この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
騎士を捕縛し、仲間の元へと急ぐカズマだったが、追跡に赴く前のウィズ魔道具店でのやりとりを思い出していた。それは――
「あの……カズマさん、あの方のやろうとしている事をどう思いますか?」
「どうって……?」
ユウがウィズ魔道具店を去り、紅魔の里へと向かっている最中、カズマはウィズに呼び止められていた。
「あのうっかりリッチー、確かに娘も大事だが、魔王軍への敵対心も強い。何せ冒険者であった頃は、ノイズで『セイタンクラッシャー』と恥ずかしい二つ名で呼ばれる程の魔法使いでもあった」
「何だよ、その……紅魔族みたいなセンスは!? ノイズってのはどんな国だったんだよ!?」
「あのネタ種族発祥の国である。その程度で驚いてどうする?」
魔道大国のイメージが少しだけ崩れてしまったカズマだったが、そんな物はお構いなしとばかりにウィズが話を続け。
「あの方、店を立ち去る時に、私達に向けて……、”もし、人間に危害を加えるなら容赦はしない。”と言って、凄まじい威圧感を出していました。私達も魔王軍幹部という事で、完全に信用していないみたいで……」
「我輩の場合、元幹部ではあるが、かつてのおちょくりを恨まれておる様だった。あそこまでの逸材は、貴様の所のポンコツ魔道士以外は会った事が無い」
ウィズはともかく、バニルに関しては自業自得とも言えるが、フードのリッチーはかつて魔王軍と激しい戦いを繰り広げたせいか、今でも魔王軍を敵視しているらしい。
「せめて、娘が平和に暮らせるように……、危険になりそうな存在は排除したい……。といったところでしょうね。現状は停戦状態だけど、どこでどうなるか分からないから……」
「それは……、おかしくないか? かすみが平和に暮らすために、かすみの魔力を使って魔王軍を倒すとか……」
カズマが感じた矛盾は最もであり、まるで整合性が取れていないように思える。
「私は……分からなくもありません……。冒険者だった頃は、魔王軍は恐怖をまき散らす存在でしかありませんでしたから。それをどうにかできるのなら……と」
「そして、それとは別に、親バカリッチーの娘に対する態度は、小娘自身を映しておる物でもある」
ウィズは冒険者だった時代を思い返していたが、不意に紡がれたバニルの言葉に首を傾げてしまったカズマだった。それを見透かしたように。
「貴様等人間はよく言うだろう? 人と人は合わせ鏡だと。あの
もしかすみに魔法を使う力がなかったら、もしノイズに生まれなかったら、もし魔王軍を倒し、平穏が手に入るなら――
そんな仮定は無意味だ。現にかすみは今この世界で暮らしている。昔がどうだろうとその事実は変わらない。
「それは……、今更言ったって……、どうしようも……」
「その通りだ。しかし、それをどうにかしようとしているのが、あの異世界人リッチーである。その力を娘の為だけに使い、目的を果たそうとしておる」
かすみの為だけにアンデッドになってまで百年以上の時を過ごして来た……。その重さを想像するだけで、自分が立ち入って良いかと躊躇してしまう。そんな感情がカズマの中にあった。
「カズマさん……、バニルさんはこう言ってますけど、ユウさんとカスミさんもそうなんですよ」
「……? あの二人が?」
リッチーとかすみがお互いを映している存在。それは何となく理解したカズマだったが、兄妹として暮らしている二人は……シスコンとブラコン位の共通点しか思い浮かばなかった。
「あの二人は……そうね。お互い街一つは簡単に滅ぼせる力を持ちながら、そんなのはどうでも良いみたいに、普通の暮らしをしているでしょ? 少なくともこちらに居る時は。それも……多分、彼だけじゃくて、あの子の願いでもあるのよ」
ウォルバクの言う通りなら、二人共、かすみを正しく映している。何の力も無い少女として暮らしたいという願いと、その力を持ちながらでも何気ない日常を過ごす……、そんな望みを。
「まあ、大層な事を言ったところで、要は親バカとシスコンの意地の張り合いである。大の男二人が幼女を取り合っておる状況だ。フハハハハハ!」
「み、身も蓋もない言い方だな……」
バニルの取りまとめに少しばかり引いたのを、思い返しながら、一人でリッチーと戦う仲間の元へ急いでいた。
