この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
紅魔族族長の手紙をゆんゆんから見せてもらって、道中での食料や周辺地図を揃えて、昼前にはアクセルを発った。今回は俺一人なので、飛行して空から紅魔の里に行くことにしたのだが、流石に四六時中飛びっぱなしというわけにもいかないので、まずは中間地点となるアルカンレティアを目指していた。
……できれば近寄りたくない街だけど、贅沢は言っていられないか。
アルカンレティアに寄るのは、休憩や途中での物資調達だけでなく、個人的な用事もあるからだったりする。昼前にアクセルを発ち、日がすっかり沈んだ頃にはアルカンレティアに到着した。かなりのスピードで飛ばして来たので、この時間に到着したが、やはり一度休憩を入れないと紅魔の里に行った際、禄に戦えなくなる可能性もある。
「どっかに安い宿でもないかな……?」
一人、呟きながら街を散策して宿を探していると、
「そこのお兄さん、宿をお探しですか? 今ならアクシズ教団が運営する温泉付きの宿に格安で宿泊できますよ。ここにお名前をどうぞ」
前にアルカンレティアを訪れた際に、散々な目に遭ったアクシズ教への勧誘である。もちろん、そんな気は無いので適当にあしらう事にした。
「失礼、先日記入したばかりでして、もう一度というのはマズいでしょう?」
その時、記入したのはバニルの名前だが、勧誘をしていた女性は嬉しそうな顔で立ち去っていった。多分、信者だと思われたのだろう。また勧誘されても面倒だし、久々に馬小屋でも良いかと思いながら、そちらへ向かっていると、
「あなたは……どうしてアルカンレティアに? サトウさん達はご一緒ではないですか?」
俺を見て驚いた顔をしているセナがそこにいた。なぜここに、などと言っていたが、それはこっちのセリフだ。アクセルにいるはずのこの人が、この場にいるのはおかしい。
「俺は紅魔の里に向かう途中で、ここに立ち寄ったんですよ。セナさんこそどうして?」
「私はアクシズ教団から重大発表があるとの事で、こちらへの出張命令がでました。なんでも、一年近く前に紅魔の里から警察に送られた手紙の真相について……とか」
……もしかして、ハンスの件を大々的に発表してアクシズ教の信者を増やそうとか考えてるんだろうか? これは面倒事になりそうだから、明日の早朝にでも立ち去った方が良いかも。と、考え事をしていると、
「おお……! まさか、あなたとここでお会いできるとは……! 明日の発表の件で駆けつけていただけたのでしょうか?」
「ああ!? ゼスタ殿! ご、ご無沙汰しております……。その節はどうも……」
ゼスタさんを見て、慌てるセナであった。この二人、知り合いだったのか?
「そちらもお久しぶりですね。私の言った通り、胸だけでなく、その帽子が乗っかてるものも成長しましたかな?」
……ふ、二人の間に何があったのだろう? 聞きたいけど、聞くのが怖い。
「あの、お二人はお知り合いだったのですか?」
セナからすると、一番気になるところだろう。仮にもアクシズ教団の最高責任者と一介の冒険者が知り合いだとか、普通は無いだろうし。
「私と彼は共に魔王軍の卑劣な魔の手から、この街を救った仲です。もはや盟友と言っても、過言ではありません!」
「では、あの魔王軍幹部ハンスを討伐したのは……!?」
「ええ、そちらの方が魔法で氷漬けにして、アク……、パーティーのアークプリーストの方が、無害なスライムへと浄化しました。私も同行しておりましたから、間違いありませんよ」
うわー。なんか話がデカくなってる気がする。俺がその発表とやらまでここにいると、ややこしい事になりかねねーな。
「じゃあ、俺はこれで。宿を探している最中なので……」
ここは逃げるのが最善手。そう考えて早々に立去ろうとしたが、
「宿を探しているのでしたら、私が宿泊する予定の宿に来ませんか? 直前に欠員が一名出まして、キャンセルもしていない状態でしたので」
