この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
アクアをどうにか泣き止ませ、アクシズ教団本部へと向かっていた俺達だった。
アクシズ教――女神アクアを御神体として、その教えを忠実に守りながら生活する、自由でフリーダムで遠慮を知らない極端に言えば犯罪さえしなければ何をしても良い。……とまでなっている宗教だ。そのアグレッシブさから、魔王軍にさえ恐れられていた。
そんなアクシズ教団本部内へと到着してすぐさま……。
「おおっ……! 皆様もお元気そうですな。何でもその絵に描かれた小手と同じ物をお探しだとか」
教団トップのアークプリーストであるゼスタさんがにこやかに出迎えてくれていた。一方で……、
「私……お祖母ちゃんじゃないわ……。女神様で水のお姉さんなんだからあああああ!!」
最年長であるはずのアクアさんは、いまだに大声で泣き叫んでいる。少しばかりゼスタさんも困った表情を覗かせていたので事情を説明すると。
「ふむ……。アクア様、世の中には『ロリババァ』といった属性があると聞きます。ロリっ娘とご年配という相反する二つを融合させた稀有なる存在です。アクア様のお人柄、そして我々を長い間見守って来られたアクア様でなければ成しえない貴重な物ですから、どうか自信をお持ちになってください。もっとも私はロリっ娘でもババァでもいける口ですが」
ゼスタさんの個人的な趣味はともかくとして、そう聞くとアクアって実は凄い人なんじゃなかろうかと思ってしまうのはどうしてだ。確かに凄まじい能力を誇っているのだが。
こんなのがポンっと出てくる辺り、ゼスタさんも聖職者ではあるのだろうなと感じてしまった。方向性はアレだけど。
こんなやりとりが数分続いた後で、本題に入っていた。その他には見慣れない男の子がいたのも気にはなっていたようだが、あちらから神器の目撃情報を聞くのが最優先という事で、それへと耳を傾けていた。
「そう……あれは、信者の一人がご執心な女性を見たいと仰いまして、それに同行した時でした」
どうやら神器を持っているのは女性らしい。小手をわざわざ持っているという事は、女性の冒険者だろうか?
「神器だと知らないのであれば、代わりの装備を用意して譲って貰うのも良いかも知れませんね。神器は所有者以外では大した力は出せませんので」
「それも一つの手ではあるか。交渉次第だが、この街や紅魔の里の鍛冶屋で調達すれば、そこまで難しくはあるまい」
めぐみんとダクネスも、その女性は冒険者だと推測したらしく、神器と装備を交換してもらうといった案を出していた。
「それが良いかもね。悪徳貴族とかなら、屋敷にでも忍び込んで……って所だったけど」
クリスの場合は、それで済まずに適当に金を盗んでくるので困りものだ。
「その女性の特徴は?」
まずは持ち主の女性に会いに行くのが最優先。その為に、神器の持ち主についての情報を訪ねると……、
「そうですな……。背は高く、修羅場を潜り抜けて来たと思わせる全身に纏った筋肉が一番目立ちます」
聞くからに、おっかなそうな女性だ。ダクネスだって筋肉はかなりついている方だが、服を着ていればそこまで目立つ程ではない。
「目つきは鋭く、ともすれば獰猛とも言える程の気迫が感じられますな」
「戦士系の冒険者……みたいですね? 女性でそこまでの……、しかも戦士系なら分かりやすいかも知れないです」
「ほう、高名な女騎士やソードマスターかもしれないね。その方にご執心な男性とやらは大変かもしれない」
ゆんゆんとあるえもゼスタさんから語られる特徴を自分の頭の中で繋ぎ合わせて、人物像を想像している。
「だというのに、耳にはリボンを付けていたりと、年頃の女性らしくお洒落にも気を使っている様で、先ほどの筋肉に負けない程のバストも特徴です」
歴戦の女戦士にして、スタイル抜群のお姉さんか……。神器の件を抜きにしても一度はお会いして、冒険者として交流してみるのも良いかも知れない。
「そして名前はオフィーリアという――」
結構可愛らしい名前だ。もしかしたらダクネスの様に名前で呼べば恥ずかしがるかもしれないので、交渉の際には注意が必要かもしれない。
「オフィーリアさんか……。少しばかり怖そうだが、何とかなりそうで良かったな」
カズマも安心したように俺の肩をポンと叩きながら微笑を浮かべていたが、ゼスタさんから紡がれた言葉は。
