この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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ドキッ!? ハイブリッドだらけのオーク戦

 アクシズ教団本部に一泊した次の日の朝。オークの集落に向かう事になった俺達だったが、不意にゼスタさんに呼び止められ。

 

「どうですかな? よろしければ私も御一緒致しますが?」

 

 いきなり何を言い出すかと思えば、ゼスタさんが自分も付いて行くとにこやかに宣言していた。

 

「昨日、共にお説教を受けた盟友に協力というのも悪くないと思いまして」

 

 俺とカズマは女性達の攻勢で疲れ果ててしまったというのに、ゼスタさんだけは一人楽しそうにしていた。いっそ放って置こうかといった案も出てはいたが、それはそれで放置プレイで悪くないらしく、彼に精神的なダメージを与える方法を誰も思いつかずに終わってしまっていた。

 

「最高責任者が不在だと色々と困るんじゃ……」

 

「それは大丈夫でしょう。アクシズ教団の面々は優秀な人間ばかりですので、2、3日不在になったところで問題はありません。私としてはめぐみんさん達やかすみさん、ロリアクア様とご一緒したいだけですから」

 

 本音はそっちかよ!

 

 変態なおっさんだが、責任者がいなくなるのはマズいかも……。と考えてしまったのだが、めぐみんが俺の袖を引っ張り。

 

「私が紅魔の里を出たばかりの頃、この方が警察に捕まった事があったのです……」

 

 前に少しだけ聞いた事がある。爆裂魔法を修得し、ウォルバクさんを探すために旅に出たは良い物の、アルカンレティアではレベル制限でクエストは受けられず、バイトは全てクビになっためぐみんはアクシズ教団の世話になっていたらしい。

 

「その時の教団の面々の反応は……、別にいなくても困らない……でした。ついには次期最高責任者を決定する選挙活動まで始めてしまい――」

 

 その後、ゼスタさんは無事に疑いが晴れて帰宅している。それは良いとして、要はこちらに同行しても誰も不利益を被らない、ということは分かった。しかし、この人が一緒だと疲れそうなのでやんわりと断ろうとしていると。

 

「ふむ……。私はオフィーリアさんの顔を見ていますので、同行した方が良いと思ったのですが?」

 

「……オークの見分け……出来るんですか?」

 

「それはもう、一人一人違う顔をしておりますからな。当然でしょう?」

 

 驚愕の事実を知ってしまった様な気がする。さも当たり前のように言っているが、俺では不可能だ。

 

(カズマ……、オークの違いって分かるか?)

 

(傷があるとか、服装が違うとかなら何とか……。顔の違いなんて全く分からない)

 

 小声でカズマにも確認を取ってみたが、やはり俺と同じであるらしい。ハンスの時にオークもオーガーもいけると言っていたのは、真実なのだろうと二人してありえないものを見る眼差しとなっていた。

 

「良いと思うよ。あたしや助手君の潜伏と光屈折の眼晦ましをしてる時に、一緒に来てもらって確認して貰うのも手だしね」

 

 クリスも同行してもらうのは賛成のようだ。アクシズ教徒とエリス教徒でおかしな事態にならなければいいが……。

 

「うちの子に限って心配は要らないわ! 私には劣るけど、一流のアークプリーストなんだから、ありがたく一緒に来てもらいましょう!」

 

 アクアもアクシズ教徒の同行者が増えるのは賛成の様で、というか、ゼスタさんは付いて行きたくて今にも飛び出しそうな感じだ。教団内の信者たちにも留守にすると言いふらしている。

 

「で、では……、申し訳ありませんが、よろしくお願いします……」

 

 個人的には、これ以上の同行者を増やすつもりなんて無かったんだが、ゼスタさんの説得に時間が掛かりすぎるといった懸念の方が強いと思われたので、あくまで時間短縮のために同行をお願いした。

 

「……紅魔族のアークウィザード(あるえ)アクシズ教最高のアークプリースト(ゼスタさん)凄腕の盗賊(クリス)。これに勇者候補(かすみ)とか加えたら、もう超一流のパーティーじゃないのか、これって」

 

「……かすみはともかく、他は何らかのトラブルを起こしそうな気がするが?」

 

 あるえは旅しながら作家をして取材でパーティー離れたりとか、ゼスタさんは行く先々で自分の欲望に忠実な行動をとったり、クリスは……、悪徳貴族の屋敷に忍び込んで盗みを働いたりとか……かな?

