この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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アルカンレティアとアクシズ教
神器探し(前編)


春――それは新たな生命が芽吹く季節。そして、冬の間籠っていた冒険者達が活動を再開する時期でもある。雪解けまでの間、まあ色々あったがこうして無事に春を迎えることができた。だというのに……、

 

「外はまだ寒いんだもの! 二人ともバカなの? あちこちに雪が残ってるのにどうして外に出たがるの? そんなにお外に出たいって言うなら二人だけで行ってきて!」

 

暖炉前のソファーにしがみついているアクアをクエストに連れ出そうと、説得しながら懸命に引きはがそうとするめぐみんとダクネス。その二人が、このままではあんな風になりますよ、などと言って俺とカズマの方を向いていた。

 

「……一つ聞きたいんだが、その”あんな風”ってのは俺も入ってるのか? これでもいろいろ資料をまとめたりしてるんだが」

 

「そうは言いませんが、二人ともその暖房器具から出てください。でないとアクアに悪影響がでるのです」

 

俺とカズマが入っているのはそう……こたつである。日本伝統の暖房器具、カズマがこいつを作っている時にコイツは日本人なんじゃと思ってしまったが、聞くところによると高価ではあるが味噌なんかもこの世界には存在するそうだ。ただ、原料の大豆が逃げ回るので、供給が追い付かないのだとか。昔、異世界人が伝えたという噂らしい。俺みたいに漂流した人間が流れ着いている可能性があるが……。先祖が日本人なのか? それとも……。

 

「……なあ、カズマってもしかして……」

 

と言いかけたところ、

 

「そういえば、ユウはどこから来たのだ? 友人がここを訪ねてくるのだから、他の国からか?」

 

などど、ダクネスの質問が飛んできた。

 

「俺はミッドチルダってとこだな。仕事場がそこだから引っ越したけど、出身地はまた別の場所だ」

 

「私はてっきりカズマとユウは同じ国の出身だと思っていました。名前の響きがよく似ていますし」

 

「正確には俺はハーフなんだけどな。母親がミッドチルダの出身、父親が俺と同じとこの出身で子供の頃はそっちの方にいた。日本ってとこだけど」

 

俺が自分の話をしているのが珍しかったのかアクアから、

 

「ユウってハーフなの? 私はてっきり……。そういえばユウの瞳って少し緑っぽいわよね。もしかして、瞳の色がお母さんと同じなの?」

 

その問いに頷いて肯定した。

 

「それでカズマって……」

 

「ユウー! いるー? 迎えに来たよ!」

 

玄関の扉が開くとともに足音が居間へ近づいてくる。声の主はクリスだ。俺はクリスとある約束をしていたのだが、

 

「あっ! いたいた。ゴメン、ちょっとユウ借りてくね。夕方までには返すから」

 

「悪い。今日はクリスと約束があってな。まあカズマもこの調子じゃクエストもそこまで難易度の高いのはできないと思うし、俺がいなくても大丈夫だろ? まだバニルの時の賞金もあるし、ゆっくりしてても良いんじゃないかな」

 

こたつむり状態のカズマを見ながら、そう言うと、

 

「良いこと言うわね! ユウのお墨付きが出たわ! 私はここから動かないから!!」

 

「俺だって冬の間、商品開発してたんだ。もう少しこたつの中で温まっててもバチは当たらないだろ」

 

さらに暖炉前とこたつから動く気が無くなったアクアとカズマであった。原因を作った俺へめぐみんとダクネスの刺さるような視線を感じながら、クリスと共に冒険者ギルドへ向かった。

 

 

 

 

冒険者ギルドにて。

 

「ほら、頼まれてた資料。一通り目を通してくれ」

 

「どれどれ……。へぇ……! 分かりやすくまとまってる。よくここまで調べたね」

 

「まあ、大半は役所で手に入る情報だしな。後は冒険者ギルドに発注されてる公共事業っぽい依頼との差額なんかも考慮にいれるとそうなる」

 

今、クリスに渡したのは簡潔に言うと、アクセルの市中に出回っている金の流れについての資料である。正規の土木工事や歩道の整備は入札記録等から割り出した。ただし先日、俺達がギルド経由で受注した土木工事のように、どう考えても安すぎる依頼の差額がどこに行っているか、これが争点になるのだが……、

