この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
先日からゆんゆんが屋敷に来るようになり、彼女に戦闘方法の指導をすることになったので、今日は街の外に出てゆんゆんと軽く模擬戦をすることにした。俺自身、ゆんゆんがどういった戦闘スタイルなのか分からないので、一戦交えようというわけだ。そうして、街の外に出たのだが、何故か不在のダクネス以外の全員が俺達についてきていた。
「……何で、みんな付いて来るんだ?」
「だって、屋敷にいても暇なんだもの」
「「同じく」」
アクアの言葉にカズマとめぐみんが同意していた。要は全員暇つぶしで付いてきたらしい。まあいいけど、なんだかんだで外は寒いので、全員防寒着で街の外に来ている。そして、街から十分離れたので、
「じゃあ、ゆんゆん。これから軽く一対一で模擬戦な。どんな魔法使ってもいいから好きにやってくれ」
「は、はい。分かりました。よろしくお願いします!」
「悪い、カズマ。開始の合図を……」
カズマの開始の合図と共に、ゆんゆんは詠唱を始め、
「『ファイアーボール』ッ!」
ゆんゆんの持つワンドの先から、火球が勢い良く俺の元に迫ってきたので、回避行動に移る。火球そのものは避けたものの、着弾点で爆発が起こり周りにあった雪が一瞬で蒸発し、水蒸気となって視界を遮る。
確か『ファイアーボール』は中級魔法のはず、いきなり上級魔法を使わずにこっちを使ったって事は、俺から姿を隠すためか……。色々考えているんだな。
少し、感心していると、
「闇色の雷撃よ、我が敵を撃ち貫け! 『カースド・ライトニング』ッ!!」
『カースド・ライトニング』、……確か、狼の群れに放った黒い雷の魔法だったか。……視界を潰して、ある程度の範囲に効果のある魔法を使う。悪くない手だ……。
『Lightning Protection』
雷撃に効果のある防御魔法を展開し、ゆんゆんの雷撃を防いだ。水蒸気が晴れ、俺の姿を見たカズマ達は、
「ちゃんとした魔法戦なんて初めて見た……」
「……あのゆんゆんって娘も凄いわね。普通、中級魔法であんな威力でないわよ」
「上級魔法を余裕で防ぐとは……。分かってはいましたが、ユウも只者ではありませんね」
カズマ、アクア、めぐみんがそれぞれ感想を口にしている。確かに魔法に関しては、規格外にも等しい爆裂魔法には及ばないまでも、一つ一つが相当の威力なのが分かる。そこら辺のモンスターならこれで終ってるはずだ。事実、ゆんゆんがあのカエル達に魔法を使った時、ゆんゆんの一撃を受けて生きているカエルはいなかった。ゆんゆんは続けて、
「地獄の炎よ!荒れ狂え!『インフェルノ』!」
先ほどの『ファイアーボール』とは比べ物にならないほどの、巨大な炎の塊が俺へと向かってくる。
「相殺させる。砲撃用意」
『Blaze Cannon』
インフェルノとブレイズキャノンが激突し、お互いを打ち消しあった。次は何で来るのかと待ち構えていると、
「『ライト・オブ・セイバー』ッ!」
ゆんゆんが手刀に光の刃を纏い俺へと接近してきた。そのまま、連続で攻撃を繰り出してくる。
「ユウのヤツ攻められっぱなしだぞ!? あの娘もしかしてユウより強いのか……!?」
「ですがユウは、杖で防御すらしていません。全て避けています」
カズマは俺が攻められているだけに見えたかもしれないが、めぐみんの言うとおり、デバイスを近接戦用にする必要がないだけである。魔法の威力と鋭さに比べたら、ゆんゆんは体捌きや体術があまりにも鍛えられていないように感じた。
攻撃が当たらないことを焦り始めたゆんゆんが大振りになってきていたので、その隙をついて、デバイスを近接戦形態……、剣の形にして受け止めた。ライト・オブ・セイバーと魔力刃は一見互角のようにも見えたのだが……、
「……くっ、……ううっ!」
ゆんゆんは苦しそうな声を出していた。おそらくライト・オブ・セイバーを受け止められるなんて経験は無かったんだろう。どうしたらいいかわからない様子だった。そろそろ終りにしようと思い、魔力刃の出力を少しだけ上昇させ、ゆんゆんの手刀から出る光の刃を一刀両断にした。魔法が破られた事と、その衝撃でバランスを崩したゆんゆんは尻餅をついてしまったので、俺はそのままゆんゆんの顔先に魔力刃を突きつける。
「……これで、終わりかな。怪我はないか?」
デバイスを下げて、手を差し伸べながらゆんゆんに問いかけると、
「は、はい! 大丈夫です!」
少し動揺したような感じで、俺の手を取り立ち上がった。
「結局はアイツの圧勝か……」
「上級魔法の使い手でも軽く倒しちゃうなんて……!? しかもカートリッジも使ってないし」
「……まさか、ライト・オブ・セイバーを逆に切り裂くとは……」
