この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
今回はそんなお話。
「ああーっ! ウォルバクさん! ウォルバクさんですよね!!」
風呂場から出たお姉さんに向けて、突然ウィズが大声を上げながら、そのお姉さんの名前を呼んでいた。もしかして、今はリッチーとはいえ魔法使い同士で親交があった二人なんだろうか?
「なんであなたがここにいるのよ……ウィズ」
ウォルバクと呼ばれたお姉さんは、怪訝な表情を浮かながら頭を抱えていた。
「あの二人……知り合いなのか?」
「魔法使い同士のライバルでしょうか? 双方爆裂魔法を使えますし……」
「ウォルバクさん? の方はあまり会いたくなかったって感じだけど……」
「フルーツ牛乳飲みたい」
二人の様子をジッと見守るカズマ、めぐみんと俺、そして我関せずといった感じのルーちゃん。俺的には風呂上りはコーヒー牛乳なのだが、まあそんな事はいい。
「私は友人と一緒に遊びに来てるんです。ウォルバクさんこそどうしてここに?」
「私は……湯治よ。……ウィズ、その抱えてるのは……もしかして!?」
ウィズに抱っこされているちょむすけを見て、固まるウォルバクさん。なぜかちょむすけはジタバタ暴れている。
「ウィズ、その黒猫を返してもらえるかしら?」
「ええーっ!? ちょむすけさんはめぐみんさんの猫ですよ。何でウォルバクさんに返すんですか!?」
ウォルバクさんはちょむすけを知っているらしい。返せなどと言っているが、元々はウォルバクさんの猫で行方不明にでもなっていたのだろうか? ちょむすけの様子を見ると、どうやらウォルバクさんの事を知ってるみたいだけど……。
「その子は……えっ!? 今、その子の事なんて呼んだの?」
「ちょむすけはちょむすけです。私の漆黒の守護獣にして、ペットのちょむすけですよ」
ちょむすけの現状を語るめぐみん。ウォルバクさんは訳が分からないといった感じだ。
「ねえ! 漆黒の守護獣って何なの? 何で私の半身はそんな目にあわされてるの?」
自分のペットが知り合いとはいえ、他の人間に拾われて変な名前と二つ名付けられてたら、そりゃあ驚くよなあ……。しかし……半身とか言ってたけど、この人は紅魔族のような中二病だろうか? そんな事よりもウィズとウォルバクさん、ルーちゃん以外の全員が、この場で疑問に思っている事は一つのはずだ。
「会話中にすまない。ウィズとそちらの人は知り合いなのか?」
代表というわけではないが、俺がその疑問を口にする。
「ウォルバクさんとは、昔、魔王さんのお城で知り合ったんです。私が魔王さんに頼まれてお城の結界維持を請け負う時ですけど」
……魔王の城で知り合った? ……だと!? そこらの井戸端会議での世間話の様な雰囲気で、サラッと重要なキーワードが出てないか? そういえば、ウィズは自分が幹部だと明かした時もこんな感じだったような……。
「……って事は、つまり……」
パーティーメンバー全員が目を見合わせる。考えは皆、同じらしい。
「貴様……魔王軍か……!?」
浴衣姿ではあるが、ダクネスが身構えてウォルバクさんに鋭い視線と敵意を向ける。
「ちょっと待って下さい! この人が魔王軍とは……!?」
おそらく、この場で一番混乱しているであろうめぐみんが、ウォルバクさんとダクネスへ相互に視線を向け、オロオロしている。
「あ、あの、私の事覚えてますか!? 私……そのゆんゆんって言うんですけど……」
ウィズ達と一緒に女湯に入っていたゆんゆんではあるが、ウォルバクさんを知っていたらしい。
「……何で温泉に来てまで厄介事になってるんだよ!?」
カズマ……言いたい事は分かる。どこの世界に湯治に来る魔王軍がいるってんだ。
「フルーツ牛乳……」
風呂上がりに何も飲んでいないルーちゃんは、喉が渇いていて限界なのだろう。フルーツ牛乳を早く……! と俺の浴衣を引っ張って催促している。各々が勝手に動き回って、もう結構な
「ウォルバクさん……で良いんですよね? 俺としては交戦の意志はありません。ちょむすけやめぐみんの事も色々聞きたいので、部屋まで来ていただけませんか?」
「……良いでしょう。ここで戦えば不特定多数を巻き込んで、ウィズを敵に回してしまうしね。私の半身も紅魔族の子のお世話になっていたようだし、事情を説明するわ」
こちらの言葉を聞かず、襲い掛かってくる事も想定はしていたが、意外にもちゃんと話を聞かせてくれるらしい。俺としても、この場で戦うのはリスクが高すぎるので好都合ではある。全員を俺達の部屋まで連れて行く途中、ルーちゃんにフルーツ牛乳を買って、彼女に渡すとその場でコクコクと飲んでいた。その姿がピリピリしていた場の一服の清涼剤となっていたのは秘密だ。
部屋に着き、ウィズとウォルバクさんの向かいには、それ以外の全員が向かい合って座り、ちょむすけはルーちゃんに抱っこされている。さっきまでジタバタ暴れていたが、ルーちゃんが撫でると途端に大人しくなった。この子、鳥獣使役の素質でもあるんだろうか?
