この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
時系列としては、106話の丁度一年後となります。
それは大事な記念の日
――この光景を覚えてる。何もなくなった……。誰も動かなくなった場所で、わたしは二人の女の人と戦っている。
一人はよく知らないけど、もう一人は行きつけのお店の店員さん。お店で売り子をしてる『怠惰と暴虐』を司る女神様って言っていた。
そして、この場所をこうしたのはその二人ではなく、わたし。あの時も夢を見ているみたいだったけど、自分がやってしまったのは何となく分かった。
わたしは何も覚えてなかった。気が付いたら魔法で周りを壊してたから。けど……、凄まじい威力の魔法をわたしが受けた後で、戦っていた女の人の一人がこう言った。
「ごめんなさいね。けど、もう休みなさい……」
何で謝るの? わたしはもうこんなのしたくない……。だからこれで良かったんだ。わたしの方こそ……ありがとう……。
次にわたしが見たのは、困ったように自分を見下ろしてる司祭様やシスターさん。わたしをどうして良いか決められないみたいだった。わたしは言葉も出せなかった。あの女の人がわたしに何かをしたのは知っていたから。そのせいだけど、わたしはこの場所にはいちゃいけないって……、もう一度、眠らせて欲しかった。
そのまま司祭さんのいる教会にいたけど、そこで出会ったのは……。
「ゼ、ゼゼ、ゼスタさん……、あの……、この娘は?」
この人……、何でわたしを知ってるの? 知らない人だけど……、わたしと同じ黒い髪のお兄さん……?
そのお兄さんは、わたしをアクセルって街まで連れて来た。そこでもわたしはみんなに怖がられるような……そんな視線を感じてた。どうやらこの人達は、わたしがどういった事をしたのかを知ってるみたいだった。なのに……。
「やっぱり似合う! 思った通り!!」
お兄さんは、わたしに綺麗なワンピースを着せてから嬉しそうに抱き上げてくれた。こんなの知らないのに……とっても温かくて……。
「……何で離れてくれないのかなあ?」
だって……一緒にいたいから……。離れると、もう会えない気がして……。
ピクニックに行った時は、絶対にこの人と一緒にいなきゃいけないって、わたしはお兄さんの膝の上から動きたくなかった。この時間がこのままずっと続けば良いなって……、そう思ってたのに……、
「あっ……!? ああっ……!?」
気が付くと、わたしは魔法を撃っていた。あの人達に向けて。それは女神様がわたしに使った魔法だと直感的に理解してた。やっぱり……わたしはいちゃいけない人間なんだ……。
わたしがその後にはっきり覚えてるのは、大きいお城と大勢の人達を背にして自分と向かい合っているお兄さんだった。わたしはもうこの時間を終わらせて欲しいと、彼にそう懇願していた。けど、
「いたらいけないなんて言っちゃダメだよ? かすみの名前はご両親が『幸せでありますように』って意味で付けたんだから」
かすみ――わたしの名前……。そんなの覚えていないのに、胸が温かくなる気がした。わたしはお父さんとお母さんに、そんな願いを込められて生まれて来たって教えてくれた。
それは今までわたしが考えもしなかった、でもとても大切な――
本日は休日。空は晴れ渡り、まるでお天道様も祝福してくれているようだ。あれから……魔王城前でのかすみの騒動から今日で丁度一年になる。つまりは人類と魔王軍が停戦してから一年。今まで争っていた期間を考えれば微々たる年月ではあるだろうが、それでも平和な時期が続いてくれるのはやはり良い物だとしみじみと今までを思い返していた。
今日はそれ以外にも大切なイベントがある。というか……むしろこっちの方が俺にとってはメインイベントといえる。だが、そのイベントをするのに必要な物を注文していたのだが、まだ到着しない。そんなわけで、屋敷の庭で今か今かとウロウロしながら、彼女が屋敷へ早く来ないかと首をながーーーくして待っているのだ。