 

 想像すると、気苦労が絶えないパーティーになりそうな気がする。能力は一級品の筈なのに何でだ。

 

 ともかく、ゼスタさんも同行する事になり、目的地に向かって歩を進めることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……。術者と融合して、その力を発揮するのがあなたなのか。それをすると、整体師さんは魔王城でなったような状態になる……と」

 

「私はその時の事は知りませんが、髪と瞳の色の変化は融合時の特徴です。それと……ええと……」

 

 神器探索に俺が避ける時間が限られているという事で、俺とかすみで全員を浮遊させながら、みんなが大丈夫そうなスピードで空を飛び、オークの集落へと向かっていた。その中で時間を持て余してしまっていたあるえが取材と称して、みすてぃやかすみに色々と質問をしている。

 

「オリジナルはスキルポイント使わなくても、見ただけで魔法が使えるようになるのかい? 冒険者カードは持っていないのだろう?」

 

「何となくだけど……、魔法を発動させるのに必要な魔力とか理論とかが分かるというか……、うまく説明できないけど……」

 

「世の中にはオリジナルスペルを持つ魔法使いがいるというからね。そういった人達は、自分で魔法を組み上げる必要があるから、それを瞬時にやっているという事だろうか?」

 

 かすみはこの場に揃っている中では唯一のチート持ちだ。それは実の親から受け継いだ物だが……。

 

(なあ、アクア。実際の所、かすみのチートって何なんだ?)

 

(そんなの魔法適性の強化でしょ? ユウだって自分で言ってたじゃない)

 

(それでも冒険者カード無しだと普通は魔法修得なんて無理だろ? 実はもっと違う物なんじゃ……って思って)

 

 そんなヒソヒソ話をしていると、クリスが俺へと手招きをしていた。ちょっとこっち来いという事だろう。

 

(もしかしたらあの子も、能力を2個持ってるかもしれないよ? 一つは『魔法適性の強化』。もう一つは『魔法理論解析』、これは魔法系のスキルを修得する時のスキルポイントが大幅に減少するんだけど……。あの子、両親のどっちかじゃなくて、両親が二人共ユウや助手君と同郷なのかもね。その二つが合わさって、スキルポイント無しで魔法を修得できる位の天才が出来ちゃったのかも……)

 

(誰にどのチート渡したとか、分からないのか? それが分かれば、かすみの身元とか一発で調べられるんじゃ……)

 

(アクア先輩……、誰に何を渡したとかのリスト、作ってなかったから……。結局はあたしのも予想にしか過ぎないけど……)

 

 確かにそんなのがあったら、神器探しもここまで苦労はしないか。というか、かすみまでハイブリッドな可能性が出てきた。

 

「どうしたのだ? 浮かない顔だが……」

 

「おめえにゃ、俺の気持ちなんて分からねえよ! べらんめえ!」

 

「何だその口調は!? 新手の攻め方か!? 私には分からないとは一体……」

 

 おかしな口調とは裏腹に、纏うオーラが暗いものとなってしまった俺だった。それを見てしまったせいか……、

 

「どうされましたかな? 悩み事なら暇つぶしにでも、お聞きしますが」

 

ゼスタさんからそんな提案をされてしまった。けど、普通は暇つぶしで悩み相談する聖職者なんていな……い訳はないか。何せ御神体のアクア様は、俺の子供の時に暇つぶしで悩み相談をしていた。愚痴を言っても罰は当たらないと思い。

 

「世の中って不公平ですよね。ダクネスやかすみの様に親の良いとこどりで生まれたのもいれば、俺みたいに魔力しか貰ってないのもいたり、どうしてこんな世界なんでしょうね?」

 

「ほう、その言い方ではユウさんのご両親も魔法使いのようですな。しかもかなり優秀な」

 

「まあ……資料を見る限りではかなり……」

 

