この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
アースラへ帰り、割り当てられた部屋に戻った途端、戦闘での疲労が一気に降りかかってしまったらしく、ベッドに横たわった瞬間に眠ってしまっていた。
次に目が覚めた時には……、
「ううん……。誰? 黒髪……」
なのはの家に泊まった時には一緒のベッドで眠ってた時はあったけど、あいつの髪の色は茶色だし……。そもそも魔法関係で黒髪の知り合いってクロノ以外いない気がする……。
「すう……すう……」
自分のベッドで身を寄せて眠っている謎の人物について、少しだけ寝ぼけた状態で思い返していた……。
――お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌ー!
U-Dもといユーリの救出後に泣いてしがみ付かれて、そのまま部屋まで一緒に来たんだった。というのを目の前のかすみという名前の少女の寝顔を見ながら経緯を漸く思い出し、この子はまだ目が覚めそうにないので自分だけ音を立てない様にベッドから出ようとすると、
「……何で服掴んでるんだよ?」
ぎゅっと右腕の裾の部分を掴まれてしまっていた。もしかしたら起きてるのかも……、とも思ったがそんなことは無く、静かな寝息を立て安心しきって眠っている。
「……まあいっか、俺ももうちょっと寝よ」
もう一度ベッドの中に入り、目を瞑ろうとしたその時、ノックと共に部屋の入口のドアが開かれ……、
「おおーい、まだ眠ってんのか? いい加減、起きて来いって」
「いつも昼まで眠っているカズマが言える事か? ここに来てから、珍しく規則正しい生活をしているが……」
「俺だって、こんな緊急事態に自堕落な生活してられないだろ? 子供達の手本にならなきゃな……」
全てが終わった後ではあるが、カズマとしては、未来での自分はかなり優秀な人物として伝わっているらしいので、下手な事は出来ないといった思惑があるらしい。
「カスミは……まだ寝ていますね……。一段落して気が抜けたのでしょう」
「ユウ君と一緒が良いって、我儘言うなんて……。いつもは私達を困らせたりしないのに……。やっぱり怖かったんだよね……」
「そうなんですか? ってか、服掴んで離してくれないんだけど……」
その一言にめぐみんとゆんゆんは、顔を見合わせてクスっと笑っていた。何でだろうと考えていると、
「ああ……、すいません。少しだけ懐かしい事を思い出したもので。カスミと会ったばかりの頃も、未来のあなたの服を離さないで付いて回っていましたから。ところで、私の爆裂魔法はどうでしたか? まったく……魔法が苦手と思われていたとは……」
「だって……、そっちの髪の長い方のお姉さんみたいにコテンパンにされなかったし……」
「私は爆裂魔法のみを極め、それのみに万進するアークウィザードです! どうです? カスミのよりも威力はあったでしょう?」
「うん。変な事言ってごめんなさい」
伏し目がちに謝罪をすると、満足そうに頷くめぐみんの他には、
(す、素直だな……。いつもなら余計な事言って、めぐみんを怒らせるのに……)
(うむ。まあ、子供というのは、こんなものだろう。今の自分よりも上なのは分かっているのかもしれん)
カズマとダクネスがコソコソと内緒話をしていると、かすみが起きた様で目を擦りながらボーっとした表情で、彼らの方を向いていた。
「う……ん? あっ……おはよう。お兄ちゃん」
「おはよう。よく眠れた?」
「うん! あれ? アクアお姉ちゃんは? まだ寝てるの?」
起きたばかりとは言え、かすみにとっての身内ばかり揃っているのに、アクアだけ姿が見えないのが心配になってしまったらしい。
「そうだ、アクアだ! あいつが調子に乗らないうちに止めてやらないと!」
カズマが何やら思い出し、その場の全員を引っ張ってミーティングスペースへと向かうと……、
「勝利の花鳥風月~」
「「「「おおーーーーー⁉」」」」
アクアが扇子を両手に持ち水芸やら、小道具を使った手品や何故かハンカチの中から数十匹の鳩が飛び立ったりと、すっかり宴会場の様相となっていた。
「……どっから出してるんだ、あの鳩? 召喚とか……?」
初めてアクアの宴会芸を目の当たりにしたユウは物理的にありえない光景だったので、ツッコんではいたものの……。
(それは未来のパパにも聞きたい……)
(ええ……、むしろ着ぐるみを小さいリュックに入れていると言っていましたが……。それ以外にも小道具が入ってるとか……)
(制服の中からどれだけ入ってるんだ⁉ ってくらいの小道具が出て来てたな……。本人曰く、無駄を極限まで削れば可能らしい……)
(その総重量が10kg以上あるらしいけど、普通に動き回ってるよね? 重くないのかな?)