カズマ、アクア、めぐみんがそんな事を言いいながら、俺の方を見ていた。俺とゆんゆんは三人に合流し、そのまま屋敷に戻った。
屋敷に戻った俺は、めぐみんとゆんゆんに紅魔の里での魔法習得について色々質問していた。
「……学校ではスキルアップポーションが成績優良者に与えられ、それでスキルポイントを貯めて魔法を修得すると卒業になるのです」
めぐみんの説明によると、スキルアップポーションは文字通り、スキルポイントを一本に付き一ポイント上げることのできるポーションらしい。俺より年齢が低い二人が、爆裂魔法や上級魔法を修得しているのは、そんなカラクリがあったのか。まあ、ゆんゆんは中級魔法を修得してから、地道にレベルを上げて上級魔法を修得したらしいが。
「じゃあさ、基本的に誰かに師事したりはしないのか?」
「そうですね。魔法を修得したら、冒険者になったり里の周りのモンスター相手に戦うので、そういった事はあまり……」
なるほど、ゆんゆんの言う通りならめぐみんみたいな例外を除くと、紅魔の里では上級魔法を修得してしまえば、里の周りの強力なモンスターですら倒せてしまうので、誰かに指導を受けるといった事は無いらしい。魔法と体術のアンバランスさはそれでか。
「ゆんゆんは、魔法の威力自体は高いから、後は体術の強化と経験を積んで多少のことで動揺しないようにしないとな。ライト・オブ・セイバー受け止められて結構焦ってたろ?」
「……はい、それに上級魔法があれば大抵のモンスターは倒せますし、あんな経験は初めてで……」
この場合、最初の方から強い魔法を使えることが災いしてる気がする。しかも、大抵の相手には勝ててしまうから、想定外の事象には滅法弱くなってしまうと。どちらかというと、メンタルの方が問題かも……。
「……これじゃあ、体術の訓練で本当に叩きのめす事になりそうだな」
「なんでそうなるんだよ……!?」
カズマが驚いた顔で俺に問いかけてきたのだが、
「とりあえず、戦闘中に冷静でいられる様にするには、それが一番いい。さっきだってライト・オブ・セイバーを囮にして、他の魔法を至近距離で撃たれたら結構マズかったし、動揺してなかったらいい勝負になってたかも。それとも、叩きのめされるのが嫌だったら、毎日カズマにスティールでもされるか? 続ければ、多少の事じゃ動揺はしなくなると思うけど……」
「スティールは駄目です! 毎日パンツ盗られてどうするのですか!!」
「やめなさい! カズマなら本当にやるわよ!!」
「……えっ!? パンツ!?」
俺の問いにめぐみんとアクアは大反対、ゆんゆんは意味が分かっていないらしく、ポカンとしていた。
「訓練なら仕方がないな〜。いつでも協力するぜ!」
カズマは、ノリノリで協力を申し出た。冗談だったんだが、そんな反応されるとこっちもドン引きだ……。
「……えっと、叩きのめす方で良いので、ご教授お願いします!」
ゆんゆんはそう言ったので、明日から体術の訓練をすることになった。
「魔法に関しては、あんまり教えてあげられる事はないけど、何か考えておくから」
そうして、今日は解散になった。
次の日の昼過ぎに屋敷の庭に集まり、ゆんゆんに稽古をつけていたのだが、
「……お前ら、見てるだけで暇じゃないか? 何だったら一緒にやるか?」
「俺は体術スキル欲しかったら、冒険者カードで習得するからやらない」
「私も体術を鍛える気は無いので遠慮します」
カズマとめぐみんは俺とゆんゆんの訓練風景を眺めていた。なんだかんだで気にはなっているようだ。体術の訓練という事でお互い素手で、俺は寸止めで怪我をさせないようにやってはいたが、ゆんゆんは何度も地面に倒れこんでいた。
「体術はここまでにしようか」
「……はぁ、……ふぅ。ありがとう……、ございました」
息を切らしながら、ゆんゆんが礼を言ってきた。そこまでキツくやったつもりは無かったんだが、やはり体術に関しては素人に毛が生えた程度のようで、思ったよりも体力を消耗したようだ。
「……さて、魔法だけど、昨日言った通り指導できる事はあまりない。……けどこんなのはどうかと思ったんで見せてみる」
そうして、デバイスを取り出して近接戦形態で魔力刃を発生させた。最初は普段通り片手剣程度の長さだった刃が見る見るうちに短くなっていき、やがてゆんゆんが持っている短剣と同程度の長さになった。ただし、その分魔力を圧縮していったので半実体化している。俺自身の魔力光は茜色だが、今の魔力刃は圧縮によって色が濃くなり緋色になっている。
「……これって、魔力が殆ど実体化してます。ここまで圧縮ってどうやって……!?」
「……こんなの普通はできませんよ!? どれだけ固めたのですか!?」