 ちなみに父さんは、中遠距離主体のミッド式。母さんは女だてらに……というのは失礼だが、近距離が得意な近代ベルカ式だった。俺は『重力』の魔力変換を抜いて、丁度二人を足して二で割ったような資質となっている。どの距離でも行けるが、それでも生来で一番高いのは中遠距離の資質だったりする。それをガン無視して切り札が集束斬撃な辺り、自分もかなりへそ曲がりな人間だなあ……と感じてしまう。

 断わっておくが、他に比べて近接の資質がちょこっとだけ低いだけで、そこまでの差はない。近代ベルカを併用できるのかもしれないと、なのはからも言われている。変換資質抜きでそんなのを説明していると、めぐみんから。

 

「それでしたら、ユウもハイブリッドと言えるのではないですか? ご両親の資質をバランスよく受け継いでいます」

 

「俺のは良いとこどりじゃなくて、ちょっとずつ貰っただけだ。しかも、それをうまく使うまでに、何年かかったか……。魔力はうまく操れない。空戦はスパルタで覚えさせられる。あまつさえ……」

 

 一番欲しかった物がなかった。というのは、この場では言えない。少なくともハイブリッドなんて言えるのは、ダクネスみたいに良い所だけを受け継いで、才能と言えるスキルポイントが初期でも多い人間の事だと思う。

 

「おとうさん、もっとはやくとんでもいいよ!」

 

「何て言うか……怖がりませんね? 普通は足が付かなくなるのは、不安になっちゃいますけど」

 

 そして俺の気分が沈んでいるというのに、飛ぶの慣れていますと言わんばかりに目を輝かせた男の子が、もっとスピード出して大丈夫だとおねだりをしていました。この様子から察するに浮遊を掛けて貰って飛び回るのは初めてではないと思われる。そんな様子をゆんゆんは不思議そうに首を傾げていた。

 

 今からこれなら、将来楽しみだな。空戦とかすぐに覚えそうだ。

 

 先がどうなるかなんて分からないが、この子にそんなのを教えるのも悪くない。と、そこまで考えていたところで、オークの集落の近くまで来たので地上に降りて、そこからは徒歩で目的地まで向かっていた。

 

「そろそろか……。潜伏と光屈折の姿隠しで潜入するが……、全員で行くか?」

 

「潜伏はあたしと助手君、魔法はゆんゆんとあるえとカスミちゃんが使えるから、二手に分かれるのが良いかも知れないよ。この子はどうするの?」

 

 連れてかないと泣き出しそうな気がする。なので、ここは……。

 

「あのな? これから魔法でかくれんぼしながら、オークさんの所に行くから声は出しちゃ駄目だぞ? 見つかったら追いかけられるから……な?」

 

「うん! しーっすればいいの?」

 

「そう。しーっ、してな」

 

 遊びに行くような説明をしてあゆむ君を説得していた。それを見ていた面々、特に……、

 

「いやはや、本当の親子のようですな。微笑ましい物です」

 

「整体師さんは子供の面倒を見るのが得意と聞いていたが、将来は良い親になりそうだね」

 

ゼスタさんとあるえは興味深そうに俺達のやりとりを見守っていた。それとは別にカズマとクリスは、

 

(親子みたい……、じゃなくて本当の親子なんだよな。しっかし、まだそうじゃないってのに、この姿が似合うって……)

 

(良いじゃない。あの子だってあんなに無邪気なんだから、きっと楽しく暮らしてるんだよ)

 

コソコソと内緒話に花を咲かせていました。何を言ってるかは大体想像つくが、こっちを見ながらニヤニヤするのは止めて欲しい。

 しばらく歩いていると、カズマが何やら気付いたらしく、注意を促すように緊張した声で。

 

「……オークが一体いる。千里眼で見えた。念のため、ここから姿を隠して進んでいくか」

 

 無用な戦闘は避けるに越したことは無い。特にオークはボコるとかなり面倒なので、ここはカズマの提案通りにして、魔法で姿を隠し、潜伏で気配を消してオークの横を静かに通り過ぎようとしていた。だが、これで何事も無く進めると思っていたのは、はっきり言って甘すぎた。

