この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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蹴り抜け、流星の如く

 アクセルに戻った俺は、おそらく今回の顛末を全て知っていると思われる人物の元へと足を進めていた。すると。

 

「漸く来たか。まずはここに寄ると思ったけど、正解だったな」

 

「カズマ……、どうしてここに?」

 

「お前一人だと、バニルに喧嘩売りそうだからだ! 良いか!? 絶対にバニルと騒動を起こすなよ!!」

 

 俺だってそんな事をするつもりは全くない。まあ、あっちから突っかかって来たらどうなるかは知らないけど。

 そんなのを考えながら、来客を知らせるベルの音を聞きながらウィズ魔道具店へと入ると。

 

「おおっ……! 最早、魔道士ですらないポンコツ小僧よ。何用であるか? スクロールが造れなくなったので、今度はそこの茶髪の小僧と同じく、便利グッズでも卸しに来る相談をするのならば、大歓迎である。フハハハハハ!」

 

「くたばれ! この腐れ仮面!!」

 

「おおっと! 魔力も無く、あのおかしな刀(ぴよぴよ丸)とやらも使えず、我輩を倒そうなど100年は早いわ!」

 

 つい、いつもの癖でバニルに一撃入れようとしてしまっていたのだが、今の俺はぴよぴよ丸すら使えず、あの忌々しい仮面を葬るには、全力で殴り仮面を破壊するしかないのだ。

 

「お前は……、言った傍から何やってんだ!!」

 

「俺は悪くない。人をおちょくらなきゃ生きて行けない仮面の悪魔が悪い」

 

少しばかり、いじけた顔をしながらカズマへと釈明を行っていた。すると、ウィズが店の奥から顔を出したので。

 

「ウィズ……、少し前にこの店に来ていたリッチーの話を聞きたい。知らんぷりはしないよな?」

 

「うむ。あのうっかりリッチーであれば、店主ではなく我輩に会いにこの店を訪れていた。何せ、ヤツの知己なんぞ、今の時代では限られておる。我輩はその中の一人という訳だ。まあ、遥か過去、我輩が魔王軍の幹部をしていた頃であるが」

 

 ウィズから話を聞こうと思ったのに、バニルの野郎がしゃしゃり出て来たのは気に食わないが、昔のこいつの知己って時点で、俺の予想はほぼ確定みたいなもんだ。

 

「あの人にも同情する。どうせ、人間だった頃にでも、てめえにおちょくられたんだろ? 自分の知り合いが、そんなのしか残ってないってのも嫌になるな……」

 

「我輩は、奴の心を読み、恥ずかしい秘密やら、パーティーの少女への秘めたる想い等を語っただけだが? その際の奴の慌てぶりは正に愉快そのものであったわ。フハハハハハ!!」

 

 その時代から、やってる事が変わらないこいつは、未来永劫こんなんだろう。

 

「……で? あの人が、リッチーになってやってたのは、俺に使った魔法の研究で良いんだな?」

 

「その通りだ。まさか自身の娘ではなく、幸運一桁小僧の魔力を奪った挙句、浄化されかけるなど……。さしもの我輩も笑いが止まらずにおったわ!」

 

確かにあの光景はバニルにとっては、美味しいどころか極上の悪感情だろう。その場にはいなかったが、アクアと同じく腹を抱えて大笑いしていたのが、まざまざと思い浮かんでしまう。

 

「……今、物凄く重要な事実がバニルの口から出なかったか?」

 

「俺は……まあ、何となく。確証が得られなかっただけで。あのリッチーがかすみに向けた態度とか、日本人っぽい雰囲気とか、後は……、かすみがあの人の顔を見た時に泣いてたとかで」

 

 記憶は無くなってるはずなのに、かすみがあんな反応をするって事は、何かしらを感じ取っていたのだろう。カズマは今まで分からなかったみたいだが、武芸大会では別行動だったので、そこは仕方ない。

 

「あのリッチーが、かすみの親って……チート持ちか!? 日本人がリッチーになってるって事は、そのチートはかすみと同じ……」

 

「『魔法適性の強化』……だろうなあ……。だから、その為の禁呪も成功できたんだろうし……」

 

アクアに転生されて、こっちに来てからそんな事になってるのは……、それよりも自分をこの世界に送り出した女神にあんな魔法の雨あられをされたら……、ショックだったろうなあ……。

 