未来から来たヴィヴィオとアインハルト、そして彼女らの更に2年後の未来から来たトーマやリリィは、アクアの宴会芸を見て、まだ9歳の少年の将来の姿を思い出し、疲労から机に突っ伏しているにも関わらず、不思議そうな表情を浮かべていた。そんな中、
「黒髪の一番小さい子は悠の義妹。あの金髪の方はなのはの子供だという話だが……」
未来から来た面々は、凄まじい偶然ではあるが全員がその時代の俺達の知り合いらしい。シグナムさんが少しだけ扱いに困った様な雰囲気を見せていた。
「キリエさんからは、”あんまり接触しない様に”って言われてるんだけど……」
「接触しないどころか、俺なんて特訓受けて、一緒に戦っちゃったからなあ……。あの紅い眼のお姉さんもそうだけど、空戦特訓したレイジングハートだって赤いし、これから赤いのには気を付けよう……」
何気なーく口から出た一言に反応したのは、
「てめえ! それは、あたしの事か? 露骨にこっち見ながら言いやがって!」
「えー? べっつにヴィータちゃんを名指しで言ってないよ? この場で赤いって言えば、ヴィータちゃんしかいないけど。アミタさんは……、ジャケットが青いし……」
「何で”ちゃん”付けなんだよ⁉ 気味悪いから、やめろ!」
「そんな……⁉ 友達みたく親しみを込めて呼ぼうと思っただけなのに……」
「てめえは……きっちり躾けなきゃならねーみてーだな!」
髪も赤ければ、騎士甲冑も魔力光も赤い、鉄槌の騎士さんでした。
俺とヴィータの間には不文律がある。――喧嘩する時は、絶対に魔力は使わない。それ以外なら、大怪我を負わせない限り好きにやれというものだ。
その場で取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった俺達を見て……、
「あ、あれだけ戦って、まだあんなに動けるのか……。子供の体力ってのは、とんでもないな……」
「あの面々に付いて行くには、これくらいが最低限度なのかもしれません……」
「わたしは無理~。まだちょっとだけ怠い……」
「それで普通だからね? カスミちゃんは魔力が高いけど、体力は普通の子供なんだから」
未来の、特に俺と関わりの深いらしい面々は呆れたように見守っていた。
「悠君をお姉さん達が取り合ってるのも気になるし……、トーマ君に私達が怖がられてるのかも、もうちょい詳しく知りたいとこやけど……」
車椅子に座り、なのはに押されているはやても未来については気になっていたらしい。トーマはそれを聞き逃さずにゾクッとしていたが、キリエから……、
「未来の事なんて知らない方が良いのよ」
「これは……博士から厳命されていた事でもあるんですが……、現地の人が未来の情報を知ってしまった場合は、未来に関わる記憶は、出来る限り封鎖しておくように、と……」
アミタさんやキリエさんの説明では、知ってしまう事で未来が変わることもあるらしい。
「ナノハちゃんやユウ君で言えば、未来を知ったせいで、あの子達と家族にならない可能性も出て来ちゃうし」
あの子達――ヴィヴィオやかすみの事らしい。ユーリと戦う時に一緒だっただけで、良く知っているわけじゃないが咄嗟に。
「「「「それは嫌ですーー!」」」」
そうならない様にしなきゃいけないと、感じ取ってしまっていた。それは未来の子供達も同じようで。
「四人揃ってハモった!」
フェイトは俺らの行動に驚いてはいたが、未来の人間を含む全員が記憶封鎖、特に『時間移動が存在した』という部分に関しては慎重に封鎖するという事で納得した。未来の人達は奇跡的に生き残った人間も多いので、それを変えない様にするという意味もあるらしい。元の時間軸に帰るのは、ユーリ達が協力してくれるのでなんとかなるとの事だった。
