この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
俺とダクネス、クリスが廃城探索を終えた数日後……、
「おい、もう一度言ってみろ」
カズマが怒りを抑えながら、文句を言ってきた金髪の男に問い返していた。
「荷物持ちの仕事だと? 上級職が揃ったパーティーなんだから、もう少し仕事に挑戦できないのかよ? 大方お前が足を引張ってるんだろ? なあ、最弱職さんよ?」
俺たちが荷物持ちの仕事を探していたのは、カズマが冬将軍に殺されて、まだ激しい運動を控えた方がいいってだけなんだが、そうとも知らずに目の前の男はカズマに好き放題文句を言っていた。
カズマはカズマで最弱職についているのを気にしてか、何も言い返さないでいた。
それを萎縮と受取ったのか、金髪の男は、
「何か言い返せよ最弱職。ったく、いい女を三人も連れて羨ましいぜ。しかもお前意外全員上級職と来てやがる。さぞかし毎日、このお姉ちゃん達相手にいい思いしてんだろうなぁ?」
その言葉で、ギルド内に爆笑が起こったが、俺たちが以前ベルディアとやり合った事を知っている者達の中には注意してくれる人もいた。カズマもそれを見て、拳を握って耐えている。
「カズマ、相手にしてはいけません。私なら何を言われても気にしませんよ」
「そうだカズマ。酔っ払いの言う事など捨て置けばいい」
「そうよ。あの男、私達を引き連れてるカズマに妬いてんのよ。私は全く気にしないからほっときなさいな」
めぐみん、ダクネス、アクアが止めに入り、俺も続く。
「そうそう。朝から酒飲んで酔っ払って喧嘩売ってるヤツに構うことないって。こっちにはこっちの事情があるんだから気にすんな」
子供の時、なのは達と一緒にミッドチルダ地上本部に言った際、陸の管理局員に似たような事を言われたのを思い出し、少し頭にきたのでカズマを止めるついでに挑発交じりで金髪の男にも聞えるように声を出した。それを聞いた男はこちらにイラついた様な視線を向けるが、
「やめなって。あの人こないだデュラハンと一人でやり合ってた人だよ。あんたの敵う相手じゃないよ」
おそらく、男のパーティーメンバーであろう黒髪でポニーテールの少女に止められていた。
……いっそ掴みかかって来れば、正当防衛ってことで押さえつけたんだけどな。世の中そううまくいかないか。
金髪の男は俺から視線を外しカズマの方を向くと、
「上級職におんぶに抱っこで楽しやがって。苦労知らずで羨ましいぜ! おい、俺と変わってくれよ兄ちゃんよ?」
この言葉にカズマは切れて、絶叫した。
「大喜びで変わってやるよおおおおおおおおおおおっ!!」
カズマ、これは切れていい。その後もカズマはいい女はどこにいるかとか言って、うちのパーティーの女性陣は困惑していたが俺はというと、
「ユウ、なぜ笑いを堪えているのですか?」
「そうよ、カズマがあんな事言ってるのよ。何で笑ってるのよ?」
「カズマを止めなくていいのか? このままだと……」
めぐみん、アクア、ダクネスが俺の様子を見てうろたえていた。
……だってさ、俺がもしカズマの立場なら同じ事言うし、あの金髪の男がどんな眼に遭うかも大体想像できるからな。
結局、金髪の男……ダストが一日だけカズマと交代でパーティーに入ることになったのだが、
「お前もこっちに来るか? ユウ」
「いいや、俺はアクア達と一緒行く。こっちの方が面白そうだ」
……後にカズマは語る。この時の俺には、悪魔の角と羽と尻尾が生えていた……と。
そうして俺たちは、何故か街の近くに湧いたゴブリン退治へと赴くこととなった。
「もうちょっとこう、ドカンと稼げる大物にしない? 一日だけとはいえ他所にレンタルされるカズマに、私達が日頃どれだけありがたい存在か見せ付けないといけないの」
……アクア、威勢のいい事言ってるけど、俺たちの背負ってる借金は、お前が考えなしに洪水を起こした結果なんだよ。
ダストに対し、アクアが難癖をつけて難易度の高いクエストにしようと言いだしたが、
「あんたらが実力があるのは分かるが、俺の実力が追いつかねえよ。まあ今回は無難な所で頼むよ。……ところであんた、武器も鎧も持っていないが、まさかその格好で行く気なのか?」
「大丈夫だ。硬さには自信あるし、武器を持っていてもどうせ当たらん」
そうだね、ダクネス。いっそ剣持たないで殴った方がいいかもね。
ダクネスの言葉を聞いたダストは一抹の不安を覚えたようだが、あまり気にせずに俺の方をを向き、
「あんた、さっきリーンから聞いたんだがデュラハンと一人でやりあったんだってな! あんたがいればゴブリン退治なんて楽勝だろ?」