「どこからか、カスミさんの噂を聞きつけたらしいですよ。本人は最近までダンジョンに引き篭もって研究をしていたらしいですけど……」

 

「私も彼と話して驚いたわ……。まさか、私とレジーナがあの子と戦っていたのを見ていた人間がいたなんて……」

 

 ウィズとウォルバクさんも、あのリッチーから色々と事情を聞いていたらしい。ウィズが続けて。

 

「あの方……、ユウさんにも感謝していましたよ。カスミさんが、お店に遊びに来ている様子を聞いた時は、顔が綻んでいましたから」

 

「けれど……、今のままじゃ、その生活もいつまで続けられるかも分からない。あの子の力を狙って……、またかつてと同じ事になるかもしれないとも言ってたわね」

 

 ”かつて”……か。あの子を道具扱いして、敵を殲滅させる事だろう。そうさせないために魔力の源を奪い、かすみを魔力の無い普通の女の子にしてしまうつもりだったのかも。

 

「……あのリッチーは、自分が親だって言う気は無いんですか?」

 

「ふむ。百年以上放って置いて、今更父親面するつもりはないらしい。事が済んだ後は、朽ちるのを待つか、腕の良いプリーストでもおったら、浄化を願い出ると言っておった。最も、名乗ったところで記憶を消されている小娘からすれば、初対面には変わりないがな!! フハハハハハ!」

 

 バニルのふざけた口調はともかく、これであの人の目的ははっきりした。後は、ウィズに聞きたい事があったんだった。

 

「ウィズ、教えて欲しいんだが……、リッチーには相手に触れただけで効果のあるスキルってあるのか? 動かなくなったり、魔法が使えなくなったりするとかの」

 

「そうですね……。それでしたら……、おそらく『不死王の手』です。状態異常を引き起こす確率は幸運依存ですが、相手に素手でも武器越しでも触れれば発動します」

 

 その状態異常は、毒、麻痺、昏睡、魔法封じ、弱体化らしい。麻痺はミツルギ、昏睡は武芸大会の審判、魔法封じは、かすみに対して発動していた。その中でも最悪の状態異常とされる弱体化は、一時的なものではなくレベルの減少――所謂レベルドレインという物らしい。

 

「なんつーチートスキル……。触っただけで状態異常とか……、今からでも良いから教えてくれ!」

 

 カズマの言いたい事も分からなくはないが……、ますます以ってウィズがアクセルで魔道具店の店主してて良いのかと考えてしまった。マジでラスボス級だよ、この人。

 

「……ちなみに、対応策は?」

 

「毒などでしたら、専用のポーションがあれば、どうにかなりますが……。後は運良く発動しない事を祈るくらいしか……」

 

 発動に関しては使い手の幸運値依存とはいえ、俺って運が無いから普通にやられる気がしてきた。……運の悪さが恨めしい。

 

「そこの薄幸小僧よ。今なら当店でレベルドレイン以外の状態異常対策用ポーションが揃っておる。お一つどうか? 貴様の考えている通り、あの手に触れればまず勝ち目はあるまい」

 

「……一つ聞く。これは俺が買うのを見越した上で仕入れたのか?」

 

「そうに決まっておる。貴様が弱体化してくれたおかげで、より見通しやすくなったわ! フハハハハハ!!」

 

 この野郎の高笑いは正直気に入らないが、今の俺はできる事をして行くしかないのだ。バニルに対し即座に現金を支払い……、敗北感が心の中を支配する中、カズマと共に店を後にしようとしていたのだが、

 

「茶髪の方の小僧、少し待て。店主が話がある様なのでな。魔力無し小僧はもう行くがいい。まだ他にも回る場所はあるのだろう?」

 

「言われなくても、行ってやるよ! じゃあな、あんまりカズマをおちょくるなよ……」

 

あちらがカズマに用事があるらしいので、一人でウィズ魔道具店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一旦屋敷に戻り、こちらに戻ってから留守番をさせていたみすてぃと次なる場所へと向かうべく、ゆんゆんにテレポートをお願いした。景色が歪み、一瞬で目的地に到着する。真っ先に視界に入ったのは石像と化しているグリフォンだった。ちなみにこのグリフォンは、正真正銘の石化している実物で、ここ紅魔の里の待ち合わせ場所等となっているのだそうだ。

 

「ゆんゆん済まないな……。今は魔力がほとんど無いもんでさ」

 

「大丈夫です。めぐみんは先に里に戻ってますから、準備は出来てるはずです」

 

