この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
ゆんゆんが男前になってます。
視点が分かりづらかったらすいません。
—―最初に出会ったのは本当に偶然。狼の群れから誰かを庇って戦ってた人。その”誰か”が、めぐみんだったのは驚いたけど、私の名前を聞いても普通に接してくれた。
次はアクセルに着いてすぐ。まさか、めぐみんがカエルに吞まれてるとは思わなかったけど……。そのまま屋敷に招かれて、”友達になってください”って言えずに、飛び出してしまった。
アクセルの街で、あの人の噂を聞いた時は散々な言われようだった。カズマさんと一緒に、好き放題やってるって。
……けど、それだけじゃくて……。だから、次の日。
——ユウさん、私を弟子にしてください!!!
あの人が住んでいる屋敷の玄関で、そう叫んだ。
シルビアに取り込まれた魔術師殺しに、成す術なく避難している紅魔族達。ここは『魔神の丘』。丘の上で告白したカップルは、魔神の呪いにより永遠に別れる事が出来ないと言われている、ロマンチックな観光スポットらしい。
『魔術師殺し』に魔法が通じるか、それを検証しに行った数人の帰りを待っていたが、程なくして木霊する大爆発の轟音。
「これって……さっきの人達が向かった方向からだ!? 何が……!?」
紅魔族の一人が狼狽えた様子だったが、それを聞いて顔を青くしていたのは、
「う、嘘ですよね!? さっき、そけっとの占いで将来が見えたと……」
最強魔法である爆裂魔法しか使えないアークウィザード、めぐみんであった。両手で持った杖を地面に突き立てながら、ブルブル震えていた。
「落ち着いて! アクアさんとダクネスさんも一緒だし、怪我しても、もし最悪の事態でも大丈夫だから!」
めぐみんを正面から見据え、両肩を掴みながら落ち着くように促すゆんゆんであった。
「で、ですが……」
「そう簡単に負ける人達じゃないけど、不測の事態かも知れないから、シルビアの方は私達でどうにかしないといけないかもしれない……」
かつて里一番の天才と呼ばれ、現在はネタ魔法使いと称される少女と、紅魔族の族長の家に生まれたにも関わらず、万年二番手だった少女。それを目にして、
「あれって本当にゆんゆん? 里にいた頃と全然違う……」
「何なの? 何があったの!? ゆんゆん……」
長いツインテールの少女とポニーテールにリボンを付けている少女。どちらもめぐみん、ゆんゆんの同級生であり、学校に通って魔法の修業に励む二人である。里で共に学んでいた頃と比べ、動じなくなっているゆんゆんに驚きを隠せないようだ。
「それで、どうするつもりだい? ゆんゆんがそこまで買ってるなら、シルビア優先になると思うが……」
コウモリの羽の様な髪飾りに、めぐみんと同じ眼帯を付けている少女——あるえがゆんゆんに問いかける。
「……うん。まずシルビアの『魔術師殺し』の性能確認。もし、魔法が完全に通じないなら、残念だけど里は諦める。でも、できればここで止めたい」
「それは、何でかな?」
「紅魔族は今まで魔王軍にも恐れられてたから、平和に暮らしてたけど、今度からは追われる立場になるよ。『魔術師殺し』がある限り、それは同じ。だから……」
その一言に一同、凍り付きながらも、
「逃げ口上を考えておかないと……」
などどいった声も上がっていた。これに関しては紅魔族の習性らしい。
「問題は誰がシルビアと戦うか……だな」
ゆんゆんの父である紅魔族族長が難しい顔をして、思案していたが、すぐに、
「私が行く……!」
族長の娘が名乗りでた。
「ひ、一人でか? ここは何人かで行った方が……」
「お父さんは族長でしょ! もしもの時の事をちゃんと考えて! それに……一人じゃなくて、自警団の人達にも協力してもらうよ」
ゆんゆんは真剣な表情で、
「ユウさんが、まったく手立てがないわけじゃないって言ってたし、爆裂魔法が効かなかったら、どうするかは何となく想像つくから。けど、私達の魔法だと多分通じないし、まずはそっちの方法を試してみる」
娘の思わぬ成長に胸が熱くなる族長であった。思わず、涙が頬を伝いそうになったが、
「里の二ー……
「試せる事があるんなら、やってみるさ!」
「むしろ大好物だ!」
族長の呼びかけに、自警団がいきり立つ。どうやら彼らの琴線に触れたらしい。なんとなく、あるえがゆんゆんの方を向くと、目を閉じて集中していた。
——目を閉じて、思い出すのはアクセルでの日々。あの日、アクセルの街であの人の噂を聞いて、本当に散々な評判だったけど……。
「すっげえ魔法使いだぜ! ありゃあ。なんせ魔王軍の幹部を単騎で抑えてやがったんだ! しかも、俺達にデュラハンが来ない様にしてたらしいぜ」
「それって、どうして分かるんですか?」
「アーチャーで唇が読める奴がいてな。千里眼で見た時に、そんな会話してたらしい。実際俺らにヤツからの攻撃は無かったしな」
また、別の冒険者に聞いたら、
「デストロイヤーの結界は破壊するわ、内部を滅茶苦茶な速さで貫くわ、ナニモンだろうな? あの時もクルセイダーの姉ちゃんと一番前に出てたっけな。あの背中はよく覚えてるぜ」
魔法使いなのに、一番前にって……? 普通魔法使いは後衛に徹するものなのに……どうして?
