この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
「こんちわー! ウィズいるかー?」
先日のウィズ魔道具店で暴れてしまった補填として、アレンジした『ファイアボール』のマジックスクロールを作成した。補填事態はそれで終了したのだが、新しいアレンジができたので、この店に持ってきたというわけだ。
「む、来たか凶悪魔道士よ。今日は何用だ」
「誰が凶悪魔道士だ!? せっかく新しいスクロール持ってきたってのに、どうしてそうなんだテメェは!」
「魔力が少ない状態でも爆裂魔法並みの魔法を撃てる者が、凶悪でなくて何なのだ? 汝はネタ種族の娘よりタチが悪い。それと新しいスクロールと言ったな、見せて貰おうか」
店に入って出て来たのはウィズではなくバニルであり、これもまたお約束となっているヤツのからかいが飛んできた。前は故意に挑発されたとはいえ殴りかかってしまったので、冷静でいるように努めている。
でもなぜか口調が荒くなってしまうんだよな……。
「ふむ、『ファイアボール』に追尾性能を付加したものと、『ブレード・オブ・ウインド』で着弾と同時に対象を凍らせる効果を付加したものか。やはり我輩の見立て通り良い商品を作るな。汝、いっそこちらの道で食っていくのも手だ。茶髪の小僧と違い、運が無い分コツコツやるのは得意であろう。だがその場合、貴様のパーティーの関係者には気をつけた方が良かろうて」
どうやら今回のスクロールも及第点の様だ。運が無いのはともかく、メンバーの関係者には気をつけろってのは、どういうことだ?
「バニル、さっきのはどういう意味だ? パーティーメンバーの関係者に気をつけろって……」
「ムッツリ魔道士よ、汝の未来は見通しづらいが良い商品を提供してくれた礼だ。見通せる範囲で教えてやろう。下手に高性能な魔道具を作れる事を示せば、汝にとって厄介事になりかねん。そうなった場合は、茶髪の小僧に押し付けるのも一つの手だ、覚えておくがいい。あの小僧も気に入られるはずなのでな」
……厄介事ね、魔道具を作れるのがどう結びつくのか。押し付けるだの、気にいられるってのは何の事なんだか……。つーか誰がムッツリ魔道士だ!!
「そういえばウィズはどうした、外出中か?」
「そこで寝そべっている消し炭店主の事か? 汝が来る少し前にこの姿にしたが、良いタイミングであった」
店内の床にはウィズと思しき黒い塊が、プスプスと煙を上げながら全く動かずに佇んでいる。
「……なあ、これ……大丈夫なのか? どう考えても焼死体にしか見えないんだけど……。こんなのが店にあったら、俺はともかく他の客は逃げ出すぞ。ていうか何があったんだ?」
「先日、貴様が持ってきたスクロールを持たせて王都に営業へ行かせたのだ。我輩は残機が減ったとはいえ元魔王軍の幹部。王都での営業は面倒事になりかねんのでな……」
コイツ、悪魔とはいえ意外に真っ当に商売してるんだな。バニルの目的は実際のところどうかとは思うが、害が無いなら敵対する理由も無い。バニルは更に続けて、
「……だが、ポンコツ店主一人で行かせたのが悪手であった。王都のいくつかの魔道具店にもウィズ魔法具店からスクロールを卸せる事になったのだが、その帰りに欠陥店主めがおかしな商品を仕入れてきおった。おかげで契約金その他諸々が水の泡と化しおったわ! その後のポンコツ店主の姿がこれである」
……つまり、変なアイテムを高額で仕入れてきてしまってバニルにやられてしまったと。それでも放って置いてるって事はその内回復するんだろう。
「……ちなみにそのアイテムってのはどんなのだ?」
「殺傷力の無い『初級魔法』の威力を飛躍的に高める腕輪だ。ポンコツ店主曰く実戦でも通用するらしい」
これだけ聞くと、結構良さそうなアイテムに聞えるんだけどな……。
「悪くは無いんじゃないか? 冒険者やウィザードにでも装備させればスキルポイントが1ポイントだけで実戦投入できるって事だろ。俺も似たようなことはできるし……」
「……しかしこの腕輪、アークウィザード専用装備である。アークウィザードになれる者が『初級魔法』を習得するはずは無かろう。威力が増すといっても良くて中級魔法に一歩及ばず、上級魔法では勝負にすらならぬ。しかも値段が30万エリス、この腕輪を買うくらいならその金で装備を揃えるわ!」
ああ、これは駄目だ。確かに買い手の無いアイテムだろうな。でもこの店はそれ以外にも希少鉱物系の良いアイテムなんかも置いてるけど、やっぱり駆け出しの街って事で売れないんだろうな……。
「う……うう、バニルさん……私としては駆け出しの街のアークウィザードにとっては良いアイテムだと思ってこの腕輪を……」
