この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
「かすみが……反抗期かもしれない……」
ここはミッドチルダ首都クラナガンのとある居酒屋。ミッドは色んな世界の文化が混じり合ってる……、混ぜるな禁止的な世界というわけではないが、日本風の居酒屋が普通にあったりする。聞く所によると、ここのマスターの先祖が日本人であるらしく、名前も日本人そのものである。前に来た研修生の一人も先祖が日本人とか言ってた気がする。確か空港火災の際、ちょこっと会った三佐の娘さんだとか。
そんな場所で俺とテーブルを囲んでいる男が二人。
「反抗期ってまだ早いと思うけど……。一緒に暮らし始めて数ヶ月だよね?」
メガネをかけて少しだけ髪を結い、一見優男に見えるが、俺やなのはが最初に魔法を教わった先生でもあるユーノ。そして、
「まったく……、気にしすぎだ。もう少し余裕を持てば良いのだが……」
「お兄ちゃんは、そんな心配はしないのか? そのうち双子ちゃんだってそうなるかもしれないのに……」
「その呼び方は、あまりしないでくれ。それに、うちの子供達はまだハイハイするのがやっと。反抗期なんてまだまだ先になる」
「俺はそう呼ばれると嬉しくて仕方ないってのに。クロノは贅沢だな」
クロノは本来は俺よりずっと上の立場の提督なので、敬語を使わなければならないのだが、今はプライベートという事で砕けた口調で会話をしている。
ホッケの開きを突きながら、先日の件について男の友人に色々と相談をしている最中だった。ちなみにクロノ以外は未成年なので、というかクロノも仕事に差し支えないように飲物はノンアルコールにしている。
「……俺の事バインドでふんじばるなんて……、今からこれじゃあ、将来はお転婆どころか不良少女になったり……」
金髪になって特攻服着て鎖代わりのチェーンバインド振り回したらどうしよう……。
「心配ないって! 突然拘束されるなんてよくある事だからさ」
「そうだな。ちょっとしたスキンシップだと思うべきだ。むしろそこまで出来るのは気を許しているからだろう」
拘束されるのがよくある事かどうかは……、割とあった気はするがそれは良い。かすみについては二人共心配いらないと言ってくれている。それを信じよう。今はそれよりも……、
「お家に帰りたくない……」
「「……はっ!?」」
ここでの”お家”とは、本局の宿舎ではない。アクセルの屋敷の事だ。何故かというと……、
「融合騎の一件以来、怖いんだ……。特に真っ赤な目の二人が……。どこかこう……早くしてくれ的な空気が……。かすみはかすみで、小さい子が欲しいと口では言わないが雰囲気で……。こないだので変に期待させたのが悪かったか……」
そう、アクアのおかしな勘違いのせいで屋敷の中に居づらくなっている俺なのだ。適当に理由つけて帰らないという手もあるが、おそらくというか絶対にかすみは寂しがる。それを考えてしまうと帰らざるを得なくなるのだ。そもそも人に任せっぱなしなんて、育児放棄になっちまう……。
「……いつもみたいに、わざと話をはぐらかして置けばいいんじゃ?」
「それはほとんど効かない。もうパターンが読まれている。だからここはユーノにお願いが……」
「?」
はて、自分にわざわざお願いとは何だろうといった表情だ。
「昔みたいにフェレットになって、なのはの時にやったように……、僕と契約して魔法少――」
「それ以上は駄目だから! それにそんなのはやってないから!!」
「はぐらかせるうえに、喋るフェレットっていう
「僕を何だと思ってるの!? まるで女湯に入るのが普通みたいに聞こえるけど!?」
ユーノの方は冗談半分ではあるので、それは置いておく。今はそれよりも他の二人の方だ……。
