この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
「スキルの習得方法?」
カエル討伐の次の日、カズマがそんなことを聞いてきた。
「冒険者カードに修得可能スキルが書いてないか?」
俺が冒険者カードを受取った時、習得可能スキルが一覧になってはずだ。
ただし、俺の場合はアークウィザードのスキルだけでなく、ミッドチルダ式魔法についても冒険者カードに記載されている。元々修得済みってことなんだろうけど、どういう仕組みなんだか。
「カズマは初期職業の冒険者ですから、誰かからスキルを教えてもらうのです。そうするとカードに修得可能スキルという項目が現れるので、ポイントを使ってそれを選べば完了なのです」
もぐもぐと旺盛な食欲を見せているめぐみんが、食事を取りながらカズマの問いに答えている。
カズマから聞いたところ、冒険者は全てのスキルを修得可能らしい。その代わり他の専門職に比べポイントを多く消費するのだとか。
「じゃあさ、極端な話カズマでも爆裂魔法習得できるのか?」
「その通りです! カズマは冒険者、ユウはアークウィザード、二人とも爆裂魔法を修得できる職業です。爆裂魔法を覚えたいなら、いくらでも教えてあげましょう!」
なら冒険者カードを見てみるか。爆裂魔法の修得ポイントは……っと。
「50ポイントなんてどれだけ喰うんだよ!」
「ユウは習得可能スキルに爆裂魔法が記載されているのですか? 爆裂魔法はアークウィザードでも誰かから教わなければならないはずですが?」
めぐみんが不思議そうな顔をして俺に問いかけていた。爆裂魔法は一発しか使えない代わりに、その威力は強力無比。そんな特別な魔法っぽいから、上級職になった程度では修得可能にならないのかもしれない。
「昨日めぐみんのを見たからな。詠唱も大体覚えたし、魔力の運用方法もわかった。けど俺の場合、覚えたところで魔力が足りるかどうかはわからない」
子供の頃から収束砲だの広域系魔法だの、それはもう嫌になるほど見てきたからなー。はっはっは……。なんだかんだでそういった魔法には慣れてるんだろうな。
だけど俺の場合、自分の魔力だけでは爆裂魔法を撃てないだろう。カートリッジで足りない分を補填すればどうにかいけるかもしれないが。
「ユウ、お前ってもしかしてすごい奴なのか?」
「そうですよ! 一度見ただけで爆裂魔法を修得可能になる人なんて聞いたことありません! やはり私と一緒に爆裂道を極めようではありませんか!」
めぐみんが爆裂魔法修得について熱く語っていると、
「とりあえず、少し落ち着けロリッ娘。今は俺の方がユウに聞きたいことがある」
「ロリッ娘……!? この我がロリッ娘……」
どうやらめぐみんに"ロリッ娘"は禁句のようだ。落ち込んでいるめぐみんをよそにカズマが質問をしてきた。
「それでだ、ユウのスキルで良さそうなのはないか?」
「なら俺の冒険者カードで気になるのがあったら言ってくれ」
カズマに冒険者カードを見せてみる。俺のスキル一覧を一通り見た後、何か疑問を持ったのか口を開く。
「ユウ、この『花鳥風月』ってなんだ?」
……花鳥風月? なんだそれ? 少なくともアークウィザードのスキルではないはずだ。そもそも何でそんなスキルがある?
困ったような顔をしてる俺にアクアが不思議そうな顔で話しかけてきた。
「『花鳥風月』は宴会芸スキルよ! 酒場で芸をしてみんなを癒すにはもってこいのスキルなんだから! でも不思議ね……? 普通アークウィザードにはないはずなのに」
そんなのは俺が知りたい。しかも宴会芸のクセして5ポイントも必要なんて、どうなってんだホント……。
そんな俺達のやり取りを見ながらカズマが、
「とりあえず宴会芸はいいから何かおすすめはないか?」
……おすすめねぇ。自分の使える魔法を一通り思い返し、カズマへ返答する。
「なら、バインドなんてどうだ」
「ユウ、盗賊でもないのにバインド使えるんだ? 面白いね。フリーズバインドって魔法もあるけど、それとは違うの?」
聞き覚えのある声で振り返るとそこには、クリスと長い金髪をポニーテールにしている騎士のような女性がそこにいた。
「クリスか、久しぶりだな。俺のバインドは魔法だから盗賊のものとは根本的に違うものだぞ、多分。それと俺のは純粋魔力で縛る奴だから、そのフリーズバインドって奴とも違うはず」
「そっちのキミ、有用なスキルをなら盗賊スキルがおすすめだよ」
クリスの話によると盗賊スキルには敵感知や罠解除、潜伏といった便利なスキルが揃っているのだそうだ。確かに直接的な攻撃力はないが使い方次第で、クエストのリスクを減らせるのはいいかもしれない。
しかし、あの女騎士……、クリスの紹介ではダクネスって名前だったか。昨日カズマとも会ったって話だけど何かあったのか? カズマの様子がどことなくおかしい様な?