 

「……どこからか、男の匂いがするわね。しかも何人も?」

 

 鼻をくんくんさせながら、そこら中を探しているオークだった。今日は日差しが強く、それなりに汗も出ている。確かこの世界のオークは、色んな種族と交配しているせいで本来のオークとは別種になりつつあると説明された気がする。もしかしたら、鼻が利く種族と交配している可能性もありえるのだ。

 

(ヤバいんじゃないのか? 匂いは潜伏だと消せないのか!? いつもの人間相手だと思って油断していたか……)

 

(まだあちらは半信半疑ですから、音を立てずに遠ざかりましょう。そうすれば気のせいだと思うはずです)

 

(私としてはオークと交流するのもやぶさかではありませんが……)

 

 小声で話していると、若干一名のおっさんが危険な発言をしていたが、ここは聞き流して音を立てない様に遠ざかろうとしていた。すると、

 

「今度は離れだしたわね。やっぱり近くにいる?」

 

 このオーク、絶対に犬とか狼系の種族と交配してるって。これは振り切れるのか!?

 

 あちらがどれだけ気にしていようとも、ここは冷静に距離を取りつつ知らない振りするのが得策。それは全員が分かっていた。この面子なら、その気になればオーク一体程度であれば簡単に倒せるが、その後の事を考えると手を出してはマズいのも承知していた。

 幸い、あちらは俺らを視認できないので、勘違いで済ませて欲しいと……、そう願っていた。

 しかし、アクアの長い髪が風に揺れた拍子にあゆむ君の鼻を刺激してしまったらしい。大人達やかすみなら何とか我慢できたかも知れないが、彼だけは自分の事情もよく分かっていない子供だ。

 当然、我慢なんてできるはずも無く……。

 

「へくしっ!?」

 

 あゆむ君のくしゃみと同時にこちらを向いたオークが石を力一杯投げつけていた。弾いても駄目。避けるには人数が多すぎて誰かに当たりそう。そんな状態では隠れることが出来なくなり……。

 

「へえ……、そんな大人数で何をしていたの? しかも男がひい、ふう、みい……、一人は若すぎるけど、まあ良いわ。どう? あたしと良い事しない?」

 

「遠慮します。特に俺は……」

 

 あゆむ君を抱き上げて、オークの方をじっと見て、にこやかに。

 

「もう、息子もいる人間ですから、そんなのは無理ですよ」

 

 これでどうにか諦めてくれないかといった希望的観測で、そんなのを口にしていた。その様子を、

 

「ユ、ユウさん……、や、やっぱり自分の子供だったの!? もしかして、隠し子!? いつの間に……」

 

「アクア、落ち着いて下さい。どう考えても、いつもの口八丁です。どうにか話し合いで済ませようとしているだけですよ!」

 

「しかし……、ゆんゆんもそうだが、ユウにも抱っこされ慣れているような……?」

 

「お兄ちゃん……、それはどう考えても無理があると思う。あゆむ君の親が見つからなかったら、自分で面倒見るって言ってたけど……」

 

皆さんは、またしょうもない事を言いだしたと、疲れた様な表情を見せていた。

 

(ここで、冗談交じりにカミングアウトとか……、確かにこれなら信じたりはしないだろうが……)

 

(ここでそれを言うとか……。状況をうまく利用したんだろうけど……)

 

 冒険者(カズマ)盗賊(クリス)の二人組は、俺を見ながら、またしても内緒話をしておりました。

 

「あら、別に良いのよ? 二人まとめて来てくれても。そっちの子は大きくなってから可愛がってあげるから。でも……、まあ、つまみ食いくらいはしちゃうかもね」

 

ですよねー。こんな説得が通じる相手ならそもそも隠れたりなんてしない。

 

「つまみぐいは、しちゃだめって、おかあさんがいってたよ?」

 

 さっきまで抱っこしていた男の子は、オークのセリフの意味を理解できていなかったらしく、困った顔で注意をしていた。

 

「生意気な子ね……! 決めたわ。あなたを集落に連れて行くとしましょうか!!」

 

