この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
シンっと静まりかえる冒険者ギルドだった。その原因は、地面に落ちたリンゴ……、ただそれだけなのだが、そのリンゴで石畳がへこみ、ヒビまで入っている。
ありえない光景だと放心している暇はない。この子に色々と問いただしたいが、それに関して今は後回しにしなければ。
取り合えず、この場を収めようと……、
「アクア……そのリンゴどっから出したんだ? リンゴの形した鉛の塊でも造ったりしたんじゃないのか?」
「えっ!? 私!? 普通のリンゴに決まってるじゃない! まさか……私のせいだって言うの!?」
「だって、アクアって自分の手品の種を知らないんだろ? 種が謎なら不可解な物が出て来ても不思議はない」
「そ、そんな……!? 私の宴会芸は完璧なはずよ……!?」
自分の宴会芸の不備のせいにされて愕然とするアクアだったが、こちらに視線を向けていた冒険者たちは、それなら仕方ないとばかりに苦笑しながら談笑を始めていた。
女神アクア様ごめんなさい。今度、高級なお酒を買って来て献上いたします。
心の中で謝罪しつつ、あゆむ君の方を向くと彼も何が起こったのか理解できていないようだった。実際に無意識にやってしまっているのなら、本人としては覚えが無いの一言で終わってしまう。
「……ユウ、お前……さっき『
「いつの間にか地獄耳スキルでも修得したか? 普段なら
カズマがしっかりと俺の呟きを覚えていたので、隠すのが困難になってしまったが、そもそも辻褄が合わないのだ。これはある筈の無い能力だから。
「ところで……この子はどうする? 迷子とはいえ、このまま放って置くわけには行くまい」
「こういうのって……警察の仕事じゃ……? まあ、こっちで預かるのも良いけど」
そこまで言ったところで、あゆむ君が不安そうにこちらを見詰め。
「おとうさん……、ぼく……わるいこじゃないよ? わるいこなら、ほうちょうをもって、オーガーのおめんをつけたひとが、”なくこはいねがー”って、いいながら、いえにくるっていってた」
そして、なぜこの子は日本の東北地方の伝統行事っぽい物を知っているのだ?
「そのですね、この子もユウに懐いていますし、一旦屋敷で預かるという事で良いのでは……?」
「お兄ちゃん……良いよね? お兄ちゃんがお仕事の間、わたしもちゃんと面倒見るから!」
「ロード、私からもお願いします! 何と言うか……放って置いてはいけないような……?」
めぐみん達も知らん振りは出来ないという事で、俺に対して懇願してきたが、確かに近くに置いていた方が都合の良い気がする。なので、ギルドの職員さんにお願いして屋敷に連れて行く事で落ち着いた。
屋敷にあゆむ君を連れて行くと、彼はきょろきょろ辺りを見回している。しばらくして俺の所に来て、
「おとうさん、おかあさんは?」
まるで俺がこの子の親を知っている様な素振りをしていた。どう受け答えするべきかを考えていると。
「あゆむ君、こっちで一緒に絵本読もう? わたしが読んであげる」
「なんのえほん? よんでー!」
みすてぃが出来て、お姉さんになったかすみだが、今度は弟が出来た様な物なのだろう。それを読んでいると――
「――こうして、世界は平和になりました。めでたしめでたし」
かすみが絵本を読み終わったらしい。すると、あゆむ君はおかしな顔をして、
「あのね? ゆうしゃがてっぽうみずで、かめんのあくまをあらいながして、ざんきをぜんぶなくしたり、めがみさまのちからで、ちょうぜつぱわーあっぷするおはなしは?」
「ええっと……? そんなのは……無いかな?」
「でもおとうさん……、おんなじえほんで、そのおはなしもしてた」
絵本読みながら適当に付け加えたのだろうか? この子のお父さんとやらはユーモア溢れる人物らしい。
「……どっかで聞いた話だな? 絵本の内容を改ざんするとか……」
「ユウもこめっこ相手に同じ事をしていましたね……」
「女神様の力で超絶パワーアップって……、もしかして私の力で……!?」
「いや……エリス様かもしれん。しかし……仮面の悪魔とはバニルか? 奴だけ念入りに倒しているとは……」
