この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
通りすがりのオークさんから神器に関する情報を受取った俺達は、真っ直ぐにオークの集落に向かっていた。とはいえ、女性達はともかく、俺達は姿を隠して集落に潜り込んでも先程の様に匂いでバレる可能性が高い。なので、クリスからこんな提案が出ていた。
「助手君達は、空で待機してた方がいいかもね。実際に潜り込むのは、あたし達がやるから」
「……けど、目的のオークの顔を知ってるのは、ゼスタさんだけだろ? この人は行った方がいいんじゃ……」
カズマの意見も最もではあるのだが、ここは隠密行動が肝になる。それにまた、何かの拍子にあゆむ君の魔力が暴走する可能性だってある。なので。
「そこは……かすみのデバイスの通信機能で、映像だけこっちに回してゼスタさんに確認して貰うか」
「私としては、見つかっても構いませんが……。オークを愛でるのも悪くはありませんので」
男性最年長のおっさんから、ヤバい発言も飛び出してはいたものの、それに関しては無視をして女性達だけでオークの住み家へと潜入する事で一致していた。
現在、俺やあゆむ君含む男四人はオークの集落上空で待機しながら、かすみから送られてくる通信映像で、様子を窺っていた。ゼスタさんが目標を発見した場合は、俺が念話でかすみへと指令を出す手筈になっている。あちらが集落に潜入するにはまだ時間があるので、暇つぶしにモニターを開きながらある事を行っていた。
「……? 何やってるんだ? さっきの俺の矢が映ってるが……」
「カズマの矢の軌道を解析して、さっきみたいな事が起こったとしても、すぐに対処できるようにしてるんだ」
そう、俺が今やっているのは、あゆむ君の魔力が暴走してもすぐに止められるように、カズマの矢の動きから魔力弾の軌道のブレを計算しているのだ。
「というか、カズマって何の演算もなしで、この子の近くの魔力弾に当てたんだよな? 術者に近くなればなるほど、軌道がおかしくなるのに」
俺の背中で安らかな寝息を立てている男の子を見ながら、カズマへと問いかけると、
「俺は普通に矢を射っただけだが? その指示を出したのは、お前だろ?」
「……カズマさんって、幸運チート持ちですか? つーか、さも当然の様に上を行かれて、何かムカつく!」
「ああっ!? 俺の幸運値は生まれつきだ! むしろお前の幸運値の方がアクアのせいでおかしくなってるだけじゃねーか!?」
普通は複雑な軌道計算をした上で、やっと対策を練れるはずの『重力』の変換資質に対して、普通に矢を当てていたカズマに嫉妬にも近い感情が沸き上がってきていた。
「まあまあ、落ち着いてください。ユウさん、先ほどと同じ事が起こっても、今度はもっとスムーズに対応できるのでしょう? 一度だけでそこまで対策を練れる人間もそうそうおりませんから、目くじらを立てずに」
「別に怒っていません。さっきはカズマのおかげで助かりましたから。ただ……、やっぱり俺って何かが足りて無いんだろうなって思っちまって……」
「ふむ。先程のご相談の件ですが、少し雑談を交えながらお話ししましょうか」
俺とカズマの口喧嘩に割って入ったゼスタさんが、俺が愚痴った親から受け継いだ能力の件について思う所があったらしく、微笑みながら俺へと語り掛けていた。
一方、そのころ地上でオークの集落を目指していた女性達はというと……。
「聞きたいんだけど、二人ってユウのどこが良いの? ここには女の子しかいなから、教えて欲しいかな?」
クリスがもう我慢できないとばかりに、めぐみんとゆんゆんにおかしな質問を投げかけていた。当然指名を受けた二人は固まってしまい、顔も赤くなってしまっていたが。
「……そうですね。何でも人並み以上にこなせるのに、どこか不器用で放って置けないようなところでしょうか……。何と言うか、他人には心配性なのに自分に対しては無茶をしてしまいそうなので、近くに誰かついていないと黙っていなくなって、野垂れ死にしてそうで見ていられないというか……」
「めぐみん、……それって、ダメ人間を自分が支えなきゃ……って言ってるみたいよ? ユウってそこまで……、でも無いかも知れないわね。結構、自分でもトラブル引き寄せてるから……」
「最近はそういった雰囲気もなりを潜めてきたように思えるが。どちらかといえば、カスミがいる事が良い方向に転がっているのかもしれん」
アクアやダクネスが今までを振り返って各々の感想を漏らしていたが、クリスがうーんと視線を上にやりながら。
「何となくわかるかな。ユウって鋭い刃みたいに強いけど、その分壊れやすいというか……、砕けるとおかしな方向に行っちゃいそうな雰囲気が……。逆に助手君は真正面からの戦いはそこまでじゃないのに、頑丈な感じがするね。あの二人は意外にその辺が噛み合ってるのかも」
「カズマさんも、この私の力があったとはいえ魔王を倒してるしね。やればできる子なのよ、きっと」
