この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
ウォルバクさんを説得できた次の日の早朝。昼間は観光地らしく賑やかな人寄せや、アクシズ教徒の迷惑な布教活動はなりを潜め、静まり返っている。そんなアルカンレティアの広場の一角で、
「フッ! ハァ……!!」
遠目で見ると長い棒をブンブン振り回しているようにしか見えないだろうが、自身の訓練である。アルカンレティアに来てから、アクシズ教団に連れて行かれたり、色々あったせいで訓練が滞っていたので、少しキツめに行っている。この後、温泉に入れるので、それだけでもここに来た甲斐があると感じていた。すると、
「ふむ、棒の両端に重りを付けての稽古とは……。しかし変わっていますな? 棒の真ん中を持って振り回していますが、杖術とも違う印象を受けるのですが」
朝っぱらから一番顔を合わせたくない変態のおっさんがそこにいた。アクシズ教徒的には昼まで寝てから起床してるなどど思っていたが、考えが甘かったようだ。思わず身構えてしまう。
「おはようございます! では俺はこれで……」
もう全力ダッシュで逃げようとした刹那、
「お待ちください。私がこうして夜通し街を徘徊していたのは理由があります。心当たりがあれば、教えていただけませんか?」
神妙な面持ちで変質者のアークプリーストが俺に質問をしてきた。
「実は昨日……女神アクア様より、神託が下りました」
神託? そういえばこのおっさん、アクシズ教で自分以上のアークプリーストはいないとか言ってたな。俺の拳だって軽々と受け止めたし、実力者なのは間違いないだろう。
「”誰か私を褒め称えてよ! 敬ってよ! 甘やかしてよ!”……と。街を探し回っているうちに、巨乳のお姉さんに転ぶ振りをして抱き着こうとしたり、見目麗しい少女にパンツの色を聞いたりしましたが」
……あーなんか自称の方のアクアがそんなの言ってた気がするな。けどただの偶然だろう。つーか探し回ってないだろ、それ。
「心当たりはありません。じゃあ俺は急ぐんで」
シュタっと手を上げて、今度こそ立ち去ろうとしたのだが。
「昨日、教団の若い者から聞きましたが、あなたは紫髪の幼女と混浴に入っていたそうですな? やはり私の目に狂いはなかった。どうでしたかな、幼女との混浴は……! 是非とも私にその様子を教えていただきたい!」
「普通に入っていただけですから! 期待するような事はないですから!!」
駄目だ……! このおっさんと話すとこっちがおかしくなりそうだ。下手すればバニルよりタチが悪いかもしれない。アクシズ教徒が魔王軍に恐れられている理由がよくわかる。
その後、どうにか抜け出す事に成功したが、ついでにめぐみんとゆんゆんがアルカンレティアに来た時の昔話を聞かされた。何でもゆんゆんが紅魔の里から持ってきた手紙のせいで、警察に捕まったとか。それには”温泉に異変が見られた時は、湯の管理者に注意を払え。その者こそは、魔王の手の者”……と書かれていたそうだ。
ちなみに湯の管理をしているのはアクシズ教団。最高責任者のおっさんが、その時は疑われたらしい。まあ嫌疑はすぐ晴れたそうだが。
訓練を終え、温泉に浸かってから朝食を取っていると、
「この街の、危険が危ないみたいなの」
なんかアクアが”頭痛が痛い”や”馬から落馬する”なんてのと同じ表現の、あまり好ましくない言葉でこの街の危険を伝えていた。
「んーとな。それを言うなら”この街が危険に晒されている。”かな?」
「そんな事はどうでも良いの! こないだアクシズ教団の秘湯に入りに行ったんだけど……」
アクアの話では俺達と別行動している時に、アクシズ教団の秘湯に赴いたのだが、その秘湯の浄化に時間が掛かったとの説明があった。つまりは、温泉が相当汚染されていると感じたらしい。証拠を見せると言って、コーヒーに指をつけると、
「ね?」
コーヒーがあっという間に真水になった。サバイバルでアクア連れてったら便利そうだなと思ってしまう。本人は絶対に行きたがらないだろうけど。
「ユウ……なぜアクアの真似をしているのですか?」
「その……最近アクアっぽくなってる気がするから、もしかしたらと思って」