バニルを倒してるとか、中々気が合いそうな人だなあ。この子のお父さんは。
「おかあさんは……、おでかけ?」
「そうだな……。お仕事だと思うから、そのうち帰ってくると思うよ?」
少々不安そうな表情のあゆむ君ではあったが、俺の安心するようにした嘘と大人数で少しだけだが、その不安が和らいだらしい。
「おうとでおしごと? それとも、つよいもんすたーとうばつ?」
お母さんとやらは紅魔族でありながら王都でも仕事をしたり、それこそ紅魔族らしく強力なモンスターの討伐を請け負う事もあるらしい。里ではニートとかもいるというのに、冒険者として率先して危険なモンスターを駆除しているのかもしれない。
「ロード……さっきから、というかギルドからピリピリした空気を纏っています。何かありましたか?」
うまい事隠してたつもりだったが、隠しきれていなかったようだ。みすてぃだけではなくカズマ達も俺に疑いがあるらしく、怪訝な表情を浮かべていた。
「お前が……この子と初対面なのは分かる。嘘ついてるわけじゃないとは思うが……」
カズマが代表して俺に質問があるらしく、真剣な眼差しでこちらを向いていた。
「あのリンゴがおかしくなった魔法……か? お前はあれを知ってただろ? でなきゃ咄嗟に指示を出せるわけがない。違うか?」
言うべきか、言わざるべきか……。とはいえ考えが纏まらないうちに話したところで答えなんて出るわけはないのだが。
と、そんなのを考えていると、アクアが愕然としながら。
「ユ、ユウさん……さっき、私に濡れ衣を着せたの!? 私、何も悪い事してないわよね!?」
「悪い。事をあんまり混乱させたくなかったんだ。高級酒とそれに合うおつまみで許して欲しい」
「良いのよ! 私は女神様だもの! こんな子供が糾弾されるなんて見過ごせないわ!!」
チョロいな。とはいえ、悪い事しちまったので埋め合わせはちゃんとしないと。それよりも今は話の続きか。
「さて、さっきの質問の答えだけど、その魔法は直接見たのは初めてだ。けど……、俺にとっては馴染みがあって……な」
「見るのが初めてでも馴染みがあるとは意味が分かりません。矛盾だらけです!」
俺としても、あの子について、めぐみんにも問いただしたい事はある。
「なあ、めぐみんの知る限りで良いけど、紅魔族の中でさっきの講義で言った魔力変換資質を持ってる人ってのはいるのか?」
「先天的な方のですよね? そんなのは聞いた事がありません。それとどんな関係が?」
「多分、あの子は変換資質持ちだ。しかも通常の三種類以外の
それに目を見開いて驚きを隠しきれない面々だった。するとカズマから、
「だから、それが『
「それ以外にも、相手の重量を軽くして物理的な攻撃をいなしたり……なんてのも出来る。魔力弾に付加すれば、それでもって相手を引き寄せたりとかな」
「詳しいな。先程、
ダクネスの言う通りで通常なら他人のスキルはそこまで詳しくなるはずは無い。そりゃあ、相手が犯罪者で能力が分かっている場合は、対策したりもするが。
「その辺はちょっと事情があるんだけど……、もう……少なくとも現在では、ある筈の無いスキルなんだ。途絶えちまってるから」
いるはずの無い存在にある筈の無いスキル。それが存在するなんて、それこそ時間でも超えない限り無理――
――パリーン
あの子の存在について思考を巡らせていると、ガラスが勢い良く割れた様な音が頭の中に響き渡り、ある可能性が浮上してしまった。
「おい! 大丈夫か!? 真っ青だぞ!?」
「ちょっと休みなさい! ソファーで横になって良いから!」
俺があまりにも顔面蒼白になってしまっているので、カズマ達もマズい状態だと判断したらしく、俺に休むように強く言い放っていた。すると。
「おとうさん……ぐあいわるい?」
「ん……、大丈夫だ。早くお家に帰らないとな」
こんな子供に心配されるのは、いくらなんでもマズい。あゆむ君の頭を撫でながら安心させようとしていると、
「ユウ、あまり無茶はせずに、今日はもう休んだ方が良いと思います! 食事は部屋まで持って行きますから、もう寝て下さい!」