そして、アミタさん達とは他に今回の騒動の中心となってしまったマテリアル達と、その盟主はというと……、
「ありがとうございます、皆さん……。私を止めてくれて……」
最終決戦の後、気絶してしまっていたユーリ含む四人も元気な姿を見せていた。特にレヴィはアクアの宴会芸に興味津々らしく、目を輝かせてアンコールを希望していたらしい。
「それでな……、状況も一段落したところで……、ぼちぼちうぬらを皆殺しにして、この世界の塵芥共に我が闇の恐怖を味わわせてやろうと思っておったが……」
「うん」
なのはが普通に頷いていたが、物騒な物言いの割に纏っている雰囲気は穏やかな感じなので、そうしてしまったようだ。自分も、
「だったら、対戦ゲームで勝負する? 俺じゃ、戦ってもまずそっちには勝てないし……。公平だろ?」
「ええいっ⁉ 話の腰を折るでないわ! その様な下らぬ遊びに興味はない!」
そんな提案をしたのだが、怒られてしまった。
「それでだ。うぬらのいるこの世界は、我らには窮屈でいかん。よって我らは、赤毛と桃色の世界に侵攻する事とした」
”侵攻”と言ってはいるが、何故か響きが”親交”や”振興”に聞こえてしまう。多分これは……、
「そうなんです。王様達、私達の世界に来てくれるって……」
アミタさん達の故郷のエルトリアへ、マテリアル達もお引越しするらしい。
「なんか色々エキサイティングな世界だって聞いてるから、退屈しなさそうだし! ダンジョンもあるし、モンスターとかもいるんだって!」
レヴィが興奮していたが、聞くところによると、エルトリアには遺跡も多く、死蝕地帯には危険生物もいるらしい。
「はー、ええなあ……。私も行ってみたい……」
「ゲームみたいな世界か……。俺も行ってみたいな……」
はやてと俺がエルトリアに関して同じような感想を持ってしまったが、それに対して、
「……お前はその内、ダンジョンも魔王も悪魔もモンスターもいる世界に行くから、楽しみにしてろ」
「そうなの? もしかして魔王倒したりする?」
「……お前は魔王よりおっかない裏ボスみたいのと戦うから、大丈夫だ」
カズマさんが何やらしみじみと思い出してしまった様だが、少々暗い気配を纏っていた。
それ以外では、ユーリの
すると、アミタさんがアクアの方を向き、
「できれば……アクアさんにも来ていただきたい所ですが……、やっぱり元の時代の方が良いですよね?」
「へっ⁉ 私に?」
アクアさんは驚いてはいたが、ユーリとの決戦で起こした大津波。あれは使用した海水が真水に変ってしまったそうだ。幸い、周辺海域全てでは無いので、すぐに海水と混じり合い問題はなくなったそうだが。
「エルトリアには死んでしまった水場がいくつもありますので、その浄化能力は貴重なんです……。それだけでも、どれだけ助かるか……」
「カズマ、見なさい! この私の偉大さは分かる人には分かるのよ! まあ、カズマがどうしても行かないでって言えば、一緒に戻ってあげるわよ?」
エッヘンと胸を張り、自分に対して敬意を払いなさいといったアクアの態度に対して……。
「行けば良いじゃないか。朝から晩まで水に浸かってれば良いだけの楽な仕事だろ? 何だったら仲間のよしみで、危険生物からアクアを守る特別製の檻も一緒に付けてやる」
「カ、カズマさん……⁉ 冗談よね? 冗談でしょ⁉ 嘘って言って!」
「そんな危険な世界に一人だけ行って復興に尽力するなんて、流石は女神様だな。ヒキニートな俺には真似できねー。せいぜい檻の中で頑張って水の浄化してろ」
アクアは震えながら、顔を真っ青にして涙目になってしまい……、
「いやああああ! カズマさん、置いて行かないで!