 

「アクセルの街で観光に力を入れ始めた時期と、領主やその親類の羽振りが良くなった時期って重なるんだよ。もう隠す気ないって時点で……ね?」

 

「まあな。けど、領主の件については、なぜか決定的な証拠が見つからないらしいしな。それよりクリス、何でこんな情報知りたがった?」

 

俺の質問に目を逸らしたクリスではあったが、

 

「誰にもバラさない?」

 

「内容次第だな」

 

お互いを牽制するように目を合わせた後、観念したようにクリスから、

 

「前にも話したけど、あたし神器を探してるの。それで、その神器って簡単に言うと凄く強力なマジックアイテムみたいな物なんだけど……」

 

要約すると、神器――それは超強力な装備や魔道具であるらしく、その名の通り簡単に手に入る物ではないらしい。クリスによれば、ある神器がアクセルの貴族に買い取られたらしく、それなら金が余っている悪徳貴族が持っているのでは……という推論に至ったらしい。

 

「……なあ、クリスはその神器を手に入れてどうするんだ? どっかに売り飛ばすのか?」

 

「なんでそんな結論になるのさ!? あたしを何だと思ってるの?」

 

「盗賊ってそんなのじゃないのか? 悪いけど、それが目的ならこれ以上協力はできない」

 

俺は席を立とうとしたが、

 

「はあ……。探してる神器は使い方次第じゃ世の中に影響が出るから、回収しておきたいんだよ。これはあたしの勘だけど、ユウってこんなのに慣れてそうだから、協力して欲しいの! お願い!! あたしは絶対におかしな事には使わないから!!」

 

手を合わせ必死に懇願するクリスである。前に廃城で隠し財産らしき物を見つけた時の手腕を買われているらしい。こちらとしても勘ではあるが、クリスはまだ全部を話しているわけじゃないような気がしたが……、

 

「……いいよ。クリスは廃城の隠し財産渡した時も、孤児院に寄付したんだろ? 俺らに黙って隠しとけば良かったのに、そうしなかったからな。さっきの言葉も信じるよ。まあ俺も本職だと似たような事やってるし」

 

その言葉に表情が明るくなったクリスであった。

 

「ところでさ……。その神器って願いをおかしな形で叶える宝石とか、破壊不可能な呪いの魔導書とか、なんかの拍子に大爆発起こすような結晶とかってのは無いよな?」

 

「……あたし、たまにキミが何言ってるかわからない時があるよ。何なの? その聞くからに物騒なものは……」

 

クリスの反応を見ると、そこまでの危険物は神器の中にはないらしい。質問された本人は少々引き気味ではあったが。そうしていると、

 

「ごめん! 急用ができちゃった。調査は明日からにしよう。明日も冒険者ギルドで待ち合わせね」

 

そう言ってクリスは足早に去って行った。そのまま屋敷へと帰ると、

 

「めぐみんはどこだ! まだ帰って来ないのかよ! あのロリっ子、子供だからって俺が手加減すると思うなよ! スティールでひん剥いて同じ目に遭わせてやる!」

 

激高したカズマがめぐみんの行方を探していた。なぜか全裸で……しかも下腹部には『聖剣エクスカリバー↓』と書かれている。

 

「何やってんだお前? 新しい遊びか?」

 

「んなわけねえだろうが! ユウ、めぐみん見なかったか?」

 

事情を聞くと、セナの要望でクエストを受注したらしいが、その最中カズマが死亡してしまったそうだ。幸いアクアが蘇生させたが、途中でめぐみんがカズマの下腹部に、あれを書いたらしい。書いた本人は逃走中だとダクネスが言っていた。

 

……留守にしたのは失策だったらしい。とりあえず、カズマは蘇生したてなので数日間は休養が必要との事だった。

 

翌日、冒険者ギルドでクリスと待ち合わせにをした後、各々で領主について聞き込みを行っていた。不正や贈収賄、ついでに自分の気に入った女性はどんな手段を使っても手に入れ、飽きたら手切れ金を渡して捨てる。はっきり言って胸糞悪い話しだ。被害女性の一人は隠してはしたが、体に痣が見えていた。なおも聞き込みを続けている途中、

 

「……む、君は……」

 

「お見合いの時以来でしょうか。ご無沙汰しております。ダスティネス卿」

 