「俺もクロノみたいに、”近場で済ますな。足で探せ。” キリッ……で返せばいいのか!?」
これはまだ小学生の頃、エイミィさんが”立派に育ったら私の旦那さん候補にしてあげるから。”……とクロノに言った際に彼から返ってきた言葉である。紅魔族の二人の方の受け答えをどうするべきか……、それも相談したかったのだ。
「……昔の事を掘り起こすな。大体、君はどうするつもりだ?」
「いや……、そもそもそのセリフはフラグにしかならないのか!? 目の前にそのツンツン発言返した人と結婚した実例がいるから……」
「話を聞けえええ!!」
久々のクロノツッコミ。これはかなり懐かしく感じる。いつもはどっちかって言うと、自分でツッコむ方が多いから結構新鮮だ。とりあえず話を戻そうと、
「俺はかすみ育てるので――」
「……昔のフェイトもそうだったが、何でそう自信が持てないんだろうな?」
「自信が持てないって……」
突然何の話をしているのだろうと思ってしまったが、あちらは極めて真剣な表情であった。
「結構前だが……、友人に”下や後ろばかり見ていると前が見えなくなる。”……と言われた事がある。どうするかは僕が結論を出す事ではないが、心の持ちようで気持ちも変わるさ。どうあれ前に進んで行けばいい。今まで通りにな。それが出来たら、あの子の事もどうすれば良いか分かるだろ?」
「やっぱりクロノはお兄ちゃんだな。ありがと」
「ヴェロッサにも言われたが、何だ、それは?」
「言った通りの意味だけど? やっぱり頼りになるなって。マスター、焼きそばこっちに!」
相談に乗って貰ったのと、少しばかり気持ちが軽くなった礼にクロノの好物の焼きそばを奢る事にした。
次の日のアクセル、週末なので夕方にはユウは帰ってくるはずだが、そんな中でカズマ達は久々にクエストでも、といった理由で冒険者ギルドを訪れていた。すると、
「おっ……。カズマじゃねえか。どうだ一杯?」
「おう! やっぱりこれがなきゃな!!」
ダストに誘われノリノリで酒場の席に着くカズマと、またかといった雰囲気だが腹ごしらえもしたいので、それも兼ねてアクア達も一緒のテーブルで食事をしていた。
「どうしたチビッ子? 今日はご機嫌斜めみてえだが?」
ダストがいち早くかすみの様子がおかしい事に気付いていた。いつもは元気に笑っているが、今日に限って一言も話していないのが気になったらしい。
「ああ……。カスミならあの件でユウを困らせたのよね。まあ……、我儘言うのは子供の特権だから仕方ないけど」
「あの件って……何?」
リーンも興味津々の様だった。先日のちょっとした騒動についての経緯を彼女らに説明すると……、
「成程な……。そのユウゴウキというのは良くは分からないが、自分よりも下の子ができるかもしれないといった期待を裏切られた……か」
「先生も贅沢だな……。簡単に能力が上がるんだったら、そうすりゃいいのに」
テイラーとキースは各々の感想を漏らしていた。子供のお願いを聞かなかった程度に捕らえていた彼らであったが、それを否定したのは意外にも……、
「まあ……、分からなくもねえが。それはあいつの魔力から出来てるんなら、言ってみれば子供みてえなもんだ。そんなのを戦わせようとは思わねえだろ。特にあいつなら」
ダストがいつもよりも真面目な顔で、その言葉を言い放っていた。
「あの……、マッチポンプで私をナンパしようとしたダストさんが……!?」
「迷惑かけながら生きてるって言われる代名詞みたいなダストが……どうしたの!?」
「お、お父さんがまともな魔道具を造った時以来の衝撃です!!」
ゆんゆん、リーン、めぐみんが驚愕の表情を浮かべつつ、開いた口が塞がらないといった様子でダストの方を向いていた。