「全く、落ち着きませんね。まだ時間はあるのですから、屋敷で待っていればいいでしょう?」
「とは言うがな。屋敷の方の準備は、ほとんど終わってんだ。はっきり言ってやることが無い!」
「昨日、屋敷に戻ってから張り切りすぎなのですよ……。気持ちは分からなくはありませんが……」
あんまり俺がソワソワしているので、心配になったらしいめぐみんがいつの間にか隣にいて、困ったような顔を見せていた。
めぐみんも髪を伸ばし始めたらしく、ゆいゆいさん程とは言えないまでも、少しばかり大人っぽく感じる時があったりする。
「おーい! お前はまだ庭にいるのか? こっちも手伝ってくれ! ダクネスが女のプライドが許さんとか言って、台所を襲撃してくる。ユウの方が一緒に料理作っててやりやすいから、そばに居ろ!」
今ではアクセルは元より、ベルゼルグで知らない者はいないのではないかという程の
確かにただ待っていても時間の無駄だ、という事で屋敷の中に戻りカズマの手伝いをしながら一時間ほど経ったころ……。
「お邪魔しまーす! お届け物でーす!」
「おーすっ! 来てやったぞー!」
玄関から良く知ってる女性二人の声と、
「いやー、まさかあたしらが呼ばれるなんてなあ」
「赤騎士、今日はいがみ合うのは無しだよ? せっかくのめでたい日だからね」
いつもはイギリス辺りにいる双子の猫の使い魔さんの挨拶も聞こえて来ていた。
「おう! 全員一緒に来るなんてな。まあ上がってくれ。後はケーキの準備で終わりだから。なのはもわざわざ翠屋に寄ってケーキ持って来てくれて、ありがと」
「いいよ。お母さんも腕によりをかけたって」
なのはとヴィータ、そしてリーゼ姉妹を屋敷のリビングに案内して、後はカズマと準備していた料理を並べるだけとなったのだが……。
「そういえば、ゆーくんってケーキ作りもお母さんから教わってたでしょ? 自分で作らないで
そう、今日はかすみの9歳の誕生日なのだ。本当の事を言えば、あの子の本来の誕生日なんてのは不明だが、本人にそれを聞かれた時に……、
「んー。だったら、魔王城前でカスミを助けた日が良いんじゃないかしら? 何せ魔王をしばいて世界を救った日だもの。これ以上縁起の良い日なんてそうそうないわよ!!」
とのアクアの力説により、あの日はかすみの誕生日という事となってしまった。これに関しては、バニルに占って貰おうかとも考えたが、それを脳内でシミュレートすると俺の精神がボロボロになるのが眼に見えていたので、無しとなった。
そんな個人的な事情はともかく、なのはの質問に答えたのは、俺ではなくカズマだった。
「……こいつな、かすみが9歳だからって……9段重ねのケーキ作るとか言いだしてたんだよ……。誰がそんなに食べるってんだ……」
「カズマ、そこはな、冒険者ギルドの皆さんにお裾分けするとか、いっそギルド併設の酒場を貸し切ってやるとか――」
「お前は! 貸し切りでいくらかかると思ってるんだ!? このシスコンが!!」
俺が『特製9段重ね。かすみ9歳スペシャルケーキ』を作ろうとしていたのを止められた話題をすると、その他にも思い出した事があったようで、ダクネスが少々おかしな顔をしながら。
「後は……ヒナマツリと言ったか……。リビングに立派なヒナダンとやらを造ると材料を調達しようとしていた。何でも天井に届くくらいの物を造らなければ……と」
「そう言えばそうですね……。確か一番上の段はアクア様とエリス様を飾るって言って、彫刻までしようとしてました……」
「ロードはなぜか芸術関係の能力が高いです……」
ゆんゆんと、みすてぃもその話題に参加していたが、ひな祭りに関して、お内裏様とお雛様ではなく一応この世界に合わせてそうした方が良いんじゃないかというので頑張ろうとしてたのだが、アクアがエリス様より上の段に飾れだの、何故かウォルバクさんまで口論に参加して、自分の彫刻も入れて欲しいだのとかなりの混沌となってしまっていた。
そんな近況で盛り上がっていると、
「あっ! その……今日はありがとうございます!」
自分の部屋からリビングに顔を出したかすみが、お客さんへ遠慮がちに挨拶をしていた。
