この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
「朝よ! ほら、いつまで寝てるの! 皆、準備は良い!? 起きて起きて、ほら早く!」
「今日に限って早いなアクア。馬車で食べる用の握り飯なら、さっき作ったけどこれで良いか?」
「完璧よ! 私は他の二人を起こしてくるわ! カズマ達は乗合馬車の待合所に行って、一番いい席確保しておいて」
……遠足の日に早く目が覚める子供のようだ。……と思わず口に出してしまいそうになったが、ここは言わぬが花というやつだろう。俺一人なら、空から飛んで行く手もあったが全員で馬車に乗っての移動となった。馬車での移動なんて、この世界でもなければできない経験なので、もう一度くらいは良いかもしれない。カズマが待合所に行く前に寄りたいところがあるというので、付いて行くことにしたのだが……。
「へいらっしゃい! アンデッド族の様な昼夜逆転した生活を送る小僧と、甲斐甲斐しくパーティー全員分の移動中の食事を用意していた小僧よ。店主なら、我が仕置き光線で焦げている。勝手に会いに行くがよい」
ウィズ魔道具店に着くと、出迎えたのはバニル。ウィズは焦げているらしい。また変な商品を仕入れてきてやられたと思われる。確かに店内が焦げ臭いので換気くらいはして欲しい。
カズマは先日の商品に関する返答に対して、旅行から帰ってくるまで待っていて欲しいと言いに来たようだ。
何気なく店内の窓から外を見ると、こちらを覗きこんでいたのはゆんゆん。店に用事……というわけでは無さそうだが……?
とりあえず店の外へ出て彼女の元へ向かう。
「どうした? 買い物なら店に入れば良いのに」
「そ、その……今日から皆さん旅行ですよね? めぐみんから聞いたんですけど、えっと……」
あー、そうか、そういう事か。一緒に行きたいけど、自称めぐみんのライバルとしては、誘われてもホイホイ付いて行くのもどうか。……ってとこかな。だったら、
「ゆんゆん、俺が帰るまで稽古は休みになるけど、日頃頑張ってる教え子にご褒美でも……って事で、一緒に行くか?」
「良いんですか? ご迷惑になるんじゃ……」
「まあ、一人二人増えた所で困る訳じゃないし、俺も臨時収入があったから旅費くらいどうとでもなる」
それを聞いて、花が咲いたようにパアッと表情が明るくなったゆんゆんであった。実際、いつも頑張っているのでこの位は良いだろう。ゆんゆんを連れて店内に戻るとカズマが、
「……か!? ……買って……」
「……いい……。混浴など……」
バニルと会話しながらポーションらしき物を購入していた。それを鞄にしまうと、バニルが俺の方を向き、
「小僧、貴様が注文していた魔道具が紅魔の里より届いておる。これから不在となるようだが、どうする?」
「ああ、だったらしばらく預かっといてくれ。今カートリッジ持ってても使えないから。代金はこないだの三百万エリスから引いといて貰えると手間が掛からなくて助かる」
その後、バニルからの懇願でウィズも旅行に参加する事となった。どうやらウィズがいると、余計な商品を仕入れて来てしまい、散財してしまうらしい。体のいい厄介払いだよな、これ。
「なあ、俺が言うのもなんだけど、仕入れはお前がやってウィズは売り子でいいんじゃないか?」
「それができれば苦労はせん! この店主、リッチーとしての力は強くてな。一見万能な見通す力であるが、吾輩と実力が拮抗する相手の未来は見ることはできぬのだ。貴様の場合でも、もう決定した過去はともかく未来は完全には見通せぬ。その意味では貴様も相当な実力者には違いない、飯炊き魔道士よ」
いつものからかいが飛んでは来たが、ここは聞き流すのが最善だろう。下手に騒ぎを起こせば旅行どころじゃなくなる。
馬車の待合所に着くと、すでにアクア達が到着しており俺達を待っていたらしい。ウィズとゆんゆんが参加することをみんなに告げて、馬車に乗り込む事になったのだが、