「そ、そうですね、めぐみんさん……、きょうはそうさせてください……」
「……? 何で目を逸らして、棒読みになっているのですか?」
これを思い出すのは俺だけで良い。あちらまで思い出すと面倒な事になる。というか、俺、記憶封鎖が解けやすくなってないか!? 2回やったから耐性でも付いたとか……。
「すまん……、明日から仕事だからもう休む。夕食はいらないよ。それと先に風呂入るから」
それだけ言って、入浴後にベッドの中に入ったが、どうも寝付けない。どうしたものかと思い悩んでいると、ドアをノックする音が聞こえたので、そちらへ向かうと、
「お兄ちゃん、この子が一緒の方が良いって」
「おとうさん……」
そこにはかすみと、彼女に連れられたあゆむ君の姿があった。一目で分かるくらいの不安げな表情を見せていた。
「良いよ。こっちおいで。かすみはどうする?」
「うん、わたしも一緒が良いかな」
子供達と一緒にベッドに入ったのだが、まだ不安そうな男の子だった。
「おかあさん……、あした、かえってくる?」
「もう少し、時間が掛かるかもしれないから、良い子で待ってような?」
この年なら特に母親がいないと寂しがるどころか、泣き出したっておかしくないはずだ。けど、そんなのをしない辺り、しっかりしている子なのかもしれない。
「あのね。てじなのみずいろのおねえちゃんが……、みくだりはんつきつけられそうになったら、わたしがどうにかしてあげるわ。っていってた。みくだりはんって……なに?」
どっちの水色のお姉さんかは知らないが、もしこの件が終わって、それでも覚えてたらハリセンで引っ叩く! 子供に何教えてんだ、あの駄女神。
「お父さんとお母さんはよくケンカしてた?」
「ううん、いっつもやさしいよ……」
「だったら大丈夫。三行半とかはないから。そういうのは、あんまり覚えないでね?」
というか、俺はともかく、アクアには自然な感じで懐いていたから知り合いなのは何となく分かった。他はある程度外見が変わってて、初対面に近いはずだけど、アクアにはそれは当てはまらない。
……ちょっと待て。俺を親って普通に呼んだって事は……、もしかして、俺……外見あまり変わらない?
少しばかり、気が重くなってしまったが、俺と一緒にいて安心したのか、すうすうと寝息を立てて子供達が眠ってしまい、俺も寝顔を見ていてリラックスしてしまったのか、いつの間にか眠ってしまっていた。
これは……本局? けど……抱っこされてる……。俺……こんなちっさかったけ?
「失礼します」
「ああ、入りなさい」
どっかの執務室のドアだ。これって……お偉いさんが使う部屋の筈……。
「お久しぶりです、提督。それにロッテとアリアも」
「よう! あのチビ助がちっこいの連れて来るとはな。時が経つのは早いもんだ」
「元気そうで何より。奥さんは?」
「妻は別件で外せなくて……」
困ったように俺を抱っこしている男性が答えていた。するとロッテから、
「高ランク魔導師の悩み所だな。こき使わせちまってる、こっちが言う事でもないか……」
「いえ……、それでも休日なら普通に顔を合わせますから。っと、ほら挨拶は?」
抱っこから降ろされて、髭のおじさんと猫の耳としっぽが生えてる二人のお姉さんに向かって頭を下げながら、
「こんにちは! ねこのおねえさんは……、みみがついたサーカスのひと?」
「こ、こらっ!? この人達は――」
直感的にそう言ってしまったが、なにやらマズい発言だったらしく、男の人に注意されてしまった。
「まあまあ、管理外世界じゃ使い魔なんて見んだろ。子供らしくて良いじゃないか」
髪が長い方のお姉さんから、気にするなといった発言が飛び出していたが、今度は髪が短い方のお姉さんが、俺と目線を合わせる様にじゃがみ込みながら。
「サーカスのお姉ちゃんが遊んでやろうか? 空飛んでみるか、ん?」
「そらとべるの? ぶらんこでちゅうがえり?」
「あはは、そんなんじゃねーぞ。ジェットコースターみたいに振り回せるけどな」
俺を抱き上げてグルグル回っているお姉さんだったが、その他の人達はというと……、
「……この子の検査の結果はどうだったかね?」