「ピチピチのオークです」
その瞬間、アクシズ教団の応接室は静寂に包まれていた。”時が止る”……、この表現が今ほど相応しい場面は存在しないとばかりの雰囲気となっていた。
「あの……、その女性は人間ではなく、オークですか……? でしたら、それにご執心という男性は……?」
「勿論、熱心なオーク愛好家ですが。出来ればオークに囲まれたいとも仰っていましたが、もし捕まり命が尽きてしまえば、この先彼女らを見守る事も出来ないと涙を流しながら悔しがるほどでして……」
アクシズ教は犯罪でない限り全てが許される。とはいえ、これは……想定外過ぎる。それはこの場の全員、特に俺とカズマは、シルビアの時に紅魔の里に向かう途中のヤバい目に遭いそうになったのを思い出してしまった。
俺達二人が即座に目を合わせて、
「カズマ……」
「ユウ……」
お互いが真っ直ぐに相手を見据えている。双方、静な表情で、フッ……っと笑い、
「「あとは任せた!」」
示し合わせたように全く同じ言葉でハモッてしまっていた。再び応接室は沈黙が支配したが、数秒後カズマがイラつきながら。
「お前ふざけんな! こないだ……、”久々に本気出す。”……キリってしてただろうが! お前だったらオークなんて楽勝だろ! 中級魔法だけでも、殲滅一歩手前までやってただろうがあああ!!」
「前の時にオーク一匹
掴みかかるカズマさんに冷静になる様に促しながらも、更に説明を続ける。
「それにだ……。殲滅戦したところで、あの手の輩は一匹逃がしてもその内、集落再生しそうだし……。下手にそんなのになったら、周辺の街から男性が誘拐されるとかの危険性だってあるかもしれない」
繁殖力高いですしね、オークは。どっか別の場所に移るだけならまだしも、蟻さんみたいに勢力拡大しちゃったらそれこそ大惨事だ。彼女らには今の場所で平和に暮らしてもらうのが良いだろう。
「だから! お前が、集落ごとどうにかすれば良いだろうが!! その位の必殺技とかあるだろ!?」
「そんな無益な殺生なんて……、ミッド式は”傷付けずに制圧する力”だぞ? 必ず相手を殺す技なんて、恐ろしい物持ってるわけないだろう?」
非殺傷設定解除すれば良いだけだけどね! それにしたって、無意味な争いなんてのはする気は更々ない。
そんないい加減な口上でのらりくらりと躱そうとしてた。すると、
――チリーン。チリーン。
どっかで聞き覚えのあるベルの音が控えめに聞こえていた。それに怪訝な表情をしたのは……。
「……お兄ちゃん、嘘ついた。わたしのデバイスのウソ発見器機能が反応してる……」
かすみさんがジト目で俺の方を疑っていたが、今度はカズマから。
「やっぱり必殺技あるんじゃねーか!? どんなのだ! それでオークを倒せば良いだろうが!!」
「カズマさん、俺にとっては若き日の苦い思い出みたいな技を使わせようなんて……。なんせ怖いんだよ? やってる事は小学生の実験の延長なのに使用条件が面倒臭すぎるし、計算とか結構大変だし!!」
そんな一見下らないやりとりをしている俺達以外は……、
「男同士の醜い争いが勃発していますね? 前回の件がありますので、仕方ないと言えば仕方ないですが……」
「本当に、雄のオークが絶滅してしまったのが悔やまれる……。そうでなければ、私が囮になって集落に行くように志願するのだが……」
溜息をついて呆れたように俺達の様子を見守るめぐみんとダクネスに、
「あゆむ君は見ちゃ駄目だからね? ユウさんは極たまーにダメな部分が出ることがあるから、マネしないで!」
「おとうさんは、ぼくがおーくさんのちかくにいくと、たべられるからいっちゃだめっていってた」
「この子の本当の父親の方だろうか? 注意ともとれるが、どことなくセクハラの様な表現にも聞こえる気が……。しかし……整体師さんの必殺技か。里で見せたのとは、また違う物かな?」
ゆんゆんは子供の教育に悪いと、俺らを見せない様にして、あるえは腕を組みながら、あゆむ君の父親についての考察をしている。
「ところで……みすてぃさん……。あなたはアクア様によく似ていますが、ロリアクア様でしょうか? 出来れば人間くらいの大きさであれば文句はないのですが……」
「私……まだ燃費が悪くて、大きくなると疲れてしまうんです……。ロードとの融合もまだ不完全ですし……」
オークの話題に加わらずにみすてぃが気になっていたゼスタさんがそれを聞くと、衝撃を受けた様な表情をし。