「七人ってなんだかんだで大所帯になったな。馬車は五人乗りだっけか。どうする?」
「じゃあ3:4で分かれれば良いだろ。簡単にグーとパーのチーム分けで分かれようぜ」
と、チーム分けをした結果、カズマ、アクア、ダクネス。もう一方は俺、めぐみん、ゆんゆん、ウィズで分かれる事になった。そして、馬車に乗り込んでしばらくして……、
「そういえば、今ユウが使っている杖をちゃんと見せて欲しいのです」
「なんだ。デュランダルに興味があるのか?」
「私も見てみたいです。あの時の氷の魔法、遠くから見ていましたけど、あんな魔法見た事もありませんし」
紅魔族の二人はデュランダルに興味津々のようだ。どうせ到着まではまだまだ掛かるし、時間つぶしには丁度良いかと思い、デバイスモードにして二人に持たせた。二人共あちこち触ってマジマジと見つめている。
「あの時の魔法はこの杖でしか使えないのですか?」
「そうだな、これ自身かなりの高性能ってのもあるけど、氷系の魔法に補正が掛かるんだ。俺だとデュランダルが無いとエターナルコフィンは使えない。しかも使えば限界まで魔力が無くなって、めぐみんみたく倒れる」
極大凍結魔法、エターナルコフィン。下手すれば爆裂魔法以上の魔力消費量かも知れない。俺自身の魔力だけでは足りず、デバイス内部の貯蔵魔力と氷結補正でようやく発動可能となる。
「爆裂に補正が掛かる杖はありませんか?」
「無い。めぐみんが持ってる杖でも十分威力は高くなるんだろ? しかも今のめぐみんなら、杖無いくらいで丁度いい威力になるんじゃないかな。杖ありだと威力が高すぎるし」
「そうよ! ただでさえ使い所のない爆裂魔法が、もっと使えなくなってるじゃない! 中級魔法でも良いから覚えてみたら?」
「フッ……。我が爆裂道はまだ始まったばかり。このまま爆裂魔法を極めるのみです! それに……」
めぐみんが俺をチラッと見て、言葉を濁らせた。
「……? なんだ? 俺……何かしたか?」
「いえ、意外に自覚が無いのだと思いまして。まあそのおかげで、爆裂魔法を極める決心がついたのですが」
何の事を言っているのか全く分からない。
「刀も持ってきていますね。何かに使うんですか?」
ウィズが不思議そうにぴよぴよ丸を見ながら、俺に問いかけてきた。
「ん? コイツか。道中でモンスターに襲われたら色々試してみようと思って持って来たんだ」
「モンスターに……ってその刀は生物は斬れませんよね?」
今度はゆんゆんからの質問である。確かにその通りなんだけど、
「コイツってさ、使い方次第だとかなり強い武器だぞ。例えばゴーレムなんかも斬れるだろうし、性根の腐った仮面の悪魔が斬れるのも確認済みだしな。前にダクネスが体を乗っ取られた時なんか、コイツがあったら仮面だけ斬ってダクネスは無傷だったろうから、
俺の解説に感心したようなアークウィザード二人とリッチーであった。
「ただ、コイツの斬れる範囲ってのがまだ不明瞭な部分があって、例えばアンデッドってどうなるのか……とか。連中は
その場にいる全員がうーんと首を捻っていたが、俺、めぐみん、ゆんゆんの視線が自然とウィズに集まってしまった。
「わ、私で試さないでくださいね!? 私にはやらなきゃならない事がありますから……」
「やらないって! これで本当に斬れて”ウィズ魔道具店店主殺害事件”になったら目も当てられない」
などと、雑談をしていると、馬車が停止し並走していた馬車からカズマ達が降りてきた。事情を聞くと、走り鷹鳶と呼ばれるモンスターがこっちに向かってきているそうだ。この走り鷹鳶、求愛行動の時期になると本能的に固い物目がけて、突進しチキンレースを行うモンスターらしい。
そして、この場で一番硬い”者”といえば……、
「どう考えてもダクネスだよな」
「ああ、ダクネスの硬い筋肉目掛けて突っ込んできてるな」
俺とカズマの見解は一致していたが、当のダクネスは体が硬いと思われたのが不満だったのか、俺達に抗議していた。
