この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
アクア達と出会った次の日。俺達は掲示板に求人広告を張り出し、冒険者ギルドのテーブルで半日以上待ち続けていた。
パーティーメンバーを募集しようと言い出したのはアクアだったが、彼らの職業と能力を聞いたところ、アクアは上級職の《アークプリースト》だが主に回復、支援が本業。対アンデッドにも自信があるらしいが、今のところそれが生かせるクエストはない。だからって、ジャイアントトードに殴りかかるのはどうかと思う。
もう一人の茶髪で同い年の少年であるカズマは、まだスキルもろくに覚えていない最弱職の冒険者だった。知らなかったとはいえ、いきなり初対面で”ヒキニート”と呼んでしまったのは申し訳なかったと思う。
カズマって日本人っぽい響きの名前だが、明らかに次元渡航技術のないこの世界に日本人がいるわけはないし、唯の偶然だろう。
そして俺は主に後方からの攻撃魔法を主体とするアークウィザード。一応近接戦闘もできるが、前衛でも後衛でもあと1人か2人はメンバーが欲しいところだ。
入ったメンバーの職業に合わせて俺がポジションを変えればどうにかなるとは思う。できればメンバー補充と同時に抜けたいが……。そんなことを考えていると、
「……なぁ、ハードル下げようぜ。目的は魔王討伐だから仕方ないっちゃ仕方ないんだが……、流石に上級職のみ募集しますってのは厳しいだろ」
カズマが困ったような顔で口を開いた。
『魔王』――昨日の夕食時カズマ達と色々話していた時に出た言葉だ。
どうやらこの世界には本当に魔王と呼ばれるものがいて人々を苦しめているらしい。ここまでくると本当にゲームの世界の中にいるような気になる。
9歳の時、『魔法』なんて古典的なものに関わってしまったかと思ったら、未来から現れた様な戦艦に乗ってしまった時も相当なカルチャーショックを受けたのだが。
昔の事を思い出しつつ、アクアを見ると彼女は少し涙目になりながら、俯いていた。
「うう……だって……、だって……」
アクアの気持ちも分からなくもないが、ここはカズマの言うとおりだろう。
上級職なんてなれる人間は殆どいないらしい。俺も上級職のアークウィザードではあるが、それは管理局での任務経験といった下地があったからだ。
「これに関してはカズマの方が正論だ。別に上級職じゃなくったって、戦い方次第で成果なんてのは出せるようになるんだからさ」
俺の言葉にカズマが続く。
「それに、お前達は上級職かも知れないが、俺は最弱職だ。周りがいきなりエリートばかりじゃ俺の肩身が狭くなる」
……カズマ、その気持ちよくわかる。俺も周りがエリートだらけだったよ……。
”俺の幼馴染達は9歳の時に今の俺くらいの実力だった。”なんて言ったらどんな顔するだろう? ……なんか思い出したら涙出てきた。……くすん。
今くらいになるまでに、あいつ等にどれだけ鍛えられたか分かったもんじゃない。感謝はしているが、トラウマも結構あるんだよなぁ……。
昔を思い返し少し落ち込んでいるその時だった。
「上級職の冒険者募集を見てきたのですが、ここで良いでのでしょうか?」
声のした方を振り向くと、肩口くらいにまで伸びた黒髪、黒マントに黒ローブ、トンガリ帽子といったステレオタイプの魔法使いの少女がいた。年はおそらく12~13歳位だろうか。左目の眼帯は……怪我でもしているのか?