「はあ……はあ……。ふう……」
俺の周りには、砕け散った骨やゾンビだった物の残骸等が転がっている。あのリッチー、自分では手は出さないで、アンデッドを使役して俺を消耗させようと考えていたらしいが……。
「……その状態とはいえ、有象無象のアンデッドでは相手にもならないか」
「おい、始末しちまった俺の言える事じゃないが、仏さんはもっと丁寧に扱え! ったく、後でアクアに浄化して貰わないと……」
「君も結構……、細かい事に拘るね……」
俺の物言いに少しばかり呆れた様なリッチーさんだったが、このままでは埒が明かないのが理解できたらしく。
「仕方ない。出来ればアンデッド達で決着を付けられれば良かったのだが、そうもいかないようだ」
「お優しい事で。けどな……、いくら魔力が無くても、あの程度でどうにかなると侮られていたのは、正直頭にくる……」
「僕ならば、今の君を始末するのは容易い。こう見えても最上位のアンデッドだからね。そんな事をする気は無かったのだが、そうも言ってられないか。もし……、死んでしまっても恨まないでくれ」
リッチーはフードを外し、こちらの出方を伺っているが……、やはり顔立ちは日本人そのものだった。冒険者時代は魔法使いとして最強クラスだったらしいウィズがリッチーになって先代魔王以上の実力者となっている。
なら……、チート持ちのこの人がリッチーになって、どれほどの力を得ているか、少なく見積もってもウィズと同格以上と考えるのが妥当だ。
「ああ……、一つ聞いておかなければならない事があった。君は何故、あの子の魔力を奪うのを阻止しようとしている? それを行ったところで、あの子の体には何の影響も出ない。それは自分自身で分かっているだろう?」
「あんた……、本当にかすみの父親か? 魔力を奪って、それで魔王軍と戦ったりしたら……、直接自分が手を下してなくったって、かすみがどれだけ傷つくか……。昔はどうか知らないが、かすみは先代魔王さんとも仲良いんだ。そんなのさせるわけにはいかないんだよ!」
自分の娘の名を聞き、どことなく胸が締め付けられる様な表情を浮かべていたリッチーさんだった。彼が重苦しい空気を纏いながら。
「……君は、あの子を守り、それと同時に魔王軍と人間の争いが始まるのを、その魔力も無い体で防いでみせるとでも言うのかい? どちらも見捨てはしない……と? しかも僕相手に」
「やるだけやってみるさ。どれだけ無様だろうと、どれだけ無謀だろうと……、物分かり良く諦めるなんてのは俺の中には無いんだよ! 友人が言うには、俺は馬鹿じゃなくて、大馬鹿らしいからな。けど、あんただって……」
かすみの為にリッチーに成り果ててまで、悠久の時を過ごしてきた。そっちだって俺と同じなんじゃないのか。
その言葉を飲み込み、目の前の相手の挙動を見逃さないように注視していた。
お互い言葉で語るのはもう終わりとばかりに、俺は杖を構えて、あちらは魔法の詠唱を開始する。
「闇色の雷撃――」
上級魔法、『カースド・ライトニング』。詠唱が完成してからの回避は困難。とはいえ、手が無いわけではない。
「『カースド・ライトニング』……。おや?」
リッチーさん、自分の狙いが狂ったのかと目を丸くしている。俺に向かって一直線に落ちるはずの雷撃が、先程ゾンビ達と戦っていた辺りに落ちていたのだ。
「君は……、そうか、落雷誘導の魔道具でも持っているのか。そんな手品は何度も通じはしない」
もうヤダ、この人。一回で見破っちゃったよ。防御フィールドに回す魔力だってもったいないから、アイテムも持てるだけ持ったってのに。
スクロールを設置して、その場を離れる時に、懐に入っていた紙のような物が風に乗ってヒラヒラとリッチーさんの所まで届いていた。それを手に取り、ジッと見詰めてしまっていたが――
「こっ……これは!? かすみの……浴衣姿!? か、かわいい……」
リッチーさん、その写真を見てワナワナと震えていた。夏の花火大会の頃に仕立てた浴衣を着せた時の写真だったのだが、あの祭り、かすみもその格好で頑張って虫を追い払っていた。
「……こんなのもありますが?」
戦闘中ではあるが、別の写真を投げ渡して、娘の成長を見せる位は良いかなと思ってしまった。この人にはリンカーコア奪われた以外の恨みは無いし。