「お前ら、俺を何だと思ってるんだ!? あのなあ……、自分の相棒を出来ればケガさせくねえってのは、当然の話だ。どれだけ力があったってな……」
「その言い方だと、ダストにもそんなのがいたみたいに聞こえるが?」
「さあな……。単なる想像かも知れねえだろ?」
カズマの質問をのらりくらりと躱していたダストだった。すると、またまた聞き覚えのある声が彼らの後ろから耳に入ってきていた。
「おおっ……! クエストなど面倒と思いつつ天界へと忙しいといった理由を説明したいが為に、ここを訪れたチンピラ女神に、簡単にデュラハンを無力化し、内心では飛び上がるほど歓喜に満ちていた小僧。そして勘違いから大恥をかいたネタ種族共に、子供の前では自身の性癖を出せずに欲求不満になっている娘。どうだ? 我輩、ここで相談屋を始めたのだが、利用する気は無いか?」
いつの間にか近くに来ていたバニルだったが、事情を聞くとウィズがまたおかしな高額アイテムを仕入れてきたために今月の家賃すら危うい状況であるらしく、冒険者ギルドの隅の一角を貸してもらい相談屋を始めたのだそうだ。自分の見通す力なら大抵の相談ならば解決できるだろうとの事だった。
「さて……、そこの兄を拘束して悪いと思いつつ、素直になれぬ小娘。今なら、子供料金で半額である。どんな悩みでも遠慮せず打ち明けるがいい」
「せめて無料にしなさいよ。子供相手にサービス精神が欠けるわね。公爵様ともあろう方がけち臭いわ。プークスクス」
「市民としての勤労の義務を忘れ、惰眠を貪っているぐうたら女神よ。アクセル市民としてあくせく働く我輩を見習うか、凶悪魔道士の爪の垢でも煎じて飲むがいい。我輩と奴は真面目に労働している点では同類である。天界からの命を無視し、日々を無駄に過ごす者とは対極の存在。フハハハハハ!!」
「私は下調べに時間を費やしているだけよ!! 行き当たりばったりで特典探したってうまく行くわけないでしょ!!」
アクアの言っている”下調べ”とは、どんな特典があったのかを思い出す事から始まっている。具体的には漫画本や小説で記載されている様なアイテムをピックアップしているのだ。
「しかし、そこの運無し女神の言う通り子供相手に大人気ないかも知れぬ。ここは――」
「あの……この金貨で足りますか?」
かすみが差し出したのは魔王城に行った際にお土産で受け取った金貨であった。それを見るなりバニルが意気揚々と。
「これは……!? 換金すれば数倍の価値は下らない……。汝、偉大なるお客様よ。我輩の見通す力の全てを持って占う事を約束しよう」
「ちょっと! お釣りが来るでしょ!? 契約を重んじる悪魔ならちゃんとしなさいよ!!」
「フハハハハハ! その価値に見合うだけの占いをしてやろうというのだ。それで文句はあるまい」
地獄の沙汰も金次第とは言うが、地獄出身のバニルにもそれは当て嵌まるのだろうかと、遠い目をしてしまったカズマであった。
「では……改めて、悩みを打ち明けるがいい。我輩が全力で占ってやろう!」
かすみはうーんと首を傾げながら思案する事、数十秒。
「ええっと……、お兄ちゃん怒ってないですか? 弟とか妹の話をすると、みんな困っちゃうのはどうしてですか? わたしは下の子が欲しいですがどうすれば良いですか?」
「大人しく見えて意外に遠慮を知らぬ小娘よ。一度に質問をするものではない。金貨を受取ったので全て答えてやるが……」
普通は一回に付き一個の相談だが、バニルもこの場で質問攻めに遭うとは思わなかったようだ。
「……汝、我輩ですらも未来を見通すのは難しい。本来の能力であれば我輩の残機すら減らせるかもしれぬ程の実力者だけはある。しかし……、見通せる範囲で教えてやろう」
かすみをジッと見つめ、少ししてバニルが……、