アクアがそこまで言うと、今度はゆんゆんへと視線が集まり、早く教えてくれといった無言の圧力をかけていた。
「わ、私……ですか? その……」
ゴクッと喉を鳴らし、意を決したようにゆんゆんが口を開いた。
「私は……、ユウさんといると安心します……。あんなに強い人なのに、怖いって感じが全くなくて、めぐみんと勝負してる時とも違って、普段通りでいられるというか……。ずっと一緒にいても、良いかも知れないって……、そう思ってます」
「私としては仕事中とプライベートのロードは、別人と思うくらいの違いがありますけど……」
この場では両方の彼を知っているみすてぃではあったが、まだ生まれたての彼女からすると、そう感じてしまうらしい。
「整体師さんもかなり子供っぽい部分があるからね。ギャップ萌えというものだろうか? 小説ネタに出来れば良いが……」
「でも……お兄ちゃんって確かに魔法の訓練でも厳しい時はあるけど、怖いって思った事は無いかな? わたしと戦った時も、必死だったけど怖くなかった気がする……。あの時にお話ししたのはちょっとだけだったけど……」
またまたクリスが首を捻りながら、思う所があったらしい。
「何となくだけど……、ユウって本質的には戦うのに向いてないのかも。一見すると、戦闘能力自体は高いからそう感じないけど、基本的に争い事なんて大嫌いな人でしょ? そんな人だから、一緒にいると安心できるんじゃないかな?」
「確かに……。みすてぃの件にしても、この娘を戦わせるが嫌とか言って、随分と悩んでいましたから。そこはカスミも私達も頑張りましたけど」
めぐみんの発言に対して、屋敷で暮らしている面々はコクコクと頷き、納得している様だった。
「けどね。その性格だから見えている物もあるんじゃないかな?」
クリスからの意外とも思える発言に、彼女以外の全員が首を傾げていた。一体何の事なのだろうかと。
「例えば魔王軍との戦いの事。あたしには、”全部を知らないと、どう動いて良いか分からない。”って言ってたけど、普通はそんなの考えないでしょ? 本人が言うには、自分はすっごいイレギュラーだからそう思ったらしいけどさ」
「イレギュラーだからこその視点を持ってるって事かしらね? この世界の人でも転生者でもないから」
アクアからすれば小さい頃の彼を知ってはいるが、自分がこの世界に導いたわけではない、本来ならありえないはずの漂流者である。転生者の様に
「それにカスミちゃんの事も」
「わたしですか?」
かすみは自分が名指しで呼ばれるとは思っていなかったらしく、目を見開いて驚いている。
「うん。普通だったら、知らない振りしてれば良かったかもしれないのに、そんなのをしないでどうにかしようとしてたから……。あたしだって、最初は……」
最初は世界全体とかすみを秤にかけて、世界を取ろうとしてしまっていた。……とまでは言えなかったが、それについては、クリス本来の女神エリスとしての役割からすれば当然である。
「やれることがあるうちは、全部試してみるって。もしかしたらだけど……、戦うだけじゃ何の解決にもならないみたいな考えでも持ってるのかも……」
「そういえば……、バニルさんも同じ事を言ってましたね。”強いからこそ、それで出来る限界を知っている。”……とか」
「カラススレイヤーって呼ばれてる人だっけ? アクセルの奥さんたちの間だと結構な有名人だよね? そんなの言うって事は、ただ者じゃないのかも」
ゆんゆんから不意にバニルの名が飛び出してはいたが、その正体を知れば、雇い先の魔道具店諸共ただでは済まない。と後にアクアは語っていた。
その頃、空で待機して、女性達からの連絡を待っていた俺達はゼスタさんの言葉に耳を傾けていた。
「カスミさんの生い立ちと境遇は、我々も伺いました。にわかには信じられませんでしたが、アクア様のお言葉ですし、私達も実際に彼女と
普段の様子とはうって変わり、荘厳な表情で俺を真っ直ぐに見据える、何処に出しても恥ずかしくない聖職者が、そこには佇んでいた。
「そして、ユウさんがどうして彼女を救おうとしたのかも……ですか。親が子の幸福を願う……、たったそれだけのために、あの場にいた事も伺いました。殺さずに何とか止めようと……、 どうされましたかな?」
「ああ、気にしないで下さい。コイツ、その件で良いだけアクセルの冒険者にからかわれたりしたんで。思い出して恥ずかしいやら、ありがたいやらで、どうして良いか分からなくなったみたいです」
その時の事を思い出してしまい、顔が赤くなりそっぽを向いてしまった俺を不思議に思ってしまったゼスタさんだったが、カズマの解説でこちらを向いて、少しばかり微笑んでいた。
「アクシズ教の教義の一部には、”確かな今を全力で生きなさい。”……という物があります」
それって前文に、”自分を抑えて真面目に生きても、頑張らないまま生きても、明日は何が起こるか分からない。”とか付くよな? 一部良い所だけ抜粋してる気がするのは気のせいだろうか?
