この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
「先日の事は謝ります。……、どうか、元のカズマに戻ってください」
目の前のカズマを見て、正座しながらぺこりと頭を下げるめぐみん。当のカズマは毛皮ででできたガウンを羽織り、ソファーでくつろいでいる。
そんなカズマの態度に対して戸惑うめぐみんに、ダクネスが原因となった出来事を説明していた。
俺が領主の屋敷に潜入した数日後。まだめぐみんが帰って来ないのかと騒ぎ立てている中、玄関のドアが叩かれた。
「めぐみんか! 帰って来やがったのかっ!」
「フハハハハ! 頭のおかしい紅魔の娘だと思ったか? 残念、吾輩でした!」
先日の領主の屋敷での邂逅は、どこ吹く風のバニルである。普通あんなのがあったら、俺の前に顔を出そうなんて思わないものだが、何食わぬ顔で屋敷に姿を現した。どうやらカズマの開発した商品の値踏みに来たらしいが、アクアが屋敷に張った結界でバニルの体が所々崩れていたりする。その後、アクアとバニルが険悪な雰囲気でやり合い、退魔魔法で体が完全に崩れたところで仮面を捕まえ、
「コレね! コレがあんたの本体ね! さあ、どうしてくれようかしら!」
と嬉々とした表情のアクアの元へと割って入り、
「……アクア、ちょっと俺にやらせろ。別にここで魔法撃ったりしないから」
アクアの横に立ち、仮面を掴んでキュ~っとペンで落書きしてやった。こう言ってはなんだが、なかなかの自信作となってしまった。
「……完成だ。その場のノリでやったが中々の傑作だ!」
「うける! ちょーうけるんですけど!! 超強い悪魔さん。ねえ今どんな気持ち? 本体の仮面に好き放題落書きされて、どんな気持ち? 消して欲しかったら、この私の退魔魔法で仮面ごと粉々にしてあげるわよ。プークスクス」
アクアが腹を抱えて笑っているそばで、バニルは落書きされたままの仮面で体を再生し、俺に視線を向けていた。
「……バニル。地獄の公爵なんて物騒なヤツが駆け出しの街にいると、ただでさえ赤字のウィズの店にみんな委縮して誰も来なくなって、さらに赤字になったら困るだろ? 少しでも親しみやすくするための措置だ。俺とお前の仲だから礼なんていらないよ」
(訳:テメェ、よくもぬけぬけと俺の前に顔出せたな。また下らねえ事、企んじゃねーだろうな?)
これ以上ない爽やかな顔でバニルに対して笑いかける。
「そうかそうか。お気遣い痛み入る。だが心配は無用だ小僧。こう見えて吾輩、近所付き合いは得意な方でな。ゴミ置き場のカラスを駆除しておったら、『カラススレイヤーのバニルさん』と呼ばれ、近所のマダムに親しまれておる。この様な真似はせずとも、店の売上には微塵も影響ない」
この程度では何の嫌がらせにもならぬ。といった感じで飄々とした態度のバニルではあったが、
「おお、そういえば指名手配になっておる凄腕の剣士とやら、吾輩の見立てではまだこの街に潜伏しておるぞ。いやはや、吾輩の前に現れれば、その場で警察に突き出し、懸賞金は店の資金の足しにするところである。一体どこにおるのだろうな? そのくせ、懸賞金が十万エリスとは、随分と安っぽい゛凄腕の剣士゛である。フハハハハハ!」
先日、領主の屋敷に潜入していた件を引き合いに出してきた。盗まれた金は本当に後ろ暗いものだったらしく、後に残されたバルターさんが被害届を取り下げている。ただ、仮にも領主の屋敷に潜入した犯人を取り逃がしたとあっては、警察の威信に関わるので最低限の懸賞金をかけているそうだ。
「ホントだよな。どこのどいつだ? あんな回りくどいやり方したのは。もし俺なら、めぐみんの言う通り、魔法で正面突破して領主を締め上げてるってのに。まあ十万エリス程度じゃ資金の足しにはならないよな? 全く、俺なら、その数十倍の懸賞金が掛けられるだろうし。アハハハハハ!」
(訳:あんまり嘗めた口利くと、スクロールをテメェんとこ持ってくのやめるぞ? それで良いってんならガチで戦うか?)