「まあいいや、あんまり近づかせるのも良くないから……。悪いカズマ、撃ちもらした敵だけはそっちで頼む」
「お前……、何する気だ?」
「狙撃」
それを聞いたカズマは一瞬驚いた表情をしていたが、すぐにアクア達と作戦を練っていた。何かこう……いちいち驚くのも面倒だといった雰囲気ではあったが、気にしないでおこう。俺はというと馬車の上に乗り、うつ伏せになりながらデュランダルを構えていた。地球やミッドチルダの人間が見れば杖を狙撃銃の様に構えていると思うだろう。
ダクネスが前に出てきているおかげで、走り鷹鳶はまっすぐに彼女目掛けて突っ込んでくる。そいつらに対して魔法を発動させる。
『Snip Shot』
スナイプショット――遠距離用の直射型射撃魔法、難易度自体はそこまで高くないが弾速と発動速度に優れている。直射型であるが故に、命中するかは術者の狙撃技能に依存するのだが……、
「スッゲェ……。あの距離で正確にモンスターを撃ち抜いてるぞ。本当に魔法使いか……!?」
おそらく千里眼持ちのアーチャーだろう。俺と標的の走り鷹鳶を見比べながら感嘆の声を上げていた。とりあえず、比較的近くにいたモンスターは全て倒したので後は、
「めぐみん!」
「『エクスプロ―ジョン』ッ!!」
カズマの合図でめぐみんが遥か彼方目掛け、爆裂魔法を放つ。まだ遥か遠くにいた走り鷹鳶達もこれで全滅のはずだ。というかこの爆裂魔法の威力は下手に近場に撃ったら、こっちがヤバくなるんじゃ……。
すっかり日も暮れ、俺達はキャンプファイヤーを囲んでいた。さっきの走り鷹鳶をほとんど倒したのは、護衛の冒険者ではなく俺達なので、報酬を払うといった旨の提案があったのだが、原因を作ったのはウチのパーティーなので、カズマも受け取るのは心苦しいらしくひたすら断っていた。その中で、自ら囮になってモンスターを引き付けたダクネス、爆裂魔法で標的を一網打尽にしためぐみん、それらを見事にまとめ上げていたカズマに周りから羨望の眼差しが向けられていた。そして、俺はというと……。
「感動しました! アーチャーでもないのに、あの狙撃能力! どうしたらあんな風にできるんですか?」
護衛の冒険者の一人、おそらくクラスはアーチャーだろう。目を輝かせて俺の元へやってきた。
「あ……いや……練習あるのみでしょうか……。後は標的に当てるというよりは、標的の動きに合わせて撃ち込むイメージを持った方が良いと思います」
その後も、そのアーチャーから質問攻めをされ、ようやく解放されたと思ったら、今度はウチのパーティーの面々である。
「よう、お疲れさん。さっきの人は?」
「狙撃のコツを教えて欲しいって。さっきまで質問攻めだった」
カズマがそれは災難だったなといった顔をしていた。
「あれは確かに見事だった。私は囮になる為に一番前にいたが、モンスターが見る見るうちに動かなくなっていったからな」
「派手さはありませんが、魅せますね。アーチャーでも通用するのでは?」
「まあ、狙撃に関してはもっと凄い人も知ってるし、その人に比べたらまだまだだと思う」
と、ダクネスとめぐみんに答えを返す。
「お前より凄いって、こないだ来た人達の誰かか?」
「いや、昔同じ部隊にいた人でさ。魔力量は今の俺より全然少ないし、狙撃以外の技能はそれほどでも無いんだけど、それでもエースとか達人とか呼ばれてたんだよ。色々あって一線からは退いてるけど」
「達人ですか……。では狙撃はその人から教わったのですか?」
めぐみんが興味を持ったらしい。多分、エースや達人といった言葉が気に入ったのかも知れない。
「そうだな。それがまた気のいい兄さんでさ。何だかんだで練習に付き合ってくれたもんだ。一つの事でもあそこまで磨き上げるのは、相当な修練が必要だって自分で練習して身に染みたよ、ホント」
「やはり、極めるというのは並大抵ではないのですね! 私ももっと爆裂の精進をしなくては!」
めぐみんは話を聞いて爆裂を極める決意を新たにしたようだった。……余計な事を言ってしまったような気分だが、気のせいだろうか?
