この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
バニルとの戦闘から一週間後、俺達はギルドに呼び出されていた。
「冒険者、サトウカズマ殿!」
カズマはギルドの受付前で他の冒険者の熱い視線を浴びながら、
「貴殿を表彰し、この街から感謝状を与えると同時に、嫌疑を掛けた事に対し、深く謝罪を――」
そうして、深々と頭を下げるセナから感謝状を受取っていた。
魔王軍の関係者があれほどまで容赦なく仲間ごと幹部を撃てるわけがなく、リーダーのカズマもそれを止めなかった事から、スパイ疑惑が晴らされ国家転覆罪の嫌疑が解かれた。
セナに俺の魔法の非殺傷設定について説明した時は半信半疑だったようだが、ダクネスに傷一つ無くバニルだけを消し飛ばしたのを間近で見たので信じざるを得なかったようだ。
俺達はというと他の冒険者達に遅ればせながらデストロイヤー討伐の報奨金を受取る事ができた。カズマの死刑がなくなった事と、借金返済の目処が着いた事については素直に喜びたいところだ。
そして、その身の中の悪魔バニルを留めたまま俺の魔法の直撃を受けたダクネスはというと、
「ダスティネス・フォード・ララティーナ卿! 今回における貴公の献身素晴らしく。ダスティネス家に恥じぬ活躍に対し、王室から、感謝状並びに、一級鍛冶師による両手剣を贈ります」
セナの言葉に、後ろに控えていた騎士達がダクネスの前へ豪華な装飾がなされた剣を運んできた。これは実用性よりも褒美としての意味合いが強いものなのだろう。ダクネスがその剣を取ると同時に、
「ララちゃん、かっこいいー!」
……と俺は大声を上げた。最初は俺の”ララちゃん”呼びに戸惑っていた、ギルド内の冒険者たちだが、
「おめでとう、ララちゃん!」
「ララちゃん、よくやった!」
「ララちゃん可愛いよララちゃん!」
もはやララティーナという名前ではなく、”ララちゃん”なんて可愛らしいあだ名で呼ばれたダクネスが、テーブルに突っ伏しながら……、
「ユウ、こんな辱めは私の望むところではない……」
「……だって、バニルと遭遇した時に逃げろって言ったのに逃げなかったろ? あの時、しばらく”ララちゃん”呼びするって言ったぞ。ララちゃん」
まあ、俺がこんな事をしたのはちゃんと理由があったりする。集束砲を受けて無傷ではあったダクネスだが、いつもどおりというか、予想通りにそのときの俺の行動をギルド内で言いふらしやがりました。
あの時、半分くらいはバニルの挑発に乗ってしまった部分はあるものの、”仲間を縛り上げて大出力の魔法を何の躊躇いもなく撃った”……なんて言われては、いくら俺でもカチンと来たので、こうして溜飲を下げているのである。
「――では続いて! サトウ殿への賞金授与に移ります」
この賞金、アクアの洪水の被害額と領主の屋敷の弁償金を差し引いても、手元に四千万エリス残る。つまり借金は完済、カズマも危険な冒険者家業をそこまで懸命にやる必要も無くなるので、一安心といったところである。
そして、俺はというとギルドの隅にみんなを集めて……、
「パーティーを抜けるだと!? 何故だ!」
俺の提案に真っ先に反応したダクネスではあったが、そのまま言葉を続ける。
「借金も無くなったし、俺はここらで本来の仕事に戻ろうと思う。それなりに危険な場所にも行くかも知れないし、お前らを付き合わせるわけにはいかないからな」
ここのところバタバタしすぎてはいたが元々俺がここに留まったのは、この世界の調査のためである。アクセルは駆け出しの街、そろそろここ以外も調査を進めたいと思っていた。
「……危険な場所に行くのは私にとって願っても無い事だ! パーティーを抜ける必要は……」
「そうよ! 仕事なんて適当にパパッとやって、ここにいればいいじゃない!」
ダクネスは尚も食い下がらずに、アクアは聞き捨てならない事を言ってきたが、そういうわけにもいかない。
「……どこか行くあてがあるのですか? 無いのなら無理に出て行く必要は……」
「とりあえず、ギルドで話を聞いて一番近い街に行ってみようかとは思ってる。しばらくはこっちにいるから、どこかで会うかもしれないけど」
めぐみんも引き止める気だったようだが、そもそもこのパーティーにいること自体がありえなかった筈なのだから、ここら辺が潮時だと思う。
最後にカズマの方を向き、
「じゃあ行こうか、カズマ、ダクネス」
俺、カズマ、ダクネスはとある場所に向かっていた。三人とも目的地に着くと浮かない顔をしながらその店の前に立ち尽くしていた。
バニルと会った時、友人である働けば働くほど貧乏になるポンコツ店主に会いに来た……、と言っていた。つまり俺達が倒したのはウィズの古い友人という事になる。この街を出る前にどうしても、ウィズに会っておかなければならない。
「カズマ、今回の事は私からウィズに報告しよう。人をからかうところは頂けないが、そこまで悪い奴ではなかったと思える。……まあ嫌いな奴ではなかったよ」
「……俺もウィズに謝っておかないとな。挑発に乗ってブレイカー撃っちまったし、危害を加えないって所だけは本当だったから」
俺達がウィズ魔道具店の扉を開けると、ウィズが顔を出し続けて、
「へいらっしゃい! 店の前でなにやら恥ずかしいセリフを吐いて遠い目をしていた二人よ、汝らに言いたことがある。まず娘よ、まあ嫌いな奴じゃなかったよとの事だが、我々悪魔には性別はないので、そんな恥ずかしい告白を受けてもどうにもできず。そして、実力のわりに劣等感まみれの小僧よ、あの時の悪感情は大変美味であった。汝の悪感情は中々奥が深い、これから貴様がこの店を訪れるたびに堪能するとしよう」
仮面を被った店員が当たり前のようにその場に居た。
……集束砲を受けてピンピンしてる……だと!?
