この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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外伝 駄女神様のお導き

 5年前の冬。彼と水の女神との邂逅を記す。

 

 今、ミッドチルダの病院の廊下を歩いている。最近は、時間が空くとここに来ることが日課だ。

 異世界での演習時のアンノウンによる襲撃……。そして……なのはが重症を負った。一命は取り留めたが、今は歩くのも困難な状態になっている。もしかしたら、二度と空に上がれなくなるかも……。そういった診断をされているらしい。

 

 ……よくよく考えれば分かりきってたことだった。今、Aランクの自分の砲撃ですら、カートリッジ使用時には、まだ成長しきっていない体にそれなりの負担は掛かる。

 それが、魔法を覚えた頃から大出力の砲撃、集束砲を使用し続けているアイツの体に、負担が掛かってなかったわけは無いのに……。

 そのせいで、反応が遅れて、アンノウンの攻撃をまともに受けてしまった……。もう少し、ちゃんとなのはから感じていた違和感の正体に気付いていたら……。

 

 そんな事を考えているうちに、病室の前に到着した。ドアをノックすると……。

 

「はーい。どうぞー」

 

 この声は、なのは……じゃないな。桃子さんか……。

 

 母娘二人かと思っていたけど、ドアを開けて病室に入ると、そこにはフェイトとユーノも病室の中にいた。どうやら、なのはと雑談していたようで。

 

「悠も様子を見に来たの?」

 

「僕達もさっき来た所なんだ」

 

 二人ともいつも通りに振舞って入るが、やっぱり不安になっているのが分かる。なのははベッドから体を起こすのだって難儀している状態なのだ。

 

「なのは。調子はどう?」

 

 今は動くのも辛いのは分かってるけど、ここはいつもの挨拶で話しかける。それしか出来ないのがもどかしい。

 

「……大丈夫……なんて言えないけど、みんなもよく来てくれるし、辛くはないよ」

 

 ここでは笑顔を見せてるけど、辛くないはずは無いのに……。

 

その後、4人で任務や学校の様子なんて他愛の無い話に華を咲かせていた。傍から見れば子供達が楽しそうに会話している様にしか見えないだろう。だが、その心中は穏やかではない。そして……。

 

「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。これから巡回があるから。なんか海鳴でおかしな反応が出てるらしいし」

 

 そうして病室を立ち去ろうとした時、なのはが申し訳なさそうに。

 

「……ごめんね。私がこんなになったから、負担かけちゃって。早く治して復帰できるように頑張るから……」

 

 その言葉を聞いた俺は、なのはの方に行き、すっと彼女の顔目掛けて自分の手を伸ばしていた。

 

「ちょ……、ゆ、悠!?」

 

「どうしたの!?」

 

 ユーノとフェイトが驚いていたが、桃子さんだけは、”いいからいいから”といった感じで、ニコニコしていた。ある意味、もう一人の母親とも言える人なので、俺の行動はお見通しらしい。

 

「な~の~は~、お・ま・え・は、早く治すなんて言わないで、ちゃんと体を治す! こっちの心配はしない!」

 

「ふーふ~ん!」

 

 なのはの頬をグニグニ引っ張りながら一言。なのはは困ったように俺の名前を呼んでいるが、その様子を見ていたユーノとフェイトが顔を見合わせて、クスッと笑っているのがわかった。

 

 

 

「……気をつけてね」

 

「僕も一緒にいければ良いだけど……」

 

「二人とも忙しいだろ。フェイトはもうすぐ執務官の試験だし、ユーノも無限書庫の業務があるし。じゃあまた後で」

 

二人に別れを告げて、病院の外へと向かうと……、俺を待っていたらしい人影があった。

 

「……ザフィーラ、現地で集合じゃなかったっけ?」

 

「主はやての命だ。なるべく共にいるように……とな」

 

そっか、はやても結構心配してるってことか。気を使わせちゃったな……。みんなの中でなのはと一番付き合いの長い俺が、無茶するとか、そう思っているのかも。

 そんな事を考えながらザフィーラと一緒に海鳴市に向かった。

 

 現在、ザフィーラと海鳴市上空を巡回中だが、不意に。

 

「……ザフィーラ達は、ずっと昔から戦ってたんだよな?」

 

「……ああ、当時の主の命があれば闇の書の蒐集を行い、戦争にも参加したことがある」

 

「やめたいって思ったことはなかったの?」

 

「思わなかったと言えば嘘になる。だが、闇の書のシステムがそれを許さなかった。諦観というのだろうな。主に出会うまではそうだった。ヴィータも今でこそああだが、それはここに来てからだ。それまでは、随分とやさぐれていた……」

 

 ザフィーラの話を聞いていると、今の俺達みたいな経験もしてきているんだろうな……。その当時の主だけでなく、関わって仲が良くなった人達とか……。

 俺は……、このまま管理局に残ったとして、みんなに追いついてもいないのに、また同じことが起こりそうになったら、それを防げるのかな……?