「こっちは振袖!? ドレス姿……。これは……カエルさんの着ぐるみパジャマ……だと!?」
かすみがお洒落しているのが、余程意外だったようだ。まあ、こっちと日本で子供のための行事は違うだろうが、俺の場合は色んな世界を知っているので、結構ちゃんぽんでもある。
だが、それとは別に、目の前のリッチーに。
「どうだ! かすみは可愛いだろ! 浴衣とか、わざわざカスミソウの柄にして貰ったり、着ぐるみパジャマはウサギさんとか、ネコさんやクマさんだってある!」
写真だけではなく、うちの妹が持っている衣服について高らかに語っていると、リッチーさんは我慢ならないとばかりに。
「うちの娘で何してるんだ!? 君って奴は!?」
「父親面する気ない癖して、今更、俺の妹が可愛い格好してるのが羨ましいんですか? そうならそうと言って下さいよ。俺の妹が可愛いって」
ひと際、”俺の妹”の部分を強く発音して、かすみは俺のだと主張しようとしていたが、あちらは、そんなのは関係ないとばかりに。
「ふっ……。僕だって、昔……、あの子に”お父さんのお嫁さんになる!” と言われ……」
そんな親子の定型文みたいので心を乱す程、俺のメンタルは脆くはない。そのはずだったのだが。
「……頬っぺたにチューされたのだよ!」
「なっ……なんだってえええええ!?」
ほっぺにちうは、流石に今のかすみには気恥ずかしいかも知れない。そこは幼少期を共に過ごした者のアドバンテージだという事か!?
先程まで勝ち誇っていた俺が、がっくりと肩を落としてしまったので、リッチーさんは満足したらしいが、こちらもこのままで済ますわけにはいかないのだ。
「こないだ……、かすみが作ってくれたモーニングセットとか……、あれは良い物だった。心を込めて作ってくれたのが伝わって来たからな!」
まあ、初めてだったからそれなりに失敗していた部分もあったのだが、それを差し引いても一生懸命さが伝わって来ていたのだ。
「そ……そんな!? 料理なんてまだ早いと思って作らせていなかったというのに、手料理とは……、何て羨ましい……!?」
リッチーさんの反応からして、手料理を食べた事は無かったらしい。成長してから、できる事だってあるのだよ。そこ関しては俺が先を行っている。それが分かっただけでも十分だ。
一人は魔法適性を強化されたチート持ちにして、最高位のアンデッドであり、もしかしたらそこらの魔王軍幹部だって敵わないかもしれない存在と、一人は魔力の大半を失っているとはいえ、次元世界の安定を守る時空管理局が誇るSランク魔導師が、女の子一人を引き合いに出して下らない争いをしている。
『みすてぃ……、ツッコまなくて良いのでしょうか?』
「ロード一人でも大変なのに、あちらの方も同レベルとあっては、私の処理能力を超えてしまいますから……、無理です!」
インテリジェントデバイスと融合騎――両方がそれぞれバリアジャケットや術者と一体化した状態ではあるが、自分の主とその敵対者に対して、どうしたらいいのか分からなくなってしまっていた。
「俺の方は髪型だって色々やってあげてるんだよ! ツインテールだったり、おさげだったり、お団子だったり! 『ブレイズカノン』ッ!」
「確かに髪型は母さん任せだったが、僕は魔法の応用を教えたりしていたのだよ! 獲物を捕まえる方法や、風の魔法で落ち葉を集めてから火を付けて焼き芋や、燻製を食べさせたことがある! 『インフェルノ』ッ!」
「かすみがちょい野生児っぽいのは、てめえのせいか! 道理でおかしいと思ったんだ! あんな子供が魔法トラップ使って獲物を捕まえる方法なんてのを知ってるとか!! 『スティンガーブレイド』ッ!!」
「この世界で生きるには、その程度は必須科目だ。蝶よ花よだけでは、行き詰る事だってある!!『トルネード』ッ!」
実の父親と現在保護者の義兄が、少女一人についての言い合いをしながら、魔法ぶっぱを繰り返している。言動だけ見れば下らない内容なのだが、彼らの周辺の地形は無残にも抉れ、魔法によって斬り裂かれ、焼き尽くされ、ぺんぺん草一つ生えない不毛の大地と化してしまっていた。
後にこの場所を訪れた旅人はこう言っていた。ドラゴンとケルベロスとグリフォンが同時に暴れても、ここまでの被害は出ない……と。
「争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない……。とはよく言ったものです……」
