この素晴らしい世界にリリカルな魔導師を! 作:ゴマフアザラシ
……城の入口の大穴? ……あぁー! なるほど! あの城は随分丈夫だと思ってたけど、デュラハンの城で結界か何かで防御してたのか。
めぐみんに爆裂魔法の指導してる時に、着弾点の甘さを指摘してから、寸分違わず入口辺りに、爆裂魔法を撃ち込むようになったのだが、結果として同じ場所に撃ち込んだために城に大穴を開けることができた。それを一日一爆裂の成果と喜んでいたのだが、こんなしっぺ返しがあるとは……。
ともあれ、たった一言のアドバイスで、あれだけの大出力を誇る爆裂魔法で、そこまで狙いを定められるのは、爆裂魔法への愛だけでなく、めぐみん自身が非凡な才を持っている事の証明でもあるのだが……。
まさに虚仮の一念岩をも通す……! まあ、虚仮ではなく爆裂魔法で、通ったのは岩じゃなくて城だけど……。なので正確に表すならば。
爆裂の一念、城をも通す……!
うん、語呂が悪い。こんな脳内一人ボケツッコミは終わりにして、デュラハンに集中しなければ。
……要するに、デュラハンがここに来たのは俺達が原因ということは分かった。しかし、周りの冒険者たちはざわつきながら。
「……爆裂魔法?」
「爆裂魔法を使えるやつって言ったら……」
「爆裂魔法っていったら……」
自然とめぐみんの方へ視線が集まっていた。カズマとめぐみんもデュラハンの言葉の意味が分かったらしく、冷や汗を垂らしている。やがて、めぐみんも観念したようにため息をつき、ゆっくりと前に出てデュラハンと対峙した。
そして、めぐみんを見据えるデュラハンが怒りに震え、鋭い視線を向けながら。
「お前が……! 毎日毎日俺の城に爆裂魔法を撃ちこんで大穴を開けた大馬鹿者か!」
その後もデュラハンは陰湿な嫌がらせだの、頭おかしいだのと好き放題文句を言っていた。
確かに毎日爆裂魔法を撃ち込まれたら、迷惑どころの話じゃないのは分かるが、あの城は、お前が勝手に占拠した物だし、アンデッドとはいえあんな所に住んでる奴が居るとか思うわけないだろ……。 とはいえ、この件については俺にも責任の一端があるので、知らんぷりも出来ない。
……さて、そろそろ俺も行くか。
「おい、ユウ。お前まさか戦う気じゃないよな……!?」
「安心しろカズマ。俺がいくらアンデッド嫌いだって、状況くらいは分かる。今のところそんなつもりはない」
こんなところで戦えば、街や他の冒険者達に被害が出るかもしれない。やるんなら、動きを止めて一気に片を付けるしかないのだ。現在漂流中の俺にとっては、全力を出すのが難しい状況なので、出来れば戦闘は避けたいのが本音だ。
デュラハンの元に行こうと、前に進む俺に対して、カズマが心配そうに声を掛けてきた。
そのまま歩を進め、めぐみんの横に立ちデュラハンを見据える。めぐみんは相変わらず不安そうな表情だったが、俺が来たのを見て、少しは不安が和らいだようだった。
「貴様、見たところアークウィザードだな! 何のつもりかはしらんが、その小娘に用があるのだ! 黙って下がっていろ!!」
「そういうわけにもいかない。確かに爆裂魔法で城に大穴開けたのは、この娘だけど、あの入口付近に撃ち込ませたのは、俺だからな」
それを聞いたデュラハンは今度は俺に視線を向け、ブルブルと体を震わせながら。
「お前か……! お前のせいか!! 同じ場所に爆裂魔法撃ち込まれたせいで、結界ぶち抜いて大穴開けられたのは……!!! 何であんな事をさせた!!!」
……さて、……正念場だ。
「それについては素直に謝罪しよう。……すまなかった」
俺の言葉がよほど意外だったのか、デュラハンはポカンとした顔をして、こちらを見ていた。
それは横にいるめぐみんや、おそらく後方で見守っているであろうカズマ達も同じだったろう。特に隣にいるめぐみんは、開いた口が塞がらないといった感じだ。
デュラハンが呆けているうちに、さらに続ける。
「……だが、これは互いの認識の齟齬が生んだ不幸な事故でもあるんだ」
「……どういうことだ! お前らが爆裂魔法を撃ち込んだ事に変わりはないだろうが!!」
デュラハンが空かさず反論するが、それでいい。ここは会話が成立する状況を作るのが重要だ。いきなり襲い掛かって来なかった時点で、話し合いが成立すると予想したのは間違いではなかったようだ。
「……デュラハン、もしあなたが生前の状態であったとして、あんな廃城に人が住んでると思うか?」
「普通は思わんだろうがな! だからといって毎日毎日爆裂魔法を撃つ奴がいるとは考えんわ!!」
よし、少しは同意が得られた。なら更に続けるか……。