「ユウさんが……ロリアクア様と……合体!? 何と羨まし……ではなく、けしからん響きでしょうか!? 出来れば私とも合体を……!」
目を血走らせながら、みすてぃへと詰め寄っていた。
そんな状態で混沌となってしまっていたアクシズ教団本部応接室だったが、このままでは埒が明かないと感じ取ってしまった一人の少女から。
「ええっと……。今日はとりあえず休まない? オークの集落ならあたしが忍び込んでみても良いし、情報収集で結構疲れたから……」
「クリス、忍び込むなら夜の方が良くないか? その方が潜伏はしやすいだろ?」
「夜は夜で……、大騒動になりそうだし……ね?」
遠慮がちに俺とアクアの方を向いたクリスだったが、何がマズいのか分からなかった。
「ああ……。このパーティーにはアンデッドに
カズマの言う通り、アクアと俺はアンデッドを集めやすい体質だ。俺の方は完全にとばっちりの様な気もしなくもないが、夜中にアンデッドと戦い、他のモンスターも呼び寄せる可能性だってある。なので、ここはアルカンレティアに一泊して、日が昇ったらオークの集落へと向かう事で意見がまとまった。
ゼスタさんのご厚意で教団に泊まる事にはなったが、この街は水と温泉の都。即ち、温泉に入らなければもったいない。幸い、アクシズ教団の秘湯があるので、そちらに入らせて貰う事になったのだが……。
「いやはや、お客様とご一緒というのも悪くはありませんな」
「お世話になってばかりですいません……。一泊させていただき、温泉まで……」
「前の時も良かったけど、やっぱり温泉はいいな~」
男湯では俺とカズマ、ゼスタさんが温泉に浸かりながら他愛のない世間話をしていた。三人で温泉に入るのは、ほぼ貸し切りみたいな物なので、ゆったりとした気分になっていると。
「コラッ! 湯船でお湯を飛ばしては駄目だ! 気持ちは分からなくはないが……」
「ダクネスお姉ちゃん、ごめんなさい……。あゆむ君がいたからつい……」
「おねえちゃん、ごめんなさい」
どうやらかすみとあゆむ君が温泉で遊んでいたのをダクネスに注意されたらしい。シルフィーナちゃんの面倒を見ていた時期もあるらしいので、躾には結構厳しいのかもしれない。
「ダクネスもそんなに怒る物じゃないわ。カスミだって、たまに孤児院に遊びに行ってるけど、近くに小さい子がいて嬉しいのよ」
「友人が増えるのは悪い事ではありませんし、やりすぎなら私からも注意しますから、これくらいは良いでしょう?」
「今度は私と水遊びしてみる? えいっ!」
バシャ……っといった音と共に、うわーとか、とりゃーとか言った声も聞こえていたが、
「ええとね……。おとうさんは、”くりえいとうぉーたーみずでっぽう”やってた。おかあさんは、しょきゅうまほうつかえないから、できないって」
あゆむ君のセリフから察するに、『クリエイト・ウォーター水鉄砲』だろう。指先から水を出せば確かにそれっぽく見える。これは良い事を聞いたので、
「『クリエイト・ウォーター』ッ!」
試しに男湯と女湯を隔てている壁に向かって、右手を銃の様にしてクリエイトウォーターを放つと、ビュンといった音を立てて、壁に人差し指が通る位の穴が開いてしまった。いつもの癖で、良いだけ魔力圧縮して撃ってしまったが、それがいけなかったようだ。今度はやさしーくやってみなければ。
女湯の面々は水遊びしてる音が大きくて、穴が開いたのに気が付かなかったらしい。男湯では静かに、そして確実に、その穴が開いてしまった壁へと向かう二人の漢がいた。俺は二人の前に立ちはだかり。
「……させん。悪いがそれはさせるわけにはいかない。穴を開けちまったまでは不可抗力だが、これ以上は許さない!」
「ユウ、良いか? お前は何もしていない。この温泉は最初から何故か男女の仕切り板には穴が開いていた。俺はそれを偶然見つけてしまっただけだ。……だろ?」
「ふむ。アクシズ教団最高責任者として、事の詳細を把握しなければなりませんな。どの程度で補修可能かをしっかりと見極めなければ! それこそ目を凝らさなければならないでしょう?」
適当に理由つけて、女湯を覗こうとする冒険者と聖職者が出来上がっている。
「温泉に来たからには、それなりのイベントがひつよおおおおお!!?」
「あゆむ君からは本当に良い事を聞いたなあ……。『クリエイト・ウォーター水鉄砲』……、なかなか使えるじゃあないか」
