この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
ぼっち少女の爆弾発言
「……誕生日か」
カズマ、めぐみんと一緒に街を歩きながら、ウィズ魔道具店へ向かっている。
「不本意ながら、ゆんゆんにも私の誕生日を祝ってもらいましたので、何かプレゼントをしなければなりません。確かもう過ぎているはずですが、それでも何も無いよりは良い筈ですから」
ゆんゆんも水臭い。確かにもうすぐ14歳とか言ってたが、ちゃんと教えてくれれば、お祝いだってしたのに。
「じゃあどうする? 今度はめぐみんがケーキ作ってお返しするか?」
「それも良いですが、冒険者なのですからクエストで役立つ物を送るのも良いかも知れません」
そんなわけで、懇意にしていると言って良いウィズ魔道具店を目指していた。
「お前は特にちゃんと選ばないと駄目じゃないのか? 弟子みたいなもんだし」
「つってもな。ゆんゆんは元々優秀だから、そこまで苦労してるわけじゃないけど」
確かにカズマのいう事にも一理ある。……そういえば、訓練生来てる時は顔出さなかったから、何かあったのか?
雑談と考え事をしているうちに、目的地に到着し、入り口のドアを開けると、
「いらっしゃい。何かご入用かしら?」
俺達を出迎えたのはウィズでもバニルでもなく、エプロンで身を包んだ二人目の自称女神のウォルバクさんだった。
「……ウォルバクさん、どうしてこちらに?」
「魔王にもう働きたくないって言ったら、なんちゃって幹部でも良いから結界維持だけはできないかって言われたのよ。ウィズもここにいるのは別に構わないって言ってくれて、お世話になってるわ」
……いや、でも働いてますよね。中二病は完治したんだろうか?
「……最低限のお金を稼がないと、温泉にも行けないのよ。私は女神だから食べなくても良いけど、好きな事はしたいしね。世の中は世知が無いわ。本当に」
魔王軍の現幹部2人と元幹部1人がいる魔道具店とは、この世界最強の魔道具店ではなかろうか。というかまだ怠惰の女神を名乗ってるんですね。
と、奥の方からウィズが顔を出したので、挨拶がてら雑談をしていると、
「そういえば、カズマさんの本名ってサトウカズマさんですよね? ウォルバクさんが気にしてましたよ」
「そうだけど、どうした?」
カズマの名前に何があるんだろう? ここに来てから、ほぼ最初に出会ったのがカズマだったので、あまり気にはしていなかったが。
「知ってる? 遠い昔のおとぎ話に出てくる勇者の名前もサトウっていうのよ」
……えっ!? カズマって勇者の子孫なのか? って事はカズマはここの世界の住人なのか……。昔々に流れ着いた俺みたいのが、勇者になっちゃたとか?
「カズマは勇者の子孫なのですか!? もしかして勇者にしか使えない武器や魔法があるのでは……!」
目をキラキラさせてカズマを見ているめぐみんに、
「俺の必殺技がスティールだって知ってるだろうが! 何でそうなるんだよ!!」
真っ向から否定しているカズマであった。
「いや……ほら、その勇者だってスティールで魔王の武器奪ったり、ドレインタッチで魔王の魔力と生命力奪いつくして勝ったのかもしれないし」
「……それはもう勇者というより、外道では……」
”勝てば官軍、負ければ賊軍”なんて
「ウィズ、コイツを武器か防具に組み込むのって可能か?」
「これですか? でしたら、アクセルの鍛冶屋では難しいかも知れません。魔法に長けた鍛冶師ならもしかしたら……」
あるものをウィズに見せて、返って来た言葉がこれである。冒険者っぽいプレゼントと聞いて、真っ先に思い浮かんだのだが、アクセルでは難しいらしい。それに関しては、もう少し考えよう。
「あと、カートリッジも貰ってく。代金は大丈夫だよな?」
「ええ。バニルさんから伺ってます。先方もこれからも
この世界に漂流して数ヶ月目にして、やっとカートリッジ事情が解消された俺であった。使い過ぎも良くはないが、無いなら無いでいざって時に困るのである。
