この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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平行世界ゆんゆんルートです。

これは130話でめぐみんが部屋に来ていない場合です。
みすてぃの名前に関しては何のかんので、押されて負けています。
時系列的には、みすてぃが屋敷に来た直後位です。


とある平行世界編
お兄さんにしてお父さんだが、父と呼ばれるのは微妙なお年頃


「――と、まあ、ミッド式とベルカ式の違いってのは分かって貰えたか?」

 

 現在、休日を利用してかすみと先日屋敷に来たばかりのみすてぃへ、魔法の講義をしている真っ最中だった。黒板にチョークでもあれば学園ものっぽい雰囲気も出せたかもしれないが、残念ながらそんな物は屋敷には存在しない。仕方ないので――

 

「一つ聞いて良いか?」

 

「ん? 何かな、カズマ君? 質問なら受け付けるが」

 

「俺はお前の生徒じゃねーし、質問もない。けどな……」

 

 カズマが眉をひくひく動かしながら、意を決したように口を開いた。

 

「何でわざわざ伊達メガネに白衣を着て講義してるんだ!?」

 

「……ダクネスから聞いたが、こういうのは形から入る物じゃないのか? あいつも女教師っぽい服装で子供達に勉強教えてたろ? 俺の魔法は理系知識だから、白衣が正装なのさ」

 

「絶対わざとやってるだろ……」

 

 最近になって知ったのだが、ダスティネス家では転生者から伝わった知識で学校の存在を知り、ダクネスが試験的に孤児院で子供達に授業をしていたらしい。その際、いかにも女教師っぽい格好をしていたので、からかったりしたのだが、俺も見習って形から入っていたのだ。

 

「質問です! 何故ベルカ式は衰退したのですか? あれ程の能力を誇るというのに……」

 

「めぐみんさん、それはですね……、ベルカ式は修得には先天資質に左右されるという事と、カートリッジシステムの扱い難さと言われている。魔力を一時的に底上げできるとはいえ、普段使う以上の魔力を無理矢理増強するので、使い手にはそれなりの技量が必要になるんだよ。ついでに基本的に近接特化だしな。最近はその辺はかなり改良されて、設計段階からカートリッジを組み込めるようにはなったけど。ちなみに古代ベルカ式は、使い手の少なさから現代では稀少技能(レアスキル)になってる」

 

 それに対してミッド式は、汎用性と技術応用の幅広さや修得のしやすさで俺のいる世界では現在の主流となっている。そう説明すると、

 

「はい! ベルカ式にも種類があるのは何でですか? 近代と古代の違いは……?」

 

「ゆんゆんさん、古代ベルカ式は、昔々ベルカで使われていた本来の魔法体系です。さっきミッド式は汎用性が高いと言いましたが、それでも個人の資質次第では接近戦が得意でも魔力を遠くに飛ばすのが苦手な人もいたりします。そんな人が使うのが『近代ベルカ式』で、ミッド式をベースにして、古代ベルカ式の魔法を再現したものなんだよ。そんなのだから一部の魔法はミッド式と互換性があったりします」

 

 さて、かすみとみすてぃのお勉強の筈なのに、何故かめぐみんとゆんゆんまで講義に参加していた。二人共、興味津々といった感じで目を輝かせながら説明に聞き入っている。

 まあ、俺も他の世界の魔法講義とかあったら参加してみたいので、そういう物なのだろうなと思い、納得していた。アクアに至っては最初だけ聞いていたようではあったが、すぐに眠ってしまっていた。居眠りしている生徒を見るのは割とムカつくもんだと、先生の気持ちがちょっとだけ分かってしまう。

 

「はい! ロードは近代ベルカ式を使えないのですか?」

 

「みすてぃさん、講義の内容とは違いますが答えましょう。やれば出来るかもしれないけど、俺の資質自体はそこまで近接特化じゃないし、切り札の集束斬撃は広い範囲から魔力を集めるのが基本なので、ミッド式の方が使いやすいです」

 

 魔法体系の講義についてはこの辺にして、今度は変換技術の講義へと移っていた。

 魔力変換技術――魔力を放出する際、炎や電気といった別エネルギーへの変換・付与をする技術である。その中でも生来の資質によって、術的プロセスを必要とせずに自然に変換が可能な術者もいる。

