この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

146 / 152
大会開幕

 武芸大会前日の夜、俺は仕事を終えて、こちらの世界の帰路に着いてすぐに、みんなとある場所へ向かっていた。普通なら行くのも難儀する様な場所なのだが……。

 

「ほら邪神、さっさと魔王城にテレポートなさいな。私達は忙しいの。明日には王都に発つから、今日の内に用事を済ませなきゃ」

 

「……それが人に物を頼む態度かしら? 別に水の女神様が行く必要はないでしょ?」

 

「お爺ちゃん元魔王が美味しいケーキ買ってるらしいから、それを食べたいだけよ。用事はユウさん達で良いもの」

 

 アクアがかなり尊大な態度でウォルバクさんへテレポートのお願いをしているが、例の襲撃の件を個人的な知人でもある現魔王のお姉さんの耳にも入れておくために、魔王城までの転移したいのだ。

 だがアクアのお願いの仕方で、ウィズ魔道具店店内で頭を抱えているウォルバクさんがそこいた。

 

「アクア……頼むから、穏便に済ませてくれ。ほんとに……」

 

「いちいちケンカ売らないと気が済まないのか!? この駄女神があああ!?」

 

 俺とカズマがアクアを止めに入るのをバニルが面白そうに。

 

「この夜更けに騒々しい輩であるな。貴様らの辞書には”近所迷惑”という文字は入っておらぬのか?」

 

「あははー。そっちの仮面さんの辞書には、”傍迷惑”って文字は入ってないのかな? 何だったらその字を仮面にでも落書きして――」

 

「お前も止めろ! 良いから早く魔王城にいって用を済ませるぞ!」

 

 バニルが俺達に対して、批判とも取れる言葉を投げかけていはいたが、ヤツにだけは言われたくはない。

 俺が反論から暴力沙汰になるのを心配したカズマから、半ば強引に引っ張られウォルバクさんのテレポートで魔王城内へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王城――一年前ならば、冒険者達の最終目標となっているはずの人類の不倶戴天の敵、魔王の居城の筈だが……。

 

「ああもう! そうじゃないわよ! いい? 味も大事だけど、見た目だって重要なのよ! 美味しくても形がぐちゃぐちゃだったら、食べる気だってしないでしょ!?」

 

 それこそ聞き覚えのある……、おそらくこの世界最高峰の実力者である魔王のお姉さんの切迫した声が会議室らしき部屋から聞こえて来ていた。アルカンレティアで売るお土産のデザイン決めでもしている様な会話の内容だが、おそらくそれであっているはず。

 どうやら今日は玉座ではなく、ここにいるらしいが……。

 

 ノックをして返事を待ってからその部屋へと入室する。すると、お姉さんは俺らの顔を見て驚いたように。

 

「あら? 珍しいわね。もしかして私に会いに来てくれたの?」

 

「……それ自体は否定しませんが、お姉さんが期待している様な事ではないです」

 

「ふうん……、こんな時間に来るなんて緊急みたいね。場所を変えましょうか」

 

 お姉さんに連れられ、玉座の間へと誘われた俺達は早速要件を済ませようと、説明を行っていた。

 

「そろそろ、そんなのが出てくるかとは思ってたけど……、あなたも律儀ね? わざわざ教えに来るなんて」

 

「お姉さん、一つだけ頼みが――」

 

「分かってるわよ。そっちで止める分には、魔王軍は手を出さない。けどそれで済まなければ……」

 

 降りかかる火の粉は払う……、と言いたいのだろう。玉座に腰かけてこちらを見据える魔王としての鋭い視線が、それを物語っていた。

 

「そういえば……、かすみはどこだ!? 魔王城行くって言ったら、喜び勇んでついて来てたけど……」

 

 お姉さんとの要件を済ませて、そろそろ帰ろうかと考えていたが、かすみの姿が無い。うちの義妹、この一年で魔王城ですら、勝手知ったる何とやら……となってしまっていた。

 

 行き先は……おそらく……。

 

 そんな俺の予想をめぐみんが感じ取ったようで。

 

「カスミならば、お爺ちゃんの所に行くと言っていましたが……。みすてぃも一緒です」

 

 やっぱりか。先代さんに懐いてるからなあ……。

 

「はあ……。この夜更けにおやつとか……。先代さんの事だから、ご馳走になってるんだろうけど……」

 