「
「カスミは知らなくて良い事です……。今となっては懐かしいですが……」
カズマに縋りついて、自分も一緒に帰らせてくれと懇願していた。これに関してはギアーズ達も半分冗談だったらしく、それで終わったが、それ以外にもシュテルがなのはに対して、いつになるか分からないが再戦の約束を交わしていたりと。それを聞いたレヴィから、
「コンチビもボクとの二刀流バトルの約束、忘れるなよー?」
「約束した覚えはないし、次に会った時は二刀流やってるとは限らない。アレだって、ファルシオンの性能を完全に引き出せないから、やってるだけだ」
「その時はその時で、普通にバトルすれば良いんだ!」
半ば無理矢理、戦う約束をさせられてしまった。
そして、ひと時の休息の後で、お別れの準備はあっけなくというくらい順調に進み、後は実行するだけとなった。
時間移動と記憶封鎖。記憶封鎖に関しては未来組と現代組は別で行い、それぞれの時代へと帰って行くだけだったのだが……、
「それでは皆さん! 本当にありがとうございました」
「少し待って貰えませんか?」
アミタが時間移動を行おうとしたその矢先、めぐみんからストップがかかってしまった。当の本人は、未来の仲間である少年の元に真っすぐに向かい、
「……? 爆裂のお姉さん……、どうしました?」
「……その呼び方は悪くはありませんが、今度はちゃんと名前で呼んで下さい。あなたは特訓も頑張りましたし、一人だけ力が劣っていても逃げずにカスミを守っていましたから、ちょっとだけご褒美をあげます。目を瞑ってくれますか?」
その通りに目を閉じて、何だろうと思っていると……、
――ちゅっ
唇に柔らかい物が触れた感触があった。それをされた本人ではなく、周りから……、
「あら、大胆」
「にゃ⁉ ゆ、ゆーくん⁉ キ、キキキ……」
「えっ……⁉ えええっ……⁉」
「お、大人や……。大人の女の人や……」
キリエはともかく、子供達が凄まじく狼狽えた声を上げていた。そんなの見た事も無いので、どうしていいか分からなくなっているらしい。
「記憶は思い出せなくなってしまいますが、できれば続きは未来でお願いしますね?」
ポカンとしている少年と少しだけ顔が赤くなっているが嬉しそうな少女であったが、もう一人の紅い眼の少女からは、
「めぐみん⁉ いきなり何してるの⁉」
「見て分かりませんか? まあ、これで
「良くない! 全然良くないって!」
「どこぞの魔王も言っていたではありませんか、早い者勝ちだと。何かの拍子に思い出して、あの女を悔しがらせるのも面白いかも知れません。ゆんゆんは膝枕している時にでもチャンスはあったのですから、自業自得です」
ここぞとばかりに、一見正論にも聞こえる意見を投げかけていたが、ゆんゆんが殺気立って取っ組み合いの喧嘩でも始まるかと思われた、その時……、
「ユウ君、ちょっとだけごめんね? 私も初めてだから……」
ゆんゆんも少年の元へ行き、そのまま……。
――チュッ
先程のめぐみんと同じように、彼の唇を奪っていた。その様子を……、
「あいつ……未来で苦労しそうだな……」
「ああ。ある意味戦闘より厄介だからな。この手の事柄は……」
鉄槌の騎士と剣の騎士は遠い目をしながら、少年の行く先を案じていたのだった。
「この場で宣戦布告ですか……! 良いでしょう、叩き潰してあげます!!」
「めぐみんこそ、先なら良いってわけじゃないでしょ? 私だって負けるつもりはないから!」
茫然とするユウを尻目に正に一触即発。一件落着で未来へと帰ろうかという時になってこの状況である。カズマが、はあ……っと溜息をつきながら彼女らの方向へ右手を掲げ、
「『スティール』ッ! 『スティール』ッ!」
カズマが二人に対してスティールをしたらしく、紅魔族達は下半身を抑えながらモジモジしてしまっていた。