とりあえず屋敷に戻り、ゆんゆんの誕生日パーティーについて、みんなと相談していると、玄関の扉が開く音が聞こえ、
「おっ! 顔見せないから心配してたけど……、どうした?」
どことなく、表情が曇っているゆんゆんだった。何かを言いたそうな雰囲気ではあるのだが、誕生日の話をしづらくなって悩んでいるのだろうか? なのでここは、こっちから聞いてみるとしよう。
「今、ゆんゆんの誕生日パーティーのプラン考えてたんだけど、プレゼントで欲しいのとかあるか?」
「あ、あの……突然こんな事言うのもなんですけど……!」
やっぱり欲しい物があったらしい。紅魔の里では一人でいる事が多かったそうだし、プレゼントの希望を言うのも一苦労なんだろう。
そして、ゆんゆんが意を決したような瞳でもって。
「私……! 私……!! ユウさんの子供が欲しい!」
ゆんゆんのあまりにもありえない言葉を聞き、カズマは紅茶を吹き出し、めぐみんとダクネスは口を開けて固まっている。そしてアクアは、
「やっぱりパーティーなら、私の指芸、『新型デストロイヤーMK-Ⅱ改ver.3』の出番だと思うの!」
色々ツッコミどころ満載のネーミングであるが、アクアは話自体を聞いていなかったらしい。
当の俺はというと、
「みすゆんゆん、わんもあぷりーず」
普段はもっと
「ユ、ユウさんの子供が欲しいって言いました!」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。確認と復唱は重要です。思考回路フル稼働で、仮定をいくつか挙げる。
①カズマかアクアが仕掛け人のドッキリ
②これは俺の知らない、この世界独自のコドモという何か
③さっきウィズ魔道具店にいなかったバニルが化けてからかっている
④言葉通り
ここまで0.2秒。戦闘中でもないのに脳内フルドライブ状態の俺は、次の行動に即座に移る。
「カズマ、アクア……。これは何だ? タチの悪いドッキリか? 看板を隠してるならとっとと出せ」
「何の話だ? 看板って……」
紅茶をダラダラこぼしながらも、即座に答えるカズマ。アクアは芸に考えがいっているらしく、話を聞いていないが、カズマの様子を見ると嘘は言っていないようだ。なら次だ。
「めぐみん、ダクネス。”コドモ”ってので、何か思い当たる物はあるか? お子さん以外で」
「そ、そんな物はありませんよ! というか何でそんな事を聞くのですか!?」
「その通りだ! 子供というと子供以外ありえない!!」
どうやらこれも違ったらしい。次の検証に行う前に部屋に行き、ぴよぴよ丸を持って居間へと戻り、そのまま刀を抜いて構える。バニルなら例えば、良い雰囲気にでもなったところで、”残念! 吾輩でした! フハハハハハ!!” などと言って悪感情を食おうとしそうだ。
「おい、何でお前……刀抜いてるんだ!?」
「……バニルが化けてんなら、ぶった斬っておこうと思って。コイツなら一刀両断できる……!」
もし、本物ならゆんゆんが斬れるはずはないので問題はない。そう思い、斬ろうとしたのだが、
「も、もしかしてこの場で、服を斬るんですか!? そ、その……まだ明るいですし……。みなさんの見てる前だと……」
少し涙目になって顔を真っ赤にしながら、俺を見つめるゆんゆんであった。
これでバニルが化けてなかったら、俺……ただの変質者じゃねーか! いや待て! これもヤツの演技か!? それとも……。だったら、
「アクア、退魔魔法をゆんゆんに向けて撃ってくれ! バニルだったらそれで退治できる!!」
「何言ってるか分からないけど、悪魔臭くもなんともないから、悪魔なんていないわよ」
……なんてこったい。あと残っているのは一つだけじゃねーか!!?
「ゆんゆん、落ち着け! とりあえず落ち着こう!! 俺としては、そんなのは考えてないっていうか、そのうちいなくなる人間だから! こっからだと仕事場通うのは不可能とまでは言わないけど、結構大変だから!!」
一番無いと思っていた仮定が真実だと知ってしまい、動揺してしまっているらしい。どうやって説得すれば良い!?
