この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
裁判から数日後、ダクネスは領主との約束を果たすために、昨日から屋敷には帰っていない。カズマはなんだかんだで心配しているらしく、頭を抱えて奇声を上げたりしていたのだが、
「なーお」
その中で、無言で猫を抱きかかえているめぐみんがそこにいた。
「こいつを屋敷で飼いたいって事か?」
「……はい。おとなしい子なので迷惑は掛けないと思うのです。……ダメでしょうか?」
猫を飼いたいと言っためぐみんにカズマは快諾し、その猫と戯れていた。何故かアクアは嫌われているらしく爪を立てられていたが。そして俺も猫のあごの下を撫でてやるとゴロゴロと鳴いて気持ちよさそうにしていた。その様子を見ていためぐみんから、
「……ユウは猫の扱いに慣れていますね。飼っていた事があるのですか?」
「知り合いに猫の使い魔を使役してる人がいてな。昔、撫でたり抱っこしたりしたことがあるんだ。ちなみにその猫は人型にもなれる」
まあ、その当時は人型になれるなんて思ってなかったけどさ。まだ魔法に関わってない時期だし。
めぐみんは興味をそそられたらしく、目を輝かせながら色々と聞いてきたのだが、カズマが割って入り、
「……その猫ってのはメス猫か?」
「ああ、そうだけど……」
「人型の時はネコ耳にネコ尻尾なのか?」
「ネ、ネコ耳にネコ尻尾だけど……」
カズマはうーんと言いながら何か思い立ったようで、
「容姿を詳しく」
「……容姿を聞いてどうするんだ? こないだアイツらの写真が欲しいとか言ってたらしいけど、それとなんか関係でもあるのか?」
俺の言葉を聞いたカズマは挙動不審になり、後ずさった。どうやら碌でもないことだったらしい。どうやら、この猫はちょむすけという名前らしく、カズマが残りの魚を食べさせようとした時、ちょむすけが火を吐いて魚を炙って食べていた。
「……今、火を吐いたな。めぐみん、コイツは普通の猫なのか?」
「やはり分かりますか。ちょむすけは私の使い魔で私の魔力を糧に生きているのです。それと普通の猫は火なんて吐きませんよ?」
……そうか、使い魔なら仕方ない。ディバインバスターを余裕で防ぐ使い魔だっているのだ。めぐみんはああ言っているが、爆裂魔法を使うめぐみんの使い魔なのだから、火ぐらい吐いたって不思議はないか。
「何で納得してるんだよ! どう考えたっておかしいだろ! いつか言おうと思ってたけど、お前の常識はどっかズレてる!!」
「カズマ、世の中ってのは大体予想の斜め上を行くから、あんまりうろたえてると身が持たないぞ」
ちょむすけが火を吐いた件について、カズマと言い合っていると、
「ダクネスの事ならもう子供ではないのですし、たまには帰ってこない日もありますよ。ちょっとは落ち着いてください」
ダクネスが帰ってこない件について、めぐみんから話があったのだが、ダクネスの性癖なら嫌そうにしながらも今頃は顔を赤らめて悦んでいるはず……、なんてカズマの推測を聞くと、内心では否定しきれないのかめぐみんは顔を青くしてうろたえていた。
「……そういえば、ダクネスの実家ってアクセルにあるんだよな? どんな様子か見に行きたいけど、誰か場所知らないか?」
俺の言葉に全員首を横に振り、途方に暮れていると、
「サトウカズマ! サトウカズマはいるかあああ!」
大声で、荒々しく玄関を開けたセナが真っ赤な顔で体を震わせていた。
セナの話では冬眠中のカエル達が大量に地中から這い出て来ており、その異常現象の原因が俺とカズマが拘留されている時にめぐみんが撃った爆裂魔法で怯えて姿を現したことにあるとの事だった。
アクアとめぐみんは仲間割れを始めていたが、カズマに襟首を掴まれて大人しくなっていた。俺はというと、
「……本当に爆裂魔法によるものですか? こないだのデストロイヤーでカエルが怯えて出てきたかもしれないですよ」
「……あなたとの弁論はもうこりごりです。何ですか、あの論法は! 確かに反論できなかった私も問題はありますが、普通あんな事言いませんよ!!」
「俺、悪くないもーん。曖昧な嘘発見の魔道具なんか証拠にしてるから、ああなるんだよー。それにセナさんは頭が固すぎです。そんなだと冤罪増やしちゃいますよー」