 夜に甘い物は太る原因になると言い聞かせていたが、あの爺さんもかすみを気に入っているので、構わずおやつを出してしまうのだ。曰く、子供が腹を空かせるのはいかんとか……。

 

「かすみ迎えに行ってくる。みんなは?」

 

 一緒に来るか? といった旨の質問をすると、

 

「俺は行かない。あの爺さんとは顔を合わせたくない……」

 

カズマは魔王城での戦いを思い出したらしく、鳥肌を立てながら拒否。

 

「私はどちらでも良いですが……、一緒に行きましょうか?」

 

「私も行きますね。最近、魔王城の探索も面白くなってきて……」

 

「私はここで待っていよう。この城は迷宮の様な場所だ。よくカスミは迷わずに済んでいると思う時がある……」

 

 めぐみんとゆんゆんは同行、ダクネスは待機。そして、アクアは……。

 

「私は行くわよ! あのお爺ちゃんの出すケーキ美味しいの。確かアクセルの名店のよね?」

 

 元魔王にケーキ集りに行く女神様って良いのだろうか……?

 

 ともかく、子供が夜更かしなんていけない。まあ、俺も9歳の頃なんざ魔法関係の事件に関わって、結構夜更かしはしていたのだが。

 先代魔王さんの部屋のドアをノックすると、はーいと言ったかすみの元気な声。どうやら俺が迎えに来たのが何となく分かっているらしい。

 

「ワシの先祖もそうだったらしいが、黒髪で黒い目の変わった名前の者達は神の恩恵を受けていると聞く。そういえば昔、凄まじい能力を持った黒髪の魔法使いと(まみ)えた事がある」

 

「わたしやお兄ちゃんと同じ色の髪の人?」

 

「うむ。気まぐれに城の外へ出た際だったが、魔族というだけで魔法を撃ってきてな。危うくインフェルノで焼かれる所だったが……。あの当時に比べたら、今は平穏となったものだ……」

 

 かすみにとっては先代さんの昔話がかなり面白いらしい。感心した様な表情で耳を傾けていた。すると、今度はみすてぃから。

 

「敵対していたとはいえ、いきなり襲い掛かってくるのは……時代というものでしょうか……?」

 

「そうさな。人間にとって魔族は恐怖の具現だった。だから人間達もそれぞれの国で魔族への対抗策を講じていたらしいが……」

 

 その恐怖の具現を震え上がらせてた紅魔族やアクシズ教徒って、魔族よりヤバい存在なんじゃなかろうか……。

 

「その魔法使いは? 魔王城に攻めて来たの?」

 

「別れ際に、”ワシと戦いたくば魔王城まで来るがいい!” と言って、因縁を残したが、その男は魔道大国の機動要塞暴走で行方知れずとなったらしい。まあ、百年以上前の話だ。仮にその時に生き残っていたとしても、寿命が尽きて生きてはいまい」

 

 機動要塞ってことは、デストロイヤーの暴走でか……。ノイズに近しい人物だったのだろか? というか……魔王って、いちいちそんなのもやんないといけないんだろうか?

 

「そういえば……、その魔法使いのパーティーには同じく黒髪黒目の少女がおったな。そちらも魔法使いの様だったが、中級魔法や上級魔法の他に、炸裂魔法や爆発魔法まで使っていた。威力は男に比べれば劣っておったが、あの多彩さは目を見張るものがあった……」

 

 その人達がチート持ちだとして、当時の情勢をどうにかしようと必死に戦っていたのだろう。しかし……、先代魔王さんですら一目置く威力の魔法と、数多くの魔法を持っている人……か。

 

「かすみ、先代さんのお話を聞くのもその辺にして、もう帰るぞ? 明日は朝早くから王都だから、寝ないと体が持たない。先代さんも、あんまりかすみを甘やかさないで下さい」

 

「……ロードがそれを言いますか? かすみちゃんに一番甘いのは、どう考えてもロードです!」

 

 最近、ツッコみ役となっているみすてぃではあるが、俺が甘やかすのは別に良いのだ。一応、躾けもちゃんとしているつもりだから。

 

 とりあえず、玉座の間に戻ろうと先代さんの部屋から立ち去る間際。

 

「お爺ちゃん、じゃあねー!」

 

「ああ、また遊びに来ると良い。今度は違う昔話をしてやろう。おやつも用意して待っておるからな」

 