 

『マスター、北西2km先、地上で多数の同体反応あり』

 

 デバイスの索敵情報に従い、その場へ向かうと……、敵がそこにいた。それは――

 

「……ザフィーラ、これって!?」

 

「……ああ、例のアンノウンだな」

 

 封時結界で周囲を切り離し、戦闘態勢に入る。魔法を発動させて、目の前の機動兵器を見据える。

 

 ……虫を機械にした様な外観と鎌の様な刃を持っている兵器……!?

 ……こいつら、どう考えてもこっちのものじゃない。なんでこんなのが……?

 

 疑問を抱きつつ、ザフィーラと共に数機撃破はしたが……。

 

「……悠、ここは引く。今こちらに応援も向かっている」

 

「いいや、ここで尻尾を掴む。……まだいける!」

 

 ……絶対に、こいつらを操ってるヤツを……!

 気がはやっていたのか、前に出てしまった。次の瞬間、目の前に閃光が現れて体へ衝撃を受け……、

 

……アウトレンジからの超長距離……砲撃!? どこから……!?

 

そうして、意識を失った……。

 

 

 

 

 

 

 

 次に眼を覚ましたときに見えたのは、辺り一面真っ白で二脚の椅子がある部屋だった。こんな部屋なんて俺の知る限り入ったことは無い。

 どうやら、俺以外の人間はいないみたいだけど……。いや、あっちでブラブラしてるのは……足? 寝転がっている人がいる?

 

 何かが見えた方に行くと……、水色の長い髪のお姉さんが、寝転がりながらポテチらしきものを食べて、漫画本を読みながら、爆笑していた。

 

「……えっと」

 

 俺の声で、お姉さんがこちらに気付き、驚いたような顔で。

 

「……あなた、何で今ここにいるの? 休憩時間のはずなのに……!? 何かの手違いかしら……。あら?」

 

 お姉さんは俺を見て、何かを察した様で……、腕を組みながら。

 

「ふーん。偶然迷い込んじゃったみたいね。あっちの方を歩いていけば、戻れるから早く行きなさい」

 

 このお姉さんが何を言っているかは分からないけど、指を差した方向に行くといいらしい。この人は何なのか気になるけど、言うとおりにしよう。急いで戻りたいし。

 そうして、歩こうとした時……、お姉さんから呼び止められてしまう。

 

「ちょっと待って。あなた、この漫画のこと知ってる?」

 

 お姉さんが差し出した漫画本は、今大人気で俺らくらいの年なら誰でも知ってるものだった。当然俺だって読んでいる。

 

「知ってるけど……どうして?」

 

「ねえねえ、続きを教えてちょうだいな。気になっちゃうでしょ?」

 

 行けと言ったり、待てと言ったり、忙しいお姉さんだと思う。続き教えるくらいなら別にいいけど……。

 そうして少しばかり漫画本の続きについて語っていると。

 

「……あなた、子供の癖に随分思いつめた顔してるわね? まだ休憩時間だし、ちょっとお話しましょうか。まずは自己紹介からね。私はアクア。日本において若くして死んだ人間を導く女神よ! まあ、あなたはまだ死んでないけどね」

 

 さっきまで、ポテチ食べながら寝転がって漫画本読んでた人が神様? うそ臭い。

 俺がお姉さんの言葉を信じておらず、硬い表情をしているのを緊張していると受取ったのか、どこからか扇子を取り出し。

 

「はーい! 花鳥風月~」

 

 その扇子から水を出し、水芸をしだした。何処にあったか分からないけど、湯飲みまで取り出して、そこに水芸で出した水を注いでいる。

 

「……水芸の神様?」

 

「違うわよ! 私は水の女神様! ある世界では御神体として奉られてるんだから! それより、私に話を聞かせて頂戴。丁度いい暇つぶ……、じゃなくて相談相手くらいにはなれるわ」

 

 直感的に水芸の神様と言っちゃったけど、間違いだったらしい。なんか暇つぶしって言われた気がするけど、ここはアクアさんの言うとおり、話を聞いてもらおう。

 

「へぇ……。お友達が大怪我して、無理してたのにも気付かなくて腹立たしいと。しかも今の仕事を続けてても、なんの役にも立てないかもって思ってるってことね」

 

 アクアさんは腕を組み、うーんと言いながら……。

 

「あなたは少し肩に力が入りすぎね。あのね、真面目に生きても、頑張らないで生きても明日はどうなるか分からないんだから、今を楽に生きた方がいいわよ。悩んでるより、好きなことして楽しくやりなさい」

 

 言ってることは分かるんだけど、この人本当に神様なのかな? さっき水の女神様って言ってたけど、自堕落とか怠け者の神様なんじゃ……。

 

「それに今のあなたの場合、自分の事をないがしろにしすぎよ。その大怪我した友達と同じね。だから自分の事をもう少し大事にして、楽しいことや面白いこと、いっぱい経験しなさい。どう? 結構いいこと言ってるでしょ?」

 

 ……最後の台詞がなければ素直に感心できたんだけど、多分その場のノリで言ってるような気がする。その後、アクアさんはイラついた様な表情で……。

 

「何よ! 休憩時間は終わりで、後がつかえてる!? 今大事な話してるんだから、後にしなさい! まったく融通が利かないんだから!!」

 

 そういえば休憩時間って言ってたっけ。じゃあ仕事に戻った方がいいんじゃ……。

 

「……アクアさん、お仕事したほうが……」

 

「いいのいいの。それより、そのお友達って女の子? もしかして彼女? 随分思い詰めてた感じだから、そうかなって思ったんだけど」

 

 相談が全然違う方向に行ってる気がする。しかも仕事は後回しでいいんだ……!?

