この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
もう一つの愛杖
先日のウィズ魔道具店での騒動でアクセルに残る事になった俺ではあるが、とりあえずバニルから連絡が無いため、屋敷でいつも通りに過ごしている。
……別にエリオを羨ましいとか思ってな……ほんの少し羨しいと思ってるだけだ。ホントだよ?
しかし、ここに来てからイライラする事が多くなっている気がする。ダンジョンでのバニルの言ではないが、小骨を食べてカルシウムでも補給した方が良いんだろか?
とりあえず本業での仕事の一環として、図書館で色々本を借りてきて調べ物をしていると、
「お前宛に荷物が届いてるぞ」
カズマが小包を持って俺のところに現れた。この小包、俺があちらの友人達に頼んだ物なので中を開けると、
「なんだそれ? アクセサリーか?」
初見のカズマがそう言うのも当然である。ドックタグに鎖を通したネックレス、外見はアクセサリーそのものなのだから。
「こいつは俺が魔法を覚えた頃に使ってた杖なんだ」
”杖”という言葉に興味を示したのか、ちょむすけと遊んでいためぐみんと屋敷の庭で稽古を終えたゆんゆんも俺達の所へ来た。
「ユウの杖という事は、これも喋るのですか?」
「残念ながらコイツは喋らない。俺のいたとこで支給される一般的な杖なんだ」
めぐみんに答えたとおり、このデバイスは管理局で支給される一般的なストレージデバイス、”プロセッサロッド”である。とりあえず、デバイス状態にしてみんなに見せてみる。
「……本当にただの杖だな」
「カートリッジすら無いみたいですね。でもかっこよく変形するくらいは……」
「これはワンドじゃ無いんですね?」
カズマ、めぐみん、ゆんゆんが三者三様の感想を口にしていたが、コイツはそんなに特別なものではないので説明を続ける。
「コイツは変形はしない。まあ魔力刃の展開くらいはあるけど。コイツを取り寄せたのはゆんゆんに教える時は、こっちの方が良いと思ったからなんだ。教導隊で非常勤アシスタントする時も大抵こっち使ってるし」
本当は、この街から出て行くつもりだったんだが、長くここに留まる事になりそうだし、本格的にゆんゆんに指導するのも良いと思ったので届けてもらったのである。
「キョウドウタイとは何なのだ? 何かの隊なのは分かるが、聞き覚えが無いな……」
いつの間にか話しに加わっていたダクネスだったが、”教導隊”の名には聞き覚えが無いらしい。アクセルはともかく、王都あたりになら似たような組織があっても良さそうと思っていたのだが、貴族であり冒険者のダクネスでも知らないという事は、元々無いのかもしれない。
「簡単に言うと、現役の兵士に戦技や戦術を教える人達だな。あとは戦闘技術の研究や演習なんかもやってる」
「それで、何でそこで教える時はコッチの杖使ってるの? 別にどっちでもいいじゃない」
アクアも話しに参加してきたらしく、教導隊でストレージデバイスを使ってる理由を質問してきた。
「ファルシオンみたいのを持ってるのは実は少数派でさ。これを使ってる人が大多数なんだ。まあ、同じの使ってる方が手本になりやすいし、コッチはコッチでちゃんと長所もある」
一同が俺の説明に聞き入っているらしく、こちらをジッと見ていた。
「この杖の方が魔法の発動は早いんだ。予め魔法の術式を詰め込んでおくだけの物だから。ただし、魔法の制御や照準は全部自分でやるけど。ちなみにファルシオンみたいのは、術者がそれなりじゃないと杖の判断に振り回されちゃうんだよ。しかも結構高価だし」
「つまり、カズマがあの子を使うと主従が逆転しちゃうのね! プークスクス」
「何でそこで俺を引き合いに出すんだよ!」
カズマがアクアにからかわれ大声を上げていた一方で、
「ユウ、相談があるのですが……」
「……コイツはやらないからな」
図星を突かれたような顔をしていためぐみんではあったが、食い下がらずに、
「いいではないですか! さっきの説明では術式を入れておけば、魔法がすぐに発動するのですから、爆裂魔法だって無詠唱で即時発動できるのでしょう?」
「仮にできたとしても、爆裂魔法撃ったら杖が壊れる! いくら白兵戦用と大出力に耐えられるようにフレーム強化してるつっても限度があるんだからな。コイツだって9歳の時から使ってる愛用品なんだ!」
そう言うと、めぐみんは残念そうな顔で引き下がった。
「ユウさんって人に教えるのも慣れてると思ってましたけど、そんな事もしてたんですね」