 かすみが元気よく先代さんに手を振っていた。元魔王さんを”お爺ちゃん”呼ばわりしているこの子は相当な大物かもしれない。前魔王さんも何でこんなにフレンドリーなのかと思う時もあるが、ギスギスしているよりは余程良いので、そこは気にしないでおくとする。

 

 

 

 

 

 

 

 武芸大会当日。かすみを連れた俺は控室でミツルギと歓談をしていた。

 

「今日はお手柔らかに頼むよ」

 

「お手柔らかに……って割には力が籠ってるな?」

 

 俺にとってこのイベントは王室からの依頼で参加しているのだが、ミツルギにとってはそうでもないようだ。

 

「僕も紅魔の里で君と試合をした後、自分なりに研鑽してきたつもりだ。今回は純粋な剣技の勝負だからね。どれだけ差が縮んだか……、それを試したい!」

 

 ……この人も俺に決勝まで勝ち残れって言ってるよ。はあ……。

 

「お兄ちゃん……、今から疲れた様な顔してるけど大丈夫?」

 

「ん。まあ、依頼分くらいはきっちりやるさ。かすみは――」

 

 かすみの名前を口にした瞬間、俺に対して刺さるような視線を感じた。それを発している人物を確認しようとしたが、周囲を見渡しても該当しそうな人物は分からなかった。

 ミツルギへと近づき小声で。

 

(済まないが……、俺が試合の時は、かすみを見ていてくれないか? 嫌な予感がする)

 

(ああ……。さっきの気配、僕にも何となく分かった。そこは任せて欲しい)

 

 あの視線の主のターゲットが俺達なのか、それともかすみかまでは確定できないが用心するに越したことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 大会が始まり、まずはミツルギの一回戦。彼の紹介アナウンスが会場に響き渡っていた。

 

「今大会の注目株! 『魔剣の勇者』、ミツルギキョウヤ! 王都付近で活躍するソードマスターであり、冒険者の中でも指折りの実力者でもあります!」

 

「きゃー! キョウヤー! 頑張ってー!!」

 

 アナウンス直後からミツルギに向けて黄色い声援が送られていた。おそらく、彼のパーティーの女性冒険者だと思われる。その他にも王都では顔のしれているミツルギらしく、彼女ら以外の応援等も聞こえて来ていた。

ミツルギに対するのは、如何にも戦士といった風貌の筋骨隆々の男性。ガタイはミツルギよりも一回り大きい程度だが、相手が名のあるソードマスターという事もあり、木製の剣と盾を持ち、冷静に間合いを計っている。

 ミツルギは、対戦相手に向かって歩を進め、ゆっくりと自分の獲物の木刀を振りかぶっている。誰がどう見ても一直線に剣を振り下ろす。

 それは対戦相手にとっては好都合でしかなかった。ミツルギの一撃を盾で防ぎ、がら空きとなった胴へ一撃を喰らわせる。その手順まではっきりと想像できていた……が。

 

「……がっ!?」

 

 ミツルギの対戦相手は、ガードに使った盾を難なく破壊され、その一閃が彼の肩へと食い込んでいた。どうやら骨折まではいかないものの、獲物を持つ事が出来なくなったらしく、対戦相手は降参。ミツルギは観客の拍手を浴びながら、静かに試合場所を後にした。

 

「やっぱりイケメンは気に食わない……」

 

「あの太刀筋は……、もしかして……?」

 

「はい……。ロードのものに似ています……」

 

 大会の様子を屋内から伺っていたカズマ達だったが、先ほどのミツルギの剣閃に覚えがあったようだ。

 

「ロードの場合、斬撃は高密度の魔力を纏わせてはいますが、それに加えて斬撃そのものの完成度も高いです。それ単体でも並大抵の相手は圧倒できます。それを一年であそこまで迫るなんて……」

 

「ユウのあの稽古……。木刀に重りを付けての素振りか……。私も筋トレでやってみたが、翌日の筋肉が素晴らしい悲鳴をあげていた……。はあ……ふう……!」

 

 みすてぃが真面目に解説している時に、少しばかり悦に入っているクルセイダーさんだったが、皆もう慣れた物とばかりにスルーしている。

 

「ユウさんって剣も出来るけど……、それに思い入れでもあるの?」

 

「ロードのお母様は近代ベルカ式の使い手だったらしいです。私も映像資料でしか見た事はありませんが、苛烈という表現がぴったりな攻撃を繰り出していました……。ロードのあの一撃はお母様を見習っているのかもしれません」

 