 この場で一番楽に事を運べそうな子をターゲットに絞ってしまったらしいオークだった。それこそ、鬼のような形相でこちらへと迫っている。子供がそんなのを見てしまえば、冷静ではいられない。大の大人だって近づきたくはない存在だ。当然……、

 

「うわああああああん!!?」

 

その気迫とおっかなさに耐えきれずに泣き出してしまった。それだけなら良かったのだが。

 

「な、何よ……!? これ!!? がああああああ!?」

 

「みんな、離れろ!!」

 

 咄嗟に指示を出して、その中心になっている男の子から全員を遠ざけたものの、彼の周りには数十個の魔力弾が浮かび上がっていた。そして、あゆむ君を捕まえようとしたオークが地面に縫い付けられたように這いつくばって身動きが取れなくなっている。ダストを怖がっていた時と同じように、感情の爆発が引き金になって魔法を発動させてしまっている。

 

「おい! お前の魔法みたいのを何十個も!?」

 

「……だな。『重力』付与の魔力弾をあの年で……あんなに出すなんて……」

 

 父さんの変換資質と紅魔族の魔法使いとしての高い資質が合わさった結果……か。あの子も言わばハイブリッドなのか!?

 

「マズいな……。あのままだと……」

 

「どうなるんだい? オークの動きを止めているので、泣き止むのを待てば良いのでは?」

 

 あるえが落ち着いた様子で問いかけてはきたが、内心はそうではないらしい。少しばかり汗をかいて、声も上擦っている。

 

「今はまだいい。多分無意識のうちに魔力を使って重力から自分自身を守ってる。けど、まだ魔力の使い方も分からない子供だと、そう長くは持たない」

 

「お兄ちゃん、どうなるの!?」

 

「あの子は……自分自身の魔力で、潰されちまう……」

 

 かすみが焦りながらも、状況を確認しようとしていたが、俺の答えで彼女だけでなく全員の表情から血の気が失せて行くのが手に取るように分かってしまった。あゆむ君の周囲に展開している魔力弾でその辺り一帯の重力が一気に増してしまっている。

 

「だったら、あの魔力弾を消し飛ばせば!」

 

 かすみが自分の周りに射撃の魔法を展開して、重力付与の魔力弾を消し飛ばそうと試みていた。しかし……、

 

「弾道が……曲がった!?」

 

 やっぱりか……。

 

あの魔力弾は一つ一つが、物体を引き付ける作用を持つ。それは物理的な攻撃の他にも、第三者からの魔力による射撃や砲撃も例外では無く、複数の魔力弾が展開している状態では、相手からの攻撃の軌道が無茶苦茶になってしまうという特性を持っている。

 

「魔法で相殺も出来ない。重力で近づけもしないとは……!? このままでは……。いや、構わん。私があの子の元まで行って引っ張ってこよう! 体が重くなるのだから、丁度いいプレイだ!!」

 

 ダクネスも子供の命が掛かっているためか、この場で一番頑丈な自分が突撃するとの案を出していた。最後のセリフは聞かなかったことにする。だが、それは一か八かの賭けだ。そんなのをするわけにはいかない。

 

 ――勘で戦うなんざ、お前にゃ一生無理だ! 戦ってる最中でも頭は冷やせ! それが出来なきゃ遠からず死ぬぞ?

 

 こんな時だってのに、昔……、ユーリと戦う前の特訓でリーゼに言われた事を思い出してしまった。俺はあの魔力変換資質について、この中で一番良く知っている。だが、まだ情報が足りていない。だったら……。

 数秒間目を閉じて、デバイスの先端をあゆむ君へと向ける。その動作で周りは泣きじゃくっている子供を無理矢理気絶させようとでも思ってしまったのか、すかさず俺を止めようとしていた。

 

「ユウさん、それは駄目です! 攻撃なんてしたら、あゆむ君がどこか怪我をしてしまうかもしれないです!」

 

 非殺傷設定とはいえ、射撃魔法が高速で柔らかい組織に直撃すれば負傷する事があるのくらいは承知だ。

 