「おう! この馬鹿野郎が暴走しそうになったらすぐに言え。あたしがアイゼンで気絶させとくからな」
「いやー、写真で見るよりも、やっぱ可愛らしいね。父様も来たがってたけど、ちょっと用事が出来ちゃってね」
「たまに海鳴にも遊びに行ってるでしょ? お母さんも会うの楽しみにしてるよ!」
ヴィータからは俺に対して危険な発言が。リーゼはグレアムおじさんが来れなかったのを残念そうに。なのはは、にこやかに挨拶を返している。
「ほんとはエリオ達も呼びたかったんだけど、都合が付かなくてな。うまくいかないもんだ」
「そこは仕方ないだろ。全員揃った事だし、料理並べてかすみの誕生日パーティー始めるぞ!!」
「「「「おー!」」」」
ケーキにろうそくを9本立てて火を着けた後で、部屋の明かりを消す。室内はろうそくの明かりだけとなり、日本でおなじみの歌を歌いながら、かすみがスウっと息を吸い込み、ろうそくを一気に吹き消した所で……。
「「「「お誕生日おめでとう!!」」」」
その場の全員の祝福と拍手に囲まれたかすみの顔を見ると……。
「ぐすっ……、ひっく……」
「あーもう、泣かない泣かない。可愛い顔が台無しだぞ?」
「お兄ちゃん……だって……」
感極まってしまった……という奴だろう。この子の境遇からしたら、こうして大勢に囲まれて誕生日を祝ってもらうなんて、考えもしなかったはずだ。
かすみの頭を撫でながら、安心させようとしていると。
「今日はこの子だけじゃなくて、あんただってちょっとしたお祝いみたいなもんだ。Sランク、やったじゃないか!」
「あのクロスケより、虚弱ってたのがねえ……。あたしらとしてもこれで一安心だなあ……」
そう、俺は先日の魔導師Sランク試験に合格。晴れて空戦Sランクへと認定されたのだ。
「……なのはさ、俺の試験官だったけど……、どう考えても試験内容盛ってたよな!? 障害物の位置とか予習と違ってたんだけど!?」
「それね、一応……、不測の事態の対応も試験項目に入ってたから……。そこまで難しくしたつもりは……、ない……よ?」
「何で最後が疑問形なんだよ!?」
視線を反らしながら、あははーっとなのはが愛想笑いをしていたが、あれは絶対に試験内容を考えている時にやってみたくなった奴だ。間違いない。突然、破壊困難な障害物に囲まれたり、自立兵器が百体近く大挙して押しかけたり。
「昇進もして、そのランクとやらも上がり……、色々と前に進んでいるという感じですね」
「まあ、めぐみんだけじゃなくて、みんなも手伝ってくれたからな。例のダンジョンとか、その他諸々で」
一番はかすみが寂しくない様に、俺が仕事の間、この子を預かってくれた事だったりするのだが。
「てめーが、そこまでになるなんてな。あたしと初めて会っときは、アイゼンの衝撃で気絶してた様な奴だったのによ」
この俺、9歳でヴィータに襲撃された際、シールドをいとも簡単に壊されて目を回して気絶してしまっていた。とはいえ、昔の恥ずかしい思い出をばらされてしまって、少しばかりカチンときたので。
「かすみ、ちょっとこっち来て、ヴィータと並んでみ?」
かすみが不思議そうな表情を浮かべながらだったが、ヴィータと並んで立たせてみると……。
「ヴィータちゃん、かすみにまで背丈追い越されちまったなあ? ほんとにいつまでも若々しいな、羨ましいよ」
「てめえは!? ケンカ売ってんのか!? ああっ!!」
俺と赤騎士さんのケンカ勃発を、またかといった感じで見守ってたその場の全員だったが、俺らも別に本気でいがみ合っているわけではない。
「大体な! その9段重ねケーキとか何だよ!? 馬鹿じゃねーのか、てめえは!?」
「馬鹿って言う方が、馬鹿なんですう! ヴィータちゃんのを作っても良いけど、そうなると成層圏にまで突き抜けるギネス記録真っ青なのが出来るけど良いかな? それともケーキ一面を埋め尽くす蝋燭でも良い?」
ヴィータの実年齢分の段数のケーキとか何百段になるのやら。
