この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

51 / 152
神器探し(後編)

まだ肌寒い春の早朝、この寒さが起きたばかりの自分の気持ちを引き締めてくれる。目の前にある竹入りの巻き(わら)へ意識を集中させ、一気に鞘から刀身を抜き放つ。

 

「ハアアアッ……!」

 

放たれた刃は風切り音とともに巻き(わら)を斬って落とした。刀身を鞘に納めてチンと鍔鳴りが聞こえたところで。

 

――パチパチパチ。

 

背後から拍手の音が聞こえてきた。そちらを向くと、

 

「見事なものだな。木刀や杖以外の武具を使っているのは初めて見るが、そちらでも中々の腕だ。……む? その刀は……」

 

「ダクネスか。こいつはカズマから借りたんだ。刀を買ったって言うから試し斬りしてみたくてさ」

 

「ぴよぴよ丸は使わないのか? あれはお前の物だろう?」

 

「あっちは武器ってより、魔道具に近いからな。物に対しては無類の斬れ味だけど、それじゃあ鍛錬にならないし」

 

話しかけてきたのはダクネス。鎧は着ていないが、もうパジャマ姿ではなく身だしなみも整えていた。こんな早朝なのに珍しい。

 

「朝食なら少し待ってくれ。あとちょっとで終わるから、屋敷に戻ってた方が良いんじゃないか? なんだかんだでまだ寒いからな」

 

「すまない。気を使わせてしまったようだ。気にせず続けてくれ」

 

しばらくして鍛錬を終えた。ダクネスはそれまでずっと俺を見続けていたが、どうしたのだろう?

 

「何かあったのか? いつもなら、”私に斬りかかって来い! いくらでも人形代わりになってやる。”くらいは言うだろ?」

 

「……いや、お前は毎日飽きもせず、良くやっていると思ってな。冬の間でも休まず、鍛錬は欠かしていなかっただろう?」

 

「それこそ子供の時からの習慣だからな。やらなきゃやらないで何か気持ち悪くなる。それに……いや何でもない」

 

ダクネスは俺が言い淀んだのが気になったのだろう。少し心配そうに、

 

「悩み事なら相談に乗るが? 何、皆に聞かれて困るようなら口外せん」

 

「こないだの騒動の時のめぐみんの爆裂さ……。完全に俺を追い越してるからな。少し悔しい気分になってただけだ。それこそ一足飛びで抜かれちまったからな。こんなのアイツの前で言うと、ドヤ顔で決めポーズ取るに決まってる。想像したらなんかムカついてきてな」

 

少しバツの悪そうな顔で言ってしまったかもしれないが、それを聞いたダクネスは、

 

「プッ! アハハハハ!」

 

「何だよ!? そこ笑うとこか? 相談しろって言うからそうすれば笑われるし……ったく」

 

「す、すまない。あそこまでの力を持つお前でも悔しがるとは思わなくてな」

 

俺がめぐみんに対して対抗心を持ってしまったのが、そんなに意外だったのだろうか。俺からすれば一撃の威力だけとはいえ、たった数ヶ月で追い越されてしまったんだから結構ショッキングな出来事だったんだが……。

 

「そこまで気を張る必要もないだろう? お前はお前じゃないのか? 確かに爆裂魔法は強力だが、一人では使えない。私達でめぐみんを守らなければならないからな。それが仲間というものだ」

 

……今日は雨どころか槍や剣でも降ってくるんじゃないだろうか? ダクネスがいつものドMを出さずに普通に話している。

 

「お前……本当にダクネスか? 実は双子の妹のルルティーナさんじゃないよな?」

 

「そんなわけはないだろう! 正真正銘私は本物だ! というか当家の子女は私だけだ! いや……待て、これはもしかして新手のプレイなのか!?」

 

……なんだろう。ダクネスの性癖に関するセリフを聞いて、安心する日が来るとは思わなかった。こいつは確かに本物だ。

 

いつまでも庭で雑談しているわけにもいかないので、屋敷に戻ろうとすると、

 

「実はこれから実家に行かなくてはならなくてな。カズマとアクアはまだ寝ているし、お前にそれを教えてから向かおうと思っていたのだが、話が弾んでしまった」

 

「だったらすまなかった。長々と付き合せちまったか。もしかしてまた見合いか?」

 