「……ああ、いや、流石にタダで泊めていただくのは心苦しいですし……」
「このままでは、キャンセル料を払わなければならないので、どちらにしても出費は同じですし、気になさらないでください」
だったら、セナからの申し出に甘えさせてもらおうと、思っていたところ、
「ふむ、検察官殿は年下好みですかな? この時間に男性を自分の宿へ誘うとは」
ゼスタさんが変な想像しやがりましたよ。どうせこの後は、式は是非当教会で……なんて言いそうだ。
「その手の話はしばらく良いです。セナさん、すいませんがお世話になります」
ゼスタさんに一礼し、セナと共に宿へと向かった。早朝には発つ予定なので、そのまま割り当てられた部屋のベッドに横になって、眠りについた。
それは、僕にとってはいつも通りだった。お父さんとお母さんはいつも仕事が忙しくて、何日も家を空けるのが普通。だから仕事に行く時は、なのはのお母さんに、この子をお願いしますと言って、仕事へ向かった。
小学校に上がったばかりの頃は、朝はなのはと一緒に起きて学校に行って、自分の家じゃなくて高町の家に帰宅する。そんな生活がずっと続くんだと思ってた。
お父さん達が帰ってくる時は、絶対にお土産を買ってきてくれた。どこで買ったのか分からないけど、美味しいお菓子や格好良いおもちゃの杖とか、それが凄く楽しみだった。
その日もお父さんとお母さんが帰ってくるのを、ワクワクしながら家で待ってた。そのうち、玄関の呼び鈴が鳴ってドアを開けると、そこにいたのは髭を蓄えた背の高いおじさんだった。おじさんの連れていた2匹の猫が僕にすり寄ったり、肩に乗って頬っぺたを舐めてくれた。この人はお父さんの知り合いみたいだけど……?
困った顔をしていた僕を、おじさんが抱きしめて、
「……すまない。君のお父さんとお母さんを守ってあげられなかった……」
悔しそうな、申し訳なさそうな、そんな声でおじさんが僕に謝っていた。
「……なんで、あの頃の夢なんか……」
目が覚めると、そこはアルカンレティアの宿の一室。どうやら夢のせいで、思ったよりも早く起きてしまったらしい。二度寝したところで、どうせ眠れないしアルカンレティアでの用事を手早く済ませるのも良いかもしれない。
起床した後、俺が向かったのはアルカンレティアにある墓地。ここに来る前にアクセルで買った酒を持って、その人の墓へ向かう。
「……直接会ったわけではありませんが、この位はさせてください」
その墓はできたばかりで、新しい花やお供え物も多くあった。先日、ハンスに食われた源泉の管理人のおじいさんの墓である。遺体は全く残っていないので、この場所に眠っているわけではないだろうが、買ってきた酒を手向ける。
どうか……安らかに眠ってください。そう心の中で祈っていると、
「おはようございます。ユウさんも墓参りですかな?」
アルカンレティアにいる間は、できれば絶対に会いたくない最高司祭のおっさんが、いつの間にか俺の横に佇んでいた。
「……おはようございます。正午辺りまで就寝されているとばかり思っていました」
「いやはや、今日の発表が楽しみで年甲斐もなく早起きしてしまいまして。散歩ついでにこちらに伺った次第です」
そういえば、管理人のおじいさんはゼスタさんとは旧知の仲だとか言ってたな。やっぱり、やりきれない部分があるのだろうか。
「……その、手紙の件にしろ、もっと早くに気が付いていれば……もしかしたら……」
「ふむ……、この件に関しては、誰のせいでもありません。もちろん、主犯は魔王軍ですが。女神アクア様の教えにはこうあります。”アクシズ教徒はやればできる。できる子たちなのだから、上手くいかなくてもそれはあなたのせいじゃない。上手くいかないのは世間が悪い” 今回もその通りでしょう? それよりも、この場に訪れていただき、深く感謝申し上げます」
……すっげえ教えだ。なんでこんな宗教が存在してるんだろう?