ミッドチルダもそうだが、こちらの世界も就業年齢はかなり低いらしく、この少女位の年でも働いているのは珍しくはないようだ。眼帯の無いもう一方の瞳を見ると、紅玉を思わせる紅い輝きがはっきりと分かる。
そうしている内に目の前の少女はバサッとマントを翻し、
「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操るもの……!」
そう言って高らかに名乗りを上げた。
「……冷やかしに来たのか?」
「お嬢ちゃん、お名前はあだ名じゃなくて、本名を名乗ってね」
昨日、カズマを”ヒキニート”と呼んでしまった後、そんな変な名前はこの世界にないと教わったので、少女の名前はあだ名だろう。日本人っぽい名前が普通にいる様なので、おそらく、名前は……めぐみさん……か? そんな予想を立てていた。
カズマと俺が瞬時にツッコンでしまったが、目の前の彼女は。
「ち、ちがわい。それと私のどこが”お嬢ちゃん”なのか聞こうじゃないか!」
めぐみんと名乗った少女は子供扱いされたのが、お気に召さなかったらしい。小さい子だと思って、迷子に話しかけるようにしてしまったのはマズかったようだ。この年頃の女の子は難しい……。
アクアの説明によるとめぐみんは紅魔族という生まれつき魔力と知力の高い種族の出身で、魔法使いのエキスパートなる。ついでにみんな変な名前を持っているらしい。アクセルに来る前に隊商の人が、そんな種族がいるとか言っていた気がする。
昨日変な名前はないと聞いていたが、カズマが知らなかっただけか……。
……まぁ、ともかく
そういえばこないだクリスは、上級職は引く手数多なんて言ってたけど、どうしてめぐみんは一人なのだろう?そんなことを考えていると、めぐみんが突然その場に倒れた。
「……もう、3日も何も食べていないのです。できれば何か食べさせて頂けませんか……」
……めぐみんのお腹の辺りがキュ~と悲し気な音を立てていた。
上級職とはいえ駆け出しの冒険者にとって金欠に悩まされるのは仕方のないことらしい。食事奢るくらいなら手持ちの金でどうにかなるし別に良いだろう。
それぞれ自己紹介を終えた俺達はめぐみんの食事が終えるのを待っていた。
「なぁ、爆裂魔法ってどんな魔法なんだ?」
俺はこの世界の魔法をまだ見たことがない。とはいえ一応魔導師なので”魔法”と名の付くものは気になるのである。
「爆裂魔法は修得が極めて難しいといわれる爆発系の、最上級の魔法なの」
俺の問いにアクアが得意げに答える。
爆発系ってことは、おそらくは広範囲系の魔法だと推測できる。しかも最上級ってことは、めぐみんって結構すごいのでは。そんな考えが過ってしまった。
そうしている内にめぐみんも食事を終え、俺達はクエストに出かけることになった。
「爆裂魔法は最強魔法。その分魔法を使うのに準備時間が結構かかります。準備が整うまでカエルの足止めをお願いします」
「だったら俺が拘束しておくよ。動かれても面倒だろ?」
「そんな事ができるのですか? でしたらお願いします」
今回はめぐみんの実力を測るのも目的の一つだ。俺はサポートに徹していた方が良いだろう。そうして俺は前方のジャイアントトードに向かって捕獲魔法を使った。
「『チェーンバインド』ッ!」
鎖状になった魔力がジャイアントトードを縛りつけ動きを止める。その間、めぐみんは魔法の詠唱を進めていた。
めぐみんの杖の先に集まっている魔力は、魔法使いではないカズマでさえ、尋常ではないものだと感じ取ったのだろう。固唾をのんで見守っている。そしてついに……。
「『エクスプロージョン』ッ!」
めぐみんの杖から爆裂魔法が放たれた。爆音と熱風、衝撃波が辺り一面を駆け巡り、そこから巻き上げられた土煙が晴れて、見えたのは……。
「クレーターが出来てるよ。カエルなんて跡形も残ってない……か。これ……
正直ここまでの威力があるとは思わなかった。カエル一匹にはオーバーキルもいいところだが、これは自分の実力を見せるための、めぐみんなりのデモンストレーションなのだろうと思っていると、めぐみんの近くにジャイアントトードが這い寄ろうとしている。
すかさず、”逃げろ”と言いかけたところで、めぐみんがその場に倒れ、そのままジャイアントトードに丸呑みにされた。
魔法を撃った後、倒れたのは何かのトラブルか?
その懸念を想像してしまったが、それよりも先ずは、めぐみんの救出が先だ。
『セイバーモード』
デバイスを近接戦形態にし、ジャイアントトードへと斬撃を加える。怯んだ隙に、めぐみんを抱えて移動を始めていた。
まずはめぐみんの安全確保が最優先だな……。
そう思った俺はめぐみんをお姫様抱っこで抱き上げ、ジャイアントトードから遠ざける。十分に距離をとった後、
「シューターモード行くぞ」
『オーケーです! ブレイズカノン』
魔法陣を展開し、砲撃魔法を放った。
『ブレイズキャノン』――ロングレンジからの熱量を伴った砲撃でジャイアントトードに止めを刺す。こっちはどうにかなったが、カズマたちはどうなったかと思い二人のほうへ目を向けると、アクアがまた丸呑みにされていた。
あいつはわざとやってるんだろうか……?