 それが魔力変換資質と呼ばれる物であり、身近な知り合いでは『炎熱』はシグナム姐さん、『電気』はフェイトやエリオ、『氷結』の資質持ちは俺の知る限りはいない。

 

「聞いて良いか? ユウの様に後天的に修得できるのなら、先天的に資質を持つ者の有利性はない様に思えるが?」

 

「ハイブリッド・ララちゃん、変換資質を持つ人は自力修得者に比べて魔力を変換する効率が高いです。俺の変換効率は10の魔力を変換して6~7割程度しか変えられないが、資質持ちは10の魔力をほぼ全て変換が可能です」

 

「その”ハイブリッド・ララちゃん”とは、なんだ!? 新手の辱めか!? その様な物よりもっとこう……、物理的な辱めをしてくれ!」

 

 絶対にやらない。まあ、これに関しては、はっきり言えば八つ当たりみたいなもんだ。俺自身、もう気にならなくなったと思ったものだが。

 

「カッコいいじゃないか。ご両親の良いとこ取りの能力を持って生まれた、ダスティネス家のハイブリッドだろ?」

 

 先日、ダクネスが従妹のシルフィーナちゃんを屋敷に連れて来た際に発覚したのだが、ダクネスは母親の魔法防御と父親の頑強さを備えた存在なのだと教えられた。

 

「全く、世の中ってのは不公平だ。両親の資質をほぼ完璧に継承する紅魔族、親が勇者候補でその能力を受け継いだかすみ、これにダクネスまでそうだってんだから、嫌になるな」

 

「お兄ちゃん、オーラが黒くなってるよ。どうしたの?」

 

「ちょっと昔を思い出しただけだって。済まなかったな、ダクネス。俺のむしゃくしゃに付き合わせちまった……」

 

「ん……? まあ、構わんが……。ここで言えないなら、後で酒場にでも行って愚痴に付き合うが……」

 

 それには及ばない。……と、講義を再開しなければと思い再度説明を続けようとしていると。

 

「はーい! 変換資質は、お父さんやお母さんからの継承が大半って言ってましたけど、変換資質や技術は『炎熱』、『電気』、『氷結』の三つしか無いんですか?」

 

「かすみさん、それに関しては無い……事はない。けど、それ以外だと、もう稀少技能(レアスキル)になっちゃうかな。それこそ突然変異とか、そこの家系が代々継承しているとかの」

 

 かすみの質問に淡々と答えたが、あちらから即座に。

 

「お兄ちゃんはその人を知ってるんですか?」

 

「んー。知ってる事は知ってるが、()()使()()()()()()、会った事がないかな」

 

 その回答をした後で、またまたかすみから、

 

「わたしも変換技術を覚えた方が良いですか?」

 

「そうだなあ……。特に必要ないと思うけど……、何せこっちの魔法だとスキルとして修得すれば……というか、かすみの場合は、中級魔法と上級魔法が使えるから基本的には必要無いだろ。風系とか地系とかも出来るから」

 

 その質問が飛び出していた。

 実際にかすみへ教えれば、覚えるのは難しくないかもしれない。それこそ三種変換なんてのも普通にやっちまいそうなくらいの天才児でもあるのだが。

 

「……待てよ? って事は俺も、もう属性六種類持ちなのか? 火水風氷土雷……、こっちの魔法って便利だなあ……」

 

「カズマ……一応俺もだからな? まあ、こっちの魔法は殺傷力高いから、ミッドじゃあ普通は使えないけど」

 

 そんな会話をしながら、講義を終了すると……。

 

「そうだ! ユウさん、私、今日の午後から里に行きますね。お父さんから連絡があって……」

 

「そっか、里帰りだったら親孝行でもして来な。何だったら何か土産でも持たせようか?」

 

「いえ、そこまでは……。私が自分で買いますから」

 

 そうは言うものの、紅魔の里の方々には何のかんのでお世話になってしまったのだ。主にアクセルの工事やかすみの件でだが。

 そんなわけで、正午を回るまでにはまだ時間があるという事でゆんゆんのお土産探しを手伝う事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 街中を歩きながら、お土産を探してはいたものの……。

 

「お菓子の詰め合わせ……、酒、アクセル名物のカエルの肉……、それとも、デストロイヤーの破片とか持ってくか? 意外にウケるかもしれない」

 

「ふ、普通にお菓子の詰め合わせで良いと思いますけど……」

 