「いや……昨日、使用人から連絡があってな。父の体調が少し思わしくないらしい。おそらく軽い風邪だとは思うが、顔を見せておきたくてな」

 

「だったら早く行って親孝行して来いよ。ああもしかしたら、お前がいつまでも嫁に行かないから、心労で体調崩したんじゃねーのか?」

 

それを聞いたダクネスはキツめの視線を向けたが、フッ……っと笑い、

 

「お前こそ、このところ私達に遠慮なくものを言うようになったな。元の国に戻ってその態度だと、あの子供達に嫌われても知らんぞ?」

 

「……エリオとキャロに嫌われる!? マ、マジか!!!?」

 

「悪かった! 私が悪かったから、そんなこの世の終わりの様な顔をしないでくれ!」

 

ダクネスの一言で、どん底に突き落とされた俺ではあったが、ここまで落ち込むとは思っていなかったのだろう。すぐに慌てながらフォローをしていた。ダクネスはその後、すぐに実家へ向かった。

 

それからしばらくして、カズマが起床してきたのだが、

 

「すまんカズマ、今日……この刀使わせてもらっていいか? ちょっとクリスと約束があってさ」

 

「……別にいいけど、壊すなよ? 打って貰うのに結構な金がかかったからな」

 

カズマの許可を得て、クリスとの待ち合わせ時間まで色々準備をしながら過ごした。そして夜、ちょうど潜入にはおあつらえ向きな新月であった。

 

「おまたせ! って……いつもと恰好が違うね?」

 

「変装ってわけじゃないけど、こいつは昔、別部署にいた時の共通の防護服でな。まあ念のためってヤツだ」

 

今の俺は武装隊の共通の防護服で頭にはバンダナを巻き、口元はマフラーで隠している。腰にはカズマから借りた刀を差して、出来るだけ普段と違う格好となっている。

 

「魔道具店でこいつを仕入れてきた。潜伏とのコンボなら屋敷内でも見つかる危険性は少ないと思う」

 

「これって姿を消せるスクロール? いいね! これなら色々(はかど)るよ」

 

潜伏は触れている人間にも有効。ならスクロールで姿を消して、クリスは潜伏で気配を絶つ。その状態で空を飛べば簡単に屋敷の庭へ入れるので、クリスをお姫様抱っこしたのだが、

 

「……キミって、こういうの、何の恥ずかしげも無くできるタイプなの? 実は結構女(たら)しだったりする?」

 

「人聞きの悪いこと言うな。文句があるなら脇に抱えてもいいが? それとも鎖型のバインドで縛って宙吊りで連れてくか?」

 

「ダクネスじゃないんだからやめて! このままでいいから!」

 

なんだかんだと言っても俺より背も低い年下の少女である。お姫様抱っこは気恥ずかしいらしい。

 

「じゃあ、ちゃんと掴まってろよ。落ちたりしたら大怪我するからな」

 

そのままの状態で空を飛び、外壁を超えて屋敷内の庭へと音を立てないように降りる。とりあえず、第一段階は成功。次は建物内への潜入を試みる。

 

「どうやって中に入る? 何か気を引くような事してみようか?」

 

「それには及ばない。領主の屋敷だけあって使用人の数も相当だし、警備員だって巡回してるから、交代の時間を見計らって、勝手口が開いた瞬間に屋敷に侵入する。物陰に隠れて様子を見るか」

 

正面玄関ではなく警備員が使うための勝手口を見張り、30分程度経過した頃、交代かまたは休憩かは定かではないが警備員の一人が扉を開ける。そのタイミングで、

 

「クリス、全力で俺にしがみ付いてろ。ついでに絶対に声を出すなよ! 一気に行くから」

 

それを聞いたクリスは俺の指示通りにしがみ付き、高速移動で一気に屋敷内へと駆け抜けていく。扉を開けた警備員は俺達の姿が見えないので、突風だとでも思ったらしい。特に気にされることなく屋敷内に侵入することができた。

 

「!!?!!?!!!?」

 

クリスは必死に声を出さないように(こら)えてはいたが、いきなりの高速移動に驚いたようだ。

 

「ハア……、ハア……。あんなのするなら、前もって説明してよ!」

 

「説明してるうちに扉が閉まるからな。潜入するのに、どっか壊すのもリスクになるし、まだ誰にも気付かれて無いから良いだろ」

 

