この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
キャベツ狩りのクエスト終了後、カズマは《片手剣》と《初級魔法》のスキルを覚えた。
《片手剣》はその名の通り片手剣の扱いが上達するスキル。《初級魔法》は火、水、土、風などの簡単な魔法が使えるようになるのだそうだ。
その中でも目を見張ったのは……。
「……うーん。俺も初級魔法修得しようかな……?」
メンバー全員が俺の発言に驚いた顔をして、
「何でお前が初級魔法修得する必要があるんだよ」
「そうですよ。私が言うのもなんですが、中級魔法から修得するのがセオリーです。それに、ユウなら中級魔法すら修得する必要はありません。爆裂魔法を修得して、共に爆裂道を歩もうではありませんか!!」
「初級魔法は殺傷力のないものばかりだ。修得したところで、あまり役に立つとは思えんが。それよりも、もう一度私を敵陣のド真ん中で拘束してくれ!」
「カズマじゃあるまいし、スキルポイントの無駄使いよ?」
ドMクルセイダーから聞き捨てならない言葉も聞こえてきたが、ここは無視して話を続ける。
「殺傷力はこの際いいんだ……。氷系の魔法が欲しくてさ。俺は属性で言うと火しか使えないし、その他は純粋な魔力での攻撃しかできないからな」
……そう、俺が欲しいのは『氷結』の技能である。ミッドチルダでは先天的に魔力変換資質を持つ者以外では、魔力を『炎熱』、『電気』などに変換する技能は修得が困難であり、『氷結』に至っては変換資質を持つ者も少なく、自力修得に関しては輪を掛けて難しいものとなっている。
俺自身も氷結変換の訓練を積んではいるが、まだ実を結んでいないのが実情だ。それを、威力はともかくスキルポイントがあれば簡単に修得できるんだから、こちらの冒険者は反則だとも感じる。管理局がここを見付けたら歴史が変わるんじゃないかとも思う。
こちらの魔法でも実際に自分で使ってみれば、氷結変換修得の糸口になるのではないかと思ったのだが……。
「バインドでの拘束の上に氷攻めだと……!? 修得したら是非私の体で試してくれ……!」
よし、やめよう。絶対にやめよう。下手にスキルを覚えたら、この変態クルセイダーが何言い出すか分かったもんじゃない。やっぱり頑張って自力で修得しよう。
「安心しろ、ダクネス。もう修得する気は無くなったから。氷攻めならカズマに頼め」
「なんでそこで俺に振るんだよ!」
俺とカズマがそんなことを言い合っていると、
「二人ともその格好どうにかならない? 折角のファンタジー感が台無しよ」
アクアからそんな言葉が発せられた。
確かに、カズマはジャージ、俺は管理局の制服。もっとも俺のほうは上着も脱いで、ネクタイも外し結構ラフな格好にはなっているが、確かに服はこれしかなかった。そろそろ服を何着か買ってもいいかもしれない。
次の日、服を買って冒険者ギルドに顔を出すと。
「……ほう、二人とも見間違えたではないか」
俺たち二人の格好にダクネスが感想を述べていた。カズマはこの世界の服の上に皮製の胸当てと金属製の篭手、金属製の胸当てを装備している。一方俺はというと、服のみで特に防具を装備していなかったため、
「ユウは防具を装備しないのですか? 後衛職でも防具は大事ですよ」
めぐみんが首を傾げながら、そんなことを口にした。
「俺の場合防具は大丈夫。そこらへんはどうにかなるから」
「つまり、俺の防具はお前だ! 盾代わりとして使ってやるから覚悟しろ! ……とそういうことだな!!」
……ダクネスにツッコんでやりたいが、そんなことすると余計面倒なことになりそうなので、スルーする。なんかダクネスといると、どんな事をしてもドツボに嵌っていってるような気がするが、考えると落ち込みそうなのでやめておこう。
……そういえば、みんなに見せたことなかったっけ。よく考えたらアクセルに来てからバリアジャケット着てないな。
カズマが装備も整え、スキルも修得したということでクエストに行くことになったのだが、そのクエスト選びで難航していた。当初ダクネスはジャイアントトード狩りを提案していたが……、
「「カエルはやめよう!」」
出会ったときに、頭からカエルに捕食されたアクアとめぐみんがキッパリと拒否した。まあ、あれは仕方ない。成す術もなく喰われかけたら誰だってトラウマになるだろうな……。
カズマが楽に達成できるクエストがいいというので、俺、ダクネス、めぐみんで掲示板に行き、手ごろなクエストを探すことになった。