「ええ……、魔力に関しては、それなりに……。ですが……」
「君の
頷いておじさんの問いに肯定を示してはいたが、
「私もだが、管理外世界の住人の様に、本来リンカーコアを持たない種へと、それが現れる場合、何らかの特異性がある場合が多い。君の
「ですが……、むしろ良かったと思っています。特殊な資質を持てば、おかしな連中に狙われる可能性もありますから。それに――」
「
「ええ……、危険な仕事ではありますし、下手に能力を受け継ぐと関わらざるを得なくなる場合もありますから……」
「魔導師としてはともかく、親としては安心と言ったところか……。知らないままなら、その方が良いかもしれんな……」
難しい顔をして話をしている父さんとグレアムおじさんだった。
そこまでで、ぼんやりとしながら目を開けると、自分の部屋の天井が視界に入っていた。そのまま考え事をしてしまい。
「俺……この子と同じくらいの時に……、本局に行った事があったのか……?」
あんなのはっきりと覚えてる方がおかしい。横で寝てる男の子の能力を目の当たりにして、思い出しちまったのか……?
「資質を受け継がなかった方が……安心……か」
ふと、眠っている男の子の頭を撫でながら呟いてしまった。昔は事実を知った後で、欲しくて欲しくて堪らなかった物だ。何で俺には無いんだろうなと……思い悩んだ時期だってある。それこそ食い入る様に資料を漁って魅入っていた事もあった。
魔力変換資質は遺伝による継承が大半。そして、その中でも特殊な物と言える、あゆむ君の変換資質が証明している物というのは……。つまり、この子は俺の――
それよりも、一番の問題はあの連中だ。前の時も無関係な人間引っ張ってきていたが、あいつらの時間移動とやらは、いちいち他人を巻き込まないと出来ないもんか。本当に良い迷惑だ。こっちの状況に気付いて、慌てながら来たりしたらザッパーにでも落書きしてやる。
とはいえ、連中が来るかどうかなんて、はっきり言えば賭けになる。こっちで出来る事はやっておかないといけない。だが、今日から仕事だ。俺はこちらで調べ物なんてのは出来ない。ならば、出来そうなのに頼む以外に手は無いか。
その考えに至り、かすみ達が起きない様に音を立てずにとある場所へと向かっていた。
ここはアクセルの街中に立っているエリス教会だ。この国の国教だけあり、それともお布施もそれなりに集まるのか、アクシズ教会よりは裕福な感じがする。アルカンレティアはそうでもないが、そこから離れると整備が行き届かなくなるのだろうか……。
とりあえず、御神体のエリス様の像の前に跪き、心の中で祈りを捧げていた。
――女神エリス様……、どうかこの祈りを聞き届けて下さい。もし知らない振りするようなら、パッド入れる前の肖像画をアクシズ教会の前に持って行って、”エリスの胸はパッド入り。証拠はこれです。”……と、高らかに暴露いたします。それが嫌なら――
「キミって人は何を祈ってるのさ!?」
クリスさん、エリス教会のドアを勢いよくバタンと開けて、俺へと詰め寄っていた。
「おや? クリスおはよう。朝から元気だな。けど大声なんて近所迷惑になるよ?」
「誰のせいだと思ってるの? 白々しくしないで欲しいなあ……!」
「すまん、火急だったんで、こんな方法を取らせてもらった。反省してます!」
今回に関しては取れる手段を全て使わなければならないかもしれないので、こうしてクリスさんを呼び出したという訳だ。つーか、ちゃんと祈り聞いてるのか。流石女神様。
俺としても別に怒らせるためだけに呼んだわけではないので、事情を説明すると……。
「キミも大概、厄介事に巻き込まれるね? 時間移動の神器を使わせて欲しいとか……。確かにどこかにあるとは思うけど、見つけたって本来の持ち主みたいに使えないよ?」
「そこは知人に連絡取りたいだけです。そこら辺は神様パワーとか裏技的なのでどうにかならないか? 最悪、そいつらに手紙を届けられれば良いから」
「人の移動はともかく、その位だったら何とかなるかもね。アクア先輩がいるから……」
カズマの蘇生の件で天界規定とやらを無視しまくっているから、それみたいな事をするんだろうか?