それに鎧姿にポニーテールか……シグナムの姐さん思い出すな。……よく稽古をつけてもらってたっけ。稽古って呼べるものかは疑問だが。あぁ……なんか色々思い出してきた……。
「近接戦での炎熱の使い方教えるって言って、いきなり斬りかからないでください。どちらかが動かなくなるまでの模擬戦って、もう実戦ですよね? しかも一撃当てられた位でムキになってカートリッジロードしないでください。そんなことだからバトルマニアって呼ばれるんですよ……!? シールドなしで連結刃避けるってどうやるんですか?魔力の流れを感じろ? いきなりできるわけないですよ。届く距離まで近づいて斬れ? そんなのでどうにかなるのは姐さんくらいです……」
震えながらブツブツ独り言を囁いている俺に心配したのか、アクアとめぐみんが不安そうな表情で声を掛けてきた。
「どうしたのよ!? ユウ、顔が真っ青よ! 大丈夫なの!?」
「そうですよ!? 眼が虚ろになっていますよ!? 気をしっかり持ってください!」
……ハッ!? ヤバイ……!? 意識が別の世界に行っていた。
「……二人ともありがとう。俺を引き戻してくれて」
どうやら俺はダクネスとはあまり相性がよくないようだ。彼女を見ただけでトラウマが蘇るんだから……。
それに……、長い金髪の女性の騎士って……、どことなく、俺の……母さんにも……。
「おおーい、ユウ。お前とクリスのスキル俺に見せてくれよ」
カズマから声が掛かり、俺、カズマ、クリス、ダクネスの4人で裏路地へ向かった。
「じゃあまずは俺からな。『リングバインド』」
光の輪がカズマの右腕に現れ、その場に拘束する。
「う、動けねぇ……」
「これがリングバインド、捕獲系の基本な。一つだけだと拘束力は強くないけど、発動は早いし、複数使えば拘束力も増す」
カズマに掛けたバインドを消して説明をしていると、どこか艶かしい声が聞こえてきた。
「……ッン……ハァ……ハァ……フゥ……」
その声はダクネスから漏れているものだと気付き、彼女を見ると顔が紅潮していた。
「ダクネスさん、もしかして体調が悪いんですか? だったら無理しないで休んでた方が……」
「私は……ッン……大丈夫だ。……それより私にも……ハァ……何かバインドというのを掛けてくれないか……? 彼も色々見たいだろうしな」
どう見ても大丈夫そうじゃないんだが……。やっぱりカズマにしておこうと思い振り向こうとすると、
「大丈夫だと言っているだろう! さぁ! 遠慮なくやってくれ!!」
そこまで言うなら仕方ない。なるべく手早く済ませよう。準備はできてるしな……。
「じゃあダクネスさん、2、3歩前に出てもらえますか?」
ダクネスがその指示に従い、前に出ると鎖状の魔力が彼女の胴体、左腕、両足を拘束する。設置箇所が甘かったのか右腕だけは掛からなかった。
「これがディレイドバインド、特定の場所に進入した対象を捕縛するタイプのバインドで、トラップとしても使える」
「へぇ……結構便利なんだな……」
カズマの言葉にダクネス凄まじく嬉しそうな顔をして、俺の方を真剣な眼差しで見ながら。
「ああ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ、これは! 右腕だけを拘束していないところを見ると、あなたはかなりのやり手だ!!」
どういう意味だ? 右腕が掛からなかったのは、ただのミスなんだが……?
「これは……右腕は慈悲だ! 自決用として残してやる。これから始まる辱めに比べれば死なんてものは天国だ! さぁ好きな方を選ぶがいい……と、そういうプレイなんだな!!」
……あぁ、この人はそういう人なのか……と思いつつクリスとカズマの方を向くとクリスは苦笑い、カズマはご愁傷様といわんばかりに合掌していた。
……お前ら知ってたな! 知ってて止めなかったんだな!! シグナム姐さんごめんなさい。こんな変態を一瞬でも姐さんと似てると思って、ごめんなさい。
ついでに、似てはいるが少なくともうちの母さんだってあんな性格ではなかった。スキンシップが結構多い人ではあったが……。
その後、カズマはクリスから
今回はクリスからの提案での勝負だったので大目には見るが、次やったら少し注意しよう。俺は一応警察機関の人間なのだ。
ギルドに戻り、俺達の帰りを待っていたアクアとめぐみんの座っているカウンターの前に行く。
先ほど、カズマがクリスに対して行ったことをダクネスが大声で説明し、冷たい視線がカズマへと突き刺さる。……まぁ、いい薬だろう。
「それで? カズマは無事にスキルを覚えられたのですか?」
「ふふ、まあ見てろよ? いくぜ、『スティール』ッ!」
めぐみんの問いかけにカズマは『スティール』を発動した。するとめぐみんが何かを盗られたのか、涙目になっていた。
カズマの方を振り向くと、その手には黒いパンツがあった。
「……あの、スースーするのでパンツ返してください……」
……そうか、あれはめぐみんのパンツか。流石に見過ごせないな……。
俺はカズマの肩にポンと手を置き、