 確かにオーソドックスが一番かもしれぬ。変に凝ると時間もかかってしまうので。

 

「そういえば、めぐみんは里帰りしなくていいのか? この際だから一緒に行くってのも……」

 

「私は良いですが、一緒に来てくれますか? こめっこも喜びますので。それにユウが設計した杖も、みんなに見せるのも良いかも知れません」

 

「……遠慮する。ゆいゆいさんが怖いです」

 

 最近になって、めぐみんとゆんゆんのアプローチがかなり苛烈を極めていた。ちょっと前なら気にならないはずだが、そんなのも分かるようになってしまったのは良いのやら悪いのやらと、頭を抱えている。しかも二人してムキになるから結構胃が痛いです。土産買いに行くだけで、めぐみんも自分も付いて行くと言い張り、一触即発になりそうなのは勘弁して欲しい。

 

「ユウさん、私も一緒でも良いですけど……、どうですか?」

 

「族長さんが一計を講じる気がするから止めときます」

 

 それに対し、二人は暗い雰囲気となっていたが程なくしてお土産の購入は終了し、ゆんゆんが里に発つ前にカズマ達にも挨拶しておきたいとの事だったので、屋敷に向かっていた。その途中。

 

「さっきの講義での魔力変換でしたか……。先天的に持っているのならともかく、後天的な修得は難易度が高いと聞きました。それでもユウは、炎と氷の二つ持っているのですよね? 初めて会った時は炎しか使えていませんでしたが、そこまでして修得するのは何か理由が?」

 

「理由って程の大したもんじゃないが……、強いて言うなら無い物ねだりか。自分じゃ絶対に修得できない出来ない物の代替として……かな?」

 

「無い物ねだりって……、本当は違うスキルが欲しかったんですか?」

 

 ゆんゆんも興味があったらしく、話に加わって来たのだが、これに関しちゃ説明すると長くなるので後にして欲しいという事で納得してもらった。

 そして、ゆんゆんも里へと出発し、魔王城近くのダンジョンにでも行こうかとみんなで打ち合わせていたところ。

 

「あれ!? カズマ達どっか行くの? 今さ、ギルドからのお使いで来たんだけど……」

 

 息を切らしながらリーンとテイラーが屋敷を訪ねて来ていた。ギルドからの要請とは何かと思い、テイラーに問い詰めると、

 

「済まないが、めぐみんは急いで来て貰えないか? それが一番早いはずだ」

 

 どうやらめぐみん関係の用事らしい。と……、言う事は……。

 

「めぐみん……正直に答えて! 爆裂魔法で何を壊したの? 私も一緒に謝ってあげるから、ごめんなさいして来るわよ……。ね?」

 

「私の知らぬ間に、何をした!? まさかアクセル周辺の重要施設を破壊したのではあるまいな!?」

 

 アクアとダクネスが同じ想像をしてしまったらしい。彼女に罪を認める様にと訴えかけていた。

 

「二人共、私を何だと思っているのですか!? 爆裂魔法は決まった時間の決まった場所でしか撃っていません! ああっ!? カズマとユウまで私に疑いの眼差しを!? 信じて下さい!!」

 

 めぐみんは必死に自分の無実を主張していた。そのしぐさをそれとなく観察していたが、嘘は言っていないと思われる。

 

「とりあえず、ギルドに行ってみるか。爆裂関連かどうかは行けば分かる」

 

「……もし爆裂被害だったら、お前がうまく弁護してくれ」

 

 めぐみんさんの場合……、衝動で撃っちゃう場合があるからなあ……。そうだったら……どうしよう……。

 

 そんなのを考えていても仕方ないので、テイラー達と共に冒険者ギルドへと向かうと、受付のお姉さん達やウェイトレスさんが一か所に集まって何かをしている。しゃがみ込んでいるので、小動物か何かかな……と思い、カズマ達と顔を見合わせて近づくと、黒髪の小さな男の子を取り囲んで、お姉さん達が困り果てているのが分かった。男の子は3~4歳といったところだろうか。

 あの子が俺達……というより、めぐみんと何の関係が……と人の壁を割って入り、その子の間近まで行くと……。

 

「あっ……! おとうさーん!?」

 

 えー、アクセルの冒険者達からは、からかい半分で親呼ばわりされた事はある。百歩譲ってかすみになら、お父さんと呼ばれるのも仕方がない。だが……見ず知らずの子供にそう呼ばれる筋合いはどこにもない筈だ。

 そんな俺の思考とは裏腹に男の子は涙目になりながら、俺の足に抱き付いて精一杯の力でしがみ付いている。その様子を見ていたギャラリーは……、

 

「ひ、広めなきゃ……。ユウさん、いつの間に子供なんて……」

 

 アクアさん、いきなり何しようとしてるんすか!?