流石にパーティーで俺達の口論をこのままにしておくわけにはいかないと思った様で、アクアが俺らの間に割って入り。
「そこまでにしなさいな。ユウもその立派なケーキは、将来のカスミの結婚式にでも取っておきなさい。そっちの方が見栄えも良いでしょ」
かすみが結婚……。俺の手を離れる……。かすみはまだ9歳、でもいつかは……。
少しばかり硬い表情をして、その光景を想像してしまった。そして、つい……、
「俺を倒さないと、かすみはお嫁にあげないもん!!」
「お兄ちゃん!? ちょっと!? 苦しい!?」
かすみをギューっと抱き締めながら、そんなのを言い放ってしまった。その様子を、
「こんなのが保護者とか……」
「こんなのがSランクとか……」
俺とかすみ以外の全員の思考が一致したように。
「「「「世も末だ……」」」」
俺に向ける視線が、とてもとても痛々しいものとなっていた。そして、アクアがうーんと唸りながら。
「ねえねえ、だったら……、カズマならカスミをあげても良いの? 一応ユウに勝てるでしょ?」
言われてみればそうだった。とはいえ、俺としてもあのままで終わらせる気は無いので、カズマの方を向き、にこやかに。
「カズマ、これからお互いハンデ無しで全力で戦ってみるか! 拳と拳で語り合うのも良いだろ?」
「やるわけねえだろうがあああ!? この超絶シスコンが!?」
そんな俺とカズマのやり取りを見て、みすてぃが何やら気になったようで、ミッドの友人達へと、
「あの……ロードが面白可笑しい方なのは、この一年で痛いほど分かりましたが……、どうしてこんな人になっちゃったんですか?」
お前こそ、この一年で生まれたての頃とは比べ物にならない程、辛辣になりましたね。みすてぃさんよ。一応、俺はこの娘の主人の筈なんだが。
「ああ……、こいつの場合は、母親が性格というか、人種柄というか……、スキンシップの多い人だったからね。それに似たんだろ」
「そういやそうか。あの娘は金髪で白人っぽい顔立ちだったけど……、それは似ないで、愉快な性格を受け継いだのかなあ……。周りを和ませる天性の物があったからね」
「ゆーくんのお母さんかあ……。よくわたしもギューッとハグされて、頬ずりとかされてたっけ」
母さんを少女時代から知っているらしいリーゼ達と、小さい頃に会った事のあるなのはが感慨深そうに、その当時を振り返っていると、リーゼアリアが何かを思い出したようで。
「あっと、忘れる所だった。お前の両親で思い出したが、父様からこれを渡しといてくれって頼まれてたんだ。本来はお前が持っとくべきもんだろ?」
「グレアムおじさん……、ちゃんと取っといてくれてたんだ……」
リーゼから受け取ったのは、ぱっと見ではリングにミニチュアな剣を通したアクセサリーと、緑色の六角形の鉱石が飾られたペンダントだった。それをみんなは興味津々に。
「これは何ですか? もしかして……」
「だな。俺の両親が使ってたデバイスだ。ペンダントの方は杖になって、もう一つは剣型になる」
ミッドのデバイスを見るのは初めてではないはずだが、カズマ達も興味津々な様で、待機状態ではなく、デバイスモードでの姿を見たいらしい。ここは要望に応える様に、双方のデバイスを起動させる。
「杖の方はかなり頑丈そうというか、重量感があるというか……」
「剣の方は実体剣で鞘も付いてるわね? こっちだと戦士系がそのまま使うみたいな……」
ダクネスとアクアが率直な感想を述べていたが、この二つのデバイスは人格があるわけではなく、型式もかなりの旧型となっているため、使うのではなく形見の品として渡されたのだろう。ついでに言うと。
「母さんは剣だけど……。杖の方……、父さんのは、かなーりの特殊仕様だからなあ……。まあ普通の魔法も使えなくはないんだけど……」
「お兄ちゃんのお父さんって……確か、特殊な魔力変換資質を持ってたよね? 『重力』だっけ?」
「そうだねー。どうせ俺は持ってないよー。ははははははは……は」
ちょっと前にその事はみんなに話していたのだが、俺自身はそれを思い出すと暗い気持ちになってしまうのだ。カズマ達はあまり気にするなとは言ってくれてるが。