ふざけた口調にはなっているが、実際今回のカズマの様に、故意でなくとも、またはやむにやまれず犯罪行為を行なってしまう人間は意外と多い。情状酌量の余地がある場合は、裁判の場で出来るだけ便宜を図ってもらうようにするのだって、俺がやっていた仕事の一つではあるのだ。被告人の事情や過去の判例なんかを調べ上げて資料をまとめた後、法務担当者へそれを渡し裁判に臨んでもらう。……今回は弁護まで自分でやったわけだけど、あの時カズマにコロナタイトの転送の判断を委ねたのは俺なので、責任はそれなりに感じているのである。
「もうやめろ、その人を挑発するな。カエルはどう考えたってアイツらのせいだから行くぞ」
俺もカズマに引っ張られ、カエルの後始末へと出発した。
「いやー! もういやあああ! カエルに食べられるのは、もういやあああああっ!!」
今となっては懐かしく思えるアクアの叫び声が響き渡っていた。
はじめて会った時は、粘液まみれでしがみ付かれたんだよなあ。
めぐみんはというと、爆裂魔法で動けなくなっている所をカエルに捕まり、肩から下が呑まれている状態だった。カズマが助けようとしたのだが、カエルの中は温いのでアクアを追っているカエルを倒した後でいいと言っていた。俺もカエルを何体か倒し他のカエルへと狙いを定めていた。
「あ、あなた達は、仲間がカエルに呑まれ、更には別の仲間が追いかけられているのに、随分冷静ですね」
若干引き気味でセナが言ってきたのだが、
「まあ、死なない程度には何とかしますよ。この程度ピンチでもなんでもないですから」
「……あ、あなたは常識人だと思っていましたが、認識を改める必要がありそうですね」
何気に傷付くんだが…。
カズマはこの機会に狙撃スキルを試してみたいらしくアクアを追っているカエルに静かに狙いをつけている。結果、カズマの放った矢は見事にカエルの頭に命中し仕留める事ができた。あとはめぐみんを助けるだけになったところで、
「ま、待ってください、カエルが……!」
いつの間にか這出ていたカエルが三匹、それにめぐみんを呑み込もうとしているカエルを併せると計四匹になっていた。
「カズマはめぐみんを頼む。俺はあいつらどうにかするから」
俺の言葉にカズマは頷き、俺はバインドでさっき這い出た三匹のカエルを拘束し、魔力刃でも一斉に落とすかといったところで、
「『ライト・オブ・セイバー』ッッッ!」
聞き覚えのある声と共にめぐみんを呑み込んでいるカエルの胴体に線が入り、一拍置いて真っ二つになっていた。そして俺が拘束している方のカエルにも、
「『エナジー・イグニッション』!」
その言葉と同時に、カエルが突然発火し体の中から燃え上がっていた。さっきの魔法は上級魔法であるらしく、セナが驚きの声を上げていた。その魔法の主は黒いローブの女の子だったらしく、俺とカズマはお礼を言いに近づいたのだが、
「誰だか知らないけど助かったよ。ありがとう」
「やっぱり、ゆんゆんだったか。助けられるのはこれで二度目だな」
俺の言葉にカズマは驚いていた様だったが、ゆんゆんから、
「ユウさんお久しぶりです。えっと何でこんな状況に……」
ゆんゆんの疑問はもっともだろう。この時期にはいない筈のカエルの相手をして、しかもめぐみんは呑まれ、アクアは逃げ回っている、第三者から見たら阿鼻叫喚の図だ。事情を説明すると少し引きながら納得してくれた。そして助けられためぐみんはというと、
「……? どちら様でしょう?」
などと言ってとぼけていた。どう考えても知り合いにしか見えないんだが。ゆんゆんは学校での事や、いつも勝負をしていた事を挙げては何とかめぐみんに思い出して貰おうとしていたのだが、肝心のめぐみんの反応は芳しくない。いつまで経っても名乗ろうとしないゆんゆんに対して、相変わらずめぐみんが知り合いじゃないと言いたげな態度をとっていたためか、
「わ、分かったわよ、知らない人の前で恥ずかしいけど、名乗るわよ! ……我が名はゆんゆん。アークウィザードにして、上級魔法を操る者。やがては紅魔族の長となる者……!」
彼女はついにデストロイヤー偵察で狼相手に行なったように名乗りをあげていた。そういえばあの時は何で狼相手にそんなことしたんだろう?
