この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を!   作:ゴマフアザラシ

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最後の方、視点が切り替わるので分かり辛かったらすいません。


騎士、参戦

アクシズ教団の裏手にある、この街の温泉が湧き出る源泉がある山。そこへ至る道は、この街の騎士団によって厳重な警備がなされているが、

 

「警備お疲れ様です。我々はこの先に用事があるのですが、通していただけますかな?」

 

「は、はい! どうぞお通り下さい!!」

 

警備員達はゼスタさんを見るや否や、背筋をピンと立て、どうぞどうぞと言わんばかりの態度で俺達を通してくれた。

 

「すっげー。顔パスなんてな……」

 

「アクシズ教団の最高責任者は伊達じゃないって事か」

 

カズマと俺が感心していると、ゼスタさんから、

 

「彼らはエリス教徒ですので、できれば人員配置を変えていただきたいものですが、そうもいかないようです。我々(アクシズ教徒)に任せると、仕事をさぼって行方をくらますなどと、言い掛かりを付ける輩もおりましてな」

 

それは絶対言い掛かりじゃない思う。多分、本当にやっちまった奴がいるんだろう。みんなが同じ感想を持っている中、

 

「酷い言い掛かりよね! 全くウチの子を何だと思ってるの!!」

 

アクアだけが、プンスカ怒りながら道を歩いていた。しかし、

 

―――ジーッ。

 

先ほど……というより、ゼスタさんとの記念撮影を終えてから、めぐみんとゆんゆんの視線が痛い。黙って俺の後ろを付いて来ているというのに、もう何本も背中に矢が放たれているような感じだ。思わず、

 

「二人共、悪かったてば! 時間が無いと思って一気に攻め立てたかったんだ。後でちゃんと埋め合わせはするから!」

 

俺の必死の懇願を余所に二人は、

 

「……ユウさんって、魔法以外でも色々ご存じなんですね」

 

「ええ、アクセル一のメイドマニアなんて手温いです。アクセル随一の多重嗜好者とでも呼びましょうか?」

 

ニコニコしながら俺を見て、変質者のような呼び名を付けられそうになっている。これは許してもらうのに、骨が折れるかもしれない。

 

「美少女二人に蔑まれるとは、中々羨ましいシチュエーションですな。お二人共、その視線を私にも向けてはいただけませんか?」

 

そんなの言えるんだから、この人も相当筋金入ってるな。俺はもう耐えるので精一杯だってのに。

 

「そういえば、源泉の管理をしてる人ってのは、誰なんだ?」

 

疑問に思った様で、カズマが管理人についてゼスタさんに尋ねていた。

 

「私より年上の金髪の老人ですよ。長らく管理をされている方で、旧知の仲ですね」

 

湯の管理者を疑え、だっけか。占いに書かれてたのは。その人が犯人で元から潜伏してたのか?

 

「俺はてっきり、浅黒い肌の短髪の男かと……」

 

何か根拠があるんだろうか? その考えはみんな同じだったようで、カズマに問いただしたのだが、

 

「ほら、ユウとめぐみんが混浴に入る前に、ウォルバクさんと話してたんだよ。”忌々しいこの教団もこれで終わりだ。秘湯での破壊工作が終わった”……とか」

 

「何でそんな大事な話を今まで黙ってた!!」

 

ダクネスがカズマに掴みかかり、大声を上げている。

 

「何で毎回毎回厄介事に巻き込まれなきゃならないんだよ! こんな面倒臭そうな事に、自分から首突っ込むわけねーだろ!」

 

なるほど、今朝方カズマの口数が少なかったのは、こういう事か。と今度はゼスタさんから、

 

「ええ、そちらの邪悪なるエリス教徒の仰る通りです……」

 

顔を伏せ、珍しく威圧的な態度でカズマに詰め寄るゼスタさん。何気にダクネスをディスっている。

 

「めぐみんさんと混浴ですと!? なんと羨ましい……! 私がアクシズ教団の秘湯を混浴にすると提案したら、当然のように却下されたというのに……!」

 