 

「……その子はどこの子だ? お前、かすみ以外に保護者にでもなったか?」

 

 こんな時、冷静でいてくれるカズマさん、マジで男前です。

 

「ま、まさか……カスミが下の子が欲しいと言ったので、何処からか拾ってきたのですか!?」

 

 めぐみん……、それじゃあ俺が捨て子を育ててる人みたいですよ。

 

「何故今まで黙っていた? 全く、水臭い。この子も屋敷に連れて行けば良いのだろう?」

 

 ダクネス……、だからそれは違う!

 

 俺以外の各々が感想を漏らしていると、しがみ付いていた男の子が俺を見上げているので、その顔が目に入っていた。

 そこに映っていたのは紅い瞳。黒髪で深紅の瞳を持つとなれば、この子は紅魔族という事になる。すかさず……、

 

「……めぐみん、最近の紅魔っ子の間だと、見ず知らずの人間を身内扱いして、からかう遊びでも流行ってるのか? 紅魔族ならお前の知り合いじゃないのか?」

 

 ここに来て、めぐみんが冒険者ギルドに呼ばれた理由がはっきりした。紅魔族なら彼女がこの子の素性を知っているかもしれないという事なのだろう。

 

「いえ! そんな遊びなどあるわけがありません! ユウは紅魔族を何だと思っているのですか!?」

 

「……ただの銭湯に『混浴温泉』って名付けたり、ピクニックで魔王城に魔法ぶっぱして逃げる様な、人をおちょくったりする種族」

 

 ついでに、一万回目に抜ける聖剣とか、思わせぶりなセリフを言い放ってテレポートで逃走するなども入るだろう。

 

「おい! 喧嘩ならいつでも買いますよ! 売られた喧嘩は買うのが紅魔族です!!」

 

 激高しためぐみんだったが、喧嘩するつもりはない。最初にすべきは俺から離れようとしない、この紅魔族君だ。

 とりあえず、しゃがみ込み……目線を合わせながら、

 

「ボクは紅魔の里から来たのかな?」

 

「うん!」

 

 やはり紅魔族で間違いはないらしい。

 

「ロード……慣れてます……」

 

「お兄ちゃんって、わたしもそうだけど……子供に好かれやすいから……」

 

 みすてぃとかすみが感心したように呟いていたが、続けて……。

 

「お父さんとお母さんのお名前は?」

 

「おとうさん……なまえは……なんていうの?」

 

 質問しているのは俺の方なんだが……、何故俺が名前を聞かれねばならないんだ……。これでは埒が明かない。

 

「めぐみん、この子に見覚えは? 里だと、この年の子は多くはないから、知ってるんじゃないか?」

 

「いえ……確かにそうですが……、心当たりはありません……。せめてゆんゆんがいれば、里までテレポートで行って親を探せるのですが……」

 

「でもさ……、こんな小さな子が一人でアクセルまで来るか? 普通は親同伴じゃ……」

 

「でしたら、冒険者ギルドのアナウンスで迷子案内をして貰いましょう」

 

 それが最善手と言えるだろう。いくらなんでも、それなら親御さんは見つかるはずだ。という訳で、

 

「ボクのお名前教えてもらえるかな?」

 

アナウンスしてもらう際に放送する男の子の名前を確認しておきたいので、本人に問いただすと。

 

「わ、わがなは……!? あ、ああ……」

 

 お決まりとなっている紅魔族式名乗りだが、どうも思い切りが無い。名乗るのを慣れていないというよりは恥ずかしがっている感じだ。

 

「あのね? かっこよく名乗らなくて良いから、お名前だけ教えてね?」

 

「ダメですよ! 紅魔族なのですから名乗りは必須です!! あなたも紅魔族ならポーズを決めて高らかに名乗りを――」

 

「めぐみん、無理強いは良くないわ! ねえ、お名前を教えて? 手品見せてあげるから!」

 

 アクアが清らかな女神様と言わんばかりの空気で、男の子に語り掛けると……。

 