「二人共、少し落ち着いてください! 特にゆんゆんは、たまに突っ走って目の前が見えなくなる時があります! 一体何がどうなっているのか、順を追って説明してください!」
「だ、だってだって!! 私とユウさんが子供を作らないと世界が! 魔王が………っ!!」
めぐみんに肩を掴まれ、揺さぶられながらも、泣きそうな顔で叫ぶゆんゆん。ってか魔王? 誕生日プレゼントじゃなくて?
深呼吸して、精神統一をしてから、
「すまん、めぐみん。俺は落ち着いたから、ゆんゆんをどうにかするか。悪いが羽交い絞めにして、動きを封じてくれ」
「は、はい! 分かりました!!」
俺が冷静になったのが分かったのか、即座に言う通りにして、ゆんゆんを羽交い絞めにしてくれた。
「……よし、ちょっとキツイのいくぞ。目を瞑れ」
ゆんゆんが目を閉じるのと同時に、彼女の額へ狙いを定めて。
バチンッ!!
そりゃあ良い音が響いていた。この会心のデコピンでのダメージは相当であったらしく、ゆんゆんは声も出せずに額に手を当て、
「あ、あれは痛いわ……」
「かなりいい音したけど、大丈夫か……」
「で、出来れば、私にもやって貰えないか? 連続で構わない!」
「確かに静かになりましたが、やりすぎではないですか?」
とりあえずの荒療治だったが、ダクネス以外が顔をしかめていた。ダクネスに連続デコピンなんてしたら俺の指が壊れます。マジで。
ゆんゆんも無事復活し、全員腰かけて事情を聞こうとしたところ、見せられたのは一通の手紙であった。それを読むと、
「『……この手紙が届く頃には、きっと私はこの世にいないだろう』……?」
これは紅魔族の族長、つまりはゆんゆんの父親が彼女に宛てた手紙らしい。手紙には紅魔の里の近くに魔王軍の軍事基地が建設された事、魔法に強い抵抗を持つ魔王軍の幹部が送られてきた事、そして族長として、刺し違えてでも幹部を倒すと覚悟が込められた内容であった。あと、最後の紅魔族としてその血を決して絶やさぬよう、なんて一文にめぐみんが激昂していたが、そこは置いておく。
「穏やかじゃないな。魔法に抵抗あるって事は、紅魔族の天敵って事か?」
「その……もう1枚あるので、そちらも読んでください」
ゆんゆんの様子から察するに、手紙の2枚目の方が重要な内容が書かれているらしい。そちらに目を通すと、紅魔の里が壊滅した後、魔王を討つために修業を重ねていたゆんゆんが伴侶に出会うといった内容が記載されていた。これについては、紅魔の里の占い師が、未来を占った結果らしい。問題はその男性の特徴であるが、
「『見た事の無い魔法と喋る杖を持ち、かつてゆんゆんが師と仰いだ男』……?」
その一文を読み終わると、その場の全員が俺に視線を向けていた。うん、どう考えても俺だよな。
「『……やがて月日は流れ。その男との間に生まれた子供はいつしか少年と呼べる年になっていた。その少年は、冒険者だった父の跡を継ぎ、旅に出る事になる。だが、少年は知らない。彼こそが、一族の敵である魔王を倒す者である事を………』」
「……なるほど」
「「「「ッ!?」」」」
俺は一応納得していたが、それ以外の人間は息を呑んでいた。
「お、お前達の子供が魔王を……」
カズマは俺とゆんゆんを相互に見ながら、納得したような表情を見せていた。
「これは……思ったより事態が切迫してるな。めぐみん、確か紅魔族の占い師ってのは、かなりの精度で当たるんだよな?」
「そ、その通りです。ですので、アルカンレティアの警察でも有力情報として扱われましたし」
って事は、マズいな。これは……、これから相当マズイ状況になる。
「……ユウ、頑張れよ! 何だったら、今日からゆんゆんにはお前の部屋に泊まって――」
カズマがとんでもない事を口走っていたので、ぴよぴよ丸の切っ先を向けて黙らせる。斬れないのが分かっていても、本能的に
「少し黙れ、カズマ。俺が言ってるのはそっちじゃない。お前等だって、このまま行けばタダじゃ済まないかもしれない」
「それってどういう……?」