「お前らいい加減にしろ! これ以上やるなら……分かるな?」
それだけだったが、効果てきめんだったようで、二人共無言で恥ずかしそうにしながらカズマ達の方へと合流した。今度こそ時間移動できっちり元に戻って行ったのだった。
「お邪魔しました~」
そうして、未来からのお客さん達とユーリ、マテリアル達は、いつでも会えるような、そんな雰囲気でお別れをして、『砕け得ぬ闇事件』は、これで終了した。
―7年後、アクセル屋敷の自室にて―
……ヤバい、色々思い出しすぎた。ゆんゆんのあの特訓って、もしかして……俺自身が原因なのか? 稽古で叩きのめしすぎたから、ああいった方法しか分からなかったとか……。鶏が先か卵が先かなんて脳内での検証は、この際どうでも良い。今の内から機嫌とっとこう。あれは確実にトラウマものだ……。
ダクネスも……当時は分かんなかったけど、攻撃を受けて喜んでいた様に見えたのも勘違いじゃなかったのか……。それが分かるようになったって事は、俺も大人になったって事か……。大人になるって汚れていくって事なんだな……。
自分の部屋でブルブルと震えながら、あの時の特訓について思い出してどうにか耐えていると、部屋の入口ドアからノックの音が聞こえたので開けると、そこには……、
「ふたりとも、もうおそいじかんですよ。はやくねたほうがいいです」
「おい、何でさっきから私達の顔を見ないで、しかも棒読みで喋っているのですか⁉」
「そうですよ! 私達知らないうちに何かしましたか!?」
だって仕方ないだろ。どうやってまともに顔見ろってんだ⁉ めぐみんとゆんゆんめ……、いや、この時間軸だと未来だから、まだだけどさ……。
「なんでもないです。それよりもなにかようじですか?」
「キリエでしたか……。ユウがその態度になった原因は自分達で聞けと言われたもので、気になって来てみたのです。あの一行の身元に関しては、良くは分かりませんが、とりあえずあなたの様子が気掛かりでして……」
「うん。ユウさんが突然余所余所しくなったから、どうしたのかって……」
あの桃色、絶対にわざとやってるな……。帰るまでに何か仕返ししとくか……。ザッパーでも隠そうかな。
「ええとですね。にんげんにはしらないほうがいいこともあるんです。きにしないでください」
「そこまで言われてしまっては、気になって仕方ありません! これでも大抵の事では驚きませんから話してください!」
「めぐみんの言う通りです! ユウさんと会ってから驚く事ばかりですから、心配しないで教えてください!」
そんな俺と紅魔族二人のやりとりは、極端に言えば、話せ、話さないをずっと繰り返している。その三人の様子を……、
「ええいっ! じれったい奴よ! 何だあの根性無しは。少しは見所のある奴だと思っておったのだが……」
「王様……、みんなも覗き見は止めましょう! これじゃあ悪い事してるみたいで……」
「だったらお姉ちゃんだけリビングに戻ってれば良いでしょ? 本当は気になるクセに」
ドアが開けっぱなしになっていたので、エルトリアからのお客様やカズマ達が隠れて部屋の様子を窺っていた。俺の態度が不自然すぎて気になってしまったらしい。
「しっかし、『潜伏』使ってるとはいえ、ここまで気付かないとか……。あいつ、無茶苦茶動揺してないか?」
「ほんとね……。いつもなら何となくだけど分かりそうなのに。何があったのかしら?」
「うーむ。二人の顔を意図的に見ない様に視線をずらしているか……。何なのだ?」
この世界の住人達もその様子を見守ってはいたが、ユウのあまりにもありえない態度に困惑の色を隠しきれていなかった。
「シュテるん、後でルシフェリオン貸して! コンチビとバトルするから!」