 みすてぃ、ゆんゆんと共にめぐみんの実家に向かっていた。俺が入院中にしたお願いの様子を見に来たのだが……。

 

「ああっ……! 来てくれたのですね! お母さんがユウの注文を聞いてから張り切ってしまいまして……」

 

 ……何故にひょいざぶろーさんではなく、ゆいゆいさんが張り切る? 普通は指名を受けた職人がそうなる筈なのだが……。

 

 そんなのを一瞬考えてしまったが、奥から顔を出したひょいざぶろーさんの表情を目の当たりにして固まってしまい、無意識に口を開いていた。

 

「ひょ……ひょいざぶろーさん!? そのやつれっぷりはどうしたんですか!? こ、この家で一体何が……」

 

「ユ、ユウさん……か。注文の品なら……突貫作業で……今、全て完成したところ……だ。持って行きなさい……」

 

 目の前にあるのは、百発近い弾数のひょいざぶろーさん謹製カートリッジだ。今回の注文はこれだったのだが……。

 

「ユウさん、ご注文……ありがとうございます! 今月は赤字でしたけど……これで乗り切れます!!」

 

 ゆいゆいさんが実に嬉しそうに俺の手を握り、感無量といった表情で礼を言ってくれていた。しかしながら……恐る恐る事情を尋ねると。

 

「そ……、その……ひょいざぶろーさんは、俺の注文を頑張ってくれたんですよ……ね?」

 

「お恥ずかしながら……、主人が売れない魔道具を製作してしまいまして……。今月はもしかしたら借金もしなければならないかと思っていたところに、ユウさんが主人を指名して注文をして下さいましたので、急いで造らせました」

 

「ぐ、具体的には……、どの様な?」

 

 これは聞いてはいけない。聞いてはいけないと俺の第六感が警鐘を鳴らしているのも関わらず、怖いもの見たさからくる何かが、俺の口を動かしていた。

 

「まず、徹夜は当たり前。魔力が切れてもポーションで無理矢理回復させて、不眠不休で注文の数を揃えました。借金に比べたら大したことはありませんし、もしやらないなら、氷漬けにして里周辺の森に放置すると言って――」

 

 お、鬼嫁だ……。鬼嫁がここにいる!? いや、借金こさえそうになったひょいざぶろーさんにも原因はあるのだろうが、これは……惨い。

 

「あ、あの……こちら、代金になります! 急な注文と突貫作業の分って事で、すっ、……少し、色を付けておきますからっ! ひょいざぶろーさんもお大事に!!」

 

 震える手で、ゆいゆいさんにカートリッジの代金を支払い、逃げる様に紅魔の里を後にしていた。その間、めぐみんにもあの人(ゆいゆいさん)の血が流れているのだと考えてしまい、ちょっとだけおっかなく感じてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 道具に関しては準備を整えて、後は細かい調整のみとなった俺ではあったが、もう少し時間が掛かりそうなので、カズマ達には先にリッチーたちの行方を追って貰っていた。

 王都のクレアさん達からの情報で、逃げた二人の居場所と思しき地点へと向かっている最中。

 

「まさか……、あのリッチーがカスミの父親だったとは……。どうにか話し合いで済ませることはできませんか?」

 

「あのなあ……。めぐみん、それが出来ていたら、大会であんな事にはなってないだろ。それに……、あのリッチーだってもう退けないはずだ」

 

 カズマもそれを考えなかったわけではない。大会で戦っている最中も、出来るだけこちらを傷付けない様に気を配っていたとも聞いていたが、リッチーの目的が目的だけに衝突は避けられないと感じていた。

 

「私が送り込んだ子が……、アンデッドに身を落としていたなんて……。私が責任を持って浄化してあげるわ! エリスに見つかったりしたら……、ちょっと可哀想だから!」

 

 アクアも真相を知ったが、それとは別にちゃんと自分が浄化しなければといった使命感があるらしい。アクア曰く、エリスに見つかってしまった場合、事情も聞かずに確実に()りに行くとの事だ。

 

「…………」

 

「カスミ、大丈夫か? 先程から一言も話していないが……。もしも辛い様なら、今からでも構わんからアクセルに戻っても良いぞ?」

 

「うん。わたしは……、平気とは言わないけど……、それでもここは退いちゃいけないと思う……」

 