「てじなだったら、はとだして! あゆむはあゆむっていうの!」

 

 手品のキーワードでぱっと明るくなった、あゆむ君という紅魔族の男の子だったが、とりあえず名前は判明した。紅魔族なのでもっとこう……おかしな、もとい個性的な名だとは思ったが、そうではないらしい。

 

「……最近の紅魔族はキラキラネームを止めたのか」

 

「みたいだな。けど紅魔族的には、こっちの子の方がキラキラネームかも知れない」

 

 カズマと俺が男の子の名前について、そんなのを呟くと。

 

「キラキラネームが何かは分かりませんが、喧嘩を売られているのは分かります! ちょっと表へ出て下さい!」

 

 めぐみんが俺とカズマに突っかかって来ていたが、それを冷静に対処してギルドの職員さん達に、迷子放送をお願いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――二時間経過。

 

「来ないな」

 

「おかしい……。この子の年で魔法を使えるはずは無いから、親御さんがいるとばかり思ってたが……」

 

 この案件はすぐに済むかと思われていたが、何故か親御さんが迎えに来ない。これは参ったと頭を抱えていると、

 

「まあ良いじゃねーか。子供4人が5人に増えただけだろ? お父さんなら面倒見りゃいい」

 

「あのなあ……。ダスト……お前は俺を何だと思ってるんだ!? その内孤児院とか出来ちゃうぞ?」

 

 親御さんが現れない以上、放って置くわけにも行かず、とりあえず屋敷に連れて行こうかという事で一致していた。しかし――

 

「おうガキ、男ならピーピー泣くなよ? 俺みてえに舐められねえ様にしねえと、女にだってモテないからな」

 

男の子に話し掛けていたダストだった。ヤツにしては優し気に語り掛けたつもりだったんだろうが、乱暴な言葉遣いには慣れていない様で、あゆむ君は見る見るうちに涙目になっていき……、

 

「うっ……、うわあああああん!?」

 

大泣きしてしまい、その泣き声が建物中に響き渡っていた。

 

「はあ……、あんた何やってんのよ? 子供にあんたみたいのがチンピラ口調で話したら怖いに決まってるでしょ!」

 

「まさか、あれだけで泣くとは思わねーだろ!? これだからガキってのは……」

 

 リーンに強い口調で注意されていたダストだったが、泣き止ませようにも一向に収まる気配は無い。

 

「大丈夫だから……ね? 違う手品見せてあげるから、そのリンゴ返して頂戴」

 

 アクアが頭を撫でながら、手品で出現させたリンゴを受取ろうとした時に違和感があった。それは……、

 

 リンゴに魔力を纏わせてる!? 興奮して魔力を放出したのか!? しかも……これって!? 

 

「アクア! そのリンゴを持つな! そのまま落とせ!」

 

「えっ!?」

 

 咄嗟にアクアに指示を出したが、あゆむ君から渡されそうになったリンゴは、アクアの掌に落ちようとしている。間に合うかどうかは賭けではあったが、カズマの方を向いて目を見ると、俺の考えが分かったようで右手を前に出していた。そのまま、

 

「『スティール』ッ!」

 

 スティールでそのリンゴがカズマの手に収まるその瞬間、カズマを庇うように倒れ込み、リンゴを手に持たない様に何とか床に落とすと。

 

――ドンッ!!

 

 リンゴは冒険者ギルドの床面の石畳をいとも簡単にへこませて、穴を開けていた。その光景に俺達だけでなく、居合わせた冒険者達、ギルドの職員たちもポカンとしている。あのままアクアが受け取っていたら、大怪我していたのは想像に難くない。

 

「な……何? リンゴで床に穴が開いちゃったわよ!?」

 

「何をしたのですか? これは……魔法?」

 

「どうしたというのだ……!? これは……一体!?」

 

 アクア達がありえない物を見るような視線で、リンゴによって破壊された床面をまじまじと見詰めていた。

 それ以上に俺は――

 

「『重力(グラビティ)』……」

 

 ある筈の無い現象が目の前で起こってしまった事に対して、ただ放心するしかなかった。




これを書くにあたって、外伝 かすみの『THE GEARS OF DESTINY』のプロローグ(112話)とエピローグ(123話)の一部修正を行っています。
ゆんゆんも主人公にアプローチしてるのを追加してます。
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