「まず……ウォルバクさんが、魔王軍だというのは本当ですか?」
「ええ、ちゃんと名乗らせてもらうわ。魔王軍幹部の一人にして、怠惰と暴虐を司る女神、ウォルバクよ」
魔王軍の幹部……か。ウィズの態度といい予想できたことであるが、この人もアクアと同じ”自称”女神らしい。まさかアクアみたいな痛い人が、この世に二人といるとは思わなかった。
「ちょっと待ちなさいよ! 一応神格はあるみたいだけど、何よ怠惰と暴虐を司る女神って。ちゃんと邪神を名乗りなさいな」
嚙みついたのは、ウチのパーティーの自称女神様。確かに怠惰と暴虐なんてのは悪いイメージしかないけど、初対面の相手に対して邪神はどうかと思う。
「私は怠惰と暴虐なんていうあまり印象の良くない感情を司っているだけで、元はれっきとした女神なの」
と、その後、口論がヒートアップした二人は、お互いに罰を当てるだのなんだのと子供の様な言い合いをしていた。
曰く――せっかくの休日にやる気が起きずに布団でゴロゴロしている天罰。
曰く――次の人が待っているのにトイレの水が流れなくなる罰。
などであるが、この二人、女神を名乗ってるだけあって同レベルの人間ではなかろうか? と勘ぐってしまう。
「アクア、ちょっと黙ってくれ。後でアルカンレティア名物焼酎の”魔王しばき”と”エリス殺し”を買ってやるから」
「ユウ……その焼酎はエリス教徒としては、所持したくは無いのだが……」
ダクネスよ……。そんなの言われたって、そんな名前の焼酎なんだからどうしろってんだ。
とりあえず、アクアを黙らせて話の続きを聞かせてもらう。当のアクアは目を輝かせて小躍りしている。
「じゃあ何で、めぐみんがちょむすけを連れていたんだ? 元々はウォルバクさんの猫じゃないのか?」
めぐみんの方を向き、質問をすると、
「元々、邪神ウォルバクは紅魔の里に封じられていたのです。そして、その邪神が本来の力を取り戻し、下僕である人間を使って……」
「めぐみん……俺は職業柄、嘘を見抜くのは得意なんだ。悪い事を言わないから正直に話せ」
「嘘ではありません! その昔、我々のご先祖様が激戦を繰り広げた末……」
必要ない情報まで説明して、相手に信じ込ませようとする典型的な嘘のサインである。こうなったら仕方ない。少し痛い目を見てもらおう。
「……67センチか?」
「失礼な! 70センチはありますとも!! あっ……!?」
激高しためぐみんが立ち上がり、それはもう見事なまでに誘導尋問に引っかかってくれました。頭に血が上りやすいので、思ったより簡単にいきそうだ。
「い、今のって……めぐみんの……」
「あ、あいつ……胸のサイズを喋らせやがった……!?」
恐ろしいものを見るような目でアクアとカズマが俺の方を向き、青くなっていた。
「さて、今のは警告だ。これ以上嘘をつく気なら、この場がめぐみんの恥ずかしい秘密の暴露大会になるが、それでもいいな? 嫌なら正直に話せ。全てが終わった後で、お嫁に行けなくなったと泣きだしても、俺は知らねーぞ」
俺を見て震えながら、めぐみんが口を開く。カズマがアイツの方が邪神っぽくないか? などと言っていたが、失礼な物言いだと思う。ちなみにウォルバクさんとウィズの魔王軍幹部コンビもドン引きしていた。
めぐみんの説明ではちょむすけは紅魔の里に封じられた邪神ウォルバク。その封印が解かれたのは過去に2回、幼少時のめぐみんとめぐみんの妹が解いてしまったらしい。その時、めぐみんを襲った魔獣がちょむすけの本来の姿であり、それを助けたのが今ここにいる女神様の方のウォルバクさん、という話だった。なぜ紅魔の里に封じられていたかについては、頭が痛くなる事実だったので、もうスルーしておく。
「その子はさっきも言った通り、私の半身。私は怠惰、その子は暴虐を司る。その子を私の手で消滅させて、力を取り戻すわ。さあ、その子を返して頂戴。できれば私も知り合いとはとは戦いたくないの。返してくれれば、あなた達から私に手を出さない限り、敵対しない事を誓うわ」
ウォルバクさんとめぐみんの言い分をまとまると、
①ウォルバクさん、昔は物凄くやんちゃで暴れ回っていた。その折、何かの拍子で中二病を発症して、”怠惰と暴虐の女神”を名乗る。
②ちょむすけは元々、ウォルバクさんの使い魔か半身とか言ってたので融合騎的な存在。
③ウォルバクさん、やんちゃが過ぎてエターナルコフィンの様な魔法でちょむすけごと封印される。
※エターナルコフィンは生物に使うと、対象は死なずに眠らせることができます。
④封印されていたウォルバクさんを、紅魔の里の人達が観光名所にするために拉致って里に再封印。
⑤幼少時のめぐみんが封印を解いて、ちょむすけとウォルバクさんが目覚める。その時、めぐみんが爆裂魔法を教えてもらう。ついでにちょむすけは、また封印される。
⑥めぐみんの妹がちょむすけの封印を解き、ちょむすけは、ほぼ毎日食われかける。