『性格もそうですし、言い争いしながら魔法を撃っているところが……、そっくりですね。このお二方』
デバイス達は、黙って事の成り行きを見守っている。ツッコミ不在の恐怖ではなく、ツッコミ放棄の脅威がますます周囲の被害を甚大にしていた。それがしばらく続き。
「おい……、あんたどれだけ余裕あるんだよ……。こっちはギリギリだってのに……。はあ……、ふう……」
「ふっ……、こ、これでも『アンデッドの王』だから……ね。君こそ、本当に人間か? と……いうか、その魔力、残滓だけとはいえ、やはり直撃するのは危険のようだ。理屈は分からないが浄化の力を持つとは……」
この場合、アクアに感謝するべきなんだろうなあ……。あちらも俺の魔力を警戒して、不用意に近づけないでいる。とはいえ、このままじゃあ俺の方がじり貧なのは火を見るより明らかだ。
……想定通りとはいえ、やはり賭けに出るしかない……か。
「……君は、それは……何のつもりだい? まさか僕相手に接近戦を挑むつもり……か?」
俺が
「その綱渡りの様な魔力運用法を、そこまで保たせているのは感心するが、それは……単なる自殺行為だ。もう引きなさい。結果が分かりきっている勝負をするまでもないだろう? あの子を悲しませるのも……、できればしたくはないのでね」
「嫌なこった! 結果が分かりきっている? 言っとくがな、俺の人生なんざ、綱渡りの連続なんだよ!! 周りは鬼才だらけだわ、魔法覚えて最初の頃から敵がラスボスみたいだわ、数えるのもキリがない……」
ほんと、よく死ななかったもんだ……。今から考えると震えが来るって。
「……そうか、どうあっても引く気がないのなら仕方ない。運が良ければ、動けなくなる程度で済む。そうでなければ、諦めてくれ」
双方、静かに相手を見据えていた。それは時間にして数秒程度だったはず。しかし、緊張か高揚かは定かではないが、俺にはその数十倍の時に感じていた。
不意に周囲の岩がガラッと崩れる音が聞こえていた。それに合わせるように、
「はあああああああッ!!」
俺はリッチーに向かって一直線に駆け抜けていた。
「ふむ。君の事だから、何か策があるかと思ったが……、自暴自棄の類か? いや……」
リッチーさん、俺が何の勝算もなく突っ込んで来ているとは考えなかったようで、一瞬俺の姿が消えたのを確認した後。
「……さっきの魔法の撃ち合いの際に、僕の後ろをテレポートの転送地点に登録していたか。……テレポートスクロールで任意に地点を登録できるのは少し驚いたが、その程度では」
……魔法の知識と技術で上を行ってる人に、これでどうにかなるとは思ってない。
(とはいえ、突進スピードが速すぎる。上級魔法では高速詠唱を用いても、迎撃には間に合わない……か)
あちらにしても、近接戦はそこまで得意ではなく、俺の魔力に触れてダメージを受けるのは回避したいらしい。
あくまで自分の懐に入られる前に決着を付けるつもりのようだ。
「『ブレード・オブ・ウインド』……」
あちらから放たれるは、五枚の風の刃。その軌道に合わせて。
「カートリッジ、両デバイス、全弾ロード」
両手に持つデバイスが薬莢を輩出し、俺の体に魔力が駆け巡る。アームドデバイスは茜色の魔力を纏い、ストレージデバイスからは、シールドが展開され、その双方を以って風の刃を相殺、または防御してリッチーへと接近を試みるが、まだ距離が遠い。
「……その弾丸の様な魔道具……、一気に使い切ったか……。再装填させる気は無い。『ファイアボール』」
今度は炎の中級魔法が俺へと向かって一直線に向かってきている。中級魔法とはいえ、その威力は並大抵の上級魔法を軽く上回っている。それに対して、装甲を集中させていた左半身を前面に向けながら、
「バリアジャケット、パージッ!」
『パージブラスト』
ファイアボールが着弾する寸前、バリアジャケットを切り離し、それを構成してる魔力を爆発させることで、相手の魔法を相殺してダメージを軽減させる。そして、その隙に二つのデバイスのカートリッジを再装填し、すぐさまそれを消費させて、魔力を上乗せをさせていた。
計12発のカートリッジ。その魔力を全てリヒトヴォルフの刀身へと集中させている。浄化の力を持つ魔力で斬り込まれてはリッチーと言えど無傷では済まないが、彼とて接近され、詠唱の時間が無くとも相手を倒す手はいくらでもある。