その後で偶然会った女の子とそのお母さんらしき人も、あの人の話をしていた。黒髪で緑の瞳のお兄ちゃんって言ってたから、気になって声を掛けると、
「おにいちゃんね! デストロイヤーが来た時に、わたしをお母さんの所まで連れて来てくれたの!」
「この子を抱っこしていたのを見た時に、涙が止まりませんでした……。あの方はこの子の恩人です」
アクセルにデストロイヤーが襲来した時、逃げ遅れた人を探してたって……。他の冒険者は逃げるかギルドに行ってたのに?
色々な人に聞いて回ったけど、共通してたのはただ者じゃないって事と、いつも前に出て、後ろの人達を守るようにしてたって事。
あの人みたいになれたら、もしかしたら私もめぐみんに勝てるかもしれない。そう思って、弟子入りを志願した。
最初に模擬戦をした時は、当たり前のように負けちゃった。その後も、全然勝てなくて……。きっとこの人は、めぐみんみたいに天才って言われてた人だったんだ。稽古をつけて貰いながら、ずっとそう思ってたけど、ある日、子供になったあの人は、
——強くなりたい!
そう言って、目に涙を浮かべてた。その時に、自分の考えが間違いだったに気付かされた。私よりずっと長い時間を掛けて、あんな風になったんだ……って。
あの人との稽古は……、け、稽古は……。
「ゆ、ゆんゆん!? どうしたんだい? 小刻みに震えているが……」
目を閉じて、突然震えだしたゆんゆんを、心配そうに見つめるあるえ。事情を知るめぐみんが、
「おそらく……ユウとの稽古を思い出してしまったのでしょう。あれは……、その……」
「……少しで良いから聞かせてくれないか?」
あるえが興味津々に、めぐみんに問いかけると、
「体術の稽古では、当たり前のように叩きのめされ、魔法戦では初級、中級魔法の組み合わせとアレンジで、上級魔法を使うゆんゆんを凌駕し、総合的な模擬戦では、もはや目も当てられない状態へと……」
「や、やめて! お、お願いだから思い出させないで!!?」
稽古が軽いトラウマになってしまっているらしい。叫び声を上げながらめぐみんを止めていた。
「……あの整体師さんは、本当に人間かい?」
「すぐさま否定できないのが辛いところです……。しかも、友人達も鬼の様に強いのですよ……」
あるえが目を輝かせながら、
「やはり、彼自身の話も聞かせてもらおう! 先日の爆裂魔法のネタも良かったが、それよりも面白そうだからね」
再び、魔導師に興味を持ってしまったらしい。
ゆんゆんは深呼吸し、ここに逃げる前に所持していた真っ白なコートに目を向ける。誕生日プレゼントで買ってもらった、師と仰いでいる人物と同じ色のコート。そして、
——どうか、力を貸してください。
そう祈りながら、袖を通した。
里の自警団のテレポートで、シルビアの前に立つゆんゆん。
「あら……、真っ先に逃げ出した紅魔族じゃないの。さっきの彼はどこかしら?」
「あなた程度に、ユウさんは必要ありません。私で十分ですから!」
普段の彼女からは想像できないような挑発的なセリフを発していた。余談ではあるが、魔導師がテレポートでここに来ていた場合、シルビアと謎の人物との挟撃となっていた可能性があるため、それに関しては僥倖であったと言える。
「ふうん……。あのボウヤ、ユウって名前なの。それにそのコート、彼と同じ色ね。あの小さい娘が良い人だと思ってたけど、それはあなたの方かしら? それとも二人共? 随分と罪作りなボウヤねえ」
「ち、違います! 私は単に指導してもらってるだけです!!」
顔を赤くしながら大声で、即座に否定するゆんゆん。一方、魔神の丘では、
「……無性にシルビアに向かって爆裂を撃ちたいのですが」
「今はよそう。ゆんゆん達まで巻き込んでしまうよ?」
あるえが、何故か爆裂を撃とうとしてしまっているめぐみんを説得していた。
ゆんゆんが、意を決したように白いコートを翻し、