ダクネスの親父さんである。まさかこんな道端でばったり出会うとは思ってもいなかった。貴族ってのはこう……お付きの人が常に控えてるようなイメージがあったんだが、今日は一人でいるらしい。

 

「そんなに不思議そうな顔をしないでもらえないか。少し気分転換に散歩をしたくてね。ところでララティーナは元気にしているかね?」

 

二人で世間話をしていたのだが、気のせいだろうか? どことなくダクネスの親父さんの顔色が悪いような気がした。

 

「公務もあるのかもしれませんが、あまり根を詰めると倒れますよ。お気をつけて」

 

そして、そろそろクリスとの合流の時間なのでギルドへ向かっている途中、

 

「よう、イタズラ逃走娘。ゆんゆんと一緒ってことは昨日はそっちに泊めてもらったのか?」

 

「そ、そのカズマの様子はどうでしたか?」

 

ゆんゆんを連れためぐみんとばったり出くわしてしまった。昨日のカズマへの落書きを気にしているようだったので、

 

「カズマならお前をスティールでひん剥くって息巻いてたから、ほとぼりが冷めるまで大人しくしておいた方が良いかもな。まあ体はあれだけ元気なら大丈夫だろ」

 

「あれは私は悪くありません! カズマが帰らないとか馬鹿な冗談を言っていたからです。仮にユウでも同じことをしますよ」

 

「そうか……俺じゃなくて良かったな。もし俺だったら一日中屋敷に拘束して爆裂魔法を撃てなくするところだ。紅魔族はトイレ行かないとか言ってたから、別に平気だろ? ご飯はちゃんとあーんして食べさせるから心配するな」

 

「なんですか、その甘酸っぱいようで全然甘くない状況は! ユウの刀にだってかっこいい銘を刻んであげたのにあんまりです!!」

 

拘束されている自分を想像して、慌てているめぐみんであった。……ん? さっき俺の刀にもって……。

 

「めぐみん、お前……俺の刀以外にも銘を刻んだのか?」

 

「あっ、はい。カズマが鍛冶屋に発注していた刀が完成したのでその時に」

 

「ちなみに銘は?」

 

「ちゅんちゅん丸です。どうです、かっこいい銘でしょう?」

 

お前もやられたかカズマ。めぐみんというより紅魔族のネーミングセンスにはもう何も言うまい。

 

「じゃあゆんゆん、ウチの家出娘をよろしく頼む。あんまりワガママ言うようなら、俺に教えてくれ。カズマが落ち着くまで屋敷には来なくて良いよ」

 

「は、はい! 稽古はしばらくお休みで良いんですよね?」

 

ゆんゆんの問いに頷き、ギルドへ向かった。そこにはもうクリスが到着しており、

 

「首尾はどうだ?」

 

「今までと同じだよ。悪い噂はあるけど、決定的な証拠が無いから誰も手出しできないってのしか分からなかった……」

 

どうやら、クリスも手詰まりだったらしい。けど、ここまで調べてこれってのは……、

 

「なあクリス……、領主の悪評がここまで広まってるって事は、証拠隠滅がそこまで得意じゃないって考えて良いよな?」

 

「そうだと思うけど、どうしたの?」

 

「……普通、こんなのは長い期間やってれば必ずどっかでボロが出る。こんなに杜撰(ずさん)なら猶更だ。けどそうなってない。やってるうちに証拠隠滅がうまくなるならまだしも、まるで自分の悪事がバレないのが前提で動いてる感じだ。いくら貴族ったって限度があるだろ? ましてやアクセルには国の懐刀なんて呼ばれてるダスティネス家があるんだから、そこまでの好き勝手は普通できない」

 

俺の言葉にクリスが腕を組みながらうーんと唸っていたが、さらに続ける。

 

「一つ聞きたいんだけど、その探してる神器ってのに証拠隠滅だとか、人の口を塞ぐとかそんなのに使えるのってないのか?」

 

「つまりユウはアルタープが神器を使って悪事を働いてるって考えてるの? あたしもちゃんと調べてみないと分からないけど、そんなのは無いはず……だよ」

 

どうやらクリスはその神器についてかなり詳しく知っているらしい。おかしな事には使わないって言ってたけど何のために探してるんだろうか?