俺とバニルの笑い声が室内に響く中、
「な、何であんなにピリピリしてるんだ? アイツは」
「さ、さあ……、まさかあんなイタズラをするとは……! で、できれば私にも……」
その後、俺らの間にビクビクしながら割って入ったカズマであった。その後、カズマが冬の間に開発した商品について、バニルと商談となり、月々の利益還元か知的財産権を売るかの選択をバニルから提案されていた。ちなみに、利益還元なら月に百万エリス、知的財産権売却なら三億エリスというどちらにしても破格の提案だ。当然と言えば当然だが、カズマはその場で決定できずにいたので、返答は後日となった。そして、俺はというと、
「小僧、このスクロールはどうやって使うのだ? 今までとは違うコンセプトのようだが」
「ああ、コイツか……。コイツは雷系ではあるけど、これ自身は地面にでも置いて、落雷の目印にする物だ。ただ、その為には天候操作しなきゃならないっていう難点があるから、誰でも使えるってわけじゃない。これだと、
「ふむ、ならばこれは王都の取引先にでも回せばよい。あちらには高レベルの魔法使いも多いのでな。しかし、対軍使用の上にトラップ型のスクロールとは、いよいよもって凶悪さがにじみ出てきたな、凶悪魔道士よ」
……影でこそこそ画策してたお前には言われたくない。
「それで、貴様はどうする? 利益還元か知的財産権売却かどちらにするつもりだ? これは使い手を選ぶ故、そこまで高値は付けれぬが、それでも知的財産権売却なら三百万エリスは出そう」
「じゃあ、そっちで」
「決断早っ!」
「普通、もっと悩むものではないのか!?」
カズマとダクネスは俺の返答の早さに驚いていたが、俺はいつまでもここにいるわけじゃないし、貰えるうちに貰っておこうといった腹なだけである。そんなこんなで、バニルは俺達との商談を終えて店へと帰っていった。
「事情は分かりました。それであの
「私もそこまでは……おそらく、ウィズの店に行ってからかわれたのだと思うが、それにしても……」
「まあ、気にするな。アクアじゃないが、アイツをあんまり信用しすぎない方が良いかもってだけだ」
俺のバニルに対する態度に戸惑うめぐみんとダクネスに対して、そう告げる。
「それにしては、ユウはああはならないですね? カズマほどの大金ではないにしろ収入があったのですから、もっと浮かれていると思いましたが」
「んー。まあ元々金銭面では困ってないし、カズマみたく人生設計が変わるほどの大金でもないしな」
それなりの臨時収入があったにも関わらず冷静な俺に対して、安心したような表情のめぐみんであった。
「カズマをどうにかできませんか? 今のカズマはすごく気持ち悪いです。どうにか元に戻って欲しいのですが……」
「あれはあれで面白いから、しばらく見てようと思ったけど……。分かった。ちょっと話してくる」
ソファーにアクアと二人で仲良く座り、優雅に紅茶を飲む振りをしているカズマに近づき、
「……カズマ、浮かれる気持ちは分からなくはないけど、そんな金持ちみたいな事してると、変な宗教団体から寄付の催促が来たり、見知らぬ親戚が増えて金の無心に来たり、その内、名前も知らない女宛の遺言状が見つかった頃に、物言わぬ体になって川に浮かんでても知らないぞ? まあ、カズマは運が良いから大丈夫だと思うけど」
「あ、ああ……」
真剣な表情でカズマの説得を試みたが、誠意が通じたらしい。冷や汗を搔いて顔を引きつらせながら、俺の言う事を聞いてくれた。
「……と、途方もない闇を感じるのですが、気のせいでしょうか?」
「そ、そうだな……。過去に何があった……?」
「そんなに怖い顔しないで欲しい。半分くらい実話ってだけだから」
そりゃあ、年齢一桁で両親の財産相続すれば、悪い大人が寄ってくる事もある。俺はその辺り、高町家の方々に助けていただいたのだが、守護騎士のみんなが来る前のはやては、そんなのをのらりくらり躱していたらしい。……アイツには元々そういった素質があったんだろうなあ。……と話しを聞いた時に思ったものである。
カズマも元に戻ったところで、レベル上げの続きをしましょう、とのめぐみんではあったが、
「え? 嫌だよ、何言ってんの? 大金が入ってくるってのに何で今更働かなきゃいけないんだよ」
カズマが言い放った言葉に対して、めぐみんが固まっていた。その横で、カズマとアクアが魔王討伐について、金で凄腕冒険者を雇い、止めは自分で刺すなんて割とえげつない話しとなっていたため、プルプルと震えためぐみんから、