⑦ウォルバクさん、本来の力が戻らないので、湯治して力を蓄えている。←今ここ
そして、消滅させるという言葉と……ちょむすけがウォルバクさんを見て、暴れ出したのを考えると……。
「ダメです。あなたにちょむすけは渡せません!」
ウォルバクさんの目をまっすぐに見つめ、そう答えた。
「ああ、その通りだ! 冒険者たる者、魔王軍の要求を聞くわけには――」
ダクネスは立ち上がって拳を握り、俺の選択を称賛していたが、
「自分の分身にも等しい使い魔に暴力を振るうなんて、許される事じゃありません!!」
「「「「……はっ!?」」」」
ルーちゃん以外の全員が、呆気に取られて俺に視線を向けていた。
「あ、あなた……何を言って……?」
何か混乱しているウォルバクさんである。しらばっくれているのか、それともソレが当り前なのか……、どちらにしても、このまま放っておくわけにはいかない……!
「あなたが封印されて、憤っているのは分かる……とまでは言いませんが、だからって何をやっても良いってわけじゃありません。女神なんて名乗る前にやることがあるでしょう?」
「……ユウさん。ウォルバクさんは本当に怠惰と暴虐を司っていて……」
真面目なウィズにしては、珍しく冗談を言っている。こっちは真剣に話してるってのに。
「もしウォルバクさんが女神だとして、だったら何でエリス様やアクア様がいないんだよ? 悪者でマイナーな神様だけ、地上にいるとか理屈に合わないだろ。なあカズマ?」
「そ、そうだな……」
なぜか自称女神のアクアを見ながら、汗を垂らしている。まあここはウォルバクさんへのお説教タイムを続行しなければ!
「さっきあなたに会った時のちょむすけの態度を見ましたか?」
さっきまで小躍りしていたアクアが、俺の視界に入るようにウロウロしてニッコリ笑い、手を振っている。
「いつもはあんなに大人しいのに、あなたを見た途端、暴れ出したんですよ! 昔、暴力を振われたから警戒してるんですよ!! 分かってますか?」
アクアが今度は自分を指差し、ここ! ここに女神いるから! といった感じで必死にアピールしている。
「使い魔や融合騎だって、そんな扱いされれば心が傷ついて、やさぐれるんです! 仮にあなたが魔王軍じゃなかったとしても、今のあなたにちょむすけを返すなんてできません!!」
アクアも諦めてしまった様で、ウィズに泣きついている。ウィズは、アクア様の涙はヒリヒリするので泣き止んでくださいと懇願している。
「ユウ……そのですね……、ウォルバクは本当に封印された邪神で……」
今度はめぐみんか。紅魔族の習性だろうか? どうしても中二な方向に持って行きたいようだ。
「あのなあ……、悪い話ってのは一人歩きするもんなんだ。はやてだって昔、封印されかけた事があったんだよ。もしそうなってたら、噂ばかりが広まって邪神とまではいかないけど、邪悪な魔法使い位は言われていたかもしれない」
めぐみんに説明を終えて、再度ウォルバクさんの方を向く。視線の先の人物は、どうしよう? どうしたら信じてもらえるのか……といった感じで俺を見ている。
「なので、あなたがちゃんとちょむすけの面倒を見る気になるまでは、こちらで預かります。ちょうど昨日、アクシズ教団に行った時に護符を貰いましたから、ちょむすけに首輪を作って、その中に入れておきます。なんでも危害を加えようとすると、結界を展開するらしいので、コイツをイジメようとしても無駄ですよ」
「自分の近くにいる子をイジメちゃ駄目」
ルーちゃんが、俺の援護をしてくれた。ちょむすけを抱っこしているので、情が移ったのかも知れない。
「ほら! こんな小さい子まで知ってる事です。分かったらもう諦めてください」
言いたい事を一通り言い終えると、シンと静まり返った室内である。その中にあって、ウォルバクさんだけは、
「ええ、なら本意ではないけれど、力づくで行かせてもらうわ……!」
キッ……! っと俺へと視線を向けて、敵意を露わにしていた。ウィズが俺達の間に入り、
「……ウォルバクさん……ユウさんはですね……バニルさんを倒した人なので、ケンカはよした方が……」
「……えっ!? バニルを倒したって本当なの?」
ありえないようなものを見るウォルバクさんに、更にウィズが続ける。
「ベルディアさんとも、剣である程度渡り合えますし、デストロイヤーの結界を破壊したり、爆裂魔法並の魔法も使えますよ」
コイツ本当に人間か? といった表情をされたが、どうしろって言うんだろう。けど、これではっきりした。
「やっぱり自称女神様じゃないですか。ちょむすけはアクアに荒ぶってるから、一万歩くらい譲って”暴虐”なのは認めますけど、”怠惰”の神様がちょむすけ取り戻すためとはいえ、働いてどうするんですか? 看板に偽りありですよ」
ウォルバクさん、雷を受けたような衝撃的な顔をしていたが、どうした?