「親バカ魔道士ならば、貴様が反抗期ではないかと気が気でないようだ。金髪になって、トッコウフクとやらを着て鎖を振り回したらどうしたものかと悩んでおる」
「……ビミョーにセンスが古いわね。それともそんなのを目の当たりにした事でもあるの?」
「鎖型のバインドはあいつだって結構振り回してたが……」
アクアとカズマは不良なかすみの想像をしてしまい、ツッコミを入れ、
「拘束されただけでそれとは……、本気でケンカしてしまえば酒場で一晩中泣いてしまうのでは……?」
「ううんと……、ちょっと気にしすぎかな……?」
「何と言うか……、おかしな部分で悩んでるか……。らしいと言えばらしいが……」
めぐみんとゆんゆん、ダクネスは苦笑しながら”反抗期”の部分に反応してしまっていた。
「お兄ちゃんが帰って来たら……謝ります……」
かすみは彼がそこまで気にしているとは思わなかったらしく、少しばかりシュンとなってしまっていた。続けてバニルから、
「二つ目の質問については……、そこの女神にでも聞くがいい。それこそ懇切丁寧に隅から隅まで答えるであろう!」
「何で私よ!? この性悪悪魔! こうなったらこの場で退治してやろうかしら……!」
「人間を導くのが神の役目ではなかったのか? この迷える小娘を導くチャンスであるが? フハハハハハ!!」
退魔魔法を放つ準備をしていたアクアにしがみ付いて、それを止めるカズマ達だったがそんな物はお構いなしとばかりに、仮面の悪魔は話を続け。
「三つ目は……、ふむ?」
バニルが話し難そうにして無言になってしまっていたので、かすみだけでなくカズマ達まで不安になってしまっていた。性格は悪いが、契約に関しては確実に履行し、その見通す力で見えない物は一部の例外を除いてほとんどない筈なのだ。
「いくつか方法はあるが……、一つはそこのネタ種族の小娘共へ熱心に願いを繰り返すがいい。そうすればその内、叶うだろう」
「「……なっ!?」」
ポカンとしながらバニルを見つめるめぐみんとゆんゆんであった。よく見ると顔が少しばかり赤くなっている。
「……先生を狙撃したい」
「止めとけ。またカウンターでやられるぞ? 気晴らしにあの店にでも行くか……」
キースとダストが恨めしそうに、この場にいないもう一人を思い出し、
「まだ何かあるのか? いくつかって言ってたが?」
カズマはバニルの言葉が引っかかったらしく質問を投げかけていた。
「人間では無いが……、あの運無し小僧の子と言える存在の可能性もあるか……。貴様らはもう知っておるようだが?」
「妖精みたいなのを造ってみないかって言われてるらしい。本人は乗り気じゃないけどな……」
「あの小僧の嫌いそうな案件である。戦力としてもそうだが、それを得た方が吉と出ておるが……」
融合騎を得た方が良い。それに関しては漠然とではあるが、ユウの迷いも聞いていたため、”何が何でも造って貰え”とは言えなくなっていた。
「小僧の場合、あれだけの実力がありながら自分自身に懐疑的な面があるのでな。小娘の保護者をやっておるが、それにしても今のままで良い物かと考えて――」
「ちょ、ちょっと!? 何で? 平日に帰れないのは仕方ないけど、休日だとアクセルに帰って来るし、カスミの生活費だってちゃんとくれるし、お休みだと一緒にいて遊んだりしてるでしょ?」
「貴様は本当に神か? 近くに迷える子羊とやらがおるというのに……。それが知恵無し女神の限界か? その様な神を信奉しているからこそ、迷惑教団が出来上がるのであろうな。フハハハハハ!!」
「うちの子達を悪く言うのは止めなさい! セイクリッド――」
いつものバニルの挑発に退魔魔法を放とうとしていたアクアであったが、そこをカズマが割って入り。