「手ごろたってどんなクエストがいいんだろうな? カエル討伐は反対なんだろ」
俺の問いかけに対して、
「私は多数の敵に蹂躙されるようなクエストがいいのだが……。カエルに捕食されるのも悪くはない!!」
「我が爆裂魔法の威力ならどんな相手であろうと、手ごろなクエストとなるでしょう! できれば強敵に打ち込んでみたいのです。それとカエルはやめましょう」
それぞれ、ダクネスめぐみんが答える。二人の意見は真っ二つに割れてはいるが、俺もアクアがカエルに呑まれて粘液塗れで、生臭い匂いを漂わせるのも遠慮したいところだ。
二人とも自分の趣味でクエスト選ぶのはどうかと思う……と言い掛けた時、一枚のクエスト依頼が眼に入った。
「なあ、この『ゾンビメーカー討伐』ってのは、どんなクエストなんだ? 見たところ難易度も低そうだけど」
二人が少し哀れんだような顔で、質問に答えた。
「ゾンビメーカーとは悪霊の一種で、自らは質のいい死体に乗り移り、手下のゾンビを操るモンスターだ」
「ユウもカズマほどではありませんが、一般常識に欠けている節がありますね。ゾンビメーカーを知らないとは、何処から来たのですか?」
俺のいたところじゃ、ゾンビだのは空想上の産物だったんだよ! なんて言えるわけはなく、その場は適当にはぐらかしたが……。 まあ、霊体に関しては無限書庫の書物防衛の霊体とかがいたので、普通に見た事があったりする。
しかし、ゾンビってことはアンデッドだよな……? アンデッドて聞くと、なんかイラっと来るが何でだ?
「しかし、これならアクアのレベル上げに丁度いいかもしれん」
アンデッドに対する謎のイライラに対して悩んでいる俺にダクネスが声を掛けてきた。攻撃魔法がないプリーストは一般的にレベル上げが難しく、そんなプリースト達が好んで狩るのがアンデッドなのだそうだ。プリーストが扱う神の力がアンデッドは逆に働く。回復魔法を受けると体が崩れるらしい……。
「なら、このクエストでいいんじゃないか? 二人の所に戻ろう」
カズマとアクアの所に戻ると、アクアが大泣きしていた。何があったんだか……。
「なんだ、カズマにスティールでもされたか? 何だったらもう一度釘刺しておくけど……」
「……俺は何もしてないからやめてくれ。お前のあれは自分が本当に悪かったと思えてくるから……」
俺とカズマの会話をアクアがチラチラ横目で伺っていた。
何だ嘘泣きか……なら気にすることもないか。
その後、クエストの内容を告げ、俺たちはゾンビメーカーが出没する共同墓地へ出発した。
「……冷えてきたわね。ねえカズマ引き受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね? 私、そんな小物じゃなくて大物のアンデッドが出そうな予感がするんですけど」
アクアがポツリと呟くと、カズマはそれはフラグだのイレギュラーが起こったら即刻帰る、とも言っていたが、もしかしたらそれは正しいかも知れない。一応俺もカズマに対し。
「カズマ、このあたりの空気がピリピリしてる。本当にイレギュラーが起こったら墓地から、すぐに逃げろ。嫌な予感がする……」
いつもと違う、というより”魔導師”としての俺の言葉に驚いたのは、カズマだけではなかったようだ。その場にいた全員が警戒を強めていた。
……こんな空気の時は何かが起こるんだよ。……マズいかもしれない。
「カズマ、敵感知には引っかからないか?」
「……いるぞ一体、二体……三体、四体……?」
数が多い……。四体程度ならイレギュラーというほどでもないが……。
墓場の中央に眼を向けると、青く光る魔法陣とその隣に黒いローブの人影が見えた。
「……ゾンビメーカー……ではない……気が……するのですが……」
めぐみんからそんな言葉が漏れたが……。
……あれはそんなものじゃない。何かもっと危険なものだ……まともにぶつかれば、全滅させられるほどの力を持った『何か』だ……!
今まで次元犯罪者や『ロストロギア』に関わってきた俺自身の経験と勘がそう告げてた。
「みんな逃げろ! ファルシオン! セットアップ!!」
全身紺色の服とコートのような白い外套のバリアジャケットを纏い、
『ロードカートリッジ』
『フレイムバレット』
カートリッジをロードし、自身の周りに『炎熱』を付与した魔力弾15発を展開した。
……どうする? ……誘導弾でけん制しつつ、トラップ型のバインドの場所まで誘導して動きを止めているうちに撤退するか……? うまく拘束できたとしてもバインドがどれだけ持つ……? 『炎熱』付与ならアンデッドもダメージは与えられるか?