「ところで、なぜお一人でこちらへ? 見るとお急ぎのご様子ですが」
これまでの経緯をゼスタさんに説明し、紅魔の里の状況を伝えると、
「羨ましい限りですな。ゆんゆんさんにそこまで情熱的に迫られるとは」
「だからそれは、ゆんゆんの勘違いです。その小説のせいで俺も恥かきましたし」
ニコニコした顔で、その話を楽しそうに聞き入っていた。
「そうですかな? 私の知っている物語では、とある天使のイライラムラムラわき上がる衝動から壮大な物語が始まり、ついにはその子孫が魔王を討ち倒すという物がありまして、もしかしたら、そうなっていたかも知れません」
あー、なんか昔の漫画で似たようなのがあった気がする。バイオリン弾く主人公のヤツだっけ。でも本当にそうなったら、当人たちは微妙な気持ちになるんだろうなあ。
「……すいません。俺はそろそろ行きます。先を急ぎますので」
墓地から立ち去ろうとしたその時、ゼスタさんが何らかの魔法の詠唱を始め、
「――あなたの旅の無事を祈り、女神アクアの祝福を! 『ブレッシング』!」
なんの魔法かは分からないが、何らかの支援をしてくれたらしい。その場でゼスタさんに頭を下げると、
「ユウさん、アクシズ教の教義には、この様なものもあります。”汝、何かの事で悩むなら、今を楽しくいきなさい。楽な方へと流されなさい。”……と」
だから何だよ? このダメ人間製造機みたいな教義は。
「あなた程の力を持つ者であれば、それを必要とされる機会も多いでしょう。もし、その責務から逃げた場合、あなたを蔑み、憎む人間もいるかもしれません」
さっきまでとはうって変わり、途端に真面目な話をしだしたゼスタさんの言葉に聞き入ってしまった。
「しかし、これも覚えておいて下さい。それでも、あなたが生きて元気な姿を見せるだけでも、笑顔になる方々も少なからずいるという事を」
どこに出しても恥ずかしくないような聖職者の発言に思わず、ゼスタさんに向かってもう一度深く頭を下げてしまった。この人は普段からこれが出来ないもんか、と思ってしまう。
そして、その場から紅魔の里へ向かって飛び立った。
ユウがアルカンレティアに到着した頃、アクセルの屋敷では、
「ねえ、今日の晩御飯作ったのって、カズマ? 何か味気ないわよ」
「俺じゃねえ、ダクネスだ!!」
みんなで食卓を囲んでいたらしい。そこにはゆんゆんの姿もあるが、どこか落ち着きがない。それはめぐみんも同じであるらしく、口数が少なくなっていた。
「……やっぱり私、紅魔の里に向かいます。今からだともう馬車もありませんから、明日の早朝にでも……」
「しかしだ……。ユウの言う通りで、お前達は行くべきでは無いのではないか?」
ゆんゆんは、単身で紅魔の里へ向かう旨の発言をしていたが、ダクネスがすかさず止める。
「アイツなら大丈夫だって。案外、その幹部も倒してきたとか言って、ひょっこり帰って来るだろ」
「ユウさんのご飯が恋しいわ……。もうおふくろの味よ。あのお料理は」
アクアだけは、どうでも良い内容を口走っていたが、それだけ口に馴染んでしまった料理なのだろう。
「……確かに、里には優秀な魔法使いが多くいますし、そこにユウが加われば大抵の相手には勝てるでしょうが、ただ待っているのは、気が気でない……と言いますか……」
「ユウさんのカエル南蛮とシュワシュワの相性の良さったら、そこら辺のお店なんて目じゃないもの!」
「アクアうるせーぞ! そんなに不満があるなら、自分で作れ!!」
カズマが大声でアクアの不満に対し、注意を促す。当のアクアは涙目になって、大泣きしそうになっていた。
「ああーそういえばー、こめっこは無事でしょうかー。あの子はまだ小さいので、戦う力はありませんし、私が守った方が良いかもしれませんー」
「何でそんなに棒読みなんだ、お前は」
「それに、紅魔族は売られたケンカは買う種族です。ここでジッとしていたら、それこそ紅魔族の名折れですよ!」
どうやら紅魔の里に行きたいらしいめぐみんが、色々理由を付けている。