(あの斬撃は危険だが、何とか躱して『不死王の手』で触れれば、それで終わりだ。どの効果だろうと彼を無力化できる)
その考えで、リッチーさんは俺の体をただ触れようとしていた。あちらは刀身にしか魔力を集中させていない俺と違い、体のどこを触っても効果があるスキルだ。そして、リッチーさんの思惑通り、俺の攻撃を紙一重で躱し、その手で俺の肩をほんの少しだけ掠らせるように触れていた。
「これで終わり……。 何だ!? その剣に込めた魔力が……消えていない!?」
あちらは計算外とばかりに固まっている。その硬直が勝負の分かれ目となった。
「ファルシオン、カートリッジ……、フルロードッ!」
インフィニティチェインを投げ捨て、ファルシオンをデバイス形態にして、カートリッジの追加ロードを開始。その18発分の魔力が刀身に集中し、眩いばかりの光を放っている。
大出力の魔力を身体や武器に纏わせて攻撃する。古代、近代ベルカ式の基礎。それは基礎であるが故に、極めるのが困難な一撃でもある。
魔力を加えた武具だけではない。足の踏み込み、重心の移動、それらを下半身から上半身へと力を伝え、腕力を加算して一気に斬り伏せる。
「貫けえええええ!!」
その剣――『
「……俺の……勝ちだ」
一つのデバイスに20発近いカートリッジの魔力を集中させたためか、リヒトヴォルフは刀身が真っ二つに折れ、ひび割れてしまっている。膝をつきながら俺の姿を見上げていたリッチーさんは、しばらく動けない様子だったが……。
「……まさか、ここで『不死王の手』が不発に終わるとは……。僕も幸運値が高い方ではないが……、この土壇場でこれとは……」
「いや、確かにそのスキルは発動していたが?」
「嘘だ……、どんな状態異常にもなっていないじゃ……、これは……!? このステータスは!?」
不可解とばかりのリッチーさんに、カラクリを説明すべく俺の冒険者カードを投げ渡しながら。
「俺は……、”ここ”に来た経緯がちょい特殊でな。あんたらを導いた女神様が言うには、レベル1でも実質的なステータスは、レベル50相当らしい。だから、『不死王の手』で状態異常になっても、レベルドレインだったら戦闘は十分可能なんだ」
「確かに理屈はそうだろうが……、五つある状態異常で都合よくレベルドレインを引こうとするなんて……、分の悪すぎる賭けだ!」
確かに、言いたい事は分かる。……が、レベルドレインが最悪の状態異常だっていうのなら、話は別だ。
「あんたら追う前に、レベルドレイン以外の状態異常に対する対策はしてきている。けどな……、だからこそ、対策できなかった”レベルドレイン”を引いてしまうんだ! 幸運値一桁を甘く見るな! 本当にそうなって、内心がっくり来てるんだ!!」
「うちのロードは、ボードゲームは皆さんが敵わない位に強いのに、カードゲームになった途端、最弱になってしまうんです! 引いちゃいけないカードを引くんじゃないんです! そのカードが最初から配られているのが、うちのロードですから! 不運で対抗できるのはアクアさんだけです!!」
融合を解いたみすてぃが、俺の不運について胸を張りながら力説していたが、正直泣きたい。くすん……。
俺の不運解説に、同情からか一筋の涙を流していた様なリッチーさんだったが。
「……経緯はどうあれ、君の勝ちだ。さあ、止めを刺すといい。こうして動けないのは今の内だけだからね」
「浄化の力が弱まっているとはいえ、俺の魔力をいいだけ纏わせた一撃を喰らったんだから、しばらくは大人しくしてください。あなたには、ちゃんと会わなきゃならない人がいるでしょうに。死に急ぐ……、まあ、アンデッドだからもう死んでるけど、そんなのはもう少し待ってください」
そんなのを話しているうちに、カズマ達が息を切らしながら到着し、俺達の姿を見ながら。
「本当に……、その状態で勝ったか……。まっ……、お前の事だから不思議でもないか……」
「ここって……、地獄か何かかしら? 地上に見えないんですけど……。しかも何……アレ? 地割れみたいになってるわよ……」
俺とリッチーさんの戦闘跡地を目の当たりにし、アクアがおかしな感想を口走っていた。アクアの指摘した地割れの様な傷は、先ほどの斬撃の衝撃波で形作られたものだ。