そんなのはどうでも良いとばかりに、デバイスの借用を懇願するレヴィであったが、今度はユーリが……、
「私がディアーチェにやってるみたいに、ハートを撃ち抜いて、『ハートブレイク・マトリクス』のどっかーんで良いのに……」
「ユーリ、ハートブレイクしたらまずいわよ? まあ……それも青春かも知れないけど……。ああ、でもどっちかがそうなっちゃうのか……」
「うぬら、恥ずかしい事ばかり言いおって! 闇に呑まれて反省せい!」
「王と盟主の結びつきが強いのは良い事です。あまりお気になさらずに」
割と大きい声で話しているはずなのに、全然気づきもしない部屋の中の二人であった。口論はまだ続いているので、これでは埒が明かないとばかりに、めぐみんから、
「分かりました。話せないというなら、何があったか行動で示してください。それならいいですよね?」
それに、うんうんと同意するゆんゆんだったが、そうするわけにも行かない。
「……しょ、しょっちの方がまじゅいと思うよ?」
「今度は呂律が回らなくなってきましたけど……。酔っぱらってませんよね? そこまでだと気になるから話して欲しいです!」
「いやね……、だからここは二人を見込んで……、何も気にせずにいて欲しい……」
納得いかないとばかりにジト目になるめぐみんとゆんゆんであった。どうしようかと、脳内で練れもしない策を練ろうと脂汗を垂らしながら、顔を引きつらせて数歩後退っていると、
「お姉ちゃん達……、お兄ちゃんの部屋の前で何してるの?」
子供なので、もうとっくに眠ってしまったと思われたかすみの声が聞こえていた。眠そうに目を擦りながらパジャマ姿で歩いている。どうやらトイレに起きてしまったらしいが、ドアの方を見ると何で今まで気づかなかったんだと言わんばかりの人数、というかこの屋敷にいる全員が集まっており、こちらの成り行きを見守っていたようだった。すかさず、
「……お前ら、何で雁首揃えてここにいる? 特にエルトリアから来た連中。その中でも、時の操手になり損ねた桃色。おかしな方向に煽ってるんじゃねえ!」
「そんなー。せっかくはっきりさせようと思ったのに~」
「余計なお世話だ! お前らもさっさと解散しろ! またカズマに頼んで追跡戦でもやってもらうか?」
「そ、それは……遠慮願いたいわね……。これ以上怒らせないうちに退散しますか」
と、各々が部屋へと戻って行ったと思っていたのだが、
「かすみ、どうしたんだ? 子供はもう寝てなきゃダメな時間だぞ?」
「お兄ちゃんと一緒が良い……。明後日にはお仕事だから、一緒に寝たい」
「はいはい。お姫様には敵いません」
そんな会話を義妹としながらベッドに入ると、
「何で……めぐみんまでベッドに入ってる?」
「さっきの件を話してくれませんでしたので、罰としてです。嫌とは言わせませんよ? カスミが戒めを掛けられていた時はよく三人で眠っていましたから、構いませんよね?」
「あの人達が帰るまでは遠慮して欲しいなあ……」
意識しすぎちゃうし……。そんなのが頭の中で浮かびはしたが、
「だったら今日は私も一緒でもいいですか? めぐみんばっかりズルいです!」
「あのな……男女比もそうだけど、四人はいくらなんでも狭い! ぎゅうぎゅう詰めになるだろ!? 二人共大人しく部屋に帰ってくれ!」
ゆんゆんまで変な対抗心を出してしまい、このままでは安眠どころではなくなる。これはマズいと思った矢先、ゆんゆんがここで何か――床を手で摩る様な動作をしてから、自分が屋敷に泊まる際の部屋へと戻って行ったので安心していたのだが……。
「えー。ゆんゆんさん、何してるんすか?」
「はい、テレポートでベッドを移動させましたから、二つのベッドを並べてくっつければ問題ないですよね?」
テレポートでのダイナミック家具移動という、凄まじく斜め上の解決方法を提案されてしまいました。さっきのはテレポートの地点登録だったらしい。