俺は申し訳なさそうな口調で、伏し目がちに。
「……デュラハン。……この娘は爆裂魔法が使えるとはいえ、まだ駆け出しの冒険者だ……。それは俺も変わらない。だからこそ、日々の研鑽が大切だと思っている。それは……おそらく生前騎士であったであろう、あなたもそうだったのではないか?」
「確かにな! だがそれと城に爆裂魔法を撃ち込むことが何の関係がある?」
デュラハンの口調から、少しではあるが怒りが収まってきているのが分かった。あちらからの質問が飛び出すという事は、少なくとも俺の言葉に興味を示してくれているという事でもある。
「何もない平野と目標物に撃ち込むのとでは、眼に見えて成果は違ってくる。あなただって、ただ素振りをするより、誰かと訓練した方が成果が出るのは分かっているだろう?」
「つまり城に爆裂魔法を撃ったのは、そこの小娘を鍛えるためだったと?」
このデュラハン……、結構いい人(?)かも知れない。こっちの話をちゃんと聞いてくれてる。
「……ああ。それについて他意はない。まさかあの城の中にアンデッドとはいえ、住んでいる者がいるとは思わなかったんだ……。だが、不本意とはいえ迷惑を掛けてしまったことは、すまないと思っている」
俺とデュラハンの様子を見守っていた後ろの面々、特に、
「……すっげー。ユウの奴、口車で丸め込もうとしてやがる。意外に腹黒いのか……、あいつは?」
「デュラハンが手玉に取られてるわよ。プークスクス。アンデッドだから脳みそまで腐ってるのかしら?」
「……一歩間違えれば、悪質な詐欺師にでもなりそうだ」
カズマ、アクア、ダクネスがそんな話をしているとは露知らず、目の前のデュラハンが口を開く。
「……お前らの事情は分かった。だがな! あそこまでの事をされて、ただで済ますわけにはいかん!」
……まぁ、そうだろうな。……なら、もう一押し。ここは褒め殺しで行ってみるか。
「……今は魔王軍とはいえ、幹部にまで上り詰めたあなたは、生前名のある騎士だったはずだ。そこまでの方が駆け出しの冒険者相手に本気になったとあっては、その名に傷がつくだろう。……ここは懐の深さを見せて欲しい。あなたを騎士の中の騎士と見込んで!!!」
俺の言葉を耳にしたデュラハンは、なにやら照れたような様子で、
「た、確かに……連日の爆裂魔法で城を破壊されて気が立ってたとはいえ……、お前ら雑魚に構ってやるほどのことではなかったな……。だが、もう爆裂魔法は撃ち込むなよ? こちらもあの城に住んでいるのだからな。では俺はもう戻るとしよう……」
……勝った! そう思った瞬間、
「駄目です。紅魔族は一日一回爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」
隣のめぐみんが一言で全部台無しにしやがりました。思わず隣のロリっ娘をバインドで拘束してしまいたい衝動に駆られてしまったが、俺よりも怒りが収まらないデュラハンがめぐみんを睨みつけ。
「……小娘、爆裂魔法を撃ち込むだけならまだしも、城を破壊されたのだから、それなりの報復を考えていたのを取りやめたのだ……。謝罪するなら今のうちだぞ?」
「あなたが城に居座っているせいで、私たちは碌に仕事もできないんですよ! ……余裕ぶってられるのも今のうちです。こちらには対アンデッドのスペシャリストがいるのですから! 先生、お願いします!」
めぐみんから指名を受けたアクアが前に出ると、こんな駆け出しの街のアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてはいないと言いながら、なにやら思案し、めぐみんに人差し指を向けてきた。
「汝に死の宣告を! お前は一週間後に死ぬだろう!!」
呪いを掛けると同時に、只ならぬ気配を感じ取っていたダクネスが飛び出し、めぐみんを庇い呪いを受けてしまった。ぱっと見ではダクネスの体に異常は見受けられないが……。
……マズイ状況だ。デュラハンは”一週間後に死ぬだろう”と言っていた。今は何ともなくても、おそらく一週間後は……。
俺と同じ事を考えていためぐみんの顔が青ざめていく中……、ダクネスが実に嬉しそうに顔を緩ませながら、辺り一面に聞こえる程の大声で。
「な、何てことだ! つまり貴様は、この私に死の呪いを掛け、呪いを解いて欲しくば、俺の言う事を聞けと! つまりはそういうことなのか!」
……は? ダクネスは何を言っているんだ? ……あんまり考えたくない。何と言うか……、子供とか聞いちゃいけない類のセリフじゃなかろうか?