そっちかよ。このおっさんと風呂入るのは、流石のアクシズ教徒のシスターでも敬遠するレベルか。

 

「誤解を招く発言はやめてもらおうか! あれはカズマに目に物見せるために、ユウに大人の姿にしてもらっていたのです。ユウやルーちゃんも入っていたのですから、変な想像をしないでください!」

 

今度はゼスタさん、ワナワナと震えだし……、

 

「めぐみんさんの大人姿……ですと!? つまり、違法ロリが合法ロリになる魔法ですか!?」

 

「いや、姿は変わっても、年齢は変わりませんから。違法は違法のままですから!」

 

少しショボンとしていたおっさんを尻目に、めぐみんが、

 

「おい、私のどこが違法なのか聞こうじゃないか! 私は14歳で、もう結婚もできます。違法というなら、まだ13歳のゆんゆんが違法ですよ!!」

 

「つまり、ゆんゆんさんは違法ロリ巨乳と……! 背徳的な響きと巨乳に引かれますが、残念ながらアクシズ教では、犯罪行為は認められておりません。もちろん、清いお付き合いなら、いつでも大歓迎です」

 

おっさんとゆんゆんが並んで歩いてるとか、犯罪臭しかしないと思う。

 

「私だって、あと少しで14歳になります! 違法なんて言わないで下さい!」

 

汚染された源泉へ向かっている最中だというのに、しょうもない会話をしてるあたり、このメンバーは大物なのか、それとも馬鹿なのか、判断に困る。まあ、俺もここにいるから、人の事は言えないけど。

 

しばらく歩いていると、俺達の目の前に現れたのは、黒い毛皮と巨大な犬歯の何か。

 

「これは、ひょっとして初心者殺し……なのだろうか」

 

「確かに……そうだろうけど、これは……」

 

まるで、酸か何かで溶かされたような様子の遺体。

 

「ゆんゆん、上級魔法の中には酸を使うものはあるか?」

 

「えっ!? いえ、そんなのは無いです。泥沼ならまだしも、酸なんて……」

 

一同、目を見合わせている。こいつは思ったよりずっと厄介かもしれない。

 

そこから先に、更に歩みを進めていると、パイプの一本が途切れた場所に出くわした。パイプの先から湧き出ていた源泉は……、

 

「おい、このお湯黒いぞ」

 

カズマが信じられない物を見た様子で、源泉の状況を伝えた。

 

「!? 毒なんですけど! これ、思いっ切り毒なんですけどっ!」

 

と、アクアが源泉に手を突っ込もうとしたが、

 

「アクア、ちょい待った! そんな事したら、火傷する」

 

アクアの襟首を全力で掴んで止める。当のアクアは少し首が絞まったようで、ケホケホしていたが。

 

「今からコイツを凍らせるから、その後で浄化ってのは可能か?」

 

「えっ!? ええ。私達の魔力の親和性なら、凍ってても問題ない筈よ」

 

だったら話は早い。一時的にしろ、凍らせれば汚染した源泉が流れるのも防げるし丁度いい。

 

「デュランダル!」

 

デバイスを杖の状態にして、パイプの方へ向け、意識を集中する。

 

「ほう……! この辺りの源泉だけでなく、遥か彼方に続くパイプまで凍らせるとは……!」

 

感嘆の声を上げていたのはゼスタさん。こうしていると、普通の司祭さんなんだけどなあ。どうして、あんな事ばかりするんだろ?

 

「これに関しては、運が良かったと思ってください。この杖持ってなかったら、ここら辺を凍らせる事しかできませんし」

 

そして、アクアが凍らせた源泉へ触れると見る見る内に、真っ黒だった源泉がが浄化され、透き通った氷へと変わっていった。アクア曰く、パイプの中まで浄化できたそうだ。これも俺達の魔力の親和性の高さが成せる業らしい。

 

「これなら浄化は、思ったより簡単にできそうですね」

 

めぐみんがホッとしたような表情をしていたが、まだ一本目。浄化は始まったばかりなので、気合を入れなくては!