「我が名はゆんゆん! アークウィザードにして上級魔法を操る者! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、やがてこの里の長となる者……!」
高らかに名乗りを上げて、詠唱を始める。
「『インフェルノ』ッ!」
最高位の炎の魔法。里周辺の強力なモンスターですら焼き尽くす力を持ったそれは、『魔術師殺し』の前ではなんの意味も成さずにシルビアは悠然とゆんゆんを見つめていた。
「……それで終わり? なわけないわよね。何か策があるならやってみなさいな」
……やっぱり魔法は効かない。それは分かってた。だったら……。
「シルビア、こっちに来なさい! その鈍い体が到着するまで待っててあげるから!」
「言ってくれるわね、お嬢ちゃん。その挑発に乗ってあげるわ!」
ゆんゆんが誘い込んだ先は、シルビアが暴れた後に残った家々だった瓦礫の山。特に瓦礫が集中している地点に、シルビアが到着すると、すぐさま、
「『トルネード』ッ!」
巨大な竜巻を起こす風の魔法、トルネード。人間程度の重さなら、即座に上空に舞い上げられる。しかし『魔術師殺し』の重量と、その効果では無傷で終わる。そうシルビアも思っていただろう。自分を中心に竜巻が発生するまでは。
竜巻が消え、姿を現したシルビアは、目の前の少女を憎々しく見つめ、
「お嬢ちゃん……。やってくれたわね……!」
『魔術師殺し』は確かに無傷、だがシルビア本体からは血が流れている切り傷や打撲後がはっきりと見えていた。先ほどのトルネードは、周りにあった瓦礫を巻き上げて、シルビアに当てるためのものだった。
……うん、ユウさんの言った通り。
——ゆんゆん、どんな防御にだって攻略法ってのはある。俺のいたとこでも、魔法を掻き消す結界みたいのもあるけど、別に無敵ってわけじゃない。むしろ、相手がそんなのを持ってるのなら隙を突ける。まあ、ゴーレムみたいに意志が無いと、そこは違ってくるけど。
どんな敵でも、絶対に倒せないわけじゃない。それが分かっただけでも十分……!
「……凄いな。まさかあんな手で、シルビア本体にダメージを与えるとは……!」
「ユウらしい教え方です。魔法だけでなく、体術や周囲の状況すべてを利用する。もっともあの男の場合は、プライベートでそれをやられると、とんでもない目に遭いますが」
「ちなみに何が?」
「アルカンレティアでメイド服を着せられました……」
魔神の丘の爆裂娘と作家志望の雑談を他所に、ゆんゆんはさらに攻勢に出る。シルビアが『魔術師殺し』を取り込んだばかりで、うまく動かせずに鈍いのも幸運だった。距離を取ったまま瓦礫をぶつけていた。しかし、それだけで倒せるはずもなく、ゆんゆんは徐々に後退を余儀なくされる。追い詰められた先は、紅魔の里の武器屋があった場所。アークウィザードだというのに、ゴツイ武器を造りたがる変わった鍛冶師の城だった。
「……お嬢ちゃん、褒めてあげるわ。この兵器はあなた達の天敵だと聞いてたけど、ここまで苦戦するとは思ってなかったから……。けど、それもこれで終わり。覚悟なさいな」
シルビアも目の前の少女に賛辞を贈る。所々、血が流れ落ちる本体ではあったが、むしろ怒りはなく少女を敵として警戒しているようだ。
ゆんゆんもここが勝負所だと感じたらしい。紅魔族が好んで使う魔法、ライト・オブ・セイバーを展開し、シルビアに向かって全速力で駆ける。
シルビアは自分に真っすぐ突っ込んでくるゆんゆんに対し、これ幸いとばかりに炎のブレスを浴びせようと口を開ける。そして、炎のブレスがゆんゆんに直撃すると思われた、その時、
「……えっ!?」
驚愕の表情を浮かべていたのはシルビアだった。自分の炎のブレスは確かに直撃した。しかし目の前の少女は、無傷で本体である自分目掛けて突っ込んでくる。よく見ると、魔力の膜——結界の様なものが作動していた。
……短刀に仕込んでもらってた護符、凄い……! ゼスタさんが作ったって言ってたけど、ここまで完全に防ぐなんて……!