そんな俺の感想とは裏腹にゼスタさんは、真剣な表情で言葉を紡いでいた。
「あの時のカスミさんは、前魔王や現魔王すら凌駕する力を持つ絶望的な存在でした。しかし、その絶望の中にあって希望を掴み取るために一歩を踏み出した。彼女に生まれた意味を教える……、たかだかそんな事の為ですら立ち向かえるのが、あなたの……、そしてあの場に集った者達の強さであったと。私はそう思っておりますよ」
いつものアクシズ教徒のイメージとはかけ離れ過ぎていたゼスタさんだったが、その様子は敬虔な司祭そのものであり、続けて。
「どの様な希望があろうと、掴み取ろうとしなければ、それはただの可能性でしかありません。例え、命を落とすかもしれないとしても、望む
「……そこまで深く考えてた訳じゃないですよ。あの時は何とかしなきゃならないと必死だっただけです」
「それでも、そうして戦っていたから、カスミさんはあのように健やかに日々を過ごしています。その未来を望み、踏み出したからこそでしょう? そして彼女は常人には及びもつかない力を授かり、生を受けた存在でもありますが、あの様に暮らしているのは、私にとっては好ましい事でもあります」
「子供ってのはあんなものだろ? 我儘言って周りを困らせたり、元気にはしゃいだり」
カズマの言う通り、本来子供ってのは、そういうもんだ。それが普通の子供だったらだが。
「強い力を持つ者は、その力を振るわなければならない時が往々にしてあるものです。勇者候補と呼ばれている者然り、ユウさんの様に高い能力をお持ちの方も……。周りに望まれ、その力を使っていくうちに、道を踏み外す者も少なからずおります」
「出来る事が多くなると、自分だけでどうにでもなるみたいな錯覚に陥ることもありますからね。一人だけで出来る事なんざ限られてるって、魔王城の時に思い知らされました……」
「ええ……。それが分かっているのでしたら、私から言う事はありません。ですが、出来るのならばカスミさんや、これからあなたが出会う方々にそれを伝えて行って下さい。そして、
そこまでで、ゼスタさんの話は終わったようだったが、最後のセリフは俺に向けての願いと期待が入り混じっているのが何となく分かってしまった。”前に進むことを止めないうちは、強くなれる。”これは先ほど愚痴った事に対する俺への答えのつもりなのだろう。
「ためになる説法をありがとうございます……。何と言うか……含蓄のある言葉の数々、痛み入りました」
聖職者らしい態度に説法。それに対し、深く頭を下げていると。
「まあ、私も道半ばの人間ですからな。皆さんより少しだけ年を取っているので、口幅ったい事を申してしまいましたが……。それに先ほどのカズマさんとのやり取りを見ていると、ユウさんは些か焦りすぎなきらいがありそうですな? それで失敗した事もあるのではないですか?」
「ぐっ……、ゼスタさん……鋭いですね? あんまり思い出したくはないですが。けど、一つの宗教の最高責任者が道半ばとか、何の冗談ですか?」
「私の望む未来にはまだまだ遠い物です。例えば……、私が幼子を見守るためにプールの監視員をしたり、男性が女性用下着を買っても後ろ指をさされない様にするのは、茨の道が続いている様です。はっはっはっ!」
……最後の最後で真面目に聞いたのが馬鹿らしくなってしまったなあ。
その感想はカズマも同じだったようで、どこか疲れた様な表情を見せていた。すると通信がこちらに届き。
「お兄ちゃん、そろそろオークの集落に着くよ。姿は隠してるから映像を送るね」
「かすみ、そこはコールサインで……って言ってただろ?」
「ふぇ!? えっと……こちら、ブレイド2……?」
モニター越しのかすみさん、作戦行動には慣れていないらしい。当然と言えば当然だが、かなーり狼狽えている。すると、俺達会話が琴線に触れたのがモニターの向こう側で二人ほどいたらしい。
「私もそれで呼んでください! 二人だけでズルいです! 私は……、エクスプロージョン1で!」
「私はライター1という呼び方で良いだろうか? 整体師さん、こんな場面でもカッコよさを忘れないとは、里に来たら楽しく暮らせそうだね」
めぐみんとあるえが自分達も同じ扱いして欲しいとばかりに、ウキウキワクワクしながら提案をしていたが、
「……やっぱ、面倒になりそうだから、普通に名前で呼ぶか……」
「そんなご無体な……。別に良いじゃないですか!」
「せ、整体師さん……、ここまでさせておいて、それは酷い!」
普通の紅魔族の二人からは、この世の終わりの様な落胆した声が聞こえて来ていた。