「一言で言うなら……、届く距離まで近づいて斬った。……だけかな?」
「それをリッチー相手にやるお前はやっぱりおかしい」
「抜剣でなくともこれとは……。恐れ入る」
俺の解説に呆れた様なカズマとダクネスだった。とはいえ待っていたのは、この場で一番小さい女の子であり。
「かすみ……、ちょいこっちに来て。ちゃんと、顔を見せてあげないと」
「ちょっと待て!? そのリッチーの目的はかすみだろ!?」
カズマは信じられないとばかりに狼狽えていたが、この人にはもう、かすみをどうにかする様な事は出来ない。アクアの影響を受けまくって、残滓だけでもアンデッドを浄化できる俺の魔力を込めた一撃をまともに喰らってしまったのだ。このまま放置していても勝手に消えてなくなるくらいの状態だろう。
「せっかく、娘に会えたんですから……、言いたい事を言ってください。断っておきますが、少しでもおかしな事をしそうになったら、即座に撃ち抜きますので、そのつもりで」
かすみをリッチーさんの傍に近づけながら、インフィニティチェインを構えてはいるが、その様子を。
「何と言いますか……、素直ではありませんね? あのリッチーに娘とちゃんと話をさせたいだけで、ここまでしましたか……」
「全く、カスミの父親も、かなり歪んでいそうだが……。ユウも似たり寄ったりか……」
「ええっと……。お二人共……、もう少し素直になった方が……」
めぐみん達から、おかしな小言が聞こえて来ていたが、そこは聞き流して、再会した親子の様子を見守る事にした。
「あの……、おとう……さん?」
「かすみ……、いくつになった?」
どこでもある様な、それでいて、あの二人にとっては途轍もなく重い意味を持っている、そんな一言のように感じてしまう。
「えっと……この間、誕生日パーティーをして……、9歳かな? 屋敷のみんなだけじゃなくて、お兄ちゃんのお友達も来てくれて……」
「お兄ちゃん……か。そこの彼は……、どんな人だい?」
「わたしのお兄ちゃんで、魔法の先生で、わたしの魔力は……、お父さんとお母さんからの贈り物だから、大事にしなさいって言ってくれる人で……。あれ……何で……涙が……」
そこまでで、泣き出して言葉も出なくなっているかすみだったが、リッチーさんは俺の方を向きながら。
「その手に持っている魔道具を貸してくれないか? なに、この弱った体でも、彼の体に魔力の源を戻す事はできる……」
カズマがそれに従い、俺の魔力が封じられた魔道具をリッチーさんに渡すと、リンカーコアが飛び出して来ていた。アンデッドにとっては、触れるだけでも浄化されてしまう魔力を再び手に掴み、俺の体内へと戻していた。
「君には……、色々と負けっぱなしのようだ。この戦いもそうだが……、あの子の力を……大事にしなさいと言う人がいるなんてね……」
「言っときますが、今回の勝負に関しては、5対1……、いや6対1ですから、別に勝った気ではいません。まあ、一番は勝利の女神様がいたおかげですが」
俺とみすてぃとファルシオンと両親のデバイス、もう一つは……、と言おうとしたところで、『勝利の女神様』、そのキーワードに反応したのは、当然ながら。
「やっぱり、私のおかげよね! 私という女神様がいたから、勝利を掴めたのよ!!」
ドヤ顔で胸を張る水の女神様の戯言は耳に入れずに。
「もしも……、あなたが『不死王の手』じゃなくて、『ドレインタッチ』を使っていたら、俺の方が負けていましたから。『ドレインタッチ』なら、俺を死なせて、かすみを悲しませる可能性が高くなる。だから使うのを
「全く……、君って男は……。リッチーを単独で撃破しておいて……。そんなのを言うなんてね……」
もう消えかけているリッチーさんだが、アクア曰く、自分が浄化するまでもないくらい弱ってしまっているらしい。先程俺のリンカーコアを戻す時に、本当に最後の力を振り絞ったらしく、天に昇って行く光と共に体は透けて行き、最後に――
「かすみ……、幸せにな……」
「うん……! わたし……、幸せだよ……!」
目に涙を貯めながらも笑顔でそう答えたかすみを見ながら、満足そうな表情をして、天へと還って行った。
web版のチートスキルとも言える『不死王の手』の攻略方法の要が不運って……。
今回は、完全に地力で上回る相手でしたが、色々な要因が重なって勝てたといった感じですね。
次回でこの章も終わりになります。