 

「……アイツはそんなんじゃないよ。けど小さい時から一緒にいる事が多くて……。近くにいるのが当り前みたいなやつで――」

 

「つまり愛ね! そうなのよね!!」

 

 全然人の話聞いてない……。アクアさんは立ち上がり、俺の眼を見て高らかに答えを返して来ていた。

 

「いい? この世界、愛さえあれば全てが許されるの! 同性愛者でも、人外獣耳少女愛好者でも、ロリコンでも、ショタコンでも、ニートでもそこに愛があればいいのよ! ただ犯罪は駄目よ。そうして周りの人たちを愛を持って大事にすれば、きっとみんな幸せになるわ!」

 

 ……アクアさん。俺、仕事はしてるけど、まだ11歳なんですよ……? 子供に教えちゃいけないこと言ってないですか? 思わずドン引きしてしまっていたが、今度は拳を握りながら、怒りに燃えた様な雰囲気で。

 

「けど、悪魔やアンデッドは見つけたら、しばきなさい! それこそ思いっ切り、跡形も残らない程。あなた、結構強そうだから全力で殺っちゃいなさい!! この私、水の女神アクアの名において認めてあげるから!」

 

今度は物騒なこと言い出した。まぁ悪魔とかゾンビとかホラー系は嫌いだから別にいいんだけど。

 

「あの連中はね……。寄生虫で害虫で、ナメクジなんだから! あなたがこうなってるのだって、奴らのせいにしていいのよ!!」

 

 悪魔は寄生虫らしい。ウニョウニョした虫を想像するだけで、気持ち悪くなっていしまい、嫌悪感が沸き上がって来る。

 

「悪魔殺すべし! 良い? 悪魔殺すべし……よ!」

 

 アクアさんが力説している横で、気になる事があったので。

 

「俺……強そうですか? 全然みんなに追いついてる気がしないし、今のままでいいのかな?」

 

 そんな呟きにアクアさんは俺の眼をじっと見て。

 

「あのね、迷ってる時に出した決断はね、どの道どっちを選んだとしても、きっと後悔するものよ。なら、今が楽ちんな方を選びなさい。まぁ楽ちんじゃなくても好きな方を選べばいいわ」

 

 どっちを選んでも後悔する……か。言ってること自体は、無茶苦茶だけど結果的に間違ってないかも。

 

 そんな話をしているうちに、さっきアクアさんが”あっちに行けばいい”と言っていた通路が透けていっているような気がした。アクアさんもそれに気が付いたようで、慌てた様子で。

 

「も、もう戻りなさい……。い、いつまでも、ここにいてはいけないわ……」

 

 そうして俺の手を引き、通路の方へ連れて行き、さよならと手を振っている様に見えた。

 

 

 

 

 

 

 眼を開けると自分が寝かされていて、白い天井を見えている。ここは自分の部屋では無いのはすぐに分かった物の、頭はボーっとしている。

 

 ……あれ? さっきまで誰かと話してたような……? 確か髪の長いお姉さんと……。

 

「……よかった、悠君。気が付いたみたいね」

 

「シャマル先生……? 俺……どうして?」

 

 シャマル先生から俺が任務中に攻撃を受けて意識不明になったこと、怪我自体は大したことはないのに、何故か意識が戻らなかったこと、これ以上意識が戻らなかったら、命の危険があったことをを告げられた。

 

 怪我自体は大したこと無かったので、入院期間はそう長くなかったけど、みんなには心配かけた様で、お見舞いのたびに、謝られたり説教されたりした。

 病室に来たみんなが泣きそうになってしまっていたのは、本当に悪い事をしてしまったのだと……、心から反省してしまった。

 一人になってから、思い浮かんだのは……。

 

 ……あのお姉さんに言われたことって、”自分の事を大事にして、周りの人も大事にしなさい”だっけ。こうして自分を心配してくれる人達がいるんだから、めげずに頑張っていこう……!

 

 

 そのころ天界では――

 

「……あ、あの子、大丈夫よね? またすぐここに来たりしないわよね……? もしあの子が私のせいで死んじゃったら、大変なことになるんですけど……。出口の所で早く行きなさいって手を振ったけど……、無事に戻れてるわよね……?」

 

 日本担当の女神が自分のしでかしたことに脂汗をかきながら人知れずブルブル震えていたのでした。

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