アンデッドに好かれたり、ゴッドブロー使えたり、自分について新事実が判明している今日この頃。もしかしたら浄化も……と思って試してみたが、流石にそれは無いようだ。……ああ、安心した。
「そんな事よりもだ! 昨日めぐみんに言っていた、嫁に行けなくなるほどの尋問を私にだな」
うわっ……!? 余計な事喋っちまったか。あんまりやると、バレた時にお仕置きされそうなんだよなあ……。
「じゃあ、ららちーな、ららぴょん、ららっちぃ、ららみょんの中から好きなあだ名を選べ。これからそれで呼んでやる」
「私が望むのはあだ名ではなく尋問だ! その中の一つでも口にしたら、ぶっ殺してやる!!」
ぶっ殺してやる、とは穏やかじゃないが、あまりからかうのも可哀そうになってくるので、ここはやめておくのが賢明だ。と、ゆんゆんが何かを言いたそうに俺を見ていた。
「あの……だったら私をあだ名で呼んでください!」
やたらと気合が入っているが、
「ゆんゆんはもうあだ名っぽいから、そのままで良いんじゃないかな」
そう言うと、少し落ち込んでいるようだった。ゆんゆんにあだ名をつけると、命の危険がありそうな気がする。これは自己防衛のためである。
俺達のしょうもない会話を無言で聞いているカズマではあるが、いつもはツッコみでも入れそうだけど、どうしたのだろう?
「あっ……! 温泉の異変と言えば、さっきゼスタさんに会ったんだけど、前にゆんゆんが持ってきた手紙のせいで警察に捕まったとかって言ってたな」
それを聞いて顔を見合わせるめぐみんとゆんゆん。
「それなら、そけっとの占いの結果が書かれていた手紙でしょう。私達が前回ここでお世話になった時には、蛇口を捻ると、ところてんスライムが出てきたのです。それが魔王軍の破壊工作だと疑われたようですが」
ところてんスライムについてはまあいい。説明を聞くと、紅魔の里の占い師ってのは相当な的中率を誇るらしい。聖王教会にも”予言騎士”なんて呼ばれてる人物がいるが、それにしたって文章が難解だったり解釈ミスなんかがあったりするので、よく当たるって程度である。そういえば、はやてが親しかったな。俺はまだ会った事ないけど。
「そっか、そっちはちゃんと解決してたんだな。けど……ほら、いつ起こるとか書いて無かったんなら、その占いって今の出来事を書いてたとか……な? まあ、それは無いだろうけど」
何気なく出た一言ではあるが、一同が顔を見合わせ、
「「「「それだ(よ)(です)!!!」」」」
叫び声を上げていた。その中にあってカズマだけは頭を抱えている。多分、厄介事は勘弁したいんだろうなあ。
とりあえず、これからの行動方針を決めようと思い、全員で話し合ってはいたが、
「ここは直接源泉に乗り込むべきよ! やるなら早い方が良いわ!!」
アクアは源泉の管理人を直接締め上げるべきと言って、拳を握っている。
「まあ待て! ここはまず、警察署に行って事情を話し、堂々と源泉の調査を請け負うべきでは?」
ダクネスの言う事は筋が通っている。だが問題は、一度解決したと思われた事件をひっくり返すのが可能かどうかだ。意外とそういうのは渋る連中が多い。
「もう源泉ごと爆裂魔法で破壊しつくせば、犯人も亡き者にできるのでは?」
それはやっちゃダメだろ! 確かに犯人は倒せるかもしれないが、源泉破壊したら損害賠償がヤバい事になる。
つまり、源泉を調べる大義名分があり、その許可を得なければならない。しかもアクアの言っていた汚染具合から考えるに時間もあまりない。となると……。
「……めぐみん、ゆんゆん。ここは二人に頑張って貰わなきゃならない。……多分、今まで生きてきた中で……一番つらい経験をさせるかもしれないが……それでも良いか?」
俺があまりにも真剣な眼差しをしていたので、二人共何事かと思ったのだろう。お互いの目を見てから、ゆっくりと頷いた。
……さて勝負だ! あの変態プリーストのおっさんがアクシズ教団の最高責任者だというのなら、あの人を説得しさえすれば、源泉の調査へ行けるはず。そう考えた俺達は、準備を整えてアクシズ教団を訪れていた。ウィズはアンデッドである事情から教団には同行せずに、留守番している。