「バニル、あいつが何を迷ってるってんだ? アクアが言ってた通りで、保護者としてはそこらの親よりずっとしっかりやってるはずだろ?」
それに関しては、アクアやカズマだけでなく、めぐみん達、そして別パーティーのテイラー達もうんうんと頷いていた。
「アクセルの冒険者の間じゃ、ちょっとしたアイドルだしね。この娘……」
「そうだな……。ギルド職員からも可愛がられていると聞くが」
「あの店の店員さん達が、ユウとの仲を取り持ってくれって言ってるらしいじゃねえか」
「先生はたまにおっかないが、街中一緒に歩いてる姿なんて本当の親子兄妹みたいに見えるけどな」
などなど、テイラー達から素直な感想が漏れている。
「凶悪魔道士の場合、小娘に対して、自身の幼少期と同じ事をしてしまっておるのでな。子は親に似るというが、図らずともそうなってしまうのは何の因果か……」
「そういえば……ユウもご両親が仕事で忙しかったので、友人の家に預けられていたとか……」
「それにだ……。凶悪魔道士は凶悪なだけあり実力者には違いないが、その力があるからといって、家庭で良い人間とは限らぬだろう? むしろ腕が立つ分、我の強い人間になってしまう場合も往々にしてあるものだ。まあ、小僧の場合は……そうそう心配は要らぬのだが、今までとの生活の差異に戸惑っている部分もなくはない」
バニルの説明に一同聞き入っていたが、そこに反応してしまったのが一人だけいた。彼女は身を震わせ拳を握りながら、
「つまり……、”俺は魔王軍幹部すら屠った冒険者だ! その俺の生活がうまくいかないのは世間が悪い。チャンスさえあれば一気に稼げるんだ! おう、ちょっとそのエロい体使って金を作って来い。”……と、そんなダメ人間になってしまう可能性もあるという事か!?」
「……常時発情している欲求不満な娘よ、あの小僧が貴様の言う通りになるのは、一本の蜘蛛の糸を掴み地獄から這い上がるよりも低い確率である故、それは無理があるという物だ」
それを聞いたダクネスは体育座りしていじけてしまっていた。
「凶悪魔道士の場合、どちらかといえば、自分に出来ぬ事をいとも簡単にやってしまっている、そこの昼夜逆転しながら、ある喫茶店に足しげく通う小僧の方を羨ましがっている節もあって――」
「いきなり何言って……!? 俺の方が羨ましい……?」
「うむ。何せ自堕落な生活をしているとはいえ、小娘の近くに常におり、
バニルがカズマに対してそう言い放つと……、
「つまり……ユウはカズマみたいに一緒にいてあげたいけど、そうはいかないから困ってるって事?」
「極端に言えばそうであるが、それこそ現実との折り合いを付けなければならない部分もあろう。その点で言えば、あの凶悪魔道士でさえ年相応の人間と言える」
「カズマの方が羨ましいとか……、それじゃあニートになるしかないじゃない……」
アクアがため息をつきながら、ヤレヤレと疲れた様な表情を見せていた。
(((ユウも面倒臭いヤツだな……)))
カズマ、ダスト、キースが顔を見合わせて、自分達の思考が一致してしまったのを感じ取っていた。
「それで……? 結局のところ、かすみはどうすれば良いんだ?」
「簡単な話である。そこの小娘や妖精とやらがどうでも良くば、悩みはするまい。悩んでおること自体が答えの様なものだ。あとは好きにするがいい」
バニルはこれ以上話す気は無いらしいが、周りは……。
「ちょっと!? それだけ!? 金貨受取ったんだから、ちゃんと話なさいよ!!」
「悩んでいること自体が答え……ですか?」
「どうでも良かったら悩まない……?」
アクアは文句、めぐみんとゆんゆんは首を傾げていた。その一方で、
「わたし……、お兄ちゃんを困らせてる……?」
かすみは俯いてすっかり意気消沈していた。それを見て、普段は我関せずか、いつの間にかいなくなりそうなダストから、