「大丈夫。射撃時の弾道を観察するだけだから。カズマもやってくれないか? あの子の周りの魔力弾を狙ってみてくれ」

 

「い、良いのか? 下手すれば……」

 

 カズマもいきなりの提案に狼狽えてはいたが、自身の狙撃スキルで矢を放っていた。すると……、

 

「普通に当たりましたね? 確か狙撃は幸運値も関連しているスキルですから、そのせいで……」

 

「けど、あの子の魔力弾を消し飛ばすには威力が足りてないわね……。カズマさん、もっと力一杯やりなさいな!」

 

「うっせーぞ! 文句があるなら自分でやれ! この駄女神!!」

 

 カズマのチート級の幸運については、今はいい。俺は俺で弾道が狂う法則を何とか見つけようと数発、射撃を撃っていた。そこから。

 

 ……成程。魔力弾を展開している術者の近くなる程、射撃のブレは大きくなっている。魔法が術者を中心に同心円状に展開されていれば、中心部に行くほど単位体積当たりの魔力弾の数が多くなって大きなブレになる。逆に術者から離れた魔力弾の少ない位置では、そこまでのブレは無い。そして、カズマの場合はその幸運のおかげか、狙撃スキルで狙った所に当たる。

 

「カズマ、頼めるか? 出来ればあゆむ君の周りのを優先的に」

 

「お前も無茶させるよな……。もしあの子に当たったらどうする気だ?」

 

「カズマなら大丈夫だろ。信じてるって」

 

 カズマはその発言に頭を抱えながら、しょうがないといった顔でアクアの方を向き、

 

「アクア、支援寄越せ!! 攻撃力アップと幸運値上昇だ!」

 

「えっ!? わ、分かったわ! 『ブレッシング』ッ! 『筋力増加(パワード)』ッ!」

 

 アクアがカズマの指示通りに、支援魔法をかけて、カズマが弓を構えたのを確認した後で、

 

「俺はあの子の所まで突っ込む。ファルシオン、弾道の補正計算は?」

 

『術者近くの中心部では時間が掛かりますが、外周側ならば、そう困難ではありません』

 

「十分だ。お前はモードリリースで補正計算して俺に寄越せ。それに合わせてストレージで射撃をするから」

 

 その指示と共に、ストレージデバイスを銃の様に持ちながら、あゆむ君に向かって駆けて行った。

 

「『狙撃』! 『狙撃』! 『狙撃』!!」

 

 カズマは男の子の周りの魔力弾をアクアの支援魔法で強化された『狙撃』で破壊していく。一撃では無理だが二回、三回と同じ場所に撃ち込めば何とか可能であるらしい。これであの子が魔力を使い過ぎて自分を守れなくなった時でも、若干の余裕が出来る。

 

「……カズマお兄ちゃんって、どうやって当ててるの? わたしも無理だったのに……」

 

「カスミ、気にしてはいけません。カズマのはもう特殊能力かも知れませんから」

 

 かすみとめぐみんが何やら言いたげだったが、それについては全部終わった後だ。俺は目の前の障害に対して、デバイスを構えて射撃を試みる。

 

「今度は……普通に当てている? 弾道がおかしくなるというのに、何故……」

 

「これは……、外側に展開している魔力の玉から順に壊している……か? 中心部に行けば行く程、弾道はおかしくなるが、影響の少ない外側の物に当てるのは、そう難しくはない……ということか? それにしてもこの短時間で……」

 

 ダクネスは信じられない様に、あるえは冷静に俺のやっている事を分析していたが、『重力』の変換資質については、それこそ飽きる程、見て来たのだ。外側の弾道のブレ程度ならファルシオンの補正計算があれば、当てるのはそこまで困難な話じゃない。

 

 それはともかく、計算も何も無しにブレが大きくなる術者近くの魔力弾に正確に当てるカズマって……一体。

 

 不意にそんなのが頭を過ったが、俺達の攻撃により、あゆむ君が展開させていた魔力弾は徐々に数を減らしていき、

 

「落ち着きなって。いつまでも泣いてたら、ダメだぞ?」

 

