この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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戦いの果て……

 そこは、地球で例えるならローマ時代の神殿の様な白い部屋に二脚の椅子が設置された部屋。

 その場に佇んでいるのは、ベルゼルグの国教にもなっているエリス教の御神体であり、この世界を担当する幸運の女神様だった。

 

「人間の生を捨て、戦い続けた勇者候補よ。ようこそ死後の世界へ。私はあなたに新たな道を案内する女神、エリス。この世界でのあなたの人生は終わったのです」

 

「ここは……、もう随分と昔になりますが……、来た事があります。あの時はアクア様だった気が……」

 

 リッチーとして浄化され、天へと還っていった男が目にしたのは、ゆったりとした白い羽衣に、長い白銀の髪と白い肌の少女。名前だけは聞き覚えどころか、どの街に行っても目についたエリス教の女神様と同じだ。

 

「あの……、ここは天界で間違いないですよね?」

 

「ええ。あなたは平和な日本から、この世界に来て下さり……、その後の事はともかく、生前のあなたのお力で救われた方々も大勢いらっしゃいます。そして……」

 

 エリスが何かを言いたそうに男の方をジッと見つめていた。それに不思議そうな表情を浮かべる元リッチーだったが……。

 

「まったく! 遅いわよ!! いつまで待たせるつもりだったの! 百年以上って待ちくたびれそうになったわよ!! エリス様が我儘聞いてくれたから良かったけど……」

 

「君は……!? どうして……!?」

 

「旦那と娘を残して、わたし一人だけ転生とか……、するわけないでしょ! 本当に……バカなんだから……」

 

 エリスの後ろから現れた長い黒髪を後ろで結っている女性は、怒っていながらもどこか嬉しそうに男へと詰め寄っていた。

 

「こちらの方は、ご家族を待つと言って聞かなかったものですから……、別室でお待ちいただいていました。あなたの奥様だったのですね。まさか、かすみさんのお母様だとは思いませんでしたが……」

 

「エリス様、本当にお世話になりました。うちの娘をご存知だったんですか? あの子は……、今……」

 

「元気に暮らしていますよ。私も違う姿で地上へ遊びに行った際にお会いしていますが、お兄さんやその仲間達とそれはもう楽しそうに」

 

 微笑を浮かべながら、彼らの娘について説明しているエリスだったが、かすみの父親は自分の妻を見ながら。

 

「やっぱり、あの子は母親似か……。アクセルで会った時は気付かなかったが……、あれは多分……、外見年齢を変える魔法のはず。一瞬、昔の君が現れたと思って固まってしまったよ」

 

「何せ、わたしの娘だもの! 可愛いに決まってるでしょ!」

 

 そんな二人のやりとりをクスクス笑いながら満足そうに眺めたエリスだったが、この二人をいつまでも天界に留めておくわけにはいかない。本来の自分の仕事は彼らに新たな生を与える事なのだ。

 

「……では、お二人共、これから転生の手続きを――」

 

 二人のいる辺りの床面に陣の様な紋様が現れた矢先、エリスにとっても、かすみの父親にとっても聞き覚えのある声が天界に響いていた。

 

《あー! テステス、ただいまお祈りのテスト中。アクア……、エリス教会来たけど、こんなので良いのか?》

 

 それはアクア達と共にいた黒髪の少年の声であり、唐突に聞こえて来た声に、その場の三人はポカンとしている。

 

《それで良いわよ。教会ならエリスが天界にいれば祈りは届くはずだから、ちゃんとお願いしなさい。ああ見えてエリスは悪魔やアンデッドには私以上に容赦がないの! この私が正規の方法で浄化したリッチーならともかく、イレギュラーで浄化されたのが行ったりしたら、冷たくあしらわれるかもしれないわ。もしかしたら、転生先が悪い所だったり……》

 

《それは困る。俺の体が動くうちにお願いをしておいた方が良さそうだ。経緯はどうあれ、かすみのために頑張ってくれた人だ。便宜を図って貰えるようにしないと》

 

 先輩女神さんがエリスについての不穏な言動を口走っていたが、それを聞いた日本人転生者夫婦は顔を強張らせ、エリスの方を向いている。

 

「ちょ……!? 確かに、ペンギンの着ぐるみ悪魔を毎日襲撃したりはしましたが、あなた方にはそんな事をするつもりはありません! 本当です!!」

 

 エリスは慌てながら弁解していたが、余計な一言で特に男の方は数歩後ずさっていた。

 

《やっぱりエリスなら、こうするのが――》

 

《そうか……、まあ、あっちの機嫌次第なら、それもやむなしか……》

 

 アクアとユウが何やら相談しているのが聞こえていたが、詳細までは分からない。しばらくして……。

 