 

道中、汚染された源泉は俺とアクアのコンボで浄化が速やかに行われ、六本あったパイプの内、四本のパイプが繋がる源泉まで浄化が完了。

 

「しかし、不思議な事あるものですな。ユウさんがアクア……さんとここまで魔力の相性が良いとは……!」

 

そのせいで大騒動になった事もあるけど、確かにゼスタさんの言う通り、不思議と言えば不思議だ。

 

「実は生き別れの姉弟ではないのか?」

 

「絶対ない! こんなダメな姉なんて欲しくない」

 

ダクネスがおかしな事を言い出したが、即座に否定する。

 

「私としては、弟っていうより息子みたいな感じね」

 

「こんな自堕落でトラブルメーカーな母親とかもっと欲しくない。ていうか、そんなの言うって事はアクアって、見た目に反して結構な若作――」

 

「それ以上言ったら、全力のゴッドブロー喰わらせるわよ?」

 

拳をバキバキ鳴らしなら、ドスの効いた声で俺を牽制するアクアであった。

 

「なあ、カズマ……。アクアっていくつなんだ? てっきり俺と同じか少し上だとばかり思ってたけど」

 

「さ、さあ……。俺もよく知らなくて……」

 

そう言えば、カズマとアクアってどこで知り合ったんだろう? 今度そこら辺聞いてみるのもいいかもしれない。と、千里眼を使っていたらしいカズマが、

 

「あっちに誰かいる。あれは金髪のおじいさん……か?」

 

さっきゼスタさんが言っていた、源泉の管理人さんか? 占いだとその人が疑わしいとはいえ、この危険地帯にいつまでも一人置いておくわけにもいかないか。全員急いで、おじいさんのいる場所へ向かう。

 

「ああ……、司祭様……。温泉が……」

 

毒を入れられた源泉を見ながら悲嘆に暮れるおじいさん。縋るような瞳でゼスタさんを見ていた。カズマは短髪で色黒な男が犯人と言っていたが、その男はどこに……?

 

「この辺で色黒の男を見なかったか?」

 

ダクネスが犯人と思しき男について、おじいさんに尋ねたが、

 

「いえ……。私がここに来た時は、もうこの有様で……」

 

確かに、このおじいさんが大量に毒を運んで入れるってのは、不可能に近い。こんな短期間なら尚更だ。けど、……なんだろう? この人からは何となく嘘を付いているような気配が……。

 

「そう気落ちなさらずに。あなたが一番心を痛めておられるのは、よく分かっております。今度キャサリーナちゃんを見るために、私も同行いたしますよ」

 

おじいさんを慰めているゼスタさん。こうして見ると、ちゃんと司祭してるなあ。けど、キャサリーナちゃんねえ……。あのおじいさん、年の割に結構お盛んなんだろうか? そんなのに誘う最高司祭ってどうだろうとは思うが、アクシズ教徒ってだけで納得できるのが不思議だ。

 

「キャサリーナちゃんですか……。それはありがたい、是非その際はご一緒に……」

 

「ええ、あの長身にしなやかな筋肉、それでいて、その筋肉に決して負けてはいない巨乳! どれをとっても素晴らしい」

 

おじいさんとゼスタさんが、キャサリーナちゃんについて熱く語っている。この間に浄化してしまった方が良いじゃないかと思った矢先、

 

「その時は、歓楽街に繰り出しましょう。私も朝までお供いたします」

 

一瞬、ゼスタさんの目が鋭くなった気がしたが?

 

「あなたは、キャサリーナちゃんのチャームポイントにメロメロでしたからな。街の外でなければ会えないのが難点ですが」

 

……ん? 街の外!? って事は……。

 

「ええ……あの(つぶ)らな瞳が……」

 

「あなたは何者ですかな? 管理人ではありませんね。正体を現しなさい!」

 

ゼスタさんが今度は、厳しい表情を見せておじいさんを睨みつけている。

 

「あ……いや……私は……」

 

狼狽(うろた)えるおじいさん。この人は偽物って事か。けど、どうやって分かった?