「おめーって奴は、まだ気にしてたのか? 女々しすぎんだろ!」
「ヴィータちゃんは、そんな俺を気遣って……、アイゼンで叩いたり、アイゼンで突撃したり、アイゼンで吹っ飛ばしたりしてくれたんだよな?」
「愛の鞭ってヤツだ。感謝しろよ? そういえば、あたしも見て欲しいのがあってな」
嫌味言ったつもりだったんだが、アレを愛の鞭と言える鉄槌の騎士さんのスパルタっぷりはリーゼ達と大差ないかもしれない。それはともかく見て欲しいのとは何だろうか? なんてのを考えながらあちらを見ていると、ヴィータがある魔法を発動させた。
「あははははははは! ヴィータ、お前は可愛い! 俺が保証する!! 完璧すぎて何も言う事はない!!」
「てめええ! 何だその反応は!! あたしのどこがおかしいってんだ!?」
「どこもおかしくはない! むしろその格好で歩くと街じゅうの注目浴びまくりだぞ? 美形には違いないからな! ぶわははははは!!」
腹を抱えて盛大に大笑いしている俺とプルプル震えているヴィータの横では……、
「褒めちぎっているのに、小馬鹿にしている様に見えるのは気のせいではないですよね?」
「ロード……少し失礼では……」
「しかし……、元が良いからやっぱり美人ではあるな……」
「うむ。むしろ着飾っても良いくらいだが……」
などなど、各々の感想を漏らしていた。その一方で俺は……。
「その姿なら、海鳴のゲートボール仲間の爺ちゃん婆ちゃんが、”ヴィータちゃん大きくなったのお……。”とか言って、嬉し泣きしながら飴ちゃんくれたりするって! それだけ完璧に化けてる!!」
「てめえの頭、アイゼンでぶっ叩いてゲートボール代わりにしてやらあああああ!!」
変身魔法で俺らと外見年齢が同じくらいになったヴィータがグラーフアイゼンを振りかぶり、突撃しようとしている。
なぜヤツが変身魔法を使用したかというと、久々に海鳴に顔を出したいが、守護騎士達は外見が変わらない。それでも大人なシグナム姐さんやシャマル先生、犬もとい狼なれるザフィーラならまだ良い。だが、元がちっさいヴィータが成長しないまま、知り合いに会うと面倒になるのでは……という事で練習していたらしい。
俺に至っては活発な美女といった風貌の大人ヴィータと、その正体であるロリっ娘との差異で思わず大笑いしてしまっている。
このままでは、めでたい席が血で染まる……は無いにしろ、険悪なムードになってはいけないと思ったらしく、年長者のダクネスが話題を変えようと。
「そろそろプレゼントを渡すとしよう。皆、準備はしているのだろう?」
「私は新作にして、壮大な宴会芸を披露するわよ! まだ誰もやった事の無いイリュージョンを見せてあげるわ!」
アクアさんは水の女神でも、宴会芸の女神様でもなく、イリュージョンの女神様じゃなかろうか?
「私はカスミ用のローブですね。里から取り寄せた魔法使いにもってこいの物ですよ」
……そのローブ、どうして『爆裂』って文字が書いているんだろう?
「俺はカエルのぬいぐるみだ。あまり凝ったのも……と思ってさ」
カズマの選んだぬいぐるみ……。デフォルメキャラではなくリアルな感じでちょっと怖いんだが……。
その他には、俺からは髪飾り、なのは達からは自分達だけではなく、あちらから預かった物も渡されたりと、かすみの腕の中がプレゼントでいっぱいになっていた。最後は……、
「私からはこれだ。そろそろ、こういったお洒落をしても良いだろう」
ダクネスから差し出されたのは小さな瓶だった。何やら液体が入っているが、蓋を開けると。
「良い匂い……。これって……」
「ああ、香水だ。少し早いかとも思ったが、せっかくなのでな」
ダクネスは、またの名をララティーナという貴族でもあるので、その辺は詳しいのかもしれない。バラの様な香りが漂って来ているが、そういった品種の花を元にした香水なのだろう。
そして、全員がプレゼントを渡し終えると。
「お兄ちゃんも……、お姉ちゃん達も……ありが……ぐすっ……」
