この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
現在、私は待機状態でマスターの部屋の机の上……、そこに置かれたハンカチを敷いたかごの中にいる。
私の名前はファルシオン、ミッドチルダの魔導師の使うデバイス――その中でも意思を持つインテリジェントデバイスと呼ばれているものだ。先日の機動要塞デストロイヤー迎撃戦でのフルドライブの使用……、それに伴う自身の損傷の有無をチェックし、修復を行っている。
マスターが私を受取った9歳の時ならば、当時は無理だったとしても仮に同じ事をすれば相当な損傷になっていた可能性が高いが、現在はフレーム強化や度重なるシステムアップデート、マスター自身の技量の向上によって安全性は飛躍的に高まり、損傷は軽微である。しかしマスターは、
――お前は、自分の修復に専念しろ。隅から隅まできっちりとな。俺はアクアが治療してくれれば何とかなるけど、お前はそうじゃないから
そう言って、私を自室に置いたままにしている。人間で例えるなら休暇を貰っているといったところだ。実際の所、自身のメンテナンスをしているといっても、それはマスターの想像よりは早く終る。自ら移動できない私にとっては部屋の景色も変わらず、話し相手もいないため暇を持て余していた。いっそ誰かが訪ねてくれればいいのだが……、そう考えていると部屋の入口のドアからノックの音がした。
「ユウ、いるー?」
そうしてドアを開けて入室したのは、現在マスターがパーティーを組んでいる方の一人、アークプリーストのアクアさんだった。アクアさんは机の上に置かれている私を見つけると、
「あら珍しいわね。あなた一人だけ部屋にいるなんて」
『現在、私はメンテナンス及び自己修復中です。マスターに御用ですか?』
このアクアさん、マスター曰くアークプリーストとしての能力は一級品なのだが致命的に知力が足りていないらしい。そのため、打撃が通じないカエルに打撃を繰り返したり、街の被害も考えずに洪水を起こしたりしてしまう。マスターは先日、ある意味テロリストよりタチが悪いとも言っていた。
「ユウにお願いがあったんだけど……、それより、あなたのご主人様ってビックリ箱かなにか? 見たことない魔法は使うし、デストロイヤーの結界は一撃で破壊するし、内部は突き破るしホントに何なのよ?」
アクアさんは先日のデストロイヤー戦でのマスターの力について疑問に思ったらしい。実際マスターは高ランクの魔導師なので、あのくらいできても不思議ではないのだが、この世界の方にとっては驚異的に写ったらしい。
『マスター自身、魔法使いとしては相当な力量であることは確かですが、マスターの幼少時からのお知り合いの方々は、それ以上の使い手も少なからず存在します。おそらく、あの方々がデストロイヤーの迎撃を行っていれば、街に到達する遥か前に完全に破壊していたでしょう』
それを聞いたアクアさんはポカンとし、その後、怪訝な顔をしながら、
「……あなた達がいた所って修羅の国かなにか? そんなのありえないんですけど! そうそう、ここに来た理由なんだけど……、あなたからもユウにお願いしてくれないかしら? 実は……、酒場にツケがあってお金を貸して欲しいの!10万エリスでいいから! お願い!! お給料貰ってるなら何とかなるでしょ?」
アクアさんは合掌し、私に懇願してきたのだが、
『でしたらマスターに直接言ってみては?』
「……もう言ったわよ。そしたら……、”若輩者の公務員がそんな高給貰ってるわけないじゃん”って返されて、のらりくらりかわされちゃって……」
アクアさんは今まで見ていると、計画性が無さ過ぎる。このツケもそうだが、まるで今まで生きたいように生きてきたといった印象だ。どうしたらこんな人間ができ上がるのだろう?マスターはその辺り地球やミッドチルダの方々にしっかり躾けられているので安心ではある。実際のところマスターは高ランク魔導師で階級も年齢の割には悪くは無いので給与は手当て等を含めると、それなりの額になっている。それをアクアさんに教えないのは、一度貸すと取り返しのつかないことになるのと、おそらく返ってこないのがわかっているのだろう。
『では現在ウィズさんにお願いしているカートリッジの魔力補充をやってみては?』
「それいいわね! 一回ウィズにとられたけど、考えてみればリッチーのナメクジみたいなヌルヌルの魔力より、この私の純水の様に綺麗で神々しい魔力の方が絶対にいいに決まってるわ! きっとウィズに払ってる倍の金額を出してくれるはずよ!! じゃあちょっと探しに行くわ!!!」
そうして、慌しくアクアさんは部屋から出て行った。カートリッジに込める魔力は誰のでもいいのだが、そもそも倍の金額を出してもらえる根拠はなんなのだろう?