「まあ、ゆんゆんみたいに素直な人ばっかりなら良いんだけど、そうじゃないのもたまーにいるんだよな。やれいい杖持ってるからだの、出力が違いすぎるだのって文句言う奴もいるんだよ。コッチの杖を使うもう一つの理由ってのがそれで、そういう奴にはこの杖を使って、出力もソイツより少し下くらいにリミッターかけて……」
「それで……どうするんだ?」
カズマが少し険しい表情をしながら、問いかけてきた。
「……完膚なきまでに叩きのめす。装備も同じ、出力は相手が上、それでも負けたらコッチの言う事聞くしかないだろ?」
俺以外の全員が一瞬固まり、
「お、鬼だ、鬼がいる!」
「ユウ、獲物を狙う猛禽類の目をしてたわよ……」
「……まずは心を折る事から始めるとは……何という鬼畜!」
カズマとアクアはドン引きしながら、ダクネスは顔を赤くし拳を握りながら震えていた。
「私達ってもしかして凄く優しく教わってたの!?」
「……そ、その様ですね。爆裂魔法しか使えない事をこれほど感謝した事はありません」
稽古をつけているゆんゆんと、一時とはいえ爆裂魔法のアドバイスを受けていためぐみんは自分が幸運な方だとでも思ったのだろう。少し安堵したような表情を見せていた。
次の日アクセルの街の外にて、俺にとっては久々のストレージデバイスを使っての模擬戦をした。相手はゆんゆん、出力に関しては彼女より下くらいで出力リミッターも掛けている。開始の合図と共に、
「『ライト・オブ・セイバー』ッ!」
『ライト・オブ・セイバー』で斬りかかって来た。屋敷での稽古の成果か、最初に模擬戦をしたときと比べて動きにキレがある。油断すると少しマズイかもしれない。
「『スピアブレイド』」
デバイスの先から槍の穂先のような魔力刃を発生させて、ゆんゆんの『ライト・オブ・セイバー』に対抗したのだが……、
「おい、ユウの魔法負けてるぞ……」
カズマの言う通り、『ライト・オブ・セイバー』と俺の魔力刃がぶつかり合った結果、こちらが切裂かれていた。これに関しては想定どおりであり、でなければリミッターを掛けた意味も無い。すかさず、魔力刃を再構築し、続けてゆんゆんと近接戦をしていたのだが、
「……今度は、普通に打ち合ってるわね? どうして……?」
アクアが疑問の声を上げていたが、おそらく最も驚いているのはゆんゆんだろう。さっき競り勝った『ライト・オブ・セイバー』が今度は互角に持ち込まれているのだから。
「……めぐみん、『ライト・オブ・セイバー』というのは、手刀の側の魔力でしか斬れないのか?」
「ええ、その通りですけど、何か分かったのですか? ダクネス」
攻撃が当たらないとはいえ、聖騎士であるダクネスがカラクリに気付いたらしく、めぐみんに質問をしていた。
「理屈としては簡単な事だ。剣で言う所の刃の部分ではなく腹の部分を受け止めている。確かにこれなら多少威力が劣っていても、互角に持ち込む事はできるが……、それを戦闘中に正確に行なうとは……」
ダクネスの言う通りであり、これが『ライト・オブ・セイバー』の弱点でもある。他に追随を許さないほどの切れ味を持つ魔法ではあるが、その刃はあくまで手刀の側のみの展開であり、手のひらに関しては魔力が覆っているだけの状態なのだ。なので俺は自分の杖の魔力刃やシャフトの部分でゆんゆんの手のひらを抑えて止めている。
「つーかアイツ、槍術は得意じゃないって言ってなかったか?」
「≪ランサー≫と比べても見劣りせんぞ。どこが得意ではないんだ……」
カズマとダクネスはアイツは何でもありか……なんて感じでこちらを見ていた。そろそろ終りにしようと思い、ゆんゆんの懐に潜り込んで、『ライト・オブ・セイバー』を展開している右手の手首を掴む。腕力では俺に圧倒的に劣るゆんゆんでは、それを解く事はできずに、動きを止めてしまっていた。
「『ライト・オブ・セイバー』の弱点その2。超接近戦のクロスレンジで手首を掴まれると無力化してしまう」
その言葉と共に、ゆんゆんの足を払って地面に叩きつける。
「きゃっ!」
可愛らしい声を出しながら地面に転がっていたが、大した怪我もない様なのですぐに立ちあがり、二人揃ってみんなの所に合流する。
「……お前には弱体化ってのは無いのか?」
「何言ってんだカズマ、ちゃんと弱体化してたろ? けど圧倒的でない差なら知恵と戦術でどうにかなる場合が多いんだ。その意味では元々俺はお前に近いぞ」
カズマが呆れた顔をして俺に対して色々言ってきていたが、力量が上の人達とは戦い慣れているってだけである。
「うう……ハンデを付けられても負けちゃうなんて……少し悔しいです」
ゆんゆんが少し涙目になりながら、俺の方を向き悔しがっていたので、