「ですが、私は爆裂魔法しか使えない身。道中、誰かついて来て欲しいです!」
「じゃあ行こう! 明日、私と朝一番に里に向かおう!!」
ゆんゆんも同行するのに賛成であるらしく、二人共もう止まる気は無いらしい。
「まったく……心配なら心配と素直に言えば良いものを」
ダクネスは苦笑しながら、二人を見ていたが、今度はカズマの方を向き、どうする? といった感じで彼を見つめていた。
「ああ、もう! しょうがねえなあ!」
カズマは大声を上げていたが、この場の全員で、紅魔の里に向かう破目になってしまったようだ。次の日の早朝。
「へいらっしゃい! 勇者の子孫とか言われて満更でもない小僧と、最近まったく役に立っていない娘! すっかり餌付けされたチンピラプリーストに、ネタ魔法に磨きが掛かったネタ種族と、思わず逃げ出したくなる程の辱めを受けたネタ種族よ! 丁度良いところに来たな!」
「餌付けって何よ!? アンタ……、ケンカ売ってるの……?」
「「ネタ種族……っ!」」
店の軒先を掃除していたバニルの挨拶に、アクアは今にも飛び掛かりそうになり、めぐみんとゆんゆんは悔しそうに呻いた。
「あら……? 彼は一緒じゃないの? 色々話したかったんだけれど」
「あっ……! お姉さん、おはようございます。ユウなら紅魔の里に向かっている最中でして、私達も向かおうと思っています」
すっかりウィズ魔道具店に馴染んでしまっているウォルバクではあるが、これでも魔王軍幹部である。最近、巨乳の店員さんが増えたとの噂で、遠目から店の様子を探る輩が増えたようだ。
その後、値が張るアンデッド除けのアイテムを調達したり、先日の商談についての回答をバニルに申し出るカズマであったが、店の奥からウィズが出てくると、
「ようウィズ、今日はちょっと頼みがあってここ来たんだよ」
これまでの経緯を説明すると、ウィズが、
「なるほど。皆さんを、テレポートでアルカンレティアまで送ればいいんですね?」
カズマは、アルカンレティアまでテレポートで移動し、そこから紅魔の里に向かうつもりらしい。人数はカズマ含めて5人なので、上限が4人までのテレポートは2回必要になるが、問題はないらしい。彼らがアルカンレティアへ移動しようとした時、
「おい、小僧、それにネタ魔法を使う方のネタ種族」
バニルが、カズマとめぐみんを呼び止めて一言。
「高い買い物をしてくれた礼だ。見通す悪魔が、忠告してやろう。……あの凶悪魔道士、ああ見えて中々闇が深い。吾輩としては適度にからかいながら、商品開発をさせたいのだが、場合によってはそうもいかなくなろう。汝、あの小僧の様子をよく観察しておくことだ」
バニルが意味深な言葉をカズマに投げかけていたが、次に、
「そして、ネタ種族よ。汝は全てが終わったと思った時が、危機と知れ。特に貴様の近しい人間はな」
めぐみんにも忠告をしているバニルであった。二人共、胡散臭いと感じながらも何やら考え込んでいる様子であった。
「もっとも、あの小僧の場合は貴様らから離れた後にしても、面白可笑しい未来となりそうではあるがな!」
「それってどういう……?」
突然、愉快な雰囲気となったバニルではあるが、続けて、
「あの小僧の未来は全て見通せぬが、誰とつがいになろうが尻に敷かれ、そうならなかったとしても10歳近く年下の娘に追いかけられた挙句、貴様らの元を訪れて、匿うように懇願するであろう」
「おい。何だ、その最後の羨ましい状況は……!? 下手すれば犯罪一歩手前だろ!?」
「それがな……吾輩にもそれが誰であるかまでは、見通せぬのだ。これもあの小僧の実力故だが。その娘は14、5歳といったところである」
カズマは、意を決したような表情でウィズの方を向き、
「早く送ってくれ。アイツを一発ぶん殴りたくなった。とっとと行くぞ!!」
そうして、カズマ達はウィズのテレポートでアルカンレティアまで転送されるのであった。
ゼスタが言っていた天使は、ハーメルンのバイオリン弾きのオリン爺さんです。
ネタが古くて分からなかったら、すいません。