 あゆむ君の肩に手を置き、自分がデバイスの代わりとして魔力の暴走を制御すると、一帯に掛かっていた今までの重圧が嘘のように消え失せていた。彼の所に行くまでに、自分にも相応の負荷が掛かってはいたが、ある程度は無視して進んでいたのだ。

 

「おとうさん……、ううっ……ぐすっ……。すう……」

 

 大泣きしたのと、大量の魔力を使ってしまっていたのが重なって、どこか疲れてしまった様な男の子であったが、俺が抱き上げると安心したらしく、すぐに眠ってしまっていた。

 

「ロード……、大丈夫ですか? 少し顔が青いです」

 

「ちょっとだけ治療して欲しいな。重圧を減らしたとはいえ、結構なダメージを喰らったから」

 

 そうして、アクアとみすてぃに治療をお願いしようとしていた、その矢先。

 

「はあ……、はあ……。あたしを忘れないで欲しい……えっ!?」

 

「……言っとくが、アンタを助けたのは、あくまでついでだ。これ以上この子に手を出すってんなら、この場で首と胴体が泣き別れになるが……、どうする?」

 

 オークがそのしぶとさ全開で俺達に詰め寄って来ていたので、高速移動でフォルテの穂先を喉元に突き立てていた。あちらさんは身動き一つできずに、冷や汗をかいている。その原因は槍を突き付けられている事じゃなく。

 

「ちょっと!? ユウさん、殺気立ってますけど!? 前の時もオークを倒してるから……、またあんな風に……!?」

 

「待て。そこまですることは無いだろう? ここで殺せばまた面倒事になりかねん」

 

 アクア達が俺を止めようとしていたのだが、その一方で、

 

(さしものアイツでも、自分の子供に手を出されそうになったら、ああもなるか……)

 

(今回は仕方ないかも……。怖いけど……理由が理由だから……)

 

カズマとクリスはその理由が分かっているので、止めようとはしなかった。そんな中で、割って入った人間が一人。

 

「ユウさん、落ち着いてください。お嬢さん、そのお怪我では辛いでしょう? 私が治療して差し上げます」

 

 ゼスタさんが、オークの治療を買って出ていた。普通ならばこんなのをするのはおかしいとは思うが、確かこの人はオークですらいけると公言していた。さっきオークを”お嬢さん”って呼んでる事から察するに、相手が異種族程度では気にも留めないのかもしれない。

 

 黙って治療を受けていたオークが一言。

 

「ダンディなおじ様……。お名前は?」

 

「アクシズ教団で司祭をしております、ゼスタと申します。以後お見知りおきを」

 

「ゼスタ様……、素敵。大抵の人間はオークを嫌悪するのに……。あたしにこんなに優しくしてくれるなんて……!」

 

「女神アクア様に仕える者として、当然のことをしたまでです。どうかお気になさらずに」

 

 聖職者らしく、柔和な微笑みをしているゼスタさんだったが、オークの方はどう見ても乙女の様に頬を赤くして余所余所しくしている。

 

「一目会ったその日から恋の花咲くこともある……か。セリフだけ聞くとめでたい感じだけど、この場合……」

 

 良い年したおっさんと、それに恋するオークとかどこに需要があるのだろう……、とアクア以外が遠い目をしながら彼らを視界に入れない様に事の成り行きを見守っていた。

 その後、ゼスタさんのお願いを聞き入れてくれたオークさんは、俺らの事は内密にしてくれ、同族のオフィーリアさんについても色々と情報を得られたので、ゼスタさんにお礼を言うしか出来なくなっていた俺であった。




主人公とかすみさんの後付けが、どんどん増えていくー! 
このままだとどうなる事やら。

うちの主人公また劣等感だしてますが、先天的なものでいえば、めぐみんやゆんゆんより大分劣っています。
紅魔族の二人は、冒険者になってから一年程度で結構な能力となっていますが、主人公は数年単位で今の状態ですので。


魔力量だけだと、イメージとしては、

かすみ>>>めぐみん>ゆんゆん≧主人公でしょうか。レベルカンストまで行けば少しは順位が変わるかもしれません。
ゆんゆんを稽古でコテンパンにしているのは、戦闘経験による所が大きいです。
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