「まずはめぐみんにパンツ返そうな……。そのあと、あっちのテーブルで俺とちょっと”お話”しようか」
カズマを椅子に座らせ、淡々と語りかけていく。
「勝負でクリスのパンツ盗ったまではまだいいが、そのあとパンツ振り回すのは十分なセクハラで、有り金要求するような発言は恐喝だって分かってるよな?」
「い、いや……、そんなつもりは……」
「めぐみんのパンツ狙ったのも家宝にするなら白と黒のセットで見栄えが良いから並べて額縁にでも飾っておこうと思ったからか? それと職業変態のスティールはパンツだけを奪うって本当か?」
「めぐみんのパンツは盗ろうと思って盗ったんじゃ……」
「クリスのパンツは家宝にして奉るって言ってたじゃないか。そんな発言してる時点で故意だったと思われても仕方ないんだよ。それにな……やっちゃた奴はみんなそう言うんだよ。”そんなつもりはなかった。”ってさ」
「そ、その……」
「カエルのから揚げ食うか?」
「……いただきます」
こういうのは感情的になるよりも、言い聞かせるようにするほうが効果が高いからな。色々脚色してはいるけど、少しは反省させた方がいいし。
「すごいわ! カズマの顔が見る見る青ざめてる」
「見事な尋問だな。できれば私にも……ハァ」
「まるで本職の手際です。あんなことができるとは驚きなのです。」
アクア、ダクネス、めぐみんが三者三様の感想を口にしていると、
『緊急クエスト! 緊急クエスト! 町の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』
「なあ、みんな緊急クエストって何だ?」
「……ん、多分キャベツの収穫だろう。そろそろ収穫の時期だしな」
俺の問いにダクネスが答えを返した。どうやらこの世界のキャベツは収穫時になると奥地の秘境でひっそりと息を引き取るために渡り鳥の様に飛び、その秘境を目指すのだそうだ。
へぇ……キャベツって飛ぶんだー。もしかして葉野菜はみんな飛んで実野菜は転がってくるのかなー。常識ってなんだろう?そもそも野菜なのかそれ? いろいろ無茶苦茶だな……この世界。
そのキャベツは一玉一万エリスで取引されるらしいので、生活のためだ、一玉でも多く捕まえよう。
「すっげぇ、ホントにキャベツが飛んでる……」
この際キャベツが飛ぶのはいい。誘導弾と動き回る標的に対するバインドの練習にもってこいと思って頑張ろう。
このキャベツは意外に攻撃力が高いらしく、その突進を受けた冒険者達は結構なダメージを受けていた。そしてダクネスはそんな冒険者達を守るようにキャベツの突進を受け続けていた。俺も設置型のバインドを使ってキャベツを拘束していったのだが……。
……なんか、ダクネスの動きが変だ……。みんなを庇うように攻撃を受けているのは変わらないが、何かを探すように少しずつ移動している気がする。
そしてダクネスが”その地点に”進んだ時、俺のバインドが発動した。
……アイツ、自分からバインドに突っ込んで行きやがった……!?
すぐに、バインドを解こうとしたその時、
「……ふふふ、あれほどの敵の大群を前にして爆裂魔法を放つ衝動が抑えられようか……?
いや! ない!」
ちょっと待て、めぐみん! 爆裂魔法の使い方としては間違ってない。間違ってはいないがちょっと待て! 今撃ったら確実にダクネス巻き込むから!
俺がそれを言う前に……、
「『エクスプロージョン』ッ」
爆裂魔法がダクネスを巻き込み、キャベツの大群へと放たれた。
ミッドチルダ式魔法には非殺傷設定という物がある。任意で物理ダメージを無くすことができる設定だ。まあ攻撃を受けるとそれなりの衝撃や痛みはあるのだが……。
……つまり何を言いたいかというと、非殺傷設定がないこの世界の魔法、しかも最高峰の威力を誇るであろう爆裂魔法の直撃を受けて、
なんでダクネスはピンピンしているんだろう……!?
クエストを終えた俺達に、ギルド内で収穫したキャベツを使った料理が振舞われていた。アクア、めぐみん、ダクネスの女性陣は先ほどのクエストの話で盛り上がっている。
クルセイダーは防御力の高い職業で、ダクネスは攻撃が当たらない代わりに防御系のスキルに全振りしていると聞いたが、いくらなんでもおかしい。ダクネスの体は鉄かなんかでできてるのか?それとも変態は”変態”という種族で人間じゃないのだろか……?
女性陣が盛り上がる一方で俺とカズマは浮かない顔をしていた。そうダクネスが正式にメンバーに加わったのだ。
「カズマ、間違いなく足を引っ張ることになると思うが、その時は遠慮なく強めで罵ってくれ。そしてユウ、隙あらばいつでも私にバインドを掛けてくれ。これからよろしくたのむ。」
やるわけねーだろ! そう思いつつカズマの方を向き、
「なあカズマ、5人もメンバーがいるんなら俺……抜けても……良いよな?」
カズマは俺に向かって満面の笑顔で。
「今抜けたら、”仲間をバインドで拘束して囮にした挙句、そこに爆裂魔法を打ち込ませて使い捨てにした鬼畜野郎”の称号を得ることになるが、それでもいいんだな?」
……ハァ、前途多難だ……。