「失礼。ゼスタ様はおられますか?」
取り次いだのは、アクシズ教信者と思しき掃除をしている女性。
「ゼスタ様なら、朝方帰宅されて、今はまだ就寝中のはずですが……」
やっぱりか。夜通し街を徘徊してたんなら、ここにいると思ったがその通りだったようだ。カズマやダクネスとも目を見合わせ、
「でしたら、お目通り願えますか? 緊急の用事でして」
しかし、女性信者は渋っている。そりゃあいきなり来て、代表者と会わせろなんて普通はあり得ない。アクアがアクシズ教徒だとしても難しいだろう。
「でしたら、こうお伝えください。今起きて来なければ、あなたは必ず後悔すると」
そうして、何とか客間に通された俺達である。めぐみんとゆんゆん以外の全員で座り、部屋の外には二人に待機してもらっている。待つこと10分、ゼスタさんが部屋へと現れた。
「何用ですかな? 今朝も言いましたが、夜通し街を練り歩いていたもので、まだ眠いのですが」
最高責任者の威厳も何もあったもんじゃねえ。と思いつつ、温泉の汚染に関する俺達の推論をゼスタさんに説明した。
「つまり、私が警察に捕まった際の手紙は、あの時ではなく今の事態を示していたと。確かに温泉の質が悪くなっているという報告は受けています。……しかし」
もう終わった事件なので、蒸し返したくはないのか、ただ単に眠くて面倒くさいだけなのかは分からないが、乗り気ではないようだ。
「仰りたい事は分かります。我々としては、警察にこの事を話しても厄介者扱いされかねないので、こちらに伺った次第です。源泉調査の許可をいただくために、お願いすることしかできませんが……」
そう言って、部屋の扉を開けて入って来たのは、
「別に、あなた達のために源泉の調査をするわけじゃないんだからね! 早く許可を頂戴!!」
手を腰に当て、目を瞑ってソッポを向き、それでいて片目を開けチラチラとゼスタさんを見ながら、テンプレとも言えるセリフを口にする、ゆんゆんである。
「ツ……ツンデレっ娘……からのお願いですと!!?」
さっきまでの眠たそうな顔はどこへやら、目を見開いてゆんゆんを嬉しそうに見ている。
「ねえ、何であんなに上手に演技指導できるのよ?」
「……郷里の友人が絵に描いた様なツンデレでな。ツンデレの何たるかは心得ているつもりだ。ちなみに誤解が無いように言っておくが、俺はツンデレ好みじゃない」
「最近、お前の職業より、プライベートの方が気になるんだけど……」
カズマには話してやりたいけど、時間が足りないな。大体そんなの教えてたら一日二日じゃ終わらない。さて次だ。
「ゼスタ様、どうか此度のお願いを聞いていただけませんか?」
今度はメイド服を身にまとい、スカートをつまんで軽く持ち上げて挨拶し、淑女のようにやさしく微笑みながら、上目使いでお願いするめぐみんである。
「メ、メイドっ娘……ですと!? しかもただ服を着ているだけの
歓喜からワナワナと震えているゼスタさん。しかし、このアルカンレティア、メイド服探してすぐ見つかるとは思わなかった。アクシズ教徒恐るべし。
「あ、あなたは素晴らしい……そして恐ろしい方だ。普通なら勝気なめぐみんさんがツンデレを、大人し目なゆんゆんさんにメイドをさせるというのに、あえてその逆を行いギャップ萌えを狙うとは……!」
そこまで分かっているとは……。このおっさん、やっぱりただの変態じゃなく凄い変態だ。俺とゼスタさん双方一瞬目が合い、フッ……と静かに笑う。
「なあ……アイツってもしかして、アクシズ教徒級の変態なのか?」
「ああ、この光景を見るとあながち否定できん」
パンツスティールする冒険者とドMクルセイダーに言われたくはない。
「失礼な事言うな。俺は本能の赴くままやってるんじゃなくて、全部狙ってやってる」
「「余計タチが悪い!!」」
そうかなあ……。アクシズ教徒の所業を見てるとまだマシだと思うけど……。
「ゼスタ様、前は紅魔の里の占い師の手紙で、拘留されたんですよね? でしたら今回その原因となってる輩をとっちめたいとは思いませんか?」
ふうむ……と何かを思案している目の前のおっさん。こっちに有利なうちに一気に攻め立てなければ……!