「けど良いの、助手君達には話さないで? みんな心配すると思うけど……」
「カズマは……というか……、アクア以外になら話しても良い気がする。アクアだと……、ここだけの話って言って普通に言いふらしそうだ」
目を瞑ってその場面を想像していたクリスだったが、あまりにもまざまざとその光景を想像できたらしく、脂汗をかいていた。すると、後ろから聞き慣れた声がして……。
「俺になら話して良いってのは、何だ?」
「……カズマさん、潜伏に磨きが掛かってませんか? というか、この朝早くに教会とか……どうした?」
「朝が早い……じゃくて、朝帰りだっただけだ。そしたらクリスが慌てて教会に入って行くもんだから、気になったんだ」
「そうか……実はあゆむ君の件なんだが……、お前、時間移動は覚えてるか? 経験はしてるはずだけど……。 アクアを海に落としたり、キリエさんと追跡戦したり……」
「お前……何言って……!? ああっ!?」
どうやらきっかけがあったので思い出したらしい。これなら説明しやすいと、俺の推測を聞かせると納得してくれた様だった。
「へえ? あの子がな……。お前がそうなるってのも……意外でもないか」
「済まない。力を貸してくれないか? 俺としてはあの子を元の場所に返してやりたいから」
自分に出来るのは頭を深々と下げて懇願するだけ。すると、二人は。
「後でシュワシュワ奢って! 盗賊団再結成だね!」
「俺は、クリムゾンビアだな。大仕事だから一杯で済むと思うなよ? しっかし、お前はどれだけ運が無いんだ? お前じゃなくて、あの子の方にスキルが継承されるとか……」
カズマがにやけながらからかっては来たが、頼み事は受けてくれるらしい。本当に感謝するしかない。
これで一歩は踏み出せたと思っていた矢先、少しばかり開いていた教会のドアが大きく開かれるような音が聞こえたので、そちらを向くと。
「ああ、君達、済まないが……田舎から出てきたばかりでね。空飛ぶキャベツとやらは、この街で見られるのかな?」
オールバックにメガネをかけて、それなりに背の高い紫がかった髪の男が、そんな質問を投げかけていた。
「キャベツはもう少ししないと飛んできませんよ? 時期が早かったかもしれないですね」
その答えに、そうかと残念そうな顔をした男だったが、俺の方を見ると、
「少しばかり立ち聞きしてしまったが……、君は才能を受け継がなかったと嘆いた事がある様だね」
こちらとしてはあまり聞いて欲しくは無かった事だが、あちらさんは真剣な表情でもって。
「君が望んだ物は手に入らなかったかもしれないが、その代わり、君には様々な選択肢が与えられたという事でもある。その才を持てば、それを使うしかなかったかもしれない。しかし持たなかったが故に、君は多様性を手に入れたとも言える」
何が言いたいんだ、この人は?
「生命ならではの揺らぎとでも言おうか。ただの道具や機械では出せない輝きだ。だからこそ、生命は素晴らしい。そうは思わないか?」
「これはこれで悪い事ではない……と?」
「ああ、まあ聞き流してくれたまえ。私の持論を語ったまでさ」
そこまで言うとキャベツ見学の観光客と思しき男は教会を後にした。何と言うか……含蓄のある言葉だったが……、偉い学者さんだったりするのだろうか?
ともあれ、神器の探索については次の週末までにカズマ達が行ってくれるので、俺は出来るだけ仕事を片付けて、出来れば有給でも取れれば位の勢いで業務を捌いていたのだった。
ちょっとだけ、主人公の過去話が出てましたけど、これはぶっちゃけ後付けです。
とはいえ、前回と89話で『両親の資質を継がなかった』といった記載がありますので、そこから考えてます。
最後の方で出た人は……、何となく分かると思います。ああいう人なので、普通に出歩いてそうですし。