第二段階、建物内への浸入も成功。あとは、クリスが宝感知で何かしらの反応を見付けられれば良いのだが……。

 

「どうだ、どっかに反応は無いか?」

 

「屋敷内に反応はあるけど、何処の部屋なのかまでは……しらみ潰しに行くしかないかなあ……」

 

「それだと時間が掛かりすぎるな。ああいう人間って本当に大事な物は自分の近くに置きたがるから、領主の部屋の場所さえ分かれば……。おっ……! ちょうどいい所に」

 

俺が見つけたのは、先ほどの警備員。薄暗い中でクリスの潜伏を使いながら後ろから近づき、素早く口を塞ぐ。

 

「動くな……! 俺の質問に首の動きだけで"yes"か"no"を答えろ」

 

警備員はそれに対して首を縦に振る。

 

「この屋敷の主人の部屋は一階か」

 

質問された男は、少し考え込んだ後に首を横に振る。

 

「なるほど、一階で良いんだな」

 

「!!!?」

 

続けて質問を行う。

 

「ここから右と左どちらへ行けばいい?」

 

など、複数回領主の部屋についての質問を行い、大まかではあるが場所を特定することができた。

 

「ありがとう。悪いが少しだけ眠っててくれ」

 

そうして、自分で作成した『スリープ』のスクロールを使い、男を眠らせて廊下の隅に座らせた。自分で中級魔法のスリープを唱えないのは、魔法使いの犯行だと思われないためである。

 

「大丈夫? あんな質問だけで部屋を割り出せるの?」

 

「人間ってのは、嘘をつく時に何らかのサインを出す場合が多いんだ。余程訓練を積むか、生来の嘘つきでもない限り、完全に隠すのは難しい。最初の質問だって目が右上を向いてた。これは嘘をつく時、咄嗟にしてしまう行動の一つだからな。質問する度にそんなのを見てたから、多分いける」

 

「……キミって本当に何者? これで部屋まで行けたら嘘発見の魔道具も真っ青だよ」

 

「お巡りさんだったり、軍人さんだったり、危険物の回収なんかをやってるお兄さんかな」

 

「意味わからないよ……」

 

俺の答えに戸惑うクリスではあったが、さっきの男に尋問した結果、予想した場所へと行くと、

 

「確かにこの部屋っぽいね。装飾が他の部屋と全然違う」

 

室内からは物音がしておらず、おそらくは人がいないだろうと思い、扉を開ける。予想通り人はおらず、室内を調べる事ができた。

 

「どうだ? 反応はあったか?」

 

「あるにはあるけど……。あっ! これって……」

 

「不正の帳簿だな。こいつは警察署にでも後で置いとけばいい。けどここまで探して見つからないのは……」

 

そうして、壁や床を叩く。すると、一か所だけ壁面に空洞になっている場所を見つけた。おそらく隠し部屋だろう。

 

「クリス……ここって」

 

「うん、隠し部屋だね。ちょっと待って」

 

盗賊のスキルだろうか。クリスが何かをしたところ、壁が開き下へ通じる階段が姿を現した。この先に反応があるよ。とクリスの言葉に従い、潜伏と姿を消すスクロール両方を使った後、階段を降りていく。すると、

 

「ダスティネスとあの小僧を呪い殺すのにあとどれだけかかる! 早くしろ!!」

 

「ヒュー……、少年は無理。強い光に守られてる」

 

そこにいたのは、アルダープの他にバニルと同じタキシードを着た整った顔立ちの青年。ただしその表情は無機質といった印象を受ける。何故かその青年からは喘息の様な息切れ音が聞こえている。

 

……この感じ、あの人はバニルと同じ……!

 

「お前はっ! 満足に人間一人呪い殺すこともできないのかっ!」

 

怒りと共に青年をに足蹴(あしげ)するアルダープ。一方でクリスは今までに見せたことのない鬼気迫る表情をしていた。もう自分を抑えきれないといった様子で、潜伏を解除し、

 

「そこにいるのは悪魔……! ここで滅んでもらいます!」

 

いつものクリスらしからぬ気迫でもって目の前の二人へ言葉を飛ばす。

 

「お前等っ! どこから侵入した! マクス、こいつらを殺せ!」

 

アルダープの怒号と共にクリスがマクスと呼ばれた悪魔へ向かって、駆けようと身構えてはいたが、

 

「ヒュー……、ヒュー……、ヒュ!?」

 

クリスが悪魔に接触する前に、高速移動で一気に接近し頭部から胴体にかけて一刀両断にした。

 

……()()()()()()()って事は、やっぱりバニルと同じ……!