さっきダストを止めていた少女はリーンという名前らしい。それはともかく、俺はダストに向かって満面の笑顔で、
「俺は今日一日使い物にならないと思うから、人数には入れない方がいいぞ。大丈夫! なんたって俺以外にも上級職が三人もいるパーティーなんだからな」
「……は? それってどういう……?」
俺の言葉を聞いたダストがおんぶについて疑問を持ったようだったが、うまく誤魔化しクエストへと出発した。
街から出て、ゴブリンを探しながら草原を歩いていると、
「なあ、あんたらの職は分かってるがスキルはどうなってるんだ?」
ダストの疑問はもっともだろう。上級職とはいえ俺たちはまだ駆け出し、現在どんなスキルを振っているかを確認しておかないと、差支えるおそれがある。
俺たちが顔を見合わせているとまずはアクアから、
「私はアークプリーストの全スキル習得済みよ! 回復や支援、もし死んじゃっても蘇生してあげるから安心しなさい!!」
アクアがエッヘンと胸をはり、自分のスキルを鼻高々に説明する。
「私は防御系スキル、各種状態異常耐性等だな。ただ攻撃は当たらないので盾代わりにしてくれ」
ダクネスは初めて俺たちと会ったときのように、自分のスキルを説明していた。ダストはダクネスが攻撃が当たらないと言っていたのを気にしていたようだったが。
「俺はアークウィザードだけど、オールレンジで対応可能だし捕獲なんかもできる。ただ、さっき言ったように今日は人数に入れない方がいい」
「そっちの金髪のあんたは防御力が凄いんだろ。それに攻撃が当たらないっても他のメンバーが補えるし、いいじゃねえか!」
俺たちのスキルを聞いたダストは興奮していたが、恐らく予想以上だったのだろう。そうして最後にめぐみんが、
「私は爆裂魔法が使えます。というより爆裂魔法しか使えません」
うん。ちゃんと大事なこと言ってるな。最初に会ったときは、爆裂魔法しか使えないのは聞いてなかったんだよな。
「爆裂魔法ってアレだろ! 最強の攻撃魔法なんだろ! そりゃスゲー!!! なんでアークウィザードが二人いるのかと思ったら、汎用性重視と高火力持ちで役割分担ができてるからか」
ダストはめぐみんが爆裂魔法を使えると聞いて褒めちぎっていると、
「ならば、我が爆裂魔法をこの場で見せてあげましょう。とくとその眼に焼き付けてください!」
ダストに褒められて調子に乗ってしまったのか、めぐみんがここで爆裂魔法を見せると言って詠唱を始めてしまった。
めぐみん、予想通り……いや、ゴブリン一匹いないここで爆裂魔法を使うのは予想以上だ!
そうしてめぐみんは詠唱を終えると、
「『エクスプロージョン』ッ!」
爆裂魔法の轟音が響き渡り、大爆発の中心点にはクレーターができていた。相変わらず凄まじい威力だ。これを毎日撃ってるんだから恐れ入る。
そうしていると、めぐみんがその場に倒れたので、すぐにおんぶする。
「ユウ、今日の爆裂魔法はどうでしたか?」
「80点ってとこだな。ほとんどアドバイスするところも無いよ。最近はこんな感じで安定してるし、後は基礎能力の強化でコツコツ頑張るしかないかな」
「そうですか。爆裂は一日にしてならず……ですね」
俺の背中のめぐみんはそう言うと、消耗した魔力と体力の回復のために眠りについた。
「なあ、その娘どうしたんだ? いきなり倒れたけど……」
「爆裂魔法は消費魔力が多すぎて一日一回しか使えないんだ。でもって使った後はこうして動けなくなる。最初に言ったろ、今日俺は使い物にならないって」
俺の言葉を聞いたダストはうろたえていたが、
「心配しなくても大丈夫だって! 俺とめぐみんはもう使い物にならないけど、最高の硬さを誇るダクネスと魔剣のソードマスターを一撃で沈めた『ゴットブロー』の使い手アクアがいる。ゴブリンくらいどうにかなるさ」
不安な表情をするダストを勇気付ける。本当はめぐみんをおんぶしてても、魔法撃つくらいわけないけど、それは内緒だ。
そうして草原を進んでいくと、遠くから全身黒い体毛で覆われ、大きな二本の鋭い牙を生やしたサーベルタイガーの様なモンスターが現れた。
「ダスト、俺あのモンスター初めてみるけどアレはなんだ?」
「……あれって、初心者殺しじゃねーか。逃げるぞ!!」
初心者殺し。ゴブリンやコボルトといった比較的弱いモンスターのそばをうろうろして弱い冒険者を狩るモンスターらしい。しかもゴブリンの群れを定期的に追いやり狩場を変える狡猾なヤツなんだそうだ。
イレギュラーが起こったダストは逃げる気でいたようだったが、