 

「キャサリーナちゃんのチャームポイントは、頭の角ですよ。彼女はオーガーですので」

 

「「「「……………」」」」

 

一同、無言。オーガー―――日本では゛鬼゛と称される人型のモンスター。一般的に凶暴な性格をしているらしい。

 

「分かるかあああああ!!!」

 

おじいさんが叫び声を上げながら、アメーバ状になったと思ったら、一瞬で短髪で色黒の男の姿へと変貌する。

 

「……はっ!? もしかして、あのおじいさんが、偽物だと踏んでカマを掛けたのですね!」

 

あまりの出来事に、一瞬現実逃避をしていためぐみんが、ゼスタさんに向かって力強く言葉を発していた。

 

「いえ、管理人は本当にオーガー好きです。最も私は、オークでもオーガーも何でもいけますが」

 

……アクシズ教徒スゲーな。犯罪しなきゃ何でもありとは聞いてたが、ここまでとは思わなかった。

 

「それで、貴様は何者だ? 一瞬で姿を変えた事から察するに人間ではあるまい!!」

 

目の前の男に、剣を構えて警戒するダクネス。構えてる姿は騎士そのものなんだが、剣を振るったところで攻撃が……なあ。

 

と、短髪の男が俺の方を向き、

 

「お前、ウォルバクの言っていた冒険者か? 黒髪で緑の瞳、服の上からでも分かる鍛え抜かれた体。……間違いないな」

 

「……人違いかもな? そいつなら、お前の背後で魔法を撃つ準備してるぞ。振り向いてみろ」

 

短髪の男が後ろを振り向いた瞬間、

 

『Chain Bind』

 

チェーンバインドで拘束し、身動きを封じる。それを見ていた面々は、

 

「……ユウ、今のはちゃんと名乗るべきです。カズマじゃないんですから、もっとこう堂々とですね……」

 

「最近、ユウさんが凄く黒いんですけど! カズマさんみたいになったら、心配なんですけど!!」

 

「やはり、この男……根が非道かもしれん」

 

好き勝手言ってる女性陣である。ゆんゆんは意見するのがマズいと思ったのか、黙っている。

 

「なあ、俺って何でこんなに言いたい放題されてるんだ?」

 

「俺が知るか!」

 

だってさ、目の前の相手は拘束しておけばいいし、それよりも浄化の方が先だと思ったんだ。そう思いながら、拘束している男をこちらに引き寄せようとすると、

 

「なっ……!?」

 

鎖状のバインドが相手の体に食い込み、ついには輪切りになってしまったが、すぐに体が一か所に集まって元の姿に戻る。

こいつ……姿を変えるモンスターじゃなくて、スライムの一種か!?

 

「……すまん、油断した。あいつ、多分物理攻撃とか効かない奴かも……」

 

その場にいる全員に注意を促し、臨戦態勢に入る。

 

「今の不意打ちは悪くない。相手が俺じゃ無ければ、抜け出すのは困難だったはずだ」

 

「できれば、浄化が終わるまで、あのままでいて欲しかったけどな。つーか、アンタは卑怯だの何だのとは言わないんだな?」

 

「命のやり取りをしているのだから当然だ。改めて名乗らせてもらう。魔王軍幹部、デットリーポインズンスライムの変異種、ハンス!」

 

……この敵さん、ウチのメンバーより俺に理解がある人(?)かもしれない。

やっぱりスライムの一種。しかも名前から察するに毒持ち。触れるのも好ましくない上に、物理攻撃がほとんど効かない。その上、炎熱なんて使った日には毒ガスが出かねない……か。

 

「一応聞いとくけど、俺とそっちのアークプリーストなら浄化は時間が掛からずにできるから、諦めてくれる気はないか?」

 

「ウォルバクにも言ったが、このために相当な時間を掛けたんだからな。ようやく忌々しい教団を消し去れるってのに引き下がれるか!」

 

魔王軍幹部にここまで恨まれてるアクシズ教団って……。前に攻めた時、何があった?

 

「お前は優しい奴だな。話し合いで終わらせようとするのは悪くは無いけど、ここはやるしかない!」

 

珍しくカズマがやる気を出してちゅんちゅん丸を抜いて構えている。いつもなら一番戦いたがらない筈なのに……?