《女神エリス様、どうかその日本人の男性に便宜を図ってあげてください。確かに彼はリッチーになってしまいましたが、それは娘のためを思っての行為です。それに罪があるというのなら、その罪とは一体何でしょうか?》

 

「心配しすぎですよ、ユウさん。あなた方の戦いを、ずっとこの目で見ていました。この男性はリッチーになった事自体には良い印象を持ちませんが、その目的については純粋なもの。邪険にしたりはしません」

 

 極めて真摯な祈りに、思わず返答をしてしまったエリスだったが、地上の祈りはこちらに届く。しかし天界の声は地上には届かない。これが悲劇の原因だった。

 

《もし……彼の転生先をおかしな所にしようとするなら、俺が今まで集めた資料を元に、『女神エリス様、豊胸への歴史』と銘打った資料本を作り、アクシズ教会へと提供します。ちなみに資料は王城で見つけた肖像画の他に、一度死んで蘇生された昔の人間の日記やアクアの証言を纏めたものに――》

 

 ユウはこんなのを祈ってはいるが、地上での彼の様子はエリス教会の像の前に跪き、目を閉じて手を合わせている。そんな凄まじく真面目なお祈りにしか見えないのだ。そんな様子を見ていた周りは……。

 

《お兄ちゃんのお祈り……、届くかな?》

 

《心配するな。エリス様なら、きっと聞き届けて下さる》

 

 かすみの問いにダクネスが微笑を浮かべながら、答えを返している。他には。

 

《エリス様だしな。ちゃんとお願いすれば大丈夫だろ》

 

《ええ……、あのリッチー、アンデッドになってまでカスミを救おうとしていた人物です。紅魔族としては、その生き様は格好良いと言わざるを得ません》

 

《一人の女の子の為だけに……かあ。少し憧れるかな》

 

 カズマやめぐみん、ゆんゆんの声まで聞こえて来ていたが、エリスの耳に入っていたのは、黒髪の少年の声だけだった。

 

《エリス様、慎ましいのは悪い事ではありません。むしろそれを気にしてのパッドというのも可愛いとは思います。俺的には、それはそれでありです!》

 

《エーリースー! その人は私がこの世界に導いたのよ! 邪険に扱ったりしたら、エリスの胸はパッド入りってばらすわ!》

 

 ここまでで、エリス様が笑顔ながらも凄まじい威圧感を纏いながら、天界にいる夫婦の方を向き、

 

「……私はこれから……、地上で大事な用事が出来ましたので……、転生は、もう少しお待ちいただけますか? 私がここへ戻る間……、ご夫婦で語らうのも悪くはありませんよね?」

 

その提案にコクコクと頷くしかないかすみの両親だった。エリスがいなくなった天界では――

 

「彼に……、かすみを任せて……大丈夫なんだろうか? あの真っ直ぐな斬撃から察するに……、実直な男だとばかり思っていたのだが……」

 

「ま、まあ……良い人? みたいだし……、きっと大丈夫よ。うん!!」

 

 二人だけ残された男女が娘の行く末を案じてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリス教会にクリスが襲来し、俺へと凄まじい形相で詰め寄った後、彼女に謝ったり宥めたりと結構疲れてしまった。

 そして屋敷に戻った俺は――

 

「うわっ!? 湿布くさっ!?」

 

「こ……、声だけでも……体に響く……、少し静かにしてくれ、カズマ……」

 

 アクアが治療したにもかかわらず、体をほんのちょっと動かすのも難儀しており、ベッドから起き上がるもの困難となっていた。それを少しでも和らげるように、全身に湿布を貼っている。

 

「あれだけ無茶苦茶して、この程度で済んでるんだから、丈夫な体に産んでもらった御両親に感謝なさいな。普通だったら死んでもおかしくないわよ」

 

 アクアの言いたい事は現在、身に染みている。あのリッチーさんとの戦闘は、例えるなら常時リミットブレイク状態のようなもので、あれをやっているだけで体へのダメージが蓄積してしまっていた。

 戦闘直後はまだ良かったが、屋敷に戻って一晩明けるとその疲労が一気に降りかかったようで、全身筋肉痛と疲労で満足に動けないでいる。

 

「お粥を持って来ましたが……、食べれるでしょうか? 起こしてあげますから……」

 

「めぐみん!? 痛い!? 体に触れるだけでも痛い!? ってか喋るだけでも痛い!?」

 

 苦痛に耐えながら漸くベッドから体を起こした俺だったが、スプーン握るのも辛い状態だ。なので、

 

「お兄ちゃん、あーん」

 

「あーん」

 