ここで部屋に戻れと言おうものなら、明日以降二人の視線だけで胃に穴が開く自信がある。なのでここは従い、俺とかすみが真ん中、その両脇にめぐみんとゆんゆんといった位置で横になっていたのだが、
「ところで、先ほどの話の続きですが……」
「それはな………、子供の前で話す事じゃないよ?」
「……? わたしが知ったらいけない事なの?」
かすみ的にも気にはなっている様で、首を傾げながら困った顔をしていた。
「こ、子供に話せない事ですか⁉ もしかして……」
「それって……まさか……!?」
二人もどこまで合ってるかは分からないが、とりあえず察してくれたらしい。変なのを想像したかもしれないけど。
四人で眠っているのは良いものの、その場で眠っているのはかすみのみであり、俺とめぐみん、ゆんゆんはすっかり目が冴えてしまい、全く眠れないまま朝を迎えてしまった。そして数日後……、
「それでは皆さん、お世話になりました」
「記憶封鎖……、特にユウ君は、しっかりやっておくからこっち来て」
キリエさんの指示に従い、彼女の元へと向かうと、
「でも……、良いの? 昔の彼らの事、あんまり思い出せなくなっちゃうわよ?」
「良いんです。あの時の事は忘れてましたけど、結局はこの時代でも会えましたし、ヴィヴィオやトーマだって俺が覚えてるせいで助からなくなるかもしれないんですよね?」
「そうね……。うん、ごめんなさい。けど……」
桃色さん、ちょっとだけニヤけて、からかう様に、
「あそこまで意識しちゃってるんだったら、覚悟決めた方が良いかもね。思い出しただけで、あんなになっちゃうんだもの。あとはユウ君次第よ」
「お姉さんからの助言として受け取っておきます……」
よろしい、といった感じで満足そうな表情のキリエさんだった。腹いせにここにいる間、ザッパー隠したりしたけど。
そうして、未来の異世界から来た――昔一緒に戦って、その絆を紡いだ人達は自分達のいるべき場所へと戻って行ったのだった。
漸くGOD編が終った……。思ってたよりも長くなってしまいましたね。
活動報告に裏話的なのを載せますので、良かったらどうぞ。
おまけ ~二刀流バトルの行方は?~
「さーてコンチビ! ボクとの約束を果たしてもらおうか! 二刀流バトルいっくぞー!」
「まあ、良いけど。あれやるのも、かなり久しぶりだな」
9歳の時に、ほとんどこっちの同意なしで決まってしまっていたレヴィとのバトルの約束を守ろうと、みんなでアクセルの外に出て、眼下に広がる草原で向かい合っていた。
俺は右手にファルシオン、左手にはストレージデバイスと懐かしい戦闘スタイルをとっている。それはこちらの仲間達も珍しかったらしく、興味津々といった様子で俺達を眺めていたのだが、
「……コンチビ? 何で武器四つも持ってるんだ?」
レヴィの何気ない一言ではあったが、今の俺は両手のデバイスだけではなく、腰にはぴよぴよ丸を下げ、表彰で貰った杖も背負っているのだ。
「これ全部、俺の武器だけど?」
「そ、そんな……⁉ シュテるんのルシフェリオン使えるように頑張ったのに……」
俺と向かい合っているレヴィは自分のバルニフィカスとシュテルのルシフェリオンも持っており、本当に二刀流をするつもりだったらしい。しかし……、
「四刀流なんてずるい! 王様、アミタかキリエもエルシニアクロイツとザッパー貸して! ボクもあれやるから!」
「待て待て、いきなり使うったって使えないだろ? あっちだって困ってるし……」
「いーやーだー! ボクも四刀流やる~! 再会して軽々とボクの上を行っているとは、コンチビ侮りがたし……!」
と、そんな我儘を言い始めたレヴィが止らなくなってしまったので、結局バトルはお預けになってしまった。