カズマもジャイアントトードの相手は慣れてきたらしく、アクアを丸呑みにした奴が彼女を飲み込もうとしているうちに討伐を成功させていた。
無事とはいえないが、クエストを終了させた俺達はアクセルの町を歩いていた。アクアとめぐみんは粘液まみれ、ついでにめぐみんは魔力切れを起こしてカズマにおんぶされている。
爆裂魔法は威力も大きいが、その分魔力消費が大きすぎて一発撃つと魔力切れを起こすらしい。それならそうと最初に言ってくれれば、色々やりようはあったのだが。
「これからは爆裂魔法は緊急時以外使用禁止な」
「そうそう、爆裂魔法は切り札でいいよ。普通の魔法でも十分な威力だし」
これは当然と言えば当然の提案だ。あれ程の魔法に頼らなくとも、
カズマと俺の言葉にめぐみんは……、
「……使えません」
なんて言葉を口にした。
一言でいうと、めぐみんは爆裂魔法しか使う気のない魔法使いということだった。彼女は爆裂魔法しか愛せない魔法使いであり、一日一発しか撃てなくても、使った後に倒れるとしても、それを止めるつもりは無いと高らかに宣言していた。
この子、簡単にいうと一発しか撃てない”はやて”か。
めぐみんの爆裂魔法への想いは嫌いじゃない。こういったタイプは案外伸びる人も多いと思うけど、この娘ソロじゃ冒険者無理だよな。はやてだって遠距離発動、広域系の魔法の使い手だけど、あいつの場合は守護騎士達に守られているから思い切り打てるわけで……。
そうこうしているうちに、めぐみんがカズマに自分をパーティーにいれて欲しいと懇願していた。
そして彼女は周囲にいた女性にカズマが”カエルを使ったヌルヌルプレイ”なんてものをしたと思い込ませ、無理やりパーティーに加入した。腹黒さまで、はやて似かよ! と突っ込んでやりたかったが。
似たような魔法の使い手は性格まで似るのだろうか……? あのお姉ちゃん、最近ニコニコ顔で黒い時があるから、おっかないんだよなあ……。
何はともあれ、新メンバーが入ったのなら俺は用済みのはず。俺はカズマに向かって、
「カズマ、メンバー補充できたなら俺は抜けるよ。爆裂魔法は使いどころは限られるけど、魔法を使って一撃離脱とかなら結果は出せると思う。じゃあ、後はがんばって」
「おい、ちょっと待てって!」
カズマは引き止めようとするが、こっちにはこっちの都合があるし、悪く思わないで欲しい。最後に彼らに挨拶をしようと振り向くと、なにやらめぐみんがカズマに耳打ちをしていた。なんか、カズマ、話を合せてください。などどいった声が聞えてくる。
嫌な予感がするので、とりあえず離れようとすると。
「……そうですか。ユウも私を捨てるんですね」
めぐみんが、何かやばいことを口走りましたよ。
「さっき私を助けた時はお姫様抱っこまでして、その気にさせておいて、用が済んだら飽きたおもちゃみたいに簡単に捨てるのですね……」
おい、ちょっと待て誤解を招く発言するな。
そして、さっきまでカズマに軽蔑の視線を向けてた周囲の女性達が一斉にこっちを向いていた。
「あのなあ……。片手で抱えるのは、めぐみんの軽さなら出来たかもしれないけど、女の子はぞんざいに扱うなって、散々躾けられてんだよ、俺は!」
「ほう……。では、ああするのがユウにとっては普通なのですか……。女性の扱いには慣れている……と。そして困ったらポイっとするわけですね?」
俺が女誑しの様に評価されてしまっていたが、それを聞いた周りの、特に女性からは。
「……あの男、女の子を散々弄んで捨てるそうよ」
「ヌルヌルプレイの男も最低だけど、あの男も鬼畜よ!」
「またきっと、別の女の子を弄ぶ気よ!!」
それに便乗するようにカズマが周囲に聞こえるような大声で以って。
「あいつはヌルヌルプレイなんて可愛く思えるくらいの鬼畜プレイをする奴だ! そんな奴を野放しにできないから、俺達のパーティーで監視しておかなきゃな!」
「その通りですカズマ。私達さえ犠牲になれば全て丸く収まります!」
……やめてくれ!? 段々退路が塞がれてるんだが。俺は別にお前らが嫌いで抜けるんじゃないんだよ……? こっちにも事情があるんだよ?
俺の動揺を察したカズマが耳元で囁きかけた。
「これで、このパーティーにいないとクエスト受注できなくなるかもな。どうする?」
もう俺に選択肢はなかった。
「……残ります」
早く誰か迎えに来てくれ……。