ゆんゆん、めぐみんは驚いていたようだったが、元々魔力圧縮に関しては子供の時から相当練習してきたのである。当時の少ない自分の魔力で相手の防御を貫くには、どうすれば良いかを突き詰めた結果だったりする。
「ゆんゆんは、ライト・オブ・セイバーが得意みたいだし、これができれば相手を防御ごと切り裂けるかもって思ってさ。ただ、効果範囲は狭くなるから使い分けが大事だけど……。出力が上昇すれば、昨日のサイズで同じことができると思う」
流石に、いきなりやれってのは酷なので今日は見せるだけにした。後はその応用を見せようと思ったのだが、カズマもいるし丁度いい。
「……三人とも、実はな。……昨日驚愕の事実が判明した」
カズマ、めぐみん、ゆんゆんがその言葉に不安そうな表情をしながら、俺の顔を見ている。続けて、
「それがな……、初級魔法には……、殺傷力があったんだ!」
「「「……えっ!?」」」
カズマ、めぐみん、ゆんゆんの声が見事にハモり、馬鹿な人間を見る目をしていた。
「……お前は何を言ってるんだ?」
「冗談もほどほどにしてください。何事かと思いましたよ」
「えっと、この場合どうすればいいんですか?」
三人とも冗談だと思ったらしい。確かにこの世界の初級魔法は殺傷力が無く、習得するだけ無駄といわれていたのだが、昨日ゆんゆんの指導に役立つこともあるかと思い、冒険者カードで習得して色々試していた。とりあえず、見せてみようと思い、レンガを地面に置き、
「冗談でもふざけてもいないって。これを見てくれ! 『クリエイト・ウォーター』ッ!」
右手の人差し指と中指の二本だけ立てて、レンガに向けて斬り付ける様に水を出すと、レンガは真っ二つになっていた。さっきやった魔力圧縮の応用である。水を出す前に魔力を限界まで圧縮し、一気に放出する。そのせいで、ただ水を出すだけのクリエイト・ウォーターがウォーターカッターみたいになってしまった。
「「「……!?」」」
その光景を見たカズマ達は呆然としている。おそらく、ありえないものを見た気分なのだろう。何とかカズマだけが口を開き、
「……おい、今のどうやった?」
「水を出す前に、思いっきり魔力を圧縮してみただけだけど……。ちなみに『ティンダー』だとこうなる」
そうしてティンダーを発動させた。ただし五指全てに火を出現させ、それを人差し指に集束させて圧縮し、さっきクリエイト・ウォーターで斬ったレンガに向けて撃つと、着弾したところが溶けて穴が開いていた。
「なあ、カズマ……、お前これ覚えてみないか? 使ってる魔力は大体同じくらいだから、理論上はできるはずなんだよ……」
「できるかあああああ!!! お前は普通じゃないと思ってたけど、やっぱり無茶苦茶だ!」
カズマは大声を上げて、自分には無理だと抗議していたが、
「”これは中級魔法ではない、……初級魔法だ!” ……中々かっこいい決め台詞です! カズマ、覚えた方が良いですよ!!」
めぐみんはまるで何処かの大魔王のような台詞を言っていた。紅魔族ってのは、こんなのがポンポン出てくるようだ。
「カズマ、諦めたらそこで訓練終了だよ?」
「テメェはどっかの監督かあああああ!!!?」
カズマは俺に対して素晴らしいツッコミをしていた。どうしても覚えてみる気は無いらしい。冒険者カードにも魔力集束や圧縮なんてのはないから、自力で覚えるしかないけど。
「カズマとは別の方向性で初級魔法を使いこなしていますね。これは他の魔法使いに教えてもいいのでは?」
「……でも、普通は中級魔法から習得するから、初級魔法使える人ってあんまりいないよね。これを覚える前に中級魔法習得したほうが早そう……」
めぐみんは割と好感触だが、ゆんゆんの様子を見ると、あまりウケはよくない様だ。基本的に冒険者カードでスキル習得するから、こんな事はしないんだろう。
「……ちなみに俺の魔法で同じことするとこうなる」
炎熱を加えた射撃型のスフィア五発を出現させ、中央に集束させて一つにした後に空に向って撃ち出す。威力自体は砲撃のそれに近くなっており、轟音を立てて空の向うに消えていった。
「これって、ファイアーボールで同じことが出来たら、上級魔法並みの威力が出そうです! ……その、詳しく教えてください!」
今度はゆんゆんも好感触のようだ。今日は説明だけで終ろうとしたところ、
「サトウカズマ! 今度はなんだ!!」
おそらく全力でこちらに走ってきたであろうセナが、屋敷の門の前で大声を上げていた。
「さっきの魔法……、この屋敷から出てくるのが見えたが、何をした!」
セナによると、さっきゆんゆんに見せる為に空に撃った魔法で街中が騒ぎになってしまったそうだ……。
俺とカズマはセナに事情を説明した後、平謝りしながら説教を受けて、この日は終了した。
ちなみに彼がフリーズやクリエイト・アースを使うと氷塊や固めた土の塊が出現し、それを投げると相手にダメージを与えることができます。