アクアさんが出て行って程なく、またノックが聞えてきた。
「……ユウいるか?」
今度は、クルセイダーのダクネスさんが訪ねてきた。アクアさんと同じく私を見つけ、話しかけてきたのだが……、
「ユウは不在のようだな。先日の礼を改めて言おうと思ったのだが……」
『マスターなら程なくして戻られるはずですよ。夕飯の買出しと言っていましたから』
ダクネスさんはそうか、と呟いた後、
「ところで、お前はユウとの付き合いは長いのだろう? ……教えて欲しいのだが、どうやったらあんな外道な……、もとい素晴らしい性格になるのだ? 相手を拘束して動けなくしてから魔法を撃つなど鬼畜の所業だ!!」
ダクネスさんは俗に言うマゾというものらしい。マスターのバインドで縛られたがったり、魔法を喰らってみたいと言ったり、マスターの悩みの種となっている。また、マスターのアクセルでの悪い噂の原因は殆どがダクネスさんが発生源となっており、よく愚痴を聞かされていた。
『マスターのいた場所では、バインドで動きを止めてから魔法を撃つのは基本的な戦術です。外道というわけではありません』
「……な、なんだと!? ……あれが当たり前だと!? な、なんて素晴らしい所なのだ! 外道の国か! お前達のいたところは!?」
ダクネスさんは顔を赤くしながら更に続ける。
「それに魔法を撃っても死なないようにもできるのだろう? 痛みだけで死なないなど拷問に最適ではないか!! 最後にデストロイヤーに使おうとした魔法でも同じことができるのだろう?」
おそらく非殺傷設定の事を言っているのだろう。これは拷問のための機能ではなく、あくまで相手を傷つけないためのものである。昔フェイトさんが手足を拘束されてスターライトブレイカーの直撃を受けたことがあるのを教えたら、どの様な反応をするのだろう?しかし、マスターの悩みの種がまた増えそうなのでやめておく。
『ダクネスさん、マスターは鬼畜でも外道でもありませんよ』
「ああ、分かっている! サキュバスごと屋敷を消し飛ばそうとしたのだ!! それを超える悪鬼や羅刹の類だろう!!! ギルドに行って、クリスにも意見を聞いてみるとしよう!」
そう言って、ダクネスさんは部屋から去って行った。またマスターの悪い噂が立たなければいいのだが。
メンテナンスも順調に進み、もう少しで終了となるころ、
「ユウ、いますかー?」
今度はアークウィザードのめぐみんさんが部屋を訪ねてきた。今日は珍しく来客が多い。めぐみんさんも私を見つけると話しかけてきた。
「ファルシオンだけですか。なら都合がいいですね、ちょうど意見が聞きたかったところです」
『マスターに関係することなら、ご本人と話されてみては?』
そう返すも、めぐみんさんは少し考え事をしながら話を続けた。
「……ユウは本当に凄いと思います。けど足りていないものもあるのです。杖も服装もかっこいいのですが、だからこそ余計目についてしまいます。……具体的に言うと決め台詞が足りません! 防護服を着た時や魔法を撃つ時、かっこいい台詞を言ってもいいと思うのです!!!」
めぐみんさんは中二病というものらしい。マスターはこの年頃の子なら珍しいものではないから放っておけばいいとの事だが、私が知る限り、マスターの知人で同じ症状(?)になっている方を見たことがない。冒険者ギルドで話を聞くと、めぐみんさんの種族……、紅魔族というのは変わった言動をするらしい。先日、偵察クエストで偶然出会ったゆんゆんさんは名乗りはともかく、そういった印象は受けなかったが、なぜだろう?