人差し指から放たれた水弾は、カズマの頬を掠めて後ろの石に小さな穴を開けていた。それで退いてくれたら楽だったのだが、そうもいかない。この先には進ませない様に、威嚇で水弾を数発撃っていると、
「そうはいきません!『リフレクト』ッ!」
ゼスタさん、魔法を反射する光の壁を展開して、俺の攻撃を真っ向から防いでいました。
「あんた本当に聖職者か!? たかが覗きの為にそこまでするのか!?」
「アクシズ教の教義には、”汝、何かの事で悩むなら、今を楽しくいきなさい。楽な方へと流されなさい。自分を抑えず、本能のおもむくままに進みなさい。”……と、あります。私はそれに従ったまでです」
終始、真面目な顔で力説するゼスタさんだったが、これを真顔で言える辺り、やはりアクシズ教徒は怖ろしい。
「ユウ、お前だって気にならないわけじゃないんだろ? あの子は女湯に男の子一人でハーレム状態だ。羨ましいとは思わないか? ちょっとくらい俺達におこぼれがあったって
「子供に対して、そんなのを言ってる方がよっぽど恥ずかしいと思うが? 俺の後ろに行かせる気は無いから諦めろ! ……これならどうだ?」
そうして二丁拳銃の様に両手の人差し指をカズマ達に向けると……。
「ゼスタさん、『リフレクト』を教えてくれないか? ユウもあれで甘いから、俺らに怪我をさせようとは考えないはず。つまり……」
「共同戦線の強行突破で、我々は楽園へと導かれる……と?」
力強く頷くカズマだったが、俺に対して語り掛ける様に。
「どうだ? 今なら全てが丸く収まる。お前だってこっち側に来れば良い。悪い取引じゃない筈だ」
「確かに悪くはない……が、女湯見られるのは、すっげえムカつく!」
「ああっ!? お前ら、今はそんな関係じゃないだろうが! せめてはっきりしてから言いやがれ! このヘタレが!!」
もう論理的な説得ではなく、感情でもって言い争いをしている俺とカズマだった。説得は苦手分野ではないはずなのに、ここまで憤ってしまうのは自分でもおかしいとは思う。けど、これは譲ってはいけない気がするのだ。
ここまで来たら、もう仕方がない。
「みんな! 気を付けろ!! 女湯覗くヤツがいるからな!!」
「俺達は無実だ! 魔法で仕切り板に穴を開けたのはユウだからな!! 俺達は濡れ衣を着せられそうになってるんだ!!」
俺が女湯のみんなに注意を促そうとしていると、カズマがすかさず、微妙な事実のみを語って全員を惑わそうとしている。
「何言ってやがる!? 俺に何の恨みがあるってんだ!」
「恨みはないが、こうなったら一蓮托生だ。悪いが付き合ってもらうぞ?」
こんな感じで言い争いをしていると、ゼスタさんが何やら気が付いたらしく。
「お二人共、女湯の方から声が聞こえてきませんな? もう上がってしまったのではないですか?」
確かに男湯でこれだけ騒いでいたら、いくらなんでもバレバレだ。だというのに、あちらからの反応は何もない。これはおそらく、ゼスタさんの言う通りなのかもしれない。
「ふっ……。残念だったな? 覗きは阻止できたみたいだから、諦めろ」
「お前だって男だろ!? アクセルのあの店知らない癖して、どうやって発散してやがる!」
「あの店ってなんだよ!? アクセルの男どもが言いたくなさそうだから、敢えて聞いて無いだけだ!」
たまーに聞く”あの店”。俺の周りで話題に上がりそうになると、みんなしてそそくさといなくなってしまうのだ。こんな言い争いをしていて、明日に風邪を引いたら大変という事で、黙って湯船に浸かっていると。
「やはり誰もいませんな。皆さんも寝室の方へと行かれたのでしょう」
今が好機とばかりに覗き穴、もとい仕切り板の穴を覗き込んでいるゼスタさんだった。まあ、誰もいないなら問題は無いという事で見逃していたのだが……。
「女湯ってどうなってるんだ? ……男湯とあんまり変わらないな?」
カズマまで覗き込み、女湯をまじまじと観察している始末。
「二人共その辺で――」
何だかんだで疲れてしまったので、もう温泉から出ようとしたその時、
「ゼスタさん、あれは何だ!?」
「どれどれ……!? これは……!?」
二人が何かを見つけてしまったらしい。声を荒げて女湯の方をじっと見ながら慌てている。
「どうした? 誰かのぼせて倒れてるのか!?」
女湯で事件でも起こってしまたかと思い、俺もあちらを覗き込むと。
「……何も無いじゃないか。どういうつもりだ?」
「さっきの腹いせに決まってるだろ? これでお前も共犯者だ。三人一緒に女湯を覗いたっていう事実は出来た!」