「お金の力で魔王を倒すなんて認めません! 認めませんよ! 魔王っていう存在は仲間と共にレベルを上げて鍛えぬいて、やがて秘められた力に目覚めたりなんかして、それで最終決戦の末に倒すのです! ユウはどう思いますか? カズマはこのままではいけないとは思いませんか!!」
「別にいいんじゃないか。これでも」
俺の言葉を聞いためぐみんが、ポカンとした表情で持っていた杖を落としてしまった。
「魔王討伐うんぬんはともかく、危険の少ない場所で平和に暮らすのが悪い事だとは思わないぞ。それとな……めぐみん、秘められた力なんて持ってるのは、本当に極一部の限られた人間だけだ。基本的に、そんな都合の良いものなんて存在しないんだよ。まあ、あったらあったで面倒事に巻き込まれたりするかもだけど」
「お前ならそう言ってくれるって信じてたぜ!!」
カズマよ、だからって自堕落な生活してて良いってわけじゃないからな? その辺り勘違いするなよ。
「……そ、そうでした。最近、色々あって忘れていましたが、この男、基本的に戦闘を避ける人間でした……。このままでは歯止めが効かなくなってしまいます。どうしたら……」
その時、玄関が開く音が聞こえて様子を見に行くと、そこにいたのは郵便の配達員さんである。どうやら俺宛への手紙のようだが……、
「……む、その手紙はどうした?」
「警戒態勢を解いていいって内容だな。カズマもこの調子だし、しばらくここを開けてどっかに調査にでも行こうかと思う。アクセル以外で、どっかいい街があったら教えて欲しい」
通信じゃなくて、わざわざ手紙で指令を送ってきたのはリークの可能性を気にしてだろう。ただ、俺からの連絡は普通に通信で良いらしい。まあ、それ以外に連絡手段は無いんだけどさ。ここでの報告に関しては、そこまで重要視していないって事か……。
「では、王都にでも行ってみてはどうだ? 不安があるのなら、当家の名で紹介状を書いてもいい。それがあれば待遇は良くなるはずだ」
王都っていうと、文字通り国王のいる都だよな。確かに何のつても無いよりは色々と
「……でしたら、水と温泉の都”アルカンレティア”などどうでしょう? 私もあの街に滞在していた時期がありまして、案内くらいならできますよ。仕事が終わった後、ゆっくりと温泉に浸かる位は構いませんよね? 病み上がりのカズマは療養という事で屋敷で安静にしていてください!」
めぐみんがこれ見よがしに大声で、もう決定事項と言わんばかりの勢いでアルカンレティア行きを宣言した。
「温泉!? ねえ、アルカンレティアって言った? 水と温泉の都、アルカンレティアに行くって言った!?」
「ああ、アクアはアクシズ教徒だっけか。確かアルカンレティアはアクシズ教の総本山だよな」
「ちゃんと知ってるのね、偉い偉い。だったら私も行くわ! 私が行かずしてどうするのよ!!」
その程度の知識なら本でも読んでれば自然と入ってくるものであるが、アクアは上機嫌となっていた。
「お、温泉かー。俺達も強敵との連戦で精神的にも疲れている事だし。たまには贅沢して、温泉も悪くないなー」
カズマがなぜか棒読みで、自分も行くといった旨の発言をしていた。どうせ禄でもない想像をしたのだろうが、ツッコむのも面倒だ。そして俺の横にいためぐみんの口元がニヤリと笑っているのが見えた。
……さっきのは絶対狙って言ってたな、コイツ。
「すまないなダクネス、王都はまた今度だ。気遣い感謝する」
「構わん。確かに温泉も悪くは無いかもしれんが……」
ダクネスが何かを言い淀んでいた。何か不安でもあるのだろうか?
「……ああ! エリス教徒の私がアルカンレティアに赴けば、どのような辱めを受けるのだ!? それこそ街中で罵倒の嵐が飛び交い、石を投げられ、あまつさえ捕らえらて理不尽な要求を突き付けられ……」
……うん。もういいや。
顔を赤くしながらクネクネして妄想に浸っているダクネスを見ながら、とりあえず放っておこうと決めた。というか、付いて来る気満々だな。けど確かに、仕事しながらでも温泉に浸かれるのは中々の贅沢だ。クリスからもしばらくアクセルから離れた方が良いとの話もあったし、今回は無駄に戦う事はなさそうなので、こんなのも悪くないと思いながら旅支度を進めていた。
バニルに対して態度が悪くなっていますが、コイツは放っておくと何しでかすかわからないといった理由でかなり警戒しています。
落書きは先日の腹いせですね。