「ゆんゆん、何であの時、狼相手に名乗ったんだ? 言葉通じないから意味ないと思うけど」
「……その、……ですね、これは紅魔族の正式な名乗りなんですが、恥ずかしいので練習を……」
どうやらこの娘は中二病ではないらしい。噂だと紅魔族はみんなめぐみんみたいだという話だったが、ゆんゆんは例外なんだろうか? とりあえずめぐみんの態度もちょっとまずいと思ったので、
「めぐみん、二回も助けられておいて、その態度はないだろ」
「そういえば、ユウはゆんゆんと知り合いなのですか?」
「デストロイヤー偵察で、お前が気絶してる時に助けてもらったんだ。あのままだったら、めぐみんは狼の餌になってたかもな」
流石にこれは誇張しすぎだが、あの時は結構苦労したので話を盛ってみた。
「……ライバルが狼やカエルにやられたら、私の立場がないから仕留めただけで……」
どうやらゆんゆんはめぐみんの自称ライバルらしい。彼女は上級魔法を修得したのでめぐみんに勝負を挑もうとしていたというが、残念ながら今日のめぐみんは既に爆裂済みである。
「めぐみんは今日はもう魔法を使えないし、爆裂対決なら明日でいいんじゃないか?」
「「「……えっ!?」」」
俺の言葉にカズマ、めぐみん、ゆんゆんが一様に驚いた顔を見せた。
「……? めぐみんのライバルっていうから爆裂ライバルだと思ったんだけど違うのか?」
「……お前は爆裂魔法をどんな風に思ってるんだ?」
「一日一発しか使えないのは少し問題だけど、周りがサポートすればいいし、”有無を言わさない一撃必殺”ってのもそれはそれでありだろ」
カズマからの質問に答えると、カズマとゆんゆんはポカンとして俺を見ていた。何か不味いことでも言ったんだろうか……?
「……なあ、めぐみん。俺おかしい事言ったか?」
「そんなことはありませんよ。”有無を言わさない一撃必殺”、……いい響きです。やはりユウは爆裂向きの性格をしていますね。あのハヤテの友人だけはあります」
小声でめぐみんに問いかけたが、どうやらおかしい事は言っていないらしいし、何が悪かったんだろう?