『バリアジャケット装着時や魔法発動時に決め台詞は必要ありません。気合を入れるくらいはあってもいいですが』
「全然わかっていません! かっこいい決め台詞は重要なのです! 紅魔の里の学校でもそう教わりました!! ユウは紅魔族ではありませんが、そのくらいはあってもいいと思います!! 手本を見せてあげましょう!!!」
そう言って、私を手に取り上方へ掲げ、
「我が真の姿を見よ! そして恐れ戦おののくがいい!! ファルシオン、セットアップ!!!」
当然ながら、めぐみんさんにバリアジャケットが装着されることは無く……、
「なんでですか!? 私は変身できないのですか!!?」
『私はマスター専用ですから、めぐみんさんの指示は受付けません』
「……オンリーワンの専用装備なんて、……なんて羨ましいのですか!? しかもかっこいい姿に変形するのですよ!! ユウのいた場所は夢の国ですか!!?」
どうやらミッドチルダがどんな場所か想いを馳せているらしい。文明に関しては進んでいるが、魔法は決して負けていないはずなのだが。
「それと、ユウにはデストロイヤーに使おうとした”すたーらいとぶれいかー”という魔法を教わりたいのですが……」
めぐみんさんはこの世界の最強の魔法、爆裂魔法しか使えない。そして本人も爆裂魔法以外は使う気がないと言っていたのだが、何か心境の変化でもあったのだろうか?めぐみんさんはよくカズマさんに中級魔法を覚えろと言われているので、
『他の魔法を覚えたいのなら、中級魔法を習得してみては?スターライトブレイカーは条件付ではありますが、威力自体は爆裂魔法とそう変わりません』
「いえ……、正確には一度使った魔力を集める方法を知りたいのです。そうすれば爆裂魔法を撃った後で、また集めての繰り返しで無限に爆裂魔法を撃てますから!」
マスターも言っていたが、めぐみんさんは爆裂魔法の事しか頭にないらしい。一度使って大気中に散らばった魔力を集めるのはSランクの技術を要する。マスターも数年がかりで修得したのだが……、
『おそらく修得しようとすれば、爆裂魔法をもう一度覚え直す位の時間が必要になると思われます。しかもその間は爆裂魔法を撃つことはできなくなるでしょう』
めぐみんさんはそれを聞くと、暗い雰囲気をして無言で立ち去って行った。
めぐみんさんが部屋から出てすぐ、ノックの音が聞えた。誰かが入室するかと思われたが、またノックの音。まるで誰もいないのを確認するかのような行動だ。そうしてゆっくりドアを開けて入ってきたのは、パーティーリーダーの冒険者のカズマさんだった。カズマさんは何にかを探すような素振りで、部屋の中を見ていたので、
『カズマさん、何か御用ですか?マスターならここにはいませんよ』
「おわっ! なんだお前……、いたのか!?」
カズマさんは部屋に誰もいないと思っていたらしく私の声に驚いていたが、何か思い立ったようで、耳打ちするような動作で私に話しかけてきた。
「……実はお前に折り入って相談があるんだが、お前を男と見込んで!」
『私に性別はありませんが、私にできることでしたら』
私の返答を聞いて安心したらしいカズマさんは、
「あのな、フェイトさんかはやてさんの写真はないか?」
『マスターはここにはイレギュラーで飛ばされてきたので、写真は持ってきていません』
それを聞いたカズマさんは少し考え込むと、
「だったらせめてスリーサイズだけでも知らないか? 外見は何とかなるけど細部の情報が欲しい! ある店でどうしても必要になるんだ!!」
『マスターですら知らない情報は私も知りません。もしかしたらご本人に会う機会の多いマスターは見当くらいはついているかもしれません』
「アイツに聞くとまた撃た、……迷惑が掛かりそうだからな。できれば内密に済ませたいんだ」
カズマさんがどうしてそんな情報を知りたがるのか見当もつかないが、御二方の個人情報なので、私からは言うことはできない。そもそも女性のスリーサイズが必要とはどの様な店なのか?
『どの様な店なのかはわかりませんが、マスターに相談されてみては?真っ当な理由であれば、協力してくれるはずです。ただマスターは乗り気にはならないでしょう』
そう返すとカズマさんは、”駄女神め、本当に余計なことしやがって”などど、言いながら部屋から出て行った。ダメガミとはなんのことだろう?
しばらくしてマスターが帰宅し、
「ファルシオン、留守の間何もなかったか?」
『先ほどまで、パーティーメンバーの皆さんが順番にマスターを訪ねて来ていました』
そうして詳細を話すと、マスターは何か決意に満ちた表情で部屋から出て行った。
……後日、アクアさんはツケがまだ払えていないらしく誰彼構わず泣きつき、ダクネスさんはとても嬉しそうに顔を赤らめ、めぐみんさんはマスターが基礎体力をつける訓練をさせようとして逃げ出し、カズマさんは一晩中マスターと語り合った後、顔が真っ青になり震えていた。