「ああ……、あのな? あいつは別にチビッ子が嫌いなわけじゃないからな? むしろ大事だから困ってんだ。だからあいつに好きなだけ甘えてやれ。それだけで良いからよ」
「本当に……?」
「このアクセルを牛耳るこの俺の言葉だ。信じろって!」
優しく、しかしながら力強い言葉が紡がれていた。それでかすみはいつも通りになったものの……、
「……明日は大嵐かもしれないね? ダスト……あんたまた悪巧みしてるの?」
「雑貨屋さんを困らせたり、通行人にイチャモン付けるダストさんが……今日はどうしたんですか!?」
「てめえら、後で覚えてろよ! 泣いて謝ったって許さねえからな!!」
ダストがいつもと違う態度を取っていたのが、かなり意外なリーンとゆんゆんであった。すると、後ろから馴染みのある声が――
「やっぱりここだった……。屋敷に誰もいないから、どうしたかと思ったけど」
「あら? 今日は早いわね。てっきり夕方かと思ってたわ」
「うまい事、仕事を捌けたんでな。早上がりにして貰ったんだ」
ユウは仕事が早くに終わり、帰宅してカズマ達を探していたらしく、冒険者ギルドまで足を運んでいた。
「お兄ちゃん……その……」
かすみがおずおずと近寄ってきていた。冷静になって考えると拘束したのはやりすぎだったかも……と感じてしまい、遠慮がちであったが、
「かすみ~。お兄ちゃん会いたかったよ~!」
「おっ……お兄ちゃん!?」
彼女をヒョイっと抱き上げて、嬉しそうにグルグル回っていた。
「何アレ? シスコン全開!?」
「……エンジン全開に振り切ったな。どうしたんだ?」
「ちょっと羨ましいですが、ここはカスミに譲りましょう」
「何と言うか……、楽しそうなのは良いが、カスミの方が恥ずかしそうではあるか……」
「ほのぼのしちゃいますね。カスミちゃんも安心したみたい」
アクア達も各々の感想を口にしていたが、カズマから、
「今日はまたテンション高いな。一週間ぶりだから仕方ないだろうが……」
「俺は一緒にいられる時間が、お前らに比べて少ないから……、その分、全力で行こうと思って。かすみ、何か夕飯のリクエストがあるか? 何でも作るぞ?」
「ふぇ? だったら酢蛙とアンニンドウフがいい! お兄ちゃんのカエル料理って何でも美味しいから」
「任せろ! アクセル一のカエル料理人の異名を持つ俺の腕を見せてやる」
ジャイアントトード――この肉は淡白であっさりしているので、大抵の調理法には合うのだ。素材の味を生かしても良いし、濃い目の味付けをしても良い。正に調理する者によって無限の可能性を秘める食材なのだ。アクセルに来てからは、このカエルの肉で色々な調理法を試していたのだが……、
「……『アクセル一のメイドマニア』、『アクセルの大魔王』、『アクセル一のカエル料理人(自称)』……。あいつはいくつ異名を持つ気だ?」
「だったら、『女神アクアの使徒』も加えて欲しいわ!」
「それは止めてやれ。アクシズ教徒に聞こえるだろ!?」
それとは他に、ギルドにいた冒険者達からヒソヒソと小声でこちらを見ながら話し声が聞こえる。耳を傾けると、シスコンだの親バカだの言われている様だったので、
「一つ言っておこう。シスコンでも親バカでも好きに言うと良い。俺はかすみの事が大好きだから、それはむしろ褒め言葉だ!」
「「「「うわっ……!?」」」」
その場にいた冒険者達は、信じられない者を見ている様な顔となってしまい、この後すぐに『アクセル随一のシスコン』の異名が追加になったのは言うまでもない。
クロノの助言でかすみさんに対して全力全開の可愛がり方になってしまった主人公でした。
駄目な方向(シスコン、親バカ)にもちょっとずつ磨きが掛かってきています。