俺と同じ疑問を持ったカズマが、バニルに対して問いかけていたが、どうやらダンジョンにいたバニルが消滅したのは間違いないらしい。悪魔には残機というものがあり、一体くらい消滅した所で、また新しい体で復活するのだそうだ。確かに仮面には二代目を示す”Ⅱ”の文字がある。ちなみに、もう魔王城の結界維持もしていないらしく、なんちゃって幹部ですらなくなったそうだ。
……なんつー無茶苦茶だよ。この世界って何でもありなのか!?
「周りが優秀すぎるせいで、劣等感に苛まれていた小贈よ。汝とそこの男は我らが商売に協力するのが吉と出た。……良い話があるのだがお一つどうか?」
「『ストラグルバインド』ッ!」
やはりバニルの発言にイラっと来たので、『ストラグルバインド』を発動させて、拘束した。バニルの体は魔力で作っているらしいので、それを打ち消す効果のあるバインドで拘束したのだが、
「華麗に脱皮! フハハハハハ! 当てが外れたな小僧、おおっと素晴らしい悪感情である! ありがたく頂くとしよう。フハハハハハハ!!」
付き合いきれないので、バニルは無視しウィズへ近づき、
「ウィズ、カートリッジの魔力補充を頼む。今日で最後になると思うけど、今まで世話になった」
俺の言葉にウィズが驚いていた様だったが、元凄腕の冒険者だけあって知り合いと別れるのは慣れているようだった。
「悪魔を見ると何故か攻撃的になる小僧よ。見通す悪魔が宣言しよう! 汝はこの街に留まるが吉。貴様の目的もじきに果たされるであろう、それまでは先ほどの通り我等が商売に協力せぬか? 汝の杖の不可思議な機構で特許を取れば億万長者間違い無しである」
……多分、カートリッジシステムの事を言っているのだろう。そもそも、ソイツを使ってこの世界で特許なんて取って大金を稼いでしまえば、俺の方がお尋ね者になってもおかしくは無いんだが……。
「そこまでは我輩の知った事ではないな。なにせ我輩、悪魔であるからな。フハハハハハハ!」
……当たり前のように人の心読むんじゃねえよ! つーか俺は見通しづらいって言ってなかったか……コイツ。
「ふむ、その通りだ。だが、汝はその徒労を補って余りある悪感情を発するのでな。ついつい力が入ってしまうのだ。フハハハハハ!!」
つまりアレか? バニルにとって俺は格好の飯の種だと、やっぱりコイツもう一回吹っ飛ばしておいた方がいいんじゃ……。いや待て、俺は大人だ、大人。こんな奴の挑発に乗る必要は無い。ここはお仕事優先でいかなければ……。
「ユウ、小刻みに震えているが、だ、大丈夫なのか……」
「落ち着け、落ち着けよ! ここで魔法なんか使うなよ!!」
ダクネスとカズマがこちらを向き、不安げな表情を浮かべながら俺を止めようとしている。
「フハハハハハ! 笑わせるでない!! 何が大人であるか。金髪の少女と共に風呂に入っていた赤毛の幼児を内心羨ましく思っていた小僧よ。そこまで羨ましければ、貴様も共に入ればよかろうに。フハハハハハハ!!」
「テメェ! ぶっ殺す!!!」
とうとう挑発に乗ってしまった俺は、バニルへと殴りかかり、
「あああ……、お、おお、お店が滅茶苦茶に……」
うろたえるウィズと俺にしがみ付いて、必死に止めるカズマとダクネスであったが、俺が落ち着いた頃には……。
「さて、ものの見事に我輩の術中に嵌った小僧よ。汝が出したウィズ魔道具店の被害総額はこれほどだ。貴様、知らぬ振りしてこの街から消えるつもりではあるまいな?」
「……望みはなんだ?」
「汝はそこの小僧と違い、運は無いが魔法技術はあるようだ。貴様にぴったりな補填を考えておくが故、それまで罪悪感に打ちひしがれているがいい。フハハハハハ!」
バニルの挑発に乗ってしまったとはいえ、ウィズの店を滅茶苦茶にしてしまった為、アクセルを離れるわけにはいかず、このままパーティーにも残る事になった。そして、俺達が去ったウィズ魔法具店では……、
「ユウさんにはお店が赤字の時、魔力補充でよく助けて頂いてたんですよ。なにもここまでしなくても……」
「ポンコツ店主よ。この店のガラクタの大半を処分できて、売れ筋商品を生み出せるであろう人員を確保したのだ。もっと感謝せぬか! あの小僧共二人揃って中々愉快な人間であるぞ。フハハハハハ!」
仮面の悪魔は一人勝ち誇り、高笑いをしていた。