 

「やる気なのは良いけど、アイツには絶対触れるなよ? 毒持ちの上に取り付かれたら溶かされる」

 

「スライムってのは雑魚だよな? 雑魚だろう?」

 

「んなわけねーだろ! 昔、湿地帯でバカでかいアメーバっぽいのと戦った事があるけど、かなり厄介だったんだからな!!」

 

スライムを雑魚だと思っていたらしいカズマが、一目散にダクネスの後ろに身を隠している。今いるメンバーで有効打を与えられそうっていったら、俺とゆんゆんだけだな。そういえば……?

 

「戦う前に一つ良いか? さっきアンタが化けてたおじいさんだけど、もし近くにいるなら避難させたいんで、こっちに渡してもらっていいか? 今更人質取ろうなんて思わないだろ?」

 

「食った。俺はスライムだ。食べる事が本能だぞ。そもそも食った相手じゃないと――」

 

『Freezing Saber』

 

「……えっ!?」

 

驚愕していたのはハンスか、それともその場にいたメンバーかは分からないが、ほんの一瞬でハンスの右腕が発射した魔力刃により斬り飛ばされ、瞬時に凍り付く。

 

「なあ、そのおじいさんさ……。別にアンタに危害を加えたわけじゃないんだろ? 殺す必要はあったのか……」

 

口調は静か。だというのに、その場にいる全員が一歩も動けずにいる。

 

「さっき自分で言ってたよな? 命のやり取りをしてるなら当然って。おじいさんはどうだったんだ?」

 

 

 

 

――そうそうないけど、悠君も本気で怒らせると怖いからなー。

 

八神はやてが最初にアクセルを訪れた際、雑談の中で何気なく聞いた一言。それをカズマは思い出していた。

今までも口調が荒くなるのは、何度も目にした。自身に攻撃が向いた事もある。今回は、そのどちらでも無いというのに、少しでも動けばこちらに刃が向く。そう思わせる何かがあった。

めぐみんとゆんゆんは足が震えてしまい、それぞれ近くにいるアクアとダクネスの腕を掴んでいる。その中にあってゼスタのみ、悲しげな瞳でハンスと対峙する少年を見つめていた。

 

 

 

 

 

「……くっ!? 氷系魔法の使い手か……。とっとと仕事を終わらせて帰らせてもらうぞ!」

 

杖を構え、砲撃の準備に取り掛かる。狙うは4か所。デュランダルの魔法発動速度なら、魔力さえ一気に込めればチャージ無しで連続で撃つ事も可能。狙いを澄まし、撃ち出した砲撃だが……、

 

「フッ……。何処狙ってる! 明後日の方向とはな。このまま他の源泉に……」

 

狙いが外れたと思い、安堵するハンス。そのまま一気に源泉まで駆け抜ける気でいたらしい。しかし、

 

「……リフレクトカノン・グレイシアシフト」

 

先に撃った4発は、予め配置して置いたリフレクターにより反射され、俺自身から放たれたもう一発の砲撃の計5発がほぼ同時に命中し、ハンスは物言わぬ人型の氷像と化していた。

そのまま、みんなの所へ行き、

 

「アクア、早く浄化を終わらせよう」

 

「えっ……!? ええ、そうね……」

 

俺を見て、戸惑っているアクア。他のみんなも少し怯えているように見える。

 

「アイツ……、倒したんだよな?」

 

「いや、凍らせて身動き取れなくしただけだ。アレを殺すとなると、かなりの手間が掛かる。毒持ってるから、周りが汚染しても良いように誰もいない土地にでも行って、燃やし尽くしたりしないと駄目だろうな」

 

何とかカズマだけは口を開いて、ハンスの状況を確認している。冷や汗をかいて後ずさってはいるが。

 

「……こうなってしまった以上、我々にできるのは彼の冥福を祈るのみです。あまり気を落としてはなりません」

 

俺にだけ聞こえるくらいの小声でゼスタさんが呟いていた。分かってはいるが、やりきれないものはやりきれない。

 