深夜、見張りの人間以外は寝静まっている。ふと、目を覚ましたが嫌な感じがする。周囲を見渡すとカズマも何かに気付いて起きたらしく、めぐみん達を起こそうとしていた。
「みんな起きてくれよ。起きないと、何日か恥ずかしくて俺の顔を見れないような事するぞ。いいんだな?」
カズマが寝ている紅魔族二人と、ウィズに対して何かをしようとしていたが、
「ああもう! カズマ、まどろっこしい。俺がやる!」
そして寝ている三人の耳元で、
「頭のおかしい爆裂娘」
「ケンカなら買いますよ! 私のどこが頭おかしいか聞こうじゃないか!! あれっ……!?」
めぐみんが大声を上げながら目を覚ます。続いて、
「さっきの走り鷹鳶が、友達になりたそうにこちらを見ている~」
「何処ですか!? 何処にいるんですか!! ……へっ!?」
ゆんゆんはすぐに立ち上がって、周囲を見渡している。
「店主さん、お店が大繁盛ですよ。早く商品仕入れないと」
「でしたら、すぐに調達しないと……! えっと……!?」
ウィズもすぐさま目を覚まし、どこかに行く素振りをしていた。
「お前……えげつなさすぎだろ……」
「緊急事態なんだから、このくらい許せって」
ダクネスはもう起きていたらしく、険しい表情で周囲を見渡していた。
「ああ、起きたか。周囲に何かがいる……。ん? どうした?」
「あ……いや……これは、明かりをつけない方が良いかなって……」
……夜目が利くのも考え物だと思う。暗闇の中なのでまだいいが、人型で動きが鈍くて所々体が崩れてるって言ったら……。
……と護衛の冒険者の一人が敵のいる方向に向けて明かりを照らすと、そこに蠢いていたのは超有名なアンデッドのゾンビである。みんなが一様に叫び声をあげていたが、カズマだけはアクアを呼びに行くと言って、そちらへ向かったのだが……、
「おい、アクアの方にもいるみたいだけど、何でコイツら俺にも寄ってく来るんだ!!?」
アクアの方にも大量のゾンビがいた様で、叫び声が聞こえていたが近くにいたゾンビは軒並み俺の方へと進路を向けて近づいてくる。
「その……ですね……。その方々が言うには、ユウさんからは強い光を感じるので早く浄化して欲しいと……」
そういえば、ウィズはアンデッドの王だけあって彼らの声が聞こえるって言ってた気がする。つーか俺はプリーストじゃねえええ!!! アレか!? 冒険者登録する時にプリーストの適性があったのが悪いのか!!?
「またおかしな体質ですね。アンデッドに好かれるとは……。そういえばアクシズ教勧誘の文句に、なぜかアンデッド好かれるというのがありましたが……」
「私は前にアルカンレティアに行った時、芸達者になるって言われたけど……」
「なぜ、こうも当てはまっているのだ? ユウは隠れアクシズ教徒か? いやそれよりも、ゾンビに
先ほど起こした紅魔族二人とダクネスは、俺を見ながらどうでも良い事を話し込んでいた。多分ゾンビの外見が生理的に受け付けないので、近づきたくは無いんだろうけど。
逃げ回ってても仕方ないので、覚悟を決めてぴよぴよ丸で一閃。すると、
「斬れた! マジで神刀じゃないのかコレ!? 動けなくしてから火葬して弔うから大人しくしてろ!!」
その後、アクアも浄化に加わりゾンビ達は消え失せたが、
「またアンデッドが寄って来るといけないから、結界張っておきましょう。維持は私とユウで交代しながら。私達の魔力は親和性が高いからいけるはずよ! キールのダンジョンみたいに下手に残ってもまずいから、魔力の供給を止めれば消えるようにしておくわ」
……とアクアからの提案により、結界の維持をしていたのだが、
「おおーい。そろそろ交代の時間だ。起きてくれ!」
「んー、むにゃむにゃ……私は水の女神様よ……私を崇めなさい……」
全くもって起きる気配が無い。結局朝まで起きなかったアクアに代わり一晩中結界を維持していた俺は、ほぼ全ての魔力を使い切り、寝不足と倦怠感の中アルカンレティアに到着した。
プリースト適性があるのも、アンデッドに好かれるのも……、全部女神さまの影響ですね。
狙撃を教わった人は、分かると思いますがヴァイスです。武装隊時代はシグナムと同じ隊だったので面識があります。当時はヴァイスもスナイパーやってたはずですし。