 

斬られた悪魔は石膏の様な物へと変化し、その場で砕けた。これがバニルならすぐさま体を作り直すだろうが、斬られた箇所にバニルでいう仮面に該当する部分があったのだろう。再生することは無かった。それを間近で目の当たりにしたアルダープは茫然としていたが、俺がそちらを向くと、

 

「ち、違うんだ! ワシはあの悪魔に脅されていたんだ……! た、助けてくれ……」

 

目の前の男は何を言っているのだか……。どう考えてもお前が何かを命じていただろうが……! 

アルダープの言葉を無視し、彼へゆっくり近づく。どうにか逃げようとはしていたものの、隠し部屋の壁まで後ずさってしまい。動けなくなっていた。

 

「た、助けて……金ならいくらでも……」

 

「ダメだよ……! それはやっちゃダメ!!」

 

命乞いするアルダープに俺を止めようと向かって来るクリス。しかし、

 

「……そう言った女に、お前はなんて答える?」

 

「ダメええええええ!!!」

 

クリスの叫び声が響く中、アルダープへ向かって刀を振り下ろした。

 

「……なーんて、コイツで斬れるわけねーだろ」

 

「……へっ!?」

 

素っ頓狂な声を上げるクリスと自分が斬られたと思い、気絶して失禁しているアルダープであった。その拍子に小さい玉がコロコロ転がっていたのだが、クリスがそれを神器だと言っていたので拾って投げ渡した。

 

「クリス……見事に騙されたな。この刀は外見はカズマのだけど、刀身は俺の刀と取り替えてんだ。俺のは鍔と鞘の装飾が凝ってるからな。誰が使ってるかなんてすぐに分かるし」

 

「ユウの刀って……シャックの妖刀だよね? 魔力を消費して物だけを斬るっていう……。何で悪魔は斬れたの?」

 

「悪魔ってのは本体が地獄にあって、地上に来る時は何らかの方法で作った体に精神を憑依させるんだってさ。もし、生命体に憑依してたら無理だったけど、見ての通りあの悪魔は石膏みたいのに憑依していたみたいだ」

 

「じゃあ領主は……」

 

「見てみるか? 服も斬ってないから外見はただ気絶してるだけだぞ。今まで好き放題やってたんだ。この位はいいだろ?」

 

それを聞いたクリスはペタンとその場に尻餅をついてしまった。……やりすぎただろうか。

少しの間、クリスを落ち着かせてから、

 

「とりあえず、クリスは騒ぎを起こしてくれないか? そうすれば、警察が来てさっきの不正の証拠も見つけるだろうし、俺はここで確認したいことがあるから、もう少ししたら出る」

 

クリスが足早に隠し部屋から去って行き、十分に離れた事を確認してから、

 

「……出て来いよ。いるんだろ……バニル!」

 

「ほう、あの盗賊の少女ですら感知できなかったというのに、よく気付いたな……小僧」

 

「クリスは敵感知を使ってなかったからな。それにこっちの連中はスキルに頼りすぎなんだ。あのマクスってのが消えた後でも嫌な感じが残っていたからな」

 

仮面の悪魔、地獄の公爵バニル。何のためにここにいるのかはわからないが、何事も無く済むってわけにはいかないだろう。

 

「何しに来た。さっきの悪魔の仇でも取る気か?」

 

「悪魔は力を持つ者こそ正義であり、力なき者は悪とされる。貴様が悪魔に対し、効果のある武具を持っていたところでそれは変わらぬ。吾輩と同じ地獄の公爵とはいえ、仇討ちのつもりなど毛頭ないわ」

 

バニルはまっすぐに俺を見据えたまま、

 

「先ほどの()()()()()()()()は見事であったな。そこの悪運のみ強い男は自身が真っ二つにされる幻を見たであろう。その際の悪感情も素晴らしいものであった。”絶望”の悪感情はマクス好みではあるが、なかなかどうして。その礼だ。貴様に面白い話をしてやろう」

 

「何だよ。小粋なジョークでも聞かせてくれるのか?」

 