それ以外の人間は残念とまではいかないが、コイツの説得はもう無理といった表情をしている。唯一味方になってくれたルーちゃんだけは、ちょむすけを仰向けにしてお腹を撫でている。ちょむすけもその気になったようで、もっとやれ……! と催促している様子だった。
「そ、その……今、何て言ったの?」
「だから、”怠惰”の神様が働くのはおかしいって言ったんです。そんなの司ってるなら部屋に引きこもるか、遊び回ってれば良いじゃないですか?」
ウォルバクさんがワナワナと震えだし、俺に対して、
「……あなた……本当に何者? 確かに今の私は怠惰のみの存在。半身を取り戻すためとはいえ、働いてはその名に傷がついてしまう……。けど、それで良いのかしら?」
「世の中、変わらない物なんてありませんしね。ウィズだって凄腕冒険者でしたけど、今はリッチーになって店を持ってますし、不死でもこれから先、色々変わってもおかしくはないですよ」
ウォルバクさんはすっきりとした表情をしていた。ウィズの場合、それが成功だったかどうかは分からないけど。
「……ありがとう。私はこれから自分を見つめ直して行くわ。その子の事……よろしくね」
もう敵対する気はなくなっらたしいウォルバクさんは、静かに部屋を後にした。去り際に、
「もし、ここに残るのなら気を付けなさい。良からぬ事を企んでる輩がいるかもしれないわよ?」
気になる言葉を残していた。
「……どうしたんだろうな? まあ戦わずに済んで良かったけど」
「お前……わざとやってたんじゃないよな?」
カズマがコイツホントに何なんだ!? といった感じで俺の方を向いていた。そんな中アクアが、
「ユウ、じゃあ私も働かなくて良いのよね? 自由に過ごして良いでしょ?」
目を輝かせたアクアが俺に対して詰め寄ってきた。自称女神繋がりで、そう思ったのかも知れない。
「アクアは宴会芸の神様だっけ? だったらそこら辺で宴会芸やってれば良いだろ」
「違うわよ! 私はアクシズ教が崇める御神体、水の女神アクア!!」
まったく、ウチの自称女神様の相手は疲れる。そう思いながら答えを返す。
「だったらせっせと働かなきゃダメだろ。干ばつの土地に雨降らせたり、水が無くて困ってる人達に水配ったり」
それを聞いたアクアが今にも泣きだしそうな顔で、
「カズマ、ねえ今の聞いた!? 差別よ! 女神差別だわ!! あの邪神には働くなって言っておいて、私には働けって言うのよ!! どう思う!!?」
カズマに掴みかかって大声を上げていた。それを聞いたカズマは、
「正論だろ」
バッサリと斬って落としていた。
「誰か私を褒め称えてよ! 敬ってよ! 甘やかしてよ! せっかくアルカンレティアに来てるんだから、流石女神様ですねって尊敬してよ!!」
大泣きしながら、叫び声を上げるアクアを全員で宥めている途中、
「すまない、遅くなった……。取り込み中だったか?」
ルーちゃんの保護者さんである。どうやら迎えに来たらしい。アクアが大泣きしているので、何事かと思ったようだ。ルーちゃんもちょむすけを離し、そちらへ行き、
「……ありがとう。楽しかった」
と、小声ではあるが、俺達に対してお礼を言っていた。二人がいなくなった後でも、アクアが泣き止まなかったので、約束していた焼酎を買ってきてご機嫌取りをしているうちに、その日は終わった。
駄目な方向に変わってしまったウォルバク様。というか9巻の掛け合いを読むと、アクアとダメな方向で同類っぽく感じます。