そうして目の前の相手に対して、撤退の算段を考えている最中、
「リッチーがのノコノコと現れるとは不届きなっ! 成敗してやるっ!」
そう叫びながらアクアがリッチーと呼ばれた人影に突っ込んでいった。
リッチーってアレだよね。ゲームあたりだと魔法を極めた魔法使いが魔道の奥義でアンデッドになるとか言う、ノーライフキングとかってやつだっけ? そんな超大物モンスターがなんで……。
アクアに成す術もなく虐められているんだろう……!?
アクアがリッチーの作った魔法陣を踏みつけ、それを止めようと泣きながらしがみついているリッチーの図である。どっちが悪役か分かったもんじゃない。
……あっれぇー!? ……おっかしいなぁー? あのリッチーすごくヤバそうな感じがしたんだけどなー。対アンデッドのスペシャリストとは聞いていたけど、カエルに簡単に喰われるようなアクアにどうにかできる相手じゃないと思ったんだけど、勘が鈍ったのかなぁ……?
そんな事を考えている俺ではあったが、
「ユウ、さっきの”せっとあっぷ”とは詠唱ですか? 一瞬で着替えたのは転送の魔法を使ったのですか? 服自体にも魔力を感じますが、この服は魔道具なのですか? あとユウの杖は喋るんですか? 杖がガシュガシュいって魔力が上がりましたが、どういう仕組みですか? 私の杖でも同じ事ができますか?」
紅玉の様な瞳をいつもより一段と輝かせためぐみんに質問攻めを受けていた。どうやらバリアジャケットやカートリッジシステムがめぐみんの琴線に触れたらしい……。一から説明すると時間が掛かるし、今はアクアとあのリッチーをどうにかしないといけないからな……。よし、この手でいくか。
「少し静かにしなさい。そんな子供みたいだと、まだまだロリッ娘は卒業できないぞ?」
ひときわ”ロリッ娘”の部分を強く発音し、めぐみんに言い放った。
「……ロリッ娘!? ユウまで我をロリッ娘と……!?」
めぐみんがフラフラと座れるくらいの石まで行き、ペタンと席に着く。
「……ロリッ娘……か」
……すごい落ち込みようだな……あとでちゃんと謝っておこう。とりあえず、めぐみんの質問攻めから逃れることができたので、アクアとリッチーのところに行こう。
「……カズマ、結局どういうことなんだこれ?」
要約すると、あのリッチー――ウィズは共同墓地ので碌に葬式もしてもらえない迷える魂たちを天に返していたんだそうだ……。ゾンビが沸くのはウィズの魔力で死体が反応してしまうかららしい。結局、ウィズを退治するわけにも行かず、アクアが定期的に墓地を訪れて浄化することになった。その帰り道で……。
「ユウ、さっきウィズの前に立ちはだかった時、雰囲気が全然違っていたんだが?」
「ウィズが相当ヤバそうな感じがしたからな……完全に本気になってた……。結果的に勘違いだったみたいだけど」
ダクネスからの質問に答えると、
「そんなことはありませんよ。リッチーは強力な魔法防御、魔法の掛かった武器以外の攻撃の無効化。相手に触れただけで様々な状態異常を引き起こし、その魔力や生命力を吸収する伝説級のアンデッドモンスター……むしろ”逃げろ”と言った判断は正しいです」
めぐみんからリッチーの能力に関しての話を聞くと、あの時の勘は正しかったと再認識する。じゃあ、なんでアクアの『ターンアンデッド』が効いたんだろう?
「それよりも、さっき私を”ロリッ娘”呼ばわりしたのですから、質問にはちゃんと答えて貰いますよ……?」
「そうよ! 私、あんな特典知らないわ! あれって何!? やっぱりチート持ちじゃない!」
めぐみんとアクアからそんな言葉が飛び出した。
「そもそも特典ってなんだよ? こいつはそんなんじゃないぞ……。あの服だって魔力で生成してる防護服だし、めぐみんが”ガシュガシュ”とかいってた奴は一時的に魔力を上げるための機能ってだけだ。俺のいた所じゃ珍しいもんじゃない」
カズマとアクアは俺の言葉に驚いたようだったが、何でだろう?
「では明日にでも他の質問に答えて貰いましょう。他にも色々聞きたいことがあるのですよ」
こうなったら仕方ない。重要な所だけは話さないようにするしかないか。管理局だのロストロギアだのと言っても分からないだろうし……。
そんな事を考えているとダクネスから……、
「そういえばゾンビメーカーの討伐はどうなるのだ?」
「「「「あっ」」」」
……クエストは失敗に終った。