「どんな魔法にも長所と短所の両方があるから、それをちゃんと把握しておかないと、さっきみたいな事になる。上級魔法は威力が大きいから短所には気付きづらいけど、対処法だってちゃんとあるってのを頭に入れておくように」
ゆんゆんが、はいと言いながらさっきの戦闘を思い返しているようだった。
うん。本当に素直な娘なので、教えやすい。
「……しかし、本当に先生みたいですね。教え方は少し荒っぽいですが……」
「”細かい事で叱ってる暇があったら、模擬戦できっちり打ちのめす方が、教しえられる方も学ぶ事が多い”……ってのはさっき言ってた教導隊の方針だけど、実際その通りだからな。ゆんゆんの指導はそこに所属してる友達に相談に乗ってもらってるけど」
めぐみんが感心したように俺を見ていたが、紅魔の里にも学校があったのだから、ここまでとはいかなくても、戦い方教えても良さそうなもんだけど。二人を見てるとそこまで実戦的な感じはしないんだよなあ……。
「ユウさん、ここにいましたか。探しましたよ」
ウィズは俺達を探していたらしく、息を切らしながら近づいてきた。
「ユウさん、先日のお店の損害なら気にしないでください。元々あまり売れていない商品なので、あのままお店にあっても赤字になるだけですし。バニルさんなら私から説得しておきますから……」
「……ウィズ、気持ちは嬉しいがやっちまったのは俺だからな。そこはちゃんと補填はさせて欲しい」
「そうかそうか、それならば良い! ならば気兼ねなく我輩の要望を突きつけられるな!」
ウィズの姿がグニャリと歪み、バニルが姿を現した。どうやらさっきのウィズはバニルが化けていたらしい。
「んん? どうした小僧、今にも斬りかかりそうな雰囲気ではないか。だができぬよな? それでポンコツ店主の店に被害を出したのだからな! フハハハハハ!!」
……ここは、我慢だ、我慢。まずは深呼吸して……、
「……で、俺のところに来たって事は、その補填とやらが思いついたんだろ。何やればいいんだ?」
「ふむ、ショートカットの娘に胸部を揉まれている幼馴染を見て固まりながらも、揉まれている胸をガン見してしまった小僧よ。汝の魔法技術であるアイテムを設計してもらいたいのだ」
バニル言葉を聞いて、その場にいた女性陣が一斉に俺の方を向いてドン引きしたような表情をしていた。
「……おい、テメェ斬られたいのか? ここだったら街の外だから気兼ねなく魔法を撃てるんだからな……!」
「ショートカットの娘の”健全なバストアップ”とやらが本当かどうか気になって会話の最中でも、ついつい幼馴染達の胸元に視線を移していた男よ。詳細はこの紙に書いてはいるが、後日、店主の店で打ち合わせるとしよう。では我輩はこれで失礼!」
そう言ってバニルは足早に俺達の元を去って行ったのだが……、
「ユウ、あ、あなたって……」
「性格は外道だが、カズマの様なセクハラはしないと思っていたのだが……」
「ま、まさか、ハヤテに揉まれた私の胸を日々確認していたのですか!?」
アクア、ダクネス、めぐみんが俺を見て後ずさりながら、信じられないといった表情をしていた。
その後、女性陣の視線にいたたまれなくなった俺はギルドの酒場で一人席についていた。
「お前にも色々あったんだよな……。俺でよければ相談に乗るぞ。今日は奢ってやるからさ!」
優しげな表情をしたカズマが俺の隣に座ってきたので、事情を説明した。
「ユウ、お前は悪くない! 男ならそんな状況で胸に目をやるななんて不可能だ!!」
「大体、はやてがセクハラ過ぎるんだ! 古くは9歳の時に……」
俺とカズマが酒場で話していると……、
「おわっ! なんでアンタがここに……」
「カズマとメイドの先生なんて酒場じゃあ珍しい組み合わせだな」
「お前ら、コイツの話を聞いてやってくれ! コイツも俺達とは違う苦労があったんだ……」
酒場を訪れたダストとキースも話しに加わり、夜はふけていった……。
ライト・オブ・セイバーについては独自設定になってます。
ゆんゆんの手首を掴んでいるシーンは
NARUTOでサスケの千鳥を手首掴んで止めてるカカシ先生を
想像していただければ良いと思います。
プロセッサロッド
主人公紹介でチラッとでた管理局支給のストレージデバイスで、無印で使ってた杖という設定です。流石に貰ってから7年経っているので、処理速度は現在の標準的な速度に改良、白兵戦と大出力に耐えられるようにフレーム強化して使っています。
外見はモブの武装隊が使ってる物とまったく同じと思ってください。
スピアブレイド
杖の先から槍の穂先のような魔力刃を出現させる魔法。ストレージでの白兵戦用に使ってます。