「その一撃に至るために、あの訓練ですか……。先日受取った武器の元の持ち主が、そこまでの使い手だったとは……。次はユウですよ! ちょっとだけ見てみましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、次は俺の番だ。控室から会場へと足を運ぶ。対戦相手を見据えると、ミツルギの様に紹介のアナウンスが始まっていた。

 

「前魔王を倒したパーティーの一人! アークウィザードでありながら武芸においても他とは一線を画すると言われています!」

 

 こういうアナウンスを聞くと、戦技披露会を思い出す。あの時は……ヴィータとガチでやってしまったが……。

 紹介はまだ続き。

 

「彼は紅魔の里では『星の刃を携える者』、『万象を断ち斬る者』など呼ばれ……」

 

 何でそれを知ってるんだか……。まあ、めぐみん達はたまにアイリスと会ってたらしいから、それでかもしれないが……。厨二な異名で呼ばれても気にならなくなっているってのは……、慣れって怖いな……。

 

「アルカンレティアのアクシズ教徒の間では、『女神アクア様の使徒』、『女神アクア様の加護を持つ方』や……」

 

 アクシズ教徒――この単語が出た途端、会場がざわめき、ついには。

 

「その他には、『イレギュラーなバグキャラ』、『魔法使いなのか剣士なのか大魔王なのか分かんねーんだけどマジで』とも称される――」

 

「ちょっと待て! 何処のどいつだ、それ言ったの!?」

 

 屋内のカズマ達にも俺の叫び声が聞こえていたようで、こちらの様子を眺めながら、

 

「……めぐみん、確か……王女様に色々教えてたわね?」

 

「アクアこそ、自分とユウの関係を自慢げに語っていませんでしたか?」

 

 異名の原因となっていると思われるその場の二名の他に、

 

「確か、こないだアイリス達が依頼に来た帰りに冒険者ギルド寄ったらしいから、そこの冒険者達からも聞いたのかも……」

 

カズマももしあの場にいたら、『最強の冒険者』の他に、『鬼畜のカズマ』や『クズマ』などと呼ばれていたかも……と、あそこに立たずに済んだ自分の幸運に感謝していた。

 

 

 

 

 

 

 

 左手には自分の背丈ほどの木製の槍、右手には木刀を持ち、対戦相手の挙動を観察している。あちらさんも、両手に木製の短剣を持っており、奇しくも二刀流同士の試合となった。

 

 ……装備は軽装。手数で推すタイプ……と想定。間合いは俺の方が広いが懐に入られると不利。ならまずは……。

 

 左手の槍で連続突きを繰り出し、相手の行動パターンを観察する。あちらは短剣であるが故に、こちらの突きのスピードを計った上で間合いを詰める算段らしい……が。

 

「剣が……見えなかった……だと……」

 

 あちらが間合いを詰めて、俺に攻撃をしようとする瞬間、ありえないとばかりのセリフを言いながら倒れこんでいた。

 

「ええっと……。普通に当てたようにしか見えませんでしたが……?」

 

 アナウンスをしている人や観客からしても、俺がポンと剣を当てたようにしか見えなかったらしい。

 

「これは……視覚のトリックですね。人間は一点に集中したり、早く動こうとすると視野が狭くなります。そのタイミングに合わせて、死角から相手に一撃を入れています」

 

「な、なるほど……。先ほどのミツルギ氏とは対極の技巧が冴えわたる一撃……という事ですか。……ってアイリス様!?」

 

 アナウンスのお姉さん、いつの間にか自分の隣で解説役をしているアイリスに驚きながらも、俺の攻防について納得した様だった。

 

「……分かってはいたが、あそこまで軽く勝っているのは、癪だ……」

 

「何故アイリス様があのような事をしているのだ!? 普通は特別席で観戦するはずだ!」

 

 賊を捕らえる準備をしながら、試合を観戦していたカズマ達だが、ダクネスはアイリスの所業が信じられないらしく頭を抱えている。

 

「ユウも、もっとこう……『必殺、槍剣乱舞爆裂撃』といった派手な技でも使えば良いのですが……」

 

「めぐみん、あれはあれでちゃんとカスミちゃんのお手本になる様にしてるんだよ? 間合いの違う二つの武器の上手な使い方って事で……」

 

「ほう、いつも叩きのめされている人間は言う事が違いますね。それだけ痛い目に遭ったという事でしょうが」

 