冗談めいた言葉を発してはいるが、警戒は怠っていない。

 

「そこの男が話していた呪いの相手は、貴様の仲間のクルセイダーの父親と貴様だ。父親はともかく貴様はマクスウェルの辻褄合わせが効かぬ。それを危惧された為に呪いを掛けられておったのだが、やはり貴様には何の効果も無かったようだな。そのせいで、貴様の分の呪いがもう一方に行っていたのだ。本来なら父親が(とこ)に伏せるのはまだ先であったはずだが……」

 

つまり、ダクネスの親父さんの調子が悪かったのは呪いのせいだってのか。随分と嘗めた真似してくれるな。

 

「だが、貴様が来たのは、その男にとっては幸運であった。でなければ吾輩が来た時点で、マクスによって地獄へ連れ去られ、嬲られていたであろう。マクスは”絶望”を好みとするのでな。その男は寿命分では到底払いきれぬ程マクスを酷使していたようだ。貴様に残機を減らされたせいで、契約は解除となったが」

 

「……一つ聞く。お前は全部知ってて黙っていたのか?」

 

「勿論だとも。本来なら数ヶ月後にあの男の悪感情を喰らおうと画策していたが、それも露と消えた。吾輩がここに来たのは、この場で貴様らの放つ悪感情を喰らうためである」

 

そうかい。このままいけば、ダクネスの親父さんが死んでしまうかも知れないのに、黙ってたって事か……!

 

一瞬でバニルに接近し、刀を振り下ろそうとしたが仮面の一寸手前で止める。

 

「ふむ、良いのか? 吾輩の残機をもう一つ減らす絶好の機会だというのに。いくら見通していたとしても、防御ごと突破されては適わぬのだがな」

 

「今回お前は直接的には何もしてないからな。戦う理由がない」

 

そのままバニルを見据えて、

 

「……けど、覚えておけ。今後俺の周りで下らない真似をしたら、その時はウィズがなんて言おうが関係ない。何があろうと俺がお前を殺し尽す……!」

 

「フハハハハハ! 素晴らしい気迫だ。かつてのウィズを思い起こさせるわ! ああ、今の言葉覚えておこう。自分には何も知らされぬまま、見知らぬ地、見知らぬ理由で両親が亡き者となっていた男よ。喜ぶがいい、仲間のクルセイダーが同じ目に合わずに済んだのだからな!」

 

その言葉と共に、バニルは地下室から立ち去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、今までなぜか発覚しなかった領主の不正の証拠が続々と見つかり、アクセルの街はちょっとしたお祭り騒ぎになっていたのだが、

 

「セナさん、どうしました、何で屋敷に?」

 

「……少し、伺いたい事がありまして。先日領主の屋敷に何者かが侵入したらしいのですが、不正で逮捕された領主も混乱していまして、怪我一つないのに自分は斬られただとか、悪魔がとか……。ですが、その中で黒髪で緑色の瞳の人間に斬られた……との供述がありましたので、該当するあなたに念のため確認をしておこうと思いまして。その日、どこにいましたか?」

 

……意外に鋭いなこの人。多分違うとは思ってるんだろけど、立場上やらなきゃいけないんだろうな。さてどうするか。

 

「ユウなら屋敷で寝てたわよ。部屋の扉が開いてたからちょっと覗いたけど、グーグーってイビキかいてたし。ぴよぴよ丸もあったわ」

 

……アクア、感謝する。実はアレ、ベットの中に色々詰め込んで寝てるように偽装した後、デュランダルにイビキっぽいのを録音して置いといたんだ。

 

前の取り調べの際に用いた嘘発見の魔道具も持って来ていたようだが、アクアは本当に俺が屋敷で寝ていたと思っていたために反応は無かった。

 

「今の証言で十分です。ありがとうございました」

 

「けど領主の不正の件は良いのかよ? 俺の時はあれだけ攻め立てたってのに……」

 

カズマは自分が取り調べを受けた時を思い出したらしい。セナに文句を言っていた。

 

「いえ、本来なら屋敷に潜入はしましたが、使用人や領主に怪我もないので、愉快犯かと思っていたのですが、そうもいかなくなりまして」

 

セナが少し言い淀みながら続ける。

 

「領主の部屋の金庫から数百万エリスが盗まれていまして、それがなければここまではしないのですが……。その、こう言ってはなんですが、その犯人も悪人ではないと思うんです」