 かすみにしても、あの男の顔を見て涙を流していた。覚えてはいないが、それでも彼と会わせても良い物かとその場のカズマ達にも迷いが無いわけでは無かったが、本人の強い希望でこの場に同行させている。

 リッチー達がいると思われる隠れ家の近くに来ていたが、そこには……。

 

「マジか……!? 先行してた騎士団が全滅って……」

 

「無事か!? 何があった?」

 

 数十人の騎士達がその場に倒れ込んでおり、ダクネスが倒れていた騎士の一人の傍に寄り、抱き上げて事情を聞くと。

 

「奴らの……近くに行ったら……、まるで……地面から足が離れないような感覚に……襲われて……動けないまま……」

 

 禄に対抗できずに、そのままやられてしまったらしい。彼らの傷は命に関わるほどではないとはいえ、放って置くわけにはいかず、アクアが治療を施していた。

 

「『重力』というのは思っていたよりも厄介な能力ですね……。それだけで、この数の人間をここまで簡単に……」

 

「あの騎士のおじさん……、一応この人達は殺さない様にしてるみたい……」

 

「まあ、奴の本命はあくまで魔王軍だ。人間を亡き者にすれば、ベルゼルグを完全に敵に回しかねん。それは本意では無いという事だ」

 

 アクアの治療を待ちながら、めぐみんやダクネスが傷ついた騎士達の様子を伺ってはいたが、分かるのは、中年の騎士に想像以上に強力な能力を持たせてしまった事だけだった。

 

 負傷していた者達は、自分達で立って歩けるようになるくらいには回復したので、ここから先は自分達に任せる様にダクネスがダスティネス家の名を使って指示を出し、そのままカズマの『潜伏』を使用して隠れ家まで向かうといった方法で歩を進めていた。しかし……。

 

「何だ……!? 急に体が……重く……!?」

 

「これは……あの時と同じ重圧!?」

 

 突如襲われた感覚に全員が狼狽えていた。潜伏で気配を消し、千里眼でも周囲を見渡しながら進んでいた。それでも敵はこちらを察知していたのだ。

 

「済まないね、君達。これでも僕はそれなりに力のあるアークウィザードでもあったんだ。『エネミーサーチ』や『トラップサーチ』の様な、感知系の魔法も使える。君達がこちらへ向かっていたのは、とっくに把握済みだ」

 

「まさか……、そちらから出向いてくれるとは、手間が省ける。そちらの少女の魔力……、貰い受けるとしよう」

 

 これ幸いとばかりに、かすみへと手を伸ばすリッチーと彼女の魔力を欲している中年騎士。攻撃を仕掛けようにも動く事すらままならず、ゆんゆんやかすみが上級魔法を撃ってもリッチーが防御、または相殺してしまう。そんな戦況となっていた。

 

「あの黒髪の少年は不在……か。まあいい。この子の魔力の源を奪った後は大人しく帰りなさい。僕としては、君達とこれ以上争うつもりはないからね」

 

 リッチーが動けないかすみに向かって、手を伸ばそうとしていたのだが。

 

「そんなのは……嫌! わたし……やっと魔法も……好きになって……」

 

「だが、その莫大な魔力で引き起こされた出来事を忘れたわけではないだろう?」

 

「そっ……それは……」

 

 かすみは自分のリンカーコアを守る様に、胸を腕で覆っている。それでも構わずに腕を突き出そうとするリッチーに対し、カズマ達はほとんど動けずにいた。

 

「これが終わった後は好きにしなさい。彼の元に帰って平穏に暮らすのも悪くはないだろう?」

 

「ふん。その力を腐らせずに有用に使ってやろうというのだ。貴様のもそうだが、あの黒髪の方もだ。特に黒髪は、この能力を使えないらしいな。つまりは出来損ないだ。それを我々が魔王軍壊滅に役立ててやる」

 

 中年の騎士は、自分の魔力の源を必死に守ろうとするかすみが、余程滑稽に見えたらしい。その魔力は自分が使うべきだと……、それが当り前のように演説をしていた。しかしながら。

 

「……して……」

 

 かすみから……、普段は大人しい、周りの言う事をよく聞いて滅多に困らせたりはしない子から、怒りの混じった声が発せられていた。

 

「取り……消して……! お兄ちゃん……は……、出来損ない……なんか……じゃない!!」

 

 重力によって、地面に縫い付けられていたかすみが、歯を食いしばって立ち上がり、敵に一撃を入れようとしている。いくら魔力が高くても、体力は普通の子供とそう変わらない。その行為がどれだけの負担になっているか、それは大人のカズマ達が一番よく分かっていた。