つまりはちょっとしたドッキリというわけか。その程度ならどうという事は無いと思っていた。しかし……、
「男三人で何をやっているのかしら?」
「ロード! 犯罪ですよ!!」
アクアと、ある意味彼女の孫娘であるそっくりさんからの苦言が聞こえて来たかと思いきや。
「……アクシズ教徒とカズマはともかく、ユウまでどういうつもりですか?」
「隣が騒がしいと思い、念のために確認してみればこれか……」
めぐみんとダクネスからの視線がかなり痛い。先程までは誰もいなかったはずの女湯の仕切り板の上から顔だけ出した女性達全員が俺達を責めるような態度を見せていた。
「……さっきまで、上にも姿が無かったけど?」
「それはね……、あたしの潜伏と……」
「私の光の屈折魔法で簡単に察知できない様させてもらったからね」
クリスとあるえが順序立てて説明していたが、これは最初に領主の屋敷に忍び込んだ時に使った手だ。このコンボをクリスに提案したのは失敗だったかもしれない。
「それとみんなの浮遊は、わたしね!」
「わーい! たかーい!」
「駄目だよ、暴れたら! カスミちゃんは魔法上手だけど、板に頭をぶつけたりすると危ないからね?」
全員の浮遊制御は、かすみ担当。あゆむ君は意外に高い所が好きなのかはしゃいでおり、ゆんゆんは抱っこしながら興奮している彼に注意を促している。
俺とカズマは顔を青くしてしまっていたが、ゼスタさんのみどことなく嬉しそうな感じだ。何と言うか……ソワソワしている様な気がする。
「この場の女性全員からの蔑みの視線とは……素晴らしいご褒美です!!」
……さいですか。では、存分にお楽しみください。
「……色々誤解しているようだが、不幸な偶然が重なっただけだ。かすみのデバイスの嘘発見機能を使えば、真偽なんてすぐに分かる」
「でもね? 嘘を言っていないのと、全部を喋らないのは違うんでしょ?」
かすみさん、流石ですね。まだ数回しか反応したことないって言ってたけど、そこまで分かっていたとは。これでは適当にはぐらかす事は、かすみの知能から考えて不可能に近い。
「……ユウ、ここは喜んでいるゼスタさんを囮にして逃げるか? それとも昼間に言ってた必殺技ってので、どうにかならないか?」
「それだけど……、アレって雨の日とか夜とかは出来ないんだ。そもそも非殺傷設定できないから、マジモンの必殺技なんだよ。あいつらに使って良いもんじゃない」
「……何でそんなもの持ってるんだ、お前は!?」
「まあ、話せばそこそこ長い――」
この場をどうにか切り抜けようと、カズマと相談をしている最中に、シュタッと格好良く、かすみが男湯に降り立っていた。
「お兄ちゃん悲しいよ? 男湯にいきなり入って来るような、そんなはしたない子に育ててるつもりは無いんだが」
「だって、お兄ちゃんとお風呂なんて何回も入ってるもん! 恥ずかしくもなんともないよ?」
そういやそうでした。かすみからしたら、今更ってところだろう。
「よ、幼女が……男湯に!? アクア様、感謝いたします!!」
ゼスタさんは目隠しでもしといた方が良いだろうか? バスタオル一枚を体に巻いているかすみを見て、はあはあと息を荒げているのは錯覚じゃないはずだ。
「お願いですから、うちの義妹を変な目で見ないで――」
「『パラライズ』ッ!」
ゼスタさんに気を取られている隙に、麻痺の魔法で俺達は行動不能にされてしまう。ゼスタさんならどうにか解呪できるかもと
「よ、ようじょに……、束縛され……るとは……、今日は……何と良き……日でしょうか……」
これを楽しめるのだから、ゼスタさん、マジでアクシズ教徒の中のアクシズ教徒です。最高司祭は伊達では無いという事か……。
「さーて、覚悟してもらいましょうか」
「どうせなら……こう、野獣の様な目で舐め回すように見るべきだったな。お前には無理な注文かも知れんが」
「申し開きによっては、明日は爆裂の的になってもらいますので、そのつもりでいて下さい」
「あゆむ君は私とお部屋に行ってようね? 子供は知らなくて良い事だから」
いつの間にか普段着に着替えて男湯に来ていた女性達からの、俺ら三人のお説教タイムは夜遅くまで続いていたのでした。
バニルさんが神器の在処について詳細を言いたがらなかったのは、オークが絡んでいるからですね。
今頃、見通す力を使って様子を見て、大笑いしているかもしれません。