「こんなキワモノが売れてたまるか! 最初から上級職に就ける者が初級魔法なんぞ習得するか! そこの小僧の様な最初から上級職にも関わらず、初期スキルポイントが0の例外魔道士がそうそういるわけなかろう!」
黒こげ状態から復活したウィズが腕輪の有用性を説いていたのだが、即座に論破されていた。しかし、凶悪だのムッツリだの例外だのといい加減にして欲しい。
その後、いつもの状態に戻ったウィズとお茶を飲みながら世間話をしていたのだが、
「風の魔法に氷の魔法を付け加えるなんて凄いですよ! 別々に撃って合わせる事はできても、一緒にしてしまうなんて……」
「最近、氷系の魔法の練習をしててさ。色々試してるところだったから、『中級魔法』でも似たようなのができるかやってみたんだ。ただ一つ問題があって、自分の魔法をできれば実戦に近い方法で撃ってみたんだけど相手がいないんだよ」
アクアは暖炉の前から動きたがらない、カズマやめぐみんでは一方的な攻撃になってしまう、ゆんゆんでも全力に近い力でやると相手にならない、ダクネスは……喜んで引き受けるだろうが、俺がやりたくない。といった感じなので、俺自身の氷結変換の訓練が少し滞っている状態だ。
「ならばそこの無駄使い店主を連れて行かぬか? 節穴店主ではあるが冒険者時代は”氷の魔女”と恥ずかしい二つ名で呼ばれていたのでな。相手にとって不足はあるまい。何せリッチーになる前ですら、我輩の残機を減らしかけたほどの実力者だ」
バニルから思いがけない提案が飛んできた。ていうか”氷の魔女”って……。
「もしかして氷系の魔法が得意だからそんな風に呼ばれてたのか?」
「それもあるが、店主の元仲間曰く、いつもクールで付いた二つ名のようだ。我輩の前ではカッカしていたものだがな」
それってどう考えてもバニルがおちょくったせいだと思う。というか魔法系統関係無いな。悪いけどウィズには店があるし断わろうとしたのだが……、
「……ポンコツ店主を外に連れ出してはくれぬか? 汝は魔法の訓練ができる、我輩は店主がいない間にこの店を黒字にできる、良いこと尽くめだ。どうだ? 桃色髪の幼女を初対面で怖がらせて以来、どう接して良いか分からなくなっておる小僧よ」
魔法の訓練と店の件はともかく、何でバニルは要らない事ばかり見通すんだよ!
「ウィズ悪い、ちょっとバニルを魔法の的にして良いか? 仮面の一つや二つ無くなったところでまた復活するんだろ?」
「そ、それは駄目です! 満面の笑顔で恐ろしい事を言わないでください。 ここで戦ったりしたらまたお店が大変な事になりますし、バニルさんと戦ったらどんどんやさぐれてしまいますよ! 私達がそうでしたから。それと魔法の訓練の件、構いませんよ。ユウさんには魔力補充でいつも助けていただいていましたし」
ウィズの申し出をありがたく受取り、訓練を始めて1週間経ったころ……。
「おーい、ユウ様子見に来たぞ……って何だこの惨状!?」
「地面はえぐれてるし、所々凍結してるし、大きい氷柱が刺さってたり地面から生えてるわよ!?」
「戦争跡ですか、これは……!? でもあの地面に刺さってる氷の剣はかっこいいですね」
「何をやったら魔法でここまでできるのだ!? たった二人だろう!!?」
パーティーメンバー全員が街の外に出て実戦訓練していた場所を見て目を丸くしていた。
「驚くほどではあるまい。片や魔王より強いかもしれないと呼ばれる我輩の残機を減らした凶悪魔道士、片やリッチー成り立てで魔王城に攻め入り幹部数人を戦闘不能にし、首なし中年を締め上げたポンコツ店主だ。爆裂魔法と集束砲とやらがぶつかればこの比では無かろう」
バニルだけはこの場で唯一冷静に分析していた様だった。爆裂と集束砲なんて撃ち合ったらもう最終戦争だって……。
「みんなどうしたんだ? つーか後ろの方々は……」
「お前が毎日ウィズと二人っきりで魔法の訓練してるってのが噂になっててさ。ギルドに居た冒険者達が見学したいってついて来た」
そこにはテイラーやダストをはじめ、見知った顔の冒険者達がカズマの後ろに大勢佇んでいた。
「店主さん、今度俺にも個人レッスンを!」
「店主さんと二人っきりだと!? 羨ましいぞ!!」
「店主さん、今度俺と二人っきりであの店の夢の続きを……」
カズマの後ろの男性冒険者達から羨望の眼差しで見られていた俺ではあったが、二人っきりだからって別にやましい事なんてしてないし、そんな眼で見られても困ってしまう。
「中々楽しそうだな、ご機嫌店主よ。あの小僧と実戦訓練しているうちに昔の自分でも思い出したか?」
「違いますって! ユウさんって基礎的な部分が凄くしっかりしてますから、実戦形式で練習していると一日一日伸びているのが良く分かるんですよ。見ていて楽しいですよ本当に」
元凄腕冒険者であり、魔王軍のなんちゃって幹部のウィズがニコニコしながら俺を見ている。教えていて楽しいってのはありがたい言葉だ、励みになる。