かすみに食べさせてもらっていた。かすみが俺の口にお粥を運ぶだけで美味しく感じるのは気のせいではないはず。やはり、お粥はかすみに限るな。

 

「あの顔……、真面目なようでいて、絶対に下らない事を考えていますよ」

 

「そうだね……。私達も食べさせてみる?」

 

 めぐみんとゆんゆんがジト目で俺を見詰めていたが、何で紅魔族ってのは人の思考が分かるのだろう? 俺のプライバシーとか無くなっている様に思える。

 

 そんなやりとりをしていると、玄関の方から女性と男の子の声が聞こえて来ていた。来客かとカズマ達が一階に降りてから、しばらくして……。

 

「具合はどう? 良くは見えないけど……、大丈夫? ピクニックじゃなくて、お見舞い会になっちゃったね……」

 

「フェイトさんと一緒に来たんですけど……、その、動けますか?」

 

 フェイトとエリオがわざわざ俺の様子を見に来てくれたらしい。その辺はちゃんと報告していたが、やはり心配をかけてしまっていたようだ。

 

「み……、見ての通り、全身筋肉痛人間の生きる屍と化している……。今の俺は隣で女の子が添い寝していても手を出せない、世界一安全な男でもあるぞ」

 

「そんな冗談を言えるなら……大丈夫かな。みすてぃも結構頑張ったから、こっちに帰って来れるのは、もうちょっとしてからって技術部からあったよ」

 

「そっか……、何だかんだで無茶させちまったからな……。リヒトヴォルフは?」

 

 フェイトからメンテナンスを受けている、みすてぃの様子を聞き、中破してしまったアームドデバイスについても確認をすると。

 

「完全修復にはもう少しかかるって。魔力がほとんど無い状態で、折れるまでデバイスに負荷をかけたって話題になってるけど……」

 

「あの時の一撃は……、自由自在に打てるとなったら、あと何年必要なんだか……。母さんのをイメージしてきたつもりだけど……」

 

 そんな雑談をしていたのだが、一階に行っていたはずのカズマ達も部屋に入って来たらしく。

 

「そういえば……、みすてぃが言っていましたが、ユウのお母さんの一撃は凄まじい威力を誇っていたらしいですね? それを目指してるのでは……と思っていました。技名はあるのですか?」

 

 めぐみんからそんな質問があった。目指しているかどうかは自分でも分からないが、あの斬撃を使えたら……と思った事はある。

 

「母さんのは……、『閃華斬雲(せんかざんうん)』って言う。まあ、別に決まった型があるわけじゃない。魔力を込めてぶった斬るだけの攻撃だけど、その威力は術者の熟練度次第ってところだ」

 

「突き詰めれば、只の一振りで、あの時の様に地面に巨大な傷跡を残す程の威力……か」

 

「あんなにうまく出来たのは初めて……かな? もしかしたら、母さんが力を貸してくれたのかも」

 

 リッチーさんとの戦闘で繰り出した一撃を思い返すと、魔力付与や身のこなしの全てが完全に噛み合った一撃だった。自分自身でも不思議に思う程だ。

 

「そういえば、お前の母親って……、金髪で白人っぽいとか聞いたが、ダクネスに似ていたりするのか?」

 

 顔が似ていると言われれば、どうかとは思うが……、カズマの言う通りで確かに共通点はある。

 

「ダクネスとの共通点か……。金髪と……髪が長いのと……、騎士なのと……」

 

 全員がうんうんと頷いている。ダクネスのみ自分が引き合いに出されているので少しばかり照れている感じだ。だが、その後の俺の言葉は。

 

「腹筋が割れてるくらいか? あとはドMでもないし……」

 

「私の腹筋は割れてはいない! 出鱈目だ!! 見た事もないだろう!?」

 

「あのな……、普段からあれだけ全身くまなく筋トレしておいて、逆に腹筋割れてない方がおかしい。別に良いだろ。誇る所だぞ、それ」

 

 ダクネスが大声で腹筋について否定していたが、見た事のあるめぐみんやアクアは目を逸らしている。どうやらどっちに味方しても泥沼になるのが分かっているらしい。

 そんなやり取りが十分程続いた後、そろそろ俺を休ませなければ、といった話になったので、みんなが部屋から立ち去ろうして、去り際にフェイトから。

 

「なのはも大概だけど、悠も相当だから今はゆっくり体を休める事。いい?」

 

「わかったー。エリオ……遊んでやれなくて済まない。それはそのうちな」

 

 エリオが丁寧に、はいと答えて、俺を休めるために部屋から出ていった。特にエリオは年の近いかすみもいるし、遊び相手には困らないはずだ。そう思って目を閉じてウトウトしていたが、不意に俺の脳内に電気の様な物が走り、どうやっても一階に行かなければといった衝動に駆られてしまっていた。