ゆんゆんは心の中で、驚きながらアクシズ教団の最高司祭を思い出していた。そして、そのままシルビアの顎目掛けて、渾身の打撃を加える。
—―バインドが効かない敵? そんなの物理でどうにかすればいい。人型なら猶更。
ぶ、物理って……!? 具体的には……。
——人型だったら、手っ取り速いのはここを殴る。そうすると、脳が揺さぶられて立ち上がるのも困難になるからな。
シルビアを見ると、目の焦点が合っておらず、取り込んだ『魔術師殺し』も脳を揺さぶられたせいで、うまく動かせないでいる。その様子を見たゆんゆんは、
「今です!」
ここが決め所と言わんばかりの、気合が入った大声でもって、共にこの場に訪れていた自警団に指示を出す。
「いっけええええ!!」
自警団の団員たちが持っていたのは、武器屋にあったゴツイ武器の数々。大剣、アックス、突撃槍、盾などである。魔法で身体能力を高めて、それを一斉にシルビアに向かって投げつける。その重量と硬さで投げつけるだけでも大ダメージとなりうるものではあるが、更に、
「「「「『インフェルノ』ッッ!!」」」」
シルビアに投げつけた武器ごと、全員が炎の魔法で焼き尽くした。紅魔族数人のインフェルノによって姿は見えなくなってはいるが、シルビアや本体の近くに刺さっている武器があまりの高熱で溶けてしまっていた。
……魔法は効かなくても、溶けた鉄が体に掛かれば決め手になる筈。
そう考えたゆんゆんの苦肉の策であった。
「も、もしかして……めぐみんの出番がなく、倒したかな?」
あるえがそう呟くと、
「そ、そんな……!? せっかく準備していたというのに……。ですが……」
後方のめぐみんはがっかりしながらも、少し安心していたらしい。
「やったか……?」
ある種のお約束ではあるが、言ってはいけない言葉というのは存在する。自警団の一人が発したのもその類である。炎が消え、姿を現したシルビアが、
「アーハッハッハッ! 惜しかったわ! 本当に惜しかったわねえ!! 熱に耐性がある炎のブレスを吐くモンスターを取り込んでなかったら、これで終わっていたわ!」
シルビア自身も無傷とはいかず、体の所々に火傷が見受けられはいたものの、まだ戦闘を続行できる状態である様だった。本来なら、すぐさま逃げ出したいだろうが、ゆんゆんはまっすぐに敵を見据えて、
「まだ……やれます……! こんなの……いつもに比べたら……!」
「……お嬢ちゃん、いつもどんな指導を受けてるの?」
もう勝ちは揺るがない。そう考えたシルビアではあったが、まだ諦めていないその瞳から、普段の指導に興味を持ったようだ。
「そ、その……、体術だと気絶させられるのは当たり前で、魔法が通じないなんていつもの事で、容赦なしでの模擬戦なんていつも泣きたくなるくらいで……」
「も、もういいわ! もういいから、泣くのはやめなさいな!? 聞いてるこっちが痛くなってくるから」
目の前の少女は敵だというのに、慰めているシルビアであった。
「……けど、あなたにも敬意を表するわ。せめて一撃で楽にしてあげるから、大人しくなさいな」
その言葉を聞いた自警団達はシルビアに向けて、魔法を次々と放つが『魔術師殺し』のせいで、効果なんてものはない。
シルビアにとってはゆんゆん一人の方が余程の危険人物。圧倒的に不利であるはずの自分に対して、ここまでの傷を負わせた。その存在を放っておくわけにはいかないのだから。
シルビアの『魔術師殺し』がゆんゆんを押しつぶそうとした瞬間。ゆんゆんは目を瞑ってしまっていたが、次に目を開けた時には、
「すまない。遅くなった……」
目の前には、いつも稽古をつけて貰っている少年の姿。自分は彼に抱きかかえられているらしい。そう感じて、思わず力が抜けてしまう。シルビアは少年を見据えて、
「……ようやくご到着ね。あんまり焦らすから、その娘と遊んでもらってたわ」
「その割には、良いだけ傷ついてるな。ゆんゆんによっぽど苦戦したらしい」
軽口を叩きながらも、お互いに鋭い視線を向ける両者。そして、
「ここまで好き放題やってくれたんだ。タダで済むと——」
厳しい表情の少年がシルビアに言葉を投げかけていると、
「『テレポート』ッ!」
ゆんゆんと自警団は役目が済んだとばかりにテレポートで、退避していった。それを見た両者とも、
「「…………」」
無言であった。しばらくして、口を開いた少年は、
「……さっき、名乗ってる途中で斬りかかって、すいません……」
「……分かれば良いわよ。分かれば」
微妙な空気が流れたまま、シルビアとの戦闘を再開した。
何気に、この二次で一番強化されてるのはゆんゆんだったりします。
しかし、ここの紅魔族二人は揃って男前になってしまった。これでいいのだろうか……