またまた嬉し涙を滲ませてしまったかすみだったが、それを拭ってみんなに元気よくお礼を言っていた。
翌日、リーゼ達だけは昨日の夜の内にイギリスへの帰路に着き、他は一泊していた。日が昇った後で、物陰で気配を消しながら俺を監視している人間が数人いたらしい。その者達は……。
「うし! あの野郎をぎゃふんと言わせてやるか! 事あるごとに、あたしをちんまいだのチビだのエターナルロリだのと言ってるからな。かすみ、ちょっと協力しろ!」
「ヴィータさん……、どうするの? わたしだけじゃなくてカズマお兄ちゃんと、アクアお姉ちゃんも一緒だけど……」
そこに隠れてユウを見張っていたのは、かすみとヴィータの他にはカズマとアクアも何故か加わっていた。
「かすみ、お前が変身魔法で大人になって、野郎をドギマギさせろ! 良い雰囲気になったところで、正体明かして、ロリコンだの義妹に鼻の下伸ばしたとか言って大笑いしてやる!! 昨日のあたしの見たから魔法は使えるだろ?」
「そうか……、俺も昔……アルカンレティアでやられたな……。あの時はめぐみんに魔法をかけてたが……。あれの腹いせだ。行け、かすみ!」
「う、うん……」
カズマまでノリノリでドッキリを仕掛けようと画策しているが、かすみが変身魔法を発動させると……、
「……か、かわいい」
「ちょっとカズマ、ロリニートが鼻の下伸ばしてどうするの? ターゲットはあっちよ?」
整った顔立ちにしっかりと自己主張している胸部。街中を歩けば、殆どの男性が振り返るであろう、十代後半のポニーテールの美少女が佇んでいた。
「あの……変身はしたけど……どうすれば良いの?」
変身自体は初めてであり、いつもはカズマ達を見上げているかすみも、今回は同じ高さの目線で話をしている。彼女にとっては、それだけでも新鮮な気分となっていた。
「そうね……。やっぱりここはオーソドックスに、トーストを咥えて、”きゃー、遅刻遅刻!?” って言いながらぶつかるのが良いと思うわ! よく漫画であるじゃない」
「どこに遅刻するんだよ!? それになんだよ、そのセーラー服は!?」
「うちの子が持ってた服よ。やっぱりちゃんと形から入らないと!」
何故この世界にセーラー服があるのだろうかと、疑問を持ってしまったカズマだったが、アクシズ教徒が持っているというだけで納得してしまう謎の説得力がある。
「ここでセーラー服とか怪しすぎるだろ!? いいからそのまま行け!!」
ヴィータが半ば強引に、なのはと雑談しながら歩いていたユウの元にかすみを押し出していた。
「あの……その……」
「えっと? どうされましたか?」
いきなりユウの所に押し出されてしまった大人なかすみだったが、何もプランの無い状態で彼の前に立ってしまったために、困惑の色を隠しきれていなかった。
「その……ウィズ魔道具店にはどう行けば良いですか? えっと、この街は初めてで……」
かすみが何とかアドリブでその場を凌ごうとしていたが、彼女の脳内にヴィータの声が響き渡っていた。
(良いぞ……、そのまま迷子を装って、はぐれたらまずいとか言って手を繋げ! いや、いっそ腕を組め!!)
(こう……? で良いの?)
念話で指令を受けたかすみが、ヴィータの言われるがまま、ユウと腕を組んでしまったのだが、ドッキリを仕掛けられた少年はというと……。
……この人、何でいきなり腕組んで来てるんだ!? いやそれよりも……これは、まずい!?
――ポヨン、フニフニ、ムニムニ。
腕に柔らかな感触が……、いやこの
かすみさん、変身したは良いものの普段自分が身に着けていない下着までは、ちゃんとイメージ出来ていなかったらしくユウの想像通りとなっていた。彼は服の布地一枚を隔てて腕にしがみ付く柔らかな感覚に、顔では平静を装いながら、内心はかなり緊張してしまっている。純真とは時に罪なものである。
「あの……知らない街だと不安で……、ごめんなさい……」
「あ……いや……、気にしないでくださ……い?」
隣の女性を見ながら、おかしな顔をしだしたユウだったが……、
……これってもしかして? しっかし……何でこんな……?