 

 それは約15分前の出来事――

 

「カスミもやっぱり年の近い子がいると、楽しそうね。こっちにも友達がいないわけじゃないけど、魔法も込みならエリオ達の方が気が合うのかしら?」

 

「エリオも魔法が少しずつ上達していて……、かすみに見せるって楽しみにしてたんだよね?」

 

 子供達がいると、その場がかなり和やかになる。その雰囲気を楽しみながら雑談をしていた大人達だったが。

 

「あの二人、よく見ると御似合いですね。年も近いですし……カスミの方が年上ではありますが」

 

「何時だったか、ニホンの諺で、”姉さん女房は金のわらじをはいて探せ。”というのを、カズマが言っていた気がするな。そんな未来も、もしかしたらあり得るかもしれん」

 

 めぐみんとダクネスが、そんな他愛のない会話をしているその時、何かを引きずる様な音が聞こえていた。リビングに集まっていた全員が、何事かと身構えてしまっていたが、その音の主は……。

 

「お……、俺を倒さなければ……、例えエリオといえど、かすみも……、キャロもお嫁には……あげない……からな!」

 

 禄に動けないにもかかわらず、その執念だけで二階から這いつくばって来た一人の漢の姿があった。例え瀕死だろうと、それだけは譲れないといった気迫が感じ取れる。それとは別に周りは……。

 

((((こんな事を勘付くとか……。よくここまで這いつくばって来たなあ……))))

 

 大人達は呆れた様な視線で俺を見詰めていた。するとカズマがチャンバラ刀をエリオに持たせている。勿論、これは当たったところでダメージは与えられない。それを分かった上で。

 

「エリオ、俺が許す。あいつを倒して来い」

 

「えっ……!?」

 

 少々狼狽えながらも、俺へとテクテクと近づき、うつ伏せになっている俺の頭目掛けてポンっとチャンバラ刀を振り下ろした。俺はその一撃で見事に打倒され、一言を発する事すら億劫になってしまっていた。

 

「……ここに来るので限界だったようですね。一発で力尽きました」

 

「むしろ、あの惨状で誰の手も借りずに、ここまで来れる方が異常だ。わ、私としては味わってみたい痛みではあるのだが……」

 

 その俺とエリオのやり取りの感想を漏らしていためぐみんとダクネスだった。そして、この場で勝者となったエリオへと、

 

「良かったな。これで一気に嫁候補が二人も出来ただろ? どっちにするかは、これからのお楽しみって事で」

 

カズマがにこやかに俺の出した条件を満たしたと、祝福の言葉を紡いでいた。

 

「そういえば……ユウさん、レベルドレインでレベルが1になってますよね? もしかして、レベル上げも最初からやり直しですか?」

 

「そうなるか。ユウの体が治ったら、魔王城近くのダンジョンに行こう! すぐに行こう! あの場所は私の理想に近いダンジョンだ!!」

 

 ゆんゆんの指摘にダクネスが勝手に盛り上がっていたが、俺の体がこの状態ではそれはまだまだ先の話になるだろう。

 

「お兄ちゃん、お部屋に戻ろう? わたしが運ぶから。『フローター』ッ!」

 

 対象に浮遊効果を持たせる魔法だが、俺を運ぶために使うのを思いつくって事は、この子自身が魔法と魔力を自分の一部として考えているって事かもしれない。

 

 そうしてかすみに連れられて、部屋に戻りベッドに寝かされた俺ではあったが、そこで眠りにつく前にかすみから。

 

「お兄ちゃん……、わたしがお嫁に行くと……寂しい?」

 

「当り前だ! まだまだ先とはいえ、変な虫が付かないようにしないと……」

 

「妹として心配になるよ? お兄ちゃんって自分の事は後回しだから」

 

「俺はかすみが大好きだから良いんですー! 痛たたたた!?」

 

 口を動かすだけでも体へ激痛が走るのに、それでも無理して話すのは良くないという事で、かすみが部屋を立ち去ろうとしていた。

 俺は一階まで無理して移動した疲労から、ベッドに横になっただけで目蓋が重くなってしまっていたが、その前に。

 

「お兄ちゃん……、ずっと、わたしのお兄ちゃんでいてね。大好き!」

 

 そんな声を聞きながら深い眠りに誘われ、数日後に回復した後は、いつもの騒がしい日常へと戻って行った。




今回はちょっと短いですが、この章もこれで終わりです。
この章は原作の色んな人物がちょこちょこ出ているので、劇場版みたいなイメージで書いていたものです。
とりあえず、ここで一区切りという事になります。
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