ダクネスは続けてデュラハンのことを、いやらしい眼をしてるだの、凄まじいハードコア変態プレイを要求する変質者だとか、普通の男性が聞いたら凄まじく落ち込むような言葉を投げかけていた。……これは流石に気の毒だ。しかもダクネスは自分からデュラハンの元に行こうとまでしていた。カズマに羽交い絞めにされて止められてたけど……。
……ダクネスのMっ気は筋金入ってるなんてもんじゃない。……筋金がミスリルかオリハルコンでできているような、完全な手遅れだ……。
いっそデュラハンにお持ち帰りされれば、根負けして呪い解いてくれるんじゃないかと思う。まぁ……そんなことはさせないが。
ともあれ、あいつらのしょうもない会話のおかげで、時間は稼げた。……多分、狙ってやってくれたわけじゃないだろうけど感謝だ。
俺のこれからのデュラハンへの交渉と、それが失敗した場合の行動を想定しているのとは別に、デュラハンがめぐみんに対し、ダクネスの呪いを解いて欲しくば城に来い。と言い、首のない馬に乗り、帰ろうとした時、
「なあ、デュラハン……。めぐみんも相当懲りてるし、帰る前にダクネスの呪いを解いていってくれないか? 向こう見ずな時期ってのは誰にでもあるもんだろ? あんただって少しくらいのやんちゃはしたことあるんじゃないか?」
「確かに無いことは無い……。が、それとこれとは話が別だ。あの小娘には報復するべきだと判断だ。小僧、もう一度言う。呪いを解いて欲しくば城に来い!」
俺の言葉にそう答え、デュラハンは背を向けた。
……ならくたばれ、アンデッド! あの城に籠られると厄介だ。ここでケリをつけてやる!
首なし馬が歩き出そうとした時、デュラハンを馬ごと拘束した。『ブレイズバインド』――発生点周辺の炎熱系魔法の威力上昇効果があるバインドだ。
更に続けて魔法を展開する。その光景にメンバー全員が、驚愕の表情を浮かべていた。デュラハンの頭上には、見渡す限りの魔力で形作られた剣の群れ。しかも燃え盛っている様な熱を発している。
『スティンガーブレイド・インフェルノシフト』、百を超える炎熱を付与した魔力刃が一斉にデュラハンに襲い掛かった。
「……これって!?」
「……す、凄いのです!」
「何だ!? これは……!」
カズマ、めぐみん、ダクネスが口を開いてポカンとした表情をしている中、アクアだけは、
「いいわ! 思いっきりやっちゃいなさい!!」
などど一人で、大喜びしていた。別にアクアを喜ばせようとしたんじゃなくて、一手で仕留めるには、こうするしかなかったんだが……。
「……なあ、やりすぎじゃないのか? ……これ」
「何言ってんだ? 容赦してたら、こっちがやられる」
カズマがかなり引きながら、困っていたようだったが、魔力刃の投擲で舞い上がった土煙の中に朧気ながら立っている人影が見えて来ていた。
……浅かったか! ダメージは……?
土煙が晴れ、姿を現したデュラハンを見ると、ダメージを与えてはいるが想定よりはずっと少ない。結局倒したのは首なし馬だけであり、首なし騎士は戦闘続行が十分可能といった状態だ。
こうなったら、フルドライブの使用も考慮しなければならない。そこまでのプランを想定して戦闘態勢へと移行しようとしていた。
「……小僧、お前何も――」
デュラハンが俺を見据えて……、警戒しつつ何かを言いかけたとき、
「ユウ、城に帰ろうと背を向けた相手を拘束し、後ろから、あそこまで凶悪な魔法を撃ち込むとは、なんて! ……なんて姑息な卑劣漢だ! やはり、私の見込んだ男だ! ここまでの外道はなかなかいない! ぜひ次は私に同じ事をやってくれ!」
顔を赤らめながら、ダクネスが凄まじい批判を叫んでいた。
……姑息……、卑劣漢……、外道!?
ダクネスから投げかけられた言葉で呆けている俺に、デュラハンが憐れむような眼をして、
「……小僧……あの女はお前の仲間……だよな……?」
デュラハンが自信なさげに俺に質問してきた。俺は沈黙したままだったが、さらに、言葉を続けてきた。
「お、落ち込むな! 小僧! お前が仲間を助けようとしてやった事なのは、俺が一番よくわかってる! それにな、あれほどの魔法が使えるアークウィザードはそうはいない。俺が知っている中でも五指に入る使い手だ! 俺もこの鎧がなければ危ないところだっただろう。本来ならお前の様な危険人物には『死の宣告』をくれてやる所だが、この場で仲間を助けようとした心意気に敬意を表して、それは勘弁してやる! その代わり、ちゃんと城には来い! そうすれば女の呪いは解いてやるし、愚痴の一つや二つなら俺が聞いてやるから。なっ! なっ!」
仲間のはずのダクネスから姑息だの卑劣漢だの外道だのと言われたのを気の毒に思ったのか、俺から思い切り攻撃を受けたはずのデュラハンが、慰めてくれている。
……ほんとにこのデュラハン……、良い人かもしれない……。
俺が呆けている間に、結局デュラハンは城に戻り、俺、カズマ、めぐみんで城に行こうとしたのだが……、
「『セイクリッドブレイクスペル』!」
アクアがダクネスの呪いを解き、結局城に行く必要もなくなってしまった。できるのなら最初からやって欲しかった。
次の日、ギルドに向かう俺に刺さる視線が痛い……。
ダクネスが大声で言った、姑息だの卑劣だのが、ひそひそ声で聞こえてくる。
……はあ、気が重い。……どうしてこうなった!?