 カズマは重苦しい体に鞭を打って、騎士に向けて右手を突き出し。

 

「『スティール』ッ!」

 

 スティールを発動させて、騎士の魔道具を奪い取ろうとしていたが、その手には騎士の剣のみが収まっていた。カズマの思惑を理解したリッチーが済まなそうな雰囲気で。

 

「……発想は悪くはない。……が、ノイズにいた頃、スティールの阻害機能を開発したのは僕だ。その魔道具にも、それは搭載されている。敵に奪われない様にね」

 

 カズマにとって、出会った頃のかすみの制御の為に付けられてた腕輪と同じスティール封じがあるのは、想定外だった。もう手が無いとばかりにダクネスの方を向き。

 

「ダクネス……、こうなったら一か八かだ……。ユウの時みたく、アクアをあいつらに向けてぶん投げろ!」

 

「ちょっと!? 何で私よ!? こういうのは男の子のカズマさんの役目でしょ!?」

 

「ダクネス以外だと、アクアが一番頑丈だろうが! 早くしろ!!」

 

 カズマも遠距離での攻撃手段はあるが、魔法はリッチーに敵わない。弓矢は相手に届くまでに重圧で地面に落ちる。その状況では、この方法に賭けるしかなかった。

 

「……そこの騎士に賛同する気は無いが、もう終わりにしよう。かすみ、魔法の事は全て忘れて暮らしなさい」

 

 立ち上がるのが精一杯のかすみにリッチーの手が伸びている。このまま、何もしないで負けたくないと、心は折れてはいなかったが、魔法を撃とうにも目の前のリッチーには、魔力を封印され全力を出せない自分では、魔法を使うだけ無駄なのも理解している。それでも……。

 

「絶対に……諦めたり……しないから! スティンガー――」

 

 娘の魔法を自分の魔法で打ち消せば、後は魔力の源を奪い取るだけ。それで終わると、そう考えていたリッチーに……、いや、その場の全員が上空からの叫び声を確かに耳にしていた。

 

「俺の可愛いかすみを……、イジメてんじゃねええええええ!!!」

 

 正に急降下。垂直に落下しながら、星の重力によって加速して中年の騎士に真っすぐ右足を伸ばして蹴り抜こうとする人影があった。上空数十メートルからの流星の如き垂直落下蹴りではあったが、あまりにも軌道が真っすぐ過ぎたこともあり、直撃には至らなかったものの、騎士の鼻先に掠ったらしく彼の顔から少々の出血が見受けられ。

 

「重圧が……消えた!?」

 

「これで……動けるわ!」

 

 カズマ達も立ち上がり、重力の圏内から離脱。どうにか仕切り直すことが出来た。そして、落下してきた声の主の方へと目をやると。

 

「ユウ……? みすてぃと融合していますし、杖や剣も持っていますが……」

 

「いつもと防護服も違います……。左半身に装甲が集中している様な……。いつものコートじゃなくて、左側だけにマントを羽織ってますし……」

 

 そう、めぐみんやゆんゆんの言う通り、今の俺はみすてぃと融合し、マリエルさんから受け取ったデバイスも二刀流の様に携えている。しかしながら、一番の違いは。

 

「ロード! バカなんですか!? 今の自分の状態は分かっていますよね? 基本的に防御は左半身に装甲を集めたバリアジャケットで、攻撃は装甲の薄い右腕側でとは言っていましたが、どこに真っ直ぐ突っ込む人がいるんですか! もう一度言います、バカなんですか!?」

 

「……かすみがあんな事されて……トラウマになったらどうするんだ? そんな装甲云々とか、それに比べれば小さい事さ」

 

 みすてぃから凄まじく辛辣なツッコミがあったが、そんな物は気にしてはいけない。

 このバリアジャケットの意匠は、魔力がほとんどない俺の代わりに、融合したみすてぃがその魔力で造り出しているので、彼女に負担を掛け過ぎないための措置だったりする。

 

「よう、遅くなったが俺も混ぜろよ。そっちのおっさんもだが、特にリッチー! 今から利子付けて借りは返すから、覚悟しろ!」

 

 俺に蹴られて、鼻血を垂らしている騎士は怒りからか小刻みに震えているが、もう一人のリッチーさんの方は、ありえない人間を見詰めている様に、こう言い放った。

 