アクアが不安気な表情でもって、俺に問いかける。それはカズマ達も同じで、詳細を聞きたいような雰囲気であった。
「……もしかしたら、これから先……、俺とゆんゆん以外が全滅するかもしれない」
「「「「!!!?」」」」
全員、驚愕の表情を浮かべていた。続けて、
「手紙の中にめぐみんの名前が無かったろ? ならその占いでは、ゆんゆん以外の紅魔族は全滅してると言っていい。仮にめぐみんが死んで、他が無事でいられると思うか?」
「俺はしょっちゅう死んでるけど、ダクネスはどうなんだ? コイツの硬さで簡単に死ぬわけないだろ!!」
「ダクネス相手だって、別に戦うのは最低限で良い。捕まえた後、そのまま放置して餓死させるなり、重りを括り付けて海や湖にでも沈めればそれで終わりだ」
一同、恐怖とでもいうのだろうか。俺の説明を聞いて、パーティー全滅が現実味を帯びてしまったようだ。
「捕らえられ……何の抵抗もできずに……殺される……だと!? ……くっ!」
そのシーンを想像して、身を震わせながら顔を紅潮させている変態は放っておこう。
「……ついでに言うと、俺も五体満足でいる可能性は低い。占いの内容だと、修業してるのはゆんゆん一人だし――」
「ちょっと待ってください。……こちらの手紙には、最後に『【紅魔族英雄伝 第一章】著者:あるえ』とあるのですが」
めぐみんの思わぬ一言に固まる俺達であった。アクアが2枚の手紙を見比べて、
「どれどれ? あら、1枚目の手紙と字が違うわね。1枚目の手紙がゆんゆんのパパの手紙かしら。2枚目の手紙は、『追伸 郵便代が高いので族長に頼んで同封させてもらいました。二章ができたらまた送ります』って……」
「ああああああああああああああああああーっ!!」
ゆんゆんが突然手紙を奪い取ると、クシャっと丸めて放り投げた。話を聞くと、このあるえって娘は作家を目指す紅魔族でも変わった人間なのだそうだ。
「落ち着け! 落ち着くんだ!! 俺も変な深読みして恥ずかしい事言ってるから! 的外れな発言してるからな!!」
「仮にあるえの小説が占いだったとしても、ゆんゆんと比べたら恥ずかしいどころか、これから起こりうる出来事を想定して、対策を練ろうとしていたのでしょう? 手紙の通りに行動しようとしたゆんゆんは、かなりの恥をかいたでしょうが」
「めぐみん! そうやって、傷口に塩を塗り込むような真似はしない! ゆんゆん、その作者に『バインドこめかみグリグリ地獄』やっていい! 後で教えるからな。泣いてやめてって叫ぶほどの俺の最終奥義だし」
そんなこんなで、ゆんゆんを落ち着かせてたが、1枚目の手紙の内容については族長さんが宛てた物だというので、本当の事らしい。なので。
「じゃあ、俺はちょっと紅魔の里行ってくる。みんなはその間の留守を頼む」
「一人でか? それなら、ここにいる全員で行った方が良いのではないか?」
ダクネスはここにいる全員で向かうべきとの意見をだしたが、
「事態が切迫してるなら、紅魔族の二人は連れて行くわけにはいかない。親御さんからしても、戦いに戻ってくるより、アクセルにいた方が安全だと思うだろうし」
「……そうか。それも優しさか」
俺の言葉を聞いて、微笑を浮かべて納得してくれた様だった。
「そ、その……、本当に一人で行くつもりですか? 確かにユウの発言にも一理ありますが、一人では道中危険では……?」
「そこら辺は、飛ぶなりなんなりしていけばいい。それに紅魔の里が無くなると、俺も困る。カートリッジもそこで造ってるらしいしな。これに関しては俺の都合もあるって事だ」
「魔王軍の幹部に攻められてるんだろ? そんなとこに俺がついて行っても、足手まといにしかならんだろう。だから、留守は任せろ!!」
……まあいいや。確かにカズマに関しては、自分から危険に首突っ込むのもどうかと思うし。
「俺は色々準備して、これから発つよ。こっちは任せた」
すぐに屋敷を出て、冒険者ギルドで紅魔の里の方角と周辺に生息するモンスター情報を確認した後で、空に上がり紅魔の里に向けて進路をとった。
カズマさん達とは、途中で合流する予定です。