 

「別に神器じゃなくてもご禁制の魔道具とかかもしれないけどな。あの領主の所業を考えると不自然じゃないだろ」

 

「だとしたら、実際に行ってみないとわからないと思う。宝感知なら何かの反応が出るかもしれないし……。それで……ね? お願いがあるんだけど……」

 

……嫌な予感がする。この流れはどう考えても……。

 

「一緒に領主の屋敷に侵入して欲しいな……ってのはダメ?」

 

「何で俺がそこまでやんなきゃいけないんだよ!? やるんなら一人でやれ。盗賊ならお手の物だろ。大体、俺の魔法は目立ちすぎるんだ。下手に使ったらすぐに目星をつけられる」

 

「だったら魔法無しでやったら良いよ。身体能力も高いから何とかなるって!」

 

結局、クリスに押しきられる形で、参加する事になった。確かに、領主については気になる部分もあるので屋敷に潜入して調べるのもありかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「へい! らっしゃい! 先日、我輩との商談を終えたばかりのお父さんよ。今日はなかなか良い商品が入荷しておるぞ。お一つどうか?」

 

「テメェは物を売る気があるのか!? 毎度毎度おちょくりやがって!」

 

領主の屋敷に侵入するのに何か役立つものがないかと思い、ウィズ魔道具店を訪ねていた。

 

「これは?」

 

「それは一時的に姿を消せる魔法のスクロールですね。姿を消すといっても、透明になるのではなくて光を屈折させて相手から見えにくくするんです」

 

なるほど、ミッドでいうところの幻術みたいなもんか。俺自身、幻術系は使えないからこいつは良いかもしれない。

 

俺がそのスクロールを手に取ると、バニルが(いぶか)しげに、

 

「今日に限って珍しく運が良いな、薄幸魔道士よ。いつもの貴様ならおかしな効果のあるアイテムを選びそうなものだが、まともなアイテムを選ぶとは」

 

「……んなこと言って、”残念! そのスクロールもキワモノでした!”とか言うつもりじゃないよな?」

 

「いえ、そのスクロールはバニルさんが仕入れたものですから、私の仕入れ先とは違う所で作っていますよ」

 

……ウィズの話しぶりからすると、本当に普通のアイテムらしい。まあ、なら買うのを戸惑う必要もないか。

 

アイテムを購入し、ウィズと雑談していたのだが、

 

「そういえば、先日ユウさんを訪ねてきた子達、可愛らしかったですよね。バニルさんから聞きましたけど、お父さん変わりだとか」

 

「いや……だから俺は”お父さん”じゃなくて”お兄さん”で……、それに保護者はちゃんと別にいるし……」

 

―1時間後―

 

「エリオなんて初めて会った時はそりゃあ痛々しくて……。それがあんな良い顔で笑うようになってくれてさ……もうなんて言ったらいいか……」

 

「グスッ、本当に良かったですね! 頑張った甲斐があったじゃないですか! その子だってちゃんと分かってますよ。だからわざわざ会いに来てくれるんです!」

 

昔話に少し熱が入ってしまい、ウィズもそれを聞いているうちに涙目になっていたのだが、バニルが割って入り、

 

「……貴様、本当に父親代わりではないのか?」

 

「何言ってるんだお前? さっきから言ってるだろ。別に俺が育ててるわけじゃないし、保護者は別にいるって」

 

「無自覚とは恐ろしいものだな。どうせなら吾輩の前に連れてくれば良かったものを。そうすれば、それも込みで嫌がらせをできたのだが……」

 

「……お前、あいつらにまでふざけたことしたら、その場でブッ殺すからな? ぴよぴよ丸で残機が無くなるまで、何度でもたたっ斬る!」

 

なぜか痛い人を見る目のバニルではあったが、話を一通り終えて店内から出ようとした時、

 

「小僧……、貴様、体の調子はどうだ?」

 

「……お前が俺の心配するとか、明日はその仮面でも降ってくるのか? お生憎様、いたって元気だ」

 

それを聞いたバニルは”やはり……効いておらぬのか。なぜこの小僧に……”などと言っていたが、どうせ質問したところで、からかわれるのがオチだろうと思い、屋敷へと戻り、潜入のための準備を行っていた。




書籍7巻を未読の方はごめんなさい。色々わからないところがあるかもしれません。
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