 

「意味が分からんな。盗みを働いていて悪人ではないというのは」

 

ダクネスも親父さんの体調が良くなったのか、屋敷に戻ってきていた。まあ、バニルから聞いた事実は伏せておこう。

 

「それが……ですね。その盗まれたお金ですが、そのまま孤児院に寄付されていまして、義賊のつもりかもしれませんが、だからと言って見過ごすわけにはいきませんし……」

 

当のセナも困惑していた様子だったが、屋敷から立ち去っていった。

 

「すまん、俺はちょっと出てくる。もしかしたら遅くなるかもしれないから、夕飯は先に食べてくれ」

 

そう言って、冒険者ギルドへと向かった。ちょうどそこにはクリスがおり、彼女を連れて裏路地へと行き、

 

「俺の目を見て正直に話せ。お前、俺に何か言う事はないか?」

 

「ええっと、何の事かな? 覚えがないんだけど……」

 

「今……眉をひそめたな。それも嘘をつく時によく見られる反射行動だ。言う気がないなら、俺の取り調べと尋問技術の全てで、お前の恥ずかしい秘密を全部教えてもらう」

 

「な、なな、何なのさ!? は、話すから! ちゃんと話すから許して!!」

 

クリス曰く神器は見つけたものの、アルダープの部屋にあった金に関しては、どうせ後ろ暗い金だし頂いちゃえ! というその場のノリで盗んで、そのまま孤児院に置いて来たそうだ。

 

……何て事しやがる! 盗みの件がなきゃ、ただの愉快犯でそのうち忘れ去られてたものを……。

 

とりあえず、あまり心配はいらないとのクリスの言葉とその証拠を見せると言われて、二人で冒険者ギルドに戻ると……、

 

「あっ! ユウ見てください! アクセルに義賊が出没したそうです! マフラーで顔を隠した凄腕の剣士だそうですよ!!」

 

「私は稀代の暗殺者って聞いたけど……。なんでも領主さんの屋敷に音もなく潜入して、警備員の一人を知らないうちに戦闘不能にしたって……」

 

ギルドの掲示板に領主の屋敷に潜入したと思われる人物の特徴が書かれていた。その場にめぐみんとゆんゆんもおり、その義賊について何やら意見を交わしているらしい。貼られている手配書をよく見ると。

 

――黒髪に緑の瞳で赤い服を着た男性の剣士と銀髪で小柄な盗賊と思われる少年。

 

おそらくはアルダープの証言を元にしているのだろう。俺の方は大体あってはいるが……クリスは……、少年?

 

(ねっ! 心配いらないでしょ? いつものあたしたちと特徴が違うし……ってどうしたの?)

 

(……いや、人間何がどこで役立つかわからないと思っただけだ。良かったな。少年と見間違えられるスタイルで)

 

(それってセクハラだよ! もっと紳士的な人だと思ってたのに)

 

(お前のせいで面倒ごとになったんだから、少しからかうくらい許せって)

 

(それは……そうだけど……、まあ、落ち着くまではアクセルから離れた方が良いかもね)

 

義賊の特徴を見ながら小声でヒソヒソと話していると、今度はゆんゆんが、

 

「そういえばユウさんも黒髪で瞳が緑色ですよね。もしかしたら……噂の義賊ですか?」

 

おそらく冗談で言っているのだろうが、めぐみんから、

 

「まったく、ユウなら回りくどい真似はしませんよ。魔法を使って正面突破で領主を締め上げるはずです!」

 

お前は俺を何だと思ってる。魔法で正面突破なんてしたら、こんな騒ぎじゃすまねーよ!!

 

しばらくの間、アクセルの街では噂の義賊の話題で持ちきりだった。




今回主人公が来ていた赤い服は、航空武装隊共通の防護服です。武装隊は平時は共通の防護服を着るらしい。

マクスの体については独自設定となっています。
シャックの妖刀がバニルとマクスを斬れるのは、スピンオフ仮面の悪魔に相談を!の
”この世界の自分は厳密には生物ではない”というセリフから来ています。
シャックの妖刀の外見に関しては漫画版基準となっています。


今回、マクスを出したのはこの二次自体もともと7巻分まで書く予定ではないという事と領主生存を考えた結果です。
次回からは4巻分の内容になる予定。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。