「……ここにレンタルしてきた魔道カメラがあります。記念撮影でもどうですか?」
一瞬固まるおっさん。その様子を見た周りは、
「わっるい顔してるわー! ねえ久々に見たんですけど! あのユウさん本当に怖いんですけど!!」
「ああ、全部筋書き通りって事か。みんな俺をカスマとかクズマとか呼んでるけど、その比じゃねえ!」
「抗いながらも、思い通りに動かされる……だと!? なんて羨ま……、いや、けしからん手段だ!」
めぐみんとゆんゆん以外が好き勝手言ってる。紅魔族の二人は内心、泣いているか、怒り心頭だろうなあ。後でちゃんと謝っておかないと。悩んでいるゼスタさんを見てアクアが、
「汝、何かの事で悩むなら、今を楽しくいきなさい。楽な方へと流されなさい。自分を抑えず、本能の赴くままに進みなさい」
アクシズ教の教義だろうか? というか、とんでもない教えだ。よくこれで邪教扱いされないもんだ。
それを聞いたゼスタさんは……。
「あなたは……いえ、あなた様は……!」
「私は通りすがりのアクシズ教のアークプリースト。同じアクシズ教徒として迷える魂を導いたまでよ」
いつになく、優し気な笑顔をゼスタさんに向けるアクア。それが決め手になったようで、源泉に立ち入る許可を貰う事が出来た。そして、
「私も源泉まで参りましょう。できればめぐみんさんには、メイド服のままで御同行願いたいのですが」
「絶対に嫌です。さっきゆんゆんも一緒に写真を撮ったのですから、それで満足してください!」
俺を蔑むような視線を送りながら、ゼスタさんの提案を断るめぐみん。
「まさか写真を撮る時に、抱き着かれそうになるなんて思わなかった……」
ゆんゆんは意気消沈している。ゼスタさん、アグレッシブすぎです。いや、分かってはいたけどさ。
「悪かった。俺が悪かったから、後で愚痴でも文句でも何でも聞くから、元気出してくれ」
ゆんゆんの頭を撫でながら何とか宥めて、ゼスタさんも一緒に源泉へ向かおうとしたところ、
「大変です! 温泉が……! 街中の温泉から、次々と汚染された温泉が湧き出して……!」
アルカンレティアの冒険者ギルドの職員さんである。一大事といった様子で、アクシズ教団へ駈け込んできた。湯の管理をしているのは、ここなので状況を確認したいのだろう。
一刻の猶予もないと感じた俺達は、源泉へ急行するのであった。
その頃の海鳴市
すずか「どうしたの? アリサちゃん」
アリサ「何か悠のヤツを無性に蹴り飛ばしたい!」
すずか「いくらなんでも、はしたないって!」
アリサ「決めた! 今度アイツが帰って来たら、問答無用で一撃入れるわ!」
地球のお嬢様達はそんな会話をしていたらしい。約一年後にそれは現実となる。
ちなみに書籍と違い、特に妨害していないのに源泉の方まで被害がでたのは、ウォルバクさんがハンスに主人公の事を喋ったからだったりします。ヤバい奴が来てるから、諦めたら? といった感じで忠告されましたが、焦ってしまったといったところです。