 めぐみんとゆんゆんは彼の一撃について、それぞれの感想を述べたりしているが、めぐみんのちょっとした挑発で、一触即発の雰囲気を作ってしまっていた。

 

「お前らも、静かにしろ! 賊に気付かれたらどうするんだ!? まあ、『敵感知』にはまだ反応が無いから良いが……」

 

「カズマももう少し手早くワイヤートラップを仕掛ければ良いでしょ? そうすれば余った時間で観戦できるわ!」

 

「アクア! お前は何もやってないだろうが! ったく、やっぱりユウの方に行かせれば良かったか……」

 

 そんな文句を言いながらも、アイリスの頼みだからと、せっせとトラップ作りをしているカズマだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、俺とミツルギはお互い順調に勝ち進み、準決勝まで駒を進めていた。このままなら、アイリス達からの依頼も果たせると安堵したのも束の間。俺はミツルギの対戦相手に目を奪われた。

 

 ……あの人、かすみが大人姿になった時にウィズ魔道具店の前にいた……!?

 

 フードを被り、顔は相変らず良く分からないが、その立ち姿は隙がない。どうやら武器を持っていないようだが、アナウンスによると素手で勝ち残って来たらしい。

 ミツルギも相手が発する尋常ならざる圧力を感じ取っている。今までの様に楽に勝てる相手ではないのは、理解しているようだ。

 不意にフードの男が口を開き。

 

「君の近くにいた少女は、”かすみ”……という名なのか?」

 

「ああ……、僕の友人の妹だが? それがどうしたんだい?」

 

「あの少女は……ノイズの兵器の娘……で合っているな?」

 

 それを聞いた途端、ミツルギが目を見開いて、怒りの混じった声で。

 

「彼女をそう呼ぶのは、あの子と彼に対する侮辱と受け取らせて貰う。それ以上言うのなら、僕も容赦はしない!」

 

「まあいい……。彼らの言っていた通り、あちらの黒髪の少年も障害になりえるか……。ここで二人共倒しておくに越したことはなさそうだな」

 

 挑発とも取れる言葉を耳にしても、斬りかかるわけではなく、冷静に相手の出方を窺っていたミツルギだったが、フードの男はまるで攻撃してみろと言わんばかりに、ゆっくりと隙だらけの姿勢でミツルギに近づいていた。

 

 ……何だ? 武器も無いという事は、徒手空拳での戦闘を得意としているはず……。だってのに違和感が拭えないのは、どうしてだ?

 

 二人の試合を見ながら、嫌な予感を感じ取っていた俺だったが、それはミツルギも同じだったようで、この大会中に使用していなかったソードマスターの攻撃スキルで一撃を仕掛けようとしていた……が。

 

「ああっと!? ミツルギ氏の攻撃が素手で受け止められています! ソードマスターの一撃を捌くわけででもなく……、これは一体!?」

 

 驚きの声を上げるアナウンスだったが、おそらくはこの場で一番信じられないのは、一撃を入れたミツルギだ。グラムが無いとはいえ、自分の攻撃を何事も無かったように止められている。そして……、

 

「な……なん……だ!? これ……は……体が……」

 

「悪いが、これで終わりだ」

 

フードの男の渾身の蹴りを防御もせずに……、いや、見えているにもかかわらず、まるで硬直してしまったかのように、防御も出来ずに直撃を喰らい吹っ飛ばされ、地面に倒れたまま動かなくなったミツルギだった。

 そのまま試合終了となり、敗北したミツルギの元にはランサーと盗賊の少女や俺とかすみも駆けつけて控室へと運ぼうとしていた。

 

 ……これは、麻痺か? けど魔法を使った気配は無かった。どうやって……?

 

 ミツルギは命に別状はないが、しばらくは動けない状態らしい。そちらは、彼のパーティーにでも任せておくことにしたが、ミツルギを倒した男の視線がこちらへと突き刺さっている。

 そして……、男は俺ではなく、ジッとかすみを見詰めている。フードの男の唇が動いたのが目についたが、ここからは聞こえないはずの彼の言葉が……、まるで呪詛の様に頭の中に響いていた。

 

 ――やっと……見つけた。もう終わりにしよう……。かすみ……。

 

 その瞬間、奴の目的はミツルギでも俺でもなく、かすみなのだと……、そう直感していた。




この章は色んなキャラが出て来ていますので、ちょっとしたお祭りみたくなってます。
物語的にはシリアスになっていますが……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。