「最初っからそうしろ! お前って、たまに真面目なのか不真面目なのか分からなくなるな……」
「……まあ、いつもの癖で。この場ではやっちゃいけなかったか……」
呼び方に関しては、もうこれでおしまいにして、ゼスタさんと共にモニターを見ながら様子を覗っていた。
「じゃあ、集落に入るよ……。けど、見張りが……いない?」
かすみからの情報によると、オークの集落の入口には見張りがいないらしい。随分と不用心だと思ってしまったが、男性冒険者なら近づこうとは考えないので、そこまでの用心はしていないのかもしれない。
「……ぱっと見、
「『敵感知』も『罠発見』もあるから、そこは心配ないよ。今のところ、何の反応も無いから」
モニターからクリスの声が聞こえていていたが、あちらでもオークが一体も確認できていないらしく、総出でどこかに出かけているのでは、といった推論も出ていた。
「今度はあっちに行ってみませんか? 広場みたいな場所もあるみたいですから……」
「どの道、しらみつぶしに探索する必要もあるのだから、行ける所は行ってみるとしよう」
ゆんゆんの案にダクネスも同意して、広場らしき場所に向かうと、
「えっ!? ええっ!? 何これ……どうしたのよ!?」
モニターからは見えないが、アクアが在りえないものを見た様な……、信じられないといった声を上げていた。
「どうした? アクア、説明しろ!」
カズマもあちらに応答を試みるが、アクア達もかなり混乱しているらしく、こちらに説明している余裕はない様に感じられた。カズマがこちらを向いて。
「……こうなったら、俺達も現地に向かうか。かすみをテレポートの転送先に登録してるから、すぐに合流できる」
「……カズマ、あゆむ君が言うには、将来のかすみはスタイル抜群らしい。そうなる前に転送先の登録は解除――」
「お前とアクアって本当は親子か何かか!? 二人揃って同じこと言いやがって!! 大体な、かすみが大きくなってから、そんなのしたら犯罪者になっちまうだろ!」
「……もしそうなったら、うちの義妹を傷物にした責任を取れば、半殺し位で許す……」
「こ、この、シスコン全開野郎! かすみと将来付き合う奴に同情する……」
もう埒が明かないとばかりに、俺とゼスタさんの腕を掴み、テレポートを使用したカズマだったが、テレポート後に魔力が持たないからと、俺の魔力をドレインタッチで渡すことになってしまった。そうして、俺らもオークの集落に到着したは良い物の、そこにあった光景は――
「オークが……全滅!? いや、まだ息は辛うじてあるか……。何が……」
広場にあったは、息も絶え絶えになって倒れているオーク大軍。彼女らの頑強な生命力で何とか持ちこたえている物のすぐさま治療しなければ危うい状態だった。
「……ゼ、ゼスタ様……」
「あなたは先ほどの……、この惨状はどうされましたかな?」
「眼に見えない速さで動く何かと……、空を駆ける何かが……」
少し前にあゆむ君に潰されかかったオークもこの場で倒れており、俺達は見分けがつかないが、ゼスタさんはすぐに気付いたようだ。この状態の詳細を知りたいところだが、そうも言ってられない。オーク達をこうした相手がすぐ近くにいる可能性だって十分にあり得る。各自で警戒しなければならない。それは全員が感じた様で。
「……とりあえず、『敵感知』には感応は無い。クリスはどうだ?」
「こっちも無いよ。助手君、『千里眼』で何か見えた?」
カズマとクリスがお互いのスキルで周囲の様子を確認しているが、特に敵性反応は無いらしい。とりあえず、それに関しては後回しにして、倒れているオークを治療しながら回復した者から順に話を聞くことになった。
――ただし、ダメージで動けなくなているオークをカズマのバインドを使って全力で縛り、俺をふくむ男性陣の言葉では言い表せない大切な物が奪われない様にした後で……だが。
とはいえ、集落全体のオークをクリスとカズマだけで縛り上げるのは魔力が足りないという事で、カズマがドレインタッチで魔力の補充を願い出ていたが、
「私は嫌よ! 汚らわしいアンデッドのスキルなんて使わないで頂戴!」
アクアが自分の魔力は吸わせないと断固として拒否していたので、結局、俺やゆんゆん、あるえの魔力を渡し、結果として俺達の魔力の大半は消費してしまったが、一時間後に何とかオーク全員の動きを拘束していた。
命を落とすかもしれないとしても、望む
これを作中でやってたのは、スピンオフでのバニルと出会った頃のウィズや、web版だと魔王を爆裂で道ずれにしたカズマさんとかかなあ。