「ユウさん、もう殆どアドバイスもありませんし練習は今日までにしましょうか。次の撃ち合いで終わりにしましょう」
ウィズの言葉に同意し、お互い距離をとって相手を見据えていると、
「カズマ、店主さんとユウどっちが勝つか賭けねぇか?」
「んー、じゃあ俺はウィズだな。ユウは氷系の魔法の練習してるからそれしか使わないはずだし、魔法使いの力でいえばウィズの方が上っぽい」
「じゃあ俺はユウだな、負けた方は今日の酒場の支払いな」
カズマとダストが最後の撃ちあいをどっちが勝つかを賭けにしていた。ダストとはカズマに愚痴を言っていた時に合流して以来、結構仲良くなっている。
俺が負けても恨むなよ、ダスト。
そうして、デバイスを構えて、
「『アイシクルフォール』!」
氷結変換で人の腕程度の大きさの氷柱を多数作り出し、加速してウィズに向かって猛スピードで撃ち出す。ウィズはすかさず、
「『インフェルノ』ッ!」
巨大な炎で迫り来る氷柱を迎撃していたが、全て溶かしきれはせずに数本はウィズに向かっていった。
「『ライト・オブ・セイバー』!」
ゆんゆんも得意とする光の刃によって向かっていた氷柱も全て切裂かれていた。
「「「「おおー!!」」」」
俺達の攻防を見ていた見学者達は歓声を上げていた。
取り合えず、初手は互角。同じ上級魔法でもゆんゆんよりも威力はずっと上である。元々レベルが高かったのと、リッチーになったのが威力を高めているのかもしれない。
「『カースド・クリスタルプリズン』!」
今度はウィズが俺に向かって魔法を繰り出してきた。着弾した部分を瞬時に氷漬けにする上級魔法、まともに喰らえば腕や足が一瞬で凍結させられる。
『Frost Barret』
凍結効果を付与した魔力弾を複数撃ちだし、ウィズの魔法と激突させるとその場所に氷塊が出現していた。
「……こんなのやってれば、ここが荒れ放題になるわけだ」
「……ああ、私なら喜んで的になるが反撃しても当たらんからな。実戦形式であれば物足りんだろう。手首足首を氷漬けにされあられもない姿で……想像しただけで体が熱く……!」
カズマは納得したような表情で、ダクネスは自分がやられる事を想像して顔を赤くしていたがそんな事は絶対にしないので安心して欲しい。そうこうしている内に、今度は接近戦での『ライト・オブ・セイバー』と自身の魔力刃との打ち合いになっていた。
「ゆんゆんは成す術もなく『ライト・オブ・セイバー』を壊されましたが、ウィズは余裕で受けていますね」
「ウィズさんと一緒にしないでよ……。私だとまだ出力が足りないから……」
めぐみんとゆんゆんも打ち合いを見ていたが、自分の時と全く違う結果になったので思うところがあったようだ。
数合打ち合ったものの俺の魔力刃ではまだウィズには敵わないらしく、魔力刃が壊されてしまい、衝撃で後方へ飛ばされた隙に眼前へと『ライト・オブ・セイバー』を突きつけられてしまった。
「今回も私の勝ちですね……あら!?」
『ライト・オブ・セイバー』を突きつけられつつも、こちらも『スティンガーブレイド』に凍結効果を付加した氷の剣数本をウィズを囲むように設置し、いつでも攻撃に移れるようにしていた。
「訂正します。今回は引き分けですね」
「ようやく引き分け一回目ってウィズはやっぱり強いんだな……」
ウィズが微笑を浮べながら魔法を解き、訓練は終了となった。
「互いに加減していたとはいえ、ポンコツ店主とまともにやりあえるとはな。まあ、汝の知人も相当の様だが」
珍しくバニルがおちょくることなく話してきた。見学に来ていた冒険者達も、目を輝かせて俺の方を見ていたのだが次の瞬間、
「汝の場合、実戦的な方が覚えるのも教えるのもやりやすかろう。講師として招かれた学校での訓練の際、相手をした生徒全員を縛り放題して行動不能にした小僧よ。生徒達が汝のパーティーのクルセイダーと同じ性癖に目覚めなければ良いがな!」
バニルのヤツが誤解を受けそうな発言をしやがりました。先ほどまで目を輝かせていた周囲の視線が冷たいものへと変わっていく。
「し、縛り放題とは……! 一体何をしたのだ!? 大多数を相手に緊縛プレイだと……! 動けないのを良い事に好き勝手やったというのか、こ、今度私にも再現してくれ!!!」
唯一、言葉を発したダクネスではあったが、それを聞いた冒険者達は後ずさり特に女性冒険者からは蔑みの視線を向けられてしまった。なぜかダストとキースはサムズアップしていたが。
「……ロードカートリッジ!」
「フハハハハ! 大変美味な悪感情であった! 今度は我輩とやるつもりか、その消耗しきった体でどこまでできる? このまま正当防衛と言う名の嫌がらせを続けるとしよう!!」
その後、俺とバニルが戦った場所は何も残らない更地と化していた。