計なことをしてしまったんじゃ。
少し落ち込んでいると、カズマも眼を覚まし、アクアに向かってチェンジなどと言っていたが、何がチェンジなのだろう?
ギルドに戻った俺たちは雪精討伐の報酬を受取り、みんなで雑談しながら夕食をとっていた。その間、さっきの夢の事を思い出していたのだが、俺の様子がおかしいと感じたのか。
「もしかして冬将軍にやられた傷が痛むのですか?」
めぐみんが心配そうな表情を浮かべ、俺の様子を伺ってる。あまり心配ばかり掛けるのも悪いと思い。
「それは大丈夫、元々大した怪我じゃないし、アクアも治療してくれたしな。ただ、気絶してた時に懐かしい夢を見てさ」
「……どんな夢だったのだ?」
ダクネスも興味を持ったのか話に加わってきた。偶に自分語りも悪くないという事で。
「昔、同じ仕事してる幼馴染がさ、大怪我したことがあったんだよ。そいつは俺と違って魔法を覚えたてでも優秀で、どんなに大変な事だってどうにかしてきた。けど、そのせいで知らず知らずの内に体の中にダメージを抱えててな。ほんの少し反応が遅れて敵の攻撃をまともに喰らってしまったんだ」
その話をめぐみんとダクネスだけじゃなく、カズマとアクアも無言で話を聞いていた。
「あいつがそうなったのもショックだったし、近くにいたはずなのに、それに気付かなかった自分にも腹が立ったし、だから焦ってたのもあったのか、俺も敵の攻撃をまともに喰らって意識不明になったことがあったんだ。医者に言わせれば、あれ以上意識が戻らなかったら危なかったらしい……」
「その時に、その夢とやらを見たのか?」
「ああ……。髪の長いお姉さんだった様な気がするんだけど、よく覚えて無くてさ。色々話したような気がするんだけど、覚えてる事っていったら、”あなたはもっと自分を大事にしなさい。それと同じくらい周りの人も大事にしなさい。”って事だけだな」
ダクネスとめぐみんは不思議なこともあるものだ、などと言って話しに聞き入っていた。
その一方でカズマは隣のアクアの様子がおかしいと、そう感じていた。
……おかしい、絶対におかしい。多分ユウの言ってる”髪の長いお姉さん”はアクアのことだ。アクアもその事に気付いてる。けどアクアなら”それは自分だ”と名乗る。たとえ信じて貰えなくてもだ。話だけなら、神様が迷える子羊を導いている様な想像が出来るんだが……。
……肝心のアクアは、悪事が見つかった子供のような目をして震えている……。と、いう事は……。
「アクア、ちょっとこっち来い」
カズマとアクアは席を外しギルドの隅に移動すると……、顔を近づけ、誰にも聞こえない位の声でもって。
「駄女神。お前、昔……天界でアイツに何やった? ユウの言った通りの会話だけじゃないんだろ?」
アクアはなおも震えながら、重々しい口を開いていた。
「……臨死体験ってあるじゃないですか」
「……ああ」
「死んでなくても、たまに天界に来ちゃう人がいるんですよ……。魂だけがスウっと抜けて、カズマさんも行った場所に」
「……それで?」
ユウが昔アクアに会った事があるのを理解したカズマだったが、今回の本題はそれではない。例え、ユウ本人が覚えていなくても、アクアが詳細をはっきりと思い出している。
「……その時、ユウの言ってたとおり、子供の頃のあの子と色々お話をしたのよ……」
そこまでは分かっている。問題となるのはその内容なのだ。
「アイツの習得可能スキルに宴会芸があるのは?」
「……私が見せました。緊張してたみたいだったから……」
「アイツがアンデッドに対して攻撃的になるのは?」
「……悪魔やアンデッド見たら、思いっきり殺っちゃいなさいって言いました。それはもう、この女神たる私が許すから、跡形もなくなるくらい全力で倒しなさいって」
やはり予想通りとばかりに頭を抱えてしまったカズマだったが、一番問い詰めたかった事は。
「アイツの意識不明が長引いて、死にかけたのは?」
「……私が天界にいつまでも引き止めていたせいです。あんまりいると、体に戻れなくなっちゃうのを忘れていました……。すいません」
その答えを言い放ってすぐに、アクアがカズマにしがみ付き、大泣きしながら。
「大丈夫よね!? ユウって死んでないって言ってたわよね? わざとじゃなくても、自分の担当してる地域の人間死なせたなんてなったら、私、大目玉どころじゃないんですけど! 下手したら左遷されるんですけど!! ねえカズマさん!? その辺り、こっそり確認してきて!? お願いだからあああああ!!」
「落ち着け! 前に美人の知り合いが来た時の話だと、アイツは俺達とは別口でここに来たはずだ! 本人も死んでないってるしな。それよりも、この事は絶対にアイツには言うなよ! お前のこと覚えていなくてもだ!!」
うんうんとアクアは大きく頷き、二人でテーブルに戻っていった。
「……おかえり。二人ともどうしたんだ? 一緒に席外して……」
カズマとアクアは俺を見た途端、今までに見せたことの無い笑顔で、酒の入ったジョッキを差し出して来て。
「お前も色々大変だったんだな……。今夜は思いっきり飲もうぜ!」
「そうよ! 今夜は私も最後まで付き合うから、ジャンジャン飲みましょう!」
「俺……、酒は苦手なんだけど……」
それでも二人は引き下がらずに、相当な量を飲まされて夜が更けていった。アクアが酔っぱらいながら、ごめんなさい、ごめんなさいと謝罪を繰り返していたが、何かあったのだろうか?
翌日、二日酔いで頭痛と吐き気に耐えながら、一日中寝る破目になってしまった……。