俺とアクアが浄化を開始しようとしたその時、凍結しているハンスの体からひび割れの様な音が聞こえ……、

 

「でけえよおおお!」

 

それは屋敷ほどもある巨体を持つ猛毒のスライム。おそらくはハンスの本来の姿だとは思うが、もうなりふり構わずと言ったところなのだろう。あっちも本気でやり合う気のようだ。もう一度ハンスを見据えて臨戦態勢をとり、魔法の準備に取り掛かる。

 

 

 

 

 

 

騎士と少女が街を去ろうとしていた矢先、異様に街中が騒がしくなっていた。行き交う人々の言葉に耳を傾けると、汚染された湯が沸きだしたという。本来なら自分達の目的を考えれば、黙って去るべきではあるのだろうが、ここに滞在していた時間は、いつ以来か分からない程の安らかな時間を過ごさせてもらった。ならせめて、その原因を作っている輩を捕らえるのも悪くない……。そう考えて空から源泉の湧き出る山へと向かっている最中、彼らを目にした。

この街に滞在している間、ほぼ毎日顔を合わせた少年とその仲間達。様子を見ると汚染された源泉の浄化をしているらしい。これならば、自分達が手を出すまでも無い。そう考えると同時に、少年の持っている杖に目を奪われた。

氷結の杖――かつて数多の悲劇を引き起こしたロストロギア『闇の書』。それを封じるために製作されたデバイスである。本来の所持者では無いのだろうが、その性能を十全に引き出し、犯人とおぼしき男を凍結させていた。

しかし、安心したのも束の間。男が巨大なアメーバ状へと変化し、破壊を繰り返している。対する少年達は、

 

――黒髪の少年は、仲間のフォローをするために、魔法を発動できずにいる。

――茶髪の少年は、逃げ惑うばかり。

――青い髪の女性は、泣きながら茶髪の少年に詰め寄っている。

――金髪の女性は、なぜか鎧を脱いでいる。

――とんがり帽子の少女は、魔法を撃とうとしているが、止められている。

――おさげの少女は、氷の魔法を使っているが、決定打にならない。

 

ここまでまとまりが無い集団も珍しい。

騎士はふと自分の横に佇む紫髪の少女に目を向ける。かつての部下の娘であり、母親の面影を持つ少女。少年達に一日だけこの子を預けた日の、彼らとの別れ際。

 

――……ありがとう。楽しかった。

 

そう少女は口にした。自分と行動を共にしてから、そう思わせる事は何一つ無かったはず。ならば彼らには、その礼をしなければならない。たとえ、その先に――。

 

「ルーテシア、少し寄り道をする」

 

「……うん」

 

騎士の言葉を聞いた少女が、少しだけ……、ほんの少しだけ、微笑んでいるように見えた。

 

 

 

 

「ユウ! あのすっごい氷の魔法で、倒せない!?」

 

「エターナルコフィンなら、魔力が足りない! チャージさえできれば、一気に凍らせるのも可能だから、上手いこと引き付けて欲しい」

 

「だったら私が、引き付ける! その隙に――」

 

逃げ惑いながらも、話がまとまりかけた瞬間、

 

「みんな伏せろ!!」

 

何かが来るのを感じ、咄嗟に指示をだした。全員それに従い、伏せたのとほぼ同時に、周辺の木々を薙ぎ倒しつつ、轟音を響かせながらハンスへ向かって衝撃波が駆け抜け、その巨体を後退させていた。

 

新手か!? ここで挟み撃ちはまずい。どっかで体勢を立て直さないと……。

 

最悪の事態を想定して、行動に移そうとしたその時、

 

「助太刀はいるか? 少年」

 

そこには、自身の相棒である槍を携え、威風堂々とした一人の騎士の姿があった。




フリージングセイバー(Freezing Saber)
氷結付与した斬撃を飛ばす魔法です。

リフレクトカノン・グレイシアシフト
氷結付与の砲撃を4発を先に撃ってリフレクターで反射させると同時に、自分でも一発撃ち計5発の砲撃をほほ同時に、多方向から撃ちこむ魔法です。
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