その女性の正体について、何となく分かってしまったらしい。すると、後ろの方から殺気立った声が聞こえて来ていた。
「……その女は誰ですか? 私の目の届かない所で、何をやっているのでしょうか?」
「ユウさん……、その人は……、どちら様ですか?」
そこには笑顔にも関わらず、冷え切った声の紅魔族の少女達がその瞳を真っ赤に輝かせて、ユウを睨みつけている。
「待て、ちょっと待て! これは誤解だ! 何を想像してるのかは知らないが、俺は無実だ!!」
「ほう……、私もこの一年で成長したと思っていましたが……、やはり大きい方が良いのですか!?」
「だから話聞けって!? 大体かすみ相手に何想像してんだよ!?」
「「「えっ!?」」」
ぽかんとする紅魔族の二人に、彼の隣で腕を組んでいる大人なかすみだった。特にかすみは、信じられないといった雰囲気を出している。
「お兄ちゃん……、何で分かったの?」
「それはな……。俺がかすみのお兄ちゃんだからさ」
その答えに、ほう……と感心した様な表情を浮かべるめぐみん達。そして、大人なかすみは、兄の顔を見ながらボーっとしている。
「どした? 顔が赤いけど? ……もしかして風邪か!?」
ユウはおでこをかすみにくっ付けて熱を測っている。そうされたかすみは、
「だ、だだだ、大丈夫だから! わたしは今日も元気いっぱいだから!!」
凄まじく慌てた様子で、顔を真っ赤にして狼狽えてしまっていた。
そんなドタバタした中で、いつの間にかウィズ魔道具店の近くに来ていたらしい。丁度いいから寄って行くかといった話になったのだが、不意に店の入り口が開き……。
……何だ!? この感覚、墓地で初めてウィズに会った時みたいな……!?
背筋が凍り、下手に動けば即座に命を刈り取られる。
ウィズ魔道具店から出てきたフードで顔を隠した人間から発せられる気配は、それだけで周囲を圧倒する何かを内包していた。
それは、ユウの近くにいたなのはも感じ取っており、すぐに戦闘態勢に入れる様に身構えている。すると、その人間がこちらを見詰めていた。
「君は……?」
「あの……? どちら様ですか?」
声からおそらくは男性だと思われるフードの人物は、かすみだけしか視界に入っていないようだった。懐かしむような、そんな優しい声を発している。
「いや、失礼。知り合いによく似ていたもので。気分を害されたのでしたら謝罪します」
どうやら単なる人違いらしいが、先ほどまで周辺を覆っていた圧迫感もいつの間にか無くなっており、程なくしてフードの男も街中に消えていった。
「凄い人だね……。立ち姿だけであんなのって……」
「ああ……。世の中って広いな……。あそこまでって、そうそうお目に掛かれない……」
なのはとユウが男性に対して同じ感想を持ってしまったようだったが、そうしているうちにまたまたウィズの店の入り口のドアが開き、
「おおっ! 義妹の正体を匂いで見破った犬コロ魔道士よ。そろそろ新作のスクロールでも持って来てくれぬか? 店主めが、またおかしなアイテムを仕入れて来てしまい赤字なのだ。それとも、そのよく利く鼻で掘り出し物を持って来てもよいぞ? フハハハハハ!!」
バニルが実に楽しそうに、店の前にいた彼らに言葉を投げかけると。
「匂いで見破った!? ……どうやったんですか!?」
「ユウさん……、匂いフェチにまで目覚めちゃったんですか!?」
「ふぇ? わたし昨日もちゃんとお風呂入ったよ?」
めぐみんとゆんゆんはこの世の終わりの様な表情で愕然とし、かすみは納得いかないとばかりに自分の匂いを嗅いでいた。なのはは無言で少しずつ距離を取っている。
「おい! せめてダクネスから貰った香水の香りって言え! それじゃあ俺がかすみの体臭で気付いたみたいじゃねえか!?」
「鼻で見破った事には違いあるまい! いやはや、ここまでコケにするのが愉快な人間なんぞ、そうそう居らんぞ? 誇るがいい。フハハハハハ!!」
「死ね! この腐れ悪魔!!」
そうして、ある意味この街での日常となっているバニルとのケンカが勃発し、ユウが頭に血が上って周囲に被害が出る前に、カズマ達も加わり力尽くで取り押さえられたらしい。
プロローグなのに長くなってしまった……。
ケーキといい、ひな壇といい、スペック高いシスコンにアクア様の芸術力を与えた結果がこれだよ!
前と比べると投稿スピードが落ちるかもしれません。