「……やっぱり、お前の常識はどっかズレてる」
カズマがドン引きしながらそんな事を呟いていた。
めぐみんとゆんゆんに聞くと別に勝負は爆裂でも魔法戦でもなく、学生時代からその場のノリで決めていたのだそうだ。その度にゆんゆんが負けて弁当を巻き上げられていたとか。というかゆんゆんは爆裂魔法を使えないらしい。それはともかく、せっかくゆんゆんと会えたのだ。お礼をするなら今を逃す手はないだろう。
「ゆんゆん、これから屋敷に来ないか? こないだのお礼もしたいしさ」
そうして、アクアはカエルの引取りのためにギルドへ、その他は屋敷へと戻った。
今めぐみんは、ドレインタッチで俺の魔力をカズマ経由で渡した後にカエルの粘液まみれの体を風呂で洗い流している。俺とカズマ、ゆんゆんは居間でデストロイヤー偵察での俺らが初めて会った時のことを話していた。
「……というわけで、モンスターに囲まれてる所をゆんゆんに助けてもらった。あの時は本当に助かった。ありがとう」
「そんな事があったのか。一緒に行かなくてよかった……」
カズマは経緯を聞いて、少し同情していたようだった。ホントにあの時は一人で行けば良かったよ。
「……でさ、あの時のお礼をしたいんだけど、どうすればいい? 俺にできることならだけど……」
それを聞いたゆんゆんは少し動揺したような様子で顔を赤くしながら、
「で、でしたら、わ、わわ、私と……、と、ともだ……、やっぱり何でもありません! これで失礼します!!」
何かを言いかけながら、ゆんゆんは屋敷から足早に去って行った。その後めぐみんが風呂場から出てきたのだが、ゆんゆんについて詳しく聞くと、紅魔の里では自分の名前を名乗るのも恥ずかしがる変わり者で、周りから浮いていていつも一人だったらしい。つまり、ゆんゆんは変人ばかりの紅魔の里で唯一の常識人だから浮いていたと……。不憫だ……。
次の日、ゆんゆんが屋敷を訪ねてきたのだが……、
「……昨日は突然帰ってすいませんでした。……その、お礼の件ですけど……」
ゆんゆんは何度か深呼吸したあと、
「ユウさん、私を弟子にしてください!!!」
ゆんゆんの言葉に屋敷内にいた全員が一瞬固まったが、
「弟子とか取る気はないけど、戦い方教わりたいんなら俺は別に構わないよ。ただ、めぐみんと違って模擬戦で叩きのめすことが中心になると思うから、それだけは覚悟してほしいけど……」
「……叩きのめすのか。つーか何でめぐみんだとそうならないんだ?」
「だって、めぐみん叩きのめしたって爆裂魔法の威力上がらないし、全力で撃てってくらいしか言えないからな」
カズマが呆れたような様子ではあったが、
「コイツに弟子入りなんてやめとけ。結構無茶苦茶なヤツだから大変な目にあうぞ」
……誰が無茶苦茶だ。失礼なヤツだな。
「ですけど、街で噂を聞いたら私より小さい女の子を手篭めにして、自分好みに育ててるけど、魔法使いとしての腕は確かだって……」
……まだその噂は消えていないらしい。はっきり言って何の悪意もない人に言われるのは堪える。
「まったく、酷い噂を流す人もいるものですね……」
めぐみんが少し同情したように俺の方を見ていたが、この噂の元凶はお前なんだよ……!
「良かったな、めぐみん。お前ゆんゆんより若く見られてるらしいぞ。小さい子なんだってさ」
「……それは聞き捨てなりませんね。私のどこが小さい子なのか聞こうじゃないか!」
「これは俺が言ったんじゃないし、それにそんなの気にするな。世の中にはお前より喧嘩っ早くてハンマー振り回す成長しないロリッ娘だっているんだから」
これを聞いたカズマが、微妙な表情で、
「……お前の知り合いは、変わった人間しかいないのか?」
……まあ、否定はできないな、うん。本人達の前では言えないけど。
「でも何でまた、弟子入りなんて考えたのよ? 上級魔法使えるんならそんなの必要なさそうなのに……」
アクアが疑問に思ったのかゆんゆんに問いかける。
「べ、別にここに来る口実が欲しかったわけじゃなくて、めぐみんを倒して紅魔族随一の座が欲しいだけです! ほ、本当にそれだけですから!!」
……なるほど、友達の家に来る口実が欲しかったのか。指摘するとまた逃げそうだし、そっとしておこう。
「都合が合う時なら色々見てみるから、それで良ければここに来るといいよ」
それを聞いたゆんゆんは嬉しそうな顔をしながら屋敷から立ち去り、その日を境によくここに来るようになった。