「……ここで初心者殺しとは、鎧も着ていない状態でヤツに噛まれれば、一体どれほどの……!」
さすがダクネス、この状況でもブレないな。まぁ爆裂魔法耐えれるダクネスなら、ほっといても酷い怪我にはならないか。
「おい! あのクルセイダー鎧も着ていないのに初心者殺しに突っ込んでいったぞ!」
「ダクネスはクルセイダーだからな。鎧がなくても身を挺して俺たちを守っているんだ!! どうだ! 騎士の鏡だろう!!!」
ダクネスの性癖は知っているが、キリッとした表情で白々しくダストに説明をする。だってクルセイダーは守るのが生業の職業って言ってたし、間違ってはいないからな。
そうしている内に、初心者殺しに噛まれていたダクネスがグッタリしていた。見たところ、大した怪我もしていないようだが……。ああ、噛まれたのと涎まみれになったのと重なって別の意味で気絶したか。
ダクネスの体が硬すぎて、獲物には適さないと感じたらしい初心者殺しは今度は俺の方を向き、まっすぐに突っ込んできた。
狙いは俺じゃなく背中で寝ているめぐみんか。確かに今のめぐみんは格好の獲物だが……。
初心者殺しが横に飛び、めぐみんの首筋に狙いを定めて噛み付いてきたが、うまく避けてそのまま初心者殺しの顔面にカウンターで蹴りを叩き込む。
予想外の反撃で後ずさった初心者殺しは俺たちを獲物にするのは無理と思ったのかダストの方へ向かっていった。しかし、アクアが立ちはだかり、
「神の前に立ち塞がったこと、地獄で後悔しながら懺悔なさい! 『ゴットブロー』ッ!! ゴッドブローとは女神の怒りと悲しみを乗せた必殺の拳! 相手は死ぬ!」
懇切丁寧にゴッドブローの説明をしながら初心者殺しに殴り掛かっていった。
しかし、初心者殺しはヒョイっとアクアの拳を避けて頭へ噛り付く。
これは流石にまずいか……。
そう思い、魔法を展開しようとしたところ、初心者殺しはアクアに噛みつくのをやめて、再度ダストの方へ向かう。アクアはというと歯型が残り涎が掛かっていたが大した怪我は無い。ただし穢されたとか、自分の信者が見たら幻滅するなどと言って大泣きしていたが。もしかしてアクアって美味しくないんだろうか?
そしてダストはというと、
「誰かあああああ! 助けてくれええええええ!!」
初心者殺しに追いかけられながら絶叫していた。割と余裕がありそうなので、ヤバくなるまでほっとこう。だってカズマと交代したいって言ったのはダストだし。
しかし懐かしいな。子供の頃はこんな感じで狼形態のアルフやザフィーラと鬼ごっこやかくれんぼをやったなぁ。
※彼の言っている鬼ごっこやかくれんぼは市街地の訓練場で飛行あり、魔法ありでのONIGOKKOやKAKURENBOです。もちろん捕まったり、見つかったりするとペナルティで訓練が追加になります。
しみじみと昔の事を思い出しながらダストへと、
「ダスト頑張れ! 限界を超えればきっと今より強くなれる。初心者殺しの体力だって無限じゃない。あっちが諦めるまで逃げ続けろ!」
俺の言葉を聞いたダストは絶望の表情を浮かべ、
「ちっくしょうううううううう!!!」
声にならない声を上げながら、初心者殺しが諦めるまで逃げ回っていた。やればできるんだな。
初心者殺しから逃れた俺たちはギルドへと到着した。めぐみん、ダクネスは気絶してそれぞれ俺とアクアにおんぶされている。アクアは歯型がくっきりついてまだ泣いたままで、ダストはめぐみんの杖を借りてようやく歩いていた。そうして休んでいるうちにカズマ達もギルドへ戻ってきた。
カズマ達の方は全員が満足した表情をしていたが、俺たちの様子を見るなり何があったのか察したようで、ああやっぱりかという表情をしていた。
その後、歩くのもやっとなダストがカズマに懇願して元のパーティーに戻っていった。
後日、ダストのパーティーのテイラーとリーンが俺に話しかけてきた。
「最近、ダストがやけに大人しいんだが何をしたんだ?」
「セクハラ発言もしないし、お金も借りに来ないし助かってるのよ。どうやったの?」
「俺はダストを暖かい眼で見守って応援してただけだ。特に何もしてない」
二人は俺の言葉を聞いて感心したような表情をして、
「じゃあさ、ダストがまた悪さしたらユウに預けていい?」
リーンに構わないけど……、と言おうとしたところ、
「頼む! やめてくれ!! コイツといたら命がいくつあっても足りねえ!! 迷惑かけないようにする!!! だからそんなこと言わないでくれ!!!」
テイラーとリーン縋るように懇願するダストだが、俺を見て一気に顔が青ざめていき、全力でギルドから逃げていった。
……少しやりすぎたかな?