「……君は……、()()は……正気か!?」

 

「人に襲い掛かって来たリッチーに、正気かどうかを問われるのは心外ですが? 頭もはっきりしてるし、この格好だって計算ずくでやってるつもりだ」

 

 俺の回答にリッチーさんは、怒りが混じった声を発していた。

 

「……その髪と瞳の色の変化は分からないが、単体ではなく何かが入っているのは感じ取れる。それよりも……、その持っている武器から発している大容量の魔力は……!? 君は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!? そんな()()ぎの様な状態で無茶をしてまで、僕と戦うと!?」

 

 うーむ。このリッチーさん、一目見ただけで俺の今の状態を的確に把握しちゃったよ。流石はチート持ちってところか。

 

 リッチーさんの言う通り、今の俺はほぼ全てが外付けで成り立っている。バリアジャケットや飛行の為の魔力はみすてぃから。それだけでは戦闘に使う分はそこまで多くはないので、それに関してはひょいざぶろーさんが作製したカートリッジを使うといった寸法だ。

 ちなみにひょいざぶろーさんの造るカートリッジは、既製品のカートリッジシステムで使用すると、弾丸内の魔力を全て使えずに余った魔力がヘンテコな効果を出すので、それに関しては魔力を全て消費できるような特注品にして、おかしな効果が出ない様にはなっている。

 そして念のため、インフィニティチェインとリヒトヴォルフの管制はバリアジャケットと一体化したファルシオンに担当して貰っている。俺だけでは戦闘しながらのコントロールは難が出る可能性もあったのだ。

 

「……お前は……なんつー無茶苦茶してんだ!? ひょいざぶろーさんのカートリッジが欲しいって聞いた時点でおかしいとは思ったが……」

 

「これだって悪くないだろ? 左右非対称ってのもカッコいいと思うけど……」

 

 カズマ達の元へと合流して、反撃のための算段を構築しようとしてた。ついでにさっきの蹴りの時に分かった事もあったので、カズマに対してそれを教えると。

 

「――それ、マジか? だったら……どうにかなるかもしれないが……、リッチーの方が邪魔になるぞ?」

 

「なら……、リッチーの相手は俺がしようか。丁度あの人には、大事な話があったしな」

 

「……いいのか? いくら俺がクズマだのカスマだのと呼ばれてたって、今のお前を一人で戦わせるのは、ありえない選択でしかないんだが……」

 

 カズマだけでなく、こちらの仲間達全員が俺を心配しているのが表情だけで良く分かってしまう。その考えを吹き飛ばすように。

 

「大丈夫だって。俺は何の勝算も無く、あんなおっかないのと戦う気なんて無いって。だから安心して行ってこい」

 

「……はあ。分かったよ! 良いか! そこまで言うなら絶対に勝て! じゃなきゃ、承知しねーぞ!!」

 

 カズマがもうこいつは言っても聞かないってな感じで納得し、めぐみん達やかすみを連れて騎士の方へと仕掛けようとしていた。そちらへ行くのをちょっとだけ待って貰うように頼んでから。

 

「……かすみ、さっきの啖呵、嬉しかったよ。俺もあのおっさんには割と頭に来たから、思いっ切りやって良い。俺が許す!」

 

「うん! 行ってきます!!」

 

 元気よく返事をしたかすみを見送り、俺の元からカズマ達が十分離れた事を確認してから。

 

「さて……、俺達は場所を変えようか。出来ればこんな戦いは、かすみには見せたくはないからな」

 

「良いだろう。それに関しては僕も同感だ。あの子に君が叩きのめされるシーンを見せるのは忍びない」

 

 俺が叩きのめされる……ね。言ってくれるなあ、この人。

 

 俺はカートリッジを消費して、高速移動をしながらその場を離れ、それに身体強化のみで当然のように付いて来るリッチーさんに畏怖を覚えながらも、相手を見据えて戦闘を開始した。




作中でもありますが、今回の主人公のコンセプトは『継ぎ接ぎ』です。
最低限の魔力はみすてぃから提供。それ以外は両親のデバイスに搭載するカートリッジ(ひょいざぶろー製)で補っています。
それの管制をファルシオンがやってるような感じです。

ひょいざぶろーカートリッジの効果に関しては、66話に出ていますが、それが表に出ないような措置を行っています。

次回は主人公ではなく、カズマさん達から始まる予定です。
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